PandoraPartyProject

シナリオ詳細

聖句が聖者を呼び覚ます

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●「冗談だよ」と言いたくて
「へえ……『南の方で麻薬カルテル一部摘発』だって。すごいねえ……」
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)が捲った新聞の片隅に載った、幻想発の小さい記事。ローレットにも似たような依頼は多々流れてくるが、いち組織ではなくカルテル(=企業、組織等の連合)を潰すとなるとかなりのおお仕事だ。イレギュラーズ達でも、おいそれと出来ることではない。
「ああ、それですか。俺が先日一枚噛ませてもらいました。実質、俺が潰したようなものです」
 ないのだが、ブラッド・バートレット (p3p008661)の言葉を借りるなら「彼が潰した」らしい。驚きに硬直したフラーゴラの傍ら、ブラッドは両肘をテーブルに押し付け顔を覆った。非常な恥じらいを隠すかのように覆われた手の奥からは、ごくごく小声で彼の懊悩する声が流れてくる。
 たまたま幻想大通りで遭遇した両者が色々と歩き回った末にひと息ついていた喫茶店の空気は、彼の懊悩を吸ってやや暗色を増す。
「………………冗談です」
「そ、そうなんだ、びっくりしたぁ……」
 ややあって、絞り出すように口を開いたブラッドに、フラーゴラは気遣うような調子でそう返した。驚いた、面白い冗談だったよという意味だったのだが、それがブラッドにはさらなる懊悩の種となる。
(びっくりした……そうか、嘘で驚かせてしまったのか。平常心を乱すほどの嘘というのはいいのだろうか? そもそも嘘はいけないことでは……?)
「ブラッド?」
「い、いえなんでもありません。冗談というのは、慣れないものですね。……今日はこのへんで失礼します」
 そそくさと支度をして、伝票をひったくるように掴んで去っていく彼の後ろ姿はどこか頼りなげで、そしてとても罪深そうに見えたことにフラーゴラは暫く引っかかるものを感じていた。
 その正体が明らかになったのは、それから数日後のことだったが。

●嘘はいけないなら真実にしてしまえ
 数日後、ローレット。依頼を探しに来たフラーゴラは、今しがた出ていこうとしたブラッドと鉢合わせになった。驚いたように身を引いた彼女は、ブラッドの表情がこころなしかスッキリしているように感じた。
「ブラッド……機嫌、いい?」
「そう見えますか。でしたら幸いです。……そうだ、よかったら君も同行してくれませんか」
「同行? 依頼に?」
 どこか気分がよさそうに見えるブラッドにそう切り出され、フラーゴラは返答を躊躇した。ブラッドはそれを肯定と取ったか、無表情だがどこか嬉しそうに言葉を重ねる。
「先日のカルテルの本体の情報を洗い出しました。これからそこを叩きに行きます。勢力等も既に掌握していますので下手を打たなければなんとかなるでしょう」
「いきなりのご依頼でしたので手間を取りましたが、なに、この程度私の得意分野ですからね」
 ブラッドの横からひょっこりと顔を出したのは新田 寛治 (p3p005073)。やはりか、という感じがしないでもない人選だ。たしかに彼なら、それくらいの組織を探り当てるくらいするだろう。
 他にもある程度仲間を集めていたらしく、5人ほどが後ろに控えている。
「……いいよ、行こう」
 フラーゴラは観念したように、そう頷いた。

GMコメント

 タイトルは幻想でいう「瓢箪から駒」みたいな意味です。今思いつきました。

●達成条件
 麻薬カルテル本部の壊滅

●麻薬カルテル
 先日、その一部が摘発されたという幻想南部の一大組織。
 本部ともなれば各組織の幹部級とかだいぶ投入されてるらしく、組織力と勢力は相当なものです。
 つまり強敵です、とか言うと思うじゃん? 君等強すぎるからこれでもヌルゲーなんだよ。
 本部は麻薬の生成拠点にもなっています。
 主に戦場は中庭→施設内戦闘→生成拠点戦闘→壊滅! という流れで進みます。
 「中庭」は広く視界が拓けています。遠距離からの射撃に注意しましょう。
 「施設内」は通路とか小部屋を潰していくため、不意打ち等や内部セキュリティの妨害があります。
 「生成拠点」での戦闘は確率で麻薬が飛び散って『災厄・恍惚』をランダムで被る可能性があります。

●エネミーデータ
・中庭
○『武装鼓笛隊・指揮棒(わかがしら)』カミーネ
 偽装暗殺・テロ集団『武装鼓笛隊』の偉い奴です。指揮による味方の鼓舞とバフに優れます。
 あと居るだけでメンバー全員の命中・回避が微増します。
 基本的にそれしかしてきませんが、接近戦を挑むと「ショウ・ザ・インパクト」に類似した技を用います。

○武装鼓笛隊×10
 カミーネの部下です。
 あらゆる楽器を武器としてカスタマイズしており、神秘遠距離攻撃を主とします。
 基本的に【万能】で、【出血】【火炎】【凍結】何れかまたは複数のBSを与えてきます。

・施設内
○『安眠会(ダイバーベッズ)頭領』ベドウィン
 「お前等の人生とベッドイン」がスローガンの暗殺専業の小集団のボスです。実はカルテルに総戦力できてます。本業はどうした。
 EXA・反応に優れます。
・忍び足(P):すべての攻撃が不意打ちとなる。「ハイセンス」「エネミーサーチ」等で無効化可。
・眠気暴発撃(スヤリストライク)(A):物近単、多重影(小)、足止
・無呼吸症候群(サイレントデス)(A):物至単、苦鳴、封印
・その他、配下を『連鎖行動』で引っ張って連携をとってきます。

○安眠会配下×10
 ベドウィンの配下です。全員ナイトキャップをかぶってます。かわいいね。
 物至単、【痺れ】付与攻撃を行います。
 初撃のみ不意打ち効果があります。

・生成拠点
○『巨会(でかい)一人親方』モントレイ
 彼1人をさす組織名で、ぶっちゃけ配下がいません。
 非常にでかい肉体(2人orハイ・ウォールによるブロック要)であり、通常攻撃(物近扇・ショック、追撃(中))でひたすらに押し込んできます。

○麻薬生成装置
 「生成拠点」のエリア効果を発生させている装置。
 EXAそこそこ、HPがバカ高く、エリア効果以外に『物超単・スプラッシュ(中)、虚無2』を叩き込んできます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 聖句が聖者を呼び覚ます完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
※参加確定済み※
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
※参加確定済み※
橋場・ステラ(p3p008617)
夜を裂く星
※参加確定済み※
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
※参加確定済み※
ブラッド・バートレット(p3p008661)
0℃の博愛
※参加確定済み※
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※
望月 凛太郎(p3p009109)
誰がための光
※参加確定済み※
カズサ・イチノミヤ(p3p009192)
聴き上手の
※参加確定済み※

リプレイ

●※情報精度B
 幻想王国に於いて、悪事に身を浸す者達が組織だって行動を起こすのは珍しいことではない。
 今回はそれが麻薬カルテルになっただけで、これが人さらいの徒党であるとかテロ組織であったとして、今更なんの疑問があろうか? 少なくとも、規模の大小はさておきローレットに舞い込む依頼ではある。
「な、なあ……流石に潮時じゃねえか?」
「突然何を言い出すかね。カミーネ、お前ここまで手広くなってヤバくなったらトンズラってちょっと調子良すぎだろ?」
 3組織が絡んだ麻薬カルテルとて(本当はもっと大きい組織だったが度重なる摘発で世帯が小さくなった)、幻想王国にありがちな犯罪組織のひとつである。カルテル内の組織のひとつ、『武装鼓笛隊』から出向していたカミーネという男がびくつきながら話を切り出すと、『安眠会(ダイバーベッズ)』の頭領であるベドウィンが酷く不満げな顔をした。
 こいつはいつも臆病で、ことに及ぶとなっても不安ばかり漏らしていたな、とベドウィンは回顧する。それでも規模がここまで大きくなって、摘発の波が押し寄せてもうまいこと逃げ果せていたその実力は買っていたのだが。だがやはり、根底の臆病さだけは払拭できないようだった。
「だ、だってローレットに嗅ぎつけられたんだろ? ちょっとやそっとの連中ならワケもねえけど、『カルテルを潰した』なんて吹いて回ってる奴が乗り込んでくるなんて、お、俺は嫌だぜ」
 カミーネの表情は明らかに動転しており、とてもこれから訪れるであろうイレギュラーズを迎え撃つ事ができる、とは思えない。それどころか寝返って何事かゲロらないかという心配すらある。こいつはもう駄目だな、とベドウィンは諦めの表情を濃くした。
「つまらぬ議論をいつまで続ける気だ。そいつには戦う意志がない。俺達には腑抜けを飼う余裕はない。何れ余裕ができれば別の連中を雇う。それでいいだろう。……まあ、情報を知っている奴をはいそうですかと野に放つつもりはないが」
 そんな中、暗闇からぬうっと姿を覗かせたのは誰あろうモントレイだ。『巨会』の名に違わぬ体躯は、ほか2人をして寄せ付けぬ威圧感があった。
「お前、俺を始末する気か? あいつらがなんていうか……」
「否、貴様を遇するのは我ではない」
 怯えきった様子のカミーネに対し、首を振るモントレイ。果たして、闇の中から現れたのは――。

「ブラッドさんジョーク苦手な上に嘘も苦手なんだね……」
「そもそも嘘はよくありません。折角、新田が壊滅させてもいい麻薬カルテルの情報を引っ張ってきたんです。乗らない手はありません」
「カルテル壊滅って大きく出たね……?」
 すべてのきっかけは、『0℃の博愛』ブラッド・バートレット(p3p008661)の冗談を『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)が真に受けた(すぐに訂正されたが)ことから始まっている。だからといって嘘を真にするために動くのは、割合尋常の沙汰とは思えないがそれはともかく。
 あと、情報提供者として後方マネージャー面している『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)のドヤ顔は見なかったことにするとして。
「ぶ、ブラッドさん大物というか何というかすごいな……」
 『誰がための光』望月 凛太郎(p3p009109)は一連の流れを理解して、コメントに困った結果ブラッドの方を心から感心したような目で見つめていた。普通、嘘をついたことを恥じるまでは分かるんだがそのために依頼一つでっちあげるようなことはしない。
「依頼に至った経緯はともかく、事実、社会的に害となる組織の排除とうかがいました」
 『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)は「害があるなら排除しましょう」とキリッとした顔でやる気満々で。
「えぇ、本当にしてしまえば嘘でも何でもなくなりますから。その為にも、残らずぶっ飛ばしてしまいましょう?」
 『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)はどこか滾らせた血気をそのままに早く行こうと一同を急かし。
「やはりカルテルですか……いつ行きます? 私も同行しましょう」
 そして『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)はブラッドに受けた恩を返すべく、超ノリノリでどこから取り出したかも分からないサングラスをクイっとしてみせた。なおサングラスが見えにくかったのですぐに放り投げた。
「あっし派手なことは苦手っすからねぇ、皆さん頼……んん? 話と違わねえですかい?」
 『新たな可能性』カズサ・イチノミヤ(p3p009192)は、ここにきてふと疑問を抱いた。
 すでにイレギュラーズはカルテル本部の入口付近で隠密行動に移っているのだが、中庭を警邏しているはずのテロ組織『武装鼓笛隊』の姿が見えないのだ。リーダー格のカミーネですら。
「おかしいですね。確かな情報筋から掴んだ話をもとにすると、『目立ちたがりで上昇志向』なかの組織は進んで警備などのひと目につく仕事を選ぶ筈です。内部に引きこもって防衛? それこそありえないでしょう」
 寛治は手元の情報を改めて確認し、理解が追いつかないという様子の顔で中庭を見た。
 ……そこはもぬけの殻となった屋敷ではないか、と疑う程度には静まり返っている。
 少なくとも中庭に敵がいる様子は、皆無だ。
「見たところ、罠や伏兵のセンは無えっぽいっすかね?」
「火薬や爆薬の匂いもしないよぉ……本当に中庭に誰も配置してないのかな……?」
「念には念を押して、フラーゴラさんと私で前に出ましょう。それでもなお何もなければよし、引き続き内部で先行するのですし」
 多少の隠蔽なら看破できるはずのカズサの感覚にも、フラーゴラの嗅覚にも、中庭の異常は引っかからない。最悪のケースを考え、念を押して守りを固めて前進するグリーフの警戒心は見事なものだ。
 されど、敵は中庭に出てくる気配なし。グリーフとフラーゴラは、そのまま前進して自らを的にかけ、仲間を守ることを選択する。
 果たしてこの静寂が吉兆か凶兆か、イレギュラーズはまだ知る由もない。

●※難易度NORMAL
「カズサさん、施設内の情報は得られそう……?」
「探索ならお任せあれ! というか探索くらいしかできねぇっすけどね」
「探索要因は貴重ですよ。カズサ様がやってくださることで、こちらとしては大いに楽ができます」
 フラーゴラの問いかけに、カズサは謙遜気味に肩を竦める。だが寛治が言うとおり、一芸に秀で、明らかな罠であろう敵陣を悠然と前進できる状況は非常に貴重だ。
 広くはない通路、薄暗い部屋、そして間接照明を等間隔で配置した内部構造。あきらかに迷わせ、迂闊な動きをさせようと誘い――光源に意識を集中させようとしているのがよく分かる。
「麻薬組織のアジトですから、何と言うか、こう、刑事ドラマみたいですね。ノリとしては、そう、『開けろ! デトロイト市警だ!』みたいな……?」
「治安維持に腐心する役回り、ということですか。そうなると、いよいよもって気が抜けませんね……」
「ブラッドさん、別に『警察に扮して乗り込むなら本格的に制圧しないと』って意味じゃないと思いますよ……?」
 ステラの軽い冗談に、なるほどとブラッドは手を打った。デトロイト市警とやらのことは知らないが、警察機構、治安維持の真似となれば尚更本気にならねばと。綾姫はより本気度を増した彼を軽く制したが、やる気になる分にはいいのではないか、とも思った。ブラッドの場合、その『本気』が行き着くところまでいってしまうのだが。
 一同の進行はゆっくりと、しかし大胆に進められる。おそらく、そこかしこに仕掛けらしい仕掛けはあるのだろう。だが、カズサの感覚を駆使した探知と広がり過ぎぬ程度に散開して警戒に当たる一同の動きは、驚くほどに隙が少ない――が、『無い』とは言い難く。
「……えッ、あれ?」
「凛太郎さん……!?」
 突如として頭上から、凛太郎を包囲するように影が蠢き、一瞬のうちに彼を取り囲むと一気に飛び退る。フラーゴラが驚きの声を上げる間もなく、結果は既に眼前に詳らかにされていた。
 都合11回に及ぶ集中攻撃。運がよいのか悪いのか、凛太郎は辛うじて意識があるようだ。されど、指先を動かしても軽く身振りをしても治癒の術式が展開されないことから、能力を封じられたのは明らかだ。
「無呼吸症候群(サイレントデス)……この一撃と部下達の襲撃で意識を失わぬとは困った御仁だ」
 影から口を開き、再び影へと溶けていく姿……おそらくはベドウィンと部下達だろうそのメンツは、たしかにナイトキャップ(先折れがベドウィンだ)を被っていた。ナメてんのか。
「ま、毎回結局こうなる役回りかよ……!!」
「無呼吸症候群……? 睡眠時のそれは眠りを浅くし、日中の眠気だけでなく健康を害します。治療を推奨します。
 原因は鼻腔の気質的な構造の湾曲でしょうか? 気道の閉塞に至る舌根の沈下。首回りの脂肪……いえ、この場合、他者に与えるということは、枕を高くする等でしょうか? 方法が分かれば治療法もより明確にできると思いますが」
 呻く凛太郎を横に、グリーフは冷静に使われた敵の技能を反芻する。寛治から名前だけは聞き及んでいたがやはり度し難い。相手に睡眠障害を与える技術とはなんだろう。力技にしても限度がある。というか治療できるのか? など。相手にしてみれば凄まじい侮蔑に思えなくもないわけで、 我知らずグリーフは挑発を成功させていたことになる。
「ナイトキャップの使用環境通り、皆さんには眠っていただきましょう」
「こんなに狭い場所で戦うのは少々窮屈ですが、やってやりましょう……!」
 グリーフに一斉に襲いかかった『安眠会』の一同を、ブラッドは前に出て強烈な一撃で止めに入る。背後の綾姫から放たれた塵は素早く敵方を包囲し貫き、浅からぬ傷をもたらした、だが、ベドウィンは別だ。奴だけは避け果せて見せたのだ。
「アナタ達はなんで、わざわざこんなことを……!」
「決まっている。利益の為だよお嬢さん」
「つまらない理由ね。聞くだけ無駄だったわ」
 フラーゴラの放ったナイフは、精度こそ寛治や綾姫らの最精鋭には及ばぬが、その面制圧は着実に敵一同の攻撃への緊張感を鈍らせる。影から影へと移り、狙いを定めさせぬと息巻く彼等はしかし、ステラの放った黒顎魔王によって1人が落とされた。
「利益を重視するにしてはビジネスモデルが陳腐化していますね。もう少し新しいものに飛びつく貪欲さも必要ですよ」
 寛治の曲芸射は、手近なところで一瞬の判断が遅れた1人の胴を深々と貫く。あれを避けられる者が、そして耐えられる者がどれほどいるというのか。
 そして、狭い中での乱戦となりつつあり、現にそれを企図していた安眠会の面々は、3度目の驚愕に目を瞠ることとなる。
 入り組んだ通路を利用する形での戦闘、集中攻撃による各個撃破、距離を取らせず接近戦で動きを絞る行動……そのすべてが、数十秒のうちに覆されたのだ。
「ちょいと壁を失礼させてもらったっすよ。狭いところに引きこもってないで、広く戦いましょうっす」
「そんなわけで、形勢逆転です」
 カズサが、とにかく壁をぶち抜き、ブラッドが回り込む経路を作り出していたのだ。グリーフの挑発にノせられた彼等にとって、奇襲を奇襲で返された格好になる一連の流れはこのうえない屈辱だった。そして彼等は、その実グリーフには刃のひとつも通っていないことを最後まで気付くよしもなく。
「先に進みましょう。まだまだ無呼吸症候群に悩まされる患者がいてもおかしくありません」
「無呼吸っていうか俺の呼吸が止まりそうなんだけどね……?」

●※事実に基づく強烈な誤解
「なるほど、中庭にいない面々をこちらに……否、『カミーネ様を除いて』ですか。仲間にまで嗅がせたので?」
「あいつは気後ればかりして逃げの算段ばかり打っていたのでな。部下を貰い受けた」
 寛治の――驚くでも嘆くでも憤るでもなくただただ冷徹な視線の先には、モントレイと姿を消していた『武装鼓笛隊』の配下のうち5名、そして逆さ吊りにされたカミーネ他5名の姿があった。
 身構えている『武装鼓笛隊』の顔を見るに、すっかり薬物に汚染されているようだ。
「麻薬でお金を稼ぐ……人の不幸の蜜をすすって生きるアナタたちになんて負けない!」
「そうですよ、ここのブラッドさんの格闘術式は壁を貫き敵を倒しますよ!」
「ローレットが見つけた時点でもう逃げられませんよ! 大人しく投降してください!」
 フラーゴラの怒り混じりの言葉に、綾姫とステラも同意の声とあげる。……多分に誤解を生みそうな表現に、ブラッドは驚いたように2人を見返したがもう遅い。
「さすがっす、これはもう勝ちは決まったっすね」
「大丈夫だよ、ブラッドさんなら……ブラッドさんならきっとなんとかしてくれる……!」
 カズサと(ちょっとヤバ気の)凛太郎もブラッドを何故かヨイショと持ち上げる。
「……壊せる壁があるかは分かりませんが、善処しましょう」
 ブラッドは嘘が苦手なので、『任せろ』とか『楽勝だ』とはいえなかった。
 それはそれとして、戦う理由には十分だった。
「機械相手ってンなら壊しちまえばいいんすよ~」
「伝達系ですとか電源系統を潰せるならだいぶ楽なのですが……」
 正面切ってぶつかってきたモントレイをグリーフが受け止めると、イレギュラーズ達は2手に別れた。
 かたや、麻薬カルテルの残存部隊を全力撃破する面子と。
 もう片方、生成装置を直ちにブチ怖そうとする面子とである。
 寛治は電力系統をなんとか潰して早々に生成装置の動きを止めようと前進する。カズサもその目敏さを武器に寛治について向かっていく。果たして、その往く手を阻むのは『武装鼓笛隊』の面々だが、状況がとにかく悪すぎた。
 彼等はシラフでこそあれば、寛治ですらも苦戦する連携を見せたかもしれない。だが、麻薬で脳を融かされて操られているような状況で、一体どの程度の実力が発揮できようものか。
 足止めしようとした面々は寛治達の後方からカバーに入ったフラーゴラと、綾姫の猛攻、そしてステラの各個撃破戦術で見る間に数を減らしていく。
「半端者の寄せ集めなどこんなものか……!?」
「その麻薬への熱意を真っ当に生きる事に向けてくだされば良いのですが……それと、これは俺の経験ですが」
 苛立たしげに吐き捨てるモントレイに、ブラッドはしごく冷静に告げた。
 「冗談みたいなことをするなら、もう少し前向きな方がいい」と。

「ブラッドさんはカルテル壊滅させるほどの実力の持ち主なんだよ……」
「そうっすよ、今回の話は情報屋にでも売りつければ少しは名が通るのでは」
 フラーゴラは、ブラッドに対し自身を持っていい、という意味でそう告げる。だが、ブラッドはどこか疑問符を頭に浮かべている。カズサも元気づけるために言葉を継ごうとするが、思わぬ話が背後から飛んできた。
「ああ、それなら先程私が手を回しておきました。……それで、次はどの新聞記事を『本当』にするんですか?」
 寛治である。抜け目ない男の目は、ブラッドをもうひと目立ちさせようとランランと輝いている。
「いえ、それは……というか、今回は皆さんのご助力がありましたが冗談が失敗する度にこういった準備をするのは非常に非効率……」
 ブラッドは詰め寄ってくる寛治に困ったように目をそらし、冗談の勉強をしよう、と強く誓った。
 この勉強の成果が思わぬ形で出ることもあるのだろうが、それはまた別の話。

成否

成功

MVP

カズサ・イチノミヤ(p3p009192)
聴き上手の

状態異常

望月 凛太郎(p3p009109)[重傷]
誰がための光

あとがき

 情報精度はほら、どっちに対してもね、そういうことあるよね!

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