PandoraPartyProject

シナリオ詳細

流氷の天使。或いは、金鮫・ティブロンの偉大なる出航…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●寒い夜。ある港。
 鉄帝。
 ヴィーザル地方のとある港にソレはいた。
 全長およそ20メートルの巨体。
 白い肌をした、巨人のごときその容貌。
 体毛の無い身体。頭部には白濁した眼球が2つと、びっしりと牙の並んだ大きな口腔。
 長い腕で船着き場の端を掴んでいることからも分かる通り、その上半身は人に酷似にしていた。
 けれど、その下半身は海の中。
 なぜならその白い巨人に脚はないのだ。
 揺れる海面から見える、その下半身は鯨やイルカのそれに似ている。
 半人半漁の怪物……名を“ヒトガタ”という。
 元は北の海に生息していたという、正体不明の怪生物だが……。
「……港に怪物が現れたと聞いて来てみれば」
 そう呟いた彼女の名はエッダ・フロールリジ(p3p006270)。
 錬鉄徹甲拳なる技を振るい戦場を渡り歩く鉄帝の騎士(メイド)である。
「一体、ここで何をしているでありますか」
 なんて、僅かに苛立ちの滲んだ声音でエッダは問うた。
 その声に反応したのか、ヒトガタは白濁した虚ろな瞳でエッダを見下ろし……。
『ぉぉ……ドォォ、モ” ドォォモ”』
 と、唸るようにそう告げて、ゆっくり首を垂れたのだった。
「……微妙に言葉を覚えているでありますな」

 ところ変わって、港の酒場。
 その片隅でラム酒のボトルを煽っているのは1人の女であった。
 金の髪に褐色の肌。
 上半身にはビキニ水着を着ただけというその姿からは健康的な色気を醸す。
 下半身にはパレオの代わりに海賊旗を撒いていた。
 彼女の名は“金鮫”ティブロン。
 世界中の海を股にかける女海賊である。
「うむ。酒が美味いな、アーロ」
「しゃぁ」
 酒に酔った赤い顔で、ティブロンは盛大に笑ってみせた。
 その視線の先には、ティブロンの体面に座る1匹の鮫がいる。
 その鮫の名はアーロ。ティブロンの相棒であり、ティブロン海賊団の数少ない団員でもある。
 人と鮫という異様な組み合わせを見て、他の客たちは何を思ったのだろう。
 1人と1匹に声をかける者はなかった。
 ただ、1人を除いて……。
「……やっと、見つけたでありますよ」
 ティブロンの手からラム酒のボトルを奪い取り、そう告げたのはエッダであった。
 
●ティブロンの出航
「やっと、見つけたでありますよ」
 そう告げて、エッダはラム酒の残りを一気に飲み干した。
 空のボトルを荒い手つきでテーブルに置き、じっとりとした目をティブロンに向ける。
「お? おぉ“鋼の拳”エッダじゃないか。何だ、一緒に航海に出たいのか?」
「そうではなくっ!」
 エッダが港を訪れたのは偶然だ。
 偶然、港を訪れ、そして港に現れた怪生物の噂を小耳にはさんだのである。
 その怪生物の特徴は、エッダの知るものだった。
 何しろ、ヒトガタの捕獲を行ったのはエッダたちなのだから。

 捕獲したヒトガタに船を牽かせると、ティブロンはそう言っていたはずだ。
 それがどうして、まだ鉄帝の地に居るのか。
 ヒトガタなどという異形の怪物を港に放置し、ティブロンは酒など楽しんでいるのか。
「港の皆様が迷惑しているであります。早々に出航するですよ」
「お、落ち着いてくれエッダ。分かりづらいが、さては怒っているだろう?」
「お分かりいただけているようで、何よりであります」
「まぁ、こう見えて感情の機微には敏感な方なのだ」
「……皮肉でありますよ」
 エッダはティブロンが苦手だった。
 生来生真面目な彼女にとって、ナチュラルボーンに破天荒なティブロンの性格は相性が悪い。
 早い話が、微妙に会話が噛み合わないのだ。
「とにかく、早々に出航するであります」
「分かった分かった。すぐに船を出すとも……と、言いたいところだが流氷が邪魔でな」
 困ったものだ、とティブロンは金の髪をかき上げ笑った。
 なるほど確かに、近海を埋め尽くした大量の流氷は先ほどエッダも確認している。
 それが邪魔で、他の船が出航出来ないという話も耳にしている。
「確か、流氷と一緒に流れ着いた魔物が邪魔で撤去作業も進んでいないと言っていたでありますな」
 と、そこでエッダは閃いた。
「で、あれば。出航のついでに流氷や魔物を片付ければいいであります」
「……え? いや、しかし、ヒーチョや船が傷つくのは」
「自分たちも手伝うであります。いいから、ほら!!」
 行くでありますよ! 
 なんて言って、エッダはティブロンの腕を掴んで立ち上がらせる。
 そのまま彼女を引き摺るように、港へ向けて歩いて行った。
 
「さて……目的は流氷の除去と魔物の討伐であります」
 キャラベル船の甲板で、海を指さしエッダは告げた。
 つぎはぎだらけのオンボロ船。
 たった1門のみの大砲。
 ティブロンの持つ怪賊船“グレート・オーシャン・ティブロン号”は、波に揺られて大きく揺れた。
 その船首にはヒトガタ……ヒーチョが繋がれている。
 3本あるマストのうち、1本が破損しているこの船は、しかしヒトガタが牽くことにより並みの船より速い速度で航行できる。
「流氷は砕くなりすれば良いとして……問題は魔物の方でありますね」
 海面を一瞥し、エッダは告げた。
 視線の先には大きな流氷。よくよく見れば、その真下でうすぼんやりと赤く発光している生き物がいた。
 それは体長1メートルほどのクリオネだ。
 そのサイズからも分かるように、もちろんただのクリオネではない。
「確か【失血】【氷結】を伴う怪光線を撃ってくるという話だったか?」
「ご存じなら話が早いでありますな。冷たい海の生き物ゆえ、流氷が片付けばどこかへ逃げていくでしょうが……さて、数はおよそ80ほどですかね?」
「多いな。アタシやアーロ、ヒーチョにエッダだけでは手数が足りないのではないか?」
「だったら協力者を募ればいいだけでありますな」
 クリオネ退治と行くであります。
 なんて、言って。
 鉄の籠手に包まれた両の拳を打ち付け鳴らす。
 静かな海に、鋼のぶつかる音が響いた。

GMコメント

こちらの依頼は「北海の怪物“ヒトガタ”。或いは、金鮫・ティブロンと氷の海…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4798

●ミッション
流氷及びクリオネの排除

●ターゲット
・クリオネ(魔物)×70~80
流氷の下に潜んだクリオネの魔物。
体長は1メートルほど。
心臓部がぼんやりと赤く発光している。
潜水、浮上を繰り返しながら、動く物を襲う習性を持つ。
冷たい海に住む生き物であるため、流氷が減ればどこかへ逃げていくだろう。

怪光線:神中貫に小ダメージ、失血、氷結
 心臓部より放つ怪光線。この光線により氷が割れることはないようだ。

●チームメイト
・ティブロン(ディープシー)×1
長身の女性。鮫のディープシー。
褐色の肌に、ウルフカットの金の髪。
水着の上からキャプテンハットやキャプテンコートを纏っている。
武器は騎士が持つような巨大なランス。
生まれつき泳ぐのが苦手なため、相棒の鮫“アーロ”に騎乗し水中を駆ける。

ティブロン・ラ・ランザ:物中貫に大ダメージ、ショック
 アーロの推進力とランスの破壊力、ティブロンの実行力を1つにした突撃。


・オンボロキャラベル船×1
ティブロンの所有するキャラベル船。
3本あるマストのうち1本は折れて使用不能。
大砲は船首に1門のみ設置。
船首に繋がれたヒトガタ(ヒーチョ)が牽くことで航海する。

●フィールド
夜の海。
キャラベル船の甲板上。
および、流氷上が主な船上となるだろう。
流氷を砕き、溶かすことが目的となるため、徐々に足場は減っていく。
流氷上は滑りやすい。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 流氷の天使。或いは、金鮫・ティブロンの偉大なる出航…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月08日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
人外誘う香り
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ルチア・アフラニア(p3p006865)
「Concordia」船長
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
猪突!邁進!
キャナル・リルガール(p3p008601)
EAMD職員
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
英雄的振る舞い
月白 雪音(p3p009530)
月輪華

リプレイ

●氷海への出航
 波を掻き分け進む帆船。
 それを牽くのは真白い肌に、虚ろな瞳。人のそれに似た上半身に、魚の下半身を持つ全長20メートルはあろうかという怪物だった。
 怪物の名はヒーチョ。正しくはヒトガタという正体不明の海獣である。
「目の前の流氷を押し出すでありますよ。そう、海流に乗せて、流してしまうであります」
 海面に覗くヒーチョの頭上に腰かけて『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が指示を出す。
 エッダの指示に従い、ヒーチョはその巨大な腕で目の前に浮く氷を押した。
「よーしよし。お前主人より賢いのではないでありますか?」
『ドォォ、モ” ドォォモ”。カシ“コ”イ“』
「エッダよ。流石にアタシの方が賢いぞ? いや、ヒーチョが利口なのは確かだがな」
 腰に手をあて、不満げに鼻を鳴らすのはヒーチョの主である海賊“金鮫”ティブロンであった。褐色の肌に金の髪。水着にキャプテンコートといった風変わりな恰好をしているが、立派に1船の船長を務める猛者である。
 もっとも、船員は彼女を含めてたった3人……否、1人と2匹である。
「ティブロン、しばらくみないうちに随分と立派になったわね……驚いたわ」
 甲板に座った『ティブロン海賊団“大海原の探知者”』ルチア・アフラニア(p3p006865)は、鮫を撫でつつそう呟く。鮫の名はアーロ。ティブロンの相棒である。
「巨躯なる異形なれど、言葉を解し礼を尽くす意思も有するとあらば徒に恐れる必要も少ないとは存じますが……」
『月輪華』月白 雪音(p3p009530)は、白い髪を掻きあげながらそう言った。雪音の視線の向く先にはヒーチョ。
 ヒーチョの異形に恐れを成した港の住人たちから知らせを受けたことこそが、今回の依頼の発端であった。
「今回は流氷撤去の依頼じゃのう。クリオネは数多いから厄介じゃな」
「流氷片すだけだったらラクだったんスけどねー。けどまぁグダグダいっててもしゃーないんで、パパパっとどかしちまいましょうねー」
 流氷の位置や潮の流れを観察しつつ『英雄的振る舞い』オウェード=ランドマスター(p3p009184)と『EAMD職員』キャナル・リルガール(p3p008601)が言葉を交わす。
 ティブロンが長く港に留まっていたのは、海上に浮く流氷と、その下に潜むクリオネの魔物が邪魔だったからだ。
 つまり、それさえ何とかしてしまえばティブロンは出航できるということで……港で騒ぎを起こされる前に、とエッダの音頭によりこの度、流氷の排除及び出航と相成った。
「うむ。もたもたしていても仕方あるまい。ティブロン海賊団、出撃である!!」
 声を張り上げ、ティブロンが叫ぶ。
 威風堂々。
 号令を下すその姿は、なるほどたしかに正しく一船の長の在り様なのだろう。
「……いつから俺は海賊団の一味になったんだ? いや、今更言っても仕方あるまい。たまにはこういうのも悪くはないだろう」
「うむ。海賊はいいぞ。自由で気高く、そして何より浪漫がある」
「おいそこ、悪くないだけで良くもないからな?」
 自身の持ち込んだ“魔法のボトルシップ”に乗船した『ティブロン海賊団“怪獣斬り”』ハロルド(p3p004465)は、剣を担いで海を見下ろす。
 先ほど、ヒーチョが氷を退けたことで、静かにしていたクリオネたちが慌ただしく水面へと集まっていた。
 クリオネの半透明の身体の内に赤い光が収束していく。
「ううん、クリオネ……クリオネにはあまり良い思い出がありませんねぇ……」
 戦闘開始の気配を察知し『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)は、どんよりとした表情を浮かべた。
 何やら彼は、クリオネに対して強い苦手意識を抱いているようだ。
「何とかなるでしょう。ダメでも仲間が助けてくr……助けてくれますよね?」
 ちら、と背後を振り返ったベークに向けて、エッダは親指を立てて見せた。
 不安だなぁ、と囁くように呟いて、ベークは甲板を蹴って海へと飛び込む。くるり、と空中で身を捻ったベークの身体は、少年のそれから、巨大なたい焼きへと変化。
 甘く、美味しそうな香りを振りまきながら、水飛沫を上げ着水。その姿を追うように、クリオネたちは赤い光線を発射した。
「エッダこれは貸し1だぞ。今度返してもらおう」
「そうですね、ブレンダ。私の借り1、です。返し方、考えておいて下さいね?」
 クリオネの注意がベークへと向いた隙を突き『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)は甲板の端へ。
 手にした剣を一閃させれば、飛ぶ斬撃が浮く流氷を真っ二つに切り裂いた。
「本来はこういう使い方をするものではないんだがな……」
 流氷を砕けば、クリオネたちはどこかへ去っていくだろう。
 右手の剣には火炎が渦巻き、左の剣には暴風が唸る。
「お、おぉ!! なんだそれ! 恰好良いな!」
 渦巻く風に煽られながら、ティブロンは1人喝采を上げた。

●ティブロン海賊団、進撃
 導火線に火を灯し、大砲の砲口を流氷へ。
 雪音の隣では、ティブロンがランスを片手に周囲の警戒、及び大砲の使用法を教示していた。
「ティブロン様、右後方に敵の気配が」
「よし来た。ハロルド、右後方だ!!」
「おうよ。任せとけ!」
 雪音の言葉をハロルドへと伝え、ティブロン自身も甲板を駆けた。雪音は大砲の位置を修正し、敵性体の反応が少ない氷へ狙いを付けた。
「左前方、撃ちます!」
 そう叫び、雪音は耳を塞いでその場にしゃがんだ。
 直後、轟音と共に砲弾が撃ち出される。
 弧を描くように飛ぶ砲弾は、狙い違わず流氷の中央へと着弾。火炎と衝撃を巻き散らし、氷を砕いた。轟音に驚いたのか、海底へと逃げるクリオネたちの姿が見えた。
 空いた空間へとヒーチョが移動すると同時に、数体のクリオネがその前方へと顔を覗かせた。
 既に攻撃の用意は整っているようだ。胸の位置には、収束された赤光が灯っているのが視認できる。
「エッダ様、攻撃が来ます!」
「了解であります。ヒーチョ、海面ギリギリまで潜水でありますよ」
『ァア“』
 エッダの指示を受け、ヒーチョが水中へ身を沈ませた。
 一斉に放たれた光線が、先ほどまでヒーチョの頭があった位置を射貫く。
 光線はまっすぐ船へ……しかし、それが船体を撃ち抜くことは無かった。ヒーチョの頭を蹴って跳んだエッダの拳が、光線を弾き上空へと逸らしたのであった。
「次、右方向でありますな。全てわかるぞ」
 船体を蹴って、エッダは海面へと跳んだ。
 エッダの足場となるべく、ヒーチョは水面に腕を伸ばした。腕に降り立ち、疾駆するエッダ。光線を発射しようとしていたクリオネに肉薄すると、拳打のラッシュをその身体に撃ち込んだ。
 連打を浴びたクリオネの首をしかと掴んで、捩じるように逆さに向ける。
「細かい作業が出来なくとも、お前は役に立つでありますな」
 クリオネの頭部を流氷へと叩きつけ、その息の根を止めたのであった。

 海中を奔る赤い光線。
 その間をすり抜けるように、巨大なたい焼きが縦横自在に海を行く。
「……まぁ、適任といえばそうなんでしょう」
 たい焼き、もといベークを追うクリオネの数はおよそ10体。1体1体はさほど強くないとはいえ、連続して放たれる光線のすべてを回避し続けることは出来ない。
「まぁ、付与術式を剥がせないなら僕が倒れる道理もないですからね」
 その身を射貫く光線も、付与術式により強化されたベークには通用しない。
 術式の効果が切れた瞬間であればダメージも通るが、自身に回復術を行使することで事なきを得る。光線以外に攻撃手段を持たないクリオネたちにとって、ベークはまさしく点滴と言えた。
「後は流氷と他のクリオネたちですが……まぁ大丈夫ですよね」
 仲間たちに任せておけば、なんて。
 独り言ちて、ベークはさらに加速した。

 舞い散る燐光が、キャナルとオウェードの傷を癒した。
 甲板の上から海面を眺め、ルチアは仲間へ指示を出す。
「2人とも、そのまままっすぐ氷伝いに駆け抜けて。2つ先の流氷の下にはクリオネがいないから」
「クリオネがいないとはいえ、なかなか氷も大きいですね。うーんめどい!」
「ガハハハ! まあいいではないか!」
 ルチアの指示に従って、キャナルとオウェードが氷上を駆ける。甲板から身を乗り出した姿勢のまま、ルチアは2人の進行方向へと目を凝らす。
「魚影は無し……ん?」
 ちり、とこめかみの辺りに感じた違和感。
 嫌な予感、とでも言うべきか。視線を真下へ向けたルチアは、船体に取りつく数体のクリオネの姿を視認した。
 ルチアの表情が引き攣った。回避も防御も間に合わない。
 撃ち出された光線が、ルチアの胸から顎にかけてを撃ち抜いた。視界が赤に染まった瞬間、脳が揺れて意識が遠のく。
 海へと落ちたルチアの身体を、さらに数発の光線が射貫いた。
 数体のクリオネに纏わりつかれ、ルチアの身体は海の底へと引きずり込まれていくのであった。

 両の腕を頭上へ掲げ、オウェードは低く腰を落とした。
 その手に握られた2本の戦斧を、渾身の力でもって足元へ向け振り下ろす。
「ガハハ! クリオネがおらぬのなら好都合。このまま流氷を撤去してやるワイ!」
 斧の一撃を受け、流氷に深い亀裂が走った。
 飛び散る氷片と海水を浴び、オウェードはにぃと口角を上げた。
「オウェードさん、この辺一体吹っ飛ばすッスよー」
「ぬ! では、退避だな」
 踵を返し、後退するオウェード。それと同時にキャナルは頭上へ2丁の銃を掲げ、引き金を引いた。
 放たれるは誘導装置付きの小型ロケット弾。
 火炎の軌跡を引きながら、ロケット弾が流氷へと着弾。
 元より亀裂の入っていた流氷だ。ロケット弾の爆発に耐えきれるはずもなく、粉々に砕け散り、潮に押し流されている。
「っと。こちらの氷も今のでヒビが入っておるぞ」
「じゃあ、急いで船に戻るっスよ」
 軽装のキャナルはともかく、重鎧に身を包んだオウェードは海に落ちれば沈みかねない。
 “海神の護符”を持っているため、実際のところ海に落ちても短時間なら問題なく行動できるのだが、とはいえ苦手意識までは取り除けないのでだ。
 急ぎ後退する2人は、しかしその直後、2条の怪光線によって撃ち抜かれた。
「ぬ……ぉ!?」
「い、ったぁ……」
 姿勢を崩した2人の視界に、赤い燐光が見えた。
 流氷を壊した音に呼び寄せられたのだろう。気づけば2人の足元には、数体のクリオネが集まっていた。

「ティブロン! 2人を助け出せるか?」
「あぁ、任せよ。しかし、船の守りが……」
「安心するといい。私がここにいる限りヒーチョには指一本触れさせんよ」
「なるほど。あぁ、エッダの連れというのならその実力は疑うべくもないか。いや、悪いな」
 ブレンダとの短い会話。
 アーロを伴い、ティブロンは海へと飛び込んだ。
「しかし慣れない事はするものじゃないな。肩が凝って仕方ない」
 フランマで巻き起こした火炎を、ウェントゥスの風で氷上へと運ぶ。
 氷の表面を這うように、火炎の波が走り抜けた。
 溶けて薄くなった氷では、2人分の体重を支えることはできないようだ。氷が砕け、オウェードとキャナルは海へと落下。
 クリオネが2人へ襲いかかったその瞬間、大渦を巻き起こしながらティブロンとアーロが突撃を慣行。数体のクリオネを、纏めてランスで串刺しにした。
「掴まれ2人とも!」
 ティブロンが叫び、アーロは大きくヒレを左右へと伸ばす。
 キャナルとオウェードは、伸ばされたヒレへ向け手を伸ばした。
「よし。大きな流氷はあらかた片付いたか? しかし、私たちの仕事はいいとして前衛組は大丈夫だろうか」
 船の前方、ヒーチョの方へと視線を向けてブレンダは僅かに思案する。
 夜空を駆ける幾筋もの光線。
 それを拳で払い、或いは受け止めながら暴れる小柄な影を見て、うんと1つ頷いた。
「……まぁ大丈夫か。エッダもいるしな」

 雪音の放った砲弾が、海上に浮く氷を砕く。
 砕けた氷を掻き分けながら、前進するは魔法のボトルシップ。その舵を取るはハロルドだ。
「ははははっ! おら、ティブロン海賊団のお通りだ、ってなぁ!」
 船の進路には巨大な流氷。
 その真下では、無数のクリオネが旋回していた。
 仲間たちの活躍により、クリオネたちはそこに追い込まれているのだ。
「よぉし、雁首揃えてそこで待ってな! この“怪獣斬り”にブッた斬られたいってんなら、お望み通り三枚に下ろしてやるぜ!」
 流氷に船を横づけし、ハロルドは剣を構えて跳び出した。
 その瞳に宿る狂気の色は、まさしく人斬りのそれである。
 氷上に降りたハロルドは、手にした剣に紫電を纏わせ疾駆した。氷上に跳びあがったクリオネを、雷光の如き速度で刺突。
 “閃雷”という名の技である。 
「らぁ! まだまだ行くぜ!」
 その場で体を大きく捻り、大上段に掲げた剣を渾身の力で振り下ろす。
 剣に纏わせた雷電が解き放たれ、足元に集うクリオネたちを焼き焦がす。
 “雷鎚”
 拡散する紫電が、暗い海をほんの一瞬、真白に染めた。

●ティブロン、出航
 海中に沈むルチアの身体を、ベークはしかと抱きしめる。
 その全身には無数の焼け跡。クリオネの光線を浴び続けたのだろう。意識を失った彼女を連れて、ベークは泳いだ。
 その身を貫く光線も、進路を阻むクリオネも、意に介すことなく海上へと跳んだ。
「いやまぁ、自分が助ける側になりそうなのは重々承知していましたが……」
 氷上を滑る巨大たい焼き。
 その胸に抱かれた赤毛の少女。
「ぬぅ! ルチア殿は重症か⁉ 急いで船へ連れ帰るぞ!」
「……こっちも余裕ないっスからね」
 たい焼きを抱えたオウェードと、ルチアを担いだキャナルは駆ける。
 【イモータリティ】によって自己回復していたオウェードはともかく、キャナルはそれなりに傷を負っているようだ。
 氷の上に点々と、赤い雫が滴り落ちる。
 2人の撤退を援護するように、ブレンダの放った火炎の波が氷上を走った。
 
「この氷が最後か⁉ よぉし、一気に砕いちまいな!」
 ハロルドの斬撃が、流氷に亀裂を走らせた。
 踵を返し、彼は急いで船へと戻る。
 それを確認し、エッダ、ブレンダ、雪音が動いた。
「ヒーチョ、ゴー! であります」
「遠くの物を狙ういい鍛錬にはなったが……エッダ、貸し1だからな、忘れるなよ」 
 ブレンダの放つ飛ぶ斬撃。
 エッダの指示で、ヒーチョは拳を突き出した。
 弧を描き飛ぶ砲弾が氷を砕く。
 粉々になった氷の欠片は、ヒーチョの起こした波に押され、沖へと流されていった。

 クリオネたちは、流氷と共にこの海域へ流れて来たのだ。
 氷が無くなってしまえば、クリオネたちはこの海域で生存できない。潮に流されていく僅かな流氷に連れ添う形で、きっとどこかへ逃げていく。
「……まあ、結果的にこの港を使えるようにできる良い機会ではあったであります」
 流氷とは逆の方向へ、ティブロン一味は出航していった。
 それを見送りながら、エッダは小さく手を振っている。
 エッダを初めとした一行は、既にハロルドのボトルシップに乗船していた。あのままティブロンの船に乗っていたら、一緒に航海へ連れていかれそうだったからだ。
「何だ、お前らは一緒に来ないのか? まぁいい。またどこかで逢うだろうからな。その時こそは、一緒に冒険をしようじゃないか!」
 東の空に日が昇る。
 どこか楽し気なティブロンの叫び声を聞き、オウェードは困ったように髭を掻く。
「あだ名については別に構わぬが、出来ればワシを団員扱いしないで欲しいのう……今回は味方で良かったが、次会う時はワシらが味方になるとは限らぬからのう」
「……そりゃ無理ってもんだ。諦めな」
 舵輪を掴んだハロルドは、溜め息混じりにそう言った。彼もまた、かつてティブロンと遭遇した結果、仲間認定を受けているのだ。
 ティブロン海賊団“海獣斬り”の称号は、まるで呪いのように彼の人生に付いて回ることだろう。
「にしてもヒーチョだっけ? でっかいなぁ……メカヒーチョとか作ってみたい気もするなぁ、巨大水中用ゴーレムあるいは水陸両用ゴーレムになるかな」
 悠々と海を泳ぐ巨体を見やり、キャナルはふむと思案した。
 ヒーチョ……ヒトガタの姿は、彼女の琴線に触れたのだろうか。

 ティブロンを見送る一行から些か離れた船の端。
 海面を見下ろし、雪音はふと首を傾げる。
「……流氷が在るとはいえ氷海の生物がここまで移動して来るとは些か不自然にも見えますね?」
 海面に浮くクリオネの遺体を見下ろして、彼女はそう呟いた。

成否

成功

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
人外誘う香り

状態異常

ルチア・アフラニア(p3p006865) [重傷]
「Concordia」船長
キャナル・リルガール(p3p008601) [重傷]
EAMD職員

あとがき

流氷は無事に破壊完了。
クリオネたちは、どこかへ去っていきました。
ティブロンの出航を見送ったことで、依頼は終了。
無事に成功と相成りました。

この度はご参加ありがとうございました。
また縁がありましたら、別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM