シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>善に救いを、悪に破滅を
オープニング
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王都《メフ・メフィート》郊外。そこには一際治安の『悪かった』地区が存在する。そう、それは過去形である。治安が悪かったのは昔、というほど昔ではなく、しかし治安が良くなり土地の有効活用が行われ始めたのは事実である。
その貢献者――本人を前にして言えばはぐらかされてしまうだろうが――ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3n007470)はその日もふらりと領地を訪れ、そこに住まう民を気まぐれに占い、そこへほんの僅かばかりのアドバイスを混ぜて。少しずつ活気づいてきた領地を見て回る。
いつも通りに、終わるはずだった。
いつも通りには、終わらなかった。
「聞いたか?」
「また元に戻るのかねぇ……」
(元に、戻る……?)
ヴァイオレットはぴくりと反応し、その会話をしていた夫婦へ声をかけてその噂を詳しく聞く。とはいっても彼らとて詳細には知らなかったのだが、なんでも『消え去ったはずの悪人が再び現れている』らしい。
「少し前にほら……市が開かれたというじゃありませんか」
「多分、そのせいですよ。占い師さんもお気を付けて」
「市――嗚呼。忠告、ありがたくお受けいたします」
彼らの言う市とは悪徳商人が起こした奴隷市の事だろう。幻想で禁止されているわけではないが、非人道的であることには変わりない。現に、幻想国王たるフォルデルマンは奴隷市という実情に心を痛めているという。善人が口に出すのを躊躇うのも致し方ない。
(それにしても、奴隷市を受けて良からぬ輩がこの場所へ踏み込んだというのならば……ええ、目的はひとつでしょうね)
――其れ即ち、『奴隷の確保』である。
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「皆さん、大変ですね」
「ええ……情報屋の方々もお忙しいところではあると思うのですが」
依頼を持ち込んだヴァイオレットにブラウ(p3n000090)は大丈夫です! ともふもふの胸を張る。カウンターにちょこんと立つ彼の足元にはヴァイオレットが持ち込み、ブラウを始めとした情報屋で調べ上げた情報が盛り込まれている羊皮紙があった。その周りには――大量の書類。可愛らしいひよこもどこか疲れているように見えるのは果たして気のせいか、否か。
無理もないだろう。先月に奴隷市が幻想で開かれ、その鎮圧を三大貴族から依頼されたイレギュラーズたちは立て続けに幻想で起こった事件に関わっている。
王家のレガリアのひとつが眠る『古廟スラン・ロウ』、その結界に何者かが侵入したこと。
『古廟スラン・ロウ』に眠るレガリアが持ち去られたこと。
伝説の神翼獣ハイペリオンが眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれたこと。
幻想にとって重要な場所が荒らされただけにはとどまらず、魔物が各地へ出現し、何者かによってひとつの町が破壊し尽くされたとあって幻想貴族は様々な依頼をローレットへ持ち込み始めた。何しろ彼らにとって――否、混沌にとってイレギュラーズは魔種にとて打ち勝てる奇跡と力の持ち主なのだから。
「ええと……悪徳商人に雇われた傭兵を追い出す、でしたね」
足元にあった羊皮紙を読み上げるブラウ。彼女の領地に潜伏した悪人はあくまで『金で雇われた存在』であり、どうやらローレットと同じような中立――善悪関わらず依頼として受ける集団のようだ。
「こういった手合いは今後も活動するため、不利と感じたら撤退すると思います。依頼人についても口は割らないでしょうが……もしも捕まえるとか、情報を吐かせるってことであれば、かなり頑張らないと難しいかもです」
「ふむ。そこについては他の皆様と相談することになりそうですね」
1人でどうにかできるものではなく、1人で決めるものでもない。後ほど相談の卓についてから打ち上げよう。
「傭兵たちをさっさと追い出して、ヴァイオレットさんが発展させた土地を守りましょうね!」
「ヒッヒッヒ……ワタクシは何もしておりませんよ。あの場所に住む人々が栄えさせたのですから」
ただ、とヴァイオレットは目を眇めた。
善性ありし者には幸運を。悪抱きし者には破滅を。雇われと言えどそこで悪事を為そうというのならば――黙ってみているわけにはいかない。
- <ヴァーリの裁決>善に救いを、悪に破滅を完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月06日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)が所有する元スラム街。されどそこには未だ、数々の廃屋や整備されていない路地など面影が残っている。
その中を進みながら鏡(p3p008705)はつと目を細めた。今回の依頼内容――討つべき相手の情報を思い浮かべたから。
相手はローレットが掲げた『中立』とよく似た、善悪問わず依頼を受ける傭兵を中心に構成されているらしい。イレギュラーズの中にも名声と悪名を持つ者は少なくないのだから、非イレギュラーズにだっていて当たり前だ。鏡も似たようなものであるが、どちらかと言えば悪名寄り。
「私が人の行いをどうこういうのもアレですけどぉ……今回はする行為と、相手が最悪ですねぇ」
「ああ。奴隷の確保とは穏やかでないね」
『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)は鏡へ頷き、そっと視線だけを滑らせる。誰に雇われたのかはこれから調べる必要があるだろうが、この土地の領主を知っていての行為であろうか。
視線を滑らせた先では『正気度0の冒涜的なサイボーグ』ベンジャミン・ナカガワ(p3p007108)がことのほか嬉しそうにヴァイオレットへ話しかけている。ちなみにベンジャミンはたまたま近くにいたから視界に入っただけで、レベリオが目を向けたのは領主であるヴァイオレットだ。
「またお会いしましたな! "従兄弟様"の――いえ、今はヴァイオレット様とお呼びするのでしたか」
「ええ、その方が嬉しいですね」
「ともかく! 今回もこのベンジャミンを如何様にもお使いくだされ!」
信ずる神、それに連なる者に全力を尽くさんというベンジャミンの言葉に是非ともと返し、ヴァイオレットは視線を前へ向ける。そろそろ件の傭兵たちが根城にしている廃屋が見えて来るか。
「この土地で人攫いですか……ヒッヒッヒ」
嗚呼、どう甚振ってくれようか。
嗚呼、どう苦痛をもたらそうか。
人の人生を狂わせるその行為をヴァイオレットは――いや、"私"は許さない。狂わせようとする者たちがのうのうと生きている事すらも腹立たしい。
「瑠璃様がおられるのですから、生かして帰す理由もないでしょう。悪は――鏖殺します」
死体から記憶を探るギフトを持った『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)へ視線をくれながらヴァイオレットが宣言する。この場に集った皆へ、情けや容赦をかける必要は一ミリたりとも存在しないのだと。
「ふふ、わかりやすくてとっても好みよ」
くすりと小さく笑う『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)に『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)が頷きながら保護結界を展開する。もう先には、目的地である廃屋が見えていたから。
(情報のすり合わせをするなら1人……多くても3人くらいは欲しいかな)
レベリオは今後のことも考えながら近づいていく。奇襲などの策は特にない。このまま乗り込んで鏖殺するのみだ。
「アンタら、ちょっと待ちな」
イレギュラーズが近づいていくと、数人の男たちが廃屋の中から出てくる。誰もが警戒心を表情に滲ませながら、しかしまだ腰の武器を手に取る様子はない。
「ここは俺たちが住んでるんだ。全員で住めるだろうって来たんだろうが、住処を探してるなら他を当たって――」
その瞬間、一陣の風が男たちの間をすり抜けて行った。直後に廃屋の扉が壊れん勢いで開け放たれる。
「なんとなくですけどぉ、アナタ、一番強いでしょう?」
屈強な男の前へと飛び込んだ鏡が笑みを浮かべる。一瞬目を見張った男であったが、すぐさまその表情は好戦的なソレへと変わった。
「その様子だと住処探しってわけでもなさそうだ」
「ええ。さ、ヤりましょう?」
鏡が男を先へ通さぬようにと立ちふさがり、そして男の言を聞けばその仲間達も敵襲であると認識するというもの。半分ほど外へ流れてきた傭兵たちへ瑠璃は亡者の群れを呼び出す。
好物は生気。愛しきは生けるモノ。縋りつかんとする亡者たちに、傭兵たちの持つ銃が術者たる瑠璃へ向けられる。その前へと出たヴァイオレットは額に存在する第三の眼を開き、ひとつの事象を引き起こした。
「ぐあっ!?」
それを直視した1人が呻き声を上げ、頭を押さえる。悲鳴、叫声、金切声。脳内へ一瞬にして広がったそれが体の動きを鈍らせる。あとは仲間たちが徐々に頭数を減らしてくれるはずだ。
(生憎、そのような事は不得手ですしね。適材適所と参りましょう)
ぺろりと唇を舐める。嗚呼、久々の感覚だ。最近、ローレットで活動するにあたり少しばかり『善』へ寄ってしまっていたかもしれない。
自身の本質は『悪』なのだと。悪人には不幸を願うモノなのだと。その想い(渇望)を満たすには、うってつけの獲物だ。
「さぁ、アナタ方の人生を賭けていただきますよ。攫われた者は人生を狂わされるのですから、そうでないとフェアではないでしょう?」
声高々に告げるヴァイオレットへ銃弾が放たれる。それを躱したヴァイオレットの両脇からレベリオと、メートヒェンが飛び出して2人がかりで傭兵たちを引き付けにかかった。
「イレギュラーズの領地に手を出すくらいだから、それなりの質の人員を揃えてるのかと思っていたけど……この程度か」
「ああ。数も大したことはないね」
メートヒェンの溜息混じりな言葉とレベリオの同意に色めき立つ数人の傭兵。挑発に乗せられなかった者たちが正気へ戻そうと動き始めるが、2人は執拗に注意を引き付けるべく動く。
「彼奴らの命と魂! 残さず余さず奪い尽くし! 供物として捧げてご覧に入れましょうぞ!
ヒャッハー! とテンション高くベンジャミンが魔物を召喚する。猟犬と彼が呼ぶそれはその実、正体不明のおぞましいモノだ。ベンジャミンからの命令によってソレは傭兵たちへ一目散に突進していく。
「領主さんの意向を果たしましょう。悪因に悪果を、という気持ちはわたくしも同じつもりですし」
傭兵たちとつかず離れずの距離へ近づいた『永久の新婚されど母』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)はその手に昏い闇の尽きを輝かせる。敵の運命を暗く照らすその光は、不運と災厄をばらまきしもの。全員をおさめることは難しいが、近づきすぎて倒れてしまっては元も子もない。
少しずつ位置を調整しながらマグタレーナはちらりとヴァイオレットへ視線を向けた。
(言葉は物騒かも知れませんが、それほどの赦し難き心の表れでもあるのでしょうね)
鏖殺するのだと告げた彼女の心境は、言葉にされなければマグタレーナにははかれない。されどそこに込められたものを予想するくらいならできるだろうと。
「――僭越ながら、舞をひとさし」
それまで繰り広げられる戦闘に逃げ惑っている、ように見えた小夜が動く。それまでの演技を捨て去った盲目の剣士は流麗風雅なる花の剣で周囲を圧倒した。
戦いの場はメートヒェンとレベリオがさりげなく動いていくにあたり、屋外から廃屋内へ。そこでは全力で回避に専念している鏡と『ビッグベア』の異名を持つグルガ、そして残った傭兵たちが居た。イレギュラーズが踏み込んできたことに気付いた鏡は「ホロウちゃあん」とヴァイオレットの視線を一瞬こちらへ向けさせる。
「うん、いい顔してますねぇ。いつもとはまた違った……イイ顔。くふふ」
メートヒェンがその懐へ踏み込み、敵視を奪うと同時に鏡が大きく後退する。パンドラから力を与えられながら、鏡はメートヒェンの背へ視線を向けた。
「あと少し遅かったら死んじゃう所でしたぁ」
「遅くなってごめんね」
全ての敵の注視を集める、というのは殊の外大変で。何せ正気付かせて来る仲間がいるのだから、上手く引き付けたと思ってもすぐに外れてしまう。それを念入りに執拗に追い詰めてようやく中へ踏み込めたのだ。
「領主様がお望みですからぁ――もう誰もここから逃がさない。私たちこそがアナタたちの終わりです」
終焉を告げる者。そう名乗った鏡は楽しそうに、愉しそうに笑う。
「イイ声で鳴いて、悦ばせなさい?」
その言葉と同時、ヴァイオレットの額に存在する眼が新たな事象を引き起こす。その視線に射抜かれた傭兵の1人がはっと目を見開いた。
そこは拠点としていた廃屋のはずなのに、傭兵の目に映るのは枯れ落ちる黒い花から――ぴちょん、と垂れ落ち広がる無限の闇。そこが網目のように次々と裂け、無数の眼がぎょろぎょろと動く様。
「ああ、あ、ああああああ!!」
これは敵のせいだと認識できる。されども視界に蠢くそれらは認識を越えて恐怖を与え、武器をふるう手を疎かにした。
マグタレーナは見当違いの場所を斬りつける傭兵へ真白の杖をふるう。白鉄の杖から放たれる呪殺の一撃は、傭兵の胴へ命中し壁へと叩きつけた。
(まずは1人、ですね)
容赦ない攻撃にがっくりと力を失った傭兵から視線を移すマグタレーナ。さあ、どんどん仕留めてしまおう。
「なに、ご安心くださいな。あなた方をここに派遣した雇い主さんについても、ちゃんと『後を追わせます』でしょうから」
虹の如く煌めく雲を天井近くへ起こす瑠璃。それは殺傷力こそ持たぬものの、彼らへ不調をもたらすだろう。
こうしてイレギュラーズに倒される彼らには同情の心も湧く。あちらも仕事なのだから。されど仕事場所のリサーチ力に欠けるのは本人たちの落ち度である。仲間の領地へ手を出した事、しっかり身をもって詫びて頂こう。
傭兵を引き付けながらグルガの前へ立ったメートヒェンはブロックでひたすら彼の動きを邪魔していく。メートヒェンの罵倒にもなかなか乗らないところを見るに、名だけでなく実力もあるのだと実感させられた。
(けれど、立場の弱い者を食い物にする相手だ)
スラム暮らしを知るメートヒェンにとって、この領地の発展には目を見張るものがあった。それはスラムという場所を興していくのにどれだけ大変であるか知っているからだ。
故になおさら、手加減などしようもない。ここへ手を出したらどうなるかを知らしめてやらねばならないのだ。
「ヒャッハー! 俺はまだまだ! いけますぞー!」
ベンジャミンがメートヒェンや仲間たちを回復し、鼓舞していく。専門の者に比べたらまだまだかもしれないが、それでもこのパーティに置いては重要なサポートだ。
「さぁさ、もっと私を楽しませてくださいよぉ」
鏡はさきほどと打って変わって鋭い攻勢へ出ている。高速の居合は鏡が何も気にせず放つことができるからこそ叶うもの。こうなった彼女の速さは場にいる何人たりとも追いつけない。だって、気づいた時には納刀の唾鳴りが聞こえているのだから。
「っ……まだ、終わらない……!」
パンドラの力を得ながらレベリオは自らの肉体を強烈に回復させる。立ち向かってくる傭兵はなおも短剣を向けたが、その体が唐突に崩れ落ちた。
ふわり、と艶やかな黒髪が円の軌跡を描く。小夜は崩れ落ちた男に小さく呟いた。
「剣を取る者は皆、剣で滅ぶ。貴方達にとってその滅びが今日だっただけよ」
――無論、私もいずれ。
「こ、こいつら強ぇ……!」
イレギュラーズに恐れをなしたか、死の恐怖に襲われたか。1人の傭兵が開いたままの扉から逃げようとする。しかしその背中へマグタレーナは容赦なく神秘攻撃を撃ち放った。
「鏖殺。ですものね?」
グルガこそメートヒェンという壁から逃れながら暴れるも、傭兵たちは次第に鎮圧されにかかっている。レベリオは傭兵たちを一瞥した。
「依頼主の情報を吐くのなら殺しはしない。大人しく投降しろ」
「おいおい、寝言は寝て言ってくれよ」
そう返したのはグルガだった。眉に深く皺を刻み、厳めしい顔つきの彼は使っていた剣が刃こぼれしてきたのを見て投げ捨て、その辺りに落ちていた短剣を素早く拾い上げる。
「こっちは相当な金を積まれてんだ。命乞いのために情報を売ったとあっちゃあ、命は助かっても野垂れ死ぬぜ」
グルガだけでなく、他の傭兵も同様のようだ。媚び売って生き残るくらいなら任務失敗で撤退するか、潔く命を捨てるかといったところか。
「ならば仕方ないな」
レベリオの言葉にイレギュラーズの猛攻が被る。傭兵たちをのしたイレギュラーズたちはその勢いをグルガへも叩き込んだ。
古びた板を割り、土が瑠璃の力によってグルガを土中へ収めんとうねる。周囲へ視線を走らせるグルガへベンジャミンはどこからともなく取り出したライフルらしき銃を構えた。
「"神に代わり人々を愛し守ることで、神は俺だけを愛し守り賜う"――このベンジャミン、一般市民に手を出す外道に容赦はしませんぞ!」
放たれるベンジャミンバスター。極太ビームを防具で受ける間に土がグルガを覆いつくす。だがすぐさまそれを破ったグルガへメートヒェンが立ちふさがった。
「行かせないよ」
受けた傷は多く、それでも退けぬ理由がある。逃げられないようにと阻害していたメートヒェンだったが、その限界を迎える前にレベリオが素早く彼女を庇い立てた。
刹那の疑似生命体をけしかけながらマグタレーナはグルガへ口を開く。その背後にいるのは誰なのか――ダメ元でもう1度。
「いま話せば、正直に話した報いが違う未来を開くかも知れませんよ?」
「くどいぜ」
きっぱりと切り捨てる言葉にマグタレーナはすっぱりと諦めた。その態度であるならば死から逃れることはできないだろう。
(話したところで、やはり死ぬことに変わりはありませんけれど)
別に騙したいわけではない。彼女が示唆するは『来世』の話なのだから。
「残りの人生全てで支払って貰いますよ。高い授業料を惜しみながら――地獄へ落ちなさい」
ぶわり、とヴァイオレットの姿が影に包まれる。"本来の姿"であるそれは伸縮しながらグルガへ纏わり、絡み取り、食らいついて苦痛をもたらす。
「日向だからって油断して、ズカズカ入るからこうなるんですよ」
踏み潰した影が何だったのか、もうわかった事だろう。体は痛むけれどこのひと太刀はくれてやらねば。
「それじゃあ――サヨウナラ」
目にもとまらぬ居合がグルガを袈裟懸けに斬る。よろめいた彼は内臓までその傷が達したか、血を吐いた。あと一撃、それで終わり。しかしそこで終わらぬのは流石、と言うべきか。
「あっ……!」
メートヒェンという壁を回り込み、窓をぶち破ったグルガ。同時に倒れ伏しながらも息の合った傭兵たちがそこかしこから逃げ出そうとする。
「無駄ですぞ!」
その1人の前へ立ちはだかるベンジャミン。しかし全員を、とまでは物理的に叶わない。
咄嗟にヴァイオレットが幻影で本来なき路地を作り出す。瞬間的に精度の高い幻影とまではいかなかったが、それなりではあるだろう。
しかし――それは見えていても『幻』なのだ。
「壁を突き抜けて……!?」
動揺こそ見せたものの、軽く手を伸ばして幻影だと気づいたのか変わらず真っすぐ突入していく。残されたのは数体の死体と、ベンジャミンが押しとどめた1人であった。
「さあ、心温まる交流タイムの始まりです」
グルガ含め数人に逃げられたものの、死体を含めば半数以上が確保できた。瑠璃は拘束された生存者を一瞥しながら、ギフトで死体から記憶を探って順に照らし合わせていく。
「ああ、何も言わなくて結構ですよ。表情が何より雄弁ですから。それに――」
死人に口なし。余計なノイズが入ると思えば、『同じようにしてしまえば良い』のだから。
「まあ、この地を再び襲う者があれば皆殺しにし続ければよろしい。いずれはそういう輩も寄り付かなくなり、黒幕を炙りだせますぞ」
「そうですね。一応、目撃情報も集めてみましょうか」
ベンジャミンの言葉にヴァイオレットは頷いた。最も、逃げ帰った者たちは依頼の失敗を伝えるだろう。この地に固執しないのならば、もう寄ってはこないかもしれない。
傭兵の扱いについては領主の意向通りに。もう口がきけぬよう、悪さもできぬようにして、一同はローレットへの報告へ向かったのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
あの傭兵は混沌のどこかで活動を続けることでしょう。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●成功条件
傭兵の撃退
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。
●エネミー
・『ビッグベア』グルガ
非常に巨躯なカオスシードです。筋肉質で、一見鉱山とかで働いていそうなおじさんです。髭がもじゃもじゃしており、笑えばなかなか人の良さそうな面をしています。
彼はローレットと同様の中立スタイルをとっており、受けられる依頼の幅広さからも名の知れた傭兵です。その価格は時により変動しますが、今回は十分すぎるほどの金を受け取っているようです。
非常にタフな人物であり、その見た目に反して動きは早いです。どんな武器でもそれなりに扱えるようですが、得意とするのは至近~近距離の武器・攻撃のようです。
・取り巻き傭兵たち×9
グルガと共に依頼を受けた傭兵たちです。カオスシードとブルーブラッドが混ざっており、いずれも依頼人からはたっぷり金を摘まれたようです。
彼らとグルガは長く組んでいるわけではなく、たまたま同じ依頼を受けただけのようです。依頼が失敗しては双方とも困る為、それなりに連携はしてくるでしょう。
彼らはいずれも短剣や銃など狭い場所でも戦える武器を所持しています。神秘適性のある者も混じっているようです。
彼らは手数に優れておりますが、グルガよりは一発の攻撃が軽く思えるでしょう。また、回復アイテムを所持しているようです。
●フィールド
ヴァイオレットさんの領地内、少しずつ発展し始めているがゆえに『元』スラム街と言うべきでしょう。
その土地の外れにはまだ廃屋などが残っており、そのうちのひとつを拠点としています。廃屋はそれなりに広く、まだ使える場所のようです。家具などは残っており雑多としています。
●ご挨拶
愁と申します。
ヴァイオレットさんの領地に良からぬ者たちが入り込んでいるようです。さあ、追い出してしまいましょう!
ご縁がございましたらよろしくお願い致します。
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