シナリオ詳細
    タルタロス・トレイン
  
オープニング

●
 ――気付いた時には心地の良い揺れの中にいた。
 うっすらと開いた瞼。周囲に広がっていた光景は……列車の中。
 一定のリズムを刻んでいる。車両が線路に『乗る』度、微かな揺れを感じて。
 ……しかしここは一体どこだろうか?
 己は――たしか依頼の為に天義を訪れ、日が暮れるからと帰りに宿に泊まった筈だが……
「おや……人が紛れ込むとは、中々珍しい事もあるものだ……」
 瞬間。掛けられた言葉と共に響くのは、翼の音。
 飛翔する影が己の座席の前へと至ったと思えば、そこに居たのは一匹の梟だった。
 言葉を発している。どうやら只の動物ではないように見えるが。
「……失礼。ここは?」
「ここは冥界の途上。魂を運ぶ揺り籠『タルタロス・トレイン』の中だ」
「冥界……?!」
「――しかし諸君らは生きているように見えるな。
 何かの間違いか、或いは奇跡か神の悪戯というべきか……」
 ふむ。と首を傾げながら言葉を続ける梟の言によれば、この車両は本来『死した者を冥界へと運ぶ』役割を担っている――らしい。それが真実であるのか嘘であるのか、もしくは梟を含めこの場は只の夢なのか……正確な所は分からない。
 何らかの神秘的理由によって不思議な空間に迷い込んでしまった、という所だろうか。
 少なくとも今確かにここにいる己に死んだような記憶はない。街の宿に泊まった事は記憶として覚えていて……死んだような出来事に遭った筈はない。ここが梟の言う通り冥界への列車だとしても、乗る様な理由がないと思うが。
「――とにかく降りる事は出来ないのか?」
「悪いがこの列車は通常停まる事はない。辿り着くまでノンストップだ……が、そうだな。もしも願いを聞いてくれるなら特例として降ろしてもいい」
「願い?」
「ああ。実は機関部に邪な魔物も迷い込んでね……」
 梟は語る。魔物――幽霊たる『レイス』の存在が、冥界に運ばれてなるものかと機関部で抵抗しているらしい。その所為か、車両の運行に影響が出ていて随分と時刻表から遅れているらしいのだ。
「奴を退治してくれたなら停車しよう。というか停車する為には機関部にどの道いかないければならない。君達がここから帰る為にも――奴の打倒は必要不可欠なのだ」
「成程……分かった。仕方ないな、引き受けよう」
 その魔物とやらが悪さをしているからイレギュラーズ達が『引っ張られた』可能性もある。
 神の悪戯か、或いは神の導きか……分からないが、これも運命に愛された特異点達だからの現象かもしれない。ともあれさっさとそのレイスとやらを退治してこんな所は――
「しかし――冥界への車両という割には、人の気配が全くしないが」
「うん? ああ……いやいや実はね、この車両は『人』の列車ではないのだよ」
「えっ?」
 この車両は――と梟が続けようとした、その時。
 イレギュラーズの足元に影が一つ。それは……
「……あれ? モルモット?」
「そう――このタルタロス・トレインは『小動物』専門の車両、通称SA(Small animals)機関車なのだ……!」
「ええ?」
 見れば周囲の座席や隅にいるのは兎や犬、レタスを食べてるモルモットにマタタビで悦に入っている猫などなど……なんとも愛らしい様子。成程こういう車両だから最初に『人が紛れ込むとは珍しい』と言っていたのか。
 近くに寄ってきた子を撫でてみれば、大人しい。
 確かな手触りを感じてみれば死者とは到底思えないが。
「それでもこの車両は地底の奥底へ往かねばならぬのだ」
 梟曰く、死んだのは確実だからと。
 病気か怪我か寿命か、それ以外の理由か……分からねど、往かねばならぬのだ。
 死者は須らく――冥府へと。
 それが世の理だと……言わんばかりに。
- タルタロス・トレイン完了
 - GM名茶零四
 - 種別通常
 - 難易度EASY
 - 冒険終了日時2021年02月28日 22時20分
 - 参加人数8/8人
 - 相談6日
 - 参加費100RC
 
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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 足元にすり寄って来る小動物達を視ればなんとも愛らしい。
 彼らには悪意もなく、また人に敵対的でもないのだ――
「……あれ。皆と一緒に依頼……受ける、してたと思う…けど。
 ここ……なんだか、不思議な場所。でも、なんとなく……穏やかな、感じ」
 だからだろうか? 『埋れ翼』チック・シュテル(p3p000932)は心に平穏があった。
 触れる指先に感じるは確かな暖かみ。しかし……同時に理解もするものだ。
「……そっか。此処に乗っている、君達は……もう」
 虚ろな者達。生きてはいない、夢幻とも言うべき存在。
 どんな者達にもいつか終わりの時はくるものだ。人も、小さい子達も……
 だからこそ死は平等であらねばならない。
「うん……ちょっとだけ、一息つくけど……後で列車の前の方に、いこう」
 列車が止められたりなどされないように――
「冥界への途上、か。人だけでなく小動物達の魂もこうやって運ばれていくのか……
 少し休んだら、また来世で生を受けるのだろうか」
「もふもふいっぱいだ――! 僕はノーラっていうんだ、みんなは? ふんふん……テットっていうのか! かわいらしい名前だなー! いい子いい子――!!」
 同時。多くの動物と戯れる『方向音痴』ノーラ(p3p002582)の様子を見ながら『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は言葉を紡ぐ。来世という概念が本当にあるのか分からないが……しかし、もしも次があるのなら。
「その時も同じとは限らない、な。ノーラ、今の内沢山遊んであげよう」
「うん! 勿論なんだぞ! さぁみんなここに実はレタスが……うぉー! はやいー!」
 次は全く異なる姿かもしれない。小動物としての姿も今この時で最後かもしれず……
 だから触れ合おう。彼らもそれを望むなら。
「ほら、おいでー。そうそういい子だね……って、わッ、くすぐったいよ」
 機関部への道を進む中で『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)もまた駆け寄ってきた犬を受け止めれば、存外に元気のある子だった。尻尾を振ってサクラの広げた腕の中へ。人懐っこさが溢れて、もふもふなる感触に包まれる。
 冥界――正直、そんなものが本当にあるとは信じがたい。
 これは全てタダの夢で、何かに化かされているとされた方が納得しそうな……
「……だけどどうしても君達はこの後、いなくなっちゃうんだね……」
 真実だとしても嘘だとしても――彼らに帰る場所はないのだ。
 夢なら消えて、冥界に往けばやはり現世には戻れず……
 包まれる暖かさを感じれば、ふとサクラは寂しい思いも抱く。
 だけれど――いやだからこそ。最後に遊んでくれる人がいた方が。
「きっと皆も嬉しいよね」
 顎の下を撫ぜてやる。リラックスする様子がなんとも愛らしく――更に他の子犬たちも寄ってきて。次々に『僕も僕も』とサクラの下に。
 順番だよ。微笑みながら彼女は接する――この一時だけの空間と共に。
「おや、まあ……――そうですか、死んでおいでで。
 なんとも不思議な所へと誘われてしまったようですね……
 このような経験も、まぁ混沌の世ではある事でしょうか……おや?」
 更に『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)の近くにも動物達が。
 それは彼女が手に抱いているレタスに人参――を、彼女が食べているからだろう。甲高い音が彼女の口から響き渡ればモルモットや兎たちが来る。僕達のー! 僕達のー!
「……えっ? ぼくがむしゃむしゃと全部食べてしまわないかって? いえいえ、そのような事は……まるで食い意地が張っている様に見えたでしょうか。それは失敬――はい、どうぞ」
 近くに放れば追いかけていくモルモット達。別の方にはマタタビを投げて猫を誘導。
 ご飯やマタタビでもてなして『また旅を続けられる』――と。彼らにも。
「そうだ。梟さんは何をして欲しいですか」
「むっ? いや私は遊んでいる場合ではないのでな。やるべき事が多くてぬおおおおお」
「……眉間を撫でられて気持ちよさそうですが。ここですか? それともこっちですか?」
 羽毛の中に指を入れて上下に運動。
 冷静な言動なのに声が震えて――ああ動物特有の幸せの中にいるのだなぁ。
「夢でも見ているでゅかね……? あちし、いちゅのなにか、よく分かんないものに乗っているでチュね。もしかして、あちしもこのまま、運ばれてしまうんでちゅか?」
 ぴぃ、猫と一緒はちょっと……と『ドブネズミ行進曲』パティ・ポップ(p3p001367)は後退開始。カワイイ動物達はそれはもう多いのだが……いやでも猫は……ネズミの獣人たるパティにとっては……ぴぇ! くるなでちゅ!
「ねずみちゃんや、りちゅちゃんは、可愛いでチュー。みんなはどうちてここに来たんでちか? ……猫? やっぱり猫でちゅか? あ、やっぱ猫でちゅか……」
 猫が来ぬであろう場所へ退避。そこに居たネズミやリスと和やかに語って。
「なんだか不思議な場所だね……魂はたくさん見てきたけれど、運ばれていく場所だなんて見るのは初めて。ここが本当に存在してるなら……私達の知らない所でずっと動いてきたのかな? ずっと、ずっと」
「……もし、聞いた話が本当だとしたら……結構、珍しい体験をしてるのかも。中々いないよね、こんな所に来るなんて。でも……ここが現実なら放っておけないし……泡沫の夢だとしても、ハッピーエンドを目指したいよね」
 そしてこの光景は『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)にとっては未知なる鮮烈さに溢れており――『雷刃白狐』微睡 雷華(p3p009303)も同様に思考する。通常、人の到達できぬ地に己らはいるのだと。
 とはいえ魔物の討伐を行わねば……ここに生者が留まり続けるのは良くないだろうし、何より頼まれた事でもある。
 ただその前に一時――少しだけ、ここにいる子達と遊んで行こう。
「うわああああパパー! パパー! レタスとニンジンが消えていく――!!
 パパも手伝ってー! あ、ノーラの指は舐めてもおいしくないぞ!
 これは食べ物じゃないぞー! こっちだぞ――!」
「ははは。さ、こんな事もあろうかと……という訳ではないけれど、実は生肉があってね。どうかな、働き者なのは結構だけれども、偶には食を楽しむのもいいんじゃないかな?」
「むむ! こ、これは……! いかん、屈さんぞ! 梟の誇りに掛けて、むぐ、うぐ、旨い!」
 餌を挙げていたら多くの小動物に懐かれ呑み込まれるノーラ。
 その様子を微笑まし気に眺めながらリゲルは梟へと生肉一つ。なんだかんだと理由を付けて食べない様……な様子を見せているが、口とは裏腹に体は肉を求めて啄んでいる。やれやれ。
「わふー! やっと抜け出せたぞ……あっ。梟さんは、今までみんなのこと見守ってくれてたんだな……いっぱいお疲れさま」
 そしてノーラもまた父の下へと訪れて。
 肉を啄む梟を優しく撫でれば――少しの間だけ席を外すと、次の車両へ。
 戯れるのは楽しいが、しかし原因を取り除かなくてもならないのだ。
「付いて来ては駄目ですよ。また後で戻ってきますからね」
 未散が付いて来ようとした猫を引き留め、連結部との扉をゆっくり閉めれば。
 ――往こう。
 この列車を妨害している、レイス達の下へと。
●
 機関室。なんとか破壊出来ないかと試みる幽鬼たちがそこに居た。
 成程、力尽くで強引に事を成そうとしているようだが……
「さあ私が相手になるよ! 君達の所為で困っている人……いや、子達がいるからね!」
「では参りましょうアレクシア様。彼らにはご退場願います」
 辿り着いた以上もう好きにはさせない。アレクシアが先導し、一気に跳躍。未散の連鎖的な動きがその流れを補佐し――確実に最前線へと。さすれば赤き花の如き魔力塊がレイス達を穿つのだ。
 生成、炸裂させた一撃は機関部から目を逸らさせ、アレクシアを追う。
「数はこっちの方が上だから……弱ってる奴から順番に、確実に減らしていこう」
「あちしなんて、軽いでチュからね。飛ばちゃれないように戦うでちゅ」
 次いで雷華とパティもレイス達へ。気を付けるべきは奴らの吹き飛ばしてくる撃、か。
 列車から万が一にも振り落とされれば厄介だ――仲間同士の位置を確認し、いざという時のフォローを万全に。さすれば雷華の振るうは麻痺毒の刃。
 投じて動きを鈍らせる――同時に動くパティは自らの動きを俊敏化させて。
「あっちに行きたくないっって、さてはあんた、悪いやつでチュね?!」
 突進。気力漲るその撃でレイスらを立て直さず圧倒せんとす。
 霊体なれど触れるにやはり問題は無いようだ――だからこそイレギュラーズ達は機先を制した初撃から更に畳みかける。アレクシアが紡いだレイスの隙を見据えるのは。
「梟さんから……頼まれた『お手伝い』……頑張ろう。
 きっとそれが……あの子達の為にも、なるから……」
 チックだ。始まりに灯されし、いにしえの子守唄が彼らを夢へと誘う。
 眠るべきだと。暴に心を沿えるの止め、あるべき所へ往くべきなのだと。
『――!!』
「あなた達はどこから来たの? どうして邪魔をしているの?
 もしかして――あなた達も動物なのかな?」
 それでもレイス達は抗う。力を振るい、イレギュラーズ達を突き飛ばして。
 されど警戒しているアレクシアは注意を引き付けつつ踏み止まる。
 いざとなれば飛行の力もある――故に、同時に問うのだ。
 なぜこのような事をするのかと。もしかしてこのレイス達は……
「抵抗するか――しかし、どうしてだ? どうして君達はこの列車の邪魔をするんだい? いや……梟から推察は聞いたよ。君達もまた……あそこにいたような動物達だったんだろう?」
 直後、リゲルの言は先程梟と接している間に彼から聞いた『推察』だ。
 彼ら――レイスはもしかすれば小動物の集合体――であると。
 ハッキリとした理由は梟にも分からない。ただ、稀に寂しがりやなモノ達は仲間を欲したり、生前いた場所に留まりたいと強く深く願う者もいるのだという……
「でもダメなんだぞ。みんながあったかい場所でゆっくり休めるように、お前たちを止めさせてもらうぞ! 独りぼっちがいやな気持ちは……ノーラもわかるけど、みんなみんな……一緒にいるんだぞ」
 レイス達も暖かさを知ると良い。
 ノーラが言うのは先程の戯れを経たからこそ、だ。あの子達は、抱っこしたモルモットは。
 例え命が無かったとしても――暖かかった。
 みんなみんな――『生きて』いた。
「こんな所にいたら、それこそずっと独りぼっちだぞ! だから――止めるんだぞ!」
「――ああ、レイスを止めよう!」
 不可視の刃をノーラは放ち、追従する様にリゲルも前へ。
 レイス達が抗ってこちらを吹き飛ばして来ようとも――此方は一人ではないのだ。
 元より人数差から優勢ではあったが、徐々に、徐々に形勢は完全に傾く。未散の放つ光がレイス達を照らし、リゲルが前に出て注意を引き付け。ノーラやアレクシアの魔力が彼らの力を削げばやがて――レイス達の力は失われてゆく。
 嘆く様に。まるで彼らは。
「帰りたいよね……ごめんね……」
 元居た場所に帰りたかっただけだと――言わんばかりに。
 サクラは思考する。己が刃を振るいつつも、彼らにも彼らなりの想いがあったのだと。
 恨みつらみから発生した存在ではなく……飼い主や家族の元に帰ろうとしているのでは?
 だから――サクラは。
 抱きしめる。
 レイスの攻撃を掻い潜り。危険など承知の上で……言葉ではなく暖かさを、と。
 してあげられる事なんて多くはないけれど。
 せめて君達の近くに最期まで温もりはあったのだと教えてあげたい。
『――――、――』
 さすれば――レイス達が消え失せて往く。
 まるで砂の様に。まるで風に吹かれる様に。
 成仏か消滅か、いずれに至るかは分からない。けれど、彼らの消失に伴って――
「あっ、列車が……!」
 再び正常なる速度を取り戻した事を、アレクシアは知覚した。
 ――同時。彼女の瞳に命の灯が映し出される。
 それは先程のレイスの欠片。手繰り寄せるかのように身内に取り込めば、断片的な記憶を。
 魂のアカシック・レコードを脳裏へ。
 大好きな主人と共に穏やかな日常を過ごしていた光景が――彼女に。
「…………うん。伝えるよ、きっと」
 君は出来ればもっとずっと一緒に居たかったのだと。
 君はきっと幸せだったのだと。
 飼い主に伝えてあげよう。
 ――大好きでした、と。
●
 機能を取り戻した列車は本来の速度で目的地へと向かう――が。
「ありがとう、感謝する。もうすぐ停車するからそこで降りると良い」
「うん……これで、ここでのわたしたちの役目はお終いだね。もう……逢う事はないのかな……?」
 恐らくは、と雷華に告げるのは梟だ。
 本来であれば人が紛れるのは在り得べからざる事なのだと。
 だから、きっともう一度会える事はない。
「ねぇ。この列車はいつから動いてるの? これから先もずっとあるの?」
「さぁ――私も分からない。私が此処に訪れたのは随分前だが、ずっとずっと動いている。それはきっとこれからもそうだろう……」
「永遠に?」
「この列車が怖るまで。或いは、運ぶ命が無くなるまで」
 列車に最期があるとするならば全ての命が途絶えた時だけだと、アレクシアへ。
 ――やがて列車の速度が落ち始める。これは……停車が近いのか。
「……残念だね……でも、お別れは、生きていたって……あるんだ」
 再び動物達と戯れていたチックは――名残惜しさを感じる。
 色々な子がいる。特に犬の子は人懐っこく、頭を撫でればすり寄ってきて。
 他にしてほしい事はある? と思うのだが、しかしお別れの時だ。
「……いつか、『別の姿』になっても。仲良くできたら、嬉しい。
 その時まで……ばいばい、だね」
「――みんな、おちゅかれでちゅ。みんな、元気で過ごすんでチュよ」
 最後の抱擁。さすればパティも降りて、外から列車を眺めるものだ。
 ……なんだか列車が先程よりも『薄れて』いる気がする。
 消えればもう会えないのだろうと確信しながら……
「みんな、安らかに眠ってね……わっ。駄目だよ、どうしてもお別れなんだ……」
 そしてサクラ――が降りようとすれば最初に接した犬が縋ってきた。
 だからもう一度撫でてやる。その顎を、その背を。
 一緒には居られない。可愛く感じても、どうしても。
「もしも……もしも生まれ変わったのなら、逢いに来てくださいね。
 ええ。お待ちしております。屹度、姿形が変わっても」
 あなたさま達だと、見つけますから。
 未散は述べる。扉を閉めて手を振りながら彼らへと言葉を。
 これでお別れだったとしても魂が覚えている。あなた達との、この刹那を。
 少しばかし寂しいですが……きっと忘れない事でしょう。
 ――再び列車が動き出す。ゆっくりと、しかし確かに。
 外にいるイレギュラーズ達は――見送って――
「あ、パパ! あれノーラが最初に抱っこした奴だぞ!」
 しかしその時。
 ノーラの目に見えたのは、己が抱いたモルモット達。
 いやそれだけではない。犬に猫に兎に――ああ梟すらこちらを眺めている。
 皆窓に張り付いて、名残惜しそうに。
 モルモット達なんてまるで手を振る様に窓際で指先を動かしている。
「――ああ、そうだなノーラ。ほらお返しに手を振ってやるんだ」
 だからリゲルはノーラを持ち上げ見やすいように。
 最後の挨拶をしよう。
「じゃーなー! ミリィ! ぷりん! ネーナ! テット! 元気でなー!」
 ――消えるまで、どこまでも。
 手を振る。見えなくなる、その時まで。
 元の世界に戻ったらあの子達の名前を思い出そう。
 そしてどうか来世では……いや来世でも、幸せであるようにと願いながら。
「……――あ、ひょっとしてぼく達、無賃乗車だったのではないでしょうか?」
 はっ、と未散が気付くも列車はもう彼方へ。
「行って、しまわれましたね。ええ――おやすみなさい」
 今宵。たった少しの間だけの夢幻。
 安堵と共に瞼を伏せて、さぁこちらも……戻ろう。
 我々の生きる世界へ。我々がまだいるべき現世へと。
 例え全てが泡沫の如く消えようとも。
 彼らと接した思い出だけは確かに――その胸の内に覚えておきながら。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 きっと彼らは――幸せだったことでしょう。
GMコメント
皆さんは不思議な空間に迷い込みました。
魔物を撃破し――ついでに小動物と戯れながら、脱出の為尽力しましょう!
●依頼達成条件
レイス(幽霊)の撃破。
●フィールド
冥府への途上。そこへと誘う車両『タルタロス・トレイン』……らしいです。
外見は蒸気機関車の様に見えます。内部は中々綺麗であり、あちこちには小動物達が沢山います。めっちゃいます。この列車は小動物達を冥界に運ぶ……との事ですが本当なのかは分かりません。
この場は只の夢かもしれません。
依頼が無事終われば皆さんは宿のベッドの上で目覚めるだけでしょう。
不思議な空間に迷い込んだ、と思うのが一番簡単な理解かもしれません。
最も前方の方に進むと機関部へと到達します。
其処に陣取っているレイスと戦い、撃滅してください。
ちなみに途上で動物達と戯れても大丈夫です。最後にはお別れしますが。
なお万が一降りれなかったとしても死亡する訳ではなく、戦闘不能(パンドラ減少)と同様の事態が発生するだけですのでご安心ください。
●動物達
車両に乗っている動物たちです。機関部以外のあちこちにいます。
彼らは寿命だったり怪我だったり……その他何かしらの理由によって死亡した小動物達です。最大でも犬程度の大きさの者達しかいないので、クマとか危険なクラスの動物はいません。
・犬:構うと喜びます。
・猫:マタタビをあげると喜びます。
・兎:ニンジンをあげたり撫でたりすると喜びます。
・モルモット:レタスをあげると喜びます。ぷいぷい。
・梟:この中において唯一、人の言葉を語る程の知性を持つ動物です。タルタロス・トレインの事についても詳しく、彼は車掌的な立場なのかもしれません。戦う力はないらしく皆さんを頼りにしています。
●魔物『レイス』×3
レイス。所謂『幽霊』の事です。
どこから迷い込んだか不明ですがタルタロス・トレインの機関部を制圧し、冥府へと往かぬ様に破壊を試みている様です。列車がかなり丈夫なのか左程の被害は無いようですが……多少運航に遅れは出ている様です。
神秘の術を多用し【飛】の属性を宿す技能を用いていきます。
列車から振り落とされない様には気を付けてください。
彼を退治すれば列車から降ろしてくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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