シナリオ詳細
朱に交われど紅ならず
オープニング
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無限の如き灼熱の砂漠を乗り越えた先に待つ、雄大なる緑の森。
多種多様な木々と、煌く陽光に誘われる大森林は、足を踏み入れれば迷宮となって出迎える。
そしてそこには、国があった。あまりにも雄大かつ広大な森林部を丸々国土と称す森林国家――『アルティオ・エルム』
男は――いや、『男にも見えるナニカ』は、その雄大なりし森林の果て――海風に晒された場所にて、それをつまらなさそうに見つめていた。
視線の先には、一人の女性。茨の冠を乗せたブロンドの髪が、風に靡いていた。
風に煽られてから、男の下へ微かな花の香りが鼻腔を擽り、ぞわりと寒気がする。
「……悪いけど、協力してね?」
風に乗って聞こえてきた言葉。女の眼前には獣が一匹、砂漠の砂に半ば埋まるようにして横たえられていた。
じたばたと動く姿は、四足動物の類に見えた。
緩やかに動きを止めたその獣が、やがてゆっくりと立ち上がる。
「ほう――」
ナニカが声を漏らす。それに反応するように、女が振り返る。
「……貴方は、誰?」
「名乗る名などない。そう構えるな。我は人間ではない」
「……そのようね。人間になり損ねたような――植物みたいな」
「貴様が何をしようと構わぬ、貴様が木々を増やし、木々を癒せば癒すほど、我にとっても利はある」
「……そう、なら、邪魔しないことだわ。殺されたくなければね」
「やれるならやって見せよ……貴様の落ち方を楽しみに見ているとしよう」
嘲笑する男の言葉を無視して、女は何かの準備を進めていく。
顔布で口元を包み隠した係争の集団が砂漠を踏みしめていく。
風は穏やかで砂塵も少なく、行軍の都合は良さそうだった。
8人ほどの集団は、真っすぐにどこかへ向けて進んでいる。
先頭を歩く一人の男が、望遠鏡を覗いて立ち止まり、右方向を見た。
「隊長、何か前から来ています」
「依頼人の手の者か?」
「いいえ――動物です。あれは……ウシっぽいですけど」
「見せてみろ――あれは……オリックスか?」
望遠鏡を借り受けた隊長であるという男は、望遠鏡を覗き、垂直に伸びた角の動物を認めて。
その上、何かに気づいたように目を見開いた。
「てめえら! 剣を構えろ、走れ! やつら、こっちに向かってきてやがる!」
望遠鏡を放り投げて持ち主に返した隊長が叫ぶ。
砂塵が山と立ち上がり、確かにそれはこちらに向かってくる。
隊長が前に向かって疾走する。その後ろを、走行方向を変えた動物が追いすがる。
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「焔さん、お疲れさまです」
ローレットに訪れていた炎堂 焔(p3p004727)はアナイス(p3n000154)から呼び止められた。
「どうかしたの?」
「――エルリアさんのお姿が確認されました」
「ほんとに!? どこ!」
「深緑の森林迷宮から外れた砂漠地帯のひとつです。
ある傭兵が別件で行軍中、5頭のオリックスに襲われました。
その傭兵達が、仕事を終えてオリックス達の来た方向に調査を行なったところ、彼女の姿を確認した形です」
「ありがとう! 早く行かなきゃ……!」
「あぁ――少しだけお待ちください。
情報をまだまとめきれてないので、もう少しだけ……」
そう言いながら、さらさらとアナイスが情報を書き記していく。
その姿を見つめながら、焔はぐっと拳を握った。
「これは何より重要なのですが、情報をくれた傭兵は襲われ、何とか撤退してきたようです。
……彼女の近くにやせぎすの男のような姿をした人ならざるものがいたとか。
恐らくですが、純正肉腫でしょう」
「だから、私も呼ばれたんだね?」
そう言ったのはいつの間にか隣にいたスティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)だった。
「純正肉腫のことを調査してもらってたけど……まさか一緒にいるなんて」
そう言うスティアの表情は硬い。
- 朱に交われど紅ならず完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年03月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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「以前深緑でいたお花のガイアキャンサーの被害者……であってるんだよね……?」
現場へたどり着いた『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は一応と『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)に問いかけた。
「うん。……やっと見つけた。今度こそエルリアちゃんを助け出さないと」
そう言う焔の眼が、周囲の様子を流し見て、ウェンディの近くに立つ人(?)にたどり着く。
形状で言えば人型だが、人間と言っていいかと問われれば首を傾げるほかない。
あれがガイアキャンサーなのだろう。
(思いもよらぬ所へ繋がっていたけど……見つけたからには助けないとね!)
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)が依頼していたのは、純正肉腫の調査だった。
それがウェンディと共にいる理由は良く分からない。
ガイアキャンサーにとってもウェンディの何かが利用価値でもあるのだろう。
(焔ちゃんの友達が複製肉腫に取り憑かれるなんて……
セバストスやガイアキャンサーが世界にまだまだいるっていう事実を改めて突きつけられた気持ちだね)
ガイアキャンサーの様子をみながら、『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)は聖刀に手をかける。
思うことはあれど、自分にすべきことはただ一つ。
「まずは取り巻きを無力化しよう」
戦場を見渡す『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は術式を起こす。
敵は多い。ウェンディに到達するよりも前に、周囲の奴らが邪魔をしてくることは目に見えていた。
ウィリアムは静かに魔術を行使する。
周囲に描き出された魔方陣が急速に演算を起こし、効率化を推し進めていく。
集束した魔力が爆ぜ一輪の花の頭上に陣が浮かび上がる。
陣より振り下ろされた美しき断罪の裁きが瞬いた。
「おおむね話は理解したわ。『二人とも』保護しろってことね」
魔術書を紐解きながら、『緑雷の魔女』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)も準備を整える。
収束させた魔力が緑色の光を形作り、スパークを放つ。
激しい音を立てるそれをアルメリアは真っすぐに投擲する。
高速で放たれた一条の雷撃は花の上で檻でも作るように炸裂する。
激しい雷鳴と共に撃ち抜かれた花が揺れる。
「アナタ達、ワタシの邪魔をしに来たのね?」
ウェンディが視線をイレギュラーズに向ける。
敵意を向けた直後、5頭のオリックスが鳴き、傭兵が動き出す。
その様子を見た『トリックコントローラー』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)は片翼を広げた。
魔力を帯びる片翼が淡く輝き、無数の短剣を生みだしては射出し、剣の雨と化して傭兵達へ降り注ぐ。
それはすばしっこい兎を執拗に追いかけ撃ち抜くような多くの範囲を包み込む剣の驟雨。
一本はたいしたことなくとも、その圧倒的物量により傷が開き、否応なく彼らの注意を引く。
焔とチェルシーに不敗の英霊を降ろした『マジ卍やばい』晋 飛(p3p008588)は、オアシスに咲く二輪の花めがけて榴弾を投げ込んだ。
放物線を描いた炸裂榴弾は、二輪のうちの片方へくるくると飛んでいき、鮮烈的な傷をまき散らす。
その最中、既に晋 飛身体は植物の眼前へと移動していた。
天使の羽根の舞い散る中、スティアは静謐の内側にあった。
静かに紡ぐは聞き慣れた神の言葉。
福音たるその導きは穏やかな旋律となってイレギュラーズに向けて動き出そうとしたオリックスにも奏でられる。
福音に導かれるように、3頭が方向をスティアに変えて、走り出す。
「天義の聖騎士、サクラ・ロウライト。推して参る!」
それは、普段通りの宣言だ。しかし、その実は髪への祈りにして誓い。
神の祝福が宿る美しき剣閃は、満月を描くように範囲内の邪のみを両断する。
オアシスの花が軋んで茎が削れ、埋め込まれたであろう種が露出する。
サイズは『それ』を確認するや、一気に飛翔する。
真っすぐに駆け抜けた先は、大輪の花――その露出した種。
埋め込まれたそこへの突貫は、かつての精霊を救うために編み出した無茶。
突貫と同時、軌跡を描く血色の刃が走り抜け、埋め込まれた種だけを削り落とす。
「ウェンディちゃん! どうしてこんなことをするの? こんなのエルリアちゃんは喜ばないよ!」
その間を走り抜けた焔は、ウェンディの眼前にまで走り抜けると、視線を交えて声を上げた。
「アナタに何が分かるの! あの子の悲しみは、苦しみはワタシには分かる! だって、ワタシはあの子でもあるから!
だから、邪魔をする奴ら全てを殺して、あの子が苦しまなくていいようにする! 何が駄目だっていうのかしら!」
怒りを見せたウェンディが叫び、その手元に何かの花の花粉を持ち出し、ふぅと吹き付けた。
飛沫するそれが、扇状に広がりを見せる。
焔はそれを耐え抜くと、カグツチを構えた。
「それじゃエルリアちゃんの体は守れても、人と植物が一緒に栄えていくっていうエルリアちゃんの想いが守れない!」
焔は真っすぐにウェンディめがけて突貫すると、カグツチの炎部分で横薙ぎに叩きつけた。
それの勢いの殆どはウェンディの身体にある薔薇に殺される。
「あなた、人間が嫌いなのね。奇遇ね、私も人間は嫌い。全体的に見ればだけどね」
ウェンディの言葉を聞いていたチェルシーはそう声をかける。
「……でも、中には気の合う人もいる。心底嫌な人もいるけど。
あなたもエルリアは好きなんでしょう? 好きな人間を増やしてもいいと思うわよ」
そう言い残すや、跳躍。
「それはそうと、アンタたちには童話の終わりを刻んであげる──グリムエンド!!」
その視線は群がる傭兵に。
爆発的な加速と共に上昇しながら切り刻み、くるりと身を翻す。
そのまま、片翼そのものを一本の刀のようにして、傭兵を削り落とす。
御伽噺の終焉を告げる洗練された斬撃に、傭兵が崩れ落ちる。
「シャキッと目を覚ましなさい!」
ウィリアムは大気中の魔力を術式を再構築していく。
「妹を心配し、危険から遠ざけたいと思うのは姉としておかしい事じゃない。同じ事があれば僕もそう思うだろう。……でも」
ウィリアムは術式より生じた雷霆の槍をオリックス目掛けて撃ち抜きながら、その視線をウェンディに向けた。
「妹がまだ諦めていないのにその夢を邪魔するのはよくないんじゃない?」
ウェンディへ声を掛けながら、ウィリアムは神気を振り下ろした。
ウィリアムの言葉を聞いたウェンディの手が、少しだけとまったように見えた。
アルメリアは傭兵との戦いに専念するスティアに視線を向ける。
天へと浮かび上がった魔方陣が、淡く緑色に輝きを放ち――鮮烈な音と共に雷霆を打ち下ろす。
緑雷は傭兵を諸共に囲い、締め上げるように頭上から足の先まで打ち下ろされる。
晋 飛ももう一つ咲いた花の方へ動いている。
三節棍を握り締めて振るうは、純粋な怒りからくる単純な打撃。
感情に従うままのその一撃は、茎を軋ませ、花の動きを大きくたわませる。
心なしか、花の中心が、晋 飛の方へ動いているように見えた。
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サイズは真っすぐに飛翔する。
突撃を繰り返す5頭のオリックスは、その頑健さにかけては今のところ一番に思えた。
(周辺の敵を無力化している間に炎堂さん達が説得成功してればいいが……)
ちらりと視線をウェンディの方に向けるが、今のところまだ説得が実を結んでいるようではなさそうだ。
突撃をかまされたオリックスとの間に浮かび上がった氷のバリアがその勢いをほぼ殺し尽くす。
それに対抗するように、サイズは跳躍した。
遠心力を駆使して振るった血色の刃は鮮やかにその頭部を切り落とす。
「頑なな美人ってのも嫌いじゃねぇがわかんねぇか? 俺のセンサーにビンビン感じンだよ!
お前ン中のエルリアが助けて助けてつってんのがよ! 生きたいように生きさせてやれよ!」
オリックスをぶち抜き、晋 飛は振り返って声を荒げた。
「……何よりテメェだって助けを求めてただろうが!? 俺等より妹信じな! このバカ女が!!」
「ワタシが、助けを求めた? 違う、ワタシは誰にも助けなんて求めてない!」
ウェンディの激高に合わせるように、晋 飛を中心に茨があふれ出す。
状態異常を無視していても、その身を穿つ強烈な悪意が身体をしめつけてくる。
「私は魔剣の精霊ミストルフィン、お名前を聞かせて頂けるかしら」
取り巻き達が沈黙するころ、チェルシーは真っすぐに純正肉腫と相対した。
「名などない」
跳躍して後退した純正肉腫は淡々と答えた。
「そう、覚えておいてあげようと思ったけれど。……ともかく、今回は退いて欲しいわね」
「なに、そう急くな。少なくともお前達には手を出すつもりはない」
片翼を広げるチェルシーに対して、男は興味を示さない。
「アンタがウェンディね! 話は大体聞いたわ。
確かに人間にもロクデナシはどうしようもなくいるけれど……
だからって皆殺しにしていいものでもないわ!」
ウェンディの場所まで到達したアルメリアも声を上げた。
「 それと、ザントマンは人間じゃあなかった。
ガイアキャンサーとか言うよくわからない魔物みたいなものだったのよ。
それがデモニアとか言う世界そのものを滅ぼす奴らと結託してたの。
デモニアは私たちが倒す。人間だけ皆殺しにしても意味はないわ」
「どうでもいいわ。この子を苦しめたものはザントマンであり、人間だもの。
ザントマンが人間だろうがなかろうが、苦しめた事実は変わらない!
それならそいつらも殺すだけ! 人間じゃなかろうが知った事か!」
再び周囲に溢れだしたのは、無数の茨。
砂漠にありえざる発生と共に満ちる悪意が、イレギュラーズへと襲い掛かる。
「人間が嫌いだからと言って全部滅ぼしてしまって本当に良いの?
寂しい世界の中で生きることになってしまうけど、エルリアさんは本当にそんなことを望んでいるのかな?」
セラフィムを今出せる全開に広げたスティアは問いかけた。
ゆらゆらと揺れる天使の羽根が、真っすぐに立つスティアの周囲で鮮やかに舞い踊る。
静かに魔術を行使しながら、視線をウェンディから外さない。
「殺し尽くした後にそんなことして欲しくなかったと言われても大丈夫なの?
もし考えたことがなかったのなら少し考えて欲しいな。より良い未来を目指すためにも」
「考えたことなんてない! でもきっと、この子は分かってくれる! きっと! きっと!」
それを聞きながら発動した鮮やかな魔力の花が開き、花弁の如く舞い降りる。
洗練された美しき花の踊りの向こうで、彼女の眼が揺れている。
「貴女は人間を嫌ってるけど、殺したいとまでは思ってない!」
スティアの言葉に続けるように、サクラは声を上げた。
「何を言っているの? ワタシは殺すの、だって、それがあの子の為になるから!」
「貴女は人間を当てに出来ないからこんな事をしてるって言ってた」
剣を握り、徐々に間合いを詰めるサクラの言葉に、ウェンディがピクリと動く。
「――それは、人間を信用できるなら、そんなことをしないって事だよね」
だから。剣を握り、最適な間合いに立つ。
「なら見ていて! 私達にエルリアさんを護れる力があるという事を証明してあげる!」
踏み込みと同時、最速で打ち出された剣が、ウェンディに迫った。
「あの時、ザントマン事件の時はエルリアちゃんを危険な目にあわせちゃった……
だから心配になってこんなことしちゃってるんだよね?」
焔は、前へ出る。
じくじくと痛む身体など知った事か。
「……確かにボクたちだけじゃエルリアちゃんを守りきることが出来ないかもしれない」
パンドラの箱を開けてほんの少しの力を振り絞り、前へ。
「だから! ボクたちと一緒にエルリアちゃんを守って!」
「――は?」
「ウェンディちゃんと一緒なら、きっとエルリアちゃんの体も、エルリアちゃんの想いも。
両方守り抜くことだって出来ると思うから!」
傷だらけの掌を、焔はウェンディに向けた。
「それに、今回の話を聞いてウェンディちゃんがいなくなったって聞いたら、エルリアちゃんもきっと悲しむもん」
笑みを浮かべて、焔はカグツチを手放した。
「何を言っているの……?」
「ウェンディさんもエルリアさんの大切な人でしょ? 貴方を殺したら守ったとは言えないよ」
声を震わせたウェンディに、サクラがそう続ける。
明らかな動揺がウェンディの瞳に浮かんでいた。
「お願いよウェンディ。エルリアと……アンタに命がけで縋り付いているその子を信じてあげて。世界は、私たちが正す!」
懇願するように、アルメリアが声をかける。真っすぐに見据えたその目に、ウェンディの表情が揺らめいた。
「……『人と森の共存』、良い夢だね。
もちろんこれからも大変な事が沢山あると思う。僕達だけでは心配かもしれない。
だから傍で君も支えてほしい。エルリアが健やかに夢を追えるように。
彼女にとって何より幸せな事は、夢を叶える事だと思うよ」
深い、深い逡巡ののち、ウェンディの手が焔の手に触れた、その時だった。
「――それは困るな」
――声がした。
ウェンディの後ろ、刹那の動きで姿を見せたのは、不気味に立っていた怪物。
その腕が、木槍のように変質して奔る。
その一撃は、けれどウェンディには通らない。
血飛沫が上がり、ずきりと痛みを覚えたのは、チェルシーだ。
「これなら逃がさないわ。魔剣ミストルフィン、ロックオン――射出!!」
腹部の痛みなど気にせず射出した剣の羽根が、弾幕となって襲い掛かる。
木槍から腕に戻して拘束を解き、後退する肉腫へ追いすがり、剣が傷を刻む。
「チッ――流石に気づいていたか」
舌打ちに続けて、腕を振るった怪物の腕が爆ぜた。
先端がとがった無数の枝のようになって、扇状に走り抜ける。
「最高の形で終わるってんだ。邪魔させるかよ」
次に割り込んだのは晋 飛だった。
無数の弾丸のようになった木の枝に身を晒し、ウェンディへの到達を阻む。
それに合わせるように、晋 飛は三節棍の形状を銃に組み替え、反撃の一撃を叩き込む。
「私達が護るって言ったでしょ……?」
目を見開くウェンディに言って、サクラは駆ける。
砂を踏み抜き、純正の懐へ。ちりりと桜の火花が散り、一筋の剣閃が放たれた。
芸術的でさえある美しき剣閃は、純正の枯れた木の幹のような肉体へ吸い込まれるように撃ち込まれた。
「そうすると思った。説得されるぐらいなら殺してしまえとか考えそうだからな」
もう一度、純正が攻撃を仕掛けようとするのを阻むように立ちふさがったサイズは、真っすぐに純正を見据える。
思わぬ斬撃によろめいていた純正の顔が歪んだ――ような気がした。
「……ふん、奇襲が失敗した時点でこちらの負けか。では――」
そういうや、純正の腕が巨大なハンマーのように姿を変える。
来る――そう思った瞬間、ハンマーが地面へ振り下ろされた。
大量の砂が壁のように打ち上げられ――終わる頃に敵の姿は無くなっていた。
「――次は無いわ。でも……ちょっとだけ、信じてみるわ」
ウェンディがイレギュラーズを見渡した。
「うん」
その声と共に、焔の峰打ち気味の刺突がウェンディに撃ち込まれた。
●
「あー……クソ痛かったぜ。
お嬢ちゃんらも怪我は大丈夫かい?」
そういう晋 飛の身体は文字通り幾つかの穴が開いていた。
魔法で治癒も終わり、多少の期間が必要だろうが癒えはするだろう。
「よーし! 俺の奢りだ! 打ち上げとしようぜ。ちょうど牛も手に入ったしよ」
そう言って、ぶっ倒れるオリックスの一匹を持ち上げて笑って見せる。
その視線の先では、倒れるブロンドの幻想種とそれを抱える焔が見える。
「……うぅん」
「……おはよ、エルリアちゃん」
焔はほっと息を吐いた。視線を合わせた女性の眼の色は、美しい青色だった。
「うぅん……焔ちゃん……なんだか暑くない……? あれ? なんで私、砂漠にいるのかな?」
目をぱちくりさせるエルリアには、どうやら先程までの記憶は無いようだ。
ふわりと香る花の匂いがして、よく見れば、オアシスの花が穏やかに咲いていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
無事にウェンディさんとエルリアさんの救出が叶いました。
純正肉腫は……またいつか顔を見せたりするかもしれませんね。
GMコメント
さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
炎堂 焔(p3p004727)さんの関係者、ウェンディ・ウィルバーソン(あるいはエルリア)さんの救出依頼になります。
それでは早速詳細をば。
●オーダー
【1】ウェンディ・ウィルバーソンの生存。
【2】エルリア・ウィルバーソン並びにウェンディ・ウィルバーソンの生存。
【1】か【2】のどちらでも構いません。
不殺を用いて倒せば正気に取り戻させることが可能です。
しかしながら不殺だけでは正気に戻るだけ、人格はウェンディのままとなります。
エルリアさんを取り戻すには『不殺かつウェンディの信頼を勝ち取る』必要があります。
●フィールド
半径10mほどの小オアシスを中心とする砂漠部です。
足元の調子は悪いですが、見晴らしはよいです。
近隣の植物はウェンディの能力で急成長・変質を遂げています。
●エネミーデータ
・ウェンディ・ウィルバーソン
茨の冠に美しいブランドの髪をしたロングワンピースを纏う女性。
植物好きで人間嫌い、人間への排他的な思考と共に植物の楽園を作りたいと願っています。
それがエルリアのためにもなると信じています。
いわゆる『複製肉腫(ガイアキャンサー・ペイン)』の状態にあります。
不殺を用いて倒しかつ何らかの説得を熟した場合、2人の人格両方が生存したままに正気を取り戻させられます。
神秘型サポートタイプです。
<スキル>
ローズヒール(A):薔薇にも似た独特の芳香を放ち、対象の傷を癒すと共に、正気を取り戻させます。
神遠範 威力無 【治癒】【BS回復】
スリーピングアロマ(A):扇状に飛沫する香りが眠りに誘います。
神遠扇 威力無 【万能】【※眠り】【猛毒】【致死毒】
茨の地(A):ある地点を中心に、地面から薔薇の茨が生えて対象を拘束します。
神遠域 威力無 【呪縛】【泥沼】【猛毒】【痺れ】【呪殺】
支配の種(P):対象に埋め込むことでその者の身体的な支配権を一時的に奪い、自分の指示通りに動かせます。
あくまで下記ユニットの行動を決定する能力です。皆さんには関与しません。
※【眠り】について
特殊な【恍惚】状態です。除去の他、攻撃を一度喰らえば回復します。
【恍惚】に【麻痺】【呪縛】【石化】の効果を加え、かつ受ける攻撃が【防無】【必中】となります。
・オリックス×5
ウェンディの特性である『支配の種』により操られている動物です。
HPが豊富で物攻が高く、その他の能力値は並。
<スキル>
砂牛突貫:その体躯で対象へ突撃を仕掛けます。
物遠単 威力中 【飛】【移】【崩れ】
・傭兵×3
曲刀を握る砂漠の傭兵です。『支配の種』の効果を受けた傭兵。
オープニングで登場した傭兵達が調査に行った際、逃げ遅れて3人、彼女に捕らえられました。
物攻タイプの近接アタッカーです。
<スキル>
舞踏砂刃:砂漠の上で舞うが如く剣を閃かせます。
物至単 威力中 【必中】【邪道・小】【追撃・小】
・強酸毒花×2
オアシスに咲いた美しい花です。その香りと花粉は強い毒性を有します。
<スキル>
毒香放散:対象に可視化するほどに収束した花粉を叩きつけます。
神超単 威力中 【猛毒】【致死毒】【氷結】【ショック】【停滞】
●????データ
・?????
純正肉腫(ガイアキャンサー・オリジン)です。
エルリアさんを感染させた花を汚染した言わば元凶といえる存在です。
現時点では情報がありませんが、純正です。魔種相応の相手でしょう。
手を出す必要はありませんが、危険は付き物です。警戒は怠らないで下さいませ。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
出ている情報は信頼できるものですが、不明点が多く、不測の事態を警戒して下さい。
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