シナリオ詳細
再現性東京2010:恋加瀬新聞社より、疑惑をこめて
オープニング
●希望ヶ浜の黄昏
練達の一区画、再現性東京2010希望ヶ浜地区。
現代日本を再現したこの町は、ある種盲目的に平和な日常を送る人々とそれを影から守り続ける人々でできている。
だから今日も日本列島を示した天気予報が流れ、現代日本からきたコメディアンが番組をまわし、日本式のアニメやドラマが放送されている。
まるで混沌世界なんてウソみたいに思えるような、しかしこちらがウソなのだと本当は知っていて目をそらしているような……。
「騙す側と騙される側というのは、ある意味契約みたいなものだ。
無意識に『騙されたい』と考える者と、その隙をついて騙す者。その共有した幻想こそが、最高の嘘になる」
テレビ画面を眺めながらワインのボトルをひらく『希望ヶ浜学園校長』無名偲・無意式(p3n000170)。
「なあにそれ、詐欺師のイイワケ?」
夕凪 恭介(p3p000803)は『飲むか?』と突き出された空のグラスに首を振って、隣のソファへと腰掛ける。
「とんでもない。高級感のあるシャンプーボトル。金のメッキ。若く見える化粧。ポジティブな企業広告。この世界は嘘で溢れているが、一方で社会は嘘を求めている」
「ふうん……」
恭介は興味ないわと言った様子で自分の爪に視線を落とした。
「で、アタシをこの部屋に呼んだのはなんのため? 個人面談やお給料の相談じゃないのよね?」
「そういう話なら俺はやらん。面倒だ」
「校長なのよね?」
「面倒でもやらねばならないことがある。例えばこれだ」
校長が懐から取り出した封筒を、恭介は横目でちらりと見てから受け取った。
「『オバケ退治』?」
「プラスで『厄介者への隠蔽』だ」
●平野鉱泉の怪
平野鉱泉という建物がある。
かつて男子高校生二名がこの場所で行方不明となった。直前までスマホで友人と連絡をとっていたらしく、最後にこの場所へ肝試しにきていた旨と写真が送られてきたきり、一切の連絡がとれなくなったということらしい。
「その事件自体は事実なんだけど、そのせいでおきた噂話がつもりにつもって……」
落書きだらけの廃墟の入り口。チームの先頭を歩いていた恭介はコンクリートむき出しのフロア内に湧き出た無数の人型実体を指さした。
どれも半透明にかすんでいて、手には金槌やのこぎりといったいい加減な工具が握られている。
うつむいた顔を揚げれば、両目は潰れて赤黒い血を止めどなく流していた。
そんな『幽霊』とでもいうような怪物――つまりは夜妖たちが、恭介めがけて襲いかかる。
恭介はゆっくりと首を振り、眼鏡のブリッジにゆびをかけた。
空いた手をかざし、キュパッと指を鳴らす。
と、部屋のあちこちに張り巡らせていた糸ごしに魔術がはしり、幽霊たちを電撃が切り裂いていく。
「こんな具合に夜妖として実体化してるわけ。
肝試し感覚で入り込む人もいるだろうから、そう言う人達が襲われないようにここに実体化してる夜妖幽霊たちをぜんぶ殲滅しちゃおうっていうお仕事よ」
と、そこまで言ってから恭介ははたと顔を上向けた。
「そうだった、忘れてたわ。多分この後、フリーの記者がここを取材しに来る筈なの。
『恋加瀬新聞社』の加瀬ってヒトね。どうやら掃除屋や私たち始末屋のことをうすうす感づいて、それを記事にしようと試みてるみたい。
万一何か書かれてももみ消せるけど、そういうのはそもそも書かれない方が安全よね。
だから、アタシ私たちでできる限り『ごまかして』くれって頼まれてるわ」
●虚実のヴェール
手には写真。平野鉱泉という廃墟を遠くから撮影したものだ。
「この場所で何かが起こったのは確かだ。でもって、それを誰かが隠蔽してる」
デジタルカメラとICレコーダーを両手にそれぞれ取り出して、眼鏡の男はにんまりと笑った。
「もし事件を隠蔽した奴らを特定できたら……こいつは特ダネになるぞ」
彼の名は加瀬敬二郎。『恋加瀬新聞社』を名乗る、唯一の記者である。
- 再現性東京2010:恋加瀬新聞社より、疑惑をこめて完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月18日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
希望ヶ浜の制服に、猫耳のついたフードパーカーを羽織る。
『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)は冷たい風をよけるように、フードのさきっちょを摘まんで引いた。
「なんだか、本当におばけの出そうなビルよね」
ディチェットの視線の先には一軒の廃ビル。平野鉱泉とかかれた看板はさび付き、随分と昔に人の手を離れたことがうかがえる。
更に言えば回りは木と土と雑草ばかり。
おばけでなくとも何かしらは出そうな、不気味なロケーションである。
「マジにユーレーならともかく? 夜妖ってゆーモンスターなんでしょ? 蹴れば殺せるなら怖くないって」
赤いスニーカーでつま先をとんとんとやって、『新たな可能性』郷田 京(p3p009529)はポニーテールを左右にゆらした。
スタイルのメリハリが強いせいか、それだけでシルエットが大きく動くように見える。
「はいどーもー! 今日は幽霊退治に来ましたにゃっ!」
ゴテッとした猫耳ケースをつけたスマホをかざし、自撮りフォームで横ピースする『ニャー!』秋野 雪見(p3p008507)。
丁度ディチェットを京と挟むように立ったせいか、三人ともが映り込んだ。
何を? という顔でチラ見する二人に、自撮り姿勢のまま手を振る雪見。
「ダイジョブダイジョブ、配信とかしないから。日記? 的な?」
「それはいいんだけど……ユーレーじゃないんでしょ?」
「気持ちはタイセツにゃ。この後記者のおじさんが来たらそう言い訳するんだし?」
「あー、ね」
でしょでしょ、といって雪見は猫耳をぴこらせた。
今回の依頼内容は廃墟ビルに発生した夜妖の退治である。
そこへオマケとしてついてきているのが、本件を嗅ぎつけたフリー記者へのゴマカシである。
「夜妖退治ってだけなら単純なんだけどねぇ……」
『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)はやれやれだわ、といった様子で首をこきりと鳴らした。
「活動的な人はどこにでもいてしかるべきだけれど、こういう時は困りものよね」
「隠匿するのは総じて面倒なものだが……隠蔽するよりはずっと労力がマシだ。校長も、妥当な判断と言ったところだろうな」
体育教師めいた赤ジャージ姿で腕を組む『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)。腕組みをしながら脚や腰の柔軟体操をしているようで、膝を折ること無くぐにゃんと胸を自分の膝にくっつけていた。
長い睫でまばたきをして、ちらりと横を見る。
「というわけで、私たちは自分の仕事を全うしよう」
(チッ、めんどくせぇ……)
目をそらして舌打ちする『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)。
「マスコミに夜妖が知られりゃ大事なんだろ? いや、厳密にはこの町の住人にか……」
再現性東京希望ヶ浜地区。
ここは他の再現性東京エリアよりも際だって徹底された『現代日本のレプリカ』である。
天気予報は日本列島で表示し、混沌のファンタジーなあれこれを完全に『どっか遠くで起きたこと』として日常の殻にこもらせる。
夜妖というモンスターはそんな環境だからこそ発生するひずみでもあるが、これを認識させぬまま消し去ってしまうというのが希望ヶ浜学園とその特待生たちの使命なのだ。
『日常』というものは、ほんの些細な衝撃で崩れ去ってしまうものだ。そして修復にはひどく長い時間がかかる。
だから……。
『旭山右京』と書かれた名刺を青空にかざす『お裁縫マジック』夕凪 恭介(p3p000803)。
偽名を名乗って『恋加瀬新聞社』加瀬敬二郎に接触し足止めすることで廃ビルへの到着を遅らせる……ために、用意したアイテムだ。
はじめこの計画を校長に話した時は『なんでそこまでする?』という目をしていたが、名刺を用意してくれる教師をすぐに紹介してくれた。発注から5分とかからずインクジェットプリンターからがこがこ出てきたので、そう難しい話でもないらしい。
恭介は日頃から鍛えている仕立屋テクで爽やか系ハンサムのコーディネートに身を包み、髪型や眼鏡もその辺の大学生っぽく仕立て上げた。
わざとチェックのシャツを着て没個性的にしておくのも忘れない。
「あー、あー……僕は旭山右京です。希望ヶ浜大学の学生です。趣味はフォトグラフです……っと。こんな感じでいいかしら」
「キョーちゃん口調戻ってる戻ってる」
「あらやだ」
オホンと咳払いする恭介に、『お手本みせるね』といって『祝福を授けし者』金枝 繁茂(p3p008917)がとてもガーリーなポーズをとった。ファッションもだいぶガーリーである。
恭介とは逆(?)にがっつり女装した形になった。
「ハンモだよ☆ 美人大学生です♪」
「なあにその声、どっから出たの? 誰にボイス発注したの?」
「ぼいす……?」
「可愛い服ならたんとある、さあさこれ着て笑ってちょうだい」
「なんで今その台詞……?」
急にタイムリーなことをいう恭介はさておき。繁茂は改めてきびすを返し、ビッと――駅の改札口を指さした。
バス停とそう代わらないような、最低限のホームしかない無人駅。
駅名には『薮波駅』とあった。
「まずはその加瀬さんって人を見つけよう! 見つからなかったりすれ違っちゃったりしたらこれ、タイヘンだからね!」
●
「よっしゃー、片っ端からかかってきなさい、いーやむしろアタシから行くけどね!」
ほぼ用をなしていないスチールドアを蹴り飛ばし、京は形の良い眉をあげた。
まるで人を襲う以外に用途がないとでもいうようにぼうっと突っ立っていた夜妖幽霊たちはその様子に反応し、一斉に振り返った。
うっすらと透けた、誰とも分からない標準的な人間のフォルム。眼もとは闇のように黒く沈み、『あ゛ぁ』とそれらしい声を出して両手を振り上げる。
現代的なゾンビパニック映画と混同したようなフォルムだが、京にとっては『どっちもどっち』であった。
要するに。
「蹴って壊せば皆同じ、っと!」
ずかずか近づき、喧嘩キックで壁まで吹っ飛ばす。
ブレンダは『確かに』と頷くと、掴みかかろうとふらふわ寄ってきた幽霊の額を鷲掴み(アイアンクロウ)にした。
そして剣をとろう……とした手を、ぶらんと脱力させる。
「どれだけいるかわからんからな。できるだけ最初は抑えておくとしよう」
鼻から抜けるようにため息をひとつ。
掴んだ手に力を込め、幽霊の頭部をぐしゃりとやった。
いきなりヤクザの抗争よりどうかしちゃってる光景が広がったせいかディチェットはちょっとだけ困惑していたが……。まあ、よし。
楽器ケースからアサルトライフルを取り出すと、セーフティーを解除して冷静に引き金をひいた。
それこそ楽器でも奏でるかのように正確に、バースト射撃を幽霊の腹、胸、頭にそれぞれ打ち込んでいく。
入り口脇に立って一通り打ち終えるとマガジンを落とし、腰のポーチから取り出したマガジンをグリップ後方へと腕を交差させるようなフォームで素早く差し込んだ。
「『蹴って壊せば皆同じ』、ね」
言い得て妙だわ、とつぶやきながら上半身をブレさせることなくすいすいと歩き始めるディチェット。
雪見はそんな彼女たちにワンフロアの制圧を任せ、代わりに二階フロアへつづく階段を駆け上がる。
といっても、上階で敵が待ち構えているのは必至。
頭を出したところをすぐさま捕まえようと階段脇に身をかがめていた幽霊――の視界が急にぐるんと反転した。
雪見が階段下から振り子をつけたワイヤーを飛ばし、手すり越しに相手の首に引っかけてねじり落としたためである。ねじり落とすというかほぼ切り落としているが。
ついでにワイヤーを掴んで壁を駆け上がり、手すりをムーンサルトジャンプで飛び越えつつ――待ち構えていた他の幽霊たちの背後へと着地した。
Y字のポーズ。
ぴこる猫耳。
「突撃となりの――なんだったかにゃ?」
袖の下から手品のように取り出した何本ものシャープペンシルを一斉投擲。
その悉くが幽霊たちにつきささっていく。
「あんまし雑魚に気を使ってらんねぇ、潰す!」
その隙を突くかのように、アランは階段を駆け上がり『紅き残光/蒼き月光』で幽霊たちを切り裂いていった。
かろうじて攻撃を逃れた幽霊がアランへ掴みかかろうとするが、アランは残像を作るほどの動きで幽霊の手をかわし、指から手首から肘から肩から輪切りにしていくと、剣を振り抜いてぴたりと止めた。
一拍遅れて幽霊がバラバラになって崩れ落ちていく。
こうして逆に不意を打たれる形になった二階フロアの幽霊たちへ、ゆっくりと階段を上ってきたヴァイスが指を向ける。
きらりと光った指輪に反応したかのように、彼女から発生したイバラが素早く幽霊たちへと絡みつく。更に空気を掴むように手を動かすと、周囲の空気が激しく乱れて暴風と衝撃によって幽霊たちを壁際へと叩きつけていく。
「私はあんまり『省エネ』って柄じゃないの。だから、もう大人しく寝ていなさいな」
●
二階フロアまでの制圧を終えた段階で、アランとヴァイスたちは改めて窓から外の様子を確認してみた。
スッと取り出したaPhonには、恭介たちが例の記者を駅前で捕まえた旨が絵文字暗号で書かれていた。
どうやらもうしばらくはこのビルに近づかないらしい。
「これなら、派手に音を立てても問題ないな」
「二人がかりで足止めしてた甲斐はあったってことかしら。こっちは戦う人数が少ないわけだし……彼女? 彼? らの分も頑張りましょう」
こくんと頷きあい、三階への階段をのぼる。
が、階段を上った先には鉄の両扉が阻んでいた。
鎖が何重にもかけられ、大きな南京錠が六つほどとめられている。
アランとヴァイスは一度顔を見合わせてから、剣と手をそれぞれかざした。
幾度かの衝撃の後、内向きにひしゃげて倒れる扉。
三階フロアへ入ってみると、そこはコンクリートむき出しの壁と床。フレームすらはまっていない窓。
廃墟というわりにはやけにこぎれいな、そして何の仕切りも小物もない、ただただ広いだけのフロアがあった。
その中央。あぐらをかいて座り、目を瞑るスキンヘッドの男がひとり。
否、男の姿をした夜妖というべきだろう。下はジーパンに素足。上半身はタンクトップ一枚という幽霊にしたってもう少し気を遣うべき格好をしていたが……。
「――」
イレギュラーズは(特にアランは)歴戦のカンからこの夜妖のヤバさを察知し、固く身構えた。
「あっはっは、着いたぜ最上階!」
そんな中でも豪快に飛び込んでいく京。
跳躍からのローリングソバットが男の頭を刈り取る――かに思われたが、男はカッと目を開いたと同時に京の脚を掴んで反対側へとぶん投げた。
「うおっと!?」
空中で身をひねってから無理矢理着地する京。追撃を警戒して更に距離をとろう――とした矢先、真後ろに男が立っていた。
瞬間移動でもしたかのように。
がしりと首が掴まれる。
アランとヴァイスは全く同時に動き出した。
「避けれるなら避けてみろ、幽霊風情が!」
アランの繰り出す『アクセル・ジャベリンEX』が男へと打ち込まれ、別角度から打ち込んだヴァイスの『白い代に城の跡』がイバラとなって男へと絡みついていく。
その双方を受けた男が、その衝撃で壁際まで追い詰められる。
(どなたが相手でも嘘を吐かなくてはいけないのは少し心苦しいかしら……。
気持ちがばれないように早めに退散してしまいたいわ!)
が、そこで安堵はしない。京の後ろに回ったときのように瞬間移動することを警戒し、ディチェットは腰の後ろからハンドガンを抜いて構えた。特殊な麻酔弾が仕込まれた水平二連式の銃である。
予想通りというべきかアランの背後に回り込んだ幽霊に二発銃撃。
逆不意打ちの形で動きを止められた幽霊に対して、ブレンダと雪見が急速に接近。
ブレンダの『フランマ・デクステラ&ウェントゥス・シニストラ』の焔嵐二刀流と雪見のダブルコンバットナイフが交差し、幽霊の首や腕を切り落としていった。
「壁ごとぶち抜ければもう少し楽なんだが……今回はそうも言ってられんな」
「ともかく、倒せたから万事オッケーにゃ」
●
やっほーおじさん!
ハンモとうーちゃんだよ!
実はハンモ、片思中でうーちゃんに相談してたけど
告白しようと思って度胸付けにホラスポ探検するんだ!
折角だし一緒にいこーよっ!
えっ?お仕事で来てるの?
おじさんは何のお仕事してるの~?新聞社さんなんだね!すごーい!!
どんな記事とか載せてるの?えっ!ホラスポの紹介記事を書いてるの!?肝座りすぎ笑
ちゃんとお祓いとかしとかないといつか罰が当たっちゃうよ~?
ねねっ、ちなみにこれまでで一番ヤバかった所とかあったの?
あっそういえばおじさんの名前なになに~? ハンモ、気になる~☆
という旨の絡み方で、繁茂と恭介は無人駅へ降りてきたばかりの加瀬敬二郎を確保し、しばらくの間その場に留まらせることにした。
というのも、普通にこのまま徒歩でビルまで向かえば仲間達が一通り終えるか終えないかといったところでビルに侵入していくことになるだろうからだ。
戦闘にかかわる物音をゼロにするってわけにはもちろんいかないので、ゴマカシもキツくなるだろうと考えたのだった。
加瀬も加瀬で他人をあまり信用していないタイプらしく。フレンドリーにからむ繁茂や恭介に対して一歩引いたところで接していたのと、彼としては別に急ぐ必要性がないことから、恭介たちが興味をひくような話をして時間を稼げばよい、という具合に落ち着いたのである。
なぜこんなことをしているのかと尋ねてみれば……。
「ここは混沌だぜ。平和ぼけした21世紀の日本じゃねえんだ。バケモンもいれば魔種もいる。希望ヶ浜の連中は無視してるがな、『ここだけ特別安全』なんてことはないんだよ」
「へえ……」
恭介はそのはなしを聞いて目を僅かに細めた。
加瀬は一般人ではなさそうだ。夜妖の存在を薄々感づいているのみならず、それを隠蔽する組織にも感づいているアンダーグラウンドの人間らしいことがわかってくる。
そして『大人がいれば安心だから』と廃ビルへついていこうとした恭介と繁茂を、『いざとなれば盾にできるかな』という目で見ていることも、わかった。
振動したスマホをそっとのぞき見ると、戦闘が終了した旨が絵文字暗号で表記されている。
恭介は笑顔を作り、繁茂の袖をひいて半歩下がった。
「やっぱり怖くなってきました。ハンモさん、帰りましょう」
「えっ? ……うん、そうだね! またね、敬ちゃん!!」
やや無理矢理に分かれ、やってきた電車へと乗り込む。
振り返り窓ごしに見やると、加瀬は煙草を取り出してこちらを見ていた。
「加瀬さん?」
声には出さないが、口の動きで分かった。
『つぎはだまされてやらない』
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――依頼達成
GMコメント
■オーダー
・成功条件:廃墟に発生した夜妖の殲滅
・オプション:加瀬敬二郎へ夜妖やローレットの存在をごまかす
オプション要素は達成できてもできなくても構いません。
できたらいいな程度の達成目標です。
加瀬敬二郎が結果として夜妖や、それを倒すローレットの始末屋たちや、ましてや希望ヶ浜学園の秘密が露見しなければヨシとします。
自力で秘密の存在に勘付けるくらいなので、あまり強引な手は使わないほうがいいかなあという印象です。ただの印象です。
もっというと、どういう風にごまかすかはちゃんと話し合ってすりあわせておいたほうがグッドです。あとでつじつまが合わなくなるとたぶん困るからです。
■フィールドデータ
平野鉱泉という建物の廃墟です。元々は三階建ての温泉施設で、サウナやマッサージなどまあまあいろんなサービスが入っていたようですが、もろとも潰れて廃墟になっています。
誰かが入り込んで『〇〇参上』みたいなスプレー落書きをしまくったり金属類があらかた剥がされてたりあちこち劣化してたりしますが、一般的なふるーい廃墟ビルだと思って間違ありません。
周辺はほぼ森に囲まれており、車でしばらーく荒れた道を進んでやっとつくゆうな場所にぽつんとあります。なんでこんな場所に温泉作ったんだ立地悪すぎるだろ、とは皆言ってます。
ちなみに行方不明事件があったというのは本当のことだそうです。
■エネミーデータ
・夜妖幽霊
噂話や不安や恐怖といった諸々が形になって実体化した夜妖たちです。
勘違いしがちですが、本物の幽霊ではないので霊魂疎通や死霊特攻の対象になりません。もっというと前世とか元になった人間とかはいません。
ものすごくそれっぽい形と振る舞いをするだけの怪物たちです。
幽霊は1~3階へと階を上がるごとに強くなっていくので、序盤は通常攻撃や消費の少ないスキルなんかでぼこぼこ倒して終盤に温存したAPを大盤振る舞いして強い幽霊たちを倒すといった使い分けがあるとグッドです。
■『恋加瀬新聞社』加瀬敬二郎
新聞社を名乗り名刺ももっていますが、社屋も部下もないひとりきりのフリーライターです。
ちなみに新聞社のなまえは『こいかせ』と読みます。
いくつかの雑誌社とつながりがあり、ホラースポットの紹介記事なんかをよく書いています。
勘が鋭くて、掃除屋たちが隠蔽している夜妖のこともうっすら感づいているようです。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●再現性東京2010街『希望ヶ浜』
練達には、再現性東京(アデプト・トーキョー)と呼ばれる地区がある。
主に地球、日本地域出身の旅人や、彼らに興味を抱く者たちが作り上げた、練達内に存在する、日本の都市、『東京』を模した特殊地区。
ここは『希望ヶ浜』。東京西部の小さな都市を模した地域だ。
希望ヶ浜の人々は世界の在り方を受け入れていない。目を瞑り耳を塞ぎ、かつての世界を再現したつもりで生きている。
練達はここに国内を脅かすモンスター(悪性怪異と呼ばれています)を討伐するための人材を育成する機関『希望ヶ浜学園』を設立した。
そこでローレットのイレギュラーズが、モンスター退治の専門家として招かれたのである。
それも『学園の生徒や職員』という形で……。
●希望ヶ浜学園
再現性東京2010街『希望ヶ浜』に設立された学校。
夜妖<ヨル>と呼ばれる存在と戦う学生を育成するマンモス校。
幼稚舎から大学まで一貫した教育を行っており、希望ヶ浜地区では『由緒正しき学園』という認識をされいる裏側では怪異と戦う者達の育成を行っている。
ローレットのイレギュラーズの皆さんは入学、編入、講師として参入することができます。
入学/編入学年や講師としての受け持ち科目はご自分で決定していただくことが出来ます。
ライトな学園伝奇をお楽しみいただけます。
●夜妖<ヨル>
都市伝説やモンスターの総称。
科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
関わりたくないものです。
完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)
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