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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>楽園を荒らすモノ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「私の領地にも出たみたいでね」
 困ったものだ、と告げるマルベート・トゥールーズ(p3p000736)の表情はどこか楽しげで。おおかた『侵入者の味はどんなものだろう』などと考えていることが察せられる。
 彼女の領地は幻想の王都メフ・メフィート郊外に存在している。湖や森、鍾乳洞、そして『楽園』と言って差し支えない花園。彼女を満たそうとするためのものだ。
 そこへ迷い込んだのか、それとも意図的に向かってきたのか――魔物たちが侵入してきたのである。
「聞いたところ、幻想各地に突然出現した魔物たちの一種みたいだ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は今しがたまとめた依頼書を読み返す。マルベートの領地へ侵入を果たしている魔物は巨鳥の類らしい。

 現在、幻想では多数の事件を抱えている。先月ごろには悪徳貴族たちと商人が組んで奴隷市を開き、幻想三大貴族は彼らの勢力拡大を防ぐため、イレギュラーズたちへ鎮静の為の依頼を出していた。奴隷の救出、商人の捕縛……貴族と直接対峙した者もいるかもしれない。
 しかしその対応の傍ら、また別の事件が生じる。極秘事項ではあるのだが――王権の象徴たる物品(レガリア)が眠った『古廟スラン・ロウ』という場所に何者かが侵入したと言うのだ。事件はそれだけで止まらず、伝説の神鳥が眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印も暴かれたと言うのだ。

「それと同時に出没し始めたのが『鳥』や『巨人』に関わる魔物たちだね」
 ショウは最近出てきた魔物たちについて口にする。鳥や獣、或いは人型を取るモンスターは各所を襲っているらしい。
 それは幻想貴族領のみに留まらず、今回のマルベートのようなイレギュラーズの幻想領地にも被害を及ぼさんとしている。依頼を受けるのは勿論だが、自領地を守ることもイレギュラーズにとっては大切だろう。
「彼らのためにご馳走を用意しているわけじゃないからね。自分たちがご馳走になりに来たというのならば、私は歓迎するのだけれど」
 生憎、雰囲気として全くその気はない。むしろ領地にいる多くの民を食らわん勢いである。このままでは『楽園』が失われてしまうだろう。
 報告によると相手は怪王種――元は自然に寄り添うようなモノ、風の精霊に近い生物であったらしい。しかし今の彼らは暴走し、自然を荒らし、人へも危害を加えようとしている。
「仲間の危機には助け合い、ってことさ。頼むよ」
 ショウは情報のまとめられた羊皮紙を揃え、イレギュラーズたちへと託した。


 一方その頃――迷いの森にて、巨鳥の姿が2羽。その羽ばたきは木々を揺らし、放つ風ははらはらと木の葉を散らしてゆく。森へ住まう狼たちは風圧で後方へと飛ばされた。その攻撃も存在も、何もかもに一片の禍々しさもなく。例えるならば自然における災害のようなものか。
 かの鳥たちは上空へ飛び立つことで視界の悪い森を越え、さらにその先へと進んでいく。その視界に映るは『楽園』と呼ばれる花園。豊富な食料と清浄な水に溢れ、多くの民が幸せな日々を過ごす場所であった。
 来客を通し、それ以外を退ける筈の狼たちは翼をもたない。故にあれらを追いかける事も叶わない。ただ悔し気に唸り声を発するだけ。遠くで巨鳥たちの鳴き声が響き、新たな魔物が呼び寄せられる気配がする。
 嗚呼、早く――誰かがあれを止めねば、楽園は崩壊するだろう。

GMコメント

●成功条件
 魔物の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●エネミー
・『風精』リューズ
 風の力を全身に纏う巨大な鳥。怪王種であり、元は精霊に近しい存在と考えられます。飛行能力を持ちます。
 纏う力は緑色を帯び、危害を加える者へ反撃する力を持っています。また、その鳴き声で『小さき協力者』を呼ぶことができます。
 非常に攻撃的で、例え人がいなくとも所かまわず暴れます。物理的な攻撃が多く、いずれも広範囲へ届くようです。

・『風精』ヴィエト
 風の力を全身に纏う巨大な鳥。怪王種であり、元は精霊に近しい存在と考えられます。飛行能力を持ちます。
 纏う力は水色を帯び、危害を加えられた際に自らを癒す力を持っています。また、その鳴き声で『小さき協力者』を呼ぶことができます。
 リューズよりはいくらか穏便ですが、それでも暴れる事には変わりないようです。物理破壊的なリューズに対してヴィエトは神秘に対する適性があり、吸収の力を持っています。加えて他者の傷を癒す力も持っているようです。

・小さき協力者×???
 リューズ、ヴィエトの鳴き声で引き寄せられる鳥モンスターです。一度の呼び寄せで4~6匹ほどがどこからかやってきます。飛行能力を持ちます。
 その正体は彼らの気にあてられた通常の魔物であり、いくらか回避に強いもののそこまで強い敵ではありません。爪や嘴による攻撃を主としています。
 ただし囲まれれば十分な脅威であり、無視することは危険でしょう。これらの数が減ると増援が呼ばれます。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●フィールド
 マルベートさんの領地内にある『食用花の花園』です。
 豊かな食料と清浄な水のある花畑で、多くの若者が暮らしています。年老いた者はいません。花畑は柵に囲まれています。
 幸せな世界への乱入者に民は柵の中で逃げ惑っているようです。イレギュラーズがエネミーを引き付けたなら、彼らは柵の中でもエネミーから離れられる位置へと逃げて行くでしょう。

●ご挨拶
 愁と申します。
 マルベートさんの領地に魔物が攻めてきました。楽園を荒らすモノを退治しましょう。
 それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • <ヴァーリの裁決>楽園を荒らすモノ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)
波濤の盾
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)
メイドロボ騎士
クルル・クラッセン(p3p009235)
森ガール
ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ
夕星(p3p009712)
幻想の勇者

リプレイ


 依頼により『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)の領地へと踏み入った一同は、森を抜け、食用花の楽園を目前としていた。そして同時に視界へ入るのは、2体の巨鳥と小さな鳥たちの群れ。
「鳥、鳥、鳥……鳥がいっぱいね!」
 その影の多さに『剣靴のプリマ』ヴィリス(p3p009671)は何匹いるのかと視線を走らせるが、空を飛び回るそれらを正確に数える事は難しい。
「何か引き付けるもんがこの領地にはあるんだろうな」
 迷惑な話だが、と『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)は呟きながらやはりそちらへ視線を定める。人も人ならざるモノも魅了する楽園――と言えば聞こえは良いが、このように綺麗な場所を荒らされる訳にはいかない。迅速に、可能な限り被害を抑えに行かなくては。
 仲間の為、そこに住まうヒトを守る為。そして綺麗な花たちの為。『森ガール』クルル・クラッセン(p3p009235)はふんすと気合を入れる。
「仲間の危機には助け合い……ショウちゃんも良い事言うね! がんばろー!」
「ええ、飛ぶ鳥を落とす勢いで頑張りましょうか」
 そうでないと戦えないものね、とヴィリスは小さく口角を上げる。空が彼らの領域ならば、そこから引きずり落としてしまえばこっちのものである。
「彼らも客である事には変わりない。……困った事をしてくれているようだけれどね」
 客を神だと言う旅人もいるようだが、時には貧乏神でもあるのだと言っていたのはどこの誰であったか。いずれにせよ『客』だと言うなれば、マルベートはこの地を治める者として持て成さぬわけにはいくまい。
「招かれざる客か。折角だし、今日のディナーは鳥料理とかどうだ?」
 『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が花園へ踏み込むと同時に保護結界を展開する。敵も結界内に収まるほどの距離だ。
「ふふ、あの客をディナーにしてしまおうということだね?」
 くすりと笑ったマルベートに頷きかけたエイヴァンは、改めて先ほどより近づいた巨鳥を見る。見た目は鳥のようであるが……果たして、食えるのだろうか?
(いや、まぁなんでもいいか)
 あれを食べられると思っておけば、この仕事を終えるために良いモチベ―ションが生まれる事だろう。例え後で落胆することになったとしても、大事なのは今のやる気である。
「おい、領主サマと7人の仲間達が参上だ! 此処は俺らに任せてなるべく離れろよ!」
 レイチェルが途中で見かけた住人たちへ声をかけながら進む。こちらで押しとどめるつもりではあるが、何があるかもわからない。できるだけ遠くに、安全な場所に向かってもらうべきだ。
 美しい花畑から人が徐々に遠ざかっていく。その向こう側まで花畑は続いており、その先に人々は避難しているのだろうが、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそちらの方まで見て眉根を寄せた。
(こんな綺麗なお花畑を荒らそうだなんて……いったい何が不満なの?)
 美しさに惹かれてきたのならば、それを見て愛でれば良い。荒らす必要もないはずだ。けれど今のココロに――いや、この場にいるイレギュラーズにその理由を解明する手掛かりを持ち合わせた者はいない。誰もが今、後手後手に領地の対応を迫られている。
(気になる、気になるけど……まずは守っていくしかないんだ)
 もうすぐ接敵だ。『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)は鳥たちが纏う風を視認して目を細める。
「鳥の魔物……いや、今回は精霊に近いんだったかな? どんな存在にせよ、持て成しということならメイドとして精一杯務めさせてもらうよ」
 恐らくは最近頻発している魔物出没の件に関わるモノであるのだろう。メートヒェンもココロ同様、分からないながらも気になりはするのだ。されどもこの風景を守ることが先である。
「さあ、集ってくれた同胞達よ。共に宴を愉しもうじゃないか!」

 楽しい楽しい宴(戦い)の、始まりだ。

「まずは――小さいあちらからっ!」
 クルルの周囲で傷ついていた植物たちが形状を変え、クルルの番える矢へ変化する。既に傷つき萎れてしまう運命ならば、最後に文字通り一矢報いてもらおうではないか。
「皆、力を貸してね」
 つるを絞り、力強く矢を放つクルル。矢となった植物たちに特別な力はないが、この土地を守る為の刃となって飛んでいく。その一矢が巨鳥たちの小さき協力者たちへと飛び、着弾地点一帯にいるモノの精神をかき乱した。
 いくつかの声が上がり、ヴィリスはそれに口角を上げながら歌い上げる。冷たく、昏い、しかし引き込まれるような歌を。
「ふふふ、いい声。もっと聞かせて頂戴!」
 重ねられるディスペアー・ブルーにココロの放った眩い光が重なっていく。殺さぬ慈悲の光。邪悪のみを裁く正義の光だ。
「さあ、天駆ける巨大な鳥も、この手で撃ち落とそうじゃねぇか」
 その間にレイチェルが狙うは巨鳥が片割れ、ヴィエト。瞬間的に美しき毛並みを持った銀狼へ姿を変え、咆哮を空へ放つ。衝撃波となって空気を震わせたそれは正確な角度でヴィエトを絡めとった。それで以てしても完全な墜落とはなり得ないものの、高度を落としたヴィエトをエイヴァンが引き付け地上へと誘導する。
「さあ、耐久戦だ。そうやすやす打ちのめせると思うなよ」
 エイヴァンは自らの防御態勢を強化し、ヴィエトへ相対する。いかに回復・吸収手段を抑えられるかが勝利の鍵だ。
「よっしゃ、全力で行くぜ!」
 『宵の明星』夕星(p3p009712)は地表へ降りてきたヴィエトにすかさず肉薄していく。至近距離でしか戦う手段のない彼にとって、空を飛ぶ相手は非常に分が悪い――1対1の戦いであるならば。
 しかし仲間がいる今、引き付けてもらうことができる。そうでなくとも撃ち落とすことだって不可能ではないだろう。ならば夕星の為すべきは、届く距離に来たタイミングを逃さず攻撃をぶち込むことである!
「うおおおおおおお!!」
 高い瞬発力で飛び出し、それを威力に載せた刃が軽い感触を柄越しに伝えてくる。その傷口を振り返って見た夕星は手ごたえ程の傷でないことに目を瞬かせた。
「回復能力か」
 その一連を見ていたエイヴァンが低く唸る。攻撃を受けた際、その傷を僅かばかり癒す力。味方であれば心強いが、敵であることのなんと厄介な事か。
「ならそれも気にならないくらいに攻撃を叩き込むだけだ! さっさと片付けるぜ!」
 夕星は武器を構え、幾度となく攻撃を浴びせ始める。その最中、メートヒェンはヴィリスたちが攻撃を浴びせる小さき協力者たちの元へと駆けだした。
「生憎と、邪魔をさせる訳にはいかないんだ」
 その声が力を宿し、鳥たちのいくらかを引き付ける。全部ではない? なら全てがこちらを向くまで畳みかけよう。
 多くを巻き込むように立ち回るメートヒェンと全く別の方向へ向かったマルベートはもう1体の巨鳥、リューズの前へと立ちはだかる。こちらも足止めせねばなるまい。
「やあ、私がここの領主さ。君たちを持て成させていただこう」
 饗宴の始まりだ――赤々と燃える瞳がリューズを射抜く。眦を吊り上げたリューズはマルベートに向かって急降下し、その大きな翼で打ち払う。
「おっと」
 急所を庇ったマルベートは自らの後方まで流れたその勢いに瞳を眇めた。はらはらと、地面に落ちていた花弁が舞い上がって再び落ちて行く。
(予想以上に範囲が大きいようだね)
 味方を巻き込ませるわけにはいかない。マルベートは仲間たちから引きはがすように動き始めた。
 一方のヴィエトを他の仲間たちは狙い続ける。一時小さな協力者たちを相手取っていた者も含めてだ。
「思うようにはさせない……!」
 クルルは植物の矢に魔力を込め、ヴィエトへ向かって打ち放つ。封印の力を込めた矢が敵へ向かって真っすぐに飛んでいった。加えてココロが毒を執拗に放ち、ヴィエトの力を削がんとする。
 本来であれば自然に属する者へ与えるべきではない、与えてはいけない代物。けれどその自然を脅かすのであれば、精霊に近しい存在であっても容赦などしない。
 その隙にココロは辺りを見回し、腰が抜けて未だ逃げきれていない者たちへ声を張る。今のヴィエトはイレギュラーズたちを完全に敵と定め、排除しようとしている。逃げるなら今なのだ、と。
 わずかに水色を帯びたヴィエトは、しかしイレギュラーズの思うようにも動かない。自らの状態異常を癒し、自由に暴れんとその翼をはためかせて声を張る。エイヴァンが食らいつかんとしているが一進一退、中々に手ごわい相手だ。
 その中、自らに付与された術式で少しずつ魔力を得ていたレイチェルは術式制限を解除する。この一瞬、ここで流れを変える。これ以上仲間など呼ばれてなるものか。
「動く小さな的でも、必ず当ててやる」
 純白の大弓を構えて、狙い撃つは――声帯の存在する喉元。そこへ一矢を力強く突き立てる。ヴィエトの声なき悲鳴が上がり、今しがた現れた増援を引き付けたメートヒェンは小さく笑みを浮かべた。
「一旦はこれでどうにかなるかな」
 リューズが未だ仲間を呼べる状態ではあるが、多くの鳥がやってくる事態は避けられる。メートヒェンもいくらか攻撃に転じられると、鳥たちを引き付けたまま強力なる二撃を放った。
「夕星さん!」
 ココロの鳴らす大鐘の音が夕星の傷を癒していく。受け身をとった夕星はすぐさま立ち上がり、ココロへ礼を言いながらも再びヴィエトへ向かっていった。再びヴィエトを引き付けなおしたエイヴァンは自らの身を強烈に回復させていく。
「まだ俺の可能性は残っている。他を狙う前に、それを削ってみせろ!」

 その戦いを遠目に見ていたマルベートはじきにあちらの決着がつくと判断しながら視線をリューズへ向ける。こちらは随分と荒々しいが、こちらも唯でやられるようなヤワさではない。攻撃して反撃してくるというなれば、こちらも同じ棘を纏おう。仲間たちが間に合うだけの節制をしよう。
 けれども、ただそれだけだとつまらない。だってこれは自分にとっての『宴』でもあるのだから。
 マルベートは敵へ反撃を行いながら、その血肉や魂の欠片を賞味する。ただの魔物とは異なった味わいも精霊に近しいが故だろうか?
「もっと味わいたいね。ああ、飛んで逃げられないようにしなければ」
 これ幸いとリューズの攻撃手段は翼が多い。ならばそれを破壊してしまえば飛ぶこともできないだろうし、攻撃もままならないだろう。
 そうして粘り続けるマルベートを尻目に、ヴィリスは鳥や戦いの音へ合わせてステップを踏む。誰かが居る、誰かが音を出す、その空間はいずれも彼女の舞台だ。
 彼女の踊りで生じた黒のモヤがキューブ状になってヴィエトを包み、癒されたばかりの身体にあらゆる苦痛を刻み込む。さあ、最後は呪殺でなぶり殺してしまいましょう。
「次は――」
 夕星はメートヒェンに群がる鳥の数を見てそちらへ駆けだす。全てを倒すつもりはない。それでもある程度は払いのけなければならないだろう。
「スピード上げてくぜ! ついてこれるかな!」
 ビートを刻むような加速に小さな協力者が翻弄される。次いでクルルが飛ばした一矢は蔦植物へと変化し、敵を絡めとらんと蔦を伸ばし始める。
 次の瞬間、聞こえた鳴き声に警戒の色を見せたのはココロだ。
(来る……!)
 片割れが倒れたことに気付き、リューズが呼んだか。近づいてくる敵影を認め、ココロはタイミングよく敵を殴り飛ばす。
「これが、わたしの対空必殺技です!」
 吹っ飛ばされた敵へメートヒェンが声を張り、自らの方へと寄せる。防御集中で耐え続けても限界はいずれ来る。その前に仲間たちがリューズを倒してくれるよう、メートヒェンは視線を残ったもう1体の巨鳥へと向けた。

「外さない……!」
 クルルから放たれし魔光がリューズを照らし出す。的確に照射されたそれにリューズは不機嫌な鳴き声を上げ、バシバシと地表を翼で打った。それを遠くに見ながらレイチェルはここまでに流した血を媒介として紅蓮の焔を呼び出す。
「俺の生命力を喰らい、燃え盛れ!」
 うねるようなその炎は昼間でも眩しい光源となり、リューズを一思いに呑み込んだ。それから逃れるように空へ飛び立とうとしたリューズへ夕星が大きく踏み込む。その体は翼に打ち付けられて地面へ落ちるが、パンドラを駆使して着地した夕星はにっと不敵な笑みを浮かべて再び跳躍した。
「届け――!」
 翼の動きをよく見て、今度は当たらないようにと地を蹴った夕星。失敗してもそれを活かし、学びながらリューズを攻めて行く。
(オレはまだイレギュラーズになりたてだから、失敗を積み重ねるのも経験だ!)
 失敗は悪い事ではないのだと。夕星はその想いを胸に、不屈の心で果敢に立ち向かった。
 その後をエイヴァンが追う。絶対零度の砲撃が敵の翼を撃ち、羽ばたきが弱くなった。
「敵が減っちまえばこっちのもんだ」
 抑える必要が少なくなれば攻勢に出る者が増える。被弾する者が減れば回復手も攻勢に出る。数の利を得た彼らは未だ強力な攻撃にも負けず応戦していく。
「いいわねいいわねいいわね! まだまだ一緒に踊りましょう!」
 それでも苛烈な攻撃のやむことがないリューズにヴィリスは楽し気な声を上げる。まだまだ、もっと長く踊っていられる。至高の瞬間に華麗なステップを刻み、彼女のアントレは続いていく。
 リューズを引き付け、押しとどめていたマルベートもまた傷をいとわず攻勢へと転じた。ディナーフォークとディナーナイフを模した二振りの武器がリューズの喉元を狙っていく。
 ココロやヴィリス、クルルたちが執拗に付与し続けた回復を許さぬ致命的な傷と、度重なるイレギュラーズたちの攻撃に、リューズもまた屈して地に伏す。ヴィリスは最後だと言わんばかりにメートヒェンの方を振り返り、彼女が度々引き付けなおしていた小さな協力者たちへ視線を向けた。
「アンコールね? どうぞ最期まで楽しんで」
 歌って踊って逝きましょう。



 ヴィリス、レイチェルを始めとした仲間たちの集中攻撃によって小さな協力者たちも力尽き。メートヒェンはほうと息をついた。
「これでもう、花畑は大丈夫」
「うん! ここのヒトたちも安心できるね!」
 ココロとクルルが辺りを見回し、敵性存在が居ないことを確認する。彼女たちへマルベートはお疲れ様、と声をかけた。
「祝勝会でも開こうじゃないか。同胞達、それに領民達や可愛い私の狼達も集めてね」
「宴会やってくれるの! やったー!」
 マルベートの言葉にココロがぴょんと跳ねて喜ぶ。あの大きな巨鳥たちは光に溶けるように消えてしまったが、小さな協力者たちは死骸が残っている。良い鶏肉料理になってくれるだろう。
「私手ずから料理を振る舞ってあげるよ。秘蔵のワインも開けようね」
「そういえば、この花畑には食べられるお花ちゃんもあったり……するのかな?」
 おずおずと聞いたのはクルルだ。ずっと深緑の奥で暮らしていた彼女にとって、外の食べ物は非常に興味がある。
「え、お放って食べられるのですね……」
「ふふ、そういう種もあるね」
 びっくりするココロに微笑むマルベート。その後方でヴィリスは小さくため息をついた。
「私は流石に疲れたわ……少しの間、領地を見せて貰っても?」
「ああ。その間に祝勝会の用意をしておこう」
「それなら、私は怪我人や施設の破損状態を確認しておくよ」
 メートヒェンは周囲の状況把握を買って出る。怪我人がいれば応急処置くらいならできるだろうし、できるなら日が落ちる前に花畑の絵も書いてみたい。状況報告の時に許可を得てみよう。
 こうして一同は祝勝会の準備を手伝う者、その間に別の動きをする者で別れた。ヴィリスは花畑をのんびりと歩きながら戻ってきた住人や、土地の状況を眺める。全てはいつしか自らも持つであろう領地の為に。
(でも領地の運営なんて私に出来るのかしら?)
 自由になった身、あれこれやってみたいという好奇心はあるものの……遊びではないのだ。そこに住まう人や動植物がいるのだとこうして実際に目にして感じる。
(まぁ、何とかなるでしょう)
 楽しい場所にしたい。そんな願望を持ちながらヴィリスは踵を返す。今からまたのんびりと戻ったなら――祝勝会に丁度よい頃合いだろうから。

成否

成功

MVP

ヴィリス(p3p009671)
黒靴のバレリーヌ

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 素早い人がたくさんいてびっくりしました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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