PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>Venus Flytrap

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪の敵は、別の悪
 ――最近、領民が増えた。
 スラム街の真ん中。広場というよりただなにもないだけの場所に座って、ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は周りの風景をぼうっと眺めていた。
 幻想国内で得た名声(というより悪名)が広まったのか、いつからか押しつけられるように与えられたスラム街。
 ピリムはこのスラム街の主であった。
 どんなきっかけでピリムこの場所の主となったのか、スラム街の民たちの多くは語ることができない。元々のボスを斬り殺して脚のついでに強奪したのだとか、ボスに認められて管理を任されたのだとか、さる獄中貴族に領地を分譲されたのだとか……噂こそはつきないが。
 とにもかくにも、スラム街の主ことピリムは、広場を眺めてこう考えた。
 ――最近、領民が増えた。

 きっかけは、どこからか逃げ延びてきたであろう粗末な格好の人間達をなんとなく受け入れた所からだったろうか。
 なんとかっていう奴隷市で売られていた人間が、奴隷市がなにかしらの襲撃によって壊滅しそのドサクサで逃げ延びたということらしかったが……脚以外にあまり頓着しないピリムのこと、どこのだれがどんな理由でやってこようと、勝手に住み着けばいいと受け入れた。
 その翌日には別の元奴隷が、そのまた翌日にはまた別の奴隷が。いつしか噂が広まり、奴隷を区別なく受け入れる土地があるとして、ピリムの領地には元奴隷が集まっていった。
 それ故だろうか。
「貴殿の領民は不法に得たものである。ただちに正当なる所有者である――氏に返却するように」
 と、武装した兵隊をぞろぞろ連れたお役人がスクロールを広げて声高に言うようになった。
 お役人(名前は忘れた)がうんざりした顔でスクロールを閉じ、首を振る。
「もう何度目だピリム殿。いくら王がローレット・イレギュラーズを擁護なさっているからといっても限度がある。この度重なる狼藉、我々としても看過できん。そもそも他人の所有物である奴隷をかくまう以上、『手違い』があって持ち去られたとて訴えはとどかぬぞ」
「はぁ」
 それで? とでも言うように、まったく興味が無いといったトーンで返すピリム。
「……後悔なされるな」
 役人は目の端をひくつかせ、思わせぶりに周囲をにらみつけるとスラム街を去って行った。

●奴隷狩りと『奴隷狩り狩り』
「やあ、ピリムちゃん。面白い情報(ハナシ)が入ったんだけど、買わない?」
 後日。というより役人が去ったその日の夜すぐにスラム街へやってきた『黒猫の』ショウ(p3n000005)が、あるリストをピリムにかざした。
「ダリオ・オーリオ執務官サマは逃亡した奴隷狩りを行うことを公示する予定らしい。主人に危害を加え逃亡した奴隷たちを捕まえることで幻想王国の治安維持と清浄化をはかるとかなんとかで、まあ保健所のポーズみたいなものだね。とはいえ逃亡奴隷なんてそうポンポン見つからないから、事前にたまり場に入り込んで『調達』しておこうっていう計画が動いてるらしい」
「……それで、私の所へ来たんですかー?」
 刀の手入れに夢中といった様子のピリムに、ショウはくすくすと笑った。
 ダリオ執務官は非合法に兵を放って、ピリムの領地内から奴隷を拉致しようと画策している。
 昨日の言葉はそのための政治的牽制でだったのだろうが……。
「脚を切り落とすこと以外に興味は無い。かな?」
「分かってるじゃないですかぁ」
 研いだ刀を掲げ、うっとりと微笑むピリム。
「非合法に這入ったなら、殺されても文句は言わない……というか、政治的に言えないと思うよ」
「はぁ」
 それで? とでも言うように反すピリムに、ショウはこう付け加えた。
「……なので、全員斬り殺しても問題ない」
「脚だけ戴いても?」
「モチのロン」
 やっと興味が湧いた。
 そんな顔で、ピリムは刀よりもまばゆく目を光らせた。
「それはそれはー……」

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

■オーダー
 領内へ入り込み、奴隷を拉致しようとしているエージェントを抹殺します。
 エージェントは同時に複数領内へ入り込むので、メンバーを3~4組にチーム分けして散らしておくのが良いでしょう。
 抹殺方法は無数にありますしほぼほぼ自由ですが、一応以下に例を述べておきますので参考になさってください。
 時間は夜。フィールドはこのスラム街全域とります。
 https://rev1.reversion.jp/territory/area/detail/1004

・ターゲットの奴隷になりすます
 ショウが予め拉致するつもりの奴隷のリスト(簡単な外見特徴を記したもの)を入手してくれました。
 該当する元奴隷住民を隠し、自分がその人物に変装することで『わざと襲われる』状況を作り返り討ちにします。
 変装スキルや声色を真似るといったスキルがあるとよいでしょう。

・領内を警備する
 自分の担当するエリアを入念に警備し、侵入者を見つけ次第襲撃します。
 警備スキルはもちろん、捜索やファミリアー、暗視や物質透過、人助けセンサーなんかが有効になります。

・トラップを仕掛けまくる
 該当する元奴隷のすみかに罠を仕掛けておきます。

・仲間と協力する
 前述した例との合わせ技になります。誰かが囮になり、エージェントがひっかかった所で隠れていた別の仲間が素早く斬りかかるといったスタイルが今回とても有効です。
 特にピリムさんは素早く脚を切り取らせたらピカイチなので、その特技を活かしましょう。

※リストについて
 ショウの手に入れてきたリストには元奴隷の外見特徴が記されています。写真や名前といったものはないようです。
 なのでエージェントたちは結構大雑把に領内を探索し、それっぽい人間を見つけたら殴り倒して拘束し持ち去るといった手段をとってくるでしょう。
 また、リストアップされている人物は結構多く、その全員を一度に見張り続けることは難しいようです。
 リストアップされている人物を役所あたりにぎゅうぎゅう詰めに集めてガチガチに警備するといったスタイルはかえって相手に狙いがバレてしまい、襲撃のタイミングをずらされたりより狡猾な手を使われかねません。あえて奴隷達の暮らしを維持させつつ、なんなら自宅で寝静まった状態にさせつつ逆に誘い込んでエージェントを抹殺してしまうというスタイルが今回は必要になります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ヴァーリの裁決>Venus Flytrap完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月29日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ノワ・リェーヴル(p3p001798)
怪盗ラビット・フット
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
クーア・M・サキュバス(p3p003529)
雨宿りのこげねこメイド
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
一条 夢心地(p3p008344)
殿
日暮 琴文美(p3p008781)
被虐の心得

リプレイ

●カウンター・ダーティープレイ
 手の中にある白い棒状のなにかを、『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は顔の高さまで放り上げた。
 回転して落ちるそれをキャッチしては、また放る。
「私の領地にある私の住民(脚)を勝手に持ってかれちゃ困るんですよねー。
 彼らは自分の意思で来たのだからそれは尊重しなきゃダメですよー。
 まー、建前は置いといて獲物の方から来てくれるのは助かりますー。
 脚を頂いて残りのお肉は……特産品の倉庫に入り切るといいんですがねー」
「なんてモンを特産してんだ。間違ってもオレの領地に送りつけんなよ? そんなの喜ぶ奴ぁ……あー」
 いるかもしんねぇ、と自分の目を覆う『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)。
「それはさておきだ。オレの領地でも人材斡旋業はしてっから他人事じゃねェんだよなァ今回のハナシは。どーにか執政官様を牽制できる材料でもありゃイイんだが」
「えー? ないじゃろないじゃろ。他人様の領地に入り込んで人を攫う????
 そーーんな滅茶苦茶なことをするやつはおらんじゃろ! ましてや国の貴族たるものが!
 一応仕事じゃし、やってはみるが……絶対出てこぬぞ、そんな無法者は。
 このウナギチョコパイバーガーを賭けても良い!」
 回転して落ちる白い棒をかすめとるようにキャッチしてビッと立ててみせる『殿』一条 夢心地(p3p008344)。
「あらあらあら、ふふ」
 それをつまんでひったくると、『被虐の心得』日暮 琴文美(p3p008781)は指の上でプロペラのごとく器用に回転させながら歩き出した。
「美味しそうな依頼ではございませんか。腕がなりますねぇ……抹殺、だなんて。
 人の血を見るのは久方ぶりで……恍惚としてしまいそうです」
 ぱしりとつかみ、そして肩越しに後方へと放り投げる。
「さ、参りましょうか」
「やれやれねぇ」
 飛んできたものをキャッチして指先でねじるようにして弄ぶ『never miss you』ゼファー(p3p007625)。
「奴隷だ人さらいだって、嫌な世の中よねえ。仮にも勇者王のお膝元って国で何やってんだか?」
 肩をすくめ、ハイと差し出すゼファー。
 それを頭髪を変形させたアームで受け取り、くるくると巻き取ってから巻き戻す動きで放り上げる『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)。
「逃げられるのが嫌ならば、少しは丁重に扱えば、良いもの、を。必要としておいて、なぜ粗末にするのだろう、な。
 結果、奴隷だけでなく、今度は兵まで失うというのに」
 放り上げられた白い棒状のものが頭にこつんとぶつかり、腕組みして考え事をしていた『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)はどこかけだるそうにそれを拾いあげた。
「何か、悩み事、か?」
「んー、悩むといいますかー……」
 目を細め、つまんだ白い棒が炎の中に飲まれるさまを想像する。
「忍び込んできた族を素直に焼いていいものかと、ですね」
「何か問題でも?」
 クーアはもう一度うなり、頭の猫耳をぺたんとさせた。
「焼いても後腐れとかなさそうな相手ですし、練習台にはもってこいなのです、が……奴隷狩りに与する相手に、焔色の『理想的な』末路を与えてよいものかと言われると、少し悩むのです。でも相手は主導側ではなく一兵卒ですし……うーん」
「そんな悩み方をするのは、多様性豊かな混沌世界でも君だけだろうね」
 手のひらをかざし『くださいな』のジェスチャーをする『怪盗ラビット・フット』ノワ・リェーヴル(p3p001798)。
 ちょこんとのせた白い棒を握り込んで、ノワはゆっくりと首をかしげた。
「なんとも……類は何とやらと言うけど、悪党が悪党を呼んだみたいだね。
 面白い……僕らに喧嘩を売るとどうなるか思い知らせてあげようじゃないか」
 パッと開いた手のひらに棒はなく、フィンガースナップ越しに指をさした先――ピルムの懐から白い棒が出てきた。
「ね、皆?」

●RTRT
 ぼろを纏った少女が、粗末な小屋の一角で眠っている。
 形ばかりのパイプベッドに固いマットレス。布をうすくかけただけの様子はしかし、ある土地の奴隷と比べればはるかにマシな暮らしと言えた。
 そんな彼女の無防備な姿を透視能力によってのぞき見た猫背の傭兵は、足音を殺しながらゆっくりと壁に張り付く。
 耳を押し当て、室内の様子を観察。薄く笑うと、身体を沈み込ませるように壁の向こうへと透過した。
 拘束具を取り出し、少女へと忍び寄る。
 男の手が伸びた――その瞬間。
「汚い手で、触れてくれるな」
 少女の頭髪がまるで蛇のように素早く柔軟に動き男の腕へと絡みつく。
 驚き……と同時に悟る罠。
 男は拘束具を早くも手放し、腰からナイフを抜き放った。
 頭髪を切断……しようにも、まるで鋼のワイヤーのようにナイフをうけとめて阻む。少女は、もとい変装していたエクスマリアはパチリと目を開き、至近距離から波濤瞳術を発動。黄金の波が男を突き飛ばし、ものの少ない棚へと激突する。
 割れたタイル床に転がりつつも、ナイフを投げる男。
 しかしそれよりも早く、エクスマリアの頭髪は彼の四肢に巻き付き壁際に押しつけていた。
「くそっ、こんな仕事請けるんじゃなかっ――」
 パン、と破裂音が聞こえた。
 屋外にて運び出しを手伝う予定だった男が、舌打ちをしてその場をゆっくりと離れよう……としたところで、屋根の上から飛び降りたゼファーによって行く手を阻まれた。
「あら、どこかへお出かけ? こんな夜更けに危ないわねぇ」
 背を向けたままのゼファーに警戒し、ズボンにひっかけていた拳銃に手を伸ばす。
「人さらいが、出るらしいわよ?」
 振り返るゼファー。
 銃を抜く男。
 その判断ひとつで、ゼファーは彼が戦闘経験に乏しいことを察した。
 男が銃の狙いをゼファーの身体にあわせ、止め、引き金に力を込める。その三つの動きの間にゼファーの回し蹴りが彼の手首を打っていた。
 より正確に述べるなら、『もぎ取って』いた。
 強烈なパワーとスピードによって手首から先の間接が抜け、脱力したことで手から拳銃が飛んでいく。
 土むきだしの地面を滑っていくのをぼうっと見ていた男の側頭部に、ゼファーは蹴りの遠心力をそのままのせた槍の打撃をうちこんた。
「捨て犬や捨て猫を拾って面倒を見る趣味は無いけれど……其れでも、誰かに弄ばれて生きるよりはずっとマシよね」

 仲間が早速罠にかかったことに気付かず、三人組の傭兵は領内を顔を隠して歩いていた。
「人さらいにこの金額ねえ……美味しい仕事だが、よかったのかい? 依頼人も秘密で受け渡し場所も隠蔽されてる。ヤバい案件だぜこれは」
「ヤバい分だけ金になるんだよ。道路掃除よりドブさらいのほうが金になるだろ?」
「そーゆーもんかねえ」
 男達は特徴の書かれたリストを片手に、手当たり次第掘っバラック小屋の中を覗いて回っていく。
 ひとつでもアタリを引けば儲けモンといった浅い考えのようだ。
 そう言う人間は得てして――。
「おっ、見ろよ。多分あいつだぜ」
 小声で仲間に呼びかけ、バラック小屋のひとつを指さす。
 そっと近づき、小窓から中を覗いてみれば奴隷の少女がベッドで眠っていた。男達には気付いていない様子である。
 男はハンドサインを出して二人を入り口に回らせると、一斉に突入するように指示した。
 頷き、扉に手をかけた――その瞬間。
 バチンという音と共に男が吹き飛んだ。ドアノブに流した電流に痺れ衝撃によって吹き飛ばされたのである。
 と同時に鳴り響くアラーム。
 吹き飛んだ男を見捨て、ドア前の男が慌てて逃げ出したその時、すさまじいスピードで彼の背後に回り込んだノワがトランプカードをスッと男の首に押し当てた。
「残念。ショーはこれにて閉幕だ。楽しんで貰えたかな?」
 カードをスライドさせると、ナイフでそうしたかのように喉が切り裂かれ血が吹き上がっていく。
 驚いたのは窓側の男である。たちまちのうちに仲間が殺され、もう一人もしびれている所に容赦なくトドメをさされている。
 足音を殺して自分だけこっそりと逃げよう。そう考えてきびすを返した、その時既に。
 男の首筋に呪術の針が打ち込まれていた。
 ぐらんと足下がゆれ、世界がとろけ、地面が顔めがけて飛んでくる。
 全身の力が抜けて顔から倒れたのだと自覚するより早く、男は激しく血を吐いて脱力していた。
「仲間を見捨てようって判断は悪かぁないが……身の程を知らなさすぎたね」
 屋根の上、どこからともなく駆けつけていたことほぎが艶めかしい脚をたらして組んだ。黒い小鳥が彼女のかざした指にとまる。
「これに懲りたら……いや、生まれ変わったら、もっとマシな生き方をするんだね」
 キセルをくわえ、吸い込み、そして赤い唇から細くゆっくりと煙を吐き出した。
 不思議といい香りのする紫色の煙が男を包み込んでいく。もはや逃れるすべなどないかのように。
「さて、他の連中は上手くやってっかねェ」
 少し様子を見てみるか。そうつぶやいて、ことほぎは小鳥を再び空に飛ばした。

 スラム街。どのような経緯でそこがピリムの領地となったのかは定かでない。
 だが居場所を失った者がもう一度生きていくために流れてくる場所であることは確かなようで、流れ者や変わり者が町を歩くことも珍しくなかった。
 町娘にすっかり変装しきった夢心地が白い顔を袖で隠しながらふらふらと出歩いていても、それほど珍しくはない。
 というより。
「おい、女。殺されたくなければ俺たちについてこい。なあに、行った先でも死にぁしねえさ」
 そういう容姿の奴隷がリストにいたようで、がしりと腕を掴まれた。
「あぁ、そんな……」
 夢心地がヨヨヨとしなを作って鳴き真似をする。
「まさかこんな非道がまかり通るとは、幻想……おそろしき土地よ」
 バッと袖を払い、素早く正体を現す夢心地。
「な、なんだお前は!?」
「なんだチミはってか」
 スッとありもしないカメラ目線へ振り返る。
「どうも、変な領民です」
 そして不思議な踊りを踊り始めうっかり見入ってしまったその隙に――はるか遠くからとんでもない速度で走ってきたクーアが地面をダンッと蹴って男の後頭部へと手を伸ばした。
「ひとが」
 後頭部を鷲掴みにし、勢いのまま地面に押し倒す。
「ねこから」
 左手にもっていた小瓶のコルク蓋を親指でピンと抜くと、自分の手ごと男の頭へふりかけた。
「逃げられる道理などないのですよ?」
 弾ける火花。燃え上がる炎。
 悲鳴をあげて暴れる男をそのまま押さえつけ続け、自分の右手が炎の中に沈んでいるさまをうっとりと見つめる。
 やがて男が動かなくなった……というより真っ黒に焦げてしまった頃、クーアはゆっくりと立ち上がり、綺麗に白い手をぱしぱしとはらった。
 そして。
「ところで、そこに隠れている方も――」
 振り返る。
「お仲間ですか?」
「――!?」
 木の陰に隠れていた男が悲鳴をあげて逃げ出した。
 どうやら足の速さには自信があるようで、夢心地ではとても追いつけないような逃げ足を見せた――が。
「ひとが」
 後頭部に手。
「ねこから」
 強制的に地面に押しつけられる顔。
 そこからは、もはや先人の繰り返しだった。
 やがて真っ黒に焦げた男から身体を起こし、ぱたぱたと手を振るクーア。
 ふと振り返ると、夢心地がウナギチョコパイバーガーをそっと差し出していた。

「あの、脚を? ……仕方ありませんねぇ。これに集中下さるのなら」
 そう言って、琴文美は裾をゆっくりとたくし上げ脚を膝まで露わにした。白い絹のような美しい手触りを、ピリムはゆっくりと手で確かめる。
「邪心を来たしてはいけませんよ? ふふふ」
 袖で口元を隠して笑う琴文美。ピリムはぴくりと小指を動かしたが、しかしそれまでにして脚から手を離す。
「済みましたよー。あとはよろしくお願いしますー」
 何かを飲み込んだとおぼしき、表面的にはそっけない態度。
 ピリムに手を振って、琴文美は早速町の中を歩き始めた。
 ことほぎたちの偵察によってある程度目星はついている。
 あやしい人物の前を、適切な変装をして横切ればよい。
 欲張るなら目を引くほうが、更に欲張るなら人目につかぬ場所へ誘ったほうがずっとよい。
 その点において、琴文美は見事に雇われ誘拐魔を路地裏へと誘い込んでいた。
「動くなよ。生きてりゃキズはついてもいいらしいんでな。アンタも五体満足でいたいだろう?」
 がしりと手首を掴まれた琴文美は、顔をフードで隠したままゆっくりと振り返る。
「ああ、乱暴はいけませんよ、こんなにも小さくてか弱いこの鬼を……一体どうされるつもりなのです?」
「決まってんだろう。アンタを…………まて、鬼?」
 違和感に気付いたが、もはや遅い。
 琴文美が指を波打つように動かせば、男の手首がぷつんと途中で切断された。
「わたくしは手加減が出来ません故……いえ、抹消ですもの手加減は不要、ですよねぇ?
ふふふ。どう殺されたいですか?」
 悲鳴をあげて飛び退く。
 琴文美の武器が透明なワイヤーだと気付いたのか、すぐさまその場から逃げだそうと走り――。
「ダメですよー、どろぼーは」
 出そうとした、その時には、ピリムが真横に立っていた。
 それだけではない。
 男の脚が両膝からスパンと斜めに切断され、なすすべも無く上半身が地面に転がった。
 這いつくばって逃げようとする男に刀を突き刺し、地面に『ピン止め』すると、ゆっくりと身をかがめて顔と顔を近づける。
「誰だって自分の物を盗られたら不快になるものですー。
 ほら、だから皆さんのお仲間私が盗っちゃいましたー。
 そうでしょう、いやな気分でしょー。
 なのでもう……」
 耳元で、囁いた。
「こんなことやっちゃ、いけませんよー」

●エンドロールはいらない
 後日談、ではない。
 ピリムの領地から奴隷を攫おうと企んでいたとある領主は、何日たっても依頼した連中から連絡がないことにひどく不安を募らせていた。
 失敗したのだろうか。
 全員返り討ちにあったのか。それとも彼らが裏切ったのか。
 もっと金を積んで腕利きを雇えばよかっただろうか。
 後悔と妄想に苛まれる毎日は、領主をひどく憔悴させた。夜眠るときなど、猟銃を抱きかかえてベッドまで行くほどだ。
 そんなある夜。
 雷鳴の鳴る夜のこと。
 明滅する窓の外に人の影が見えた気がした。
 映り込んだシルエットに驚いて振り返った、その時。
「ダメですよー、どろぼーは」
 耳元で、囁いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――以降、領内の奴隷が攫われることはなくなったという。

PAGETOPPAGEBOTTOM