PandoraPartyProject

シナリオ詳細

史上最低に信用されないヤツら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●フラーゴラの相談(本人視点)
 幻想首都、どこかの酒場。女三人寄れば姦しいとはよく言った話だが、今日は四人の女性イレギュラーズの会合……言ってしまえば女子会だ。喧騒響く酒場のなかでも、彼女らの声は実によく通る。
「アトさんに美味しいお肉を食べさせてあげたくて……三人はよくご飯とか食べに行ってるし……美味しいもの、知ってそうだから……」
 フラーゴラ・トラモント (p3p008825)は、いとしの『アトさん』に美味しい肉料理を振る舞いたいと思っていた。まあ恋する乙女のいつもの話だ。肉ってまあ随分とワイルドだなとは思うが。
 で、相談相手に選んだのはエッダ・フロールリジ (p3p006270)、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ (p3p001837)、アーリア・スピリッツ (p3p004400)の三名。
「でも美味しい肉って何がいいのかしらね」
 アーリアが首を傾げた。彼女が一番酒と肴に拘ってそうだが、過ごした年月の長さを考えると海産物のほうに知識が偏っているのかもしれない。
「熟成させた方がいいとは聞きますわ!」
 こちらはヴァレーリヤ。なんていうかこの娘は熟成どころかちょっと腐らせても焼けば消毒ですわ! とかいいそう。熟成を任せてはならない筆頭だ。
「それには知識がいるでありますし、であれば捌きたての新鮮な方が」
 エッダはそれを知っているからか、新鮮さを強調した。そうなると狩りか? しかし……。
「捌きたて……」
 反芻したフラーゴラは、おもむろにエンジンのかかったチェーンソーを掲げていた。流石に酒場でそれはまずい。全員が止めた。
「……何ででありますか?」
「だって……解体するのに必要でしょ……?」
 呆れ気味に(しかしやんわりと)問いかけたエッダにしかし、フラーゴラはきょとんとした顔で問い返した。
 必要じゃん? って今ここでじゃないだろう。何故だ。
「ひとまず、狩りにいっちゃう?」
「新鮮な肉! 狩り! 血が騒ぎますわー!」
 物騒なヴァレーリヤはともかく、アーリアもそれなり乗り気だった。多分一同はこれから何も考えず森に向かうのだろう。そこに何が待つとも知らずに……。

●“アイツら”の相談(犠牲者視点)
 幻想首都の酒場。そこは知る人ぞ知るブラックな取引や相談事、アレげな勧誘に使われるいわば混沌のル……おっと。
 そんな所に顔を出したイレギュラーズ達を見て、店内の雰囲気がビリッと総毛立つ。以下、断片的に聞こえる会話と荒くれ者共のひそひそ話をお楽しみください。
(おい、あれって鉄帝でヴェルス帝を向こうに回して何度も恩赦を出させたっていうヴァレーリヤじゃ……)
(あっちのはあの国の軍人だぜ、おっかねえ手甲してやがる)
(あれは……まさか酒場を何軒もあの二人と潰したって噂のアーリアか!?)
(隣の白い女はたしか、ローレットいちやべぇヤツを追いかけ回してるっていう例の獣種じゃあねえか……)
「アトさんに……肉を……三人は……美味しい……知ってそうだから……」
(おいおいアイツに肉だと? 飛行種の死体の献上でもするのか?)
(美味しいなにを知ってるってんだ、儲け話か? たしかにあの旅人なら高値で……)
「でも……肉って何がいいのか……」
「熟成させた方がいい……」
「それには知識が……捌きたての新鮮な方が……」
(肉の熟成……捌きたてだと……? あいつら新しい獲物でも探す気か?)
(いや、『肉』は隠語かもしれねえ。新しい酒場を潰す算段をしてるのかも……)
 ぶ ぅ ん 。
「だって……解体するのに必要でしょ……?」
「狩りにいっちゃう?」
「新鮮な肉! 狩り! 血が騒ぎますわー!」
(なんて連中だ、店の中でチェーンソー振り回して殺人衝動を隠しもしないぜ!)
(あいつらイレギュラーズだからコロシの依頼も笑顔でこなすって聞くぜ、ほっといたらヤベえんじゃねえのか)
(あっちは森の方向か……俺達のようなワルを狩る準備をしてるのかもしれねえ、行くぞ!)
 こうして、そこにいたド悪人共は何も知らんと四人(とあとから合流した仲間)を森まで尾行し、あわよくばなんとかしてしまおうと躍起になるのだった。
 多分彼等は知らない。
 これが盛大な死出の旅へのフラグであるということを……!

GMコメント

 リクエストありがとうございます。
 閉めてもない窓を高速ノックされたときの恐怖は割とマジでやばかったです(語彙

●森
 今回の舞台です。幻想首都北部に広がる森で、一見すれば何の変哲もない普通の場所です。湖とかもあります。
 ですが、幻想に長く(大召喚以前)住んでいる者であれば、この森で起きた“惨劇”についてご存知かもしれません。後述の悪人たちはこれを酷く恐れています。
(註:条件に見合うPCは『知っている』ものとしてそれを捏造して構いません。無ければこっちでそれっぽい事件をでっちあげます)
 森のため足場が整備されておらず、各所に危険な場所はあるにはあります。昔の開拓を試みた痕跡なのか、人工物の道具などが転がっていることもあるようです。
 正常な判断力と冷静な心持ちでこれらが障害たりえるケースは殆ど無いでしょう。
 結構デカい猪、攻撃的な鹿、その他動物は頑張れば普通に確保できます。
 街に毛皮ごともっていくのもなんですから、この場で解体しましょう。多少血が飛び散っても森ですから、まあ、ね?

●ド悪人たち×それなりの数
 酒場でみなさんの話を盗み聞きしていた悪人です。なにか重大な勘違いをしていますが皆さんには関係のないことです。
 ただ、彼等はみなさんが新たな脅威となることを見越して襲撃しようと虎視眈々と狙っています。
 普通に戦闘に入ると(リクエストメンバーがいても尚)そこそこ苦戦する程度のネームドがちょいちょい混じっています。
 ……ただしそれは正常な判断力があった場合に限ります。
 皆さんの行動に「万一部外者に勘違いされそうな行動」があった場合、あちらは勝手に勘違いしてパニックに陥ることがあります。当然、あちらもプロですので一度二度は勘違いの範疇としてスルーするでしょう。
 ただ、獲物をブン回して走り回ったりたまたまデカい動物を全力攻撃でお手玉してしまったりなんかいつもより顔に返り血を浴びて暴れてたら正気を失ってしまうかもしれません。怖いなあ。
 パニックに陥った場合、その場所やシチュエーション次第で色々陰惨な死に様を晒すでしょう。事故です。
 これが続くことで陰惨さと規模が増していき、最悪普通に全員戦闘なしで死屍累々になること請け合いです。
 わざわざ苦戦して疲れてから狩りをする必要もないです。精々こう勘違いされそうな行動に終止しましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 主に皆さんの行動がどう影響するのか全然読めません。絶対ろくなことにならない。

  • 史上最低に信用されないヤツら完了
  • GM名ふみの
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年03月14日 21時56分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)
あやしい香り
嶺渡・蘇芳(p3p000520)
お料理しましょ
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
※参加確定済み※
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
※参加確定済み※
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
※参加確定済み※
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
※参加確定済み※

リプレイ

●すでに合流時から始まっている“不幸”
「皆様、お待たせ致しました。直前まで、ご用命のあった各種『クスリ』の調合をしていましたから……ね」
「フラーの、頼みとなれば、引き受けないわけには、いかない……な。しっかりキメにいこう」
 『アイオンの瞳第四席』クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)と『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の実に業務的な(そして友好的な)挨拶は、既に集まっていた面々の頬をほころばせる。頼りになる仲間が来た、と。『白い牙の』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)にとっては友人が駆けつけてくれたのだから喜びもひとしおだ。
「好きな人のお腹を満たさなきゃだね……! もうやる気モードだよ……!」
(『クスリ』だと……?! 何者かとおもえば、大概に食わせモンじゃあねえか! あの白衣、明らかにMADだぜ)
(『キメていく』だと? クスリ無しじゃどうにもならねえってか)
(殺る気、か……噂通りだぜ)
 なお、そんな会話を聞き耳立てない悪人共でもなく。ちゃんと聞いてしっかり誤解している。何故だ。
「好きなヒトとかの為にお料理作るなんて、素敵ねー♪ 頑張ってお手伝いしちゃうわよー♪」
「狩りでお肉と聞いてやってきました。お酒もあります。これで森に池があれば酒池肉林、揃うわね!」
 『お料理しましょ』嶺渡・蘇芳(p3p000520)はフラーゴラのやる気に嬉しそうに腰元の包丁一式をホルダーの上から撫で付ける。大小長短入り混じったそれらは、見せなくとも業物だと分かる凄味を秘めている。そして『大衆酒場アブジオラ優勝』レイリー=シュタイン(p3p007270)も嬉しそうに酒を持ち込んでいる。早々に依頼を解決して飲むぞという気分がダダ漏れだ。
(なんだ、あの包丁の数……! 使い捨て前提にしないなんてどんな業物だよ!?)
(それよりもだ、『酒池肉林に池が足りない』だと?! 池に酒を流し込んで邪魔した連中の肉を吊るし上げるってえアレか……? 恐ろしい拷問考えてやがる……!)
 もちろん悪党どもには歪んで伝えられているのだが、一同の持つ存在自体業物めいた武器の数々が大概悪いんだが。
「わかるわぁフラーゴラちゃん! 大好きな人には美味しい手料理、振舞ってあげたいわよねぇ。
 私は狩りとか解体の経験は薄いけど、いつ何時あの2人と一緒に無人島に流されてもいいように、狩りも解体も出来るようにならなきゃ!」
「私も狩りは楽しみですわー! どんな獲物と会えるのかしら!」
「ないわー。この物騒な連中の会話この、ないわー。幻想野郎はやはり物騒。ここは文化的な鉄帝軍人として自分が統率するに限るであります」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はフラーゴラの純真さ(?)に共感を示しつつ、自らも経験をつもうと張り切っていた。『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)も余りない経験に胸を躍らせ、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はそんな仲間達の物騒さにやれやれと首を振った。そこで幻想をDisるクソデカ主語を広げる辺り流石はアルハラ鉄帝軍人、汚い。
「じゃあ……行こうか。森には物騒な話があるみたいだけど、皆知ってる……?」
 フラーゴラは一同を扇動して前に出る。幻想でそれなりの年月を過ごしてきたアーリアはもとより、他の面々も今回の話に乗るために各自調べてきたらしい。思いの外多い情報を、まず1つずつ整理する必要があった。
(知ってるか、だと? なんて白々しい……!)
 犯罪者連中にとって見ればなんというか、うん。そういう感じだったが。

●森の伝説を語りながら怪しいことを繰り広げる展開
「ここをキャンプ地とする!」
 森の中に分け入ったエッダが真っ先に見つけたのは、小さい湖の傍らに建つ一軒の山小屋だった。中身は大分老朽化が激しいが、少し掃除すれば拠点として一晩使う程度はなんとかなろう。
「皆様にも元気になる『クスリ』を用意していましてよ。いかがかしら?」
「ありがとぉクラサフカちゃん! お姉さんはさらにこれをそぉい!」
 簡単に掃除を済ませた一同は、クラサフカから『クスリ』(レモンティーのビタミン分だが)の入った紅茶を受け取ると席についてゆったりと愉しむ。アーリアはそれでは足りず、ブランデーを流し込んでいたが。
「あ、お茶ありがとうね。そうそう、薬を飲むと元気になれるわよねー」
「ん、マリアもお茶は、嬉しい。気分が少し、昂ぶってきた……」
「これから狩りが始まると思うと武者震いがしちゃうね……!」
「とりあえず狩りの成功を祈ってかんぱーい!」
 レイリーやエクスマリア、フラーゴラは『クスリ』を飲みつつ満足気に息を吐き、これからの仮に思いを馳せる。エッダはアーリア同様紅茶だけでは満足できなんだか、酒をガブガブと飲み始めた。当然ヴァレーリヤもだ。もうやだこの酒クズ。
「そう言えば皆様、この地に纏わる事件の話は聞きまして?」
 クラサフカは、皆がクスリで一息ついた所で話を切り出す。これから狩りを行う周囲について、知っているべきだという考えからだろう。蘇芳はそうそう、と思い出したように手をあげた。
「私が聞いた話だとねー? この森を根城にしていた賊がいたんだけどー、なんでも、危ないおクスリの製造・密売にも手を出していたんですってー。
 それで、製造中になんかの拍子で作業してた人達が一気に取り込んじゃってー。そのヒト達全員おかしくなっちゃって、狂ったように笑いながら殺し合い始めちゃったんですってー……怖いわねー」
「マリア、は……犯罪者たちに追い詰められた被害者が、恐怖で箍が外れ、立場が逆転することになった、と聞いたような。半ば正気を失っていたのもあり、随分猟奇的なことになったらしい、な」
「聞いたことがあるわねぇ、正気を失った彼等は争った末、死体を料理して食べたって」
 蘇芳の噂に乗っかるようにエクスマリアとアーリアが繋ぎ、一同は「うわぁ」といった顔になる。だが話はそれだけでは終わらない。割とこの面々、色々知っているらしい。
「私はこんな話を聞いたわ。昔、この辺りに住んでいた悪い奴らが襲われて滅多打ちされて金品財宝全て奪われたって。正義の味方かはたまた極悪人、どちらの仕業だか」
「錯乱に陥っていた人も多い猟奇事件でしたので、様々な噂が飛び交っておりましたの……今では何が真実か、わからなくなってしまいましたわね」
 クラサフカが困ったように話を繋ぐ。クスリに関してのあれこれだけに、彼女は詳しいらしい。だが、ヴァレーリヤは何故か更に詳しく。
「そうそう、なんでもそのおクスリ、『トウテツ』って呼ばれていたんですって!
 少し吸うだけなら気分が高揚するだけなのだけれど、多量に吸い込むと異常に食欲が増進されて、目に映るもの全てが食べ物に見えてしまうからだとか……殺し合い喰らい合ったのも、それが原因らしいですわ」
「うわー引くわー幻想」
 さしものエッダもその猟奇性にはドン引きだ。やはり幻想民は野蛮。改めてそう思った。
「ワタシの集めた文献にはこう書いてた。
 “兎、鹿、鼠、カラス…何でも見境なく食べた人がいる。最後に人の肉に手を出した。解体の際には歌が聞こえて、川が真っ赤に染まった”……とか」
 ドン引きするエッダに追い打ちをかけるフラーゴラの様子は脇におくとして、小屋の近くで潜んでいた悪党一行は、よりによってそこを選んだ彼女らにえもいえぬ恐怖を覚えた。そして、扉の隙間にこびり付いた目新しい血痕に、既に“惨劇”が始まっていることを自覚する。
「あら、そういえばここに向かう途中で調達した食材何処にいったのかしら? XXXXのもつと、目玉――お肌にいいらしいのよねぇ」
「もしかしたら私達も、行方不明の御仁と出会ってしまうかも知れませんわね?」
(畜生、やっぱりアイツら異常だ! ズラかった方がいいんじゃあねえか?)
(できたらそうしてる! ほっといた方が後から面倒なんだよ!)
 犯罪者達が遠巻きに一同の会話に耳をそばだて、ところどころ聞き間違ったり誤解を覚えたりで誤解を更に深めていく。扉が開く気配に合わせて距離を取り、散開した犯罪者達はしらない。
「……あらぁ、ここに零しちゃってたのねぇ」
「ワタシも人払いの為に撒いてたから、大丈夫だよ……アーリアさん」
 大丈夫っていうのか、それ?

●『狩り』の時間
「マリアは、髪を操作して、足音を立てなければ、獣相手にも不意打ちができるだろう……探しに、行ってくる」
「ん、気をつけてね、マリー……ワタシはこの辺りの足跡が新しいから罠を張っていくよ……」
 髪の毛を総動員して柔らかい感触と高い耐荷重を獲得したエクスマリアは、素早く髪を動かして森の奥に消えていく。それを見送ったフラーゴラは、周囲の情報から獲物が近いことを理解すると、凄まじい速度で罠を次々と仕掛けていく。手早い。
「フラーゴラちゃんは有難うねー。私もこっちに獲物を追い込むように頑張るわー」
「私も追い込みを手伝いますわ。この日の為に後に残らない毒を用意しましたもの」
 蘇芳とクラサフカはそれぞれ別方向へと歩みをすすめると、それぞれの手段を以て追い込みにかかる。……彼女らが向かうより早く、どこかで悲鳴が聞こえた気がするが。
「ふっふー、狩りの時間でございますわー! そこの鹿さん、待ちなさい!」
「とっととこっちに追い込むでありますよヴィーシャ。それくらいしか利用価値がないのでありますから」
 他方、ヴァレーリヤとエッダは自分達より明らかに大きい鹿を、あろうことか追い回すポジションにあった。鹿もバカではないのだろう、体格だけで勝てる相手ではないと直感的に悟ったのだ。だが、全てを見透かしたようなエッダの構えを前に、恐怖を通り越して怒りを覚えたか。一気に間合いを詰めてその身を叩きつけにいった。
「今日の私のディナーは貴方で決まりでわぶっ!」
 ヴァレーリヤ、しかしかけてくる途中で泥にダイブ。
「さあ来るであります、お前をここでシメて……」
 ずるっ。
 エッダ、呆然とした表情で血糊に足を滑らせ、前に転がるように滑り……徹甲拳でもって鹿の首を締め上げ支えにしようとして、1人と1頭の体重を支えきれず尻もちを!
 ブチィッ! ブシュッ……。
「「あっ……」」
 この有様、悪党が見たらなんというか。

 アォォォォ……ンン……。
「うわぁっ、こんな時間に遠吠えだと? まだ昼だぞ?」
「いや待て、今の声は妙に人間臭くなかったか? “奴ら”の誰かじゃないか?」
「馬鹿いえ、いくらなんでもあいつらだってヒトだ、そんな常識はずれの……」
「ひぃぃぃィッ!?」
「おい、どうした?」
「い、今そこを! そこをかけずりまわる多足の影が! 人の背の丈くらいの、蜘蛛のバケモノがああ……!」
「おいおい、落ち着けよ。幽霊の正体見たりなんとやらだ。きっと……」
 悪党達は、何処かから聞こえる人間じみた遠吠えや森を駆け抜ける多足の巨大生物、そこらに飛び散った血にビビリ倒していた。いつもはそこまで弱々しくないんだが、状況と場所が中々悪い。
 何故か遠くから、金属同士を打ち合わせる音が何重にも反響して聞こえてくる。怪しいクスリの匂いも漂ってくる。
 仲間に喝を入れつつ、先陣を切る男はやがて川へと差し掛かる。果たしてそこを見た驚愕の事実とは?

「だいぶ遠くまで響いたわね。『美味しい肉があるわよ』って聞かせたのだから、肉食なら放っておかないはずよ」
 遠吠えの発生源ことレイリーはひと仕事終えたようなさっぱり感で腕組みし、遠くから響く足音に満足げな笑みを浮かべた。のそりと姿を見せたクマはしかし、まんまとフラーゴラが仕掛けた罠にかかり、盛大にすっ転んで動きを止めた。
「上手く行ったね……! ありがとう、レイリーさん。多分マリーももう少しで戻ってくるはず……」
「フラー、大きいのを獲ってきた、ぞ」
「私も、追い詰めるまでもなく獲ってきましたわ」
 エクスマリアとクラサフカが戻ってきたのを確認すると、フラーゴラは仲間達と共に川の上流へと足を運ぶ。シメるなら早めに、水場で行うべきなのだ。
「フラー、血抜きした分は……私が、ほしい。血も、立派な食材になるし、な」
「マリー、楽しいね。ワタシ以外にもお肉が欲しいって言ってた人がいたし、間違えないようにしなきゃ……」
 エクスマリアとフラーゴラは楽しそうに解体を始める。血の受け渡しで飛び散ったり返り血によって、両者の手や頬はまたたく間に染まっていく。
「思いっきり首を……っていやあああ血が! えいっ!」
「さぁ、手早く解体(バラ)しちゃいましょー♪ ……ってああ、アーリアちゃん駄目よ首投げちゃー。勿体ないわよー」
 アーリアは道中、蘇芳と合流して獲物を仕留めるとそのまま解体に入っていた。
 蘇芳は本職(?)だけあって手際がよく、血抜きを効率よく行うため汚れが少ない。ただ、ところどころついた血を見れば「出血させた量」の多さが見て取れよう。
 他方、アーリアはその辺り経験が及ばぬために豪快に首を刎ね飛ばし、勢い余って血の滴る首を放り投げてしまう。放物線を描く血と首は見るものが見れば明らかな惨劇の跡である。

 イレギュラーズ女子会は思った以上に血生臭く展開されるのだった。
 ……ところで悪人は?

●『惨劇』、再演さる?
「引きちぎった首のあたりの皮とか血管が口に入ったじゃねーですか、ペッペッ!」
「私は全身泥だらけだし服はボロボロ……ちょっとエッダ! 貴女の服をお貸しなさい! 拭き布にしますわ!」
「お前も生モツ食うでありますよ!」
 ヴァレーリヤは全身を泥だらけに、ボロ布だけを纏った姿で。
 エッダは口を中心に上半身を血まみれにしたメイド服で、引きちぎった鹿の首周りの肉を相手の口に押し込もうとする。激しい取っ組み合いは、殺人鬼同士の果し合いにしかみえない。
「ヒィィィィ!?」
「……見たな?」
「あっ! 丁度いいところに! 助けて下さいまし!」
 そこに居合わせたのは仲間からはぐれた悪党だ。あまりにもエグい光景を前に、一瞬尻もちをついたが直ぐに立ち上がると一目散に逃げ出そうとする。
「おいおいどうして逃げるんでありますか。まだ何もしてないでありましょう。おーい何もしないから待つでありますよ」
「そうですわ! いたいけな女性を残していくのですか?!」
 いたいけな女性は斧構えて軍人と取っ組み合いしねえよ。悪党はそんなことも言う余裕がなかった。
 そして、向かった先はどうやら小屋の方角……追いかけていったエッダ達は……。

「ああ、血液と言えば――新鮮な血は、乙女の肌を美しく保つらしい、ぞ?」
「血を顔に? 面白いね」
「ここまで血なまぐさいとやっぱり中和する香りが大事ですわ」
(ああ……ああああああ……!!)
 川をさかのぼり、2mほどの滝を登りきった悪党の一味は、血の川の元となった少女達を見た。何れも顔を血に染め、『なにか』を解体しながら笑い合う姿。
(な、なあ、俺の視力が確かならあの袋、『アンダーソンさん』『スミスさん』って……!)
(おいおいおいおい、いよいよ俺達もヤベェぞ! この匂いのせいでぼーっとして……あっ……)
 悪党達は、イレギュラーズ一同の視界の端でレミングスの集団自殺めいて滝へと墜落していく。「1mは一命取る」とはよくいったもので、滝壺には大きな石がごろごろと……。
「ところ、で、クラサフカ。その香の、効果は?」
「リラックスですわ。血を見ていると興奮するでしょう?」
「なるほど……! 解体してるのに落ち着くと思ったんだよね……!」

「あら、そんな風に切っちゃ、血しぶきが多くて後始末が大変よー。ほら、ここに刃を入れてズッとやれば、簡単に足が斬れるし、返り血も少ないでしょー? うふふ、楽しいわねぇ」
(なんてこった……こんなスムーズに、綺麗に『解体』する奴は見たことねえ……!」
 蘇芳がアーリアに指導する格好で獣を捌いていく様子を、殺人犯の男は恍惚とした目で見ていた。
 解体したい、ではなく『されたい』と、不相応なことを思ってしまった。……そういえば、あの女はどこだ?
「ごめんなさぁい、大丈夫かしらぁ?」
「ヒ……ッ!?」
 何の気配も見せずに突如として背後に現れたアーリアに、殺人犯は喉から絞り出す悲鳴とともに後ずさった。そして足を滑らせ、斜面から転げ落ち……。
「大丈夫じゃなかったわねぇ」
 落ちていく斜面の下には枝打ちされた木々。鋭い切り口は槍衾のようで……。

「なんだか色々あったけど、無事に終わってよかったわね! 何故かエッダが小屋を燃やしてたけど!」
「違うであります。偶然火酒の口を切ったら……その……」
「そ、そうですわ! エッダは悪くありませんわ!」
 レイリーは屋外に据えられた鍋に骨やら肉やらを放り込みつつ、エッダをジト目で見た。
 2人は忘れよう、と首を振った。他の面々も大なり小なりやべえモンを見たはずだが、それはそれとして。

【幻想北部で山小屋火災? 森林内で多数の死体! 他殺の線薄く全て事故の可能性……獣の惨殺体……】

成否

成功

MVP

クラサフカ・ミハイロヴナ・コロリョワ(p3p000292)
あやしい香り

状態異常

なし

あとがき

 滝壺、斜面滑落の上枝に、小屋の水車連動式石臼、小屋及び落ち葉の火災巻き込まれetc...嫌な事件だったね。
 MVPはキルレシオ的なやつです。なにがとはいわないけど。

PAGETOPPAGEBOTTOM