シナリオ詳細
出:日本酒 求:日本酒に合う料理
オープニング
●料理店「虹の架け橋」
幻想王都。小さな料理店……「虹の架け橋」。
「うううーーーん、どうしましょう」
立派な日本酒の瓶を前にして、料理人ホープ・エヴィニエスは悩んでいた。
豊穣のイレギュラーズが、手土産として持ってきた酒。筆字で描かれたラベルは、ここらでは珍しい銘柄だ。
というわけで、何が合うのかを探るべく、店の厨房にはいくつもの試作品が並んでいた。少しずつ切り分けられたチーズや、様々な塩。魚の切り身など、いろいろな料理がある。
このお酒の味わいを活かす料理は……いや、お互いを高め合うような食材は何か。
今までに扱ったことのない物を前にするのは、料理人として喜びでもあり悩みでもある。
「こちらのお酒は樽の香りがしますね。だから……幻想の料理にも合うかもしれません! こっちのお酒は口当たりが良くて、フルーティーです。この組み合わせでも悪くはない……ですけど、うーん……」
もっと良いものがある気がする。
ホープはレシピノートに候補を書き込んで、ああでもないこうでもないと吟味を重ねていく。
「あれ? 営業中のはずなんだけどなあ。ホープさん?」
「? 開いてるみたいではあるんだけど」
ヒィロ=エヒト (p3p002503)と美咲・マクスウェル (p3p005192)が店を訪れている。
「! ヒィロさん、美咲さん!」
「いいにおい。また新しいレシピを研究してたんだね!」
「はい。料理の幅が広がれば、たくさんの人をお腹いっぱいにできますからね!」
「うんうん! ボクも、とっても素敵なことだと思うよ!」
「……なるほど。豊穣のお酒をもらったんだね」
「はい。でも、合うお料理が……いまいちピンとこなくて。そうだ。お二人は豊穣に行ったことありましたわね?」
「あったねー」
「そうだね。ヒィロが大活躍してたね」
「もう! 美咲さんったら! 美咲さんもすごかったんだよ……そういえば次の依頼って、豊穣だっけ」
「!」
ホープの頭にひらめきがよぎった。
「そう、そうですよ……! その土地のお酒なんですから、その土地のお料理に合うように作られているはずです! お二人ともっ! どうか、豊穣に連れて行ってください!」
ホープはがしっと二人の肩を掴んだ。
●というわけで……。
「きちゃいました、本場豊穣!」
目の前に広がる広い空。異国情緒あふれる空気。
豊穣南部の日ノ元郷は、穏やかな田舎の村である。名産品は、綺麗な清水によってつくられた米と、日本酒だ。
奇しくも、依頼の場所は日本酒の名産地だった。
ここでは町の匂いも随分と違う。ホープは興味津々に、船乗りの持っているおにぎりですらも目を輝かせて調査している。
「依頼の内容はなんだっけ、美咲さん」
「ええと、「化け狸が人をおどかしているから、追い払ってほしい」ってやつね。おどかすだけだから、それほど難しい依頼ではないはずよ」
「それじゃあ、それが終わったら存分に調査ができそうだね! っていうかボク、なんかちらちら見られてるっていうか、拝まれてない?」
「料理の材料のついでに聞いてきたんですけれど、このあたりには稲荷信仰があるらしいですね」
「ええ!? か、かみさまって……そんな柄じゃないけど。でも、人助けは頑張っちゃおうかなあ」
「そうね、とっとと片付けて、お酒とのマリアージュを探しましょ」
●ギルドの掲示板
筆字で以下の依頼が貼ってある。
「化け狸討伐。倒しても良いが、追い払ってくれれば可。難易度:易」
その下に、張り紙が踊っていた。
「求む! 日本酒と合う料理!
料理が得意なあなたも、アイディアがあるあなたも、
ぜひとも一緒に豊穣で、日本酒とマリアージュする食材をさがしましょう!」
- 出:日本酒 求:日本酒に合う料理完了
- GM名布川
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年02月19日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●豊穣にて集合!
……今日ほど、本業に集中するために力を使う日はないかもしれない。
『あの虹を見よ』美咲・マクスウェル(p3p005192)はふうっと息を吐く。
「けど、きちんと済ませないとそれどころじゃないものね」
「そうだね、美咲さん」
『ハイパー特攻隊長!』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は、美咲やホープと一緒のお出かけがとても嬉しくて仕方がない。
「あ、ホープちゃん。
さっき熱心に調べてたおにぎり、用意してもらえない?」
「はい! そう言うと思ってました。召し上がれ!」
「ホープちゃんはこのまま日ノ元郷で豊穣の食環境を見聞してもらうとして……そうね。猟師さんに案内を頼みましょうか」
「ぶはははッ! 『稀葵』と『七色一滴』の酒造地には一度行ってみたかったんだよな! どんな酒米つかってんのかねぇ!」
『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)豪快な笑い声を響かせて、もっちりとした腹を揺らす。
ゴリョウにとって、豊穣はある意味第二のホームと言っても過言ではないだろう。
「ほぉ~、虹の架け橋か! 良い名前じゃな、気に入った!」
『菜園の女神』アシリ レラ カムイ(p3p009091)はうんうんと頷いている。
「同じ料理人さんですね!」
百花調理用具を見て、ホープがぱっと顔を明るくする。
「おうよ! 今日は互いに切磋琢磨といこうじゃねぇか。ま、その前にちゃんと仕事はしとかねぇとな!」
「ゴリョウさん、こんにちはですわー」
『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が海からざっぱんと姿を現した。
「おおっ、オメェさん、泳いできたのか!」
「ゴリョウさんを見かけたので飛び込んできたのですわー」
ノリアのつるんとした尻尾が揺れる。
「わたしには、お酒は、わかりませんけれど……いとしのゴリョウさんも、作ってらっしゃるので、よいものだとは、知っていますの」
「ぶははッ! そりゃ照れるなあ!」
「ですから……わたしも、それに、ふさわしい食卓を、作るため、海産物を、たくさん、持ってきましたの」
「おお、それはなによりだ! 美味いもん食わしてやるから待ってろよぉ!」
「ふむふむ……。今回の面子は、料理が特異な者達が多いで御座るし……これは期待出来るで御座るな! あ、ちなみに拙者は調理全般は……出来ても、食材を「斬る」程度しかやれぬので御了承下され」
『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)は腰の愛刀……命響志陲をぽんぽんと叩く。
「狸退治のついでに、酒も呑めるのは良いで御座るな」
「まったく。日本酒が飲めるっていうだけでも良い話じゃというのに、益々気が乗って来たぞ!」
「和食は、いいですよね」
『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)に、『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)が頷いた。
「ああ。日本酒、日本酒はいいな」
「ちょっとしたお仕事をして、料理を楽しむというのも悪くないと思いまして。豊穣は故郷の雰囲気に近いので、故郷で作った料理など、材料がそろえば作ってみたいですね」
「ご飯も楽しみねぇ」
章姫が可愛らしく鬼灯を見上げて微笑んだ。
「そうだね、章殿。さあ、舞台の幕を上げようか」
「化け狸めの始末に最高の肴、どちらもまるっと任せておくが良い!」
●化かし化かされ、化け狸
「……あ、わかった、こっちだね!」
ヒィロは山道をすいすいと進んでいく。軽やかな動き地元の猟師も舌を巻くほどだ。
「ゴリョウさんのおいしいお料理を……いちばんおいしく、食べるには、
心配事が、なにもなくなるのが、いちばんですの」
ノリアは張り切って山道を歩く。
「おっ、この茸、食えるで御座るな……」
などと、食材を物色しつつ……。
しばらく歩いていると、狸の出現ポイントを見つける。小さな足跡だ。
「それにしても、とんだいたずら小僧のようですねえ、この化け狸さんは。人を脅かしてからかって……まあ、それが楽しいのでしょうけれど、脅かされる側の気持ちというものを勉強してくれたら、見方も変わるでしょうか」
瑠璃は村人の着物を借り、風景に溶け込んでいる。身のこなしはやはりただものではなく、山道を歩いていても余計な音はしない。
「化け狸なぁ、こっちの世界にもいるんじゃな。
頭に葉っぱが乗っておれば完璧だが、はてさて――」
アシリは小さな身体で葉っぱを持ち上げた。
「……食前の運動には丁度良いで御座ろう。流石に殺めるのは気が引けるが……まぁ、反省の色が見えれば、そこまでせずとも良いで御座ろうか?」
ヒィロの思考は、シビアにこれからのことの推移を予測する。
(狸は最低限追っ払う、できれば屈服させてボク達の食材集めや日ノ元郷への罪滅ぼしの貢献をさせたい)
狸が現れる気配よりも先に、鋭い神速の突きが森の中をないでいくのが合図だった。
幻介の繰り出す霹靂。
……裏咲々宮一刀流陸之型。雷のような轟音が鳴り響く。
驚いて飛び上がった狸は慌てて藪に逃げ込もうとした、が。
「見えてるよ!」
死角から飛び出してきたヒィロの瞳で、ガーディー・グリーンが燃える。溢れ出るオーラが、ほんのわずか。ただそれだけで死を予感させ、狸の毛並みは逆立った。
蒼き咆哮から、目を離すことはできない。
その間に、幻介は距離をとっていた。
放たれる一撃を、ヒィロはひらりとかわす。
(ううん、弱い。けど、やっぱり、ただの獣とは違う……かな?)
だったら、わからせてやればいい。
「そうね、……これで十分かも」
星夜ボンバーが炸裂した。
ヒィロの作った道筋から、美咲が素早く連携をとる。
「やったね、美咲さん!」
「さて」
舞台の上に、月が昇る。
鬼灯の黒衣の篭手が、魔糸『暦』をたぐり寄せた。
「ちょっと……可哀想かもしれないわ……」
(ああ、章殿が悲しんでいる…ッ! 許してくれ、これ仕事なんだ……)
鬼灯の攻撃もまた、あえての「警告」に過ぎず、タヌキを直撃することはない。
タヌキもまた自身を大きく膨らませ、大きな月に化けたのだが……。
「はあ……」
瑠璃はひとかけらも動揺しない。
「味が泥臭くたって、狸鍋を作れないわけではないのですよ?」
偽物の月から尻尾が出て、ぼふりと逆立つ。
(……まあ、こちらにその気はありませんが)
少々痛い目を見た方がのちのちのためになるだろう。相手が悪ければ本当に狸鍋になっていても文句は言えないのだ。
三度、逃げだそうとしたタヌキはふかふかした何かにぶつかった。
「ぶはははっ、逃がさねぇぞぉ!」
仁王立ちするゴリョウはがっちがちに防備を固めていた。
タヌキをむんずと捕まえる。ジタバタと暴れて逃げ出すタヌキを、幻介の虹光変幻自在の刃が追っていた。それもまた、致命のための一撃ではない。
スパスパと等間隔で切れる枝が、道を塞ぐ。
ようやく、タヌキは相手が悪いことを悟った。
なんとか逃げられる方法はないか……。
たぬきはきょろきょろと辺りを見回す。
「逃がしませんのー」
小さなアシリと、のんびりしてそうなノリアが目に入る。
「うむうむ。苦しゅうない」
そしてアシリは、巨大なフキの葉っぱの上に乗って、ことの推移を見守っていた。
「キイーーッ!」
どけ、とばかりに突っ込んできたタヌキ。だが、ノリアはシェイプシフトで大きく揺らいで威嚇する。
「たぬき汁になるか、村人たちをおどかすのをやめるか…選ぶといいですの!」
小さかったアシリの姿はぐんぐんと大きくなり、人と同じサイズにまでなっていた。
「ふっふっふ、舐めるなよタヌ吉!」
「どりゃ!」
ゴリョウが両腕で抱きかかえる。タヌキは観念してきゅうとなった。
●九死に一生
「さ、我らの為に、美味い山菜が獲れる場所へ案内せい!」
ぶるぶると震えていたタヌキは、アシリの言葉に首を傾げる。
どうやら、命までは奪われない……?
「鬼灯くん」
「ああ、そうだな」
心配そうな章姫に、鬼灯は頷いて見せた。
「この後飯を食うつもりだが共に来るか? もちろん貴殿には仕事をして貰うがな」
「!」
なんだ、チョロいじゃん、と思ったような緩んだ気配。
「ほう、そうですか」
「騙そうとしてもわかるからね」
美咲と瑠璃は、的確にタヌキの心を読んでいた。
「改心したふりなどは通用しませんからね?」
「わたしたちを、だまそうとしていますの? ううー」
ノリアの熱水噴出杖から放出されるお湯が、タヌキの横をかすめる。
うっかりたぬき汁気分。
「う、うう……自分よりも、大きな相手に、食べられそうになるおそろしさは、わたし自身が、いちばん、よく知ってますの……」
ノリアはぷるぷると震えている。
「わたしまで、塩ゆで気分になってまいますの……はやく、改心してくださいですの!」
「ぶはははっ、わざわざたぬき汁になることはないだろ? 食材探しに協力してくれるなら飯を食わせてやるぜ」
ゴリョウは笑う。飴と鞭で言う所の飴、だ。
「悪戯も程々にせぬと、そのうち狸鍋にして食われてしまうで御座るぞ?」
「約束破ったら……わかるよね?」
「ああ。次に同じ事をしたら……な?
わ か る な ?」
トントン、と刀で肩を叩きながら口角を上げる幻介。
ヒィロのちらりとよぎった炎に首がもげるほど頷くタヌキ。
「それじゃ、心から後悔してるなら、罪滅ぼししない?」
さっぱりと、ヒィロは話を持ちかける。
今後の安泰に繋がる、美味しいお話。
「きっと悪いことじゃないと思うけど」と前置きして。
「山菜とか獣の所在、詳しいでしょ。
もう一つは――村に帰ってから教えるね
ハイ、これ手付け」
「!」
奇妙におにぎりを見つめていたタヌキの目が、飯を頬張るとキラリと輝いた。
●食を求めて
説得されたタヌキは、ふんふんと地面を嗅ぎながらてこてこと歩く。何を探したらいいかと首を傾げた。
「そうですね。雪の下の山菜など、よかったら一緒に探して頂けないですか?
お礼はそれで作った料理で如何でしょう」
「!」
瑠璃の言葉に、タヌキの耳がぴんと張る。おにぎりのおいしさを思い出しているのだろう。
「鬼灯くん、このお花、可愛いね」
「嫁殿の方が……」
鬼灯は木々の根元に隠れた山菜をすいすいと摘んでいく。
「しかし山菜だけというのは味気ないな」
というわけで、川で釣りをしてみることにした。幸い、森の中は虫などの生き餌が豊富だ。頑丈な鉤縄は本来の用途とは違うだろうが、鬼灯の手にかかれば釣り具と変じる。
「どっせい」
遠くでは、ゴリョウの金銀蓮花の炯眼が獣を追い立てる。
「美咲さん、そっちに行ったみたい!」
「オーケー」
略紫。アメジストのような美しい紫の瞳。この煌めきを前に在る者は、等しく供物である。ひとにらみで鹿は倒れていく。
「すごいです!」
ホープは手早く血抜きを済ませていく。……食料は、なるべく無駄にはしない。その価値を何よりも分かっているから。
興味深そうに覗くタヌキに、美咲はよく見えるようにしてあげた。
「血抜きの丁寧さで臭みが変わるから」
あちらこちらを往復して、せっせと働くタヌキは食料を前にしてそわそわとし始めている。
「誰かに求められ、きちんと尊敬をもって食べられるというのは良いことよ」
アシリはうんうんと頷いている。
(村へ戻って飯を作ってもらい酒にもありつける訳だが)
鬼灯は、タヌキをしっかり目を合わせて上から見下ろす。
「いいか、狸
俺と章殿はコレでもやりすぎでは無いかと正直思ってはいる。
だが、俺らが甘すぎると言われれば仕方あるまいよ。
今後貴殿が改心せずに同じ事を続ければもう誰も許してくれなくなる」
「背中に薪を積まれて火をつけられても泥船に乗せられて沈められても狸汁にされる可能性もある。
……想像したか? そうだな、怖いな?」
ぶるりとふるえるタヌキ。
「だがな、逆に村人を案内したりお手伝いすれば貴殿は可愛がられこの様に飯までもらえるのだ。
よく覚えておくといい。」
そう言って、小さな魚を放った。
●本題:すなわち酒とつまみである
「あんれまあ、タヌキが歩いてるべ」
驚く村人たち。
「もう、悪さをしないとおやくそくしてくれましたのー」
ね、と杖をもって圧をかけると、タヌキはこくこくと頷いた。
「ごはんとと安全を提供してくれるなら、このタヌキも協力してくれるって。そうでしょ?」
「悪さしねぇなら、ええけども……できるのか?」
「まぁ、それはそれとして。
運動した後は、呑みたくなるのが性というもので御座る」
茸と山菜の籠を置いた幻介はすっかり呑み始めていた。
「ふむふむ……「稀葵」に「七色一滴」か
なかなか良い銘じゃのう、愉しみじゃな!」
小さな椅子に腰掛けるアシリ。
「あら、お人形さんみたいなのだわ!」
自分も専用のお茶会セットに腰掛けて、微笑む章姫。
「ゴリョウ殿、ツマミを頼むで御座るよー」
「はいよ! さぁ、何が食いたい?」
「拙者、天婦羅がいいで御座る、山菜の奴!」
「おう!
山菜系は苦味が程よく抜け、風味が増す天ぷらがお勧めだな!出来立ては特に美味いぞ!
塩、天つゆでサクッとってな! どっちの酒にも相性が良いぜ!」
「まず、獲れたての山菜じゃな」
アシリは大きくなり、調理道具を握る。
これを胡麻油で軽く和える……うむ、半分は塩昆布辺りと合わせてみようかの」
「いけるで御座る、いけるで御座るぞお~」
「それと――やはりこれじゃな! ほれ、土産の魚じゃ!」
食べ方はシンプルに刺身だ。手早く捌いて船盛にすれば、あっという間の活け作りになる。
「ん~! 他の者が用意する肴も、実に美味そうじゃ!
さぁさぁ、早う飲ませてくれ! 今夜は倒れるまで飲むぞ!!」
「付き合うで御座るよ~!」
「土産の海の魚と、おお、川魚もあるな。この時期ならオイカワら辺かな。よく釣れたな?」
「がんばりましたのー」
「鬼灯くんはとっても器用なの」
本人よりも誇らしげな嫁殿だった。
エプロンを着けて、はりきるノリア。
「稀葵は甘露煮や南蛮漬、七色一滴はキノコと合わせてバターのホイル焼きとかが合うぜ!」
「ええっと、分量がこうで……こうで……」
「油は跳ねるからなあ。塩もみをたのむぜ!」
「はい! がんばりますの!
わたしは、海の幸探しでは、陸のかたに負けるつもりは、ありませんけれど…それを、いちばん美味しくできるのは、わたしには、ゴリョウさんだけですの!」
「嬉しいこと言ってくれるなあ。よし。オマケだ!」
どん、と出てきたのは海藻の漬物だ。
「このカボチャの煮付けも美味いでござるなあー」
「ああ、それは私です。本職の方々には劣りますが、ちょっとしたものくらいは作れるんですよ? 私」
と、瑠璃。美味南瓜はほくほくと実が甘い。
「んんん、美味いで御座るよぉー」
「げほっ……」
ちびちびと甘口の酒を飲む瑠璃。辛口は、舐めてみたが咳き込んでしまった。
「んん……一仕事終えた後の一杯は至福で御座るなぁー
酒も料理も美味いし、来て良かったで御座る」
「……狸、お前も縮こまってないで此方に来るといい。
悪い事をしたなら、謝って許してもらって……仲直りで御座るよ」
おそるおそるやってくるタヌキに、小鉢を差し出す。
「したら、お前も食うといい……もう悪さをするんじゃあないで御座るぞ?」
「たくさん食べる客がいるってのは、料理人の本懐だ」
「ええ!」
「その場で作って作りたての肴と地酒を味わう、これ以上の贅沢があるか!」
美咲は下味を付けた鶏や獣を次々と串に通していく。斬るだけは幻介が手伝ってくれた。酔っ払っていたがさすがに軌道は恐ろしく正確だ。
ヒィロはしばらく作業する美咲の手元を眺めて、「よし、こうだね!」と頷いた。
「味噌や醤油ベースのタレと、塩の二種……お酒も合わせてね!」
そして、メインは七色一滴の熟成に使われた樽と同じ木材。
「これをチップにして、わあ、燻製にするんだね!」
「そう」
マリアージュ狙いなら、関連性を付けるのは鉄板。
同種木材の薫香なら、七色一滴に合わないわけがない!
「どう?」
「うん、美味しい! えへへ……美咲さんの手作りだと思うと、余計に美味しいよ」
「いいですね、お酒と合います……! さすがです!」
「このあたりの昆布の出汁なら、幻想でも使えそうだね」
「それは素敵ですね」
「……そうだ、例のおにぎり、まだある?」
「あ、わかりましたよ!」
ホープが意図を察し、網の上におにぎりをならべる。
「良い酒の産地だもの、お米自体も味わっておきましょ?」
「ほいひい!」
「おいしいです!」
「信賞必罰、ってやつだな」
『悪いことをしたら懲らしめられる』『良いことをすれば良いものがもらえる』。
ゴリョウは隣に座るタヌキを見下ろす。
今後、村人と良き関係性を築いてほしいところだ。タヌキは少し考えるように膨らんだ。
「ボクが緋色(ヒィロ)の狐だから、キミは『ミドリ』の狸でどう?」
タヌキはとりあえずミドリに変わってみる。
「ミドリ、か。良いと思うぜ」
「なああんた、これを記念して新しい酒の銘を考えてるんだがね……」
「『大膳』とかどうだ?
膳(たべもの)やるから善き大狸であれって感じだな」
こうして、酒飲みたちの夜更けは過ぎていき……。
化けタヌキは、他のタヌキと混じらぬようにひらりと緑色のスカーフをつけた名物タヌキ。地元で親しまれ、ついには日本酒『大膳』のラベルにそのしっぽが姿を現すこととなる。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
ミドリのタヌキは名物タヌキとして親しまれることとなるでしょう。
『大膳』に乾杯!
お疲れ様でした。
GMコメント
●目標
・化け狸を倒す(弱いです)
・日本酒と合う料理・食材を探る!
●敵
化け狸
……大きな鬼の姿に化けては人を脅かして遊んでいる化け狸です。
村人をからかって遊んでいるようで、それほど危険度は高くありません。脅かせばすぐ逃げていくでしょう。
●場所
豊穣南部、日ノ元郷
穏やかな気候と水に恵まれた田舎町。
酒蔵や、田畑などがある。
村人たちは気さくでよその人にも友好的。
化け狸を追い払えば感謝していろいろな食材をくれそうです。
また、低く安全な山があり、山菜をとったり、動物を狩ったりもできるでしょう。
もちろん普通に材料を買ってきて持ち込んだとしても大丈夫です。
●NPC
ホープ・エヴィニエス
幻想の小さな料理店「虹の架け橋」を営む料理人。
非常に勉強熱心で、新しい料理の研究には余念がない。
食材を非常に大事にしており、飢えている人を放っておけない。
料理に自信がない人は、頼んで料理してもらいましょう!
●銘酒情報
甘口の日本酒「稀葵(まれあおい)」
しぼりたての新酒です。さっぱりとして飲みやすいです。
辛口の日本酒「七色一滴」
樽で熟成された酒です。深い味わいがある一品です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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