シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>聖泉ミミル
オープニング
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幻想。小古都ミミル――
それはノルン家が統括する地域にして、今ではイレギュラーズであるリウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)が暫定的に領主として着任している場所だ。元々は物流の要所として機能していたとされ、多くの者がミミルへ訪れていたらしい。
が、やがて時代の流れと共に交通網が発展すればミミルの規模は少しずつ小さく。
次第に古都と称される一つの街として安定し始める。
多くの者が行き交うかつての喧騒さは鳴りを潜めたものの、穏やかな風土は多くの者をこの地に居つかせる。古都の中でも中心に位置するミミル中心街は、豊かな水資源を今でも尚に街に提供して……
「……なんだって? 魔物が――泉に?」
しかしある日、リウィルディアの下に看過し難い情報が届けられた。
それは――ミミル中心街にて魔物が目撃されている、というものだ。しかもそれはミミルにとって重要極まる『泉』にて。その泉はミミルという街の由来にもなった場所であり――かの泉には『知恵』が宿るとされた伝承も存在した。
実際にそのような加護が齎されるかはともかくとして。
古都に長く住む者や信心深い者程、泉を大なり小なり神聖化している者もいる。
そのような地に魔物が出てくるなど……
「……けれど妙だね。街の外でという訳ではなく、中心の泉で目撃が……?」
「はっ――あくまでも警邏からの情報なのですが、まるで幽霊の様な存在が泉の水を飲んでいた、と……もしかすると姿を消す様な能力でもあるのかもしれません」
昨今、幻想各地では奇妙な魔物の出現が相次いでいる。
それは古廟スラン・ロウや神翼庭園ウィツィロにおける事件に関わりがあるとされているが――もしかしたらここ、ミミルへ出没している者達も『そう』なのかもしれない。リウィルディアも耳には挟んでいたし、警戒を怠っていた訳ではないのだが……
しかし姿を消して領内へ侵入する輩が――しかも泉に現れるとは。
「あそこは都市の中心部だからね……騒ぎが大きくならないうちに片した方が吉、かな」
先述の通りミミルの泉は特別な意味を持っている。
放置しておけばやがて街の民に影響を与える可能性もあるし、そうでなくても魔物達が危害を加えてくる危険性もあるだろう。
――討伐せねばならない。
領内に現れたのは由々しき事態だが、者は考えようでもある。領内においてはあらゆる権限を持つリウィルディアの指示があれば一般人を戦闘域から避難させるのは容易だ――あまり周囲の者を気にする必要はないだろう。
後の問題はその魔物達である、が。
「正確な数は――分からないかな、姿を消すって話だし」
「はい、御推察の通り現時点では不明です……ただ一体や二体ではありません」
恐らくは十体以上……しかも百も二百もはいないだろうと。
幽霊達はまるで人の様な姿を持っている、との事だ。かつてこの辺りで朽ちた者が怨霊となったか……あるいはスラン・ロウなどから湧いて出てきた連中か……いずれにせよ魔物により壊滅したと目されるギストールの様な惨劇を、ここで起こす訳にはいかない。
「――よし。それなら兵士たちには外縁を警戒させてくれ。
これ以上、魔物の侵入を許す訳にはいかないからね。
件の泉に現れている連中は――僕がなんとかする」
だからリウィルディアは動くのだ。
不遜なる輩に、この地を。あの泉を――好きになどさせぬ為に。
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――ォ、ォオ――
彼らは歓喜する。長き、永き封印から解き放たれた彼らは。
――ミミルの水だ。ミミルの叡智だ。
――我らを封じた幻想王国に復讐を。かつての力を我らに――
泉を口に含んでその存在を露わとする。
彼らの姿は虚ろなれど、目を凝らして見据えれば人の様な造形だと見て取れる。
――だがより観察をもってすれば『人間』らしき存在ではないと気付くかもしれない。
彼らは、ただ小さくなっているだけなのだ。
長き封印の果てに力が削がれ、その身は小さく只人程度になっているが。
――あのお方に続け。
――幻想王国に復讐を! 我らが偉大なる御方に追従を!
彼らは本来更なる巨躯を宿していた者達。
巨人とも言うべき存在達の――成れの果てなのだ。
- <ヴァーリの裁決>聖泉ミミル完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月30日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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幻想にある各領地が魔物に襲われている――そういう話は『機工技師』アオイ=アークライト(p3p005658)も耳に挟んでいた、が。
「……まさかリウィルの所にまで現れるなんてな……しかも幽霊なんて、得体のしれない相手だ。リウィル、なにかそういう逸話があったりとかするのか?」
「いや――少なくともなんの霊体なんだか、見当もつかないね」
けれど、とアオイの言に続くのは『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)だ。奴らの正体は分からない――だけれどもなんであろうとも関係ない。
「僕の預かる街に手を出してくるとは不届き千万、という奴だ。
彼らには彼らの在るべき場所に帰ってもらうとしよう」
それこそ冥界へと彼女は紡ぐ。
――ミミル街中心部の件の泉はもう目前だ。既に何体かの敵が泉に取りついている事も目視できる程である……情報通り確かに気配を察知し辛い個体もいるようだが、注視すれば見える。
「不思議な泉もあるものねぇ。飲むだけで頭がよくなるなんて夢のようだけど、とりあえずあの幽霊達にこれ以上好き勝手に飲ませる訳にはいかないわね」
「ああ。あの泉にあるのは只の伝承なのか、それとも幽霊共には意味があるのか――色々と気になるが、まずはその無法な幽霊共を何とかしねぇとなァ」
とはいえ音で判断する『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)にとってはあまり関係なく、むしろ泉そのものが気になる所なのだが……『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の言う通り今は彼らの排除こそが優先であるか。
イレギュラーズ達は布陣する。遠目に敵の様子を見据えながら、アオイは暗闇でも見通す目で捜索しつつ、影に潜む者がいないかを。レイチェルは優れし目を凝らして視界の風景の違和感を探すのだ――奴らがいればぼやけて見える様な所があるから。
「ああ――今宵は良い夜ですね、空を泳いでみましょうか」
そして同様に探す力に注力するのは『旋律が覚えてる』ガヴィ コレット(p3p006928)である。護符に込められた力が彼女に一時の飛翔を。空より眼下を眺めれば、月明かりを帰す泉が実に麗しい。
同時にガヴィも目を凝らして敵を探そう。遠目に、薄っすらとした輪郭を捉える様に。
見つければテレパスの念話で密かに地上に味方達へと位置を伝えていく。
「奥の方に二体……それから、端の陰となっている所にも一体いるようですね……散っている印象があります」
泉の水に知恵が宿るとされる伝承――やはりそれに沿って来ているのか?
幽霊の様な存在が泉の水を飲んでいるという話と無関係では無さそうだと彼女も思考を巡らせる。真実、叡智が授けられるのかは知らないが……いずれにせよこのまま放置すれば状況が悪化していく予感だけはあって。
一体でも遺せば後の禍根となる事もどこか確信していた。
故に殲滅する為に準備を整え、そして。
「さぁ――行くよ皆ッ! 花丸ちゃん達がリウィルディアさん達の街を守るんだ!」
視認しうる限りの敵の情報を掴み、『はなまるぱんち』笹木 花丸(p3p008689)は跳躍する。敵意を感じる探知術と、優れし五感を伴って彼女は往くのだ。これ以上奴らを成長させる訳にはいかないッ――!
「鬼さんこちら手の成る方へ、ってね! 花丸ちゃんと遊んでもらうよ!」
泉に最も近い場所にいた幽体共へ名乗り上げる様に、己に意識を向けるべく花丸は敵の渦中に飛び込む。見辛くても注意を引き付けて纏めてしまえばよいのだと。さすれば大雑把な攻撃でもなんとかなるなるの・はーなまるっ!
「鳥の怪物退治、悪鬼と巨人の軍団迎撃に、今度は幽霊退治、ですか。最近幻想は何処もかしこも、忙しい限りですね……ましてやこんな街中の泉にも出てくるとは」
そして花丸が引き寄せた敵共を――『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)が纏めて捉える。泉に近く、見やすい個体を中心に彼女が放つのは驟雨が如き銃撃だ。
練達製試作兵器─連結式バスター砲――彼女が所有する特大の光撃兵器が敵のみを捕らえて蹂躙せん。幽霊が飲んで力を増す泉……色々と興味深く、もしかしたら余所とも関係があるのではと思うが。
「わーどこにでも霊ってわくものなんですかねーまぁ泉の水を飲んで力が増すとかはともかくーそんなことより霊に実態があり、脚があるのかどーかが私にとっては大事にごぜーますがー」
手に入りそうなら是非ともほしいと『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は言葉を紡ぐ。文字通り透明感のある足など彼女にとっても中々珍しいモノの様で……倒した後に足だけは無事であればよいのだが、と。
「まぁとにかくもかくにもまずは倒して狩ってからでごぜーますねー」
跳躍。幽体共が群れている所に一歩で踏み込み、成すは己が拳法。
急所や関節と思わしき箇所を脚で突く。穿てば確かな感触がそこにあり――なるほどやはり幽体といえど打てるし捥ぐことが出来る様だ。これならば足も、と思考しながら。
更に他のイレギュラーズ達も続く。
街に不法に入る幽霊達を、叩き出す為に――
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虚ろなる幽霊達もイレギュラーズ達の攻勢が始まれば一様に動き出す。
――邪魔をするな人間共。
まるでそう言わんばかりの殺意を携え拳を握るのだ。地に叩きつければ衝撃が周囲を襲って。
「あらあら。身体が半透明みたいなものなのに、ちゃんと力はあるのね。でも幽霊が泉の水を飲んで何がしたいのかしら――まさか生き返るわけないわよね」
或いはこのまま飲み続けていればより力と共に肉体も取り戻すのかしら、と。
ヴィリスは幽霊の拳を大きく跳躍して――躱す。
同時に紡ぐのは呪いだ。黒いキューブを置き土産代わりに幽霊へと。
さすれば内包されしあらゆる苦痛が敵を襲うのだ。否、それだけに終わらない――花丸が集めた個体達がいればそこへと謳うは絶望の旋律。纏めて薙いで敵を駆逐せんとすれば。
「いっくよぉ――っ! 花丸ちゃんとレッツ・ファイトだ!」
次いで敵が態勢を立て直す前に花丸の拳が奴らへと。
引き付けた敵の攻撃は強い一撃もあれば弱い一撃もあり、波がある。泉の水を飲んでいるかで個体差がある様だ――だからその波の合間。一瞬を付いて防御から攻勢へと転じる。
『破壊』の二文字に特化した拳を繰り出すのだ。少女の五指が意志を閉じ込め、穿ちて壊す。
紅蓮なる想いと共に。己すら焼き焦がす事を――厭わずに。
「っし! 行けるね、やっぱり弱い個体はそんなに大したことがないよ!」
「ああ――だが見え辛ぇのも確かだな。後ろに回られないようにだけは注意しとく必要がありそうだ」
魂ごと砕いた花丸の一撃。次ぐレイチェルの視界には幽体共が確かに捉えられるのだ、が。
乱戦の最中に成れば常に全て把握できるとも限らぬ。
超越する視力を持つ彼女であればなんとか視界に収め続けるも出来るが、そうでなもなければ一瞬の隙を突いてこちらの警戒の裏側に回られるやもと周囲に注意を飛ばして。
「連中に秘策がねぇとも限らねェ。今のうちに極力片付けておきたい所だなァ、こりゃ」
攻撃に力を。何らかの不測が起こっても問題ないように彼女は即座なる殲滅を目指して。
「ほう興味深いですねー。泉を置いていればこんなにわらわらと獲物が集まってくるとはー効果がありそうなら私もやってみましょーかねー、出来れば有象無象の魔物の寄せ集めではなくー人間を集めたいところでごぜーますがー」
続いて、出来れば綺麗な綺麗な女性がいいですねーと述べるのはピリムだ。
自身の趣味というか――嗜好というか――に想いを馳せて。
「でもそう簡単にはいきませんですかねーはぁ」
後方より襲い来る幽霊の一撃を、なんなく躱す。
見えないと言っても攻撃であればやはり殺意を伴っているようなものだ。ならば獣種でもある己の反射神経ならば――仮に視界の裏側に回られてもそこから反応できる、と。躱した先で体を反転させ、再度の蹴撃を繰り出して。
「ここは大事な友人の街なんだ……さあ、一分一秒でも早くあいつらを殲滅しないとな」
「アオイ、右から更に増援みたいだ――行けるかい?」
更に息を合わせて動くアオイとリウィルディアもまた敵を討つ。
敵は得体も正体も知れない幽霊共。しかし頼もしい仲間がいるのだ――不安はない。
何より隣に彼がいてくれているからとリウィルディアは思考して……同時に、視界の横に新たな幽霊の姿を捉えた。やはり十体以上の数が存在していたか――だけど問題はない。
「結構ハッキリ見えてる奴だな……だけど数が少ないならなんとでもなるもんさ!」
纏まった者達に放っていた、錬金術の薬品投擲を中断。アオイが往くは姿が見える者へと。
敵との接触で力が強いのは分かっている、だから。跳躍しつつ己が周囲に纏わせるは大量の――歯車。彼の腕の動きに合わせてその歯車が敵へと強襲。凄まじい回転と速度による衝突が敵の勢いを削いで。
『――!!』
「させないよ。これ以上……この街で君達に思うようになんか、ね」
さすれば幽霊も反撃してくるものだが、奴らの拳が襲う度にリウィルディアが治癒を飛ばす。或いは周囲に活力を齎す術式を展開して戦線を支えるのだ。
特にその視線は花丸にも向けている。
多くの敵を引き寄せている彼女こそが陣形の中心だと。
「――周囲にはもうこれ以上幽霊は潜んでいないかと思います。
仮にいたとしてもそう多くはないでしょう」
「では後はこの場にいる者達の殲滅を――ですね。敵も大分集まってきていますので、注意を」
そして空より偵察を終えたガヴィもまた戦列に加わり治癒を施すものだ。リウィルディアに次いで彼女の援護も加わればイレギュラーズ達の体力にはかなり余裕がある者となっている。その上でステラの射撃が加われば――特に力の弱い個体から脱落していくものだ。
幽霊共の拳には死しているとは思えぬほどの膂力を感じるが、しかし。
奴らの攻勢よりもイレギュラーズ達の策と撃が明らかに上回っている。
このままであればすり潰していけるだろうか――そう思った、その時。
「おお。なんか動きるでごぜーますよ?」
脚を刈り取ったピリムが気付いた。
敵が集まっている。一か所に、まるで陣を組むように。
さすれば生じるのは――まるで融合するかのように彼らの身体が溶ける有り様。
直後に現れしは巨大な影。
建物クラスの大きさを持ちこちらを見下ろす――巨人であった。
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『オノ、レ……人間共、貴様ラ、ゴミ共ガ……』
「――喋った? いや、憎悪の言葉を吐き出すだけ、か」
レイチェルは眼を細めて巨人の様子を観察す。
意志を持った――様に見えるがそれはきっと誤りだ。奴らはこちらと意志を疎通させるようには感じられない。未だ彼らは負の要素だけで満たされており、それが一個体となっただけの話。
「……幻想王国への復讐とか何か話が凄く大きい所で悪いが。その復讐劇は絶たせて貰うぜ?」
直後、己が半身を縛る術式を解除し、負荷の代わりに――力を増す。
巨人達が抱いている『何か』など知った事か。そちらの思うようにはさせまいよ。
動く。奴の力は強くなったが、代わりにコイツさえ倒せば終わりだ。
頭部を狙いて己が全力を投じる。己が血液を媒介とし、魔術を顕現させて。
「わざわざそちらの手を待って差し上げる必要もありませんよね。そのまま死んでもらいます」
同時。ステラもまた融合直後の隙を狙い打つ。
融合の為に集った隙を何故見逃す必要がある? 攻撃を続行し、殺し尽くそう。
ハイペリオンの羽根からも何かお告げの様なものが彼女の脳内に響き渡っている気がする――容赦せず頭を中心にぶち殺すのです、人の子らよと。なんかハイペリオンにしては過激すぎるので気のせいかもしれないが。
「わぁー随分でっかくなったよね……うん、でもやる事は変わらないよ。
――真っすぐ行って、ぶっ飛ばす!!」
ともあれ花丸もまた巨人へと、だ。ぶん殴る。とにもかくにもぶん殴るよ、花丸ちゃんは!
傷つけ、壊す事しか出来なかった少女の拳は天を突く。狙うは脳天、幸い奴は大きくなったことによって随分狙いやすくもなったし――この拳を向ける先に悩まなくてもよくなった。なにせ味方を巻き込む恐れがない。
蒼天へと手を伸ばすかの如き一撃が巨人の目を穿ちて。
『ヌゥゥゥ――ッ!!』
直後、巨人の拳が地へと振り落とされた。
生じるはまるで地震が如き地鳴り――なるほど、これは直撃すれば相当にまずそうだ。
「観客は多い方が気分が上がるのだけれどそんなことも言ってられないわね!
一人になったなら――精々、盛大な拍手を求めるわよ!」
されど敵の引き付けや纏めて薙ぐ行動をイレギュラーズ達は多くとっていたが故か、とても抗いきれないという程の力ではない様にも感じる。ヴィリスはステップを踏んで巨人の下へと。
紡ぐ呪いの一撃を叩き込んでやるのだ。一で無理なら二でも三でも!
「さーて随分狩りやすい身体になってくれたことでごぜーますし……
期待に応えるとするのが礼儀ってもんですかねー」
直後、ピリムもまた駆け抜ける。大きくなった? なるほどこれは狙いやすい。
手に持つ斬脚緋刀の刃を奴へ。抜刀と同時に舞を詰める――切断術。
己が安全装置を外した超速の輝きの中で彼女は巨人の身を切り刻む。
その胴を別つまで。
その足を――別つまで。
「さて……これも泉の力なのでしょうか。只の水の様にも――思えるのですが」
もしくは彼らにとっては何か力になるのかとガヴィは推察しつつ。
それでも彼女は己が役目を成す。巨人の一撃によって傷つきし体を癒すのだ。
花丸らが倒れぬ様にサポートしつつ常に戦線を支えて。
『ォォォ……王国ノ、者メラガ……煩ワシイ……煩ワシイ……!』
さすれば一個体となった巨人も――弱り始める。
一体となったが故に集中的な攻撃を受ける事になったが故、そしてそもそも融合する前からイレギュラーズの攻勢を受け続けていた事――それが奴の弱さへと繋がったか。地を割る様な力も一人では抗える程ではない。
何かを守ろうとするイレギュラーズ達には。
「君達の怨念は知らない。因縁も、何もかも」
そして往くは――リウィルディアとアオイだ。
「だけど君達は許されざることをした。この街に手を出してきた、という事だよ」
「リウィルの所に現れたのが――お前達の運のツキだったな」
傷つき、防御も間に合わぬ身を晒す巨人。
其処へ至るは二人の連携。リウィルディアの術式で構成された魔の光が奴へと襲い掛かり――その目を潰す。直後に巨人の首に二頭の悪性が如き意が絡みつきその身を束縛すれば。
「じゃあなこれで――終わりだ!」
アオイの全霊が投じられる。
あり得るはずだったもう一人の自分の可能性を纏う事で刹那の昇華を果たし。再び展開した無数の歯車と共に――巨人の魂を強襲せん。数多の撃を齎し、その魂を一片遺さず――砕く。
響き渡るは絶叫。巨人の断末魔が誰しもの耳に届け、ば。
「ぬぁー足が消えていくじゃないですかーなんという無駄骨でごぜーますか」
ピリムが確保していた足が全て消えていく。
成仏なのか消滅なのか……ともあれこの反応は、完全に敵が死んだと考えてよいか。
「ぴぇー結構すごい力だったよね。巨人ってみんなあんな感じなのかな……?」
「さ、て――或いはあの泉の水の力なのかしらね……? 古くからあるみたいだし、幽霊達となんらか関わりがあったのかも」
戦闘の気配の消失を感じ取り、花丸が一息。
同時、ヴィリスが見据えるのは――件の泉である。
自身に何か知識がある訳ではない。しかし、巨人の幽霊が狙う何かがあるかもしれない……故に調べてみようと近付いてみる。先程まで巨人達が口を付けていた訳でもあるし、飲んでみる事はしないが。
「ふ、む……? 見る限り何か特別な神秘が込められてる様な気配はねぇけどな……」
「――カエルを入れてみたけど一緒だね。ただ……この水は街が使ってる飲み水とは水源が異なるんだ。そこに何かがあるのかな……?」
同じくレイチェルも鑑定の目を用いて調査をし、リウィルディアもまた使い魔のカエルを召喚して投じてみた。何か異変があればそれで分かるかもしれない、と……
されど見据える限りでは特別な神秘は無いように感じられる。
……或いは特定の人物や生物にのみ何か効果を……?
ミミルの泉の歴史は古い。そもそも伝承の領域の話があるぐらいなのだから……
「ま、危険がないならなによりかしらね――智慧は授かれるかもしれないけれど眼をよこせとか言われたら困っちゃうわ。脚もないのに眼も無くなってしまうもの!」
冗談めかしてヴィリスは言う。上手い話には罠か代償があるのだと。
――ともあれこれで不法に潜入していた巨人達は倒し尽くした。
似たような事が無いように警備を強化する必要はありそうだが……
「皆――ミミルを代表して領主代行、リウィルディアが皆に礼を。
皆のおかげでここは平穏を取り戻した……重ねて、礼を申し上げる」
ひとまず今宵の騒乱は終わったのだと、リウィルディアは感謝の意を示す。
幻想の騒ぎはいま暫く続きそうであるが。
再び訪れた平穏を――今は噛み締めよう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
幻想を襲っている、幻想そのものを恨むかのような魔物達……
彼らの事は、またいずれ。
ありがとうございました!
GMコメント
●依頼達成条件
全ての魔物の撃退
●フィールド
古都ミミル中心街。時刻は夜ですが、月明かりがあるので問題ないでしょう。
フィールド中央に後述の『泉』が存在します。
幽霊たちはその泉に集っている様です――彼らを総て撃滅してください。
なお、周辺には家屋などもありますが避難は済んでいるので一般人の問題はないものとします。
●ミミルの泉
古都ミミルの中心部に存在する泉です。ミミルの由来にもなったとか。
この泉には呑んだ者に叡智を授ける……とされた伝承がありますが、実際にそのような加護があるかは不明です。御伽噺の類と思う者もいますし、過去に確かに存在した効力として信じる者もいるのだとか。
●敵戦力
・ゴースト『パラ・メシア』×??
虚ろな姿をしており気付きにくいですが確かに存在しています。
確認出来るだけでも十体はいるでしょう。
全て人の様な姿をしていますが……実のところその正体は『巨人』の幽霊です。本来はもっと巨大な体を持っていたのですが、力が削がれているのかその身が小さく(といっても成人男性ほどはありますが)なっている様です。
棍棒の様なものを持ち、ある程度の腕力を宿しています。
なお――彼らはちらほらと異なるのですが、姿がはっきり見える敵と、見辛い敵がいます。見辛い敵は注意深く見なければ存在を感知し辛いですが、全体的な戦闘能力が低いです。
一方で見える敵は存在を感知しやすいですが戦闘能力が比較的優れています。
どうやらミミルの泉に口を付けた者程、力と存在を取り戻している様です。
放置していればやがて強くなるかもしれません。
また、正確な数が不明ではあるのですが……彼らは追い詰められると(恐らく半数以下)幽霊同士が融合して『一つの個体』となります。一つの個体になった場合、その身は非常に巨体となり戦闘能力が大幅に向上する事でしょう。
この時の戦闘能力やその時のHPは、融合した個体達の力に比例します。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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