シナリオ詳細
Eclipse Lover
オープニング
●Eclipse Lover
――むっちゃんはなぁ。
朧な記憶の中で彼は笑う。
意地悪い三白眼に大きな口。
彼の行動の、彼の発言の全てに意味なんてありはしないのに。
――フツーなのがいけないんじゃん?
馬鹿な。
馬鹿げている。
より多くの普通が、平凡が無ければこの世の平和は絶対に成り立ちはしないのに。
――好きにしよーよ。何なら、一緒にさ! パーッとさ!
言った本人が忘れている。
そんな誘いを彼が一顧だにした事なんて無かった。
言葉は唯の思い付きで、守られる筈も無かったのに。
十一歳の少女は、彼の在り方に魅せられた。
たった三年の後、永遠に消えてなくなるEclipse Loverに魅せられた。
●月蝕(つきはみ)睦まば
月と恋は満ちれば欠ける――
「――ロマンチックに言い訳が出来るような最後だったら良かったのに」
長い黒髪が印象的な美しい少女は、泣きそうな顔でそう言った。
「僕の恋はね。何時だって不完全燃焼だった。
信じられるかい? いたいけな少女の心をさらっておいて、音沙汰無しだぜ。
本人に尋ねたら『君誰だっけ?』と来たもんだ」
独白めいた彼女はイレギュラーズを前に訥々と語る。
「彼は子供のようだった。
彼は何時だって自由で奔放で身勝手で無邪気で――総ての邪悪に満ちていた。
かんしゃくを起こす事もあったし、酷く気まぐれだった。
……でも、そんな所がたまらなかったのだけど」
「ああ、失礼」と頭を振った少女は口元に浮かぶ甘い記憶(?)の残滓を噛み殺した。
月蝕睦(つきはみ・むつ)と名乗った彼女は言わずと知れたローレットの依頼人である。
数年前この世界に召喚されたという彼女は特異運命座標の一人――即ちウォーカーである。
イレギュラーズが現在進行形で、研究者然とした雰囲気に違わずローレットではなく練達(セフィロト)に身を置いていると語る彼女の些か一方通行なラヴ・ストーリーを聞いているのも勿論仕事の内である。
「結論から言おう。
彼と僕はハッピーエンドを迎える筈だった。
だが、彼が僕を見てくれた事は無い。二人は確かに結ばれる筈だったけれど、不具合(バグ)は何時だって厄介だろう? 研究も恋愛もそれは同じだという事だね」
睦の言う『アレ極まりない発言』をイレギュラーズは適当に流す。
この稼業をしているとエキセントリックな依頼人には事欠かないものだ。今年で十七になるという彼女は黙っていれば確かにかなりの美少女だったが、発言はかなり思い込みの激しい危険人物そのものである。
「……まぁ、それはいいとして。それが何でさっきの依頼の話になる」
頭痛を抑え込みながら問うイレギュラーズは実は今回の仕事のオーダーを聞いていた。
睦の依頼は『暴走したHades01を止める事』である。Hades01とは彼女自ら作り上げた試作兵器であり、想い人の心を捉える為の重要アイテムであるらしい。
「そもそも何で恋愛が破壊兵器を生み出す。
もっと言えば口振りからしてその『彼』はもう死んでるんじゃないのか。
第一、お前は今混沌にいて、元の世界とここは全く違うだろ!」
溜めに溜めた不可解をまくし立てるように放つイレギュラーズ。
睦はそんなイレギュラーズに「分かっていないな」と肩を竦める。
「まず、第一に彼は人形遊びが好きだった。最強の人形をバチーンとぶつければ、僕に興味を示すのが道理だろう? 彼を制圧して、それから上目遣いで愛を囁く。完璧だ。
第二に、生きてるか死んでるかは大きな問題じゃない。だって、死んでたって生き返らせる手段を探せばいいだけじゃないか。三つ目も同じ、帰ればいい。
一切問題は無い。それで僕のデバッグは完了って訳だ」
「あ、もういいです……」
イレギュラーズは余りの台詞にくらくらとした。
睦は何かを踏み越えた天然の逸脱者に違いない。常識を語るのは無意味である。
「……それで、仕事は『Hades01』の沈黙ね。
荒野で暴れてるヤツを何とかストップしろと。壊さない保証は出来ないぞ?」
「データさえ回収出来れば構わないよ。
それに見くびらないでくれたまえ。僕をコメディリリーフと思うなよ?
君達の仕事はきっと、とびきりHardになる」
睦は頷いてイレギュラーズにこう言った。
――大体、簡単に壊されるようじゃ、恋のキューピッドには足りないじゃないか――
- Eclipse LoverLv:5以上完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2018年06月16日 21時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●命短し恋せよ乙女I
報われない恋は世の中に幾らでも転がっているものだ。
それは時代を問わず、身分を問わず――何より男女を問わない。
或る創世に謳われる『アダムとイヴ』のようにしつらえられた相手が決まっているならばいざ知らず――
失楽園の園を行く人間に完全なハッピーエンド等望めまい。
しかし。
「――全ては愛故に、か。愛とは複雑怪奇だ……どの世界でもなァ」
呆れたように、或いは半ば感心したようにそう呟いた『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の言葉が示す通り。『実らず、余りにすれ違い、結果拗らせた恋』というものが時にどれだけ面倒なものになるかは――今まさに彼女の視線の先で駆動音を上げる『怪物』が表していた。
「アレを壊せと来たもんだ」
「……どっちかというと冥府に叩き落すロボに見えるよな」
苦笑交じりの『アニキ!』サンディ・カルタ(p3p000438)が相槌を打つ。
「にしても俺、タンスの次はロボと踊るのか……レディと踊る日は来るのかな……」
ぼやいた彼が――十人のイレギュラーズが今日請け負った仕事は『恋愛成就のキーアイテムを壊す事』。
そう呼べば甘酸っぱい話にもなろうものだが、本件の場合は依頼人の性質こそが問題だった。練達の科学者である所の月蝕睦は控え目に表現してもマッドサイエンティストとしか言いようがない。彼女が愛しの彼(故人)を制圧する為に作り上げた『人形』こそ鉄の怪物――Hades01であり、今日イレギュラーズが相対せねばならない敵である。
「狂った奴に作られた人形は、狂った目的にしか使われないからにゃー。
……あんまり他人事でもないにゃ。せめて早々に壊してやりたいものだにゃ」
頬を掻いた『リグレットドール』シュリエ(p3p004298)が軽く嘆息した。
全長数メートル以上を誇る鉄騎が恋愛の為のお人形……
全身にガトリングガンやらレーザーガンやらミサイルポッドやらを積みに積んだそれが成就の鍵……
改めて字面にしても何が何だか分からない酷い経緯だが、その辺りは報告書を詳しく読んで頂くとして。
「流石に俺もあの娘が言ってる事は……分かりたくねぇな……
……ってかクッソメンドクセェ兵器を暴走させやがッテ……!」
「詳細の隠された武装、平然としてる科学者(クライアント)……
……………やっぱりこれ戦闘データ目的なんじゃないかねコレ。
やれやれ、乙女の恋心は末恐ろしいものだよまったく!」
思わず零した『ゴロツキ』黒鉄 豪真(p3p004439)や、『冒険者』ヴィンス=マウ=マークス(p3p001058)の言わんとする所も良く分かる、何とも混沌とした話なのだ。
さりとて、一筋縄ではいかない曲者揃いなのは何も依頼人に限った話では無い。
「狂気は理解しがたいが、この機会を作ってくれた依頼主には感謝するとしよう。
機械とはいえこのような相手と戦う機会など、そうあるまい。
……くく、依頼の達成が最優先とはいえ……強敵(これ)を見ればこの俺とて心が躍る!」
「こい……濃い……鯉……故意……恋。
僕は、刀なので…恋は、よくわかりませんが。誰かを見て、心臓が落ち着かなくなること……と、記憶しています。
……ということは……私は今、恋をしているんでしょうか。
あの大きな……Hades01さん、でしたっけ……を見ると、ドキドキして……胸の奥が、熱くなります。
……斬りたい、斬りたい。斬り刻んで、叩き潰して……あの大きな体が、バラバラに砕け散るのを……早く、見たい」
強烈な敵と相対する事それそのものに喜びを禁じ得ない『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)や『刃に似た花』シキ(p3p001037)も居れば、
「死と世界が二人を別つとも、何の問題も無いと言ってのける愛!
イイね! その一途さ、応援したくなっちゃうよ! ってわけで恋のキューピッド君を回収しよう!」
「練達には愉快な方が多いのですね! それが好きです!!
でも本当に壊しちゃっていいのでしょうか……これでも彼女の愛の産物!
……必ず、データだけでも救って見せますからね!」
「うんうん、実際嫌いじゃないんだ。自らの思いの為に力を振るう彼女は素敵だ。
ならば僕は、少女の恋を叶えるためにも尽力しよう――きっとそれは、見応えのある旅路になるから」
『chérie』プティ エ ミニョン(p3p001913)、『戦花』アマリリス(p3p004731)、『灰燼』グレイ=アッシュ(p3p000901)のようにこの混沌(しごと)――ひいては常人には理解出来ざる経緯を述べた依頼人にさえ好意的な者も居る。
全く世界が望んだ特異運命座標(イレギュラーズ)という連中は特別だ。
赤いモノアイで敵(じしんら)を睨めつける黒鉄の威容に怯む事すら無く――何処か余裕めいてさえいるのだから。
しかして、今日の仕事が簡単なものでない事はこの場の全員が知っている。
低い駆動音を立てるHades01の挙動が警戒色から――攻撃色を帯びれば、戦いの始まりはすぐそこだった。
「さァて、鬼が出るか蛇が出るか……それともアレが鬼で蛇以上なのかは知らねェが――」
薄い唇を歪め、僅かに犬歯を見せるようにしたレイチェルは笑っていた――獰猛に。
やる事が分かっているのは幸いだ。複雑怪奇な愛(パズル)でも簡単に解けないからこそ、面白い――
●命短し恋せよ乙女II
状況を整理する。
巨大鉄騎Hades01に挑む十人のイレギュラーズの目標はこの敵の破壊である。
見通しの良い荒野、誤魔化しの効かない戦場である以上、打てる小細工は多くない。
事前の情報(カタログ・スペック)から敵が自己修復能力を備え、頑健な火力要塞である事を理解していたイレギュラーズは当然と言うべきか。
「作戦通りに――参りましょう」
一早く地面を蹴ったシキの口にした『短期決戦』にその活路を見出していた。
パーティは戦力を至近組のシキ、サンディ、プティ、一晃、アマリリス。後衛組に残るレイチェル、グレイ、ヴィンス、シュリエ、豪真の二つに分けている。
(短期決戦! 修復する間を与えず一刻も早く破壊し、停止させる!
立ち位置と人数(ターゲット)のダメージコントロールで攻撃を誘引出来れば――)
陣形を組み上げた上で距離を詰めるプティは敵の様子を僅かに伺う。
見るからに堅牢な敵を撃破せしめるに余力(リソース)が足りる保証はない。
(重要なのは、それぞれの得意レンジと立ち回りを活かした速力戦だ。
至近組と遠距離組に分かれ、リスクの分散もそこそこに出来る限りのダメージを与えること。
至近組はその場で最大火力を発揮させつつ、遠距離組は各員散開して範囲攻撃を警戒しながら攻撃――まぁ言うのは簡単だけどね)
飄々としたグレイはしかし難題とは裏腹に何処か余裕めいていた。
勝ち筋を見出すならば強気に攻めるしかない、というのは今回の戦いのコンセンサスだ。
元より正攻法で当たれば叩き潰されるだけならば、戦いの博打は是非も無し。上等で――望む所ですらある!
「さあ、頼んだぜ――!」
気を吐いたレイチェルの魔銃が巨大なる敵を指し示し、怒涛のような礫が強靭なフォルムに降り注ぐ。
この先制攻撃は惜しくも敵の態勢を乱し切るには到らなかったが、レイチェルの術は威力自体が出色である。
強靭な防御に阻まれ、与えたダメージは極大足り得ないが、それでもそれは無視出来まい。
それが号砲(あいず)であったかのように後衛組は全力で出来る得る火力を叩きつける――『その位置取りを一所に固めて』。
「牽制位はさせて貰おうか」
「おっと、俺も一口噛ませて貰うぜ」
強化魔術を短尺詠唱で纏ったヴィンスのリボルバーが精密な射撃を見せる。
中々の連携を見せ、これに素早い抜き撃ちを合わせたのは豪真だ。
巨大な敵フォルムの右膝当たりを立て続けに撃った金属音は威力の不足とその防御力から有効打には届かなかったが、Hades01の注意を確かに後衛戦力に向ける意味はもたらしている。
「――頭上にご注意! 『晴れてる』けどね!」
続け様の攻撃はHades01の防御態勢を少しずつ削り取っていくものだ。
右膝への連撃から頭上へ――目線の変化が幾らか奇襲めいたグレイの『天気雨』――魔素の杭が装甲を強かに叩く。
「おっと、来るにゃ! 皆、注意するにゃ――!」
先制攻撃を受けたHades01の右腕の砲塔が今まさに間合いを駆ける前衛では無く――彼等後衛を向いていた。
Hades01の放たんとするのは極めて殺傷力の高い範囲攻撃――ナパームボム。だが、それはパーティの想定の内である。
(こんがりされる趣味は無いんだけどにゃ)
敢えて攻撃性の高い一撃を『後衛に向ける』のはこの戦いの重要なポイントである。
一般に前衛は耐久力が高く、後衛は火力に優れるものだが、この敵の装甲を確実に『抜ける』のは通常火力頼りの後衛では無い。
至近戦闘を挑むチームはまさに高速決着を望むスペシャリスト揃いである。
敵防御を無視する鬼札・爆彩花を携えるのはプティ、一晃、アマリリスの三人。
シキは妖刀の鋭さと絢爛なる舞刀をもって継続ダメージを狙い、
(何が何でも――一秒でも長く耐え続けてみせる!)
唯一高い攻撃性を持たないサンディは自傷とも呼べる猛烈な攻撃を繰り出す一晃とアマリリスを庇う盾である。
彼の徹底ぶりは凄まじく相応の防御に耐久力、その上で全力防御を展開する事を決めている。
さて置き、局面は最初から激しいものとなっている。
「くそったれが! 報酬は上乗せしてもらうからな……!」
纏わりつく炎熱を何とか払わんと――嘯く豪真が悪態を吐く。
「……っ、これはまともに相手にしたらとても持たないね!」
後衛とは思えぬ見事な身のこなしを見せたヴィンスは猛攻のダメージを幾らかいなしたが、彼女の言う通り相手は悪い。
何発も喰らえば倒されるのは明白で、それを承知の上の後衛達はこの先の立ち回りで敵の攻撃をコントロールせしめんと考えている。
上手くいくかどうかは神のみぞ知る所だが――本戦におけるパーティの思い切りの良さは凄まじい。
『通常ならば』ターゲッティングされる事を避ける後衛を『わざと狙わせ』ターンを稼ぎ。
サンディの徹底した自己犠牲をもって少しでも長く防御面に不安のある主要火力を稼働させる――
緻密に計算された連携は成る程――敵のナパームを誘い出し、生まれた隙を縫うように前衛達は大敵に接敵せしめた。
「――はッ!」
それは裂帛の気合。飛び込むように遂に間合いを詰め切ったシキの斬撃が流麗に舞う。敵を打つ。
「暴走は良くないとはいえ、心置きなく破壊できる戦闘は良いものですね!
月蝕様の恋が次段階にゆく為に――破壊も必要ということなれば!」
「どうせ『受ければ』倒れる以上――この上無く明瞭だ。墨染烏黒星一晃、一筋の光と成りて鉄の巨人を打ち砕く!」
アマリリスが、一晃が猛攻に続き、
「さあ――一発目!」
「あんまり神頼みって好きじゃないけども!」
プティの一声が彼女の小さな体らしからぬ強烈な爆音を立て、嘯くシュリエの声が戦場の空気を震わせる――
●命短し恋せよ乙女III
「させるか――!」
サンディが鋭く声を上げた。
受けに回った彼のアイギス・レプリカが悲鳴を上げ、歯を食いしばった彼はキッと敵を見返した。
『無表情』で佇む機兵のモノアイは防戦の要たる彼から視線を切らない。
(いいぞ、そのまま見てろ――)
ダンスの相手としては最悪だが、仕事としては本望だ。
「……ほんとに、頑丈だね……っ!」
自身の一撃の余波を受けたプティが目を見開く。
「今のは自信あったんだけど――」
「成る程、大した化物だ」
そう言うグレイの口元が苦笑を描く。
まるで痛みを知らないかのようなタフネス。
集中攻撃に乱れながらも難攻不落の防御力。
敵を点ではなく面で制圧せんとする火力は――全く脅威と呼ぶ他無いものだった。
パーティの計算は優秀なもので、敵の行動をある程度は操作せしめた。
一撃目のナパームから散開した後衛は敵の攻撃をガトリングへ誘発し、受けながら全力の攻撃を叩き込む。
「さあ、今度はこっちへ撃ってもらおうか――」
敵の攻撃を切り替えんとする囮となったのは言うまでもなく、後衛でありながら身のこなしに優れるヴィンスである。
堅牢なる防御を時にレイチェルのロックバスターが乱し、これをチャンスと有効打を叩き込む。
「これを――喰らえ!」
強敵を前に疼く狂戦士魂――その愉悦を隠せない一晃が最大火力をもって敵へ挑む。
シュリエはあくまで粘り強く隙を伺いながら自身の持てる最大手である封印を狙い、主要火力たる前衛達は難攻不落の要塞を叩いて、叩いて、叩きまくった。
しかし。
はぁ、はぁ、は――
荒い呼吸は誰のものか。
流れ落ちた血は誰のものなのか。
並の敵ならばとうの昔に倒れているだろう猛攻を浴びながらもHades01は健在だった。
確かに傷付いている。装甲は凹み、ダメージは隠せない。部位の破壊こそ叶わなかったが心なしか動きも落ちているようにも見えなくはない。
それでもそれは製作者の言った通り、生半可な怪物では無かったのだ。
決着を高速戦と位置付け、消耗の重い作戦を選んだパーティ側の余力は長い戦いでないに関わらず既に薄く。
馬鹿げた火力を前にすれば、パンドラをもって攻撃に耐える事を選ばざるを得ないのは必然だった。
「――ッ!?」
幾度目か放たれた重火力の一撃に高い火力をもって大きな貢献を見せていたグレイが倒される。
「冗談じゃねェ――」
粘った豪真もやがて砲火に膝を突く。
「さぞ、いいデータが取れてるだろうねぇ!」
無責任な依頼人に悪態の一つも吐きたくなる状況だ。
ヴィンスは何とかこれを凌ぐも、パタパタとこぼれ落ちる赤色は彼女の消耗を告げていた。
『素晴らしい連携を持ち、計算通りに戦いを進めたに関わらず、パーティは危急に立たされ、今まさに戦いは分水嶺を迎えている』。
雑な戦い方をしたならば結末は言わずと知れた鎧袖一触。
正攻法で挑んでも勝ち筋等ほとんど見えなかった事だろう。
つまり、月蝕睦の持ち込んだ厄介事は今のイレギュラーズ達にとってみれば正しく困難(Hard)なものだった。
これ程の健闘を見せたとて、追い込まれているのは彼等の方なのだからそればかりは確実だ。
――ギギ――
笑い声のような軋みを立て、後背から競り上がった最強の砲塔(イクリプス・レーザー)がパーティを向きかける。
放たれれば今度こそ立て直し難い最高火力は文字通り終局の一撃となる。
だが、それでも。
恐らくは――運命が在り来たりの結末を望まなかったのは。
この日の敗退の結果を退けたのは――彼等が確率を覆す特異運命座標(イレギュラーズ)であるからなのだろう。
「さっき言ったにゃ――神頼みって好きじゃないけども――」
崩壊寸前の戦線をシュリエの声が引き戻す。
「――運ゲーをっ、このテクで超えてこその一流ってやつにゃーッ!!!」
幾度目か放たれた簡易封印(ピューピルシール)が、漸く――この瞬間にHades01を捉え、その動きを阻害した。
「最後のチャンス、所謂ボーナスステージってヤツだにゃ!」
この時間はまさにダイヤモンドより貴重な三十秒をもたらした。
刹那の攻防は、文字通り潮目を変わる。
最早、長い戦いに耐え得ないパーティはこの一穴から要塞を崩す他は無く。
しかし、これ以上無い程にこの好機に勇気付けられていた。
パーティは猛攻を仕掛ける。
Hades01は倒れない。
尚も猛烈に攻め立てる。全ての力を注いで攻める。
だが、それはまだ――倒れない。
「危ねぇっ!」
イクリプスレーザーは愚か、自慢の火砲を封じられたそれの鈍重な一撃は肩で息をしたアマリリスを狙っていた。
「……やらせないって、言っただろ……っ!」
身を挺して庇いに入り、地面に叩き伏せられたサンディは今度こそ立ち上がれない。
この瞬間を誰も無駄にする事は無い。
パーティの作戦、倒される前に倒す――それは実は正しくない。
より正確に言うならば彼等の強烈な士気は『倒されても倒し切る』に他なるまい!
「いい加減、止まれ――ッ!」
ヴィンスの銃撃が巨体に深く突き刺さる。
「火力が足りねェって――? 待ってたぜ!」
レイチェルの放った血盟ノ獣――年老いた銀狼が間合いを奔る。鉄の巨体に喰らいつく。
左右にステップを踏んだ背水のシキが大きく跳び、モノアイ目掛けて一刀両断を振り下ろす。
これほどのものが、きれるとは。
まさに自身こそ妖刀の一振りたるシキはその『感触』に歓喜した。
「これで――最後だ!」
まさに最後の力を振り絞った一晃の一撃が爆音で間合いを焦がし、
「今は、只々、破壊神の如く――その難攻不落を打ち砕く!
倒される前に、止める。それがこのケンプファーの、烈火の命火――ッ!!!」
彼ともう一人のケンプファー(アマリリス)が吠えて一撃を突き刺した。
――地面が、揺れる。
炎の花の咲いた戦場(ていえん)に黒い影崩れて落ちる。
その巨敵に群がるは余りに脆い弱者達。
されど、その点穴は難攻不落すら崩し切ったのだ。
嗚呼、お見事――!
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
YAMIDEITEIっす。
ビルドといい連携といいプレイングといい十分です。
PPPルール運用下では、最も詰まった部類の優秀な戦闘プレイングでした。
おみごと。称号も出しておきます。
以下、私の用意した解法パターン(本戦では一部不使用)
・爆彩花(弱点・防御無視スキル)
・配置ダメージコントロール
・有効なBS使用
・待機利用
・ナパームボムを至近で撃たせダメージBSを自身にかけさせる。
言う事無かったです。シナリオ、お疲れ様でした。
GMコメント
YAMIDEITEIっす。
オープニングは多少コメディめいていますが、完全にHardです。
諸々総じて足りなければ簡単に失敗しますのでご注意下さい。
●依頼達成条件
・Hades01の沈黙
・研究データが回収出来る事
極めて頑強なので『普通に破壊する』のは問題ありません。
●荒野
唯広い荒野のフィールド。
荒野での起動実験中にHades01は突如言う事を聞かなくなったそうです。
「ああ、自由で奔放で、たまらない……」とは睦の言ですがスルーして下さい。
遮蔽物は無く小細工の利かない戦場です。事前に罠を仕掛ける等も不可能です。
●Hades01
練達と睦の技術が組み合わされた狂気の産物。
全高七メートルを誇る兵器であり、歪な両足が巨大なボディを支えています。
顔はついておらず、平べったいボディの先端に電子光を帯びるモノアイを備えます。
左右両腕とも言うべきパーツにはこれでもかと火器を搭載しています。
能力傾向としては極めてHPと防御技術が高く、火力も備えます。
反面、反応、回避はそう高くありません。
状況に応じてより多くのダメージを叩き出すように動きます。
以下、攻撃能力等詳細。
・巨大(ブロック・マーク不能)
・自己修復システム(パッシヴ、自動HP/AP回復)
・ガトリングガン(物特レ)※中距離視野範囲の有効対象を全て攻撃します。
・ナパームボム(物特レ・大火力・火炎・業炎)※レンジ減衰無し。着弾地点から広範囲無差別属性を持つ攻撃です
・ホーミングミサイル(物超域・超高命中・高CT)
・イクリプス・レーザーEX(神特レ・不明)※レンジ減衰無し。着弾地点から広範囲無差別属性を持つ攻撃です。
ステータスビルド、立ち回り、作戦全てが重要です。
以上、宜しければ御参加下さいませ。
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