シナリオ詳細
ずっと良い子じゃいられない
オープニング
●
「あ、アーリアさん!」
「あら、ブラウくん――」
ぱたぱたと駆けてくるブラウ(p3n000090)へ振り向き、転ぶわよと続けようとしたアーリア・スピリッツ(p3p004400)は既に時遅しと察した。
「ぴっ」
何もないところでつんのめり、アーリアの手も届かない位置で転ばれては流石に助けようもなく。痛そうな音にアーリアは顔を強張らせた。
「……だ、大丈夫かしら?」
「痛いです……」
ノロノロと起き上がったブラウが鼻を押さえる。痛いと言えるのならば――後でちゃんと診てもらうとしても――一先ずは大丈夫だろう。それよりも『そこまでして急いだ』理由が知りたいところ。
「そんなにおねーさんに会いたかったのかしらぁ?」
「へぁっ!? いや違、あっそういう意味じゃなくて……!」
くすりと微笑んで見せるとブラウが途端に慌て始める。これがレオンであればスマートに受け応えてみせるのだろうが、ブラウはまだまだお子様である。
などと思いながら笑っていたら、冗談だと気付いたのかブラウが口を尖らせた。
「もう、揶揄わないでください!」
「ふふ、ごめんなさいねぇ」
笑い混じりの謝罪だったものだからブラウがほんのちょっぴり拗ねてしまったようだけれど、ちゃんと要件は教えてくれた。アーリアご指名の依頼があるらしい。
へぇ、と視線を向けるといかにも高貴な誰かへ仕えるような服装の男性(恐らく)が1人。恐らくと言うのは仮面を被っていたからである。怪しいとしか言いようがないが、指名というのなら話を聞かない訳にもいくまい。
「こんにちは、アーリアよぉ。何か御用らしいわね?」
「ああ、貴女が悪名高いアーリア様ですか。私は天義のさる方に使える者でして――」
アーリアが悪名高いという言葉に首を傾げる者もいるだろうが、イレギュラーズの中で天義の悪名高さと言えば――故人を抜きにすれば――トップなのである。
彼は主人たちに知られぬよう仮面をしているため、ここで外せぬ不敬をまず詫びた。例え国を出ようとも、何処で誰が見ているかは分からない。これから彼は『悪い事』を依頼しようとしているのだから。
「我が主にはご子息とご令嬢がいらっしゃいます。お2人にどうか、子供らしい悪さを教えて頂きたいのです」
曰く。主は非常に厳しい、言い換えれば天義らしい貴族なのだという。規則正しく、規律を守り、悪は許さずという姿勢だ。それは家の外だろうと中だろうと関係がなく、子供達は親の見ていない場所でそれを嘆いているといった様なのだと。
「確かに規則や規律は大切なものですが、子供らしさは子供の時にしか学べない。それに……亡くした子と重ねてしまうのです」
彼は以前の冠位魔種騒動で子供を喪ったのだと言う。近い年頃だったが故になおさら、子供達にはのびのびと過ごして欲しいということだった。
「なるほどねぇ。でもどうやって? どこかに連れ出すのかしら」
親の厳しい目があってどうするというのか、と問うアーリアへ彼は少しばかり先の日付を教える。その日に家主夫妻が1泊2日の旅行へ出るのだと。朝早くから出て行き、次の日の夜に帰宅する予定なのだそうだ。
「1日目の昼頃にお越しいただき、2日目の朝まで過ごして頂ければと思っています」
給金から報酬は出すし、子供達には親が出たあとにイレギュラーズの来訪を伝えるらしい。貴族としての嗜みを身に着けている最中の子供達だが、その年齢故にボロが出ることもあるだろう。出来るだけバレないように、バレるとしても事後が望ましいそうだ。
「そういうことなら任せてちょうだい。皆でその日にそちらへ向かうわぁ」
子供なら息抜きだって必要だ。大人だってそうなのだから、尚更。アーリアはまず一緒に『わるいこと』を考えてくれる仲間を探すため、ソファから立ち上がったのだった。
- ずっと良い子じゃいられない完了
- GM名愁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月26日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
日が天頂へ輝く頃。8名のイレギュラーズはひそかに貴族邸を訪問した。
(悪名高いなんて失礼しちゃう! ……なんてね)
事実、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の天義における悪名は高い。それは他でもない自分が望んだことだ。正義は必ずしも正ではなく、悪事も必ず悪とは限らない。それを見捨ててしまったら、一緒に大事なものを見捨ててしまったかもしれないから。
通された応接間では2人の兄妹が礼儀正しく待っていた。そこへ『方向音痴』ノーラ(p3p002582)がぱと花のような笑顔を見せる。
「初めましてノーラです! 今日はいっぱい遊ぼう!」
「よ、よろしくおねがいします」
返す声は硬く、困惑が見て取れる。彼らに今日という『おサボリの日』が伝えられたのは朝だったか。言いつけられた勉強をしない、というのは確かに不安かもしれない。
「大丈夫! 今日は僕たちと遊びの勉強だ!」
妹の方がその言葉に目を瞬かせる。そう、とノーラは深く頷いた。彼女も養子とはいえ、天義貴族の子供。一緒に沢山遊んで、一緒に怒られるまでするのが役目である。
「……こういう家の話を聞くと、父さんは優しかったのだと改めて分かります」
「いいお父さんじゃないですか」
『純粋なクロ』札切 九郎(p3p004384)の言葉に『超絶美少女女子高生(自称)』松瀬 柚子(p3p009218)は小さく笑みを浮かべた。そしてふと、表情を無にする。
悪い事を知らない、出来ない環境――いや、考えるのは止めようか。ここで考えても余計な事しか出てこない。
「さーて! それじゃあわる~いこと、一緒にしちゃいますよー!!」
パンパンと手を叩いて注目させる。それは本日という自由を、楽しむ時間を始める音。一同は自由に使って良いという部屋へ案内された。
「こほん」
アーリア、咳払い。すっごく真面目な顔をした。
「さて、お勉強はしないと言ったけど残念ながら予定変更よぉ」
その言葉に2人は表情を引き締める。やっぱり勉強しないなんて嘘なんだ、ここに居るのは両親不在時にも勉強を怠らない様派遣された家庭教師――。
「――なんてわけもなく! 今日は習い事もお勉強も止め止め!」
「はーいやっぱりやめ! 思いっきりサボって遊んじゃうわよぉ!!」
『never miss you』ゼファー(p3p007625)の言葉でアーリアは掌くるり、そのまま床にころんと寝転がった。えって2人がとんでもないものを見るような顔をする。床に? 転がる??
「ふふふ、良いのだわよ! こうやってゴロゴロしたりして悪いことして良いのだわよー!」
続いたのは『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)だ。アーリアの隣にころんとお邪魔した彼女は目をまん丸にする子供達を見上げた。
「一から十まで良い子なのは逆に不健全だわよ。寝転がるのに抵抗があるなら、まずは座ってみたらどうかしら?」
「そうだそうだ! 皆でガキらしく悪さしようじゃねえか」
どっしりと座り込んだ『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)はサングラス越しににっと笑みを浮かべる。子供は苦手だが、大人らしいところを見せなくて良いのなら別に構わない。窮屈な事をしなくていいのならむしろ楽しいではないか。
「いいか? 『わるいこと』を本気で楽しむ背中を見せてやる。せいぜい反面教師にでもしろよガキども!」
「今日は私たちみたいな人がいても、怒るようなパパとママはいないですしね。反面教師にしてもいいし、どうせなら同じように起こられることして楽しみましょ?」
ゼファーを始めとした他の面々も座り始め、兄妹はようやく床へ座る。落ち着かなそうだが半日経てば変わるだろう。
さあ、自己紹介を終えたら――早速、遊びに行こうか!
「お屋敷探検だー!」
拳を上げたノーラに合わせ、ぎこちなくも2人が倣う。気になった部屋をひょいひょいと覗きつつ進めば、鼻をふわりと美味しそうな匂いが擽った。
「この先はちゅうぼうなの」
「昼食を作っているんじゃないかな」
「あら、そうなの? ちょっと話を付けて来ましょ」
とゼファーが兄妹の言葉にそちらへ向かう。何を話していたのか判明したのは食卓に着いてからのことだった。
「え?」
「おかし!」
ずらりと並んだのはワッフルにチュロス、ドーナツに焼きアーモンド。その傍らでは『ここに格好良い称号が入ります』アンネローゼ=アーレンス=アドラスヘルム(p3p009170)がニマニマと持ってきた駄菓子を広げている。
「くっふっふ。これはそのまま食べるでないぞ。これは――こうじゃ!」
用意してもらった炊き込みご飯に砕いたポテチをぱらぱらぱら。そこへマヨネーズやら醤油やらを
どーん! とぶっかけて。
「この供物は禁忌中の禁忌、おやつ丼じゃ! 食べたことを決して親にチクるでないぞ」
勧められるがままにそれを食べ、また目をまん丸にする兄リオット。妹ルミナはにこにことゼファーたちとお菓子へ手を伸ばす。
「屋台スイーツはどう?」
「おいしい! これがわるいこと?」
「そりゃあ、この時間にこれだけのおやつですし!」
「大人的にも大変にギルティよ」
柚子とゼファーの言葉にそうなんだ、と呟く妹。大変に悪なカロリーである。
ご飯(?)を食べて一休みしたならば今度は身体を動かす時間。庭に秘密基地を作ろうという一同にノーラは与えられた部屋へ視線を向ける。
「ここもクッションとか持ち込んだら、過ごしやすいんじゃないか?」
「お、いいですね!」
「庭の方がバレたらそうしましょうか」
柚子はにっこり、九郎はそれならと折衷案を出す。いずれにせよ、何事もバレないように、である。手頃な場所を見つけ、シーツや絵本などを持ち出さないといけない。
「お庭ならね、隅っこに、ちょっとかくれやすい良い場所があるの!」
ルミナの言葉に従い、先ずはそこへ行くことに。とはいえ、一同でぞろぞろ出たら目立つだろう。秘密ではなくなってしまう。
「窓から出ちゃいます? 楽しいですよ!」
「む、それなら部屋のカーテンを外して――」
大きく開いた窓の外は快晴。アンネローゼの言葉にブライアンがさっと取り外し、それを結び付けてベッドの足に括りつける。
「うむ! これでカーテンを伝って降りるのじゃ」
物語に出て来そうな脱出方法である。柚子の持ち込んだロープで安全を確保しつつ、早速持って行きたいものをカバンに入れて外へ。
そんな姿を横目に、華蓮もまた動き出す。ハイテレパスで使用人たちと連携を取りつつ、上手く子供達や仲間をドキドキさせるよう立ち回ってもらう。
『もうすぐ廊下の外を通るのだわ……見つかりそうで見つからないように……』
視界に入る場所であれば双方に念話ができる。使用人たちはそれに最初こそ驚いたものの、今では楽しそうに皆をビビらせる役に徹していた。
「あそこの庭師さんは私が引き付けるわねぇ。その間に行くのよぉ」
アーリアは逃げられない障害へ立ち向かい、注意を引き付けている隙に他のメンツがこそこそと移動していく。ルミナの知らせてくれた場所は広さ十分、屋敷からの視線カットもばっちり。柚子がこんなこともあろうかと用意した飴を舐めつつ、各自作業に入る。
「ほらよ、肩車したら届くだろ」
「ありがとう!」
ブライアンの肩に乗り、ルミナは木の枝へシーツの端を結び付ける。簡易テントのようになったそれは雨こそ染みてしまうものの、日差しを遮るには十分だ。リオットもゼファーに担がれて同じように結びつける。
「いつかは逆に肩車できるくらい大きくなりますからね……!」
「あら。その時を楽しみさせてもらいますね?」
くすくすと笑いながらゼファーはくるりと回る。肩車されたままのリオットはそれに翻弄されるけれど、これもまた新鮮な思い出のひとつ。
「はたもつくって立てたいなあ」
「旗ですね」
九郎はルミナの意見を聞きながら小物づくり。対した材料はないが、器用さには自信があるのだ。
「うわぁなんだこれ!? あ、坊ちゃんたち!」
「ごめんなさいねぇ、見つかっちゃった~」
そこへ庭師が目をまん丸にしながらやってきて、アーリアが手を合わせる。皆揃って「しまった」みたいな顔をするものだから、アーリアは申し訳ない顔をしていたのに思わず笑ってしまって。
「何故笑うのじゃ!」
「ご、ごめんなさい、ふふっ、だって!」
そんな笑い声に包まれた午後。日差しが洗濯物を乾かし、温かな匂いを付けてくれる頃。
柚子は皆と屋敷へ戻ると、今しがた取り込まれたばかりの洗濯物をたんと持ってきた。兄妹が興味深げにそれを見る。
「これをですねー……こうです!」
ばさり、と宙を舞う洗濯物。ぽかんとする兄を余所に、妹は意図を理解したか真っすぐ飛び込んでいく。
「ふかふかー!」
「そうでしょうそうでしょう! さあ、夜のためにお昼寝ですよ!」
柚子が大切にしたかったのは『休むこと』。遊ぶ予定を皆が沢山作ってくれたからこそねじ込んだ、休みという予定である。
「はい皆さん寝転がって! 起きたら遅めのおやつにしましょうね」
いざ寝転がってみれば、秘密基地でそれなりに疲れていたのだろう。洗濯物の暖かさも相まって、一同はすぐに夢の中。
このあと皆でまたおやつを食べたり、庭でかけっこしたりもしたのだけれど――もうひとつの本番は、夜である。
●
「夜はたっぷり夜更かしを――」
するぞ! と宣言しかけたアンネローゼは目を瞬かせた。おかしい。吸血鬼たる自分が、夜に、景色を見通せない??
「な、なんでじゃー! どうして……ぐすん」
スキルがないと元来の力も取り戻せない、それが混沌肯定:レベル1。うるっと半泣きになったアンネローゼは――不貞寝した。本当に寝に行った。
「朝には勉強するからの。ホントじゃぞ!」
そういって――本当に、寝た。
だがしかし、皆が倣って早寝なんて健康的なことをするわけもない。ゼファーは子供達を引きつれ、こっそりと厨房へ向かう。美味しい匂いと調理中の音。実に宜しい。
『――今よ!』
小声の合図に子供達は気配を忍ばせつつたたたっと厨房へ飛び込み、出来立ての料理をひょいとつまんでまたダッシュで出る。
「あっ!!」
料理人たちが気づくももはや時遅し。3人はもぐもぐもっしゃもっしゃと口を動かしながら広い屋敷を全力で走っていた。
「ええ、ええ。いいじゃない、貴方達も随分とワルいことが板に付いて来たわね!」
「ふふふ!」
「ワルいこと、今日でいっぱいおしえてもらったもん!」
そうして夕食の時間も――ほんのちょっぴり怒られたりしつつ――過ぎて。皆で集まったところにブライアンが大量の荷物を持って帰還した。
「夜はこれからだろ?」
さしもの彼も1人では持てず、屋敷の使用人たちに運び入れを手伝ってもらった。運ばれてくる木箱に目をまん丸とさせる子供達はすん、と鼻を利かせる。
「フライかな?」
「そんなにおいね」
「普段みたいに上品な食べ方をするモンじゃねえぜ」
いいか? と木箱を開けるブライアン。そこには酒場などでは手づかみで食べられるようなジャンクフードが大量だ。
「これはなに?」
「チキンレッグだな。こっちはポテトだ」
「レモンがいっぱい!」
「おう、それは飲み物だぜ。あとでやるから待ってな」
塩と香辛料でパリッとあげられたジャンクフードに、はちみつ檸檬を作るための材料。ちなみにはちみつ檸檬はホットでも美味しい。
「こんなのも持ってきてるのだわ」
と華蓮はドライソーセージを出してくる。お菓子というよりは酒のつまみに近いかもしれない。
「皆、お風呂はばっちりだ! このまま夜更かしパーティできるぞ!」
「おう、準備がいいな!」
そんなわけで、皆で車座になり夜食を囲む。屋敷中のクッションをこれでもかと詰め込んだ新秘密基地――外の秘密基地は早々に見つかって撤収した――では、もはやゴロゴロすることだって躊躇しない。
「トランプは知っていますか?」
「見たことはあるよ」
お菓子を摘まみながら九郎が問うとリオットからそう返ってくる。見たことがある、ということは見たこと『しか』ないのだろう。
「僕もやる!」
ノーラもはいはい! と手を上げて小さな輪の中へ。それを眺めていたアーリアは微笑みながらお酒のグラスに手を付けた。
そう、お酒。ブライアンが抜かりなく入手してきてくれたのである!
「へへへっ、大人組には晩酌も必要だろ?」
「ふふ、気が利く男はモテるわよ……と、ダーメ」
すかさずアーリアは脇から伸びてきた手を掴む。中々悪いことを理解してきたらしい。
「これだけは大人になったらね?」
「ええー」
「こちらで別の遊びはどうです?」
手招きする柚子にそれなら、とゼファーがひとつ提案する。
それすなわち――屋敷の探検だ。
「入っちゃいけないって言われてる部屋のひとつやふたつ、あるでしょう?」
「ある!」
「お父様のしょさい!」
目を輝かせる2人。しかしすぐさまその瞳には迷いが現れる。無理もない、この屋敷の主であり厳格な父親の部屋に忍び込もうというのだから。が、ゼファーはそこへ畳みかける。
「大丈夫よ、こっそり覗くくらいならあっという間ですもの」
そんなわけでレッツゴー。使用人たちにも見つからないようにこそこそ、と進む子供達を見ながら、ゼファーはそっと暗がりに身を潜ませる。そして――。
「「お化けーー!!」」
突然悲鳴を上げて逃げ出す兄妹。甲高い声と瞬く間に消えて行った姿にゼファーは忍び笑いを零した。幽霊? いるわけがない。ちょっとした悪戯である。
その後戻ってきた2人は流石にバチが当たったのだと思ったのか、部屋の外に出ようとしなかった。部屋の中なら皆がいてくれるのだ、怖い事なんて何もない。深夜近くもなればノーラは眠ってしまったが、2人はまだ目が冴えているようだ。
「ふふふ、どうします?」
「うーん……これ!」
なのでトランプ遊びをして、チキンを頬張って。九郎、華蓮と段々イレギュラーズも眠ってしまう中、深夜を過ぎてようやく2人は眠気が来たようだった。
「あらあら、これだと寝る前のお散歩は無理そうねぇ」
お酒で良い具合に酔ったアーリアは身を寄せて眠る2人にくすりと笑みをこぼす。ブライアンが張り切っていたのと同じくらい夜更かししようとしていたが、流石に限界だったようだ。
「……ねぇ、あなたたちは天義って国や、家族が好き?」
問いかけに、返事はないけれど。好きでいてくれたら嬉しいと思う。
皆が寝ると言うこともあって、適度に夜食を片付けた一同は明かりを落とす。柚子は暗闇をじっと見つめた。
(もし、私にも……)
想いを馳せるのはは最早叶わない、変えられない過去。
(こんな風に反発出来るくらいの勇気があって……助けてくれる大人がいたなら)
変わっていたのだろうか。
それとも……変わらなかったのだろうか。
柚子は転がっていたクッションを抱きしめ、目を閉じた。
●
「ね、ね、寝坊じゃーー!」
けたたましい声と共にアンネローゼが飛び起きる。寝坊も寝坊、朝なんてとっくに過ぎてしまうようなお日様の高さで。
お寝坊さんなリオットとルミナ、そして一緒に付き合うとノーラも。屋敷を預かる執事に寝坊と夜食を怒られる。勿論半分以上はフリ――怒られるまでが悪事の醍醐味だ、って誰かが言ったものだから。
だから3人もしおらしくしつつ、こっそり視線を合わせて笑ってしまう。
「2人とも、怒られたけど楽しかったな」
「またこっそりやろうね」
「今度こそバレないように」
どうやら『悪い事』にすっかり目覚めてしまった2人にノーラはうん、と頷く。真面目な事は大事だけれど、そうやって親に褒められるばかりが子供のすべきことではない。笑って、肩の力を抜いて、時に怒られて。そうやって喜怒哀楽を出していかなくちゃ、息が詰まってしまうから。
「なあ、また遊ぼうな!」
「え、もう帰るの? 遊びは?」
ノーラの言葉に目を丸くしたのはアンネローゼである。1日のスタートを失敗してしまったのだから、勉強は明日の朝また頑張るとして今日も遊んでしまおう――なんて気持ちでいたが、今日までイレギュラーズがいるわけにはいかない。
「余、今日も泊まってく!」
「今度また来ような。ほら、」
「ヤじゃーーー!!!!」
そんなアンネローゼとノーラを微笑ましく見る執事へ、柚子はそっと近づいた。こっそりと見せたのは免罪符である。
『必要であればお使いください。何かあったら少しばかり……気分が悪いですから』
執事は彼女に目を細め、首を横へ振る。その気持ちだけで十分だと。主人たちも教育に『熱心』であるだけで、悪い人たちではないのだと彼は笑った。
その傍らでアーリアは2人の子供を手招きし、代わり番こに抱きしめる。きょとん、と円らな瞳を向けた彼らへアーリアは微笑んだ。
「悪いことをして、怒られて、ちょっと反抗して……そうやって、元気に真っ直ぐ育っていくのよ」
時には反抗しても屈することがあるだろうが、そこでへこたれないならそれで良い。また悪い事がしたくなったのなら――満点のテスト用紙と、おやつを持って。彼らはローレットへ『お勉強』に来るだろう。
再開を祈りたいような、祈りたくないような。ちょっぴり複雑な心と共に、イレギュラーズたちは彼らの元を去ったのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ!
また思いきり悪い事がしたくなったなら、依頼が舞い込むことでしょう。
それでは、またのご縁をお待ちしております。
GMコメント
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『天義』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●目的
子供達にのびのび過ごしてもらおう!
●詳細
これは『わるいこと』を良く知らない貴族の子供に教える悪依頼です。親が知ったら起こりそうな事を(バレないように)します。
勉強をサボるのは勿論のこと、おやつをお行儀悪く食べてみたり、木登りしてみたり、かけっことか雑魚寝して枕投げとか。夜更かしして夜食を食べるのも最高にワルですね。
そんな感じで一緒に楽しみ、子供達に息抜きをさせてあげてください。
滞在時間は1日目の昼~2日目の朝です。泊まり込みです。屋敷の敷地から出るのはなしでお願いします。
●子供達
兄妹です。兄がリオット(11歳)、妹がルミナ(9歳)と言います。
彼らは厳しい親の元で教養を身につけようとしていましたが、心の内ではそれを苦痛に重い、親の耳がないところで愚痴っていたようです。
とはいえ、勉強ばかりであった彼らは遊びや悪い事を知りません。勉強はその日しなくて良いと伝えられていますが、皆さんとは『なら何をするべきか』と困惑した状態での対面となるでしょう。
慣れてくれば兄はそれなりに大人しめ、妹の方が活発的な一面を出し始めます。
●使用人
今回の依頼人です。執事だそうです。冠位魔種騒動で実子を亡くしています。
子供達を不憫に思っており、イレギュラーズが考え付いた『わるいこと』が危険なものでなければ協力的です。
ちなみに他の使用人も比較的同情的であり、間違ってもこの件を報告するような人はいません。それが正しいかは置いておいて、皆子供の健やかな成長を望んでいます。
●ご挨拶
ご指名有り難うございます。愁です。
室内で、或いはお庭で楽しく悪い事をしましょう。
それではどうぞよろしくお願い致します。
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