シナリオ詳細
<希譚>ルインズオブザデッド<呪仔>
オープニング
●
家に帰れば、aPhoneを取り出した通学鞄なんて用済みだ。
時刻は十四時過ぎ。いつもは学校に居る時間だが、テスト期間中の時間割は不規則なことがある。
「テストかあ……あ、やべ。夕食の買い物忘れてた。あー、どうしようかなあ」
スーパーの値下げにはまだ早い。とはいえ夕方から出かけるのも億劫だ。
億劫と言えば一度帰宅した家から出るのも面倒ではあるのだが――さて。
結局、普久原 ・ほむら(p3n000159)はブラウザを眺めながらベッドに腰を預け、制服のまま倒れ込んだ。
いっそ、このまま寝てしまおうか、なんて考えていた時だ。
「あれ?」
ほむらはaPhoneに通知が入っている事に気がついた。
仕事の依頼である。
――内容をかいつまめば『ゾンビ退治』だった。
石神地区に存在する阿僧祇霊園の石神支社周辺に発生した、生ける屍をぶん殴ってこいという話だ。
問題はそれが『元・人間』であるということ。
真性怪異――カミサマと接触し、気が触れてしまった人達。及び、そんな人達に連れてこられて『供物』となってしまった人々だ。それが狂気を振りまくから、退治せよと。
「……なんか、なんだろ。ネットロアかな」
指令によると、ほむらはローレットのイレギュラーズと組み、迫り来るゾンビ共と交戦しながら拠点確保を目指すらしい。石神地区は自然の中に遺棄された建築物も多く、丁度良い廃ビルがあるようだ。
「廃ビルの確保……なんか、FPSっぽいな」
高所を得れば有利になるような気もする。ならスナイパーなんて居てくれたら良いのかも知れない。
「あー、そうだ。是非、というか。いやでも急に誘うとか迷惑じゃないかな、大丈夫かな……」
心当たりがあるイレギュラーズに、ちょっとオファーをかけてみたい。
「あー、うーん。ま、まあ学園からのオファーになるし。えいやー」
ひとしきり悩んだほむらは、ぎゅっと目を閉じて学園にメッセージを返信する。
来てくれると良いが、はてさて。
なにはともあれ、起き上がらなければ。
カフェ・ローレットで軽食でも食べていこう。
「あ、でもゾンビって臭いのかな……うーん。やだなあ……」
●
「あー、それで。そんな訳なんですよ。あとはaPhoneの資料を見てもらって……あ、はは」
細かな説明を放棄したほむらは、曖昧に笑うとカスクートにかぶりつく。
たしかに、希望ヶ浜で使用出来るaPhoneという端末は、実に検索性が良い。
この日、カフェ・ローレットに呼び出されたイレギュラーズは、ゾンビ退治の詳細を聞いていた。
ここ練達の再現性東京の一角『希望ヶ浜』は、いわゆる『異世界地球』における『現代日本』の『東京西部にある都市』を模した地域である。
その中でも『石神地区』は山と田舎、土着信仰にフォーカスされた地区だった。
希望ヶ浜では、この世界にあまねく存在するモンスターの総称を悪性怪異夜妖(ヨル)と呼び習わし、イレギュラーズはそれを祓う存在とされる。
ほむらが通い、ローレットのイレギュラーズが『特待生』として招かれる希望ヶ浜学園は、表向きは普通の学園であるが、裏の顔は夜妖を退治するプロフェッショナルを育成する機関なのだった。
それはさておき。石神地区では、さながらオカルトホラーの世界を彷彿とさせる『真性怪異』なる、不可思議な現象が観測されていた。
希望ヶ浜における怪異のスペシャリスト達――学園、澄原、音呂木といった組織が、石神地区へ様々なアプローチをかける中で、学園は一つの大きな依頼、つまりこの『ゾンビ退治』を受けることになった。
情報提供者は阿僧祇霊園の担当者を名乗る澄原 水夜子。彼女は『希望ヶ浜 怪異譚』全般についての調査を中心に動いているらしい。最後に『ああ、それと、何かに呼ばれても振り返らないように』そんなおどろおどろしい言葉を添え――
そんな訳で、仕事は必然的に、学園と提携するローレットにも持ち込まれることになったのだ。
背景は複雑そうでも、仕事内容そのものは至極単純なものであった。
要するに、現場に行って戦えば良いのである。
現地に到着する頃には夕方になっているだろうから、明かりがあっても良いかもしれない。
廃ビルというからには、足場にはガラクタがありそうだ。
敵の進路を誘導出来るよう、バリケードなどを構築してしまう手もある。
だいたい、そんな所だろうか。
仔細は追って道中に詰めれば良いだろう。
「屍は『お嬢さん』の婚姻の刻を待っている……って、何でしょうね、これ」
少しおどけたほむらは、少し浮かない表情をしている。
なんというか、ホラーっぽくて不気味だからだ。
この世界ではオバケも何もモンスターであり、殴れば倒せると思うのだが、いや今回の依頼自体はきっとそうであるに違いないのだが、それでもなにか、背筋が薄ら寒い思いは禁じ得ない。
「……なんか怖いですよねー。飲み物、暖かいものにしとけばよかった」
異世界地球で科学文明にどっぷり染まっていたほむらは、もともと信心深くない性格だ。だが、こんな世界に来てしまった以上は、『何か』あっても、おかしくはないではないか。
「んー、なので、まあ。しょうがないので、ちょっと一緒にお仕事をお願いします」
パンを飲み込んだほむらは、アイスティーで口を潤すと、そう述べて、ぺこりと頭をさげた。
●
カラスが飛び立った。
夕暮れの廃ビルは、どこか近寄りがたい空気を漂わせている。
一行は割れた窓、窓がまどをあけました、はいりましょう、
さっそくいきまをあけました、はいりましよい
よいかえりはこわいとをあけ
ました、はいりま√&縺」縺昴¥縺?″縺セ繧偵≠縺代しおりとか医j縺ッ縺薙o
縺?→繧励らすがなきましひだるがみた
おおりまあましょ偵≠縺代∪縺うしししおなかが@縺励@縺励@縺励すきましたしししししししとびらひらかれ
ますかみさまのいうとおりひだ縺励@縺励→縺ウ繧峨?繧峨°繧後∪るれいえんのししししししし縺セ縺ゥ繧偵≠縺代∪縺励◆縲√?縺?j縺セ縺励g縺?∪縺励◆縲√?縺?j
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- <希譚>ルインズオブザデッド<呪仔>完了
- GM名pipi
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年03月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
●
ガラスの破片が散乱している。
砂埃が覆う錆びた机は、この場所が随分と長い間、遺棄されていたことを物語っていた。
「廃ビルを基地にして防衛戦ってすげー! マジでゲームみたいじゃん」
辺りを見回した『Adam』眞田(p3p008414)は、言うなり窓の位置を確認した。そこそこの数がある。
「あー、なんか分かります。ぽいですよね」
頷いたのは、再現性東京に暮らす普久原 ・ほむら(p3n000159)だ。
「そういったゲームをやったことはないんだけど、効率的に対処しなきゃってのは、何となく分かるよ」
経路の確認を行っていた『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)もまた応じた。
この日、一行は練達の希望ヶ浜――石神地区へと足を伸ばしていた。
生ける屍、要するにゾンビが大量発生したからどうにかせよという話で、まずは拠点の一つとしてこの廃ビルの安全を確保して、後任に引き渡すことが仕事内容となっている。
無論、襲ってくるであろうゾンビの迎撃が必要であることに違いはない。
「俺わくわくしてきたぞ。あー銃が使えればなぁ、無双できるのになぁ」
眞田が操るのは音であるが、得手は至近。多量の敵を相手取ると予想される仕事上、その軽口とて切実なものだろう。遠距離からの攻撃手段は重要な役割を持つに違いない。だが同時に、そうした作戦は眞田のように前衛へ立つ役柄があってこそ成り立つとも言える。共に大事であることに違いはない。適材適所が肝要だ。
それにしても、ゾンビを相手にバリケードを作るなんて、さながら映画のようだ。
あたりを見回した『パープルハート』黒水・奈々美(p3p009198)は微笑んだ。
その後ろで、瓦礫を避けながら歩く『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)の面持ちは、どこか高揚を隠せないでいた。彼女にとってこの依頼は、仕事以上の真剣さを伴っている。
(好きな子と一緒なんだもの! 仕事以上に、絶対失敗する訳にはいかない! ……って)
「わ、わ。わっ、と。あ、ぅ」
「――!」
ワルツは躓いたほむらの腕を引いてやった。
「あ、あの、ありがとうございます」
「ど、どういたしまして!」
一瞬だけ交わった視線を違いに逸らして、ワルツとほむらは頬を染めた。
「この戦いが終わったら、一緒に文通なんて……どう?」
「……フラグ!? あ、あの……はい。喜んで」
実に尊み溢れる光景だが、こういった映画だと、結構リスキーなのでは!?
ともあれまずは陣地の構築だ。敵の経路を遮断するのだとヴェルグリーズは述べた。
「一通りの把握が必要そうですね」
「ああ、だな。そうしたらせめて一階の窓だけでも封鎖しておきたい所だ」
その言葉に『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)も同意した。
一行は瓦礫を押しのけ、行動スペースを確保しながら、ビルの一階を探索する。
「ここは……」
「だったら俺が見て来よう」
入り口が瓦礫に塞がれた給湯室へ、レイチェルは壁をすり抜ける。」
それから一行は情報を手早く共有した。
他にあるのはエントランス、会議室――それからトイレに非常口、階段。
馴染みがあるかは人によるが、どうやらごく普通のビジネス向け雑居ビルのようだ。
「この防火扉は利用出来そうですね」
ヴェルグリーズが防火扉を降ろす。椅子も机も、使えるものはなんでも使おう。
「それじゃあ、陣地構築を開始するッス!」
「ワタシは外を対処してくるであります。貴殿等はこのまま中を」
「了解!」
目配せをかわして、『号令者』ハイデマリー・フォン・ヴァイセンブルク(p3p000497)は、屋外に這い回るパイプや階段の位置を探る。まずはこれを破壊しておきたい。ゾンビ共の移動経路になり得るからだ。
ビルの見取り図をすっかり読み込んだ『蒼騎雷電』イルミナ・ガードルーン(p3p001475)が、机をエントランスへと押して行く。ハイデマリーが戻ってきたら、ここもすぐに塞いでしまおう。
(……今思えば、一見何気ないそれぞれに意味があったんだな)
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、ふと思う。
そういえば故郷では屍人対策として日頃から何段階もの備えがあったのだ。
暗殺者ではあるが、少なくとも表向きは神官兵士――屍人退治をしていた身の上のこと、ある意味では専門家であるとも言えよう。
他にも、そう言えば――
「ふふ……。ぞ、ゾンビはともかく……ヒダル神って知ってる……?」
椅子を運びながら訪ねたのは奈々美に、ほむらは首を横に振る。
「依頼に書かれていたやつですよね。じつは全然」
「ヒダル神ってのはね……飢えて死んだ人に取り憑く妖怪の類なの……」
奈々美が述べるには、ヒダル神は人をとり殺して、被害者を新たなヒダル神に変えてしまうらしい。
対処法は『取り憑かれたらすぐに何か食べ物を食べる』というものらしく、奈々美は念のためにお弁当を用意していた。実際にどうなるかは分からないが、備えあればなんとやらで、ありがたい話だ。
「あと、これほむらちゃんも手伝って」
「あ、はい。やります。こっち持てばいいですか?」
「そう。そのまま打ち付けちゃえば……ここは完成」
はっ、これは。共同作業というやつか。
陣地構築は、それを得手とするワルツを仲間達が支援する形で順調に進んでいる。
一階の窓は全て固めてしまい、部屋の入り口という入り口には机などの障害物や遮蔽物を積んでいく。
そうこうしているうちに、隙間から差し込む西日が遂に落ちた。作業開始から三十分程が経過していた。
●
「外は終わったであります」
足場になってしまいそうなパイプや非常階段を打ち壊したハイデマリーは、鳴子も設置してみた。情報では猿型のゾンビも居るということで、壁をのぼるなど上からの侵入に対する警報の役割を持つ。
そうこうしているうちに、屋外から窓枠の辺りに穴を掘っていた眞田も戻ってきた。
「こっちはバッチリ。あとは中かな」
「集めたガラス片をまいておこう。あとこの、もつれた針金も」
砕けたガラスや、折れた金属机の脚も、即席の撒菱となる。歪んだハンガーをつなぎ合わせれば、足を取られてくれるかもしれない。アーマデルはロッカーのモップを手に取り、そうした鋭い破片類を入り口の外側に押しやった。これで多少の手傷でも負わせることが出来れば最良だ。
空になったロッカーは、これもバリケードにしてしまう。あとはロープも張って――
「バリケードが破られるのは前提ッス。この紙もまいておくッスよ」
イルミナは封鎖されたエントランスの内側に、紙類をばらまいた。あわよくば、敵を転倒させるのだ。
「ああ、こういうもんは時間稼ぎでいいんだ。
一気に雪崩れ込まれる事態さえ避けられりゃ、後はどうにでも出来る」
イルミナとレイチェルの言葉に一同が頷いた。
敵に余分な一手を強いることで、細かな地の利を大量に稼ぐのだ。完全に遮断出来るような完璧というものはなく、相手に数々の手間を強いるというのは、どことなく防犯にも似ている。
「この部屋は塞いで、と。なんだか秘密基地みたいで楽しいな」
眞田の言葉に仲間達が頷く。こうなってくると、少し楽しさも沸いてくるものだ。
辺りは加速的に暗くなってきていた。
暗視目薬をさしたワルツの視界が、一気に開ける。
これでよし。一行は各々暗闇に対する対策をしていた。
さて、あとは上への階段も、細い一箇所以外は登れない様に封鎖してしまおう。
「入口は念入りに、だね。何かもう少しこうするといいって、あるかな?」
「その机を斜めに立て掛けて、柱に食い込ませてしまうとよさそうよ」
ワルツのアドバイス通り、机がちょうど打掛錠のように機能してくれた。
最も大きな侵入経路となるエントランスに対して、一行は特に念入りにバリケードを積み上げる。
「敵はいつ来るか分からないでありますから、そろそろ見張っておくであります」
ハイデマリーは、夜目の利くトカゲの使い魔を隙間から這わせて、外を探る。
「酒は……後でなんとかするから警戒を頼む」
アーマデルもまた、酒蔵の聖女に見張りを頼んでみた。
ひとまず陣地構築がどうにか終わり、廃ビルには静寂が訪れる。
じりじりと流れる時間に、誰かが息をのんだ。
数分が経過した頃だろうか。鴉――使い魔の鳴き声にレイチェルが頷く。
「来たでありますな」
目配せしあったハイデマリーとアーマデルの言葉に、一同の緊張が走った。
「いよいよ本番だなァ」
外から聞こえ始めた微かなうめき声を、美貌を獰猛な牙で彩ったレイチェルの声音が切り裂く。
「同じアンデッドだろうが、吸血鬼が格上って所を見せてやるさ」
●
けたたましい物音と共に、三階まで振動が響いてきた。
ゾンビ達がバリケードに攻撃を開始したのだろう。
けれど、大丈夫。ワルツは愛らしい唇を引き結んだ。
ここで出し惜しみなんて、出来る訳がない。
「――Cauterize……Blazing!」
きらきらと光に包まれたワルツの美しい身体を、愛らしい衣装が覆ってゆく。
弾むように現れたリボンと共に、スナイパーライフルを構え――全開の魔砲少女だ。
衣装は恥ずかしいけれど――出し惜しみナシでいくからっ!!
「フッ……その心意気やよし。ならば私も全力で行こうか!」
希望ヶ浜学園の制服が光に消え、舞い散る黒い羽根がドレスのような衣装にかわった。
掲げた拳から滴る赤い血が、十字の剣を形作る。
「宵闇の皇女たるこの私が、不浄の死者共に引導を渡してくれる」
「ほむらちゃんと私達の家(?)に割り入ろうたぁ、イイ度胸ねっ!!」
「ああ、我等が城への招かれざる客に、制裁の鉄槌を下そうか!」
「――!」
そんな言葉に、けれど気を引き締める。
我ながら理不尽とも思う怒りさえこめて、全弾を叩き込んでやる。
うねるように群がるゾンビの群れへ向けて、ワルツは引き金を引いた。
災厄の魔弾は、敵の額を正確無比に貫き、後頭部を爆ぜさせたゾンビが他の群れの中に埋もれる。
「ふふーん。まずは一体ね!」
胸の内の紅焔が、燃え滾りはじめた。
ほむら……ティファレティアの魔眼に、壁をよじ登ろうとする一体が吹き飛び――
尚も進軍を止めないゾンビ共へ、弾丸の嵐が吹き荒れる。
「こちらハイデマリー。作戦は順調でありますが、なにぶん数が多い」
「ああ、けど。やれることをやるぜ」
「同意するものであります」
魔法少女といえばハイデマリーも他人事ではないかもしれない(?)が、ともあれ二階のハイデマリーもまた、素知らぬ顔で迎撃を開始した。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり――そのまま寝てなァ!」
レイチェルの紡いだ鮮血の魔陣から、紅蓮の炎が吹き荒れた。
炸裂する魔力がゾンビをひとなめに焼き尽くし――
不意に壁から現れたアーマデルが、十字に構えた双剣を解き放つ。
唸りを上げた刃の連なりが奏でるは英霊残響――怨嗟。
英霊の未練、狂気にも似た不協和音が死人の群れをなぎ払う。
傷つきながらもゾンビは、アーマデルを捕えようと、乾いた血にまみれた青白い腕を伸ばす。
だが即座に窓枠を掴んだアーマデルは、身を翻して窓へ飛び込んだ。ゾンビの指先が空を切る。
一階でも、いよいよバリケードの隙間から、ゾンビが顔を覗かせている。
だがハイデマリーの述べたように、作戦は順調そのものであった。
外堀やまきびし類に転んだゾンビに、後続のゾンビが足をとられて転ぶ。
そのまた上に、ゾンビがのしかかる。
もがき怨嗟の声をまき散らしながら、ゾンビ達は未だにバリケードを突破出来ていない。
ゾンビの数は多いが、二階三階の遠距離攻撃組が、じわじわと打撃を与え続けているのだ。
時間とすれば数十秒、一分程だったかもしれない。
一行はその間に、敵陣へ着実な手傷を負わせることに成功していた――
だがけたたましい音が耳を劈いた。
ゾンビ達の人ならざる怪力に、バリケードが遂に破られたのだ。
「いよいよ、イルミナ達の出番ッスね!」
「――っしゃオラ、死ね死ね!?」
眞田とて正直な所を言えば割と怖いとも思うのだが、テンションを無理矢理にでも保たなければ。
流れるような蹴りが炸裂し、飛びかかってきたゾンビが逆さまに吹っ飛んだ。
「きちんとした『別れ』が必要でしょうから――切り分けます」
死者の運命さえ、ヴェルグリーズは切り捨てる。
奈々美もまた雷を纏う黒陽犬を解き放ち、ゾンビの群れを蹂躙して行く。
それにしても。
「うーん、わんさかいるッスね! とにかく一体一体、確実に倒していくッス!」
蒼雷の軌跡が駆け抜け、イルミナのエネルギーフィールドが、ゾンビの一体を吹き飛ばした。
「いやはや、よく映画では見ますが……こうして実際見てみると圧倒されるッスねぇ」
「……うう」
洋風ホラーもオカルトも、話すだけなら良いのだが、まさか実際に目の当たりにするはおろか、実際に交戦まですることになるとは思ってもみなかった。
「あれがヒダル神ね……」
あんなものに、万が一にも取り憑かれたくなんてない。積極的に狙って行かねば。
だが一行の入念な作戦には、猿型の強力な固体ヒダル神も中々手こずらされているようだ。
「ちょっと後退しようか。階段に陣取って各個撃破していこう」
室内に侵入したゾンビ共は、徐々に数を増やしつつある。
ヴェルグリーズの提案通り、一行は後退しながら迎撃を続けていた。
「これ以上、お近づきにはなりたくないよね」
天井に張り付き飛びかかってきたヒダル神に、眞田は立て続けの連撃を叩き込む。
「まずは一体かな」
動かなくなった『それ』に、眞田と奈々美がほっと溜息一つ。
「お待たせしたわ!」
「確実に火葬してやるぜ」
三階組と一階組が、二階で合流する。一同が集結した。
「一掃するであります」
ハイデマリー、レイチェル、アーマデル、ワルツ、ほむらが階段をのぼってくるゾンビへ一斉に火力を叩き付ける。弾丸が、炎が、雷撃が、斬撃が――こんな戦場ではなんと心強いことか。
――そして。
神速の踏み込みから放たれたアーマデルの二振り――蛇剣が、最後に残るヒダル神を打ちのめす。
尚も縋るように、ヒダル神は歯を剥き出しにして跳ねた。
「これで終わりだよ」
ヴェルグリーズの斬撃がヒダル神を駆け抜け、その歪な生に終焉――別れを刻んだ。
ひとまずの勝利に、誰かが長い溜息を吐き出して――
●
「……往くべく処へ逝けたのだろうか?」
アーマデルの足元に横たわる、身体の持ち主は。
故郷ではこういうものは、焼いて弔うことになっている。
それは『容れモノ』だから。
空いていればまた中に溜まりかねない
ひょっとしたら、この地域にそうなる要因もありそうなのだ。
「賛成するぜ。このままじゃ、嫌な予感しかしねえ」
ビルの外の広間で、一行は死者達を弔った。
灰は灰に、塵は塵に――魔術の炎は消え去り、全ては一握りの白へと砕け果てる。
「うむむ……祟りとか呪いとか、未だにちょっと疑ってるイルミナがいるッス。
だってこう……元の世界的に。そういった概念ごと消滅しているような物ですし……」
イルミナの呟きに、ほむらが頷いた。
「私もそういうものは、あんまり信じていません。
それにほら、この世界ってだいたい殴れますし。あ、は、は」
だが夜妖とは異なる『真性怪異』と呼ばれる『何か』の検証は、いまだ終わっていない。
「ほんと怖すぎでしょ。早く帰らせてくれますか」
眞田が肩をすくめる。一行はあと少しの時間だけ、交代要員を待つことになっていた。
「……あの!? ほむらちゃん」
「え、あ、あー。そうだ。ええっと、aPhoneのここのアイコン、押してもらって、ですね……」
画面を寄せ合いながら、ワルツとほむらが連絡先を交換する。
一行はぽつりぽつりと語り合いながら、今か今かと時間を待った。
こんな所からは、一刻も早く立ち去りたいものだ。
――イレギュラーズさん。
一行に緊張が走る。
「イレギュラーズさん!」
こうした呼び声に、振り返る訳にはいかない。
「ローレットのイレギュラーズさん!」
まるで何かを持って行かれてしまいそうな気がするから。
「イレギュラーズさん! 時間です! お待たせしました! 遅くなってすいません」
回り込んできたのは、希望ヶ浜学園の人達だろう。
「あの、どうかされたんですか?」
数名おり、制服と武器を携帯している。
「あー。やだなあ。本当に怖いですよね、こういうの」
「おー、すっげ。片付いてるし。掃除屋さんお仕事ないな、これ」
「は、は、は」
誰かが乾いた笑い声をあげた。
「っしゃ。帰ろう、ほら早く」
眞田の声に一同が頷いた。
こうして、一行は戦場を後にする。
数台の車というものが用意されており、運転手がどうにかしてくれる。
全ては手筈通りだ。
何も問題は無い。何も。
――イレギュラーズさん。
車に乗り込もうとした時、そんな声が聞こえてきた。
「早く乗ろうぜ」
思わず振り返りそうになった誰かの背を押して、レイチェルもまた車に乗り込む。
エンジンが唸り、振動と共に景色が遠ざかって行く。
だから今夜の話は、ここでおしまいなのだ。
――イレギュラーズさん。がな縺セ繧偵きましひだる縺励g縺?。
ししししししししし
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
被害ゼロということで、見事な完勝だったのではないでしょうか。
MVPは犠牲者のために祈って下さった方へ。
本依頼については参加者であったかを問わず、特に読者側(審査者を含む)に対して、以下の重要なお願いがあります。
・繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。
・繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。
それではまた皆さんとのご縁を願って。pipiでした。
GMコメント
pipiです。
迫り来るゾンビをなぎ払いましょう。
●目的
・頑張って廃ビルに陣地を構築する。
・襲ってくるゾンビを、ありとあらゆる手段でぶちのめす。
戦略目標自体は、この廃ビルの確保です。
無事にあらかたのゾンビを片付け、学園に連絡すれば交代人員がやってきます。
あまり気にしなくて大丈夫です。
●ロケーション
夕方~夜。
朽ちた道路の脇に立っている三階建ての小さなビルです。
窓ガラスは全て割れて、廃墟になっています。中はごちゃごちゃ。
入り口は一つですが、なにぶん沢山ある窓が敵の侵入経路になってしまいます。
●陣地構築
夕方の小一時間で出来ることをやってみましょう。アイディア勝負です。
とはいえ困ったら『その辺の木材で窓を打ち付ける』『入り口にバリケードを用意する』『高所から狙撃出来る場所を確保する』とかなんとかやれば、最低限なんとかなるでしょう。
あんまり状況を細分化するのもあれなので、かっこよさげなシチュエーションを決め打ちしてOKです。
※諸注意
アイテムは、名の通りの一般的な使い方と、書かれた効果しかないのです。
なので『小型船をバリケードにする』とかはスルーされてしまいますので、ご注意下さい。
●敵との交戦
陣地を作ったら、頑張って大量のゾンビを迎え撃ちましょう。
ゾンビは夜になると、入り口方向の向こう側から姿を現します。
ここからが本番です。
ゾンビは入り口に向かってきますが、ある程度の時間で他の方向にも回り込み始めます。
『ゾンビ』×30程度? もうちょい居るかも。
後述のヒダル神に従って行動しているようです。人間のなれの果て。
力強い固体、やたらとタフな固体、妙に素早い固体、思ったより要領がいい動きをする固体など、それぞれに傾向があるようです。そのほうがゾンビっぽいからです。
『ヒダル神』×2程度?
猿のような風貌のゾンビです。
結構強く、上位ゾンビといった感じです。真性怪異に近いらしいです。
●同行NPC
普久原 ・ほむら(p3n000159)
希望ヶ浜学園の生徒で、皆さんの仲間になりました。
両面中衛バランス型アタッカーです。
至近~遠距離の攻撃をバランス良く扱います。
特に命令しなくても、勝手に連携してくれます。
お願い事も聞いてくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
[注:繙読後、突然に誰かに呼ばれたとしても決して応えないでください。]
[注:繙読後、何かの気配を感じたとしても決して振り向かないで下さい。]
●希望ヶ浜と学園
詳細はこちらの特設ページをどうぞ
https://rev1.reversion.jp/page/kibougahama
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