シナリオ詳細
<ヴァーリの裁決>スラムの暴動。或いは、悪斬悪禍…。
オープニング
●とある廃墟
幻想。アーベントロート領。
とあるスラムの廃墟で1人、くっくと笑う女の人影。
埃に塗れたテーブルに腰かけた女……否、女の形をした“何か”は、にたりとした笑みを足元へ向ける。
そこには、血だまりに倒れた薄汚い男が1人。
「さて……もう一度聞きますがぁ、私の領地で、誰が、何をしようとしていると?」
腰に差した刀が一振り。
それに手をかけ鏡(p3p008705)は問うた。
「か……ひゅ……あ、め、メイエール商人が、奴隷、を……調達、しに……」
「えぇ~? よく聞こえませんねぇ? ほら、もっとはっきり言ってくださいよぉ」
なんて。
鏡は問うが、それは無理というものだ。
何しろ男の喉は、ぱっくりと切り裂かれているのだから。
呼吸をするのも、声を発するのも苦しいだろう。
恐怖と痛みに震えながら、それでも彼はどうにか生を繋ぐため鏡の問いに答えているのだ。
「め、メイエールだ!! 商人、メイエールが……スラムのガキ共を捕らえに来る!! お、俺は下見に来ただけで……メイエールにはここに来ないよう言っておくから、なぁ……頼むよ、助けてくれ!!!」
「はぁ? なるほどなるほど……えぇ、いいでしょう」
タン、と。
短く軽い音が鳴る。
それは、鏡の刀が男の首骨を断ち切った音だ。
「……あ?」
「ほら、楽になったでしょう?」
目を見開いたまま転がる男の首へ向け、鏡はそう言葉を投げた。
どっちみち、喉を裂かれた彼の命は長くなかった。
苦しみながら死ぬぐらいなら、痛みも感じぬままに冥途へ旅立つが救いと、それは鏡なりの“優しさ”であっただろうか。
もっとも、その優しさは上っ面のもの。
内に秘められているのは、鏡の本質たる嗜虐性である。
「メイエールさんでしたっけぇ? えぇ、えぇ、せっかくですから歓迎してあげましょう。悪党なら、斬って捨ててもきっと誰も困りませんし」
思う存分に斬れそうです。
そう言って鏡は、蕩けるような笑みを浮かべてくっくと肩を震わせた。
●ようこそスラムへ
「はぁい、皆さん。ようこそお集りくださいましたぁ」
口角をにぃと吊り上げた不気味な笑み。
鏡は、愉しくて仕方がないといった様子で、集まった仲間たちへ言葉を投げる。
「今回の戦場は私の領地であるスラム街。その一角にあるブラックマーケットとなりまぁす」
粗末なテントが所せましと並んだ市だ。
扱われているのは腐りかけの食料や、盗品、非合法の薬物などが主となる。
中には、誰かが何処かから拾って来た武器弾薬も含まれていた。
どれだけ治安維持に注力しようと、悪事を働く者は減らない。
世に悪人の種は尽きまじ、とは果たして誰の言葉であったか。
「メイエールという奴隷商がそこに拠点を築くとのこと。まぁ、拠点といっても3台の大型馬車ですがぁ」
斬るのは骨が折れそうですねぇ、と。
肩を震わせ、鏡は告げる。
その腰に下げられた刀が、カチャリと軽い金音を鳴らした。
「メイエール自身は単なる商人。ですが、その護衛であるメイエール私設隊は荒事のプロだそうですよ」
とくに、隊長を務める“サイゾウ”なる男は、かなりの手練れという話だ。
さらにブラックマーケットには、そこに住む貧民たちもいる。
「事前に避難を通告していたんですがぁ……どうやら、情報をメイエールに売った者がいるようですねぇ」
つまり、イレギュラーズの襲撃はメイエールにばれているということだ。
事実、奴隷を捕らえに来たはずのメイエールや私設隊はブラックマーケットに拠点を張ったまま動いていない。
攻め込んできたイレギュラーズを逆に捕らえ、奴隷として売りに出す心算なのだろう。
舐められたものだ、と。
鏡は一層、笑みを深くした。
「私設隊の数は20名ほど。【呪縛】を付与するワイヤーガンや、【暗闇】【封印】を付与するペイント弾を主な武装としているようですねぇ」
鏡の策をメイエールに漏らした者がいるように、メイエールたちの情報を鏡に売った者もいた。
人が人を売る裏切りの坩堝。
ある意味では、スラムの日常ともいえる一幕であった。
「サイゾウとやらは、無数の竹槍と1本の十字槍を武器として扱うとか。まとも受ければ【失血】【ブレイク】【体勢不利】の悪影響をいただくでしょうね」
なんて、言って。
鏡は刀に、そっと指を這わせるのだった。
- <ヴァーリの裁決>スラムの暴動。或いは、悪斬悪禍…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月29日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●スラムへの侵攻
幻想。アーベントロート領。
カビと埃と、血と汗と、それから薬と火薬の臭いの漂うスラムへ1人の女が現れた。
右の手足と、腹部を大きく露出させた奇妙な出で立ち。左右で白と黒に分かれた髪色。淀んだ瞳に、にぃと吊り上がった口角。
美しい女性だ。
けれど、どこか不気味でもある。
事実、女と見れば見境もなく声をかけ、時には無理矢理、路地裏へ引き込もうとする輩たちも、彼女……鏡(p3p008705)を遠巻きに眺めるだけで、誰も近寄ろうとさえしない。
「はい、領民のみなさぁん。怪我したくなければ邪魔しない事ですよぉ」
胸の前で、左右の指先をぴたりと合わせて手を組んで、鏡はそんなことを言う。
「私のお友達は優しいので皆を守ろうとしてくれますが、私はいう事聞かない子は嫌いですからねぇ」
スラム街では、人の命はとにかく軽い。
ましてや、この地域を治めているのは鏡だ。法の整備も不十分なスラムにおいて、領主である鏡の言葉は絶対だ。
スラムの住人たちも、しかとそれを理解している。だからこそ、通りの真ん中を進む鏡に皆が道を譲り、視線を逸らすのである。
触らぬ神に祟りなし、とはよくぞ言ったものである。
スラムの住人たちにとって、そう言う意味では鏡は理想の領主であった。何しろ彼女は、スラムの惨状を知っていながら、それを放置しているのだから。
脛に傷を持つ輩ほど、法の整備が行き届いた場所では生きづらいものだ。
前科者や、逃亡者が集まって出来たスラム街。
そういうところでしか生きていけない者もいるのだ。
「はいはーい! 正義の味方のお通りだよー! 巻き込まれたくなかったら避難してねー! ……って、何で皆して視線を逸らすかな?」
鏡の後ろに続きながら『漆黒の堕天使』マキシマイザー=田中=シリウス(p3p009550)は、努めて明るく声を張り上げ避難を促す。
黒い翼が空を打つ音と、シリウスの呟く疑問の声が虚しく響いた。
「何で視線を逸らすかって? 決まってるだろ。とびっきりの厄ネタだって分かり切ってるからだよ」
なんて、囁くような誰かの声が静まり返った通りに響く。
その声の主は、ボロ布を被った若い女であった。
『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は、ふらりと女性に近づくと、その長身を折り曲げ顔を近づける。
「そう思うのなら、早々に立ち退いてくださいましー。せっかくの脚に傷がついちまいますよー」
白い肌に白い髪。虚ろな瞳に、引き攣った女性の顔が映り込む。
額から伸びた数本の触覚がゆさゆさと揺れ、女性の頬をするりと撫でた。ひぃ、と短い悲鳴を上げて、その場に倒れた彼女の脚へピリムはじぃと視線を向ける。
数瞬、痩せた女の脚を眺めて、ピリムは笑った。
にぃ、と。
口角を限界まで吊り上げた不気味な、けれどどこか恍惚とした笑みである。
「ったく、ほどほどにしとけよ。ピリムがいなきゃ、合図が送れねぇだろう」
立ち止まったピリムの背後に、白いスーツの男が寄った。『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)に呼ばれたピリムは、名残惜し気に女性の脚を一瞥。
ゆっくりと背筋を伸ばすと、どこかふらりとした足取りで鏡の元へ戻っていった。
呆れたようにそれを向かえて、ジェイクは腰から拳銃を抜く。
獣の性が、闘争の気配を敏感に察知したのだろう。
ここから先は、いわば敵のテリトリー。
話し合いに応じるような相手ではなく、またジェイクや鏡は、そもそも話し合いなどで片を付けるつもりもなかった。
剣吞な空気を纏った一団だ。
遠ざかっていく4人の背中を眺めながら、震えた声で女性は呟く。
「やっぱり、とびっきりの厄ネタだ。おっかないったらありゃしないよ」
一方そのころ。
ところ変わって、ブラックマーケットの外れ。
壊れた馬車の影に座った『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は、ファミリアーで喚んだ小鳥の視界を借りて、敵の様子を観察していた。
「ふぅん? やっぱり罠とか用意していそうね。しっかり策を練ってきて良かったのだわ。ミイラ捕りがミイラになるなんて洒落にならないしね」
敵とはつまり、鏡の領地で悪事を働く奴隷商人のことである。名をメイエールというその男は、イレギュラーズを捕獲し、奴隷として売り捌く心算であるらしい。
「敵が待ち構えてるって分かってる所に、素直にいくこともありませんよね。調べられる範囲で調べ、警戒していきましょう」
「だな。わりぃけど、正面切って戦う程親切にしてやる義理もねぇ」
『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)と騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は、地面に広げたスラムの地図を見下ろしながら言葉を交わす。
地図といっても、およその広さや、通りだけが記載された簡素なものだ。何しろ、所せましと、無秩序にテントや小屋が立ち並んでいるせいで、辺りは非常に混雑している。
幸いなことに、メイエールが拠点としている場所は判明しているが、付近に潜む彼の手下の配置までは不明であった。
「あら、煙……料理でも始めたみたいなのだわ」
と、空を見上げてレジーナは言った。
白い煙の立ち昇っているその真下には、メイエールの馬車が停まっているはずだ。
「ほぉ? 随分と余裕のある立ち振る舞いだな?」
チャリ、と鈴の音が鳴る。
『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は腰に結んだ紐を解くと、それを両手でピンと張った。
「いいだろう、存分に後悔させてやる」
と、彼女が告げたその瞬間に、紐は刀へと変じていた。
簡式仙宝『紅蠟華神鞭』。
汰磨羈の意志に呼応し、刀や槍へと形を変える彼女の武具の名がそれである。
●スラムの狂騒
テントの影から身を乗り出して、怪しい男が通りを見ていた。
その男の手にはライフルが1丁。
銃口には、卵のような形状のカプセルが取り付けられていた。
「まっすぐ向かって来るとは、何を考えてる? 俺たちを舐めてんのか、あいつら?」
チッ、と小さな舌打ちを零し男は通りへ銃口を向けた。
その様子を視て、男の周囲に屯していたスラムの住人たちが逃げ出す。彼の正体が、奴隷商人メイエールの手下であると気が付いたのだろう。
元々メイエールは“商品調達”のためにこのスラム街を訪れたのだ。現在はイレギュラーズの捕縛に意識を向けているが、ついでにスラムの住人を捕えようと考えを変えることだってある。
触らぬ神になんとやら。
誰だって、命の危険がある騒動に巻き込まれたくはないものだ。
ましてや……。
「あ、その銃、弾入ってますかぁ? ちょっと貸してください」
メイエールが狙っているのは、好き好んでスラムの領主なんかをやっている鏡とその仲間たちだ。
スラムの路上で売り出されていた拳銃を、鏡は無断で取り上げるとその銃口に目を近づけた。
「おい、銃口を覗き込むんじゃねぇよ。銃口は上に向けて、スライトを後ろに引け」
「んん? こんな感じですかぁ?」
ガチャン、と音がして銃身に弾丸がリロードされる。
それから鏡は、トリガー横のロックを解除し銃口を通りの奥……男の隠れている辺りへと向けた。
「……は?」
ぱぁん、と乾いた音が鳴る。
続けざまに7発。
碌に狙いもつけないまま、鏡は男へ向け弾丸を撃ち込んだのだ。当然のように弾丸は男に当たらず、近くの地面やテントに穴を穿つに終わった。
「うん、当たりませんね、返します。それちゃんと捌いてくださいね」
弾倉が空になった拳銃を、鏡はぽいっと放り投げるとその場で姿勢を低くした。
「さて、来ましたね。私達を狙った事を後悔しながら……」
地面を蹴って鏡が跳び出す。
その様を見て、男は気づいた。突然の奇行に気を取られ、自分が動きを止めてしまっていたことを。
「や、やば……」
迫る鏡へと向けて、男はライフルのトリガーを引く。
ぱしゅん、と炭酸ガスが抜けるような音が鳴る。ライフルの先端に取り付けられた卵型の弾丸……ワイヤーネットの詰め込まれた特殊弾が撃ち出された。
碌な狙いはつけていないが、まっすぐに向かって来る鏡をそれはしかと捉えた。いかに鏡が速かろうと、まっすぐに向かって来る相手を打ち漏らすほどにぬるい腕はしていない。
腐っても奴隷商人の私設隊。
訓練も実戦も十分すぎるほどに積んでいる。
だが、しかし……。
「馬鹿めが。どっちが狩人か教えてやる」
チラと男を一瞥し、流れるような動作でジェイクは銃を構えた。
狙いを碌に付けた様子も見せないまま、ジェイクは銃のトリガーを引く。
銃声。
硝煙を散らし、弾丸が空を疾駆した。
ジェイクの放った弾丸が、撃ち出された直後の特殊弾へ命中。
直後、男の眼前数メートルの位置で火花が散って、特殊弾が炸裂した。
ばら撒かれたワイヤーネットが、男の身体に降りかかる。網に手足を絡めとられた男がもがくが、けれどネットはそう簡単に外れない。
当然だ。
奴隷を捕らえるための特殊なネットが、そう簡単にはがせるようでは話にならない。
「死んでいきなさい」
「……ぁ」
ワイヤーネットを取り払おうと藻掻く男の耳元で、鏡がそう囁いた。瞬間、男の視界が反転する。空が下へ、地面が上へ。
否、反転したのは男の頭だ。
首を斬られた、と。
彼がそう理解した直後、その意識はプツンと途切れ闇に飲まれた。
先制で潰した、敵は1人。
けれど、メイエールの私設隊は20人を超える。事実、隠れていた兵にワイヤーネットを浴びせられ、鏡は身動きを封じられていた。
ワイヤーを斬ろうと居合を放つが、なかなかに頑丈だ。身動きを制限されていては、思うように切り裂けない。
「かなりの使い手と見たが……じっとしていてもらおうか」
鏡の背後に誰かが迫る。
首をそちらへ向けた瞬間、鏡の腹部に槍が刺さった。
1本は腹部を。
もう1本は脚を貫く。
男の手にした竹槍だ。
「うぉぉ、来た来た来た来た! たぶんそいつがサイゾーだ!」
翼を広げ鏡のもとへ駆けつけるのはシリウスだ。
大声をあげ、翼を広げ空高くを飛来しているシリウスへ、数発のペイント弾やワイヤー弾が撃ち込まれるが、彼はくるりと身体を真横に傾けて回避。
いわゆるインメルマンスターンと呼ばれる技術であった。
「っと!? 撃って来るか。これじゃ近づけねぇ」
「だったら私が助けに行きますー。それにしても、奴隷商人ってのはどーして皆こうも傲慢なんですかねー」
「俺らのことを舐めてやがるからだろ! だが、いいだろう……格の違いを見せてやれ!」
通路を左右へ大きく蛇行しながらも、ピリムは一路サイゾーの元へと駆けていく。
彼女の進路を切り開くべく、ジェイクは通りの兵たちへ向け牽制射撃。
兵士の構えたライフルが、ジェイクの弾に撃たれて爆ぜた。
爆炎の散る中、白い影が駆け抜ける。
「ぬ……速いな」
迎え撃つサイゾーは、十字の槍を突き出した。
それをピリムは、転がるようにして回避。サイゾーの懐へと潜り込む。
「その脚は頂いていきますよー」
一閃。
ピリムの放った居合の一撃を、バックステップでサイゾーは回避。槍の間合いギリギリからでは、些か距離が遠すぎた。
けれど、それで問題ない。
「もとより狙いはこっちですのでー」
「あはぁ、ありがとうございます」
カウンター気味に突き出されたサイゾーの槍が、ピリムの腹部を貫いた。
直後、ピリムの居合が、鏡を捕えたネットを切断。
解放された鏡は、脚に刺さった竹槍を引き抜き、近くのテントの影へと潜る。
タン、と鏡の頭上で足音がした。
「っし、待っててくれ。すぐに治療するからさ」
テントの頂点に降り立ったのはシリウスだ。
彼は静かに、歌詞のない歌を紡ぐ。
降り注ぐ淡い燐光が、鏡の傷を癒した。
ぞわり、と。
レジーナの脚に悪寒が走った。それは事前に打ち合わせていたピリムからの突撃合図だ。
「っ⁉ い、行くわよ。カードリリース……破壊神!」
白い髪を風に靡かせレジーナが浮いた。
胸の前に手を翳し、彼女は魔力を集中させる。
暗いスラムにおいて、彼女の放つ光は些かに眩しすぎただろうか。光を見たスラムの住人たちがざわついた。
「ん? スラムの者どもの騒ぎ方が変わったのではないか? どうした?」
そう問うたのは、でっぷりと太った体に豪華な衣装を纏った男だ。
薄暗い馬車の内部で、部下の男へ様子を視て来いと指示を出す。その指示を受け、男は頷く外へ出た。
瞬間、禍々しいばかりに黒く輝く光剣が、男の胸部を貫く。
げぼ、と口の端から血を零し男は倒れる。
その様子を見て、太った男……メイエールはぎょっと目を見開いた。
「別動隊がいたのか!? サイゾーを呼び戻せ!!」
イレギュラーズの捕縛のために部下の大半を割いている。
別動隊の人数は知れないが、何人の奴隷を捕らえようと、自分が死んでしまえば終わりだ。
サイゾーに己の身を守らせるべく、メイエールは部下を使いに出すが……。
「言っておくけれども、命の保証はできないわよ」
部下が走り出すより速く、レジーナがその進路を塞ぐ。
「さて、奴隷商人さんは何処に居るんでしょうか? どうせ隠れてるでしょうし見つけて捕まえませんとね」
口元に手をあて、四音は言った。
彼女がすっと腕を振れば、視界を白に染めるほどの閃光が走る。その光を浴びた男は、踏鞴を踏んで数歩後退。
体に火傷を負いながら、彼や、馬車周辺に残った私設隊の男たちがメイエールを護るべく移動。縦に並んだ3台のうち、その中央に男たちが集まっていく様を見て、四音はくすりと笑みを零した。
「あぁ、そこですか」
「敵の居場所が分かったら、後は攻め込むだけだな。おら、スラムの連中よ、怪我したくなけりゃ建物の中に引っ込んでな!」
その身に風を纏ったアルヴァが叫ぶ。
羽織ったマントが激しく靡いた。
彼の手には全距離万能型魔導狙撃銃……通称『BH-01』が握られている。
私設隊の男たちがアルヴァへむけてペイント弾を撃ち込むが、残念ながら射程が足りない。1人、また1人とアルヴァの狙撃に撃ち抜かれていく。
「お、おい!? 何をしている、敵は近くにもいるんだぞ!?」
私設隊の男が叫んだ。
アルヴァにばかり意識を向ける仲間たちを叱咤するが【怒り】状態にある彼らの耳に、制止の声は届かない。
「くそっ……声が届いている者は入り口を固めろ! メイエ」
メイエール様を護るのだ、と。
彼がセリフを最後まで告げることは叶わなかった。
視界を掠めた白い影。
五体がばらばらになるような衝撃。
全身に走る激しい痛み。
胃の中身がひっくり返るような浮遊感。
「悪いな。轢き逃げをさせて貰ったぞ?」
なんて。
笑みを含んだ女性の声が耳に届いた。
地面に落下し、意識を失った彼をちらと一瞥し汰磨羈は馬車へと乗り込んでいく。
「ほぉ、でかいな。しかし贅肉がどれだけ厚かろうと、守れない箇所はある」
馬車の三分の一ほどを埋める巨大なソファ。そこに寝そべった巨体を見つめ、汰磨羈は言った。
じろり、と。
怯えと敵意、怒りなどいくつもの感情が混ざり合った眼差しが、汰磨羈へ向いた。
●メイエールの最後
竹槍がピリムの身体を貫いた。
姿勢を崩し、倒れるピリム。治療すべく飛翔したシリウスだが、牽制のために投擲された竹槍に翼を射られ、地上へ落ちた。
残り少ない私設隊は、シリウスへ向けワイヤー弾を射出。
ばら撒かれたワイヤーネットが、シリウスの上にかぶさった。
「殺さない程度に痛めつけておけ!」
サイゾーの指示で、兵たちが動く。
「やらせるか!」
ジェイクの弾丸が兵士を牽制。そのうちに、シリウスはワイヤーネットから這い出した。
一方、そのころサイゾーは鏡とピリムを相手に切り結んでいた。
鞘鳴りの音が響く度、サイゾーの槍から火花が散った。
鏡、ピリム、サイゾー。
激しい戦闘の結果か、3名とも大きな傷を受けていた。
だが、しかし……。
「……分が悪いな。撤退だ!」
背負っていた竹槍を宙へ投げ、サイゾーは残った部下に撤退を指示した。
「あ、まちなさぁ……くっ!?」
「あらー、これは無理ですねー」
降り注ぐ無数の竹槍を鏡とピリムは防御で凌いだ。その隙に、サイゾーと残りの部下は入り組んだ通りへ駆け込んでいった。
「人を狩りに来て、自分が狩られるなんて悲しいですね。とてもお悔やみ申し上げます」
そういって四音はレジーナに近づくと、その頬を優しく撫でた。
レジーナの顔を黒く染めていたペイントが剥がれ【暗闇】状態が剥がされる。
視界を取り戻したレジーナは、その身から魔力で形成された火炎を放った。
生き残っている私設隊を排除すべく、彼女は前へ。
その進軍を援護すべく、アルヴァは敵へと弾を撃ち込む。
「あんたらのボスもお縄になって牢屋ん中で過ごしゃぁ少しは健康的な体型になれるぜ?」
乾いた銃声。
悲鳴が上がる。
「少し時間はかかったが、まぁダイエットだとでも思ってくれ。それにその膝では、立てないだろう?」
頬を濡らす血を拭い汰磨羈は告げる。
彼女の前には、血に濡れた巨体がぐったりと横たわっていた。
「……撤収だ」
馬車から運び出されるメイエールを遠目に見ながら、サイゾーは残る部下へと告げる。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れさまでした。
無事に奴隷商人は捕らえられ、スラムに平和が戻りました。
依頼は成功となります。
この度はご参加ありがとうございました。
縁があればまた別の依頼でお会いしましょう。
GMコメント
●ミッション
メイエールおよびメイエール私設隊の撃退
●ターゲット
・メイエール×1
奴隷商人。
肥満体を豪華な衣服で包んだいかにもな容姿をしている。
戦闘能力は無いに等しいが、厚い贅肉のおかげか防御力、生命力は高い。
・サイゾウ×1
軽鎧に身を包んだ槍使い。
無口な稀少であるが、性格は荒っぽいようだ。
背に負った無数の竹槍と、手にした十字槍を武器として扱う。
サイゾウの槍:物単近に大ダメージ、流血、ブレイク
サイゾウ渾身の槍術。
貧民の竹槍:物中範に中ダメージ、体制不利
背負った竹槍を投擲する。
・メイエール私設隊×20
メイエールの部下である荒事専門の集団。
地味だが上等な軽鎧に身を包んでいる。
ワイヤー弾:神遠範に小ダメージ、呪縛
拘束ネットを拡散する弾丸。
ペイント弾:神遠単に中ダメージ、封印、暗闇
黒い墨を撒き散らす弾丸。
●フィールド
幻想郊外のスラム街。ブラックマーケット。
粗末な家屋やテントが無数、無秩序に立ち並んでおり視界は悪い。
また、道幅が狭く、スラムの住人たちもいる。
テントや家屋の中には、非合法の商品が無数に存在している。
中には武器弾薬を扱っている店もあるようだ。
ブラックマーケットの端、街の外周付近にある3台の馬車がメイエールたちの拠点である。
●ブレイブメダリオン
このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
このメダルはPC間で譲渡可能です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
Tweet