PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>春の嵐

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 よく晴れた日のことだった。頬を撫でる風は爽やかで、高い空には雲ひとつ無く青々としていた。そんな日に草原を歩いたらとても心地よいと思ったのだろう。最初にそれを見つけたのは、両親とともに街近くの草原へ来ていた幼子だった。
 小さな指が「あれはなぁに」と空を差して、どの鳥のことだろうと穏やかに顔を上げた両親の顔は一転、青褪める。
 青空に浮かぶのは、鳥のような魔物の影。鳥のような翼を持ちながら、獣足も視認できた。それはまだ遠く、急いで駆ければ親子たちは街へと逃げ延びることが叶うだろう。……けれどその先は? その先は、街がどうなってしまうのだろう。恐ろしさに震えた父親の足は縫い付けられたように地から動かず、妻子を腕に抱きしめることしかできずにいた。
 小さな影が少しだけ大きくなる。
 ――ああ、このまま街へ……。
 そう思っていたが、魔物たちは草原の向こうの森へと降りていく。暫く羽を休め、それからまた飛び立つのかもしれない。
 どうやら助かった――等と思う暇はない。慌てて親子は街へと帰り、そうして見聞きしたことを人々へと伝えられ――『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)の元にも至急の報告書として上がってきた。
「た、大変です……!」
 のんびりとおやつタイムを楽しもうとしていたノースポールは、思わずシマエナガサブレを喉に詰まらせそうになりながらも紅茶で流し込み、慌てて駆けていく。
 向かう先は、ギルド《ローレット》。
 イレギュラーズたちへと救援要請を出すために。


「そういうことですので、皆さんにはノースポールさんの領地、幻想北方領スノー・ホワイトへ行ってもらいたいのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉とともに、傍らのノースポールがお願いしますと頭を下げた。
 先日からローレット内では幻想の裏市場で大規模な奴隷売買の噂が交錯し、秘密裏の依頼――奴隷達の救出や商人達の捕縛と言った依頼がローレットを騒がせていた。
 奴隷商の暗躍が続く中で、また違う事件も発生している。
 これは極秘情報であり、大きな声で口には出来ないことだが――王権の象徴となる品のひとつが眠る『古廟スラン・ロウ』の結界に何者かが侵入し、それが奪われた。更には伝説の神鳥が眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれたのだ。
 時を同じくして、幻想各地に多くの魔物が出現し始めた。それらの多くは『鳥』や『巨人』に関わる魔物で、古廟スラン・ロウ近くの街の壊滅も確認されている。古廟スラン・ロウでの盗難の件が関わってきていないとは考え難い。
 そしてその魔物たちが各地の領地を襲っている報告も次々と入ってきていた。
「鳥と獣を足したような姿と、その周りに浮かぶ小さな影を見たという報告が複数来ています。まだ森から飛び立った報告は受けていませんが……時間の問題だと思います」
「戦うのには『ほのぼの平原』が良いと思いますので、そこで迎撃をするのが良いと思うのです!」
 平原は広く、森からの距離もある。話している今敵が森から移動を開始したとしても、急いで向かえば街へ辿り着く前には会敵できることだろう。
「どうか、お願いします! 私と一緒にスノー・ホワイトを護って下さい!」
 お土産にシマエナガサブレもお付けしますので!

GMコメント

 はじめまして、壱花と申します。
 ノースポールさんの領地が狙われていますので、敵の撃破をお願いします。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。想定外の事態は絶対に起こりません。

●成功条件
 魔物の討伐

●敵
・風花の精×10
 上半身は少女、下半身は花の、風精霊です。大きさは30cmくらいです。
 知性は低く、楽しいことに惹かれます。動きは素早く、自在に飛び回ります。
 肉体は風で編まれており、刃物で斬りつけても手応えはないでしょう。炎に弱くよく燃え、倒すと花だけが残ります。
 『甘い香り』神・遠・ラ【魅了】
 『いたずらな風』神・遠・範【出血】

・コカトリフォン
 頭と翼がニワトリ、下半身は獅子のグリフォンです。大きさは3m程。
 『神翼庭園ウィツィロ』から現れたモンスターで、風花の精を使役しています。
 人間並の知性を持ち、空を飛び回っては滑空して鋭い爪や嘴で襲ってきます。
 体が大きいため風花の精よりは小回りが効かず、広範囲を動き回ります。
 『切り裂き』物・至・単【出血】【猛毒】
 『高い声』神・近・範【石化】【麻痺】
 『羽撃き』物・遠・範【足止】【不運】

●フィールド
 ほのぼの平原。見晴らしの良い草原になります。
 ふわふわな小動物等が生息していますが、吃驚して既に逃げています。
 時間帯は昼間、天候は晴れ、です。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <ヴァーリの裁決>春の嵐完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月25日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
一条 夢心地(p3p008344)
殿
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者

リプレイ

●風は告げ
 小さな鳥が、森から一斉に飛び立った。
 その理由はすぐに知れる。街を出て『ほのぼの平原』の中腹辺りへと向かうイレギュラーズたちにも、慌ただしく飛んでいった鳥たちの後ろに巨大な影が森の上空へと浮かび上がるのが見えたからだ。
 距離があるというのに見えるその姿に、『差し伸べる翼』ノースポール(p3p004381)は目撃者が無事だったことへの安堵と、確かな敵意を覚える。住民たちに不安を与えたこと、そして彼奴らの目的に対してだ。どちらも許すことは出来ないし、許す気もない。この先へは、絶対に行かせられない。大切な街や人々に、指一本触れさせてなるものか、と常ならば柔和な瞳が強い意志を湛えて、迫る敵を真っ直ぐに見据えていた。
「わあ、はじめて見る魔物!」
 ふわふわの毛に覆われた手を額に当てた『虎風迅雷』ソア(p3p007025)はピョンと小さく跳ね、ゆうらり尾を揺らす。次第に大きさを増していくコカトリフォンの姿を興味深げに見つめ、よし! と明るく笑みを零す。
(決めた、ボクはあれを狩ってみせるから!)
 知らない獲物を仕留めるのは楽しそうだし、あれは半分ニワトリだし、お肉も美味しそう。それに格好良いから、領地に持って帰れたら剥製にするのもいいかもしれない。絶対に狩って、皆が要らなければ持って帰ろう、そうしよう。
「ほう! あれが封じられていた魔物とやらであるか!」
 うん、と再度ご機嫌に尾を揺らした虎の精霊の傍らで、嬉々とした声をあげるのは『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)だ。伝説に謳われる魔物となれば、相手にとって不足はなし。白百合めいた淑女然とした顔立ちに好奇を湛えた瞳をキラキラと輝かせ、拳同士を打ち付ける。文字通り、腕が鳴った。
「ほのぼの平原……うむ、実に良い名の土地じゃ」
「いい風なんだけどなー」
「このような良い地に、可愛さの欠片もない魔物がうろついて良いはずは断じて無し」
 普段はふわふわの小動物が生息しているその土地は、名前だって風だって好い。翼にそよそよと当たる風を感じながら『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)が口にすれば、『殿』一条 夢心地(p3p008344)もその通りだと言わんばかりに頷いた。
「あれだけの数、力を持った魔物を領軍で相手するのは厳しいだろうね……」
 コカトリフォンの傍らに浮かぶ小さな――本当に小さな影――風花の精が視認出来るようになった。その数は十。『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は目を細め、静かにそう分析する。ローレットの冒険者としても、別の領地を収める者としても、放置することなど出来ない。況してや各地の被害状況を思えば、可能な限りに手を貸し、必ず護り通すと心に誓う。
「ああいうのって物理系が効きにくい事があるけど、花の姿なら物理の炎でも燃えるのかね?」
「燃えそうな気はするな」
 カインの隣に立つ『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)がどうなんだろうかと口にすれば、ハイペリオンの羽根に触れていた『聖断刃』ハロルド(p3p004465)が同意を示す。風と炎が混ざってよく燃えるのではないか、と。そして率いるコカトリフォンも、また、獣である上に属性が同じだから風花の精を引き連れているのであろう。と、何となくだが、そう思った。
「ウィツィロとハンマーランドのため、ウィツィロから現れた魔物は皆殺しだ」
 それにここは……と、ハロルドはノースポールへとチラと視線を向ける。ここは、戦友の恋人がいる領地。個人的な協力は惜しまない。
 コカトリフォンの姿が、いよいよ近くなる。ウォッカを一口含んだノースポールが浮かび上がった。

●風は舞い
 大きな翼で悠々と飛ぶコカトリフォンの視線の先には、森や草原とは違う人工物――家々の屋根の連なる街が見えていた。草原にいくつかの生物に見られている事には気付いていたが、少数を殺すよりは無辜なる弱者を多数、凶爪に掛けた方が良い。攻撃されなければ捨て置くつもりで、空高くの風に乗っていた。
 しかし、コカトリフォンたちの進路の先へ、白い翼で宙を蹴った少女が飛び上がる。
 そして少女は、大きく翼を広げて楽しげに踊りだす。――大事の前の小事。捨て置くことは出来た。けれど、反応してしまったのだ。コカトリフォンが率いてきた風花の精たちが。
 ウェールの手首にくっついたちび天つ狐が、小さなお手々をぺちぺち。こっちなのだと視線を攫えば、その先にフリフリと振られる大きな尻尾。……普段のウェールでは恥ずかしすぎる行為だが、先にエールを入れて戦闘に支障のない程度に酔いを回らせている。いいぞーっと口笛を吹きそうになるも、いけないとそれを自重出来る程度の酔い具合だ。
 顔を見合わせた風花の精たちは面白そうだと思ったのだろう、半数はピュンっと惹かれて飛んでいく。コカトリフォンがおいコラとコケッと鳴くが、既に風花の精の半数は飛んでいった後だ。
「こっちにおいでっ! 花と雪のダンスを踊ろう!」
 大きく羽を羽ばたかせ、白雪と花を巻き上げる。近寄った風花の精が巻き込まれているが、少し離れていた風花の精の瞳には綺麗で楽しいものと映ったようだ。
「ノースポール!」
「大丈夫です、まだいけます!」
 イレギュラーズたちの想像以上に風花の精の動きが早かったのだろう。巻き込まれた半数の風花の精が巻き起こした風がノースポールの体を傷つけ、羽根が舞う。切り刻まれた体は流血しているが、深い傷ではない。
 まだ頑張れる。まだかばってくれなくていい。スノー・ホワイト領を守ってみせる!
 それよりも――。
「行くぞ、テメェら!」
 ノースポールの視線を受けたカイトが天を廻し、機運をひっくり返す加護を仲間たちへ与える。自身に力を満ちるのを感じながら、自身の命を燃やすのはウェールだ。命を燃やした彼の両腕から放たれる二匹の獣。狼と黒炎の虎、二匹の焔が風花の精を追いかける。
 ――コケェエエェェェエエッ!!!
 劈くような鳴き声は、コカトリフォンのものだ。おそらく勝手に動き出した風花の精への怒声なのだろうが――。
「クハッ! 図体がデカいばかりの鳥公め!」
 己の力を高めた百合子が、一笑とともに挑発する。
 所詮は鳥。その上、封印されていた時代遅れの鳥。
 コカトリフォンの視線が百合子に向けられ、敵意が――殺意が宿る。
「そうじゃのう。麿のような優雅さも持ち合わせておらぬようじゃし、これはただのにわとりであろうよ。図体はちと立派なようじゃが、手下が居なければ何も出来ぬのか?」
 優雅に開いた扇越しに風花の精の動きとコカトリフォンの動きを注意深く追っていた夢心地は、付け入るべきはここであろうと判断して。ちろと向けられた夢心地の視線が、コカトリフォンを嘲笑っている。
「ほう、馬鹿にされている事は分かるのであるか。鳥は脳が小さいというが」
 立てた四本の指をくいと動かし挑発した百合子が後方へ跳べば、上空から爪が降りてきた。
 同時に、ハロルド、夢心地、ソアが動く。ほんのひと瞬き程の間にカインと目配せをし、風花の精たちの気を引いたノースポールたちとは別方向へと移動を行えば、その間にカインがすかさず入り込む。
「君達に恨みはないけども、これ以上は魔物通行禁止、だよ!」
 ティープインサイトで命中力を高め、続きざまに唱えるは熱砂の嵐の魔法――シムーンケイジ!
 熱砂の嵐が風花の精たちを襲う中、風花の精たちはよろめきながらも、嵐の風に載せるように甘い香りを放つ。
「……いい風に、いい匂いだ」
「シマエナガサブレの方が美味しそうな匂いですが……」
 半数ほどの風花の精が放った甘い香りの虜となったふたりは、もっと楽しく一緒に踊りたくなったと、ふらりと風花の精へと近寄っていく。なんだかとても、そうすることが魅力的に思えて。
「皆さんも踊りましょうっ」
 敵味方の区別なく柔らかな羽根が舞わせ、お手を拝借とノースポールが踊れば、その手を取るようにして位置を移動したウェールが庇う。
「おいおい、ステージ上の踊り子さんへの攻撃はご法度だろう? ――カインさん!」
「ふたりとも、しっかり! ――クェーサーアナライズ!」
 短く読んだ声に、カインが応じる。言霊じみた声が届いたのか、ノースポールとカイトがハッと息を呑みこんだ。「ありがとうございます!」「すまねえ!」頼りになる仲間たちへ声を投げ、カイトはすぐに気を取り直して炎狩を放つ。羽根と炎を舞わせた火炎旋風は、カイトが指差した風花の精へとまっすぐに放たれ、その向こうの風花の精ごと焼いていく。
 直線攻撃で一度に当たるのは一体か二体だ。一撃で落とせもしない。けれど、それでも。仲間と協力し合い幾度も攻撃を重ねれば、倒せない敵ではない。風花の精よりも強いコカトリフォンは別の仲間たちが引き剥がしてくれている。信を置く彼等のことだ、コカトリフォンの攻撃がこちらに届かないように立ち回ってくれることだろう。それに、中間地点を位置取り注意深く立ち回ってくれているカインも此方側にいる。何かあれば彼が注意を促すだろうし、今のように直ぐに状態回復も行えるようにしている。
「いけるか?」
「はい、まだいけます!」
「当たり前だ、風読みの鳥さんが風に負けるわけにはいかねえからな!」
 元気な声にハッと思わず吹き出したウェールは、ノースポールの背を叩く。まだ、ノースポールのステージは終わっていない。彼女が大丈夫だと言う限り、ウェールは――仲間たちはノースポールを信じて引き付け役を任せる。
 ぽとり、ぽとり。確実に花が落ち、風花の精の数は減っていく。

●風は鳴き
 ――コケコッコォォォォォオオオ!!
 風花の精たちから離す夢心地たちに誘われたコカトリフォンは、怒り心頭の鳴き声を発して追いかけていく。
「このっ」
 その下で、ピョン。
「この……飛び回るな!」
 ピョン、ピョン! 飛び跳ねて、えいえいっとコカトリフォンへと握った手を向けていたソアが不服そうに頬を膨らませた。高すぎだし、動き回るし、全然当たらない! けれど逆に、それはとてもすごいことだ。ニワトリの翼なのにあんなに飛べるなんて! ソアが普段見るニワトリはあんなに高くを飛ばないし、あんなに早く動き回らない。
(ふんふん、コカトリフォン! やっぱり格好いい!)
 皆は挑発していたけれど、格好いいと思う。狩りたい欲求がむくむくと膨れ上がっていく。
 敵に手が届かなくて、今なら皆とも離れている。それなら、と瞳を輝かせたソアはビシッともふもふな手でコカトリフォンを指差す。イレギュラーズたちを追いかけているコカトリフォンは、まだ気付いていない。
「お姉さまのすごい魔法を見せてあげる!」
 すごいお姉さまの、すごい魔法。それを使える自分もすごい。自分の可能性を信じて力を引き出し、編みだす魔法は奈落の風。虚空に生じた次元の裂け目から溢れ出した瘴気がコカトリフォンを襲う――!
 ――コッコケェエエエエエエ!?!!
 コカトリフォンの悲鳴じみた声に、百合子は足を止めて振り返る。
「やったあ! どーだ、お姉さまの魔法はすごいでしょ!」
「こっちにも居るぞ、チキン野郎!」
 機動力を些か落としながらも視線をソアへと向けて大きく翼を広げたコカトリフォンへ、百合子と夢心地とは違う方向から声が浴びせられる。コカトリフォンの範囲攻撃が出来るだけ仲間たちへ行かぬようにと配慮して位置取りをしたハロルドだ。
 そこで、やっと。コカトリフォンは三方から囲まれた形となっていることに気がついた。コカトリフォンが表情がわかりやすい顔を持ち合わせていたら、その顔に染まる色は青筋が浮き立つような激しい怒りであっただろう。
 ばさり。風が鳴る。風が鳴いて砂が舞い上がり、強風とともにハロルドを襲う。しかし、仲間たちが敵の気を引いてくれている内に高めた防御力のお陰で、耐えきれる。耐久戦を見越し、即座に発動させるのはイモータリティ。
 コカトリフォンが高さを保ったままでは、百合子の拳も夢心地の刀も届かない。再度挑発をし、ソアがすごい魔法を食らわせれば、いつの間にかコカトリフォンは青い刃に囲まれていて――逃げ場は、ない。突き刺さる刀撃に、悲鳴めいた甲高い声が上がった。
 巨体が降下――落ちてくる、が近い。落ちながらも目玉だけがギョロギョロと動き、次の獲物を探している。
「ははははっ! おら、かかってこいよチキン野郎!」
 振り下ろされる鋭い爪を受けた飛翔する透明な青い刃が、パキリと折れる。構わない。変わりの刃はいくらでも出せる。肉がえぐられる。構わない、その分仲間たちが攻撃に動いてくれる。
「ユリユリユリユリユリィーーッ!!!」
 側面へと回り込み、腰を落とした百合子が白百合百裂拳を放つ。
「白百合清楚殺戮拳の歴史上――グリフォンを相手にすることなど想定済みよ!」
「下りてきたらもうボクたちの番だね! えーい!」
 明るい声とともに放たれた光撃。コカトリフォンには一瞬、何が起きたか解らなかったことだろう。光の速さで放たれた光撃に、遅れてゴボリと血を吐き出した。
「なーーっはっはっは! にわとりごとに負ける麿ではぬゎーーい!!!」
 ゆらゆら揺れる妖しき刀を引っさげて、夢心地が高笑い。落ちている鳥を斬ることなぞ造作もない、と首を狙いにいく。重く残る手の内の感触と、少量の血。羽毛が固いのか、首を掻き斬るには至らない。それでも、幾度も狙い続ければ確かに斬れると、その手応えが教えてくれている。
 幾度も、光撃を、刀を、刃を、拳を、コカトリフォンへとぶつけた。でかい図体、体力の高さは承知の内。爪や嘴の一撃を受ければ、その都度の回復で間に合わない程に削られる。戦闘が長引けば、勝利の女神が微笑む先は分からない。
 ――否。分からないが、解っている。
 勝つのは、イレギュラーズたちだ!
 風花の精の数を殲滅しきる前に、カイトがコカトリフォン側に加わる。それがきっと転機だった。イレギュラーズたちの攻防が優勢へと変じた。
「叩き落としてやらァ!」
 バサリと羽撃き飛び上がろうとしたコカトリフォンの上空をマークし、無防備な背中へソニックエッジが叩き込まれた。
 姿勢を崩したコカトリフォンが地面へと胴体から落ちると、待っているのはふたりの美少女。それぞれでむんずと両翼を掴むと、飛び立てぬようにと集中的に攻撃を浴びせかける。
 更に仲間が増え、狼と虎の炎が駆け、治癒の言霊と号令が飛べば、回復手段を持たない仲間の代わりに率先して攻撃を引き受けていたハロルドの瞳に闘志が宿る。走るだけの体力はない。けれど――。
「死に晒せやァッ!」
 再び囲んだ青い刃が、コカトリフォンの息の根を止めた。

●風は謳う
「よかったら、スノー・ホワイト領に寄っていってください!」
 カインとともに負傷した仲間の傷を癒やしながらのノースポールの明るい声に、反対を示す言葉は上がらない。
「ねえ、コカトリフォンはどうする? ボク、持ち帰ってもいいかな?」
 戦っている最中から気になって気になって仕方がなかったソアは、コカトリフォンをつんつんと突きながら、そわそわチラチラと仲間たちへと視線を送る。今すぐこの場でガブリといきたいところだけれど、レディだからそんなことはしない。それは、はしたないこと、らしいから。
「ここに転がしておいても困るので、いいですけど……」
 どうするの?
 ノースポールの視線が問う。
「食べたり剥製にしたいなって」
「確かに、食べられそうだよな」
「ふむ……まじまじと見ると腹が減ってきたな」
 全員の視線がコカトリフォンに向けられ、カインも大きく頷いて同意を示した。
「焼鳥にすれば美味かろうか。吾はねぎまがたべたい! 」
「俺はチキンステーキだな。厚く切って喰いたい」
「ボクはライオンの部分も食べてみたい!」
「獅子の味は麿も気になるのじゃ」
 どう食べるかを相談しあいながらコカトリフォンの巨体を皆で協力して運べば、街へ着くのはあっという間だった。住民たちはコカトリフォンの死体に驚いた顔を見せたが、平和が戻ったことを知り、表情を綻ばせた。
「今日は本当にありがとうございました! お好きなだけ、お持ち帰りください♪」
 街の人々に用意してもらったたくさんのシマエナガサブレを協力してくれたイレギュラーズへと渡していけば、巨大鶏――コカトリフォンを倒して腹を空かせていた百合子が早速サクサクのサブレを口にして「美味であるな!」と笑う。
 本格的に暖かさが増す前に襲撃を受けたスノー・ホワイト領には此度、嵐が訪れた。けれどイレギュラーズの活躍によって街は護られた。たくさんどうぞとシマエナガサブレを手渡してくれる住民たちはみな笑顔を浮かべ、活気に溢れている。泣いている姿がないことに安堵したように、ウェールもシマエナガサブレの包みへと手を伸ばした。友人への土産にちょうど良さそうだ。
「良かったら、観光も如何ですか?」
 嵐が収まり風が謳えば、スノー・ホワイト領にも本格的な春がやってくる。シマエナガサブレを手に、春のスノー・ホワイト領もとても美しいんですよ、とノースポールが微笑み誘う。
 ふわりと吹いた暖かな春風が、イレギュラーズたちの頬を優しく撫でていった。

成否

成功

MVP

カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽

状態異常

ハロルド(p3p004465)[重傷]
ウィツィロの守護者

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

皆さんのお陰で、ノースポールさんの領地、そしてその地に住まう人々は護られました。
皆さんがステキに動いてくださったので、とても楽しかったです。
MVPはマークの使い方が素敵だったあなたへ。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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