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シナリオ詳細

<リーグルの唄>祈りの行く末

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 奴隷とは全てを奪われた者だ。
 人権、尊厳、自由……本来誰もが持つ筈のモノを簒奪される。
 理不尽に。そして唐突に。
「こいつ、また逃げ出しやがって!!」
 だがそんな事を承服出来る人間などいはしない――
 常に支配から逃れようとする動きがあるのは当然だ。そして今日もまた、主人の下から逃げださんとした奴隷が一人いて……しかし手枷足枷により縛られた身ではそう素早く動けもしない。監視の者に見つかり取り押さえられ。鞭に打たれる音が響く。
「おい。顔はやめとけ、どやされるぞ」
「チッ――お気に入りだからっていつまでも無事だと思うなよ。
 次はこれぐらいじゃ済まさねぇからな!」
 腹に入れられる蹴り。
 それが仕舞いの一撃とはなるのだが、鳩尾に入ればたまらず漏れるは嗚咽の声。
「う、ぐぅ……! げほっ、ごほっ……!」
「だ、大丈夫? だめだよ……やっぱり僕達はどこにも逃げられないんだ……」
「諦めるな……! 諦めてたらいつまでも無理だぞ……!」
 思わず駆け寄ってくるのは、共に買われた奴隷の者だ。
 暫く前に奴隷商人に捕まってしまった者らはここ、幻想王国へと運ばれてきた。そして数日前に裕福な貴族らしき者に変われ……奴の邸宅内に閉じ込められている。どこにも行けず、行かせず。時折呼ばれる事があると思えば――
 いやそれはどうでもいい。とにかく嫌だ。こんな所にいるのは!
 捕えられた中でも反骨精神に溢れていた者は必死に脱出を目指して幾度か。
 ……されどやはり無理だった。何度逃げ出そうとしても捕まってしまう。
 せめてこの鎖が無ければ。或いは――どこからか助けがあれば――
「……くっ!」
 無力に苛まれ、思わず頭を壁に打つ。
 どうしてこんな目に遭わなければならない。どうしてこんな事が許される――
 神よ。どうか見ているなら助けを。

 救いの手を差し伸べてくれと――天に祈っていた。


「やぁ。最近幻想王国で奴隷市が開かれているのは知っているかな?
 この関連でちょっと依頼があってね……」
 語るのはギルオス・ホリス(p3n000016)である。
 奴隷市。本来であればラサのブラックマーケットの方がイメージにあるだろうか……? しかしかの地は今多くの動乱があり、ネフェルストにも警戒が走っている。そんな中で商いをするのは難しいと判断されたのか――商人が幻想に集っているらしいのだ。
 ここは貴族の腐敗も多い。その中であれば十分商売が出来ると踏んでいるのだろう。
 そして実際――既に『購入』に及んでいる貴族もいるのだとか。
「ここから東。フェルデン男爵という貴族がいるんだけれど……彼が複数名の奴隷を購入した事が分かった。で、そのフェルデン男爵と敵対している派閥の貴族から依頼があってね――奴隷を救出してほしいんだそうだ」
 それは善意か。或いは謀略の一端であるからかは分からない。
 が、奴隷売買などというのをまかり通らせていれば治安が乱れるのは必至だ――どの道善良に生きる者達にとって好ましい事ではなく、不法に攫われた者達を救うのもまた悪である事ではない。
 故にイレギュラーズにお鉢が回ってきたのだ。
 フェルデン男爵の邸宅の情報は簡易だが入手出来ている。それなりに広めの邸宅の中……地下室に奴隷達は囚われている、との事だ。
 注意すべきは庭に放たれている番犬。そして巡回している監視の私兵達。
「全体の戦力は不明でね……見つかるとちょっと面倒かもしれない。まぁ終始隠密でなくてもいいかもしれないが、奴隷達と接触できるまではなるべく見つからないようにしていると良いかもね」
 最後は派手にぶち壊しながら逃げてもいいかもしれない。
 ともあれ救いに行くとしようか――囚われた境遇の者達を。

GMコメント

 それでは、よろしくお願いします。

●依頼達成条件
 奴隷の全救出

●フィールド
 とある貴族の邸宅です。時刻は夜。
 それなりに広めの邸宅です。庭があり、そこには番犬が放たれています。
 邸宅内の構造は簡易ですが入手出来ています。
 より正確な道筋などを知りたければ、なんらか調査に優れた技能などがあるとスムーズになる事でしょう。

 奴隷達は地下室に囚われています。

●敵戦力
・貴族の私兵×?
 邸宅内を巡回している私兵です。
 戦闘能力はまちまち。正確な数は不明ですが恐らく10人程度は最低でもいるでしょう。
 地下室入り口に2名は常にいます。

・番犬×6
 庭に放たれている番犬です。
 優れた嗅覚や反応を持ちますが、あまり統制のある動きは見られません。
 恐らく適当に放たれているだけなのでしょう。

・フェルデン男爵
 この邸宅の貴族です。奴隷を購入した元凶。
 見た目の良い奴隷達を購入して
 戦闘能力には優れていません。彼単体はどうとでもなるでしょう。

●奴隷×4
 貴族に買われた奴隷達です。
 いずれも見た目麗しい者に見えます。全て拘束されており、歩くのはともかくとても走る事が出来るような状況ではありません。地下室は牢屋という訳ではなく、窓のないただの一室ですが鍵は掛かっています。
 彼らを全て救助してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <リーグルの唄>祈りの行く末完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
シラス(p3p004421)
超える者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐
ベルナデッタ・フォン・ローエングリン(p3p009582)
は?ちょろくないが?

リプレイ


 奴隷と言うものは許されるのか許されないのか?
 時代や国々によって扱われ方は異なろう。だから……
「奴隷制度を一概に悪とする論調はいかがなものかと思いますが……制度設計がなされていない社会での奴隷流通が治安悪化に直結する、というのは論を俟ちませんね」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は呟くのだ。
 奴隷は単語自体のイメージから『悪』であると見られる傾向は強いものの――歴史の中では単純な労働者の意味合いとして、或いは大切な財産として見なされる事もある。鞭を打ち自由を奪う意味だけが奴隷ではないのだ。
 されど奴隷の意味合いはともあれ。
 この国で良しとせぬ者がいて。良しとせぬ向きがあるのならば。
「だからまぁ、違法分の取り立て位はしょうがないわよね」
 それは報いなのだと『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は紡ぐ。彼女が見据えるは件の屋敷であり――これより奴隷救出の為に中へと入る寸前だ。
 だが焦ってはならない。見張りへの対策が先決だ。
 その為に寛治は準備していた。事前に可能な限り行った情報収集……
 屋敷内部の構造、地下室はないか? どこかに近道は無いか?
 見つからぬ様な順序は? ポイントは?
 ――それらが入手されれば同時に脱出ルートの手がかりともなる。
「はぁ。奴隷、奴隷ねぇ。ほんっとに、外の連中は考えることが不愉快だよね」
 そして更に『は?ちょろくないが?』ベルナデッタ・フォン・ローエングリン(p3p009582)が式神を放って実地の偵察とする。幻想の貴族――と言うよりも深緑の『外』にいる人間共の所業にはほとほと呆れる。なぜ同族を虐げようとする?
「まぁいいさ。奴らの愚かしさなんて今更だからな」
 言いつつベルナデッタは屋敷の周りをぐるりと式神に。
 先の寛治の情報と合わせて更なる一助としよう。時折鼻の利く番犬が式神がいるであろう方向を向いてくるが、距離を取っておけば気のせいかと思わせるに十分で。
 さすればそろそろ良いだろうか――行こう。
 奴隷達を救出するために二手に分かれるのだ。
 一つは救助を主目的にする班。そしてもう一つが――
「成程ね。こことここに警備が……なら、やっぱり正面の方で暴れれば気を引けそうかしら」
「ええ――それで問題ないかと存じます。私は上の方から参ります」
 警備の者達を引きよせる陽動班である。
 その一員として動くのは『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)と『月下美人』雪村 沙月(p3p007273)だ。先のベルナデッタと寛治に合わせて合計四名。
 アンナは犬たちの注意を引くためにあえて正面から。沙月はそれらの行動が発生する前に闇夜に紛れて空を舞う――目標は建物の最上階付近だ。複数地点で騒ぎを発生させて警備の注意を逸らす。
「……では参りましょうかー。今なら逆の方向が手薄な筈ですわー」
 配置に付いた事を確認した『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)が陽動班とは別のメンバー……つまり救出班に声を一つ。
 騒ぎと同時に内部へ潜入する。もしかすれば陽動に引っ掛からぬ犬などがいるやもしれぬ故……当然警戒は怠らない。必要に応じて匂いのする物でも叩き付けて追っ払うべきかと。
「しかし――最近どうも他人の家に上がるのにろくな理由が無いんだよな」
 同時。『鳶指』シラス(p3p004421)は頭を掻いて吐息一つ。視線を向ければ少し離れた所に豪勢な邸宅があり、あんな所にノック不要の用事があると思考すれば――なんともな気分である。
 そもそも奴隷の是非もどうなのだろうか。
 ここにいる奴隷達が仮にラサから流れてきていたとして――正味な話、彼らを助けることが良いことなのか悪いことなのか分からない。奴隷は許されているのか、売買が許されていないのか、そもそも法がどうなっているのか。
「……依頼の経緯がどうあれ、結果的に人助けになるなら……全力を尽くそう」
 されど『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)の言う通り、これもまた依頼であるならば是非もない。苦しんでいる者を助ける事であれば全霊を尽くすだけなのだと。
 ――連絡が来る。
 事前にベルナデッタを仮初の主とした雷華の祝福を介した念話。
 だから、往こう。

 誰かの祈りがこの先にあるのであれば。


「何よこの犬……! ちょっと! あまり騒がないでっ」
 予定通り『見つかる』様に進んだアンナは番犬の咆哮が遠からず聞こえてきた。
 響き渡るように屋敷にも届いて……さすればその動きを制するかの様にアンナは立ち回る。番犬たちを抑えて声を発してより目立たんとするのだ。
 まるで犬がいる事が想定外であったかのような言動も紡ぎながら。
「おい貴様ら何をッ――!」
「番犬に見つかるとはドジを踏みました。まだ入り口だというのに……」
 さすれば警備の者達が一気に来るものである。
 見えるだけでも四人。当然時間が掛かれば更に増える事だろう――だから。

「――では、ここからは強盗に切り替えです」

 想定通りです、という言葉は喉の奥に飲み込んで。
 寛治はまずにと番犬を狙撃する。傘――の様に見える多機能なる紳士の必需品を構えて。
 穿つのだ。
「見つかっては仕方ないわね。でも……ここに住んでる貴族は、不法な取引で私腹を肥やしていると聞いたわ。なら少し位私達が取っても罰は当たらないわよね? 元々それは此処のモノではないんだから」
 更にアンナは己が身を照らす技能を用いて、目立つと同時に光源を。
 信仰している身としては演技であろうとこういう事は言いたくないものだが――やむなし。これも必要な事だと割り切って、今だけは存分に演じよう。ここの貴族には奴隷を奪取され、痛い目を見てもらわなければならないのだから。
 同時に最上階付近へと位置していた沙月も即座に動きを。
 窓の外。飛行しながら往けば警備兵の者らを補足するに時間はかからぬ。彼らの意識がこちらに向く前に。侵入者がいると気付かせるまでの刹那――沙月は間合いを詰めるのだ。
 己が武を振るえる一歩を。
 己が心のままに舞える一歩を。
「少々暴れさせていただきましょう。貴方達に恨みはありませんが」
 しかし腐敗せし貴族に組するならば容赦はせぬと。
 流れるような所作から窓を打ち破る。
 警備兵を強襲する様に。勿論ここに一人で留まるは得策ではない故、ある程度存在を示せば後は中庭の者達と合流しようと計画しながら。
「さぁこっちだぞ犬ども! はは、なんだい。番犬って割りにはちょろいね!」
 更にベルナデッタも中庭の方でアンナらの援護と共に番犬らを引き付ける。
 古代技術のドローンを服の内側より取り出し、香りを付けて放つのだ――それは犬どもの鼻先を掠める様に。次いで式神にも同じく匂いをまぶして。
 それは潜入班の援護にもなる故。
 奴らの鼻を狂わせ、そしてこちらに注意を向けるのだ。奴らも目の前で動くドローン達は煩わしいのか叩き落とさんと行動をしている、が。奴らには戦闘能力なんてものはないから放ってこっちに来ればいいものを……
「頭の悪いペットってのはこれだから……とぉ! 待て待てそんな急にこっちに来るんじゃない! やめろ、僕の真骨頂は頭脳労働であって、肉体労働じゃないんだ!!」
 が、警備兵達も集まってくれば向こうも余裕が出てくるものだ。
 ドローンの誘導に限界が来た時、番犬らの視線はベルナデッタを向く――距離を取って彼が放つのは治癒の術だ。引き付けるのは発光の力も担っているアンナが行っている故、彼女の支援になる様にと動いて。

 ――窓の割れる音が屋敷の上層で響き、中庭では射撃の音が轟く。

 その影を縫うように動くのは、救出班だ。
 陽動側はかなりうまくやってくれている様だ。代わりに負担も大きくなるだろうから……
「急いでいきましょうかねーこっちですわ、こっちー」
 見つからぬ様に。しかし可能な限り急いでユゥリアリアは向かう。
 地下の――助けを求める声を辿る様に。
 探知の術は確かに自ら達よりも下の……つまり地下から反応がある事は分かっている。彼らの救助は、必ず果たそう。それは依頼であるからというのも勿論であるが……

(……奴隷の売買だなんて、まさかまた聞く事に)

 それ以上に――『かつて』を思い起こしてしまうのだ。
 どうしても元婚約者が悪事に手を染めていた時代を思い出してしまう。密売や横流し、まだ幼い者達を鎖に繋いでいたあの頃……嫌な思い出しかなく、故に頭を振って記憶に蓋をして――今は目前に集中を。
 陽動班がいるとはいえ、全て中庭側へ行くとは限らないのだ。
 注意の散漫は救助の失敗にも繋がる。周囲の気配を探りつつ――歩を進めれば。
「待って……この先、二人いる……多分、警備兵……」
 雷華が曲がり角に視線を向けながら皆を制する。彼女に備わりし優れた五感が足音を捉えているのだ。
 故に備える。やり過ごす事も考えたが迂回路は遠く、それ以外に音が聞こえないのであれば瞬時に無力化すれば行けそうだと。
 だから。
「ツイてねえな、テメーら」
 タイミングを合わせたシラスが先陣切って強襲するのだ。
「な、なんだお前達……がッ!!」
 シラスは潜る。自己暗示による精神の彼方へ。
 戦いの場に不要な一切合切を排した――零の域へ。
 打ち上げるは己が掌底。警備兵の顎を砕くが如くの一閃は、他を呼ばさぬ為にこそ。
「向こうの方に行ってりゃ――痛い思いをしなくて済んだかもしれねぇのにな」
 サボりか、中庭から離れていてただ単に気付いていないだけか。
 いずれにせよ引き付ける事を目的する向こうよりも、こちらは明確に排除を優先する。
 だから容赦は一切ない。歯を飛ばす衝撃を頭部全体に伝えれば、更に雷華の一撃が駄目押しとばかりに続いて。
「悪い事をしているのだから仕方ないわよね……そして出会ってしまった人の排除も」
「ええーここで倒れてもらいますわー。なにかと、これから急ぎますのでー!」
 もう一人の方はヴァイスとユゥリアリアが詰めるものだ。
 ヴァイスの撃が遠方より降り注ぎ、次いでユゥリアリアの魔法陣に無限が如き紋章が浮かび上がる。
 ソレは更なる破壊力を呼び覚ます呪力の結晶。
 されば自らの血を媒介に――氷の矢を投擲せん。
 身を貫き動きを止めて、叫び声さえ挙げさせなければ。
「……あっ。この人鍵を持ってる……みたい、だよ」
 確かに倒せているか確認した雷華が気付いた。その胸元のポケットからなにやら鍵の様なモノが飛び出ている事に。もしやこれは――地下室への鍵、か? ともすればこの二人は騒ぎに気付いて周囲の様子を少しばかり見に来ていたのかもしれない。
 あまり地下室の入り口から離れぬ距離の内で。
「あら。という事は――あらあら」
 瞬間ユゥリアリアは見つけた
 地下へと続く階段を。そしてその先に在る一つの部屋を。
 ――開ける。
「こんばんはー! 元気かー!?」
 往くシラス。これだけの騒ぎがあれば気付いているだろうと――
 さすれば扉を開く音に震えを見せる奴隷達。
 彼らに取っては主人が来たという恐怖に怯えたか? そんな彼らへとヴァイスは。

「もう大丈夫よ。私たちは、貴方達を助けに来たの」

 安堵させるべき言葉を――紡ぐのであった。


「はぁ、はぁ! なにぃ!? なんだって!? 救出できた!?」
 中庭側。番犬たちに追い立てられながらベルナデッタは全力で回避行動を続けていた。
 くそ、僕にこんな肉体労働をさせるなんて……! と息切れが始まりそうになっていた矢先――雷華のギフトを通じてベルナデッタに齎された連絡は、奴隷救出の合図。
「よ、よし! おい、向こうはどうやら上手くいったみたいだぞ!」
「ほう。それは上々です――ですが今連絡が来た、という事はもう少し必要でしょうね」
 より激しく行くとしましょうかと寛治は紡ぐ。
 奴隷達脱出までの時間をある程度稼ぐ必要はあるのだ。今すぐ撤退するのは下策だと、射撃を向けるは二階の窓だ。連続的に行う射撃は見える限りの窓を割り続け、戦闘の激化を演出し。
「テメェラ好き勝手しやがって……ただで帰れると思うなよ!」
「――人を帰さぬ様に束縛している輩は、仰られる事が違いますね」
 そうしていれば屋敷を破壊していく彼らに警備兵が憤怒して――
 その身を打つのは沙月だ。
 人をモノの様に扱う人がいるというのはなんとも嘆かわしい。それが土地を統括し、人々を導くべき貴族ならば尚の事……自らの責務を忘れ、腐敗した者には。
「やはり天誅を下すしかありませんね」
 御覚悟を、と。小さく呟き彼女は舞う。流るる動きは止まらず敵へと紡がれるのだ。
 水面に映る月影の様に――捉える事すら難しき所作で、討つ。
 その身を。その有り様を。その魂を。
 怯む者がいるならば見逃さぬ。気圧された者がいるならばそのまま折ろう。
 ――人を虐げせし報いを受けるのです。
「いくら特権階級といっても、家族の元に帰る権利さえ奪うことは許されない事よ。
 ましてや私欲の為に尊厳も何もかも取り上げるだなんて……認めがたい事ね」
 更にアンナも往く。ここが最後の踏み止まるべきタイミングだとばかりに。
 番犬に加え、多数の警備兵も加われば流石にイレギュラーズと言えど分散の上では苦戦は免れないものである。それでも――寛治や沙月は敵を退けベルナデッタは治癒の力で支え、アンナは最前線に立ち続けている。
 全ては奴隷を救うために。今一歩と、敵の刃を受けながらもアンナは魔力を放つのだ。
 夜の闇に蕩ける月の輝きで敵のみを照らして。
 纏めて穿つ。瞬間、敵が減り攻勢に隙が出来たか――圧が減って。
「皆様は合流を。私は敵の一部を引きつけ、適当にあしらってから離脱します」
「あら、流石に一人じゃ苦労するわよ。私も残るわ」
 さすれば寛治とアンナが殿を引き受けるかのような立ち位置を。
 そろそろ良い頃合いだと判断したのか。そしてそれは実際に、その通りであったと言えよう。救出班は屋敷の中を、進入路へと戻る様に駆け抜けている真っ最中であって。
「な、なんで僕達を……僕達を助けてくれるの?」
「ああ――まあ、理由あってここから連れ出しに来た。説明してる時間は惜しいから、詳しくは後でだが……お前たちは運がいい、元いた場所に帰されるだろうよ」
 同時。不安げに見据えてくる奴隷へシラスが返答する。
 ――まぁ彼らに帰るべき場所があるのかは知らない。もしかすれば奴隷狩りにあって故郷は壊滅しているかもしれない、が。ともかくここから解放される事に関しては違いない事だ。
 彼らの拘束具の鍵までは無かった故に、壊して疾走を。
 こっちだとばかりに彼らの前を往けば。

「貴様ら――私の財産をどこへ持っていく気だ、盗人どもめ!!」

 その時、前方から声が響き渡った。
 警備兵二名を携え立っているのは……恐らくはあれが件のフェルデン男爵だろうか?
 小太りな男爵は顔に怒気を孕んでいる。
 折角の奴隷が逃げられると思い――怒っているのか?
「……怒りたいのは、この子達のほうだけどね」
「ずっと考えていたけれど――やっぱり奴隷なんて見ていていい気持ちにはなれないわね。だから、こうなるのも因果応報だと思って頂戴」
 しかしそんな資格は男爵に無いのだと雷華とヴァイスは紡ぎ、道をこじ開けんとする。
 幸いと言うべきか男爵が連れている兵の数は少ない。ならば、更なる数が押し寄せてくる前にこの場を突破する事は十分可能な筈だ――雷華の疾風が如き動きと刃が警備兵の首を捉えて、ヴァイスは魔力を収束させる。
 それは自然界から引き出した活力。一定の範囲を吹き飛ばす暴風を生み出して。
「出来れば証拠の類でも回収できればよかったけれど……仕方ないわね」
 同時、放った。
 フェルデン男爵をも巻き込み全てを薙ぐ。牢までの道行きでなにか書類やこの行いに関する証拠が手に入れられそうなら回収したかったのだが――余裕が無かったが故に、男爵自身を叩き付ける事でもう良しとしよう。奴隷らの証言が証拠になるかもしれないし、だ。
 そして――男爵らがバランスを崩す。
 警備兵二名では止め切れず、男爵ではイレギュラーズに抗う事など出来ないから。
「ま、待て……! 私の、私の奴隷達を――!!」
 それでも足を掴んで追い縋らんと――した所を、ユゥリアリアが制した。

「――あまり苛つかせるな。折角抑えていたのに」

 それは常とは異なる口調。常とは異なる視線で男爵を見下ろして。
 ――一撃ぶち込む。
 顔面を。何の加減もなく容赦もなく、己が心のままに力を乗せて。
「……さー参りましょうかー、出口はすぐそこですよー!」
 次なる瞬間には、笑顔と共に奴隷達を誘導する――彼女へと戻っていた。
 そうしてイレギュラーズ達は撤退する。中庭で奮戦していたアンナ達も、フェルデン男爵が倒れたという内部の混乱が発生したと共に即座に離脱を。
「しかし……どうなってんだろうな、マジで。ここ最近はよ……」
 やがて誘導班も救出班も合流し、共に闇夜を駆けながら脱出していく。
 同時。追手も振り切った事を確認しながら呟くは、シラスだ。
 幻想自体で何か起きている。

 不穏を感じながらもしかし、今宵の依頼は確かに果たせたと――確信していた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 これらの一連の不穏な流れはまたやがて……
 しかし今宵、救いを求める者達を確かに救う事は出来たのです。

 それではありがとうございました!

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