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シナリオ詳細

サピロス森林の怪奇

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 セキエイにあるサピロス森林は広い。地元だけに留まらず知られたオデットレイクは、整備された道から外れた奥に、人が立ち入ることの無い領域がある。
 管理している者にとっても、その全てを知っているわけではなく、故に起きる異常事態にはその都度、対応するといった形を取っていた。
「……?」
 だが問題というのは、表面化しなければ分からない。
 いち早く察知出来るとすれば、それは、正にそこで住んでいるモノだろう。
 重い腰を上げた犬型の魔物は、なんとなく感じる違和感に鼻をヒクつかせる。
 騒がしいと思った。
 観光客だとか、お節介な奴だとか、たまに出てくるはぐれた魔物だとか、そういうのとは少し違う、と。
 別に放っておけばいいんだけど。
 フンッと鼻を鳴らして、彼は行く。
 誰かの為じゃない。守る為なんかじゃ決してない。
 けれど、この地を荒らす輩を見逃してやらない理由なら、その胸にあったから。


「あれ?」
 ざわざわとした声が聞こえた。
 それを音ではなく、波長として捉えた『願いの先』リア・クォーツ(p3p004397)は、その発生源である森を見た。
 精霊達のざわめきだ。様々な囁きは日々あるが、それらが一斉に、同じ様に気配を感じさせるのは余り無い。
 何かあったのだろうか。
「どうかした?」
 そう思っていると、クォーツ院周りの落ち葉を箒で払っていたミファーが、挙動の止まったリアに気付いて声を掛けた。
 怪しむ様な、それでいて迷いの無い目を向けるリアの横顔を見た少女は、視線の方向を見て。
「森で何かあったの?」
「……わからない。けど……」
 異変があるのだろう、とは思っていた。
 些細な事かもしれないし、大事になるかもしれない。それは確かめてみなければ分からないだろう、とも。
「じゃあ見に行こうよ」
「え?」
「最近は領地の事で忙しそうだし、気分転換にもなるかもしれないよ?」
「ミファー……」
 優しい旋律に、リアはずきりとした頭痛を感じながら、少女を撫でる。
 嬉しいと恥ずかしいの混ざった笑顔を受けて、一つ頷く。
「行こっか」
 湖に沿って進み、道を外れて森の奥へ。明るいが木々が乱立していて、影の多い、露出した根で歩きにくいルートだ。
 クォーツ院に住む二人にとっては慣れた道で、特に支障も無く進むが、リアの表情は進む程に強張っていく。
「嫌な予感がする」
 ミファーを連れてきたのは失敗だったかもしれないという考えが、リアの脳裏に過る。
(そういえば前に、わんわんにも怒られたっけ)
 慎重に辺りを伺いながら、当時を思い出して苦笑い。
 あの時は少し焦ったと、懐かしさも感じて、しかしふと思う。
「……わんわんはどこ……?」
 森の異常ならば、既に彼が解決、もしくはこちらに苦情が来る筈だ。
 それが無く、また彼の旋律は今、どこか遠くに感じる。
 やはり、何かが起きているのだろうか。
「……ぐに?」
 色々な想像を続ける彼女の足が、不意に柔らかいものを踏みつける。
 踏み抜きそうで、しかし弾力のあるそれは、自然環境下ではあまり馴染みの無い感触で、足を上げて確認するとそれは、赤黒く細長い物体だった。
「こ、これ、もしかして、人の腕とかじゃ……」
 ミファーの声は怯えに震えていた。
 これ以上見せないようにと、彼女を背中に隠したリアは屈んでそれを確認。
「……ううん、これは魔物だ。冷たくなってきているけど、まだ温かいから時間は」
 と、そこまで言ってリアは立ち上がる。ミファーを守る様に構えて一拍、森の奥から大きな魔物が姿を現した。
「わんわん!」
 それは、全身に少なくない傷を負ったわんわんだ。
 チラリとも振り返らない彼の見る先には、影になった部分から沸いて出てくる無数の魔物がいる。
「ミファー、ローレットまで行けるね」
「え?」
 呆然とする少女を背後に、リアはわんわんに並ぶ。
 フー、と息を吐き出して、構えを取って。
「行って!」
 襲い来る魔物に立ち向かった。

 そして、報せを受けたローレットが疲労の濃いミファーを保護し、イレギュラーズを緊急に集めてサピロス森林へ派遣したのは、それから直ぐの事だった。

GMコメント

 お久しぶりです。
 リクエストありがとうございました。
 以下補足。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 敵の戦闘データに関する部分や、どれほどの規模があるのか不明です。

●依頼達成条件
 襲い来る魔物の殲滅。

●現場
 サピロス森林・深部。
 木々が多く、暗くはないが影は多く、足場は少し悪い場所です。
 また、付近は一般道やクォーツ院もあるので、討ち漏らしたり逃亡を許すと他の被害があるかもしれません。
 その対策も必要かと思います。

●出現敵

【魔物達】
 様々な種類の低~中級の魔物が沢山現れます。
 森の更に奥から表へ出ていこうとする奴等が多く、正確な数は不明ですが、二波、三波と続けてやってきます。
 一体一体の強さより数の多さが厄介な相手、という感じになるかと思います。

●登場NPC
 通称『わんわん』と言う犬型の魔物が居ます。
 受けているダメージが大きいので十分には活躍出来ませんが、対処仕切れない魔物をその都度、二~三匹倒す位は出来るかと思われます。

 以上、簡単にはなりますが補足として。

 よろしくお願いいたします。

  • サピロス森林の怪奇完了
  • GM名ユズキ
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月22日 22時10分
  • 参加人数6/6人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
※参加確定済み※
リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)
叡智の娘
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
小金井・正純(p3p008000)
ただの女

リプレイ

 綺麗な音だと思う。
 朝、たまに昼、それから稀に夜。
 聞かない日なんて無い、優しくて力強い旋律の事だ。
 きっとそれは、彼女の想いが起因しているのだろうと勝手に思う。
 かつて居た、彼女と同じ、誰かの為の想い。
 だから僕は、その為に此処で立ち続ける。


 セキエイの街道を、全速力で行く。
 風を切って急ぐ五人のイレギュラーズは、ローレットからの直行だ。
 少女、ミファーがもたらした友の危機という報せに、慌て、しかし最低限の準備を済ませた強行軍だった。
「リア……!」
 間に合うだろうか。今、まさにこの時にも、守るべき者の為に戦っているであろう『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)を想う。
 また無茶をして、と、そう思う。
 でも便りを出す位には、他人に頼れているのだろう、とも。
「今、行くから!」
 それに応える為、彼等は街道の分岐点を越えた。
 進む先にある森。その奥が、ミファーから聞いたリアの最終位置になる。
 道を外れてオデットレイクを迂回。横手にクォーツ院を見て、木々の茂る中へと踏み行った。
「どこ……」
 足場が悪い。
 剥き出しの根が歩幅を微妙に狂わせている。
 見通しも悪い。
 乱雑に育った樹木の並びは、自然であるが故に視界を不自然にさせる。
「どこだ!」
 この環境の何処かで、助けを待ちながら戦うリアを探す。
「リア――!」
 叫ぶその声が、届くのならばどうか、答えてくれと願って。


「……!」
 飛び掛かるゴブリンを、迎える形で吹き飛ばす。
 肩を前に出しての体当たりだ。
 空中で喰らう攻撃に、小柄なゴブリンは乱回転しながら木に激突して地面に落ちた。
「わんわん!」
 呼ぶより速く、鋭く伸びた爪で追撃をぶちこんだ魔獣は、即座に位置を戻す。
 リアの隣、街道側を背にして森の最奥を向いた形だ。
「どれだけ来るのよコイツら……」
 今、自分は窮地に近付いているのだろうと思う。
 いきなり現れた魔物達の攻撃はそこまで辛く無い。防御や迎撃を主体にしながら、主な攻撃役としてのわんわんがいるから流れとしては安定しているのだろう。
 だが、数の途切れが来ないのだ。
 出現リズムは不規則で、種類もバラバラな魔物の襲撃は、それだけでも負担が大きい。相手に応じた動きをその都度、選択しなければならない為、思考の休まる暇もなかった。
 正面から攻められている分には、まだ、耐えられる。
 ……でも、もし、広範囲に来られたら……。
 リアの脳裏に過る、最悪の未来の映像。魔物に襲われるクォーツ院の子供やシスターに、セキエイの人々。
「させない……!」
 銀の刃を横に薙ぐ。
 鋭いクチバシで突撃してきた怪鳥を両断しながら構えを直して、続いて来たコボルトを縦に斬る。
 それから、寄ってきたトレント型の蔓を一歩下がって回避――。
「ぁ」
 ぬる、とした感触が、足裏にあると同時、身体の崩れをリアは自覚した。
 魔物の血か、または臓物か。それが根の丸みに付着していて、それを踏んでしまったのだろう。
 そんな冷静な思考が、目の前に迫る魔物の牙を認識させた。
「ああ」
 近付いて来ていると、そう感じる。
「そう」
 もう、すぐそこに、いるのだ、と。
「この旋律を、あたしは知っている」
 背中を支えられながら、リアは、魔物が焼失するのを見た。
「ミファーっつったか? クォーツ院のお嬢ちゃんは、勇気があるな」
 背を片手で支えたのは、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)だった。
 緩く、弾ませる様にしてリアを手で押し、体勢を戻させる。
「彼女が急いで駆けつけてくれたお陰で、私達も間に合えました」
 凄いことです。と、『天地凍星』小金井・正純(p3p008000)が頷いた。
「そちらのわんちゃん――わんちゃん? も、ご無事の様でなによりかと」
 リアを越すように前へ立ち、自分を不満そうに見上げる魔獣を見返して微笑む。
「ある程度の事情は聞いているけど……うん、ひとまず無事で良かった」
 そして、リアの肩にぽふっと手を置いた『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)もまた、前へ出て、笑みを浮かべた顔を向けて言う。
「助けに来たよ、リア君!」
「……そっかぁ」
 ミファーは、ちゃんとやってくれたんだ。
 少女の頑張りがあったからこそある現状に、リアは息を吐く。
 怖かった筈だ。
 不安だった筈だ。
 疑問だった筈なのだ。
 魔物の群れも、一人残して逃げることも、何故魔獣を庇うのかも。
 それでも、成し遂げてくれた事が、なにより嬉しい成長だった。
「リアちゃん大丈夫?」
 物思いに耽る姿を心配したのだろう。覗き込む『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の怪訝な表情が前にある。
「うん、ひとまず大丈夫そう! でもわんわんさんと、森が危ないんだよね?」
 それから、直ぐににっこり笑顔に変わった焔は頷きながら並び立った。
「それにしても、どこから沸いてきた怪異なのだろうか」
 おかしな話だと『銀なる者』リウィルディア=エスカ=ノルン(p3p006761)は思う。屈んで、ファミリアーの猫を森の中へ放ちながらくるりと辺りへ視線を回した。
 静かだ。魔物の襲撃は間断に入ったのだろう。まだ解決とは行かないが、一息つく程度には余裕がありそうだった。
「森を荒らすならば、纏めて始末するしかなさそうだ」
 そこから自然と、五人は立ち位置を調整する。
 リアと魔獣を基点に、左右へ広がる陣形だ。
 焔と正純がそれぞれの左と右に立ち、それぞれが保護の結界を展開させ、森へのダメージを懸念から排除する。
 それから、左へリウィルディア。右へアレクシアが立ち、ルカはリアの一歩前へ。
「――来る」


 花が開く。
 空から降る小さな木漏れ日に照らされた赤色の花弁は、透き通っていく光で地面を彩る。
「咲いて」
 アレクシアの声に反応したそれは、淡い輝きと共に炸裂した。
 空気中に溶けていく様にばら蒔かれた赤は、自分自身を構成していた魔力を広範囲へと漂わせていく。
「オォ……」
 ふらふらと、濃い臭いに誘われて、深部から来るのはグール達だった。
 生を求める、命の無い身体。魔力を得れば、何かが変わる筈だ、と。
 そう思ったのかもしれない。
「前から押し寄せてる……正純君、お願い!」
「承ります」
 弓を持ち、弦に太い矢を番える。打ち上げ、胸を張るように背を閉じて引き絞り、狙いを上へ。
「では、抜けを許さず射ちましょうか」
 放つ一矢はグールを越えていく軌道だ。
 だがその行く先には、逞しく育った木の枝が生えている。直撃して、保護で弾かれたそれはキリモミしながら落ち、
「降ります」
 破裂して、無数の鋼となった刃が広い空間を叩く。
 痛みを感じないグールでも、身体を動かす為に必要な部位を破壊されれば足掻くことも出来ず、折り重なる様にして地面へ倒れていった。
「右、少し遠め、樹の裏から音がしてる!」
「――確認しました、討ちます」
 魔力の誘いはアレクシアを中心にして発動している。当然、やってくる全ての敵を誘引することは不可能だ。
 だからアレクシアは、優れた聴覚で逃した敵を察知していた。加えて、豊かな自然との交信を補助に、その位置を誤差少なく正純へと伝えられる。
「中りました」
 番えた矢を速射で離す。木々の合間を真っ直ぐ縫ったそれは、街道へ抜けようとするスケルトンの胴体を弾き飛ばして沈黙させた。

「とりあえず」
 膝を折って腰を落とし、腕のスイングで落ちている物を適当に掌へ掬い上げる。
 ぎゅ、と潰さない程度に握りを強めて、上手で焔はそれをぶん投げた。
「明かり確保だよ!」
 細やかに、控えめに、小石や枝や落ち葉が火を灯されてパラパラと散り落ちていく。
 それは燃えていながらにして燃焼せず、炎と言うには余りに熱を持たない代物だ。
 ただ、明かりの一助だと考えると、別にそこまで悪いものではないだろうとも思える。
「じゃあやっちゃおうか……!」
 言って、カグツチを地面へ突き立ててからバンザイのポーズ。
 その前へズルリと、影から這い出ずる苔むし色の粘体。腕を羽ばたかせた中空のハーピィ。二足歩行の理性無き獣が、火の翳りを作って群れで現れた。
「ぐゅアァ」
 まず動くのは獣達だ。恐れと警戒を知らない勢いで、焔の小躯へ牙を突き立てに行く。
「!」
 鋭く、速く、突出する個体が地を蹴って加速。無防備に見える少女の腹部を目掛けた、大きく開いた口を、
「させるわけがないだろう?」
 黒光が鋭く貫いた。顔から真っ直ぐに入ったそれは、地面とほぼ水平の体勢だった獣の、尾てい骨付近を破壊して抜ける。
 リウィルディアの放つ一撃だ。
 伸ばした指先から発生する小さな術式陣は、集束した魔力に特殊な負荷を織り込んで放つことが出来る。
 その効果の程は、痙攣してのたうち回る獣を見れば判るだろう。無知脳である魔物から見て、二の足を踏む位には、明確に。
「せー、の」
 だからその隙に、上げた両手、その掌を向かい合わせて器を作り、燃え盛って暴れそうな炎を球体に圧縮した焔は、スローイングの動きで一歩を前へ踏み込み。
「えいっ!」
 と、可愛らしい掛け声でソイツをぶん投げた。
 ふわりと浮かんで飛んだそれは、緩い流面を描いて落下。着弾と同時に発光して、抑えられていた灼熱を爆裂させた。
「おぉ……」
 熱は水分を蒸発させ、火は翼を燃やし、衝撃は骨格の破壊を与える。範囲内に居た生命は、その悉くを灰にされてしまった。
 しかし、難を逃れたモノも勿論いる。
 偶然その範囲外に居て、同族の死に感動しなかったソイツは、仇を目掛けて突撃――するのではなく、迂回するルートを選んで街道側への突破を試みて駆けた。
「ってダメダメ、リアちゃんやお家とか危ないんだから!」
 カグツチを掴んで抜き、指で回す。刃に火を点し、遠心力に比例して業火となった刃を一閃に振って放った。

 胴を分断する。
 はぐれてきた魔物だ。腕を媒体として黒の魔力を固形化したルカは、それを二股に形成させる。
 突き出した黒は広がって伸び、魔物に食い付いて圧力に任せて潰し斬ったのだ。
「逃がしゃしねえよ。あのガキ共の泣き顔なんざ、見るのはごめんだから、なぁ……だろ?」
「当っ然」
 力強く頷いたリアは、前へ行く。
 右にも、左にも、後ろにも。心強い仲間の旋律が響いている。
 ザリッ、と、堪える為に奥歯を噛み締めて、終わりの見えない魔物の押し寄せに相対して一息。
「ここから先には! 行かせない!」


 敵意の音が騒がしい。
「この森も、修道院も、あたしの家族も仲間もわんわんも」
 物量のプレッシャーが身体を叩いて来て気持ちが悪い。
「あたしの大切な人達は、絶対に守る……!」
 でも、構うものか、そんなもの。
「あたしはもう、大切な人を目の前で失う様を見てるだけの、無力な子供なんかじゃない!!」
 潰されたりしない。諦めたりしない。受け入れたりなんて絶対にしてやらない。
「来い!」
 そう奮い起つリアの気合いに感化された魔物達は、まるで図った様にして一斉に動く。
「お前達なんかに、汚させはしないわ!」
 襲い来る凶刃は放たれ、鮮血は森に舞い上がった。


 助けると、約束した。
 泣き出しそうで、それでも泣かなかった少女に。
 泣かせないと決めた。
 傷一つ付けやしない、とは言い切れなくても、それでも。
「ああ、汚れやしねぇ」
 黒犬の刃を弧にして振り抜く。
 リアを目掛けて来る、その最前列に居た奴らを目掛けて、だ。
 片手で薙ぎ払った後から、小狡く隙を狙って来るゴブリンの頭をルカは空いた手で掴み、地面へ叩き潰す。
「俺達もさせねえ」
 その腕へ、肩へ、脚へと獣の食い付きを食らうが、彼は気にも止めずに更に一歩を踏んで行く。
「っらァ!」
 強引に回した身体に黒犬を引っ張って、二陣目の群れを斬り払うと同時に、くっついている魔物を勢いだけで弾き飛ばした。
 負った傷は浅くない。だが、背後から響く音色がその出血を直ぐに治めてくれた。
「お前たちの相手はあたしがしてやる!」
「やれやれ、助けに来た相手に助けられるなんて、あべこべなんだがな」
 集中しそうな狙いを分散し、且つ、回復をこなす姿に苦笑は隠せない。
 ただ、まあ。
「ったく、嫌になるぐらいイイ女だよ、お前さんは! ……そう思うだろ、お前も」
 間合いの外、宙を行く有翼獣を、魔獣は跳躍と牙で仕留めた。ルカの言葉に鼻を鳴らしてそっぽを向き、咥えた死骸をぶん投げて群れへぶつける。
「魔物達も次で終わりみたいだよ!」
「外れて街道へ逃げる個体もいなさそうだ」
 やがて告げられる終わりまでのカウントダウン。
 アレクシアとリウィルディアの索敵上、次の群れを蹴散らせば、サピロス森林は常の静寂に帰るだろう。
「一気に決めようじゃないか」
 リウィルディアの声に、全員が頷く。
 その為にと、淡い光の弦楽器に銀の剣が踊り、音色に乗って彩りの花は咲き誇って漂う。
 十全――とまではいかなくとも、その癒しは六人と一匹を奮い立たせ、力を取り戻させた。
 だから。
「やるよ、みんな」
 最後の騒音が、セキエイに木霊した。


「とりあえず、殲滅は完了したでしょうか。しかしあの数……一体どこから……」
「どうしてだろうね、仲間がたくさんやられても、怯えはしたのに帰ろうとはしなかったもの」
「……原因の特定は、難しいかもしれないね」
 と、イレギュラーズ達は惨憺となった周囲を、念のために一通りチェックして回っていた。
 自分も、と動こうとするリアだけは全員に却下され、一本の大木に寄り添って大人しく座らされ、汚れた顔がひでえわとハンカチまで押し付けられたのだ。
 そして、その傍らには魔獣、わんわんが座っていた。
「……」
 沈黙。
「……ワルツ」
「?」
 不意に漏らした、呟きなのに大きく聞こえてしまうリアの声に、わんわんは気怠げな目を向ける。
「青き森の大狼ワルツって言うとちょっとかっこ良くない? わんわんって可愛く呼ばれるのが好きなら……痛い痛いごめんって」
 抗議の尻尾に叩かれて、リアは頬を掻いた。
 わかってる、と前置きをして。
「わんわんは、あの子が貴方に贈った名前。だから、あたしから貴方に、ワルツを」
 どう?
 と、問い掛ける声に、魔獣は欠伸と共に伸びをして起き上がり、尻尾でリアの頬を撫でた。
 いつもと変わらない無愛想だ。しかし、拒みではないし、どちらかと言えば素直じゃない反応だった。
「ふふ、これからもよろしくねワルツ」
 安堵に胸を撫で下ろし、立ち上がって、戻ってきた仲間達に笑顔で礼を伝えていく。
「さ、行きましょ」
 元気に明るく言って、リアは、そうだクォーツ院に寄ってってと誘うのだ。
 依頼人は自分だし、報酬とか、お礼のもてなしだとか、子供達も喜ぶだとか、そういうのもあるわけだし、と。
 引率するように先頭に行き、笑い声を聞かせながら。
「……」
 ザリッ、と、また奥歯を噛み締めて、安らぎを求めて彼女は行った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

リクエストありがとうございました。
楽しんでいただけたならと、そう思います。
またご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。

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