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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>誓いの帰る場所

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 セキエイの街道は、今日も穏やかな陽光の中にある。
 院からスタートし、湖を二周り。軽く脚を解して、一定時間を行けるとこまで走ってから、折り返してゴールの院に戻る。
 そんな基礎的な体力作りを、日々の努力としてドーレ・クォーツは行っていた。
 成果としては、未だ芽を出していない。
 だが着実に、成長している。
 荒くならない呼吸に、少年はそう実感を得ていた。
「おん……?」
 ふと、ドーレは胸騒ぎを覚えた。
 それは些細な、予感とも言えない程に微かな、確信の無いモノだ。
 不安、恐れ、怯え。そんな、ネガティブな感情を微量ずつ与えられた様な――
「こっちに来るな!」
「っ」
 足に急制動を掛ける。いきなり聞こえた声が、自分に向けられた物だと思い、その発信元を探してドーレは見た。
 兵士だ。
 領地内に体裁として駐屯させられている、働いているのかいないのか分かりにくい、幻想国らしいその職種の人が、こっちに来るなと悲鳴を挙げている。
 ……悲鳴だ。
 言葉は、ドーレに向けられていなかった。
 その、懇願にすら思える台詞は、兵士に接近する魔物へと投げられたモノだったのだ。
「ッ!」
 腰の抜けた兵士へと、魔物は舌舐りで近付く。全身に毛を生やした、前傾姿勢で二足歩行。
 獣種に似た種類で、シンプルにウルフマンと呼称されていた魔物だ。
 鋭い爪と牙、強靭な脚力で、前へと行く力が強いタイプ。
「だから……横からに弱い……!」
 行動は、知識から来る判断で実行される。
 息と足音、気配を可能な限り抑えてダッシュ。ウルフマンが兵士に集中している隙を狙っての、横顔へぶちこむ渾身の右ストレートで吹き飛ばす。
「オッサン立てるか!」
「……あ、お、おう!」
 呼び掛けに応じ、兵士は立ち上がる。
 その姿を確認して、ドーレは両腕を上げた構えで敵を見据えた。
「くそ、俺の一発じゃやっぱダメだ……」
 立ち上がるウルフマンの狙いが自分に向いた。その瞳に怒りの色が見て取れる辺り、知能なんかはそれなりに低い様に思う。
 ただ、先程の奇襲とは違い、正面からのやり合いは分が悪いとも思うのだ。
「というか普通に」
 無理。そう呟くより速く、敵の身体は前にある。
「うおお!?」
 殺られると、思考が追い付いた瞬間、ウルフマンは横へ吹き飛んでいた。
 殴られたのだ。
「オッサン!」
「いいか小僧!」
 先の再現に見えて、実際には少し違った。身体ごとぶつかる様にした兵士は、そのまま押さえ付ける動きでウルフマンを倒し、携帯したナイフで急所を貫いてトドメとしている。
「俺はお兄さんだ、二度間違えるなよ!」
 浴びた返り血を拭った兵士は、ビシィと指を突き付けた言った。
「……んなことより、どうしたんだよ。アンタ兵士だろ? 詰所はここじゃないし、あの魔物はなんだよ」
 触れない事にして話題は横へ置く。
「あんなの、今まで沸いて来なかっただろ」
 疑問なのはそこだ。
 毎日の鍛練で、この辺りに魔物が出たことは無い。加えて、兵士がここに来ることも無かった。
 こちらのサイクルに変化が無いのであれば、その要因は相手方にある、と。
「何かあったんだろ」
 至極冷静に、ドーレはそう結論する。
 そしてそれは間違っておらず、視線をさ迷わせた兵士がポツリ、ポツリと話を始めた。
「魔物の集団が現れたんだよ……この街道を進んだ先で」
 それらは、唐突に現れたと言う。
 詰所に居た兵士十数人に対し、その数は倍以上だ。
 故に救援を呼びに彼は走り、報告を終えて現場へ引き返した所、駐屯兵は壊滅寸前。
「俺は……逃げた」
 一人では太刀打ちできない。向かってくる筈の本隊に合流すべきと、兵士は思ったのだ。
 しかし、追い付かれたウルフマンに窮地へ追い込まれ、ドーレがその現場を目撃して現在に至る。
「……さっきみたいなのが集団でこっち来てるのか」
 自然とドーレの意識は院へ向けられる。
 いや、院だけではなく、セキエイという領地全ての危険だ。
「大丈夫だ、見ろ小僧、本隊が来てる!」
 視界の中で、兵士が指差していた。その先が示すのは、40人程の武装団体だ。
「ダメだオッサン、奴等も来てる」
 しかしドーレが見る先には、魔物の集団が迫ってきていた。
 先程のウルフマンに似た物に加え、低空飛行をする鳥型の物もいる上、その奥に巨大なシルエットがある。
「くっ、危険だが各個撃破するぞ! 少年、君はここから離れ――」
「それじゃダメだ」
 到着した隊長格の言葉を、ドーレは否定する。
 比較して、数で負けている上に、強大な敵が控えているのが解っているのだ。
「二人一組位で確実に数を減らして、こっちの被害を減らさないとアレに対抗出来ない」
「お、おい小僧お前、子どもが解った風な……」
「いや、私も急いていた、その方針で当たろう」
 前へ並ぶ兵列を、ドーレは見る。
 自分で言っておいて、採用されるとは思っていなかった分の混乱はあるが、間違ってはいない。
 と、思う。
 もしこれで全滅したら――
「……それでもアイツに……リアにこれ以上、負担を強いてたまるかよ!」
 胸の誓いを握り締め、逃げずに少年は兵士達の背中を見ていた。


 その日、ローレットはちょっとした騒ぎになっていた。
 幻想国のあちこちで、魔物の出現が発生したからだ。
 その中には怪王種と呼ばれる特異な個体も確認されている。
「さて」
 あらましを終えた『情報屋見習い』シズク(p3n000101)は吐息で区切る。
「バルツァーレク領、セキエイ地区で魔物の集団が現れ、救援依頼が提出されている」
 派遣されていた兵士達が、その侵攻を阻止する為に戦っているが、怪王種を含む魔物全てを討伐するのは限り無く不可能と言えるだろう。
「決して弱い訳ではない。雑魚の相手はあらかた任せて大丈夫だろうから、数の不利を覆してあげて、皆は怪王種に注力するのが良いだろう」
 得られている情報は多くない。
 解っているのは、それが巨大だと言う事。
「全高22m、表皮は石の様で、分厚い苔を纏う巨人。呼称するなら、ルングニル、ってところか」
 それは硬く、それは歩みを止めず、それはあらゆる害に侵されない。
「解っているのはそれだけ。後は実際に対面してみるしかないか……十分気を付けてやって来てくれ」
 そう言葉を締めくくり、シズクはイレギュラーズを送り出した。

GMコメント

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 新人気分のユズキです。
 初めての優先と関係者で緊張していますがそれはさておき補足です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 敵の戦闘データに関する部分が不明です。

●依頼達成条件
 魔物の集団と怪王種『ルングニル』の撃破。

●現場
 バルツァーレク領セキエイ地区、リア・クォーツ(p3p004937)さんの治める領地の街道となってます。

●NPC
 指示を出す事も可能ですが、敵との数の差を覆せばジワジワと優勢になっていくと思われます。

【ドーレ・クォーツ】
 成り行きで戦場に居ます。率先して戦う、と言うよりは、状況に応じて兵士達へ助言している様です。

【兵士達】
 40人の部隊。
 攻めより守りに向いているタイプ。
 近接、中距離のレンジで戦えます。

●出現敵

【魔物集団】
 数は約50匹。
 種族は魔獣と怪鳥の混合部隊。
 そこそこタフで、神スキルの効きが悪い様です。

『ルングニル』
 1体。
 巨人のフォルムで鈍重。
 頑丈な身体を持っており、手を出されない限り反撃してこないが真っ直ぐに人の居る方向を踏み均して目指します。

  • <ヴァーリの裁決>誓いの帰る場所完了
  • GM名ユズキ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ドラマ・ゲツク(p3p000172)
蒼剣の弟子
カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)
薔薇の
シラス(p3p004421)
竜剣
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
氷彗(p3p006166)
決意の雪氷
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
夕星(p3p009712)
幻想の勇者

リプレイ

「何よ、あの馬鹿デカイの」
 セキエイの街に立つ『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)は、視界に遠く映る影を見る。遠近法が狂ったので無ければ、離れた距離からでも解るそれは、明らかに異常だ。
「あんなのがセキエイに来たら」
 周りにある平和な世界に、崩れ落ちた絶望がダブって見えた。
「くそっ、冗談じゃないわよ! 自警団の皆、避難誘導をお願い!」
 鋭く指示を出す。簡潔に、単純に伝えて、自身は現場へと足を向けた。
 行かなければ。
「あの馬鹿……無茶して……!」
 先行した仲間との合流と、救わなければならない者の為に。


「お――」
 魔物軍と兵士達の衝突は、停滞している。
 二人一組の細かく分けた編成で対処に当たる事で被害は少ないが、空と地に分かれた敵に翻弄されて上手く数を減らせていないのだ。
「りゃー!」
 このままでは不味い。焦りから捨て身を考え始めた頃に、その雄叫びはやって来た。
「な、なんだ!?」
 思わず身を硬くした兵士達の合間を抜けたそれは、魔物の群れに浅く切り込んで静止。
「やるぜ、巻き込まない様に一歩、前へ!」
 両手にもった輪刃を腕ごと開いて腰を捻る。宣言通りの踏み込みをして、『宵の明星』夕星(p3p009712)は勢いのままに身体を回した。
 ……低い位置なら、姿勢も低くだ!
 彼が狙うのは獣系の魔物だ。四足歩行のそれらは、基本的に身体の位置が下になる。必然と、武器の振りもそちらへ寄らせないといけない。
 だから、腰は落として、腕の振りは斜めの軌道をいれていく。
「オレは小さな村の農民だから、戦闘のやり方は分からねぇけど!」
 周りに居た獣の顔を斬り裂きながら、回転途中の無理矢理な姿勢で跳ぶ。
 行き先は、飛行する怪鳥だ。
「オレ自身を武器として! コイツらにぶつけてやる……!」
 勇ましく夕星は武器を大振りした。
 ただ、まあ、当然。鳥にとって、地上から来た敵に距離を詰められれば、離れようと上昇するだけだ。
 努力虚しく、夕星の攻撃はスカッと空振りして落ちていく。チクショーと悔しさに渋面を浮かべて、
「悪い無理だった、頼んだ!」
 後を託したのは、まだ現着していない仲間だ。
 背中から地面に激突しながらでも、夕星はその声が届いた結果を見る。
「手間を掛けさせてくれるじゃないか」
 翼を穿つ一撃だった。
 大きく風穴を開けられた怪鳥は、浮遊を維持出来ずにふらふらと墜落のコースを辿っていく。
「……キナ臭いな」
 覗いたスコープでその鳥を捉えつつ、『怪盗ぱんちゅ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)はそう呟いて引き金の指を引く。発射された弾丸は、人の列をすり抜け、魔物の群れを縫って、直角に跳ね上がる軌道で逆の翼を破壊した。
「偶然、じゃないだろうな」
 突然の襲撃は珍しく無い。だが幻想のあちこちで、それも怪王種を伴った事件の乱発は明らかに作為的な意図を感じてしまう。
 ……奴隷騒動も決着してないっていうのにな。
「一体、どちらの差し金でしょうか」
 落ちた鳥の首を、地面に縫い付ける様に蒼の剣で貫く。『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)の思考も、アルヴァに近い。
 裏があるのだろう。と、漠然とした推測の域を出ないモノだが、多分、あまり外れてはいないだろうとも。
「さておき、今は目の前の事に当たるとしましょう」
 ふ、と。いきなりの救援に動きの硬い兵士達に向けて笑む。
 自身はフィッツバルディに与する形の立ち位置だが、バルツァーレク領の兵達に貸しを作るという体裁ならば許されるだろうと思う。
「理由を差し置いても、リアさんは友人ですからね」
 ドラマは前へ。尻餅を付いていた夕星の手を引いて立たせながら、
「ギルド・ローレットから応援に参りました。ご助力致します!」
 剣を横薙ぎにする。それは、こちらにじりじりと寄ってきていた魔物への牽制の意味と、もう一つ。
「あら、あら」
 するりとドラマの横をすり抜けて行く『薔薇の』カシエ=カシオル=カシミエ(p3p002718)が、動きを悪くしない為だった。
「なるほど、なるほど。戦いとはこういう、連携なのですね」
 ふわりと跳ねて距離を詰め、間合いを一歩外側に立つ。くるりと身体を回して上体を一礼する動きで下げて。
「ふっ……!」
 噛み付きに来た獣を、カシエの上を通る軌道でドラマの刃が突き離す。動きの崩れたその刹那、後ろ向きのまま放つカシエの足刀が鋭く敵を穿った。
「……まあ、まあ、随分とおいたが過ぎますこと」
 その重さは、打に衝撃を伴わせて貫き、吹き飛ばす。だが魔物とて、ただやられているほど大人しくもない。
 蹴りがぶつかる瞬間に、鋭い四肢の爪でカシエの脚を切り裂いていたのだ。
「ええ、ええ。容易くとは考えていませんとも。しかし……あちらも、容易くないのでしょうね」


「やっぱり、ローレットは強いんだな」
 改まった感想を呟いたのは、最初の銃声が聞こえた時だ。兵士達が攻めあぐねていた相手を、初手で崩し始める姿を見ての、ドーレの素直な言葉だった。
「でも……あれを、なんとか出来るのか……?」
 しかし、まだ少し離れた所にいる巨人の存在を無視することは出来ない。鈍足な動きは、巨体故に一歩が大きく、あと十数歩程でこちらを越えて行くだろうと、何となく想像がついた。
「なんとかするんだよ」
 不安を抱えたドーレの背中を、乾いた音と共に、少し強めの衝撃が襲う。勢いにつんのめったその隣を、『鳶指』シラス(p3p004421)が通りすぎていった。
 平手で叩かれたと理解した頃には、その姿は巨人へと向かっていく。
「ドーレ、大丈夫だった?」
 『決意の雪氷』氷彗(p3p006166)がそんなドーレを案じて近寄り、頭の先から足の爪先までをザザッと目視で確認していく。
「お、俺は大丈夫だっての!」
 多少――いや大袈裟な程の熱視線にいたたまれなくなって後退り。そんな姿に安堵の息を吐いた氷彗は一言。
「じゃあ速く避難するんだよ!」
 いいね!?
 と告げながら彼女も巨人に向かっていく。そこまで見れば、ドーレにもイレギュラーズの狙いに察しが付いた。
「二手に分かれるのかよ」
 魔物を野放しにも出来ず、巨人の侵攻も放置出来ないのは当然だ。だからドーレとしても、兵士と共に魔物を抑え、救援に来た戦力に巨人を倒してもらおうという、ざっくりとした想定があった。
 まあ、自分を含め、頼りの無さを否定は出来なかったのだが。
「ま、無茶はここまでだよ」
 そんな心情を悟られたのだろう。
 通過していく『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)に言われ、ついでに「はいこれ」と押し付けられた物体を、ドーレは両腕で抱え込まされる。
 なんとなくデフォルメされたデザインの妙な生き物? 風なそれを、しっかり確認しようとする間に真紅の女性は駆け足で行く。
 ちらりと振り返って、
「あんまり怒らないようにね」
「は」
 と、疑問符を加える間もなく、両肩にずしりとした重みがドーレの背後から襲い掛かる。
 無理矢理に身体を半回転させられたかと思えば、そこにいるのはよく見知った顔。
「――リア」
 色と同じ、冷めきった瞳が自分を見ている。それが、爆発しそうな怒気を懸命に堪えているのだというのは、直ぐに解った。
「ここを離れましょう」
 静かな声音は、反論を一切許さない。ある種の拒絶にも似た気配がある。
「院に戻って、ドーレはみんなと避難するの。大丈夫、あいつらはあたし達が倒すから、だから」
「ダメだ」
 だがそれを、ドーレは真っ向から否定した。肩に掛けられた指が痛い位食い込むのも、彼は構わない。
「いいかよ」
 口を開き掛けたリアの肩へ自分も手を伸ばし、顔を引き寄せて言う。
「戻ってる時間の余裕が無いのは、リアが一番解ってる筈だ。ならやることは一つ、そうだろ?」
「……だめ、ダメよ、あたしにはあんたを守る義務が」
「いい加減にしろよ!」
 戦場の真ん前で喧嘩するなんて場違いだ。
 どこか他人事の様に、冷めた視点を持っているのを自覚しながらドーレは、怒っている筈が怒られている事に目を丸くしたリアへ言葉を詰めた。
「お前が俺達を守りたい様に、俺はここを……俺達の家を守りたいんだよ!」
 行き場の無かった頃とは違う。今は、帰れる場所と、待ってくれている人達がいる。
「その為にお前が出来る最善はなんだ!」
 その為に、自分が出来る最善が、ここにある。
「俺を……俺をもっと信じろよ! お前には、お前しか出来ない事があるだろ、リア!」
 だから――。
「生意気」
 ふと、肩から圧が消える。
 手で顔を覆ったリアが、ドーレから後退る形で離れていた。ぐっ、と、親指と中指で左右のこめかみを押さえた彼女は、何かを振り払うように頭を振ってから一呼吸。
「帰ったら、シスターのげんこつ、覚悟しときなさい」
「……おう!」
 大切を守る為、二人の視線はそれぞれの戦場へと離れていった。


 ズシンと大地が震えた。整地されていた街道の表層が、巨人の歩みを破壊という形で残している。
「それにしても」
「馬鹿デカイな」
 近くで相対すると、改めてその巨大さを実感する。全体的には人型の岩石という風だ。関節らしい関節はあるものの、上手く可動しているかと言われると答えは否だ。
 そして、ゆるゆると上げられた足が、地面から僅かに浮いていく。
「リアの領地は、壊させない……!」
「ここから先へは、絶対に進ませない!」
 観察もそこそこに戦闘行動を開始する。まず動くのは、リアとマリアだ。
 胸の前に握った拳を添え、呼吸と共に体内の魔力を滾らせたリアは、それらを電撃へと変換。
 開いて掲げる手から稲光りを迸らせた。
「ドライブ……!」
 同時にマリアが行く。ふわりとした一瞬の浮遊を経た彼女は、蒼い稲妻となって巨人、ルングニルへと迫る。
「狙いは――!」
 向かって右の脚部、膝の関節だと思わしき箇所だ。片足を研ぎ澄ませて放つ飛び蹴りで、正面から激突していく。
「っ!」
 刹那の失神があった。
 速度と硬度とぶつかり合いが、マリアの全身を揺らした事による障害だ。一度の明滅で身体が大きく空へ弾かれたのを認識して一息。
「リア君、電流を借りるよ」
 自分の操る電磁力を、ルングニルに絡まるリアの雷撃に混ぜて道を作る。蒼の放電に身体を乗せて、同じ部位の裏側へ、今度は両足を揃えて。
「ぶちこみにいく!」
 行った。
 強い衝撃の余波が周囲へ広がっていく。
「シラスくん、狙うよ!」
「足だろ、解ってるさ!」
 間髪入れず、氷彗の力が解放される。周りの温度を奪い去り、無から生まれた氷の出現が成された。
 それは、彼女が知るあらゆる凶器の形を模して作られ、そして放たれる。
「この凍てつく氷で、歩みを止めさせるんだ!」
 マリアが狙った脚を目掛けて、だ。
 自分自身が冷気へと還っていく感覚を押し留め、無数のそれらを束ねて一撃。
「無間――氷閃!」
 砕けて散った氷片を、振り抜いた直後に再構築させて更に追撃。
 だがルングニルの硬度にそれはやはり爆ぜて、大小様々な氷塊を宙にばらまいた。
「シラスくん!」
「ブチ壊してやる!」
 踏み込みの加速でシラスはそこへ行く。起こる全ての事象を視界に収めて、考えるより最速の反射で前へ。
 氷彗が宙で氷を一瞬だけ固定し、そこを足場にして更に加速させた全威力を拳に乗せる。
「おお……!」
 行く。
 緩やかな起伏をなぞった浮遊は、氷に着地をしてその軌道を変える。上から下、斜めへと突き抜ける様に跳躍して、打ち込む拳が岩を砕いた。
「――」
 空気が震え、上がろうとしていた脚が、地面に落ちる。分厚く太い石は破壊こそされていないが、大きく抉られていた。
「みんな離れて!」
 崩せると確信が持てる中、リアの悲鳴に似た呼び掛けがある。
「降ってくるわ!」
 言葉と同時に、ソレは落ちてきた。


「無茶はしてくれるなよ? 危ないと思ったら早めに退がってくれ!」
 やんわりな指定の号令を、アルヴァは告げる。訓練された兵ならその辺り、判断は自分達で出来る筈だと、そう思う。
 アルヴァ達の加勢もあって、魔物の討伐は順調だ。この調子なら巨人の方へ向かえるだろう。
「ぅお……!」
 衝撃が来たのは、そんな時だ。爆発があったような暴風が吹き、浮かび上がりそうな身体を地に繋ぎ止めながら原因を探ると、
「なんと、なんと……」
 考えるまでもなく、巨人の仕業だった。腕を大地に突き立てる形で静止している周りは、まるで爆心地の様に破壊され、近距離にいた四人がバラバラに吹き飛ばされている。
「ここはいいから行ってくれ!」
 判断したのは、以外にも夕星だ。元々、魔物を殲滅するまで止まるつもりだった上、今、敵の数は少なく見積もっても六匹程は処理出来ている。
 だから。
「わかりました、こちらはお任せ致します。
 ……ご武運を!」
「ああ、雑魚の残党は任せた!」
 ドラマとアルヴァが巨人へ。残った夕星とカシエは、巨人の行いに戦意の挫けそうな兵士達の側に立つ。
「タイマン張るなよ、コンビかトリオで、引き付けて一体ずつ確実にやってくれりゃいいんだオッサン達」
「大丈夫、私達がおります。さあ、さあ、皆様方、あとほんの少し」
 強襲する怪鳥の鉤爪。それを、真正面から、
「頑張りどころですわー! トラコフスカヤも援護しますの!」
 マリアがドーレに預けていたマスコットが、ぴょいんと跳ねて、その手に持った酒瓶を叩き込んで落とした。
 ばりぃんと割れたその凶悪な断面を掲げる。シュールながらに力強いその姿に、兵士達は苦笑いで奮い立って、一人の男が言うのだ。
「俺はまだ二十代だ……!」

 膨れ上がる魔力を体外へ。無作為に放出されてしまうそれを前面へと集束で固め、ドラマは一息。
「喰らいなさい……ッ」
 気合いと共に射出したそれは、尾を引く形で巨人に向かう。道程で先端を上下に分けて、龍の顎を思わせるフォルムで胴体に噛み付いた。
「しっかし硬そうだな」
 構えた狙撃銃で捉えた敵を前に改めて思う。片足が半壊していることから、破壊することは可能な筈だが。
「通るかよ」
 撃ち込む弾丸は、ルングニルの顔に当たる部分を狙う。目がある位置の窪みを、鼻を、口、耳を狙って撃つ。狙いとしてのそれは、通常であれば相手の注意を引くモノなのだが、しかし。
「眼中に無い、と、そういうつもりですか」
 龍の尾に手を添え魔力を操作し、顎の噛み締めを強めながらドラマはそう判断する。先ほどの一撃は、敵にしてみればうるさい小虫を払った程度、なのかもしれない。
「それは硬く、歩みを止めず、あらゆる害に侵されない、か」
 もしかしたら、攻撃の全ては無駄だったのかもしれない。集まった戦力の全力を以てしても、片足を怪我させるのが精々なのかもしれない。
 それ程の脅威。だとしても。
「何一つ怖くなんて無いわ」
 立ち上がるリアは、再度、ルングニルの前にその身を晒す。
「あたしは負けない。負けられないのよ、アンタみたいな奴が相手だとしても、必ず!」
 言葉は、敵を惹き付ける為のモノだ。その効果かどうかは定かではないが、ルングニルは緩い前傾姿勢で顔をリアへ向けた。
 ギチギチと音を上げ、口と思わしき窪みを開いて漆黒を覗かせ、
「ここに来て魔術式を!?」
 一点に集中された、高純度の魔力砲撃が来る。
「だが、それなら話は簡単だ」
 その先に、シラスが立った。防御、攻撃、強化に回していた全魔力を両手に集め、体内で構築された術式をそこに起動し、
「――!」
 真正面からの激突をする。互いの術式が干渉しあい、刹那、打ち消された残滓が塵となって散る。
「リアの大切な場所は絶対、守ってみせる……だから!」
 立ち上がる氷彗がするのは、癒しの解放だ。この面子で唯一、自他を回復出来るその力を、マリアへ送り込む。
「ああ、そうだね……守ろう!」
 迸る紅の電が全身を駆け巡り、力を活性化させる。紅から蒼、蒼から、更に白光を経て。
「決める!」
 瞬撃の乱打を、半壊した脚に叩き込み、膝を完全に破壊してバランスを崩させる。
「決め手を……っ」
 その行き先を、噛み付いた魔力を懸命に引いたドラマが調整。巨人の横顔を通過後に跳ね返る弾丸は、アルヴァの思惑で後頭部を叩いて前のめりに。
「その自慢の石肌、削ってあげるわ!」
 銀剣に風を。指揮棒の様に振って生み出す無数の刃と化して巨人の表皮を削ぎ落としていく。
 そうして、自重のままに落ちてくる敵の無防備になった頭部へと。
「砕けて果てろ!」
 シラスの貫手が深く突き刺さり、ルングニルの核と言うべき部位を完全に砕いた。


「よく頑張りましたわねドーレ君! 撫でて上げましょう!」
「いや別にうわ飛び掛かってくんな!」
「あら、あら、まあまあ、ふふ」
 魔物を処理し終わった面々は、ドーレとトラコフスカヤのじゃれあいを横目に一息を吐く。
「達者でなぁオッサン共! もっと若々しく動いてくれたらオニーサンって呼んでやるからよ!」
「あぁん!?」
 じゃれあい二組目も横目に。
「私がお預かりしている領地も、防備を強化しなくてはいけませんね」
「幻想にいる限りは他人事じゃないないからなぁ」
 ドラマとアルヴァも幻想に地を持つ身だ。いつ、何があるかもわからないと、今回の事で嫌と言うほど理解した。
「ともあれ、なんとかなって……」
 破壊された道を見て、氷彗の表情は曇る。復興するのにも時間はかかるし、少なからず兵士の中に怪我人もいる。
 何より、セキエイの人々は不安を覚えているだろう。
「ねえリア――リア?」
 手伝いを申し出ようと目を向けると、当のリアは額を押さえて苦しそうにしていた。彼女の抱えた祝福は、最早彼女の許容範囲を越えている。
 故に、恐る恐る差し出された氷彗の手を、感情のままに振り払ってしまう。
「大丈夫だって! ……ごめん、でも大丈夫だから……ちょっと、疲れただけ」
「リア……」
「さ、帰ろう! これからまた、忙しくなるんだから、さ」
 張り付けた笑みを自然に浮かべて、リアは助けてくれた仲間へと感謝を告げに行った。

成否

成功

MVP

氷彗(p3p006166)
決意の雪氷

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
事件は始まったばかりですが、一先ず、今回は終了ということで。
またどこかでご縁があることを。

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