シナリオ詳細
子供窃盗団をどうにかしよう
オープニング
●
幻想王国。西の湾岸を含む土地は、『遊楽伯爵』の呼び名で知られるガブリエル・ロウ・バルツァーレクの派閥に属している。
ガブリエルが芸術家を保護し商人ギルドに強い影響力を持つだけに、多くの芸術家や商人が集まっている場所だ。
それだけに場所によっては商店街のような場所も見られ、訪れる者も数多い。
人が多く賑わいが増せば、より多くの人を引き寄せ、さらなる活況を見せていた。
そうした賑わいを見せる場所でよく見かけるのが、掏りに置き引きかっぱらい。
単独犯や、数人でチームを組んで行う者もいるが、いま問題になっているのは子供による窃盗団だった。
「まったく、堪ったもんじゃないよ」
うんざりした様子で、被害に遭った商店の主は言った。
「店が混んでる時に入り込んで、商品かっぱらいやがった」
「そいつは難儀でしたねぇ」
店主に応えているのは、三十路そこそこの男。
各地を渡り歩いて行商をしているというその男は、ひと月ほど前から商店街に入り込み商いをしていたのだが、商談の合間合間で話をしている内に店主と親しくなり、子供による窃盗団の話をするようになったのだ。
「三軒先の旦那もやられたって言ってましたぜ」
三十路そこそこの男、バウは身振り手振りを交えて話す。
「ここと同じで、お客さんでごった返した隙を突かれたって話してましたよ。他にも、通りを歩いてるお客さんの財布やら荷物やらをかっぱらっちまうヤツらもいるって話だ」
「聞いてるよ。いい加減どうにかしないと、客足にも響いちまう」
「そこですよ、旦那」
バウは身を乗り出して言った。
「放っておくなんてできゃしませんぜ。だからどうにかしましょ。な~に、ローレットにでも任しちまえば良い。相手はたかだかガキ共だ。どうとでもしてくれますよ」
そこまで言うと、声を潜めるようにして続ける。
「ガキ共のバックに、こわ~いニィさん達が付いてなければ、って話ですがねぇ」
「……」
バウの言葉に、店主は苦々しく眉をひそめた。
店主が気にしているのは、バウが言った通り、窃盗団の子供達の背後に何らかの大人の集団がいた場合だ。
窃盗団の子供達をどうにかするだけなら、ローレットに頼めば問題ないだろう。
けれど、もしその背後に何らかの組織が居たら?
ローレットが事件を解決したあとに、腹いせで依頼を頼んだ人物に復讐するかもしれない。
だから店主も含め、この商店街の主達は悩んでいた。
それを解決する様にバウは言った。
「あっしが依頼人になりやすぜ」
「あんたが?」
聞き返す店主にバウは続ける。
「あっしは根無し草。その気になりゃ、あちこちどこへでも渡っていける。ガキ共をどうにかした後に、ヤバそうならトンズラこいちまえば良いだけだ。だからまぁ、旦那方からお代を集め、そいつであっしがローレットに頼むって寸法だ」
「そいつは……そんなことして、アンタに何の得があるってんだ」
「ひひっ。そこは巧くいったらより一層の取り引きをお願いしまさぁ。もし巧くいかなかったとしても、旦那さん方があっしに駄賃代わりの小遣い金を上乗せして渡してくれりゃ、ここから逃げ出す旅費にゃ困らない」
「つまりはあれかい。私達商店街の店主から金を集めて算段つけてくれるってことか。矢面に立つリスクは取るから、その分の金は出せと」
「ひひっ。まぁ、そんなわけですよぅ。ちなみに三軒先の旦那は、結構はずんでくれやしたぜ」
「……アイツが?」
店主は微かに眉間にしわを寄せる。
取り扱っている品が似ている三軒先の店主とは、仲が悪いわけではないがライバルなのだ。
「分かった、出そう。アンタが貰ったっていう額より、積み増してやる」
「はぁー、さすが旦那さん、気前が良い! そんな気前の良い旦那さんにひとつ、ついでの頼みがあるんですよ」
「なんだい?」
「ガキ共をどうするかは、あっしに任せてくれやせんかねぇ。なに、旦那さん達に迷惑掛ける気は欠片もねぇですよ」
「そいつは……まぁ良いさ。ただ、あまり血生臭いことを表でやられてもね。何かするにしても、見えない所でしてくれ」
「ひひっ。そつはもう、旦那にゃ迷惑掛けませんぜ」
そんなやり取りがあった後、バウは店主から金を受け取ると、近い内に手続きを取ると言って店を出て行った。
しばらく歩いていると――
「危ねぇなっ! 気をつけろ!」
「……」
十才ぐらいの子供がぶつかって来ると、そのまま走り去っていく。
「あの年なら、悪くねぇ腕だな」
走り去っていく子供が掴んでいる小さな袋を見てバウは呟いた。
「あれだけありゃ、とりあえずは殴られずに済むだろ」
わざと掏らせた、小分けにしていた財布の中身を思い出しながら歩く。
向かう先はローレットだ。
「因果だねぇ」
陰鬱とした声で呟く。
「見て見ぬ振りが出来りゃ、楽だったのにねぇ」
(まぁ、無理だけどさ)
ため息ひとつ。
昔、子供の頃。
バウは、商店街を荒らしている子供窃盗団と同じ境遇だった。
当時の仲間を置いて自分は逃げ出してしまったけれど。
(逃げなきゃ殺されてただろうからねぇ)
だから逃げた事は後悔してない。
けれど残った仲間がどうなったか考えると気分が滅入る。
(今じゃもう、確かめようがないけれど……だからって、ガキ共に同情するのはどうかって話だけれど)
商店街を荒らしている子供窃盗団の話を聞いて気になったバウは情報を集め、商店街の店主達に話を付け金を集めていた。
口八丁で集めた金はローレットに依頼を出しても、子供なら十数人を半年は食わせて行けるだけの額がある。
「このまま持ち逃げしてトンズラすりゃ、しばらくは遊んで暮らせるねぇ」
それが出来ないのは自覚しながら、バウは陰鬱に笑った。
●
「商店街を荒らしている子供の窃盗団をどうにかして欲しいのです」
招集されたイレギュラーズに向けて、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼の詳細を説明してくれる。
「商店街で掏りや窃盗をしている悪い子がいるので、捕まえて欲しいみたいなのです」
ユリーカによると、それが最低条件とのことだが、依頼人の要望は他にもあるらしい。
「子供達の窃盗団は、大人のゴロツキさんに使われてるみたいなので、そちらもどうにかして欲しいみたいです」
話によると、依頼人であるバウという人物は、大まかにはゴロツキ達がどこに居るかまでは調べているらしい。
けれど細かな場所までは分からないので、わざと子供達を泳がせて居場所を手繰るなどをして欲しいとのことだった。
「それと捕まえた子供達は、依頼人さんがどうにかしたいみたいです。しばらく面倒をみるぐらいはするって言っていたのです」
もっとも、そのことを話している際は歯切れが悪かったようだ。
やりたくないというよりは、何かを迷っているように見えたとのこと。
「もし余裕があったら、助言をしてあげると良いと思うのです」
ユリーカから話を聞き終えたイレギュラーズは、より詳しい話を聞くために依頼人であるバウの元に向かうことになった。
- 子供窃盗団をどうにかしよう完了
- GM名春夏秋冬
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年02月08日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
「まぁ、珍しいことではありませんね。えひひっ」
バウから詳しい話を聞いた『こそどろ』エマ(p3p000257)は軽い口調で言った。
これにバウも似たような口調で返す。
「いや全くその通りで。とはいえ商店街のご店主さん達からたんまり頂くもんは頂いてますんで、期待にゃ応えないといけやせん。どうぞどうぞ尽力よろしくお願いしやす」
「それはもちろん分かってます。えひひ」
バウに合いの手を入れるように返した後、今までよりも僅かに感情を滲ませ言った。
「私も似たようなものなんで、なんとも――まずはお仕事、ですけどね」
これにバウは僅かに間を空けて応えた。
「ひひっ、蛇の道は蛇ってヤツですかい? こいつは頼りになりそうだ」
「ふぅん……」
バウの様子にシラス(p3p004421)は小さく呟く。
話を聞いた彼は、どこか懐かしさすら感じていた。
(ゴロツキね……どこも同じだな)
シラスにとって、ゴロツキ共に食い物にされている子供達は、かつての自分を見ているようなものだ。
(奴らをぶち殺して気分を晴らすのも悪くはない……でもそれで子供達が盗みを止められるかはまた別の話なんだよな。生活に困ってることには変わらないんだ)
知識や感情ではなく実感としてシラスは今後のことを考える。
そこに、素直な気持ちを口にしたのは『光の槍』ルルリア・ルルフェルルーク(p3p001317)だ。
「バウさん、お願いがあります」
「なんでしょ?」
ルルリアを窺うように尋ねるバウに、彼女は真っ直ぐな声で言った。
「子供達の面倒を見てくれませんか」
真剣に、尻尾をぴんっとさせ、バウに語り掛ける。
「子どもたちは盗みで生計を立ててそれ以外の生き方を知りません。教え導く人が必要です。子どもたちには彼らの境遇を理解できる人が必要です」
これにバウが何か応えるより早く、『砂原で咲う花』箕島 つつじ(p3p008266)がルルリアに賛同する様に言った。
「せやな、ちゃんと助けんと!」
つつじはバウに視線を合わせながら続ける。
「子供が盗みをせなあかんってのは……そういう場面もあるわな。でも裏に悪い大人がおるのは無視できん!」
これにバウは、どこか卑屈な声で返す。
「ひひっ、そこまで言って貰えりゃガキ共も本望でしょ。悪~い大人からどうにかしてやって下さいな」
バウの物言いに、気になった『護るものの為に』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が言った。
「……バウは、子供達が利用されてるのに何も想わないのか?」
「想う、ですかい? ひひっ、あっしには難しいことはどうにも。まぁ、ガキ共も災難だとは思いやすが――」
「怒って良いんだぞ、バウも」
「……怒る、ですかい」
「ああ。子供達を利用している大人達に怒って良いし、子供達が悪いことをしてるなら、それも怒ってやって良いんだ」
それは自分の弱さや無力さに心が折れてしまっても、再び立ち上がり歩き出すことを信じているからの言葉のように聞こえた。
「……」
バウは卑屈な笑みを浮かべたまま、無言でいる。
そこに『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)が、アルヴァの言葉を引き継ぐように言った。
「子供達に、言い聞かせるのは必要……」
バウが向けてくる視線に合わせ話を続ける。
「子供の窃盗……必要に迫られて、と言い訳は出来るけど……いつかはきっと、痛い目を見ることになる。その前に……止めてあげないと」
「手遅れになる前に、ってヤツですねぇ。ひひっ、それなら皆さんを頼らせて頂きやすぜ」
バウの言葉にイレギューラーズは頷くと早速動き出した。
●
(弱いものが更に弱いものから搾取する。……やりきれませんわねー)
通りを過ぎていく人の流れを油断なく探りながら、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は思う。
彼女は今、商店街の一角で露天商として商品を広げている。
もちろんそれは、子供達を誘き寄せるための餌だ。
(アルヴァさまが追いかけられるよう、1人2人は見逃しておかないといけませんわね)
今回の作戦の手順を改めて思い出す。
バウから子供達が出やすいポイントを聞きそこで待ちかまえ、すでに皆で分担して張り込みは完了。
ゴロツキ達の居る場所に案内して貰う子供以外は、保護も兼ねて捕まえる予定だ。
(さて、いつ来てもいいですわー)
にこにこ笑顔で、メリルナートは商品を並べている。
その視線は商品よりも通りの人々に向かい、隙が多いように見せていた。
メリルナートと同じように、皆は持ち場に就いている。
(人込みに紛れて逃げるのが手、ね)
通りを歩きながらも誰にも視線を向けられずに、白夜 希(p3p009099)は周囲を探っている。
ギフトのお蔭もあって、子供達を探して視線を巡らせても意識されない。
しばし歩き、目的の場所に到着。
そこは露店形式のパン屋さん。
(どっちかというと現物狙いだよね……お金は取っても使わないとお腹は膨れないもの)
ゴロツキ達に搾取されている子供達なら、まずは食べ物の確保をしたい筈だ。
念のためにステルスも使って気付かれないよう注意して、いつでも動けるように張り込む。
しばらくすると子供が1人。
痩せているのに眼だけはギラギラと。
(あの子……)
気になった希は距離を詰める。
すると子供は、お客がまとめて来た所を見計らいパンを掴んで駆け出した。
(捕まえないと)
希は素早く走り出すと、威力を絞った死神の魔手を放つ。
(ものすごく、ものすごく手加減しないと)
影から伸びた闇が子供の足を打つ。
バランスを崩した子供は、パンをガッシリ掴んでいるせいで盛大に転ぶ。
こけて血が出るほど怪我をしてるのに逃げ出そうとする子供を希は捕まえる。
「駄目。怪我、治さないと」
大天使の祝福で癒してやると、警戒と混乱の入り混じった眼で希をじっと見る。
そこにバウがやってくると縄で自分と子供の手を括って繋ぐ。
「助かりやした」
そう言うと子供の口にパンを突っ込む。
「そのパン――」
「ひひっ。あっしが払いやす」
バウの言葉に希は安堵するようにため息ひとつ。
そして子供を逃がさないよう、そして繋ぎ止めるようにして手を繋ぐ。
「逃げないで。大丈夫。酷いことはしない」
ギフトのせいか、子供は希の言葉を聞いても警戒するように見詰めている。
けれど他人の存在を確かめるように、ぎゅっと小さな手で希の手を握った。
子供達を次々捕まえていく。
「今日は闇市でとても儲かりました! 豪遊です豪遊」
囮役のルルリアは、上機嫌を装って人でごった返す中を歩く。
(掏りをするなら人込みの多い場所の方がやりやすそうですね)
推測を立てた彼女は人通りの多い大通りに網を張り、ギャンブルに大勝をした馬鹿な人を演じながら歩いていく。
彼女の死角になるような位置には、シラスが就いて歩いていた。
(手口なら予想がつく、どんな人間が狙われやすいかも)
昔取った杵柄というべきか、掏りの手口は心得ている。
(大体は複数人、気を引く者、掏りをする者、品を渡されて逃げる者の3人で動くが。さぁ、どう来る?)
心は鋭く、けれど表情は緩め。
カモだと思えるような、人の好さそうな旅行客を装って商店街を歩く。
彼から見える位置にはエマが就いている。
腰には用意して貰った小銭の財布を、これ見よがしにつけていた。
(ひひひひ。いつ来ても良いですよ)
3人は待ち構えていると、最初にシラスが気付く。
(悪手だぞ、それは)
気付けば、こちらを窺う子供の他に、ルルリアとエマを狙っている子供が。
獲物の多さに欲をかき、役割分担を捨て全員で掏りをしようとしているようだ。
そして、1人が掏りをしようとした所でシラスは捕まえ手刀打ちで大人しくさせる。
ほぼ同時にルルリアも、掏ろうとした子供を捕まえた。
「ダメです。逃がさないです」
暴れる子供を抑えつけていると、子供は大きな声で言った。
「逃げろ!」
それにエマを掏ろうとしていた子供は、捕まった仲間を見て迷うような顔をしたが逃げ出した。
「えひひっ。逃がさないです」
逃げ出した子供をエマは追い駆ける。
相手は10才手前の女の子。
すばしっこく全力で逃げるもエマの方が足が速い。
しかも跳躍を使って店の壁に向かって軽やかに跳ぶと、壁を足場に更に跳躍。
ひょいっと屋根に乗ると、そのまま疾走。
あっという間に逃げる子供を追い越すと、屋根の上から地面に跳び下りる。
「ひひひひ、逃げられないですよ」
泣きそうになっていた女の子を捕まえた。
他の所でも子供を捕まえていく。
「大丈夫、ウチらは君らを助けに来たんや」
超視力で子供達が来るのを離れて見張っていたつつじは、貴金属を盗んだ子供を捕まえ話し掛ける。
「危害を加える気はあらへん。心配せんでええんや」
捕まえた子供の軽さに眉を顰めながら声を掛け続ける。
(痩せすぎや。まともに食べとらんのやろ)
どうにかしたいと思いながらも子供を抑えていると、他の子供を捕まえたイレギュラーズとバウがやって来る。
捕まった仲間に、つつじの抑えていた子供は諦めたように力を抜く。
同時に、怯えるように震えていた。
その後、商店街のまとめ役をしている店主の元に、一端子供達を預かって貰えるように頼みに行く。
店主はあからさまに嫌がったが、ここでシラスが動いた。
「少しの間で良いんだ。頼むよ」
頭を下げ頼む。
シラスは幻想では名が知られ、地元の伝手もある。
だから店主は渋々だが了承した。
自分達を傷つけず保護するようなイレギュラーズとバウに、子供達は警戒と不信、そして糸のように細い希望を表情に見せる。
するとエマの捕まえた泣きそうな女の子がか細い声で言った。
「小ちゃい子も、いるの」
余計なことを言って殴られないか怯えた様子で言う女の子に、つつじは笑顔で応えた。
「安心しぃ。残りの子達も必ず連れてくるからな」
つつじの言葉に子供達は、じっとイレギュラーズを見詰めていた。
子供達の保護は進む。
「捕まえましたわー」
広げていた商品を盗もうとした女の子をメリルナートは捕まえる。
すると女の子は、持っていた商品を仲間の子供達に投げた。
「持って逃げろ!」
「逃げちゃダメですわー」
メリルナートが止めるも子供達は無視して走り出す。すると――
(お願いしますわー)
メリルナートはアイコンタクトで、近くで見張っていた雷華とアルヴァに頼む。
即座に2人は走り出すと、雷華はアルヴァに触れギフトを使う。
(主さま、こちらはお任せを)
ギフトを使用しているので敬語になりながら念話をするとアルヴァが応えた。
(追跡は任せて。場所が分かったら連絡する)
事前の作戦通り二手に分かれる。
雷華はファミリアーで小鳥の視覚を通じ、逃げる子供の居場所を知り、先回りして捕まえた。
その後はメリルナートと合流。そこにバウがやって来る。
子供達を一時預かってくれるという店まで連れて行くと、そこでメリルナートは子供達を安心させるように言った。
「わたくし達はローレットですわー。わたくし達の目的は貴方達の親玉ですのー。情報提供してくれるなら衛兵には突き出しませんし、金銭と食料を情報量として出しますのー」
これにメリルナートが捕まえた気の強そうな女の子が返した。
「……アイツらの所にチビ達がいるんだ。チビ達を無傷で連れて来てくれるんなら話す」
そうして話を聞き出している間にアルヴァから連絡。
念話で受け取った雷華が皆に伝えると現場に向かうことになった。
●
現場では廃屋を前にした荒れ地で、小さな子供も含めた数人がゴロツキ達に怒鳴られていた。
仕事の失敗をなじられ、この先をどうするか話しているらしい。
この時点でイレギュラーズの配置は終わっている。
現状は、子供達の安全を無視すればゴロツキ達はどうにでもなる状況だ。
けれど子供達の安全を考えるなら、一気呵成に勝負を決める必要がある。
その準備をイレギュラーズは怠らない。
(幸い、廃屋や枯れ木など身を隠せる場所はあるようで……えひひっ。ちょっと大回りします)
エマは忍び足や気配消失を用いてゴロツキ達の背後に就いている。
仲間も同じく配置に就き、タイミングを見計らう。
その状況で最初に動いたのはメリルナートだった。
「このガキがうちの商品に手を出したんだが、このガキの飼い主であってるよなぁ?」
隣りにはバウが一緒に来ており、ちょうど子供一人が包まれているようなムシロを担いでいる。
「迷惑料出してもらおうか」
普段とは違う荒い言葉遣いでゴロツキ達の注意を引く。
ムシロの中身は綿を詰めたものだが、遠目には分からない。
相手が女と男1人と見て威圧しながら近づくゴロツキ達。
数で囲んで脅そうとするのか、子供達を背に置いて纏まって近付いてくる。
この絶好の好機を逃さず、イレギュラーズは一斉に襲い掛かった。
「さて、然るべき報いを受けてもらおうか?」
仲間の奇襲に合せ、アルヴァは斬神空波を放ちながら子供達とゴロツキの間に立ち塞がる。
「なんだテメェ!」
奇襲に慌てるゴロツキ達に、エマが更に襲い掛かる。
ソニックエッジでざっくりと斬り裂いた。
「戦闘は苦手故、死んでもご了承くださいね。えひひ」
背後から襲撃したエマは、ゴロツキのナイフを躱しながら暗殺剣・早贄で追撃。
「早めの降伏をお勧めしますよ。ひっひっひ!」
エマの言葉を受けてもゴロツキ達は変わらず襲い掛かってくる。
だがイレギュラーズの方が明らかに強い。
押されていくゴロツキ達は、イレギュラーズが子供達を庇おうとしているのに気付き人質にとろうとする。
その前に立ちはだかったのは、つつじだ。
「なにすんねん!」
拳闘でゴロツキの顎を撃ち抜きながら子供達を護ると、逃げようとする相手には多段牽制で、その場に釘付けにする。
他のゴロツキも子供を人質にしようとしたが、そこにルルリアが風刃弾幕。
四方から不可視の風の刃を食らい、ゴロツキの1人は倒れ込む。
次々ゴロツキ達は無力化されていくが、残った者達は必死に暴れる。
それをシラスは冷静に対処。
殺さぬよう手刀打ちで叩きのめしていく。
そこに横手から他のゴロツキが襲い掛かろうとするが、雷華が制圧で対処。
派手な動きで注意を引いた隙に、一瞬で地面に組み伏せる。
イレギュラーズ達の動きは素早く、瞬く間にゴロツキ達は敗北した。
叩きのめしたゴロツキ達は、中には放っておくと死にそうな者もいたので、縄で縛った上で希が死神の唄で回復。
そのあとゴロツキ達を、子供達を預かってくれている商店へと連れて行った。
●
「その汚い手で子どもたちを食い物にするのならば、次はありませんよ……?」
今後も考え、ルルリアが縛られて身動きのできないゴロツキ達に言い含める。
すでに痛い目を十分に見たゴロツキ達は何も返さないが、不満を顔に滲ませていた。
そこにシラスが、わざと淡々とした静かな声で言った。
「クズにはクズの居場所ってものがある。裁かれるか俺について来るか、選べ」
自分の領地に来ないなら衛兵に突き出すというシラスの言葉に、ゴロツキ達は無言のまま難色を示す。
ゴロツキ達は自分達を叩きのめしたイレギュラーズに関わりたくないと思っているようだが、同時に突き出されたくないとも思っていた。
彼らの様子を見た希が提案する。
「神は許さなくても私は許そう」
この言葉にゴロツキ達の表情が緩んだ所で続ける。
「反省は形だけ。でも貴方達も生きていくために仕事が必要。だから――」
希はバウと商店主に、ゲイバーを知らないか尋ねる。
すると商店主が言った。
「それなら、あの人に話を付けときましょう。訳ありを仕入れて従える凄腕です」
顔を引きつらせるゴロツキに希は言った。
「奴隷商に売られるより全然ましでしょ? 稼ぎは一部返納、ね。忙しくて悪事も働けず、お金も貰える、新しい人生の幕開け……だね、おめでとう」
ゴロツキは解決し、残りは子供達。
「バウは何かアテがあるんか?」
つつじが尋ねる。
「盗みをせずに生きていけるよう、仕事を探す手伝いとかお願い出来たらなーって思うんやけど。ローレットの力も借りつつ一緒に子供らを助ける手段を探そうか」
彼女に続けて、メリルナートも提案する。
「子供たちについては、雇ってくれるところを探すのは……前科がありますので難しいですわねー。子供たちを雇うという条件つきでお金は出しますので、もう少し大きな商売を初めて見る気はございますかー?」
バウが伝手が要ると言うと、ここでもシラスの名声と伝手のお蔭で商店主が口をきくと約束してくれた。
話が進み、目をぱちくりする子供達に、エマは笑いながら言った。
「えひひ、思わぬ幸運でしたね。私にできることはほぼないですけれど、盗みのコツくらいなら伝授できますよ?」
これにエマが捕まえた女の子が興味を示す中、雷華が言った。
「助けてくれる人がいるなら、頼ると良い。これからは助けてくれる」
雷華の言葉に、未だ信じられないのか警戒する子供達にアルヴァは言った。
「ったく、困った時に自分たちだけで解決だなんて思わないでくれ。手を差し伸べてくれる人だっているんだから、バウみたいにさ」
この言葉にバウとイレギュラーズをじっと見つめる子供達だった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
皆様、お疲れ様でした!
皆様の活躍のお蔭で、子供達はバウが引き取り、一緒に商売をする流れに繋がりました。
また、ゴロツキ達も死なずに済みました。最初の想定ですと、生き残っても他のシナリオで惨たらしく死ぬ(頭から丸かじりされたり丸呑みされる)とか考えていたんですが、生き延びる流れに乗りました。
ちなみに子供達が死亡した場合は、生き残りがいると、世の中を呪って復讐してやる系になってバウの目の前で殺されることでバウの顔を曇らせる、とかも考えたんですが、その流れは闇に滅しました。
それでは、また次回のシナリオに興味を持っていただければ幸いです。
GMコメント
おはようございます。もしくはこんばんは。春夏秋冬と申します。
PPPにてGMとして活動させていただくことになりました。これからよろしくお願いします。
そして今回のシナリオの詳細は以下のようになっています。
●成功条件
商店街を荒らす子供窃盗団を捕まえ同じようなことが起らないようにして下さい。
●方法
子供窃盗団が出そうな場所は依頼人のバウが調べており、そこで待ち構えるなどが出来ます。
わざと掏りがし易そうな隙を見せて罠に掛けることも出来ますし、お店を見張って窃盗をした瞬間を見計らって捕まえるなども出来ます。
子供窃盗団は大人のゴロツキ達に窃盗をさせられているため、わざと窃盗をさせて、逃げ出した先を追跡して大人のゴロツキ達の居場所を探ることも出来ます。
大人のゴロツキ達をどうにかする場合は戦闘になります。
戦闘の際に子供達が傍に居ると、ゴロツキ達が盾にしようとしたりします。
●フィールド
子供窃盗団が盗みを行う商店街と、大人のゴロツキがいる商店街から離れた場所にある荒地の二か所があります。
商店街
複数の店が連なる場所。そこそこの長さがある。
街道を歩いていると子供の掏りに狙われる可能性があります。
貴金属店などでは、客に紛れて商品を盗もうとする子供が現れる可能性があります。
出やすい場所は依頼人のバウが教えてくれるので、好きな場所に訪れ待ち構えることが出来ます。
荒地
子供達を追跡することで行くことが出来ます。
数人のゴロツキがたむろしており、子供達が盗んだ物を奪います。
傍には5才ぐらいの子供が3人居ます。子供窃盗団の仲間です。盗みをした子供達が逃げ出さないよう人質のようにしています。
戦闘の際に支障となるような地形ではありません。
周囲に廃屋や木々があるため、注意して進めば、ある程度近くに寄るまではゴロツキ達に気付かれずに済みます。
●敵
ゴロツキ達。ナイフ程度の武器は持ってます。
子供達に盗みを働かせて上前を撥ねる程度の力しかない。
ただ、躊躇なく子供達を殴る蹴る刺すぐらいは平気でしますし、状況を見て子供を盾にしたり人質にしたりする悪知恵は働きます。
子供達がもっと大きくなったら身体を売らせたりさせようとか思ってます。
こいつらの生死は問いません。
少なくともぶっ飛ばして拘束してください。
●子供達
全員で10人ぐらいいます。
10才~5才ぐらいです。
スラムの孤児で身を寄せ合っていましたが、ゴロツキに目を付けられ利用されてます。
捕まえた子供達と会話することは可能です。
ただし警戒しています。
●依頼人
バウ。へらへら笑っている。
子供達を過去の自分と照らし合わせている。
そのため、子供達の面倒を見ようかと思っているが、色々あって性格がひねくれているので素直ではない。
状況によっては、子供達のために身体を張るぐらいのことはするでしょう。
●流れ
今回の流れは以下のようになります。
1 商店街で子供窃盗団に対処する。
盗みを働いた所を捕まえたり、わざと掏らせて逃げたあとを追跡するなどが出来ます。
捕まえた子供をどうするかなどは自由に決められます。
今回の目的は『子供窃盗団をどうにかする』ことですので、1の段階で子供達を全員捕まえて終わらせることも出来ます。
この段階を達成しただけでも『成功』にはなります。
1の段階で、依頼人のバウと話したり、捕まえた子供達と話したりも出来ます。
2 ゴロツキ達の対処
ゴロツキ達を叩きのめしましょう。
ゴロツキ達の生死は、成功度には関わりません。
また、ここで子供達が死んだり重傷を負ったとしても、ゴロツキ達を叩きのめしさえすれば『成功』にはなります。
2でゴロツキを叩きのめした後に、バウや子供達と話したりすることも出来ます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
説明は以上になります。
それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリプレイに頑張ります。
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