シナリオ詳細
<Rw Nw Prt M Hrw>最早、咲き得ぬ金鳳花
オープニング
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「……ファルベライズ遺跡群の中核について、既に話は聞いているな?」
問うた和装の情報屋に対して、応と頷くのは此度の依頼に集った特異運命座標達である。
ラサ傭兵紹介連合の管理下にある遺跡群――FarbeReiseと呼ばれるその地の調査隊から報告が齎されたのは、一同にとっても記憶に新しかった。
中核にあったクリスタルの迷宮の最奥。其処に見えたのは大精霊ファルベリヒトの祠であり――今もその場所にファルベリヒトは存在していたという。
但し、その心を狂気に窶しながら。
「……遺跡群中核の『扉』を開いた以上、それまで祠と、其処に直結するクリスタルの迷宮内のみで完結していた大精霊の狂気は、軈て外界に出てラサ全土を侵食すると予想されている。
更に言うと、そのファルベリヒトを大鴉盗賊団が取り込もうとしたことで、余計に状況は悪化。周辺の生物等にも既に影響は広がり始めている」
「……まさに今この時も、か」
特異運命座標の言葉にひとつ頷いた情報屋は、時間が惜しいとばかりに資料を展開して解説をつづけた。
「此度、貴様らに向かってもらう場所はクリスタル遺跡の一か所。遺跡の最奥と外界を繋ぐ重要なルートの一つだ」
この場所は現在、遺跡の『扉』が開いたことを察知したと思しきモンスターによって攻撃を受けているという。
無論、そのモンスターたちもファルベリヒトの狂気に当てられている。それらが外界に出ることによってどのような結果が顕れるかは不透明ではあるが……少なくとも、好ましい事態にならないことだけは確かであろう。
「敵の数は合計で7体。何れも頭部に黒い角を有するモンスターたちだ。
その内6体は、それぞれ鳥型、馬型、熊型で全く同じ見た目をしたものが2体ずつ。そして狼型が1体だ」
「スペックは?」
「鳥型と狼型が速度……命中と回避偏重、熊型はタフネスと物理面におけるフィジカル。
馬型は両者とも秀でていない代わりに、攻撃後に全速力での移動によるヒット&アウェイを得意としている」
それらもさることながら、彼らは狼型を除いて、一方の個体が対の個体と『全く同じ』姿になることができるのだと言う。
それはつまり、負傷した個体と外見上同一となることでターゲッティングを誤認させることも不可能ではない、と言うことだ。
「……厄介なことに、奴らは自己回復能力も備えている。一度対象をズラされたら、その内に態勢を立て直される。
勧めるのは一個体ずつを全員が視認した状態での撃破か、常時行動制限、乃至誘導系の状態異常で足並みを乱し続けることだが……」
「どうした?」
質問に対して、逡巡する少女。
それでも――避け得ぬ説明だと腹を括ったのか。彼女は一呼吸をついて再び口を開いた。
「戦場には……『ホルスの子供達』も居る」
「……なるほど」
『ホルスの子供達』。今現在ファルベリヒトと精神を同化した状態にある『博士』と言う人物によって生み出された、歪んだ死者蘇生の産物。
今や多くの個体が狂気に蝕まれているというそれらの妨害を予測していた特異運命座標らに、しかし情報屋は。
「堅実策で時間をかけ過ぎれば――その『子供』の方が先に破壊されるだろうと、そう思ってな」
「……何?」
意外な説明の続きに、目を見張った。
その様子に、情報屋もまた嘆息して、言った。
「……アレは今現在の大抵の個体とは違う。狂気の浸食を撥ね退け続けている稀な存在だ。
奴は現在、先のモンスターたちを相手に単身戦い続けている。自らに課せられた、願いを理由に」
●
痛みにどれほどの意味が在ろうものか。
斯く在るべきと運命に反逆した。その過程で負うたそれらは、しかし誇るべき勲章には能わず、ただ無為の証左にしかなりえない。
『「おじいちゃん」と声が聞こえた。
視線を遣った先には、食い散らかされた肉と骨が転がるだけだった。』
担う儀仗。携える剣。
相対する四対の獣を前に幾度となく振るったそれらは最早摩耗しきっている。
それでも私はそれを手放すことはできない。この戦いを――願いを、投げ捨てることなどできない。
『寂しがりのラナンキュラス、無口で優しいデルフィニウム、いつも一緒のニゲラとアネモネ。
皆が、皆が、死んでしまった。今なおこうして無力な私をあざ笑う獣たちによって。』
力量も、数の差も明らか。
どれほどの術技も乏しければ痛痒足りえず、ならばと振るう剣が敵の血を迸らせれば、獣たちは他の個体と入れ替わって自ら傷を癒してしまう。
『枯れ萎びた老人を食らうことなく、獣たちは私を切り裂き去っていった。
嗚呼、憎むべきは奴らなのか。或いは無力なまま死に瀕しているこの私自身なのか』
キァ、という不明瞭な鳴き声。それを合図として私の体が千々に分かたれる。
肉片は土塊に。久方ぶりの食える肉と思っていたのだろう獣たちはその結果を見て困惑し――そうして落胆したように俯いてその場を去っていく。
……去っていく、筈だった。
『彼ら、彼女らの仇を取ってやりたい。叶うのなら、皆で暮らしていたあの頃にも戻りたい。
若し仮に、この末期の手紙を読む人がいるのなら、私は――――――』
――私は、未だ此処に居るぞ。
声も出ぬまま口を開いて、背を向けた獣を貫いた。
色宝を起点に再生する身体。混乱する獣を気にも留めず、一頭目を殺傷せしめた私は、ただ一つ。
『私は、貴方に託したい。
黒角を戴く四対の獣を打ち倒し、あの子たちの、私の無念を晴らしてくれることを』
ただ一つの願いを、叶えるため。
幾度この身体が崩れようとも立ち上がり、彼らに、戦いを挑み続けている。
- <Rw Nw Prt M Hrw>最早、咲き得ぬ金鳳花完了
- GM名田辺正彦
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月22日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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少なくとも。
その「願い」に尽力し続けた彼は、自らを幸福に思えていた。
与えられるものも無く、目的も無く、ただ死者そのもののように動作し続ける人形であるよりかは、ずっと。
……嗚呼、だからこそ。
その終わりが如何なるものであっても、自分はそれすら幸せに感じられるだろうと、彼は信じていた。
彼の8名が現れる時まで、それを、信じていたのだ。
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――刹那、轟音が鳴り響いた。
瞠目は彼我同じく。音の聞こえた方に視線を遣れば、其処には両手に魔導具を構える金髪の少女の姿が。
「……晴らしましょう、無念を。叶えましょう、願いを」
『ジョーンシトロンの一閃』橋場・ステラ(p3p008617)。
此度の討伐対象である7体のモンスター達。それらが向かおうとする『出口』から現れた彼女は、言葉と共に呼気を改め――高らかに戦いの開幕、或いは仕切り直しを宣言する。
「拙には、戦う位しか出来ませんから――!」
吶喊。乱入してきた敵に対してモンスター達もまた戦闘態勢を整えるも……
「其処!!」
彼女を注視していた敵の側面から、聞こえた声。
薙いだ剣の一撃。完全に意表を突かれた狼のモンスターがそれを受ければ……些少たる傷口が、籠められた魔力によって爆ぜる。
初動のステラの行動によって気を惹かれたモンスター達に、『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)の剣魔双撃は実によく奏功した。しかし、それは。
「キ、ィィィィィィィッ!」
「っ!」
敵から見た驚異の度合い……ひいては反撃の苛烈さを底上げする結果にもなる。
イズマ自身、このパーティに於いて『動ける』方ではない以上、一斉に反撃を受けた際の被弾率は相当なものだ。
ステラが追いつくまでの間に一気に傷つく彼を、しかし即座に癒しの魔力が賦活する。
「……無理、良クナイ」
『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)の言葉に、後退しつつも苦笑するイズマ。
彼自身もその無茶を理解していながら、しかし、と。
(……それでも。俺は、『彼』の願いを叶えるのに協力したい)
胸中に想う者が誰かは、この場に居る仲間たちにとっては問うまでもないことで。
「相手がホルスの子供達ってのはまあ、思うところはあるが……」
依頼の場だからと、使い慣れた煙管の代わりに煙草を吸っていた『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が、その吸殻を捨てつつ小さく笑う。
「あんな奇特なご老人、見捨てるわけにはいかねぇなァ」
自己の刻印である『復讐ノ緋』が沸き立つ。命を食らって抽出された魔力を変換した彼女の咆哮は、先のステラによる号砲以上に大きく響き。
禁術・狼王咆哮によってモンスター達は大きく態勢を崩される……「だけではない」。
「寄ってたかってお爺ちゃんをいじめる悪い子たちには……」
お仕置きっきゅ! と叫んだのは、『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)。
キィン、と鳴ったのはハンドベル『ヴィントグロッケ』。音色を触媒に魔力を注ぎ込んで術式を構成。神秘の光が敵のみを灼く……と共に。
「……死者に一時の命を吹き込むものとして、この依頼は見過ごせないのよね」
特に、この個体には。と語る『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)。
右の繊手がくるりと弧を描く。指先から放たれた不可視の糸が敵の一体を過たず縛り上げて。
そして、最後に。
「――――――アイラさん」
「うん、『重ね』ます!」
『護るための刃』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)が放つチェインライトニング。
次いで、『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)によるスケフィントンの娘が。
初動、仲間たちに於ける状態異常をほぼ与え終えたと判断したアッシュのダメ押しは殊に敵に響く。
初手に狙った一個体、狼型のモンスターは軋み、拉いで、倒れ伏した。
……それでも。息絶えてはいない。
尚且つ、敵は未だ気勢を落としてはいない。それがたかだか一体と侮っての事か、或いは今度こそ食らいつける肉を前にしてかは分からないけれども
「………………」
その最中、老人は忘我していた。
現れた8名の闖入者。ただ獲物を横取りするというわけでもなく、ある者たちは傷んだ自らを庇うかのように位置どる素振りすら見える。
胡乱じた。訝しんだ、何が目的かと警戒もした。
しかし、そうした老人に対して、彼らは。
――「貴方の願いを、叶えたいのだ」と。そう言って。
だから。
だから老人は、『その考え』を捨てた。
叶えるべきは一つの願いだけ。それを手にする為ならば、命すら惜しくは無く。
だから、彼らがどのような存在であったとしても、老人は最早、彼らを警戒することは無い。
響いたのは魔獣の雄叫び。
異なる意思はそれを機に終ぞ縒り合わさり、向ける切っ先を同じくした。
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戦闘は比較的早いペースで進んでいた。敵方の負傷の度合いの深さと言う意味で。
特に、冒険者らが最初の目標とした狼型の体力は、恐らく既に一割にも満たない有様だ。
戦闘が開始してから数十秒と経たぬうちにここまで傷んだ状態となったのは、初動に於いて敵が老人を包囲していた状態……もっと言うと「複数対象攻撃を連打しやすい状態」にあり、更にその後の行動に於いても対となる個体を喪い、擬態能力による撹乱が行えなかったことに起因する。
――嗚呼、だから。
「貴方の行動に、終わった命のための行いに、誰かが意味など無いと言ったとしても」
『Mistarille.』が空を滑る。流水を泳ぐ白魚のような緩慢な一振りを敵に振るえば、其処から出でた蛇の如き雷撃に、狼は堪らず息絶える。
「彼らを倒さんとする私たちにとって、貴方は確かな切っ掛けを、与えてくれたのです」
本来存在しえた『対の一体』を、特異運命座標らが来る前に屠っていた老人へと、アッシュは小さく感謝を述べた。
戦局に空いた穴。状態異常を以て仲間たちのサポートに中れるはずの狼型が序盤で抜けたのは、アッシュたちにとって確かな朗報だった。
……尤も、それに慢心するようなことが在ってはならないのだが。
「レーゲン、イズマ、回復、スル!」
「ありがとうっきゅ!」
特異運命座標らが「倒しやすい個体」を優先して撃破していくならば、モンスター側が優先していくのは「狙いやすい個体」である。
前後衛を問わず、攻撃を当てやすいもの……さらに言えば、その中で防御が脆い者に対して集中する攻撃。痛みに顔を歪めながらも、しかし彼らはフリークライの回復で即座に態勢を立て直す。
(……フリック達、願イ、無為シナイ)
嘗て、墓守として死者の親族の想いに、心に寄り添ってきたフリークライは、故に最早無き者の願いを叶えるべく奮闘する老人に親近感を覚えていた。
既に、永くは無いと言われた仮初の命を。だからこそ、せめて最期は心残りなく逝かせてやることが救いなのだと。彼『ら』は。
「会った事も無い、名を読んでくれた事も無い死者の願いを叶える為に独り戦うのって とっても凄い事だと思うっきゅ」
「その為に、歪むことも、狂うこともなかったって部分も、ですね」
フリークライのみならず、レーゲンも、イズマも、思っている。
分散した敵にそれまでの範囲攻撃は奏功しづらいと考えたレーゲンは、その行動を即座に切り替える。
MA・F。只でさえ被弾率が高いうえに反動を伴う攻撃にシフトしたレーゲンの攻撃は、しかしその分のリターンが確実に得られている。
イズマも同様に。次の対象とした熊型モンスターへと繰り返される攻撃は、スキルを伴わずとも一定の状態異常を付与しうる蜂の一突きと同義である。
「……例え刹那の瞬きのような行末だったとしても。あくまでそうと決められたプロセスに則っての行動だったとしても」
そうして、彼の外三光によって傾いだ敵へと。
「ただ一つの手紙でそこまで抗う貴方の行く末は、私が手を貸してでも、見守る価値が十分にある」
――願い叶わず砕け散るなんて、興ざめな結果は許さない。そう、ジュリエットがシニカルに笑った。
空いた敵の身体。近辺に敵の範囲攻撃へ巻き込むような味方は居らず、余力も少なくない。
踏み込んだジュリエットが渾身の魔力撃を撃ち込めば、熊型がたたらを踏んで対の一体とすれ違う。
「っ……確証は、在りませんが……!」
絞り出すように呟くステラ。踏み出した一歩が「全く同じ傷を負っている二体の熊型モンスター」の内、一体を捉えて――黒顎魔王。
目に見えて衰弱する熊型。二次行動、相手が「対の一体」かは分からぬままに、しかし彼女は今更止まることなど無く。
黒顎、双つ咬み。放たれたそれを受け、しかし暫く静止していた熊型は……軈て、どうと音を立てて息の根を止めた。
「……流石に、運に身を任せすぎですね」
浮かべたのはしかし、安堵とは異なる歎息。
スイッチによる擬態能力、その間に於ける自己回復での立て直しを防ぐべく、ステラをはじめとした特異運命座標らは様々な対策を打ち立ててはいたものの、それが確たる助けになったとは言えず、精々多少は見分けがつきやすくなった、程度の気休めに過ぎなかった。
……そうして、それが戦況に『響き』はじめたのも、同時にここからだった。
「レイチェル、さんっ!」
「わかってる、悪いが幾らか足止め頼む!」
叫ぶアイラに声を返したのはレイチェル。二体一対として動くモンスター達の片方だけを吊り上げるべく彼女が放ったスキルは、しかしその効果を想定以上とすることでレイチェルの負傷の比率を高めている。
何が言いたいかと言うと、彼女が片方を怒りの状態異常によって引っ張った際、もう片方も一緒についてきてレイチェルを狙いに来てしまうのだ。
敵方のターゲット選定基準が分からない以上、その可能性は少なくとも存在した。そしてそれが拙い状況に在るかと言えば、否定はしないが肯定もできない。
レイチェルは耐久性能を引き上げるスキルを持ち、同時にフリークライからも常に回復対象として目を付けられている。少なくない時間を耐えることは十分に可能だし、その間に味方の攻勢が敵に打撃を与えることも考えれば、これは必要な犠牲と言っても過言ではない。
……唯一の誤算は。
「――――――、」
「おじい、ちゃ……!」
戦闘開始時点から『彼』を気遣っていた、アイラの庇護から離れ、
レイチェルが受ける筈だったダメージを「庇った」、老人の行動にこそ言えるのだろう。
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――老人は、モンスター達の討伐を目的としていた。
――老人は、モンスターを単身で討伐しうる実力を持ってはいなかった。
――老人は、モンスターを圧倒する8名の闖入者たちを認識し、彼らが自分に向ける想いを『信頼』した。
……ああ、ならば。
「この想いを受け継いでくれるのならば、この身砕けても惜しくは無いのだ」と。そう思うことは、一つの可能性として――
肉体が三度、砕けた。
幸か不幸か、その中核を為す色宝にこそ傷はなけれど、再び土塊を肉体として再構成するその光は、今にも消えそうな如く微弱で。
「アンタ、巫山戯ン……!!」
特異運命座標らにとって、重傷は「治しうる傷」であり、それは可能な限り避けるべきものであっても、必要であれば負ったとて惜しくは無い類のものだ。
しかし、老人はそれを知らない。
だからこそ、それを避けるべくレイチェルを庇った彼の『命』は、最早空に等しい。
「――――――、駄目」
回復役であるフリークライが容態を確認するも、返されたのは否定の意だけ。
情報にあった通り、体力上限を削ることで一時的な戦闘維持を行えるその能力は既に限界まで使われている。奇跡でもなければ、最早再び起き上がることはできない。
「……代わります!」
声を上げたのはイズマ。名乗り口上を上げる彼によってレイチェルが狙われ続ける事態は回避したが、しかし、それでも。
「おじいちゃん、未だだよ……!」
未だ、その本懐を成し遂げるまでは崩れてくれるなと、アイラが泣きそうな顔で言った。
嘗て、自分の想いを叶えてくれた――そう思えたホルスの子供たちと同じように、あなたも、あなたに願いを捧げた誰かの為に、もう少しだけ生きて欲しいと。
「――――――其処まで」
顔も知らぬ誰かの願いの為に、其処まで、自分を磨り潰せるのかと、アッシュは呟き……その表情から、感情を消した。
動作は正確で、故に生を知らぬ人形そのものとなり。気力の枯渇を銀月の刃で補った彼女の二次行動が、熊型と、鳥型の一体を落雷により焼き殺した。
「……貴方に敬意を」
背を向け、言葉を一つだけ残し、アッシュは疾る。老人の望む景色に早く辿り着くために。
戦闘は最早佳境だ。撃破順の関係で熊型モンスターが倒れるのが狼型の討伐から以上に時間がかかったように思えるが、それに付随して残る馬型、鳥型も数多くの範囲攻撃に巻き込まれている。
あとは単純な削り合い。望まぬ形ではあるが、中盤からダメージが蓄積していたレイチェルの傷も、老人がカバーリングに入った一手の間にフリークライの回復を受けたことで倒れる心配こそ失われている。
「……鳥型、任せます! 誰か続いて下さい!」
叫ぶステラによる、残る気力をかき集めての黒顎魔王。
これ以降は攻撃の威力が減退し、少なくとも老人が生きている間に倒しきることはできない。「対の一体」とのスイッチによって回復されたら其処までだ。
(戦うことしかできないと、宣いながら……!)
唇をかんだステラ。しかしその肩を軽く叩いたジュリエットは。
「……最期を見守ると。
そう言ったわよ、私は!」
近接戦闘用ゴーレムに瞬間的な魔力を通し、強固な一撃を見舞った。
爆ぜる鳥型の身体。繋げている。今、彼女らの後方で下半身を土に還した老人の想いを、未だ繋ぐことは出来ている。
怯むモンスター達。じり、と一手を攻撃か逃走かに迷ったのが――故に、彼らの運の尽き。
「ホルスの子供たちはただの人形で、ただの道具で、レーくんたちは今まで、そう思っていて……」
――その自分を悔い改めて、だから、と。
「お爺ちゃん、まだ死んじゃダメっきゅ!」
神気閃光。追うように伸びたのは、アイラの得物からなる銀舞剣。
何かが二度、崩れ落ちる音がした。どうでもよかった。今目を向けるべきは最後に立っている個体。それに対して、彼女が。
「……その有様じゃ、最後の一撃は難しいだろ」
譲ってもらうぜと、レイチェルが言った。
憤怒ノ焔。甲高い嘶きを残して、最後の馬型モンスターが灰も残さず消滅する。
勝利という結果を得て、しかし余韻は無かった。
一同が向けた視線の先に、彼の老人の姿は。
「……なあ、最後まで、ちゃんと見届けられたか?」
その姿は、既に亡く。
土塊の中に、輝きを失った小さな石が、一つだけ乗せられているだけだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ご参加、有難うございました。
GMコメント
GMの田辺です。
以下、シナリオ詳細。
●成功条件
・『モンスター』の討伐
●場所
ラサの遺跡群、FarbeReise中核に存在するクリスタルの迷宮。その一角にある広場です。
戦場は広く、天井までの高さも十分にあります。障害物等は存在しません。
時間帯に関わらず、この場所は周辺のクリスタルが発する光によって、常に一定の明るさを保たれています。
シナリオ開始時、『モンスター』は一か所に固まっており、PC達との距離は20mです。
●敵
『モンスター』
大精霊ファルベリヒトの狂気に侵され、遺跡から外界に出ようとしているモンスターたちです。数は合計7体。何れも頭部に黒い角を生やしております。
内訳は狼型のモンスターが1体、鳥型が2体、馬型が2体、熊型が2体です。
基本的なスペックと特殊能力等についてはOP本文参照。
攻撃方法は以下の通り。
・狼型:ハウリングによる遠距離範囲対象への状態異常、爪と牙を介した近距離単体攻撃。
・鳥型:爪による近距離攻撃と硬質化した羽根を飛ばす遠距離攻撃。何れも単体対象。
・馬型:蹄によるスタンピング、攻撃後の全力移動を伴うチャージ。何れも近接単体攻撃。
・熊型:自身を基点とした広域範囲対象への地鳴らし、また近接単体対象へ純粋な膂力による格闘攻撃。
●その他
『ホルスの子供達』
ファルベライズ遺跡群内に於いて、偶発的に目を覚ました個体。現在の外見は60~70代の痩せこけた老人男性。
儀仗による単体強化と範囲攻撃(小威力)、剣による近接攻撃を主体として戦います。よく言えば万能型、悪く言えば中途半端。
特殊能力として、「自身のHP上限を一定数消費することで、EXF判定を強制成功させる」というものがあります。シナリオ開始時点で既に相当数を行使しているため、仮に生存して戦闘を終えたとしても永くはありません。
基本的に他者の願いによってパーソナリティを構築する『ホルスの子供達』ですが、この個体は偶然生まれた存在であったためにその誕生に気づく者は無く、ただ一人存在意義を定められぬまま延々と遺跡内を放浪していました。
そんな中、偶然見つけた一人の老人の手紙を読むことで、その個体は「願い」を見定め、以降はそれを叶えるために行動します。
『扉』によって外界とを隔たれ、遺跡の外に飛び出すことのできなかった仇のモンスターを終ぞ見つけたのがここ数時間の出来事。
もう咲き直せない花たちに手向けを贈るか否かは、参加者の皆さんに委ねられています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、参加をお待ちしております。
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