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シナリオ詳細

<リーグルの唄>一宿一飯に報いるは晴耕雨読の範なり

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●怪文書、来る
 その日、ローレットに1人の、どこか身なりの貧しい少年が依頼書と依頼料を手に現れた。
 十分な依頼料と卓越した筆致は、間違いなくその村に一定以上の収入と学ある者が存在することを匂わせた。
 匂わせたのだが、どうにもその文字が読めない。『崩れないバベル』をもってしても、難読の類であるその文章を前に、救うべき相手は居れどどこに赴くべきか、何を求めているかを理解するのに難儀していた。
 ……そんな中、以外なところから助け舟が現れる。
「これは……ギャル文字であるな? 美少女達の間では失伝された古代文字として知られていたが……」
 咲花・百合子(p3p001385)である。彼女はその文字をスラスラ読み上げた。
 どうやら幻想のとある農村に現れた――いかにも奴隷然とした――子供を匿ったのだが、貴族の邸宅から、或いは奴隷商人の馬車から逃げ延びたその子に追手が迫っているのだという。村の者達と、そこに住まう旅人1人ではとても対処できないため、助力を請う。おおむねそのような内容だった。
「ギャル文字……旅人……まさか、生きていたというのか!?」
 どうやら百合子にとっては旧知の人物らしい。しかも、生存を驚く程度の。
 助けを求める声に応えるべく、百合子はイレギュラーズ達を伴い農村へと一路向かうのであった。

●仏桑華コギャル双掌拳
「やはり貴殿か、ヒビス。仏桑華コギャル双掌拳は廃校になったと聞いていたが……」
「やつがれがかの『生徒会長』に拝謁することになろうとは、終ぞ思わず……無礼をお許し願いたい」
 村に現れた一行を真っ先に出迎えたのは、村長ではなく若々しい女性であった。獅子の如き威容を思わせる茶髪に白い肌、その全身から立ち上る雰囲気は、百合子同様『美少女』であることを否応なしに理解させた。女性の名は葉合・ヒビス。嘗て『廃校』となった仏桑華コギャル双掌拳の学長補佐である。
「で、そこの童が例の奴隷であるか。確かに酷い身なりだ。栄養状態も悪い」
「これでも村の者が手厚く介助した後で……大層、酷い目にあったものと。そう間をおかず追手が来ましょう。貴公等の力を借りられるなら、この上なく頼もしく存じます」
 百合子が、そして居合わせた仲間達が検分するに、奴隷と思しき子供は随分と長い間、まともな食事にありついていないように見えた。だからこそ奴隷になったのか、はたまた奴隷に堕してからこのような仕打ちを受けたのか。わずかに人間らしさを取り戻したかのような表情は、束の間の安堵を思わせる。
「他でもない貴殿の頼みだ。吾としても『書聖』の名を伝え聞く身、その勇猛さをぜひとも見せてもらおう」

●獣使いは嘘をつかない
 百合子達がヒビスと合流したその頃。少し離れた森の中では、貴族然とした男が巨大な蛇の魔物数体を従えた男と何やら言い合っていた。正確には、しきりに周囲を見回し、不安げにしている様子。
「ほ……本当にこいつらは私のいうことを聞くのだな? 偽りはないな?」
「勿論。『貴方の言うことには従う』ように躾けてあります。私と貴方の契約の範囲内で、ですがね」
「な、ならいいんだ! あの奴隷は私が大枚をはたいて買った貴重な奴だ! 取り戻せないなど考えたくもない! よし、お前達、あの村を蹂躙してこい!」
 男……身なりにそぐわず貴族であったろう彼は、言うなり蛇達へと手にしたムチを振るって檄を入れた。獣使いの男の口元が弧を描く……まるで最初から読めていたとでもいうように。
「ああ、すいません。貴方に従うのは間違いありませんが」
「えっ」
 貴族の男は、次の瞬間には斑模様の蛇に巻き付かれていた。
 もう一匹の蛇が、爛々と光る眼で男を見定めると、大口を広げた。
「不用意に叩くと流石に、ええ。敵だと認識してしまうんですよ……もう、遅かったでしょうけどね」
 男の下半身が反射でびく、びくと揺れる。頭部がどうなっているのかは木の陰でみえない。
 ただ……獣使いの表情はどこまでも楽しげだった。

GMコメント

 そんなわけで関係者依頼です。よろしくお願いします。

●達成条件
・『蛇』をすべて倒す
・戦闘終了時までの奴隷の生存
・(オプションA)葉合・ヒビスの生存
・(オプションB)戦闘終了時、村人の7割以上の生存

●エネミーA 斑蛇
 黒・赤・白の斑模様が特徴的な蛇。かなりでかく、成人男性に巻き付いて動けなくする程度には長い。
・物理攻撃力、HP、EXAが高めです。
・巻き付き(物至単・崩れ・麻痺・呪い)
・毒液A(物超単・猛毒。『毒液B』と同一ターンに両方クリーンヒット以上で+呪殺・致命)
・尾叩き(物中扇・CT高め)

●エネミーB 黒蛇
 黒一色の蛇ですが、胴半ばあたりに目のような模様があります。茂み・木陰・その他暗所で不意打ちを取りやすいです。こちらもかなり大きい。
・神秘攻撃力、抵抗、命中が高く、連鎖行動を持ちます。
・毒液B(神超単・流血。『毒液B』と同一ターンに両方クリーンヒット以上で+呪殺・致命)
・『注入』(神至単・無。クリーンヒット後2ターンで『???』発動)
・???(『注入』クリーンヒットから2ターン後のターン開始時発生。瞬BS『失血』『不運』・呪殺)

●貴族
 奴隷を捕まえに来た貴族です。顔や体に小さな傷があり、酷く生命力に乏しい顔立ちをしています。
 (PL情報)本来死んでいるはずの男です。不確定要素として取り扱って下さい。
 元の男の言動をとりますが、その後どうなるかは不明です。

●葉合・ヒビス
 仏桑華コギャル双掌拳の使い手で、百合子さんと同じ世界の出身です。召喚前の実力≒今の百合子さんの実力程度と考えるとわかりやすいかもしれません。
 ローレット成立前に召喚されたのでかなり古株のイレギュラーズと思われます。が、現在は命を救ってくれた村に殉ずることを生きがいと定めています。
 EXA型で、それなりに戦えますが、情に篤いことが思わぬ不安要素になるかもしれません。

●戦場
 農村の入り口あたり。奇襲はありませんが思いもよらぬ事態が予想されます。
 余談ですが範囲攻撃手段なんか持っておくといいかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <リーグルの唄>一宿一飯に報いるは晴耕雨読の範なり完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月20日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

八田 悠(p3p000687)
あなたの世界
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
斑鳩・静音(p3p008290)
半妖の依り代
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)
翼より殺意を込めて

リプレイ

●礼を知り想いを告げ
「この様な格調高いギャル文字を混沌で見ることになろうとは……しかもこの手紙の折り方、ハートで!
 心臓を模す事で事の重大さを一目で分かるようにする工夫、戦時にあっても心遣いと典雅さを忘れぬとは流石ヒビス殿であるな」
「百合子殿こそ、この異郷にて己を見失わず鍛え上げたのが見て取れる美少女ぶり、そして何処であっても忘れぬ美少女しぐさの数々。やつがれは感服至極でございます」
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は同郷の士、葉合・ヒビスとの再会に心震える感激を覚えていた。『書聖』の名に恥じぬ理知ある美少女しぐさにて助けを求める態度、目の当たりにして噂違わぬ美少女ぶり。喜ぶなというのが無理であろう。
「ナょゐレま┠〃йё……言舌ゎゎヵ⊃ナ=ょ! あっいけないこれはお友達の精霊さんの喋り方!」
「なんと、そちらの御仁は『ギャル語り』を会得しておいでか……!?」
 『なるほどね、話は分かったよ!』と告げた『青と翠の謡い手』フラン・ヴィラネル(p3p006816)の姿に、ヒビスは驚きを隠せなかった。偶然とはいえ、ギャル文字を発声することには多大な労を伴う。それをこうも簡単にこなすとは、混沌おそるべしと。
「ヒビス様。義にあつく格闘の技に長けた、正しく武芸者の鏡。ええ、しかとその心受け取ったわ。どうにかして村を守りましょう!」
「僕達の手腕次第でこの村の運命が決まる……善意の人達を無暗に危険にさらさないよう、頑張らないといけないね」
 『翼より殺意を込めて』メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)はヒビスの女ぶりに感激至極といった様子で拳を握り、熱く語った。『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)もまた、彼女と共闘し、以て村を守ることの重要性……ひいては奴隷だった子供を守るという使命感に、改めて胸を熱くする。なにしろヒビスは百合子を知り、百合子が彼女を知るのだ。信用する理由はそれで充分だろう。
「奴隷がどうのだけでも怪しいのに、変な蛇までとか嫌だなあ。後ろに何が居るんだか、他所の国程度に大きい組織が絡んでいたら困るよ」
「逃げた奴隷とその追手ですか……何とも人並外れたことをしている自覚があるんでしょうかね?」
 『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)の懸念は尤もだ。ここ最近の流れで勃興した奴隷市場の活発化に何らかの動きがあると考えるのは自然だし、何より魔獣をけしかけてくるほどの理由がわからない。我欲を満たす為とはいえオーバーすぎる。『男気を見せる』水月・鏡禍(p3p008354)もその点に関しては同感なのか、追手を差し向けた貴族の欲求にただ嫌悪感を隠さない。人の道理を外れた行為に、真っ当な考えがあるわけもなかろう。
「そうそう、名乗っておかないとね。水蓮微睡抱擁拳、八田 悠。まあこっちでの突然変異みたいなものかな。後輩として、よろしくね」
「悠殿、そのお名前しかと刻んでおきましょう」
 悠はヒビスにそう名乗ると、余裕もあるし、とサインをねだる。ヒビスもまんざらではないのか、流麗なギャル文字で署名を残していた。
「既に村の周りには鳴子を仕掛けさせて貰った。美少女(われら)の鳴子をすり抜けられる手練れはおるまいが、警戒は怠らぬようにせねば」
「村のみんなは家に入って、隙間を塞いで火を焚いておいてね! 普通の蛇ならそれで大丈夫!」
 百合子は村の周囲に合図を、そしてフランはその身に宿るカリスマを全開にして人々に避難を指示する。鏡禍の察知能力が正確であれば、敵と思しき存在は村の正面から向かってきている。されど、それすらブラフの可能性は十分ある。警戒を怠ることこそ、愚策だ。
「……ん? どうしたんだい」
「あの、その」
 『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)は次々と家に入っていく村人たちの中で、村長の手をとってこちらを緊張した面持ちで見つめる少年を見て取った。ヒビスが慌てて駆け寄ったところをみるに、あれが奴隷の子供なのだろう。不安げに彼女を見上げる姿は、なるほど純真な子供とはなにかをヲルトに理解させるに足る者だ。彼を、彼等を守らねばならぬと心に刻む程度には。
「あんな純朴な人達に蛇をけしかけるなんてね。流石にここで食い止めないと、大惨事になりかねないからね」
 『半妖の依り代』斑鳩・静音(p3p008290)は森の奥から草音を響かせ現れた2体の大蛇に視線を向けた。不気味な斑と、怪しい目の模様を持つ蛇。いずれも尋常のそれではない。
「百合子先輩はあたしがンヌッ! ってするから! ンヌッてなった美少女はきっとチョベリグで激ヤバマジ卍で美少女しか勝たん」
「『ンヌッ!』で、御座いますか。胸に刻み置きましょう」
「刻まなくていいよヒビス先輩!?」
 フランは己と百合子に付与術式を施し、メルランヌは二羽の使い魔を駆使して村の内部と戦場周辺の哨戒を行う。ヲルトはその目に一瞬先の未来を映し、百合子は己の内に秘めたる美少女力を引き出すべく息を吐く。
蛇達はイレギュラーズから放散される敵意を敏感に察知し、脇を抜けるなどという不遜な思考を即座に捨てた。目の前の者達が絶壁ともいえる障害であることは疑う余地もなく、こと、悠の存在はそれらにとって過大に大きな存在と化しつつあった。……それが、悠の術中に嵌っているとも気付かぬまま。

●道理を捨てた獣
「ここから先は通さぬぞ! 美少女の拳の冴え、思い知るがいい!」
「白百合清楚殺戮拳と仏桑華コギャル双掌拳、並び立てば即ち――無敵」
 悠に敵意を向けた黒蛇は、然し次の瞬間に間合いへ踏み込んだ百合子とヒビスに行く手を封じられ、続けざまに振るわれた外三光によって自由を奪われる。円を描くように双掌を揺らすヒビスは、不規則な軌道で同じ位置へと掌打を叩き込む。速度、回転数、そして火力。なるほど、集落を守るに足る実力ではある。……単独でこれらの蛇を倒すには、役者不足であることは否めないが。
「SHHHHIIIII」
「ここから先は通さないよ。アンタの相手はオレだ」
「よそ見をしたこと、後悔させてあげますよ」
 斑蛇は黒蛇の動きに同期するように悠へと前進するが、そこに立ちふさがったのはヲルトと鏡禍の2人だった。外されたヲルトの包帯、その下から放たれた血を斑蛇は器用に避けるが、鏡禍の挑発を無視するにはタイミングが悪すぎた。咄嗟に振り下ろした牙は毒液を湛えることなく、しかし彼に深く突き立つだけにとどまった。
「正直に現れたのは褒めて差し上げます。けれど騙し討ちのひとつもなく襲撃してくるなんて、自信家ですのね?」
 仲間が意識を引きつけたなら、敢えて己がそれを引き剥がす必要も無し。メルランヌは脚に纏った闘気でもって黒蛇を蹴りつけ、その身を焼き焦がさんとする。黒蛇の身は一瞬ののちに強い熱を発してのたうつが、それまでに負った痛撃を以てしても倒れる気配を見せぬ。
「思ったより頑丈なんだけど……正気を取り戻した後が怖いね」
 黒蛇は悠を攻撃できぬ腹いせとばかりにヒビスにその照準を合わせたが、咄嗟に静音が庇うことで事なきを得る。攻めを捨て守りに注力した彼女の身は、打撃力『のみ』ではそうそう切り崩せはすまい。懸念があるとすればその毒を含めた攻撃範囲か。
「黒蛇の牙になにか仕込んでるんだろうけど、今のところ上手く使えてないみたいだよね。流石に使われてない能力まではわからないし……」
 カインは2体の蛇の初動が思いの外鈍いことに怪訝な顔をしつつ、しかし順当に作戦が回っていることに安堵する。さしあたっての懸念は、フランが『ンヌッ!』てしても尚燃費に不安の残る百合子ぐらいか。
「百合子先輩とヒビス先輩がアタタタタってしてくれてるから攻撃は当たると思うし、使わせないまま終わらせたら素敵だよね! 蛇の牙、結構鋭いから静音さんも鏡禍さんも甘く見ちゃ駄目だよ! あたしが治すからね!」
 他方、フランは敵を引きつけた鏡禍と静音を治療しつつ、それぞれの傷の程度を推し量り苦い顔をした。術理を封じるということは魔力の消費を抑えるということ。それは戦闘が長期化した際、消耗した自陣が余裕をもって圧し潰される可能性を意味する。
(奴隷と村人を正面切って2体だけで襲いきれると思ったのかな……? 手の届く範囲で村人を支援したけど、掛け直しは無理だし……)
 悠は仲間達に向けて支援の詩を向けつつ、蛇達の動きを注視する。正面以外から村に向かおうとすれば鳴子でわかる。2体の蛇がイレギュラーズの裏をかけるなら、とうにそうしているはずだ。
 ……なら、本当に蛇だけで、奴隷を、そして村を襲おうとしたのだろうか?
「蛇本来の習性に照らせば、ここからなにかを出来るとは思えぬ! だが美少女の知力は『思えぬ』で考えを止めることは――」
「危ないっ!」
 百合子は高速で思考を回しつつ、同時にその両拳の回転をあげていた。思考と肉体の両輪を回すことで回避への思考が途切れた一瞬をつき、黒蛇は百合子めがけ不気味な牙を向けた。
 そこに割って入った静音の胴に先程の倍に比する深さで突き立った牙は、蠕動し内容物を蠢動させる。
「これだけ攻撃して、それでもピンピンしてるのはちょっと気が滅入るよ……自信なくすね」
 ヲルトは己の血を魔力の源として繰り返し斑蛇へと飛ばしていく。当たれば精神を蝕まれた蛇は自傷、ないし単純な攻撃しか行えなくなり大きな戦力減となったことだろう。だが、結果『そうはならなかった』。相手は思ったよりも賢しい。蛇如きが、だ。
「残念ですが僕は倒せませんよ。鏡が割れたってそこに映る像は消えないでしょう? ……といっても君たちにはわかりませんか」
 他方、斑蛇の攻撃を一手に引き受けた鏡禍はその『死ににくさ』でもって戦局を支える盾となる。少なくとも、斑蛇は彼を無視することはできても、素通りすることはできないのだ。
 斑蛇は実力を発揮しきれず、黒蛇は発揮できても回復手の実力を超えられるか怪しいものだ。
 連携が取れるなら、もう少しは『いい勝負』になったのだろう……そう、一同は考えていた。少なくとも、その瞬間までは。
 ぐにっ、と静音の腕の中でなにかが蠢動した。
 先程、黒蛇の牙から流し込まれたなにかが己の身を内部から傷つけようとしている……というか、食い破ろうとしている?
「静音さん!?」
 フランは大量出血とともに膝を折った静音を治療しつつ、吐き出され、直ぐに動きを止めた不定形のなにかに目を瞠る。蛇、だろうか? 牙から注入された……蛇?
「皆様、あれは……名を聞きし貴族では……?」
 動揺が走った次の瞬間、ヒビスは手を止めずに叫ぶ。
 森の奥から現れたのは、貴族の男らしき影。
 脚をひきずるようにして現れたその男は生気がない。目はうつろで、首筋から頭部にかけて多数の噛み跡が残されていた。生きている? 足を止めるには殺さずにおくべきか……?
「止まって! 止まらないと打つよ!」
 カインは迫ってくる貴族へと神気閃光を放つ。止まらなくても打つ気だった。まかり間違っても殺すことなどなかったのだから。
「……ぶ、げ」
 貴族の口から空気が漏れたような不気味な音がした。
 それが、イレギュラーズの想定の外にあった最悪の始まりだった。

●死の波が来る
 カインの神気閃光を受けた貴族は、次の瞬間に全身を膨れ上がらせて崩れ落ちた。肌の表面を這い回るなにかは、肌を食い破り目を、喉を、胃を腸を食い破って溢れ出す。数にして数十。指で、思考で数えて間に合う数ではない。
「こんな数、体を張っても足止めなんて……!」
 メルランヌは激しい動揺をみせたが、しかしその肉体は正直だった。不測の事態は想定していた。その『不測』が彼女の推測を大きく上回っただけで、持てる手段は無駄ではなかった。
 舞い踊る蹴り足は蛇の何体かを踏み潰し、飛びかかってくる蛇を受け止めた。
「なにか仕掛けてくるとは思ったけど、自分を爆弾にするかい普通?!」
「村の方々が……!」
「ヒビス殿、黒蛇を倒さねば同じ被害者が多数出るぞ! 此方が先だ!」
「あたしも全力で止めるから、自分を犠牲にしないで!」
 悠は動揺しつつも蛇達の思考を書き換え、己を襲わせるべく誘導する。それでもやや足りない。
 この状況に一番動揺を深めたのは当然、ヒビスだ。だが、咄嗟に向かおうとした彼女を百合子とフランが止めた。ここで黒蛇をフリーにして、仮に村人が襲われたらどうなる? 貴族と同じ事が起こりうるはずだ。
「アンタにここ、任せてもいいか?」
「……仕方ないですね。でも、やるなら奴隷は絶対に」
 ヲルトは鏡禍と視線を交わすと、即座に村へと駆け出していく。群がる蛇より早く村長の家へと。
 鏡禍は斑蛇の猛攻を受け止め、しかし些かもその勢いを減じない。相手に必殺の覚えなくば、彼が倒れる道理なし。
「リユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリユリィーーーーッ!!!!!!」
「まさか毒蛇相手に此方も毒蛇の式を使うなんて思わないよね……!」
 百合子のラッシュ、その最後の一撃が黒蛇を貫き、いきおい、群がる蛇群れへと暴虐の手を放つ。
 静音は斑蛇へと毒蛇の式を放ちつつ前進し、一刻も早くそれを叩き潰さんとする。
 ……状況が最悪すぎる。突如現れた蛇達は個々の戦闘能力などしれたものだったが、繁殖能力の有無がわからない。万が一があれば、きっと被害は爆発的なものとなる。
「ここは僕と鏡禍、静音の3人で止める! 残りは村に行った蛇の殲滅!」
 悠が叫ぶ。村長の家へと駆けるヲルトの傍らで、関係のない家から血が滲み出ていた。

 ……結果から話そう。
 イレギュラーズは、突然の自体にも関わらず勝利をもぎ取った。奴隷を守り、敵を倒し、村人の被害を抑えたのだ。ただし『最小限で』という但し書きがつく。
 百余名ほどの規模の村で10名はいかにも多い。されど、一歩間違えば全滅の憂き目にあっていたのだから「マシ」という他はない。
「ヒビス殿、すまぬ。吾がついていながら……」
「それは言わない約束でありましょう、百合子殿。あれは誰にも想定し得なかった」
 ヒビスに深く頭を下げた百合子は、苦い表情をしていたに違いない。
 ヲルトの靴を濡らした血が誰のものかは定かではない。だが、死んだ者達の名は聞いた。
 ……このような魔物を貴族に与え、さらには餌にした魔物使い。その謎は、晴れぬまま。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヲルト・アドバライト(p3p008506)[重傷]
パーフェクト・オーダー
メルランヌ・ヴィーライ(p3p009063)[重傷]
翼より殺意を込めて

あとがき

 エネミーの蛇は「OP情報の範囲で動きました」。バカ正直だったんですね。他方、開示情報が少なかった貴族が「不測の事態のフラグ」でした。
 避難と不測の事態の対処、戦闘での役割分担の足並みがちょっと揃ってなかったと思います。それを実力でゴリ圧しした格好です。
 そんな感じの今回の結果。次回の参考にひとつどうぞ。

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