PandoraPartyProject

シナリオ詳細

そして誰かが居なくなった

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●どこか
 立体スクリーンに映しだされる光景をあなたは無感動に眺めていた。
 足音が響き渡る廃ビルの片隅、子どもの鳴き声が聞こえてくる。カメラが近づいてみれば、デスクの影に座りこんで泣きじゃくる子と、それを励ましている年長の子の姿がある。どちらも垢じみ、すりきれた洋服をまとっている。年長の子はポケットから包帯を取り出し、泣く子の足へ巻きつけてやっていた。
「いたいよぅ、いたい、いたいよお……」
「しっかりしろ。またマンハンターがくる。息を潜めて隠れているんだ」
「うう、ぐす、ひっく……」
「立てるか?」
「うん」
 泣いていた子はすぐに立ち上がった。
「さっき見つけた『箱』にパンと水があった。半分やる。あとはどうにかして自分で飢えをしのげ」
「うん」
 半分のパンを渡された子は急いでそれを口へ詰め込んだ。年長の子は小さな子の肩へ両手を置き、それでいいとうなずいた。
「絶対に、絶対に生きて帰るんだ」
 その瞳にはいまだ不屈の精神と勇気が備わっていた。
 子どもらは知らない。帰る場所など、もはやどこにもないということに。

●研究所にて
「練達のドクター・ハムレスからの依頼です。詳細は現地で」
 そう言う『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140)のセリフに誘われ、あなたは研究都市アデプトへ降り立った。
 案内されたのは妙になまっちろく神経質なまでに清潔な研究室、その奥で薄笑いを浮かべている白衣の男があなたを出迎えた。壮年であろうか。痩せて猫背で、眼鏡の奥の目ばかりがぎらぎらしている。
 彼はハムレスと名乗り、あなたを青い光で満たされた部屋へ連れて行った。中央にはドアに似た装置があり、そこから何本ものコードが伸びている。そしてハムレスは先程の映像をあなたへ見せた。そのうえで、と前置きする。
「君たちにはデータ収集を頼みたい。同意した者からドアを通ってVR内へ入り、各人廃ビル内のエネミー討伐を行ってもらう」
 ハムレスは咳をしながら手元の端末を操作した。
「討伐はポイント制になっている。より多くのエネミーを倒した者が高い貢献ポイントを得ることになっている。これがエネミーたちだ」
 あたりへずらりと白いパネルが浮き上がった。顔写真と、PMTCと書かれた数値、かんたんな経歴……出身地の欄はブランクになっている。
「VR内の子どもたちのパラメーターは、並の子どもよりも少々タフにしてある。多少の怪我はすぐに回復する。最終的には首を切り落とすか心臓を突くかして、致命傷を与えなくてはならない。ポイントを稼ぎたいなら確実に殺すことだ。見た目が気になるなどと言ってくれるな。もしもエネミーにとって得となる行動をした場合、強制的にVRからログアウトさせる」
 勘のいいあなたは気づいたかもしれない。先程の映像が作り物ではなく本物だということ。目の前のドアはVRへの入り口ではなく廃ビルへの転送装置だということ。あなたはハムレスへ問うた。なぜこんな実験を?
「子どもには無限の可能性がある。可能性の塊を潰すことによって放出される世界内存在のエネルギー量を計測したい」
 なんのために?
「全ては魔種を滅ぼすために」
 ハムレスは心からそう信じているようだった。
 あなたはベネラーへ視線を移す。
 こんな依頼を紹介してなんとも思わないのかと。
 ベネラーは肩を落とし、強制はしません、とだけつぶやいた。
 ハムレスは意気揚々と続ける。
「君がへたをうつと、魔種へ反転しかけるエネミーもいるだろう。だがしょせんVRだ、本物の反転ではない。ひとりでも対応は可能だ」
 あなたは嘘の匂いを嗅ぎ取った。

GMコメント

とにかく子どもを殺そう。
寒いからね。ホラーでスプラッタなのもいいよね。寒いからね。
あなたはこの依頼がVRなどではなく実際の子殺しだと気づいてもいいし、気づかなくてもいい。

やること
1)子どもを殺し、より多くのポイントを稼ぐ

●戦場
セフィロトの放棄された区画にある廃ビル。上下階への移動はできません。
もとはオフィスビルだったようですが、長年の放置の結果迷路のようになっています。
各所に『箱』と呼ばれる装置があり、中には子どもたちのHPを回復させるアイテムが入っています。
ペナルティとして、足音がR1先まで響きます。飛行および簡易飛行は同等の飛行音が起こりますのでご注意。プレイングで補正がききます。

●エネミー
子どもたち・通常
全国から闇ルートでかき集められた約20人の子どもがあなたにあてがわれます。
四肢損壊で1P、殺すたびに3Pが付与されます。
基本的にあなたから逃げ隠れします。

子どもたち・ネームド
イレギュラーズひとりにつき1人あてがわれる純種の子です。
通常の子どもたちの3倍のポイントが与えられます。
他の子どもたちよりもパラメーターの高い子どもです。
R3通常攻撃が可能なハンドガンを所持しており反撃してきます。
反転の可能性があります。

●その他
戦場へは一人ずつ入ることになっています。
そのため、中で協力はできません。
また子どもたちを助けようとすると強制的にログアウト(重症)となります。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『練達』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • そして誰かが居なくなった完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月23日 22時03分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
武器商人(p3p001107)
闇之雲
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
※参加確定済み※
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アンジェラ(p3p007241)
働き人
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者

リプレイ

●『働き人』アンジェラ(p3p007241)
『皆様へ食料をお持ちしなくては!』
 アンジェラはそれを使命と考えた。働き人は与えられた命令に従順だ。
 転送された先でアンジェラは数日を過ごし、そのあいだ子どもたちの間に紛れ込んだ。最初こそ子どもたちから警戒されたものの、アンジェラの献身的な働きや自分たちとそう変わらない外見が彼らの心を溶かした。一週間もたつ頃には、アンジェラは彼らから受け入れられていた。
 時は来た、アンジェラは判断した。
 野営の見張りをかってでたアンジェラは、調理器具から包丁を取り出し、こんこんと眠る少女の首に突き立てた。くぐもった悲鳴すらあがらなかった。赤い泡を口の端から垂らし、少女は絶命した。同じように4人の命を奪いつくすと、アンジェラは床を清潔に清め、死体を並べた。
 思い出すのはかつて居た世界での出来事。食糧危機に陥ったコロニーは老人や子どもを食料の代替として糊口をしのぐのが通例だった。もちろんその時に供されるのは働き人であって生殖階級ではない。これぞ働き人の究極の善行なり、アンジェラはよくそう聞かされて育ったものである。だから、ハムレスの話を聞いたときも、すぐに嘘と看破したものの食糧難なのであろうと勝手に納得した。
(……生殖階級の方には同族殺しは刺激が強いでしょうから方便でしょう。働き人が気にするような話でもありませんし、私は仕事だけ考えておきましょう)
 となればやることはひとつだ。アンジェラは子どもたちの死体へ包丁を突き立てた。こめかみとくるぶしへ穴を開け、血抜きのために天井から吊るす。したたる血は空の『箱』へ飲みこまれていった。腹を割り、内臓を取り出し、淡々と捌き続ける。そこには一切の私情はなかった。ただ奉仕の精神だけがあった。
『きっときっと、喜んでもらえます。たくさん食料をお持ちしなければ』
 さらに数日後、消えた焚き火と焦げた肉のそばでアンジェラは笑い続けていた。重篤な精神ダメージを負った彼女は病院へ緊急搬送された。

●『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)
「いくらVRとはいえ、このようなっ……!」
 激高した綾姫はハムレスを射殺さんばかりの目つきで睨んだ、が、次の瞬間には肩を落とす。
「……受けた以上は、仕事として完遂はいたします」
「ああ、そう願うよ。美しいお嬢さん」
 またもハムレスをねめつけ、綾姫は転送装置への扉を開いた。
 最初に感じたのは違和感。
「なるほど、別の階……」
 そして空気、体が重く、片頭痛がする。
「なぜこんな? ペナルティの一種でしょうか。いえ、今は仕事に集中しましょう」
 綾姫はすり足で踏みでた。精霊へ呼びかけるも返事が返ってこない。まるで怯えて飛び去ったかのように、精霊たちは居なくなっていた。かすかな疑問を胸にいだきながら綾姫は進む。ふと気配を感じ、彼女はひたりと壁へ身を寄せた。部屋の奥から声が聞こえる。
「おねえちゃん、おなかすいたよう」
「いい子にしてて、『箱』を探してくるから」
 見つけた。
 感情を固く封印し、綾姫は扉を開け放った。塵芥が綾姫の力へ呼応し、ぞろりと空気を汚す。
「励起……千塵」
 2つの悲鳴が聞こえた。技が終わったあと部屋へ残ったのは両足を引き裂かれた少女たち。
「……」
 綾姫はその脚を跳ね、両腕を落とした。返り血がまとわりつく。最後に額へずぶり。少女たちはおとなしくなった。
 それを皮切りに綾姫は切った。剣の精霊が呼応しこどもたちの脚を削ぐ。逃げる背を追いかけて励起・黒蓮を打ち込み、唐竹割り。その視界に影がさし、綾姫は目をこする。
(なに、これ……)
 逃げる先が見える。動きの先がわかる。切るべき位置が知れる。
(『思い出している』? 体が……覚えている……? 私は……体が覚えるほどに、このような事を行っていた……?)
「う、お、うぐえええ」
 びちゃびちゃと吐物が床を濡らす。気づいてしまった。これは現実。切ったのは、切り捨てたのは紛れもなく……。
「私は……そう、あらゆるニンゲンを斬って捨てるモノ……だった」
 懐紙で口元を拭くと、綾姫は疲れたように笑った。
「依頼主のことを蔑めた立場じゃ、ありませんね」

●『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
「うぶ、何この音……」
 戦場に降り立ったピリムは吐き気を抑えた。何も聞こえていないはずなのに確かな圧迫感がある。
 片腕の大げさな切り傷がじくじくと痛む。そこまで深い傷ではないはずなのだが……。
「こんなところに長時間いたら頭おかしくなりますー。ちゃっちゃと片付けちゃいましょー」
 ピリムは気を取り直し、子どもたちの一人に接触した。
「ピリムと言いますー。私も皆さんと同じ立場ですー。でも出口を知ってますー。みんなでマンハンターから逃れましょうー」
 口からでまかせを垂れ流し、ピリムは少年を言いくるめた。猜疑心に凝り固まっていた少年の顔が少しずつ希望に満ちたものへ変わっていく。
 これはおまじないです、とピリムは少年の脚へ触った。明鏡肢遂のギフトが発動したなどと、少年は知る由もない。
「20人ほど集められたらー、脚を叩くなどして合図をくださいー。私はマンハンターの注意をそらしてきますからー、近寄らないでくださいねー」
 走り去っていく少年の後ろ姿を眺めてピリムは口の端を上げた。適当な袋小路に入り、スキルを連打していかにも戦っているかのように見せかける。
 しばらくするとふとももを叩かれる感触があった。そこそこに切り上げ、ピリムは子どもたちの集団へ飛び込んだ。
「さー、みなさーんー、イーゼラー様のみもとに参りましょうねー! ウフフフ、ハハハハハ!」
 高く掲げられたハンドガンを、その首ごと切り落とす。
「5Pゲットー。あ、ネームドだから3倍の15Pですねー。名前聞きそびれちゃいましたけどー」
 落ちた首を踏みつけ、ピリムは手近に居た子どもを捕まえた。
「離して! 離してぇ!」
「離せと言われて離すバカはいませんー」
 手早く心臓を突き、沈黙させる。さあここからは時間との勝負だ。四方八方へ逃げ惑う子どもたち、その首を次々に刎ねていく。泣きわめく子どもたちを蹂躙し、ピリムは高く笑った。
「うれしいですねー。子どもたちの脚が取り放題。フフフ……帰ったらどこに飾りましょうー」

●『Nine of Swords』冬越 弾正(p3p007105)
 ああ、まったく、この不快な音はなんだ。頭蓋に染み入り、脳みそをかき回す。思い出しちまうじゃねえか。想いを告げる前に先立たれた、恋しい人を……。
 今頃ピリムのやつはうまいことやってやがんだろうな。大好きな脚を並べたりしてさ。
 俺も同じなのに、同じ教団なのに、同じ『黒』なのに。なのに、なのに、追い詰めたエネミーを前に脂汗が止まらない。これがゲーム? 冗談だろ! どう見たって本物の子どもだ!
 これはきっと罰だ。何もかも中途半端な俺自身への。イーゼラー教へ入信するも、結局の所俺は救われなかった。大好きな彼を……やめろ、どうしてこんな時に限ってあの顔がちらつくんだ。
 やっちまえ、スパッと殺してしまえ、子供だから、少女だから、なんだっていうんだ。いかにも幸薄そうな顔の、ろくなことなんてなかったんだろうなってツラした……。
 激痛。左肩が弾けたかと思った。
「逃げろトリーシャ!」
「マーク!」
 ハンドガンを持ったマークが角から半分体を出している。俺の下から這いずりだした少女は、まっすぐにマークのところまで駆けていった。牽制射撃をしたマークがその後を追う。
「……待て、待てよう、ちくしょう」
 何もかなわないまま時だけが過ぎていくのか。どこに居ても俺は俺だな。左肩の痛みが涙を誘う。誰か俺のために泣いてくれ。地獄の炎に投げ込まれた心へ慈雨を与えてくれよ。できない奴はしね。
 ようやく捕まえた別の少年は手足をばたつかせた。邪魔でたまらなかったから、骨を折る。動けなくなった少年を床へ寝かせ、ごめんなあと何度も謝った。
 叩き込む衝撃の蒼。響く悲鳴。とびちるはらわた。粉々のぐずぐずになるまで魔法を打ち込んだ。
 ──ああ、やっと信徒らしく人を殺せた。安堵が胸をよぎった瞬間、またあの頭痛が記憶を呼び覚ます。
『お前ってさ、他人の心の痛みにも敏感じゃん。そういう優しいとこが好きだな、俺は』
 ……ああ今の俺を見たら、きっと嫌いになるんだろうな。殺した子供の声を借り、俺は次の標的を探し始めた。

 さよなら、愛しい人。

●『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)
 いやーすげぇ精巧な映像だったな! 声も真に迫るカンジで、アレ声優使ってんの? 合成? どっちにしてもすごくね? 中入ったらどんなだろ。うわすげー気になる!
 ……ぇ、VRっつってんだからVRだろ? まあどっちであれ関係ねえけどな。ひゃはは!
 転送された先は見知らぬ階。はいはい、なるほどねー。探索は一からやり直しってわけだ。手のこんでらっしゃることで。
 それにしても廃ビルだけあって障害物多いわー。こういうのはひとつひとつ丁寧に絞り込んでいくのがGOOD。キャラじゃないって? そんなことないよー。これでもローザミスティカ直々の弟子だし、こういう細かい作業もおまかせあれってね。
 ガシャン。シャッターを作動させて道を塞ぐ。おんぼろシャッターでも子供の力じゃ押し上げるのはムリだろ。ましてや穴をあけるなんてとてもとても。足音はあえてコツコツと高く、エネミーを燻り出すために。ほらさっそく飛び出てきた。といってもあせっちゃなんねぇ。まだ仕込みの段階。悪夢の弾丸で腕一本もーらい。
 あとは血の跡が教えてくれるって寸法よ、オレえらくない?
 横道や部屋は全制覇。『箱』はかたっぱしから開けて中身をもらう。じわじわと追い詰めてく、この感覚。たまんないね。
 案の定固まっていやがったエネミー。わー、なんか石の裏に虫が集まってるのを思い出すな。せっかくだし絶望の海の歌をぶつけとこうっと。はい、魅了にかかって同士討ち。人間なんて一皮剥けばこんなもんよ。誰が敵かわかんなくてとりあえず目の前の誰かを殴ってる。いいねいいね、こうじゃないとね。はい、その間に首いただきっと。
 闇を裂いて弾丸が来やがった。飛び退いてヒールオーダーを唱える。
「こっちよトリーシャ!」
「うん、ライザ」
 追いかけた先でライザを仕留めたものの、トリーシャとかいうメスは見当たらなかった。きな臭いものを感じて舌打ちする。
「……ネームドが二匹だぁ? 聞いてねえぞ」

●『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
 瓦礫の奥にじっと座ったままエクスマリアは獲物を待っていた。目の前には『箱』。つられてきた子どもを一息で仕留めるつもりだった。が。
(これは……呼び声……魔種がいる、のか)
 この階へ降り立ったときから感じている不思議な重圧、その正体を結論づけるとエクスマリアは額を拭った。じっとしているだけで体力が削られていくような気がした。
 それにしてもとエクスマリアは思う。
(本当に仮想のもの、なら。子供が生きた存在でないの、なら。殺すという過程自体、省略可能だと思うが、な。可能性というあやふやな情報を、仮想現実で正確に計測可能なら、事故死でも、病死でも、作り上げられる、だろう)
 依頼主への不信を胸にため、こめかみを揉む。
(……だからどうした、だな。引き受けた以上、仕事は仕事、だ)
 そのとき、彼女の感覚に何かが引っかかった。足音だ。壁を透視すれば三人の子どもがいままさに射程内へ入りつつあった。
「この奥に『箱』があるの、トリーシャ」
「うん……さっき見たから」
 ぼそぼそと会話が響く。エクスマリアは眉をしかめた。たしかに自分に先んじて子どもが『箱』の存在を知ることもあるだろう。ならばすぐに開けても……いやトリーシャと呼ばれる子が居た、あの子がこの階のネームドか。ネームドはリーダーのような動きをしているようだ。ならば他の子へ恩恵を分け与えようとしてもおかしくはないかもしれない、が。なんだろう、この違和感は。
 足音が完全に射程内へ入る。エクスマリアは違和感を踏み消し、光翼乱破を炸裂させた。瓦礫が吹き飛び、壁が崩れた。その先にある風景を見て、エクスマリアは目をむいた。たしかに入った。最大の威力が、無数の瓦礫による弾幕が、子どもたちを襲ったはずだ。けれども、血まみれで息絶えているのはふたりだけで、ひとりの少女がとまどうように立っている。
(まさか、耐えられるはずが、ない)
 けれども現実として、幸薄気な少女は瓦礫の中に取り残されている。少女は能面のような無表情のまま走り去った。
「何者、だ……?」

●『闇之雲』武器商人(p3p001107)
「おいでおいで、大丈夫だよ、何も怖くないからねぇ。我(アタシ)に任せれば安心さ。ヒヒ」
 武器商人は捕まえた子どもの頬へ両手を添えた。そして魔眼を発動させる。恐怖に染まっていた少年の瞳が虚ろになっていく。喜びも悲しみも、もちろん恐れも、押し流されていく。
「さァさ、他の子を呼んできておくれ」
「……い、や。だ、め」
 おやと武器商人は子供の顔を覗き込んだ。とっくりと眺め回すも、たしかに武器商人の魔眼は効いていて、それでいて命令には応えない。
「誰かが我(アタシ)より先に心へ呪縛をかけている? 気に食わないねぇ、我(アタシ)の獲物だよ。唾を付けるなんて真似が許されると思ってかい」
 再度武器商人は少年の瞳を魔眼に映した。
「これ以上は精神が崩壊するけれど、まァいいか」
 心が壊れていく、粉々になっていく魂の叫びが少年の口から漏れ出た。
「……シャ……」
「?」
「……トリ……シャ……まも、らな、きゃ……ぐべっ」
 両目と両耳から血を吹き出し、少年は事切れた。放り出した死体へはもはや毛ほども興味を示さず、武器商人は顎をつまんだ。
 チリン、金と銀の惑星環が鳴った。武器商人は銃声のしたほうへ鋭く影を伸ばした。引きずられてきた少年の手から優しくハンドガンをむしり取り、武器商人は薄く笑った。
「やァ、やっと会えたね。トリーシャ」
 首をはねた少年の向こうに、幸薄気な少女が泣きそうな顔で立っていた。
「……間に合わなかった、やっぱりイレギュラーズなんか呼ぶからよ。こんなに面倒なことになるなんて、ハムレスのバカ……」
「おやァ、グルだったのかい?」
「だって面倒だったんだもの……。人に任せたくなるじゃない、そうよ、私は悪くない……」
 トリーシャはうつむき、ぶつぶつとつぶやいている。不意に彼女は顔を上げた。
「あなた旅人よね……いらないわ……おいしくないから」
 言うなりトリーシャはうっとおしげに腕をふるった。その腕がムチのようにしなり、ありえない長さとなり武器商人へ襲いかかる。
「ログアウトだよ、ハムレス」

●『こむ☆すめ』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
 膨れ上がった少年は巨大な赤子のようだった。逆再生の魔術が少年の肉も筋も血脈もあらんかぎりにはりつめさせて、破裂させた。床から天井まで紅に染まる。ひとときの生ぬるい雨が降り注いだ。
「何がVRだ。全く、騙せるわけがないだろうに……」
 マニエラは血のへばりついた顔を拭った。髪を絞るとぽたぽたと汁がたれて、足元の血流に飲みこまれていった。
「……こんなに可愛い少年たちを殺さなきゃいけないのは正直辛いよ。見られていなければ最後に幸せな夢を見せてやりたかったんだが……ね」
 すえた臭いが喉の奥からこみあげてきて、マニエラは口を抑えた。
(しかし、ひどい呼び声だ。なぜ子どもたちは平気でいる? 大人でも耐えきれんぞ、これは……)
 マニエラは眉をひそめた。可能性はふたつ。子どもたちはなんらかの理由で呼び声が聞こえていない。もうひとつ、子どもたちは既に反転している。
「……」
 思考を害する呼び声を振り払うように頭を振った。ふたつめの可能性はない。もし既に子どもたちが反転しているとするならば、手心を加えた逆再生で倒せるはずがない。だとしたら残り、子どもたちにはこの呼び声が聞こえていない、こちらが正しいのだろう。
 ではなぜそんな手のこんだことを? マニエラは思考を続ける。思い出せ、ハムレスはなんと言っていた? 『魔種へ反転しかけるエネミーもいるだろう。だがしょせんVRだ、本物の反転ではない』。後半は嘘と見ていい。ならば前半は? 『子どもは反転する可能性がある』こっちは真だ。そして反転するためには呼び声を放つ魔種が近くに居なくてはならない。そいつだ。そいつが元凶だ。
 ハムレスは言っていた。『子どもには無限の可能性がある。可能性の塊を潰すことによって放出される世界内存在のエネルギー量を計測したい』。無限の可能性、それは、特異運命座標と呼ばれる自分たちの方ではないのか。
 それに気づいた途端、氷が背を滑り落ちた。同時に青き血の本能が働いた。
 ずしん。体の芯がしびれるほどの重圧、呼び声。暗闇の向こうからムチのようなものがマニエラを打ち据えようとしている。
「ログアウトだ、ハムレス!」

●そして
 誰もいない研究室があなた達を出迎えた。
 立体映像が幸薄気な少女の像を結ぶ。少女と、あなたは目があった。

成否

成功

MVP

ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者

状態異常

武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)[重傷]
記憶に刻め
アンジェラ(p3p007241)[重傷]
働き人

あとがき

おつかれさまでした。
隠しフラグ『魔種との邂逅』が解放されました。
次の戦いに備えてゆっくり休んでください。

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