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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>Imitation Medallion

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪党どもは懲りず
 幻想にて開かれた『大奴隷市』。その殆どがローレットのイレギュラーズによって阻止され、多くの奴隷商たちは捕縛、或いは逃げおおせても商品である奴隷を保護されていた。
 わざわざ各国から幻想くんだりまでやってきたのに、これでは大損である。何とか儲けを得なければ、とてもではないが国に帰る気にもならない。
 そうくすぶっていた一部の奴隷商たちだが、ある日『古物商』を名乗る男に声をかけられた。
「儲け話があるのですよ。乗ってみる気はありませんか?」
 古物商は自身をヴェンデルス・ヴァンデッタと名乗ると、幻想スラム街のとある倉庫の場所を示した地図を、奴隷商達へと渡していった。
 正直、胡散臭い。とはいえ、胡散臭さだけで言えば、奴隷商達も充分胡散臭い。これはつまり、同類の匂いである。裏でやり取りをする、少なくとも真っ当とは言えない類の商人だ。
 その信頼度はさておき、儲け話がある、となれば、現状を顧みれば乗らない理由もない。期待は半分。どうせ騙しだと警戒半分。奴隷商達はヴェンデルスの指定した日時に、幻想スラム街の貸倉庫へと向かったのである。
「これが何かわかりますか?」
 ヴェンデルスは、集まった奴隷商達へと、一枚のメダリオンを見せた。金色に輝く、凝った意匠のメダリオンである。
「ブレイブメダリオンです。昨今の事件の解決者に配られる……まぁ、褒章のようなものですよ」
 本来は、幻想国家において重要な価値を持つ宝物である。現在、様々な事情からほとんどが散逸しているとはいえ、それを褒章代わりに配ろうとは。その決断を聞いた王室関係者は、きっと卒倒していたに違いあるまい。
「それが何になるってんだ?」
 とは言え、猫に小判というか。奴隷商の男にとっては、何の価値もないメダルである。男が不満げに尋ねるのへ、ヴェンデルスは笑った。
「なんでも、これを多く持っていたものが、次世代の勇者として称えられるそうです……次世代の勇者。となれば、名誉としてはかなりのモノ。とりわけ、幻想貴族などはこぞって欲しがるでしょうねぇ」
 自身、或いは自身の配下から新時代の勇者が出たとなれば、その功名は無碍にできたものではないだろう。直接的にはならずとも、勇者としての称号と名声は、確実に、何らかの利益にはなる。
「じゃあ、なんだ? そのメダリオンを集めて、俺達が勇者様になろうってか」
「まさか。名誉なんてものとは縁のないのが我々裏の住人。これはですね、売りつけるんですよ。欲しがる奴に。高値で」
 ほう、と奴隷商は唸った。つまり、儲け話とは、このメダリオンを利用した商売である。
「実はこのメダリオン、贋作(イミテイション)です」
「ニセモノって事か」
「ええ。ただいま量産体制に入っておりますが、我々には些か資金が足りない。そこで、皆様には少々の出資を願いたいと」
 なるほど、と奴隷商達は唸った。まさかただで儲け話を教えてくれるとは思っていなかったが、金を出せ、というのが目的のようだ。
 とはいえ、奴隷商達にとっては、これは今回の損失を埋める、逆転のチャンスではあった。奴隷商達はしばし話し合うと、結局は、ヴェンデルスの誘いに乗ることにしたのである――。

●イミテーション・メダリオン
「ご足労感謝いたします」
 『幻想大司教』イレーヌ・アルエ(p3n000081)は、応接室に現れたランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)ら八名のイレギュラーズへと、優雅に一礼をした。
「ランドウェラさん。あなたの懸念が的中してしまったようですね。側近のものに探らせたのですが、悪徳商人がブレイブメダリオンの贋作を作り、売り捌こうとしている動きがあるようです」
「贋作ですか。意外と動きが速かったですね」
 ランドウェラが言う。ブレイブメダリオン配布の『おふれ』が出たのは、つい先日のことである。まだローレットのイレギュラーズ達も所持はしていないだろう。
「こういう時に素早く動けるのは、羨ましくはありますけれどね。私達中央大教会は、どうしても事件に対応する形に……後手をとらざるを得ませんから」
 苦笑を浮かべながら、イレーヌが言う。
「おそらく、本格的な流通と同時に、贋作の流通も行いたいのでしょう。初動で一気に売り捌き、国外へと逃亡する……と、私達はにらんでいます」
「なるほど……しかし、どうして中央大教会が贋作メダリオンの調査を?」
「それは、贋作制作の仕掛け人が、先日の大奴隷市で幻想に集まった奴隷商達、その残党と手を結んだからです」
 なるほど、とイレギュラーズ達は思っただろう。奴隷商に関しての対応は、その殆どを中央大教会が行っている。つまりこれは、イレーヌにとっても青天の霹靂のようなものだっただろう。奴隷商の動きを追っていたら、まさかブレイブメダリオンの偽造事件にたどり着くとは。しかも、奴隷商が絡んでいるから、という理由で偽造事件の解決までも丸投げされたらしい。
「まぁ、他の貴族たちに恩を売っておくのも、私たちにとっては悪い条件ではありません。解決を皆さんにお願いすることになるのは心苦しいですが……」
「ブレイブメダリオンの偽造となれば、僕たちにとっても無関係ではありませんよ。それに、奴隷商の撲滅という点でも、僕たちローレットが動くには充分です」
 ランドウェラが微笑んで頷く。
「ありがとうございます。では、依頼について詳しくご説明いたしますね」
 イレーヌの話によれば、偽造メダリオンはすでに完成し、古物商ヴェンデルスの下へと納品されたようだという。ヴェンデルスはスラム街にある自身の倉庫に偽造メダリオンを隠し、今夜、奴隷商達に配布を行うらしい。
 このタイミングを狙えば、ヴェンデルス、そして奴隷商の残党を一網打尽にできるだろう。大捕物である。
「細かい作戦などは、皆さんにお任せいたします。全員を捕縛し、偽造メダリオンを確保してください。くれぐれも」
 イレーヌはくすり、と笑うと、
「偽造メダリオンを懐にしまおうなんて思わないでくださいね?」
 冗談めかして言うので、ランドウェラは肩をすくめるのであった。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方はイレギュラーズの予測(アフターアクション)により発生した依頼になります。

●成功条件
 すべての敵を無力化し、偽造メダリオンを確保する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 ブレイブメダリオンを偽造し、偽造メダリオンを流通させて大儲けを目論む悪徳古物商ヴェンデルス・ヴァンデッタ。
 彼は大奴隷市のためにやってきた奴隷商人の残党と手を組み、偽造メダリオンを流通させようとしています。
 これを許していては、幻想に混乱が巻き起こる事は確実です。
 皆さんは、ヴェンデルスが、自身の倉庫で、偽造メダリオンを奴隷商人たちに配るタイミングで倉庫に向い、彼らを全員拘束。偽造メダリオンを確保してください。
 作戦決行タイミングは夜。作戦エリアはヴェンデルスの倉庫になります。
 倉庫ですので、色々ものが置いてあり、身を隠したりすることは容易です。出入口は一つではなく、どこから侵入しても構いません。

●エネミーデータ

 奴隷商 ×5
  一般的な奴隷商人たちです。戦闘能力は低いですが、一応護身用の剣で武装しています。
  相手の能力を阻害するマジックアイテムや薬を持っており、様々なBSを付与してい来ることが予想されます。

 護衛 ×7
  奴隷商の護衛です。全員、剣で武装しています。傭兵ですので、戦闘能力はそこそこ。
  出血系統のBSを持ち、至近~近接レンジの物理攻撃を仕掛けてきます。

 ヴェンデルス・ヴァンデッタ ×1
  今回の仕掛けを主導する悪徳古物商。
  古物商ではありますが、様々なマジックアイテムを持っており、神秘属性の攻撃や防御を行ってきます。
  とはいえ、耐久力は高くはないので、一気に攻め落としてやるのがいいと思います。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>Imitation Medallion完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月31日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ラクリマ・イース(p3p004247)
白き歌
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ

●悪党は蠢く
 幻想、スラム街の貸倉庫。今宵、ここには大量の荷物が運び込まれていて、珍しく内部にも煌々と明かりがともっている。
 内部には、多数の人間がうごめく気配を感じる。入り口から漏れる明かりと、人影。不思議ではあったが、一応貸倉庫であるため、不審に思うものはさほどいない。それに、スラム街である。後ろ暗い取引が行われたことなど一度や二度ではないため、むしろそうだった場合のリスクを考えれば、わざわざ近づく住民などもいるまい。
 大量の木箱。その中の一つのふたを、男――悪徳古物商、ヴェンデルス・ヴァンデッタは開いた。中からは、ゴールドの輝きを持つ大ぶりなメダルが詰まっていて、そのうち一つを、ヴェンデルスは取り上げる。
「これはゴールドですね。もっとも価値の低いものですが、皆さんが今回の損を取り戻すには充分でしょう」
 おお、と、声が上がる。暗がりには無数の男女がいて、それらが悪徳な奴隷商人であることは、見るものが見ればすぐに分かっただろう。幻想中央教会にマークされているような、『顔の知られた』連中だ。
「精巧だな」
 奴隷商が言った。ヴェンデルスに資料で提示されていた、本物のメダルと、一見、見分けはつかない。が、よくみれば細かい差異がある事に、気づくものは気づくだろう。
「我々は本物を提供されておりますので。如何でしょうか、皆様の不安を払しょくできる出来だと自負しておりますが」
「見事ね」
 奴隷商の女が言う。
「これ、いただけるのよね?」
「もちろん」
 ヴェンデルスは笑った。
「ただ、売るならお早めに。偽メダリオンは増産体制に入っておりますし、これを考えるのも我々だけというわけではない。現に、私の情報によればすでにいくつかの組織が贋作製造に取り組みだし、貴族に卸しているという話です」
「そうだな」
 奴隷商の男が笑った。
「さっさと売り捌いて幻想からはオサラバするか。しばらくこの国はこりごりだよ」
 と――突然、倉庫内の明かりが消え始めた。
「――そう言わずに、しばらくゆっくりしていくと良い。良い宿泊場所を用意してある。自由はないがね」
 同時に、辺りに声が響いた。それは、奴隷商、ヴェンデルス、そして警備の傭兵たちの内の誰でもない声だった。それは、ローレットのイレギュラーズ、『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)の声であったが、その時の奴隷商達が知る由もない。
 どよ、とざわめきが走る。傭兵たちが剣を抜き放ち、警戒態勢へ入ったのを確認したかのように、周囲の明かりが一斉に攻撃され、次々と消えて行った。
「明かりだ! 明かりを狙っている!」
 傭兵が叫ぶ。が、時すでに遅し。壁掛けのカンテラは根こそぎ破壊され、周囲に暗闇のみが残った。
「くそ、ガサか! 近い出口から逃げろ!」
 暗闇の中に響く足音。続く、がんがん、という扉を開く音。しかし、その扉の先には知らぬうちに茨によって封鎖がなされていて、奴隷商達の逃げ道をふさいでいた。
「なんだ! 何だこの茨は!?」
「おちついてください! この暗闇では相手も動けないはず。敵の放つ明かりに警戒してください!」
 ヴェンデルスが声を張り上げる。
「悪いが、お前達の悪巧みはそこまでだ──大人しく投降しろ、そうすれば命までは取らんぞ」
 暗闇の中に、『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の声がこだまする。傭兵たちが殺気立った。
「声の方だ! 声の方を探せ!」
「くそ、倉庫だからってあちこちに物を置きやがって……!」
 傭兵たちが駆けだす――だが、暗闇より刹那、魔力のか輝きが迸ると、背後より斬りつけられた傭兵が一人、苦悶の声をあげながら倒れる。
「なんだ、挟撃されているのか!?」
「連中はこの暗闇の中で目が見えるのかよ!」
 混乱する傭兵たち。突然の奇襲者――『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)は、その眼を暗闇に輝かせ、静かに口を開いた。
「退くも地獄、進むも地獄……ならば目前の鬼を轢き殺して圧し通る他ありません、そうは思わなくて?」
 ひっ、と傭兵たちが悲鳴を上げた。女王、レジーナはにぃ、とその口角をあげて、続ける。
「ここにおります鬼の名はレジーナ・カームバンクル。僭越ながら先導させていただきますわ。冥府への片道へと」
 天乖剣が闇夜に光を走らせる。暗闇の中の戦いが、この時幕を開けていた。

●突入前
 暗闇の中での戦いが始まる少し前。つまり、イレギュラーズ達突入の直前。偽造メダリオン取引現場を確認したイレギュラーズ達は、今まさに突入の時を迎えようとしていた。
 上空にはレジーナのファミリアーが飛び、建物全体を警戒している。鳥の眼下では、『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が自分たちが突入するための物を除き、すべての出入り口に茨のバリケードを設置しているのが見える。
「偽造メダリオンなんて、随分と馬鹿なものを作ってと思うのですが。
 欲しい人がいるから売れるんですよねこういうの」
 まずは正面入り口。ブラッククロニクルの書物を読みながら、『協調の白薔薇』ラクリマ・イース(p3p004247)が告げる。これは余談だが、ブラッククロニクルの内容はそれはもう読んでいて『辛さ』を覚えるのであるが、これはラクリマの書いた本ではない。本人のために強調しておきたい。
「そんなに称号や名声ってほしいものなのでしょうか?
 俺にはよくわからないのです」
「幻想は、とりわけそう言った……名誉欲、でしょうか? とにかくそう言うのが強いような気がするのです」
 『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)が、うんうんと頷いていった。
「どうせあがめるなら勇者ではなくボクをあがめて欲しい所なのですが。
 さておき、貴族社会は格式と伝統にのっとったもの。それに、幻想の建国者は勇者との事なのですから、自分の家から勇者が出たとなれば、自分たちの家柄の格も上がるでしょうし。悪用しようとする輩が出てもおかしくは無いのですよ」
「勇者という称号も、結局は貴族たちの見栄とパワーゲームに利用されるのか」
 マナガルムが苦笑する。なんとも、世知辛いというか、現実的というか。御伽噺では全能の勇者も、或いはもしかしたら、魔王などより厄介な魑魅魍魎には無力なのかもしれない。
「さて、ただいま」
 錬が言いながら、正面入り口へと戻ってくる。あちこちの出入り口にバリケードを設置し、一息。
「準備は万端って所だな。裏口の連中も大丈夫そうだ。
 ……しかし、贋作か。職人としては、芸術品とそん色ないものを作り上げられるスキルというのは、ある意味到達したい領域だが」
 ふむん、と錬は唸った。
「だが、情報によれば売り逃げだそうだな。となると、その精度も大したものじゃないのかもしれない。
 ま、色々と噂を聞いてみれば、本物のメダリオンを完璧に偽造するなんて、相当に難しいのだろうけどな」
 錬が肩をすくめる。
「でも今は、見せかけだけでも騙せればいいんでしょうね」
 ラクリマの言葉に、仲間達は頷いた。とはいえ、仮に小手先の詐欺だったとしても、実際に被害が出るのは避けたい所である。
「そろそろ突入なのです。準備はよろしいですか?」
 ルリの言葉に、仲間達は頷く。
 一方、裏口では、正面入り口からの突入班の動きを待っていた。
「偽造メダリオンですか。メダリオンを偽造する技術があるなら、私でしたらオリジナルのコインに付加価値を付けて流通させますけどね」
 しみじみという『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)へ、『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)は驚いたように小首をかしげた。
「お金を作ってしまうのですか? それはその、贋金、というものです?」
「いいえ。物理的な仮想通貨と言いますか……ああ、仮想通貨は分りますか?」
 綾姫は困ったように頭を振った。
「ふぅむ、練達なら利用されているでしょうか……まぁ、詳しい説明は後日ゆっくりといたしましょう」
「あはは、お願いします」
 綾姫は苦笑した。長い講義になってしまうかもしれない。
「協力者に確認をとりましたが、既にいくつか、偽造メダリオンは流通しているようです。ヴェンデルスの仕業かまでは分りませんが、呼び水の一つになったのは間違いないでしょう」
 寛治が言う。
「防げませんでしたか……とはいえ、私たちも、教会も、偽造メダリオンを発見できたのは奴隷商調査の副産物のようなものでしたから……仕方ないのかもしれませんが」
 綾姫がむむむ、と唸った。とはいえ、経路とブローカーの一つを潰せるのだと思えば、今回の作戦の成果は大きいだろう。
「偽りのメダルで名声を、ね。何ともさもしいものだわ」
 レジーナが嘆息するのへ、仲間達は頷く。
「名声とは実力につくものでしょうに。名声が先に来てしまうのは、この国のいびつさなのかしらね……」
 ――と。レジーナがそう言ったタイミングで、どうやら入り口組が内部に入り込んだらしい。内部に動きを感じられた。
「こちらも突入しよう」
 ランドウェラの言葉に、仲間達は頷いた。内部へと突入すると、明かりがぱたぱたと明かりが消えていく。
「幻想からオサラバする、なんてことを言っていたようだね」
 ランドウェラはいたずらっぽく微笑むと、声をあげた。
「――そう言わずに、しばらくゆっくりしていくと良い。良い宿泊場所を用意してある。自由はないがね」
 それを合図にしたように、仲間達は一斉に壁の明かりを攻撃始めた。次々と明かりが消えていく。傭兵たちに走る、困惑。そして走る怒号。イレギュラーズ達による、奇襲作戦の始まりだった。
「傭兵を始末してきます」
 片眼を閉じ、暗順応させておいた綾姫が、足取り軽やかに暗闇をかけた。射程距離に達するや、両刃の刃を振るい、契約妖精を解き放つ。暗闇をかける妖精が、その牙で傭兵を切り裂き、意識を失わせた。
「ここにおります鬼の名はレジーナ・カームバンクル。僭越ながら先導させていただきますわ。冥府への片道へと」
 レジーナの魔術と格闘を織り交ぜた攻撃が、傭兵を打ち倒した。ぎゃ、と悲鳴を上げて、傭兵がその意識を失う。
「メダリオンの偽造などと、国家反逆罪に問われても仕方がないわ。それほどの覚悟が汝(あなた)たちにあるとは――とても思えませんけれど」
「ちっ、やっぱりガサか! バレてたんだ!」
 奴隷商人たちが悲鳴をあげる。各々のカバンからマジックアイテムを放り投げ、でたらめに攻撃を始めた。爆発が周囲を彩り、僅かにあたりを照らす。とはいえ、でたらめな攻撃がイレギュラーズ達に直撃することは多くはない。走るマジックアイテムの爆風を避けながら、イレギュラーズ達は確実に敵を潰していった。
「これ以上の抵抗は止めておけ、でなければ相応の代価をお前達が支払う事になるぞ」
 マナガルムの言葉に、
「うるせぇ、こうなればやるしかないだろうが!」
 半ばやけっぱちの傭兵たちが斬りかかる。その刃を、マナガルムは蒼銀の槍で受け止めると、
「まぁ、そうなるだろうな。だが、こちらも加減は出来んぞ」
 一気に振り払い、その刃を敵に叩き込む。ぐえ、と声をあげた傭兵が倒れて、意識を手放した。
「アンタらに恨みはないが……」
 錬の持つ式符より、無数の木製の槍が生み出される。錬が手を振るえば、解き放たれた槍が次々と傭兵たちを貫いた。がは、と息を吐いて、傭兵たちが頽れていく。
「出来の悪い贋作師の居場所も吐いてもらわなきゃだ。簡単には死んでくれるなよ?」
 一方、傭兵の数を減らしつつ、イレギュラーズ達は奴隷商人、そしてヴェンデルスへと迫る。
「ヴェンデルス! 何とかしろ!」
 奴隷商が悲鳴をあげるのへ、流石のヴェンデルスも困惑の色を隠せない。
「と、言われましてもね……!」
 懐から取り出したのは、魔力を弾丸として打ち出すことのできるマジックアイテムの銃だ。ヴェンデルスは銃弾を込めつつ、
「どこから気づいていたのか……!」
 悔やみの声をあげる。
「そうですね。教えて差し上げるなら……あなた達の動きを察したのはごく最近ですよ」
 ラクリマが言いつつ、暗闇にその手を振るった。途端、眩いばかりの聖光が、暗闇を切り裂いて奴隷商達を打ち払う!
「ひ、ひい! あっちだ! あっちに投げろ!」
 奴隷商達が毒物の入った瓶を投げつける。ラクリマの足元で割れたそれが、毒性のガスを発生させた。ラクリマは腕で口元を覆いつつ、その場から退避。
「おっと、毒なのですね? それはいけないのです。対応させてもらいます」
 ルリは積まれていた木箱の上から飛び降りると、仲間達の元へと走った。
「これは恐怖を打ち払う我が一声、なんて。よいしょっ、なのです!」
 ルリを中心に広がった清浄なる空気が、仲間達の傷と、そして身を蝕む悪しきものを打ち払う。
「これで大丈夫なのですよ。取り押さえ、お願いするのです」
「ええ、心得ました」
 ステッキ傘を構えつつ、弾丸の驟雨を打ち込む寛治。走る弾丸が奴隷商達の手足を貫き、
「ひ、ひいっ! 痛ぇ!!」
 悲鳴をあげさせた。
「おっと、私では命まで奪ってしまいそうです。加減は苦手でしてね」
 悪びれもせず言うのへ、続いたのはラクリマだ。
「だったら、もう一度……!」
 再び放たれた聖光が、奴隷商達を打ち据え、焼いていく。不殺の光に打たれた奴隷商達が、次々と意識を手放していった。
「くそ、ここまでか……!」
 悲鳴を上げて逃げようとするヴェンデルスに、一陣の風が迫る。
「それはちょっと虫がよすぎませんか」
 綾姫の放った黒妖精が、その牙をヴェンデルスの脚へと叩きつけた。走る痛みに、ヴェンデルスは転び、膝をつく。
「く、くそ!」
 舌打ち一つ立ち上がろうとするヴェンデルスの前に、ランドウェラが立ちはだかった。
「さて……ここまでだな」
 ランドウェラの両手が、ほのかに輝く。善なる右手。悪なる左手。異なる二つの光が、闇を照らしていた。ゆっくりと、右手を掲げる。
「あんたの企みもここまでだよ。さっきも言ったが、良い宿泊先を紹介してやる。牢獄って言うんだが、住めば都かもしれないぞ?」
 振り上げた右手を、ヴェンデルスへと叩き込んだ。衝撃がヴェンデルスの身体を貫き、がふ、と息を吐き出す。
 その衝撃が契機になって、ヴェンデルスはその身体の力を手放した。がくり、と項垂れて、そのまま意識を失う。
「よーし、作戦完了」
 ランドウェラの言葉に、仲間達は安どの息を漏らしたのであった。

●偽造メダリオンの行方
「うーん、本当なのです。こんなにたくさんあるなんて。ゴールド、ミスリル……アダマンタイトもあるのですよ」
 ルリが感心半分、呆れ半分声をあげた。ルリがのぞき込むのは、ヴェンデルスの用意した、偽造メダリオンのつまった木箱である。
「けれど、見る人が見ればわかるって感じではあるな」
 錬が唸った。
「流石に完璧な偽造は出来なかったのかしなかったのか。まぁ、これで実際に流通していたとしても見分けがつきそうだ」
 錬の言葉に、仲間達は頷いた。偽物に振り回されるのは勘弁願いたい。
「さて、ひとまずここにあるものはすべて押収するとしよう」
 マナガルムが言う。
「力仕事の方は任せてほしい。ヴェンデルスから話を聞きだすのは、得意なものがいるだろうからな」
「そうですね……ううん、でもこの量ですか……」
 綾姫が苦笑した。此処に在るだけでも、相当の量だ。運搬するのは、後々来る馬車だろうとは言え、そこまで運ぶは間違いなく自分たち。
「戦いとは別に骨が折れそうです……」
 とはいえ、やらなければならない。綾姫は、よし、と気合を入れると、偽造メダリオンの山へと向き合った。
 一方、意識を取り戻したヴェンデルスを囲むのは、残る四人のイレギュラーズ達だ。
「こんなことをするなんて、とてもじゃないけど軽い罪じゃすまないわよ」
 レジーナの言葉に、ヴェンデルスが顔を背ける。
「……それ位、汝(あなた)にもわかってるわよね。ならば、そうなっても『どうにかなるだろう』って言う確信があるはず。つまり、何らかの後ろ盾がある……」
 レジーナは、その瞳でヴェンデルスの瞳を覗き込んだ。嘘を許さぬようなその瞳が、ヴェンデルスを威圧する。
「ですね。バランツ家なら、その後ろ盾としては充分でしょう」
「知ってるのか!?」
 寛治の言葉に、ヴェンデルスが目を剥いた。
「ご協力ありがとうございました。これで関係者も芋づる式に抑える事ができそうです」
 ブラフだ、と気づいた時には遅かった。ヴェンデルスが悔しげにうめく。
「やはり貴族の後ろ盾が……」
 ラクリマが唸った。
「となると、厄介ですね。間違いなく、この件は始まりに過ぎないでしょう」
「というより、もうとっくに、何らかのうねりが始まっていて、僕たちは……幻想は、それに巻き込まれているのかもしれない」
 ラクリマの言葉に、ランドウェラが言う。ここ最近に発生した一連の事件。それがつながりのある何かだとするのならば。
「大事件になりそうだね……」
 ランドウェラの言葉に、仲間達は頷いた。
 何らかの大きなうねりのようなものの中に、自分たちは、この国は居る。そう思わずにはいられないほどに、不穏な何かを、イレギュラーズ達は感じ取っていた。

成否

成功

MVP

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、ヴェンデルス以下奴隷商人たちは無事確保。
 バランツ家なる黒幕の名も発覚しました。
 偽造メダリオンは既に他所からも流通が始まっているようですが、ひとまず作戦は成功です。

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