PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ディライラの涙

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「はッ、はッ――!」
 一人の少女が駆けていた。
 彼女の名は冬月 雪雫。場所は深緑で……日が暮れ始め、だんだん薄暗くなってきた頃だろうか。所用があって外に出ていた彼女は帰路に付いている途中だった。
 ――しかし、妙な気配を感じたのが少し前。
 どこからか『視線』を感じたのだ。最初は気のせいかと思っていたが……どこまで歩いても気配は途絶えない。それ所か段々と『近付いて』来ているし、聞こえるのは複数の足音。
 道を曲がりルートを変えても追って来る。走れば後方でも走る。

 追われていると確信に至れば身を隠した。

「くそ! どこにいった!?」
「馬鹿野郎。だから見逃すなと言っただろう……!」
 咄嗟に物陰に隠れ様子を伺う。
 見つからないように……捕まらないように……
(兄さま……)
 息を潜め口に手を当て気配を殺し。自らを追っていた者達をやり過ごす。
 彼らは一体何者なのだろうか……追われるような理由など覚えがないのだが。
「まだそんなに遠くには行っていない筈だ! 探せ、探すんだ!」
「へへ、分かってるよ。久々の上玉だからな……見逃しゃしねぇ」
 ――まさか。
 彼らは人攫いだとでもいうのだろうか。ザントマン事件は解決した筈だが、滅びていなかったのか。人の悪意は。人の欲望は……ならば尚更見つかる訳にはいかなくなった。
 どうかここが見つからぬ様にと。
 雪雫は更に彼らの存在に耳を澄ませ……れば。

「ああ――あんな上質な髪を持ってる人なんて中々いないぞ!!
 土下座してでも一部で良いから貰ってくるんだ! さきっちょだけでもOKだ!
 いいな……絶対にお願いしてくるんだぞ!! 逃がすんじゃなーい!」

 何を言っているのかよく分からない単語が聞こえてきました、兄さま。


「なるほど――つまりそいつらを見つけ次第殺せばいいんだな?」
「ちょっとクロバさん? 結論が早いですよ――?」
 後日。雪雫から件の相談を受けたクロバ・フユツキ (p3p000145)は今すぐにでも跳び出して対象者を皆殺しにせんとする殺意を抱くのをシフォリィ・シリア・アルテロンド (p3p000174)に止められていた。早い。まだどこに出没したとか詳しい話聞いてない。
 なんとか宥めて席に付かせて。咳払い一つ共にシフォリィは言葉を。
「……とにかく、その。もう一度聞きたいんですけれど、その集団は」
「失礼。それは私から説明しますね」
「――中姉様?」
 瞬間。現れたのはノクターナ・ノルン・フィオレ――
 旧姓アルテロンドとする、シフォリィにとっては姉にあたる人物の一人である。
 彼女は病弱な面が昔から在り、その為に書物に造詣が深く……やがて母方の実家である深緑の魔法使い、フィオレ家の跡継ぎに嫁いだ経緯がある。彼女自身も実はイレギュラーズなのだが――まぁその話はまた別の物語。
 ともあれ彼女が出てくるとは、一体。
「実は昨今、女性の髪を求める集団がいまして……まぁその。一言で言うとストーカーの様に付け回ってくるんです……別に暴行されたりとかそういう事はないんですが、とにかく『しつこい』と悪評が立っていまして」
「やっぱり殺しに行こう」
 ステイステイ・クロバ。しかし一体なんだその集団は……
「彼らは比較的長い髪の女性を狙う傾向があるみたいです。
 かくいう私も――そういった気配と視線を感じた事があります」
「中姉様も……!?」
「ああ、いえ! ノクターナさんは遠巻きに見られただけ、なんだそうです」
 雪雫の声。元々家にこもりがちな彼女には中々近付きづらかったからだろうか。
 ……いずれにせよ困ったものだ。一応、警備隊に相談はあるそうなのだが、彼女らを追いまわしているストーカー達は警備隊が近付いて来れば滅茶苦茶素早く逃げるらしい。なんだあいつらは。
「そんな……そんな事許せないですよ! 勝手に追い回して怖がらせておいて……
 それに髪を求めるだなんて、もしかしたらいつか……」
 同時。不安を抱くのはハンナ・シャロン (p3p007137)だ。
 彼女には末の妹がいる――もしかしたら彼女も被害に遭うのではないか?
 今でなくても放置していればいつか未来に……
 やはり叩き潰さねばならない。幸いにして雪雫やノクターナからの情報により、彼らが出没するであろう場所や時間帯については把握できている。誰かが囮になるなどすれば彼らを誘き寄せる事が出来るだろう――
「成程。そんな事件が起こってるなんて知ったら……放っておけないね」
「うんうん、成程。そー言う事ですね、完全に理解しましたよ。
 ――でも待ってください。僕は一体なぜここに?
 僕は特に身内がここにとかは……え、盾? なんの?」
 であればとクロバ達に偶々一緒に居たハンス・キングスレー (p3p008418)も、成り行きではあるが放ってはおけないと同調し、もののついでにそこにいたベーク・シー・ドリーム (p3p000209)は便利な盾として拘束された。どうして。
 ともあれ全く。髪を求める等、変態共はどこにでもいるものだ……
「…………」
「中姉様……? どうかしましたか?」
「いえ、なにも」
 変態共の討伐に戦闘意欲を高めるイレギュラーズ――
 その様子を見ながらしかし、ノクターナはどこか胸の内に引っ掛かりを感じていた。
 ストーカー達は髪を手に入れたらどうするつもりなのだろうか。
 ……髪というのは只の肉体の一部とは言えない。長き年月を経た髪は魔道具とされる事もあり神秘の一角――に、場合によってはされる事もある部位だ。無論、彼らがただの変態である可能性も否めないが……
「……どうか無事に終わればいいのですけれど」
 何も不穏な事など無い。ただ愚かなる者達を叩きのめすだけであると――願っている

GMコメント

●依頼達成条件
 ストーカー達の撃滅!!

●フィールド
 深緑の、ファルカウからは少し離れたとある街です。時刻は夜。
 木々や自然の多い中に建物が幾つも並んでいます……が、その一角には住んでいる者達が少なく、また人通りも少ない場所がありストーカー達は主にその付近に出没するようです。

 一般人の類はあまり気にする必要はないでしょう。
 ここを女性陣が歩いていればやがてストーカー達が自然と出てくるはずです。
 後はどのようにして追い詰めるか……それが重要となるでしょう。

●敵戦力
 ストーカー×6
 女性の髪を求める謎の集団。
 素晴らしい女性の髪を見つけるとその後ろを付いて行って、やがて人気のない所で……髪を譲ってくれるように頼みこんできます。比較的髪の長い者が優先的に狙われている様ですが、短い人物も被害にあっています。

 戦闘能力自体は大した事はありません。なんか鋏は持ってるみたいですので、一応ぐらいには注意した方がいいかもしれませんが……
 滅茶苦茶逃げ足が速いので、むしろどうやってニガサナイかの方が重要でしょう。
 ぶちのめしてもいいですし、ぶっ殺しても……まぁ問題ないですが、彼らは跳躍力やアクロバットな動きに何故か優れています。ある程度の障害物はゆうゆうと乗り越えてしまうでしょう。

 彼らが髪を求めている理由はよく分かりません。
 ただ雪雫は追われた経緯に怯え、ノクターナは怪しんでいます。
 彼らはどうして髪を求めているのでしょうか――その真実は――?



 ぶっちゃけ本当に髪フェチなだけです、彼らは!

●冬月 雪雫
 クロバ・フユツキの義理の妹――――である。
 今回ストーカーに追われなんとか逃げ切ったものの、当然これから追われる可能性もあり……その為、兄であるクロバに相談。プレイングで指定すると可能な限り力に成ろうとします。或いは置いていくのもOKです。

●ノクターナ・ノルン・フィオレ
 シフォリィの上から二番目の姉で、フィオレ家に嫁いだ人物。
 最近起こっているストーカー騒動を怪しんでいます。
 ストーカー達はともかく……その裏に何者かいるのではないかと……
 彼女もイレギュラーズですが、あまり体は強くありません。
 ただプレイングで指定すると可能な限り力に成ろうとします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • ディライラの涙完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月17日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
背負う者
※参加確定済み※
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
※参加確定済み※
ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
※参加確定済み※
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
※参加確定済み※
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
※参加確定済み※
クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)
葡萄の沼の探求者

リプレイ


 なんだか変な事件だなぁと思いつつも『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)はそれ以上に己が食べられる事の心配がなさそうで、どこか安心していた。
「うーん……まぁ、食べられないならいいですが……しかしこういう状況で自分が狙われないっていうのも変な気分ではありますね。貴重な体験な様な、そうでも無いような……」
 そうして見据えるは周囲――偽装の紙袋に入りし彼は、変態共の襲来を注視するのだ。
 まるでたい焼きの様に振舞って。うーん香ばしい匂いがおいしそ……はっ、いけないいけない。今イレギュラーズ達は『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)と『葡萄の沼の探求者』クアトロ・フォルマッジ(p3p009684)が道を進み、囮となっている真っ最中なのだから……!
「追い回して怖がらせて髪を求めてくるなんて、度の過ぎた変態はホント迷惑極まりないわね。悪評も広がっているらしいし……このままじゃ安心して外に出る事が出来なくなってしまうかもしれないわ」
「人の趣味嗜好はそれぞれ――ええ、それは理解出来るけれど、ね」
 アルテミアの言に次いでクアトロも呟くように。
 別に人の趣味に対してあれそれと口を出す気はない……ただしそれは他者の迷惑となっていない場合に限って――だ。礼を失するばかりか、捕まえようと追いかけまわすなど言語道断であり、必ず捕まえてくれようぞ。
 故に二人(と、でかい紙袋にいるベーク)は人気のない道を往く。
 そうしていれば紙袋の中から良い匂いが漂ってきて……
「……餡子を乗せたピザというのもデザートピザとしてアリかもしれないわ」
「なんの話ですソレ? ねぇ、今なんで唐突にそんな話を?」
 ベークを抱えるクアトロの脳裏にそんな美食が思い浮かんだのは――さて何故か。
 ともあれ情報通りなら暫くすれば変態共が現れよう……故に、いつどこから現れても良いように三者の場所とは別の地へ潜むような形で『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)や他のメンバーは事態を見据えている。
 さすれば――来た。
「へへ……見ろよアレ、あんな上質な髪まじパネェぜ……!」
「くぅ! もう駄目だ我慢できねぇ、土下座してでも頼み込んでくるぜ……!」
 彼女らの背後より迫る影がある。なんかやたら気持ち悪い言動も聞こえてくれば、間違いなく奴らであろう。
 アルテミアの銀の髪など、月の灯りに照らされれば神々しく風に靡いて。
 クアトロの赤き髪は遠くからでも人々を魅了せし艶やかさを携えている。
 ――至高だ。至高の毛髪が、そこにある。
 近付く距離。さすればアルテミアとクアトロは目配せしつつ、歩の速度を速めて道の角を曲がる。背後の気配に気づいて少し落ち着かないような様子を醸し出しながら――辿り着くは袋小路。
 至りて振り向けば彼女らを取り囲むように変態共が――
「へへへ、お嬢さん達。なぁにちょっとだけ時間を……」
 瞬間。
 更にその変態共の背後に回り込むように現れる影があった。
 変態共の増援ではない。それは、黒髪の男――?
「貴方達が中姉様に雪雫さんを狙った者達ですね……! 大人しくして頂きましょうか!」
 否。それは黒い髪のカツラを被っていた――『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)だった。偽の毛髪の直下には美しき銀の髪を携えられている――アルテミアとは異なり長くは無いが……
 しかし髪に敏感な変態達は気付いた様だ、彼女には国宝級の髪質があると!
「なっ!? ば、馬鹿な……俺達の髪センサーに引っ掛からなかった、だと……!?
 こんな、こんな麗しい髪の接近を見逃していたなんて……!」
「なんですかその髪センサーって! とにかく抵抗するなら容赦はしませんよ。かつての銀糸事件を思い起こさせるような……いやでも別の人も狙われてるみたいですし違うかと思いますが、何はともあれ貴方達の行いはいけません!」
 彼女の変装は遠目に、しかもこんな闇夜であれば分かり辛い風貌だった故か、変態共の直感的髪センサーに引っ掛からなかったのだろう。しかし髪センサーってなんだろう……
 ともあれシフォリィらがこうして回り込めば、追い詰められたクアトロ達――という図は一変する。むしろ包囲されているのは変態共だ。
 逃がしはしない。シフォリィと共に背後に回った『武の幻想種』ハンナ・シャロン(p3p007137)も、彼らの存在は許しがたいものであったから。
「この深緑に貴方達の様な不審者がまた新たに現れるなんて……! なんの陰謀か、趣味か知りませんが。か弱い女性を複数人で囲もうとするとは無礼千万! ――お仕置きです!」
「あぁ~いい金髪~~~こんな金髪に罵倒されるなんて俺はもう悔いはない……!」
 しっかりしろ同志――!! なんかもう既に一人倒されてそうな雰囲気だが、ええいやはりこんな馬鹿共を放置しておくわけにはいかない。ハンナにも家族がおり、いずかはライラも……末の妹も被害に遭うかもしれないのだから。
 彼女の優れし五感で彼らの接近を素早く察知出来たというのもあったのか、かなり有利な位置を取る事が出来た。じりじりと位置を詰める様にしながら――その時。
「くぅ……こんな良い髪を囮に使うなんて、なんて連中だ……やむなし、散れッ!」
「はっ! 待ちなさい、逃がしませんよッ――!!」
 変態共が跳躍した。なんとか建物の上へと往くかのように。
 なんて無駄にアクロバットな技能を持つ変態共だ……あ、即座に反応したハンナの一撃によって何人か失敗した様だが、しかし成功した者はそのまま闇夜を駆け抜け逃げんとする。
 ――だから。
「ふむ――出番の様だな。往くぞ、クロバ」
 『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は吹かすのだ。
 何を? それは犯人たちを逃がさないように持ち込んでいた――バイク。
 エグゾーストノイズ、所謂排気音が周囲に響き渡る。
 目覚めよ死神。この音色こそ奴らへの死の音とせよ。
「はは――なんでもいいさ。
 とにもかくにも俺の妹が世話になった”お礼”をさせてもらうとしようか」
 ああ、いや。
 真実『死神』がそこにいたか。
 『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)が汰磨羈の操縦するバイクの後ろ側に跨って。殺意と共に逃げ出そうとした愚か共の方を見据えている。汰磨羈が親指で始まりを示せば、バイクが始動して。
 さぁ行くぞ。
 お前達が一体誰を追い回し、誰に恐怖を与えたか知れ。
「いくぞ、クロバ。処刑タイムの始まりだ――! 奴らに恐怖を教えてやる!!」
 トップスピードを吹かせて、二人は死の権化として――直進した。


「ぎゃああああなんだあれは――!!」
 街中を駆け抜ける逃げ出せた変態――しかし逃げ出せたとはとても誤解であった。
 汰磨羈とクロバのコンビが猛烈に追い上げてきているのだから。やたら凄い殺意と共に。
「逃げるなよ。逃げたら逃げた分だけ――より強くぶん殴りたくなるだろうが」
 敵・即・殺。クロバの心中に渦巻いているのはその三文字だった。
 ――が、すぐ殺してしまうというのもあれだ。奴らには即殺よりも徹底的にしばきあげる方が相応しい。変態共が後ろを振り向きクロバの顔を確認すれば――そこには――
「ひぃぃいぃ悪魔ァ――!!」
「ははは。なんだ人の顔を見てそんな……大丈夫これは世界一可愛い妹を守るための兄の顔であり決して鬼と化してなぶり倒してやろうかという話ではナイヨ。だから安心して止まるとイイヨ」
 大丈夫、ちょっとチクッとするだけダヨ。
 突撃する彼の形相は――形容を差し控えさせていただきます!
 距離が詰まってゆく。凄まじい速度に、変態達は自由に逃げ回る事叶わず。
「如何な理由があろうとも、犯罪行為を以て女の髪を奪うなど言語道断。その様な者共には、相応のお仕置きをせねばならぬな――クロバ、確かこの先で追い詰める事が出来る筈だ。ふふふ、じっくりと調理できそうだな……?」
 その内に奴らはまた行き止まりの中へと突き進んでいる事に気付いていない。
 いや、汰磨羈がそうなる様に追い込んでいるというべきか。逃走ルートを潰す様にしつつ、再度同じ場所へと導こうとしている。ルートは間違いない――元々囮役の者達に随伴させていた黒猫の視界と共有し、周囲の情報を得ているのだから。
「お前達も中々の逃げっぷりだが――私はモトクロス世界チャンピオンの女(自称)。
 逃げられると思うなよ。お前達とは……修練の度合いが違うのだ!!」
 ほんとですか汰磨羈さん? しかし彼女のライディングテクニックは確かに凄まじい。
 クロバを後ろに跨らせながらもその動きは淀みない程に。
 追い詰めて行く――さぁお前達の命はあとどれぐらいかな?

「くそぅ! だけどせめて最期に髪の毛だけでも――!!」

 一方で跳躍に失敗した変態共はアルテミアやクアトロらの髪を狙って鋏を一閃。
 逃げだす事も勝つことも叶わねど、死する時には髪と共に……
 その想いを抱いて襲い掛かる――が。
「いやーそういう訳にはいきません。うん、こういう時の為に僕がいますしね」
 紙袋から跳び出したベークがソレを防ぐ。
 甘い香りが鼻を擽り、思わず欲望の中でも食欲の方を沸き立たせて……いや待ってくださいよ食べないでくださいよ。髪の欲望のままに魚を貪ろうとしないでくださいよ、うわあああああ。
「やれやれ……女の敵であるだけでなく、引き際も弁えないなんて。
 欲望と折り合いを付けられないのは獣と変わりなくてよ?」
 そしてベークに引きよせられたその横っ面をクアトロの一撃が襲う。
 見ず知らずの女性にいきなり髪をください……などと。例え親しい者であっても快諾するとは限らないことを臆面もなく述べてくる失礼極まりない者達に容赦は無い。滅びよ。
「早く倒れておいた方がいいわよ? 後で――鬼の様な人が来るかもしれないから」
 名前は伏せるが、恐らく悪鬼の如く追い立てているであろう人物の顔を思い浮かべながら、アルテミアは急速に敵の懐へと潜り込む。
 双炎の蒼と紅。剣に乗せ瞬かせ、その身を切り裂くのだ。
 命までは奪わない。確実に気絶させる事を前提に、一人ずつ倒していく――元よりイレギュラーズの方が数が上なのだ。逃がさないようにだけすれば脅威ではなく。
「さぁ――今まで迷惑をかけ続けてきた報いを受けて頂きますよ……!」
 同時。ハンナの剣舞が敵を捉える。
 ――刮目せよ。武神に捧げる血の舞を。
 過ぎたるモノをその身に受ける栄光を。抵抗するなら痛みが増えるだけである!
「中姉様へ、これ以上危害――いや危害というかなんというか――とにかく心配は取り除かせてもらいます……御覚悟を!」
「姉……? はっ! もしや貴女はノクターナさんの妹様……!? ま、間違いない! その髪質、あの麗しいお髪の持ち主のノクターナさんの――ぎゃあああ!」
 直後、シフォリィは思わず叩きのめしてしまった。
 絶対に中姉様にはこんな輩近寄らせない――視線を向けた先、後方の建物の影に隠れさせているノクターナと雪雫には物理的にも。

 ――姉様、不安かもしれませんが大丈夫です。
 クロバさんも、皆も同じイレギュラーズの後輩、頼りになりますから!

 伝えていた言葉を反芻し。それを実現させる為にもシフォリィは彼らを逃がさない。
 ノクターナと目が合う。それだけで十分とばかりに――意志は伝わって。
「シフォリィ……どうか、無事に。無理だけはしないで」
「――あっ。ノクターナさん、あちらから兄さまが!」
 瞬間。祈るノクターナから見て西の方からやってくる存在があった。
 雪雫が指差せば――それはクロバ達。変態共を追い立て、此処へと。
「ままま、待ってくれ! これは、違うんだ。俺達はただ……」
「ただ――なんだ? 言ってみろ」
「欲望に、燃え盛る欲望に忠実だっただけで……!」
 そうかそうか……クロバはにっこりと微笑みながら彼らの話を聞いていた。
 許しを請うか? それとも取引を持ち掛けてくる? まぁ話位は聞いてあげようじゃないか、うん。
「そうかそうか……うちの可愛い雪雫の事だからな。雪雫の髪が最上級なのは当然な事だ――」
「分かってくれたか!」
「ああ。だから一発で殺してやる」
 そんなー! 
 叫び声が聞こえるも、クロバは無視したい気持ちに駆られる。雪雫を狙ったのは良い根性だと誉めてやろう――本来であれば本気で一刀の下に決着をつける所なのだ、が。
「おいクロバ、殺すなよ。こいつらには楽しいインタビュー(意味深)が待っている」
「――分かってるさ。おい、次はないと思え。俺の顔を決して忘れるんじゃないぞ」
 別の一人を仕留める汰磨羈から声を掛けられ、踏み止まる。
 いやそれだけではない。被害にあった雪雫――彼女の優しさを鑑み、そして何より彼女の前という事もあり。
 恐怖だけを植え付けて逃がしてやろう。
 振るう刃。しかしそれは命を奪う事は無く――ただ奴らの悲鳴を轟かせるだけに留めた。


「で、あなた方は実際何者なんです?」
「え、我々は只の髪フェチグループ『ディライラ』の者なだけで……ボスは不明ですけど」
「それはどこかの闇の組織の手先だったりとか……?」
 いやそういう訳では……全員捕まえて正座させている中、ベークは語る。
 デカいたい焼きに詰め寄られるは裏事情がないか同か。そういうのを感じる雰囲気ではないのだが、まぁ万一の為にと聴取中だ。あ、いい香りがする。あ、だめだめ齧りたくなる~!
「決して力に訴えない所は紳士的かとも思いますが……結局数で怖がらせている辺りが減点だと思います。暴力を振るわなければ何をしても良い訳ではないんですよ。だから――」
「うん――さて。とりあえず然るべき所に付き出す前に、まずは丸刈りにでもするか?
 もしくは、こう。ザビエルヘアーとかでもいいか? そら、暴れるな」
 同時。ハンナのお説教が彼らに降り注ぎつつ、後ろに回る汰磨羈の手には……彼らから奪った鋏が……
 や、止めろー! 悪魔――!! 抗議の声が聞こえてくるが、これも怖がらせてしまった罰である。意気揚々と鼻歌刻みながら鋏の音を何度も何度も汰磨羈は響かせて……
「ふふ。ああ深緑で人気のナッツとモッツァレラチーズのピザはいかが? 物足りない方にはペパロニとトマトソースのピザを出すわよ。それとも他にオーダーでもある? 可能な限り叶えるわよ」
 ともあれクアトロは全てが終われば良きピザでも振舞おうと皆に己がギフトの祝福を。
 ストーカー達は撃退した。これでこの街もまた平和になる事だろう……
 だが帰る前にこの清らかな場所で味わうピザをどうぞと。
 ベークの香りにも負けぬ食欲そそる匂いが充満して。
「さ。貴方達はピザ所ではないわよ――ほら、謝りなさい。綺麗な髪が好きな事は良いわ……
 でも相手を怖がらせたり僅かでも切って得よう事は、女性も髪も傷付ける行為。
 それを自覚しなさい――あなた達に髪好きを名乗る資格なんてない!」
「ひ、ひぃいい――! も、申し訳、申し訳ありませんでした――!!」
 されどストーカー達は別だと、アルテミアはノクターナらの前に突き出す。
 彼らはこの後衛兵行きだ。汰磨羈特製の散髪が行われてから、たっぷり反省してもらおう。
 それでもその前に被害者に直にと。
「中姉様。これでまた平穏が訪れると思います――安心してください」
「ええ。シフォリィ……とても助かったわ。ところで、そちらの方は……」
 続いて声を掛けるのはシフォリィだ。姉の心を乱す輩は、成敗された。
 ――そしてそれが終わったのならと、気になっていた言葉をノクターナは紡ぐ。
 示す先にいるのはクロバだ。いやそもそも……シフォリィが潜んでいた時に準備していたカツラと服なのだが。
「まるでそちらの方の様でしたね」
 瓜二つだったと言わんばかりに。
 実際カツラはともかく服に関してはクロバの服を借りたものだ。それは何故なのかと……半ば確信しているような感じでありながらもあえて聞く形でノクターナは問いかけ。
「え、ああ――実はですね……クロバさんは」
「――こんばんは。シフォリィとお付き合いさせてもらっています、クロバです」
 そういえば話していなかったとシフォリィが思いながら、繋いだのはクロバだ。
 先程までの悪魔の様な殺意と形相はどこへ消え失せたか。物腰丁寧かつ、純真な微笑みを見せるクロバにはもうそんな影すらない。雪雫も驚く程の瞬時の切り替えに。
「兄さま? もしかしてノクターナさんに……」
 違うぞ雪雫。変な気を起こしたわけじゃないぞ……そう、ただ単に。

「――シフォリィの家族だからさ」

 挨拶はしておこうと、それだけなのだ。
 そして……家族を害する者は誰であろうと許さない。
 愛しい者の家族も含め。きっと彼は――彼女らの危機には再び鬼となるのであろう。

 まぁ……こんな危機が次は無いのが一番ではあるのだが!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!

 髪を狙う一団の野望(?)は潰えました。
 きっとこの街はこれから平穏が戻る事でしょう――変態が駆逐されれば、たぶん。

 それではありがとうございました!

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