PandoraPartyProject

シナリオ詳細

氷棺のデセール

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 穏やかなる陽光が生き生きと育つ緑の葉を照らしている。馨しさを感じさせる木々の隙間から蜜蜂たちが逢瀬を刻む。
 幾重にもヴェールを重ねたカーテンの向こう側に小鳥の囀りに応えるが如く語る唇が愛を謳う事を遥かに願う。
 大窓から見る景色の中――美しいデセールを奔る青年の後ろ姿は甘美な思いを滾らせて。
 嗚呼、空腹の胃にさえ入れてしまいたい。いや、己が胸の内に秘めたこの想いを吐露してしまいたいと思う程に。
 私は彼に焦がれているのだ。
 しかし、私には彼と話す事は出来ぬ。どうしてか、この大窓の外に私は行く事が出来ないからだ。
 外へ出ることが叶わぬこの身が『外界』の人間に恋をする。浅はかなれど、己が短い命を呪い、私は筆を執ったのだ。

 拝啓、名も知らぬ冒険者の諸君。
 我が部屋に愛しの人を閉じ込める氷棺を誂えた。どうか、其処にあの人を呉れまいか。


「スパニッシュ・ローズの如き恋心だけれど、それは苛烈な焔を思わせるわね」
 依頼よ、と。『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は特異運命座標へと向き直った。
「幻想の小さな領地の貴族のお嬢様からのご依頼ね。
 以前は建設途中の孤児院をグラナートに燃やし尽くした彼女だけれど、今回は全く真逆よ。氷漬けにしてほしいそう」
 そこまで告げてプルーは表情を歪める。余りに歪んだ感情だ。軋み続ける倫理観が其処にはある。
「普通ではないのかもしれないわ。幼いころから甘やかされて育ったご令嬢だもの。
 彼女は恋をしたけれど『閉じ込めてしまう』事しかしらないようなの」
 わたし以外を見ないで――
 わたしの想いを分かって――
 誰しもが思う甘い恋のストーリーは彼女の狂った倫理観の許、『おかしな結末』を迎えようとしている。
「彼女が恋したのは冒険者の青年。年若いご令嬢は彼を手に入れるための手段は問わないわ」
 練達を頼り『永遠の愛を誓う氷』の許に彼を死ぬまで保管しておきたいのだという。
 氷の中では彼は自分だけを見てくれるのだと令嬢は狂ったように言っていたとプルーは言った。
「お父様に黙っているわけにもいかなかったのでしょうね。
 依頼主はデュフォン侯爵のご令嬢、アンジェル様。彼女の部屋には『娘の我儘を聞いてあげた父からのプレゼントの冷凍庫』があるわ」
 そこに生け捕りにした冒険者の青年を閉じ込めて欲しいのだという。
 そこまででオーダーは終了。アンジェルは幸福だと笑うだろう。
 特異運命座標たちの表情を見遣ってからプルーは困った様に肩を竦める。
「ああ、けれど約束して。依頼主には――どんな風に思っても――手を出してはダメよ」

GMコメント

菖蒲(あやめ)と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。

●成功条件
 指定された青年を練達製の冷凍庫に閉じ込める事。

●大窓の向こうの青年
 薄幸の美少女曰く、大窓の向こうに居たのは運命の人だそうです。
 短命な彼女曰く恋はアイスクリームのように儚く溶けてしまう。だからこそ、永遠に共にある為に閉じ込めておきたい。
 青年は一般人ではなく名のある冒険者だそうです。生け捕りにしてから冷凍庫にIN。

●青年の友人たち4名
 冒険者のパーティーです。青年と共に戦います。
 基本的にはゴロツキと何ら変わりありません

●練達の冷凍庫
 薄幸の美少女曰く『練達より取り寄せた永遠の愛を誓う氷』だそうです。
 青年を閉じ込めて、もう二度と離さない――
 美少女の部屋にございます。生け捕りにした青年を其処まで連れてきてください。

●薄幸の美少女
 2度目の依頼になります。以前は『焔のデセール』の依頼主。
 本名はアンジェル・リューティア・デュフォン嬢。それなりのお貴族様の一人娘です。
 ある病気にかかっており、短命です。基本的に性格がかなり歪んでます。
 むしろ倫理観が普通ではありません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 氷棺のデセール完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年06月04日 21時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヘルマン(p3p000272)
陽気な骨
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
灰塚 冥利(p3p002213)
眠り羊
エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)
ShadowRecon
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
シラス(p3p004421)
竜剣

リプレイ


 ぐしゃりと握り潰された一枚。令嬢は表情を歪めて貧乏ゆすりを続けている。
「ああ――」
 塵箱に投げ捨てられたそれ。女は目線を下げ、ゆっくりと視線を巨大な棺へと向けた。死した者を詰め込むにはあまりに無粋な塊。
 女は口にする。
「ずっと」
 ずっと――と形作る唇の端は吊り上がる。笑っているのだ。怒りはどこかへ拭い捨てたかのように彼女は笑っている。
「ずっと、一緒ですわね」


 硝子瓶の中では緑色の液体が揺れている。恋は劇薬とはよく言ったものだが此度の依頼は『正しく』と言った調子だと 『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)はルージュの塗られた唇を釣り上げた。
 此度の依頼は口にするにも憚られるような『純愛』の話だ。部屋に誂えた氷室で愛しの王子様と『暮らしたい』のだという。彼が美しい顔をしていてくれさえすればいいという令嬢からのオーダーは『カオスシーカー』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)にとっては凍ったタンパク質と呼ぶしかできない。
 混ぜ合わせた材料は眠気を誘発するものだ。淑女の恋愛感情を表すかのようにその効き目はじんわりとしたものだ。足元がふらりとしたなと感じれば上々だと『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は瓶をリノへと手渡していた。
 愛しの王子様の体格は事前に調査済だ。服用5分後に効果が出るようにと調整するのは『医者』の得意技だとレイチェルとラルフは示し合わせていた。
「俺がとやかく言うこっちゃねぇが、」
 酒場で酒を煽りながら 『陽気な骨』ヘルマン(p3p000272)は『趣味悪!』と心の中で大仰に言って見せた。
 仕事として承った以上『そういう事』なのだから、思想を理解することなくとも仕事して把握はしているといった調子だ。
 彼女の思想は二人きりの小さな城を用意して。暗く冷たい世界に彼が訪れるのを待つ部屋から出れぬお姫様――それは随分とロマンチックなものではないかと『自称、あくまで本の虫』赤羽・大地(p3p004151)は喉を鳴らして笑った。
「乙女の切なる願イ、叶えてやらねぇとなァ」
(恋愛が嗜好品の一種と化してるなんて世も末だよねー!)
 ……なんて考えながら、気怠い身体に鞭打って働く『眠り羊』灰塚 冥利(p3p002213)は酒場の外で息を潜める。
 淑女は永遠に共にいるために氷漬けにする。悪役令嬢の運命は短い。その生命の根幹にバグが存在するかのように短い命を謳歌せんと生き抜いているのだ。
「正直、好きな人を氷漬けにしようという選択肢自体、理解はできない」
『ShadowRecon』エイヴ・ベル・エレミア(p3p003451)は最善を尽くすと手にした罠を、手にした道具を見下ろしていた。

 からり、とグラスの中で氷が揺れている。リノは酒を片手にターゲットへ向かい歩き出す。
 高いヒールはすらりと長い足を強調している。リノは足を縺れさせた様にゆっくりと、ターゲットの傍らへと赴き肩をぶつからせる。
「やぁん、ごめんなさい。お酒、掛からなかった? あらアナタ、どこかで会ったことない?」
 体を寄せ、青年の視線を集めながらリノは唇でにぃと笑う。困ったように肩を竦めた青年の視線を避けるように入れ替えたグラス。
 男性グループに混ざるように声をかけるリノが胸の下でひらりと手を振ったのに『鳶指』シラス(p3p004421)は気づきゆっくりと立ち上がった。
「うふふ、よければ次のお店とか――」
 首を傾げるリノ。シラスは青年に薬が効いてきているがまだ自立歩行をしていることに気づき、酒場の入り口に立った。
「今夜は肌寒いと思わない? ……温かい手が恋しいの」
 すり、とすり寄る様にリノは青年たちを誘う。蠱惑的な笑みの中に潜んだ打算に男たちは気づかない。美女の誘いは甘い菓子のように薫り立つものだから。
 とん、と青年とぶつかるシラス。さ、と抜き取った財布を手にシラスはくす、と小さく笑みを浮かべる。
「今のガキ、近頃噂になってるスリじゃないか!? 兄さん達、大丈夫か?」
 あっと声を上げたのは大地。大地の声に青年たちは自身のポケットから財布が抜けていることに気づき「あのガキ」と声を荒げた。
「あああーー!」
 大げさなほどに声を上げた冥利。がば、と青年たちへと近寄った彼の瞳には不安が浮かんでいる。
「強そうなお兄さん達! 僕のお財布盗まれちゃったみたいなんだ。
 一人じゃ怖くて無理だから、一緒に来てくれないかな?」
「俺たちもちょうどあいつに財布をスられたんだ」
 スリにあった理由は『リノが彼らの財布の位置をシラスに合図していた』からなど彼らは知らない。冥利は「ほんとに?」と安堵したように胸を撫で下ろし、財布を取り返そうと青年たちと走り出す。
「待て! ……逃げ足の早い子供だ!」
 ふらつきながらもシラスを逃がし、且つ、青年たちが『シラスを見失わない』距離を保つようにしかけるラルフ。
 ヘルマンはその様子をからからと『楽し気に笑いながら』見つめていた。
『王子様』をリノに任せ、袋小路へと追いかけ始める青年たち。女一人に任せるのは、と一人残ったことがきっかけに全員で袋小路へと移動することなり――ヘルマンは「大丈夫かい?」と王子様に手を貸した。
「飲みすぎなら水があるから飲んで飲んで! お姉ちゃんも大変だね」
 スリだろ、とヘルマンが困ったように肩を竦める。医者だと名乗りふらつく王子様に近寄ったレイチェルもスリには困らされているのだとわざとらしく告げた。
「頼むよー! おじさんの全財産が入ってたんだ。生活出来なくなっちゃうよー!」
 困り顔の冥利に大丈夫だと青年は告げた。この先は袋小路だ。オイタをした少年にはお仕置きをしてやらねばと青年が告げたとき、くるりとシラスは振り返った。
「もう逃げられない、アンタらがね」


 だん、と地面踏みしめる音がする。背面から振り翳すトンファー。
 背面には余裕を見せていた青年がガッと声を発し前のめりになる。ひゅ、と息をした冥利に青年は意味が分からないといった表情を浮かべる。
「僕も人間に恋しているから、気持ちはよく分かるよ。
 好きな人のことを考えるだけで頬が熱くなるよね。ほら、目も赤くなって。本能のままに愛してしまう」
「……何の話だ?」
 それはアンジェルという令嬢の気持ちに寄り添った一言だったのだろう。冥利のじっとりとした声音に緊張したように青年は確かめる。背後のシラスの『一言』も気になり、前後に緊張を走らせるしかない状況下で冥利はくすと笑った。
「それで最後は、自分の手でぐちゃぐちゃにしたくなっちゃうよねぇ?」
「な、なんなんだよ、お前――!」
「『お前達』ではないのかね」
 淡々と告げたラルフ。薬物により気を失う王子様から仲間たちを遠ざけるように動いた彼に『共に飲んでいたリノ』を心配するように青年が声を上げる。
「心配するのはそっちかね」
 冗談めかすように告げられたそれに青年はえ、と声を漏らした。
 義手には魔力が込められている。至近からの一撃の重みに青年がぐう、と声を漏らすと同時、大地は呪いを帯びた銃口を青年へと向ける。
「スリだなんだっていっても怖いのは人間だネ」
 からりと笑う大地の声に青年の表情が蒼褪めていく。お休み中の王子様と美人を守らねばと走り出す青年の身を容赦なく打ち抜いて大地がくるりと振り返ればリノは笑った。
「ごめんなさいね、お仕事なの」
 お休み中の王子様を起こさぬようにとリノはエイヴに彼を任せた。
 その様子になんだといわんばかりに彼の仲間たちがどよめく。行く手を遮るリノはころころと笑い困ったように肩を竦めた。悪戯っ子の猫のように靱やかに動くリノの動きと反対に穏やかに青年を抱えたエイヴは歩き出す。
(ロープと猿轡……『傷』にならない様に運ばなくては)
 青年の動きを制御したエイヴ。その様子は傍から見れば尋常ではないものだ。
 待て、と仲間を奪われんともがく青年の前へとヘルマンは躍り出る。ここで青年を取り返されてはミッションが失敗してしまうではないか!
 鵺鳥の印を切ってシラスはこの光景は『正常』ではないと認定していた。勿論、仕事なのだから悪だ正義だと語る口を彼は持ち合わせないだろうが――異常なものではあるだろう。
 淡々と王子様を運ぶエイヴは「了解」とすれ違いざまに小さく呟く。

 ――顔は傷つけないでね。

 我儘プリンセスのかわいい純愛なのだ。王子様にとっては運のない話だが、彼女の唯一の外界(まど)に彼が入り込んだのが悪いのだとシラスは『納得』しておいた。
「お前ら、そいつをどうするつもりで――!」
「まあまあ、知ったところで意味ないぜ? だって――お前ら」
 ヘルマンは手にしていた妖刀を向ける。それ以上の言葉はない。それを口にしたところで青年たちは理解することがないからだろう。

「死ぬんだからさ」

 嗚呼、この依頼は『そういう事』をできる『そういうやつ』向けなのだ。
 善悪を語らっても、令嬢を悪だと断罪する必要もない。つまりは、しっかりと任務をこなすだけ。
 青年が声を荒げ、まっすぐにヘルマンへと飛び込まんとする。
 先行くエイヴへの導線を塞ぐようにラルフは義手で青年を受け止めその身を反転させる。
「ッ――うぉ!」
「邪魔をしなければよかったものを」
 肩を竦め、宵闇の外套を揺らしたレイチェルは黒百合の意匠を刻んだ銃口を青年の額にぴたりとつける。
 地に刻まれし激しい憎悪の如く『青年を喰らわん』とする一撃は一気に飲み食らうが如く。
「お前らっ、誰の差し金で……!」
「聞きたがるんだな。そういうの」
 レイチェルの声音にぞ、としたように青年は肩を竦めて見せた。冥利は仲間たちを逃がしたくはないから、と多段攻撃を仕掛けてゆく。
「うんうん、この調子だね」
「はは……まあ、このまま『知りすぎた』人間には死んで貰おう」
 誰かの依頼で動いていると勘づかれたならばとシラスはだん、と地面を踏みしめた。
 誰かの差し金なのだ。そして、その核心に触れたから殺される。
 青年たちはそう悟り、じりと後退した。だが、行っていたではないか『この先は袋小路』だと。
 背後に立つシラスは小さく笑う。ラルフの腕が伸ばされたことに気づき青年は「ひい」と息を飲んだ。
 レイチェルは笑う――目の前の友人たちに遠慮はいらない。オーダーは『王子様』の確保だ。
 ネモフィラの懐中時計を掌で弄びレイチェルはゆっくりと銃口を向けた。
「……悪いなァ、若人。医者が善人とは限らねぇンだぜ?」


 カーテンが揺れている。美しい景色の中にはどこか焼け後が残され、月が煌々とそれを照らしていた。
「あれはわたくしが燃やしてとお願いした孤児院ですの」
 穏やかな表情でアンジェルは微笑んだ。依頼の内容はコンプリートだ。
 エイヴが先に運び込んだ青年はよく眠っている。
「それで、お嬢サマ」
 ヘルマンはへらりと笑う。この仕事は『そういう事ができる奴』に対してのご依頼だ。ここで、彼女に対して何らかの文句を言うのは間違っている。
「氷棺(テーブル)の上に飾り付けられた王子様。……甘美な響きだわ。実に、素敵」
 うっとりとした女は特異運命座標に礼を言うようにスカートを持ち上げた。
 意識を失った青年はこのまま暗い匣の中へと閉じ込められてしまうのだが、それを彼は知る由もない。
「この通り、お望みの方をつれて参りました。貴女様の王子として相応しいお召物でもあれば、着替えさせましょうか?」
 紳士のように振る舞い笑い。大地はアンジェルに問いかける。豪奢なフリルとレェスに飾られた淑女は砂糖菓子の如く甘い笑みを浮かべて「お着換えね、そうですわね」とこてりと首を傾いだ。
「王子様を着替えさせて、この中に閉じ込めればより立派な標本(かざり)になるだろう」
 怜悧な瞳をちらと向けたエイヴ。嬉々とした瞳を輝かせるアンジェルは楽し気な冥利を指定し『王子様』に着せる服を選んでいる。
(はは……怖えなあ、女って。
 正直頭おかしいと思うけど、親御さんには力がありそうだね)
 シラスは頬を掻く。アンジェルの行いは荒唐無稽だが、それを容認する父親は貴族としてもそれなりの地位なのだろう。
 ここで恩を売っておくのは間違いではなさそうだとシラスもその服選びに混ざる。父に事前に用意させていたという『妄想上の王子様のデート服』はどれも仕立てが良いものだ。
「これなんかいいんじゃないかな?」
「まあ、素敵。これに致しましょう。ああ、でも氷棺(はこ)に入れてしまうとお着換えも難しいのかしら……差し上げましょうか? この布」
 服をぴらりと持ち上げたアンジェルにシラスは頬を掻く。彼女にとって人々はおもちゃであり、服はただの布や着せ替えの道具でしかないのだろう。
「ねえ、あなた、これ素敵でしょ?」
 くるりと振り返りレイチェルに微笑むアンジェル。その笑みに曇りはなくそこに悪意など存在しないのだと思い知らされる。
(歪んじゃいるが、俺にはあのお嬢さんを否定することも責める事もできねェな。
 ……正確には、罵倒する資格が無い……だな。――俺も似たようなものだ)
 肩を竦めるレイチェルにきょとりとしたアンジェルは首傾ぐ。素敵だわ、ところころ笑ったリノに合わせて相槌打つようにレイチェルは大きく頷いて見せた。
 大地は壊れ物のように王子様を暗い匣へと閉じ込めてゆっくりと扉を閉める。
「ミッションコンプリート」
「ええ、ええ、ありがとう」
 くすくすと笑ったアンジェル。ラルフとヘルマンは先に屋敷の外に出たらしい。
 ふと、アンジェルはテーブルの上に飾られていた一輪の花と便せんに気付く。
『貴女は哀れだ。
 生まれの不条理を憐れみと愛によって歪められ、君は不条理を他人に強いる事を愛と誤解した。
 その行為は愛ではなく憎悪と言う、不条理を押し付けられた故の意趣返しの八つ当たり。
 実に滑稽で愛らしい、燃えて凍える貴女の心はどんな夜明けを迎えるのかな?

 ――メリッサを添えて、ラルフ』
 渡された手紙をぐしゃりと握り潰す。令嬢の瞳に宿ったのは仄かな憎悪。
「何が――」
 手紙の主たるラルフはここにはいない。固く閉ざされた氷の棺を眺めていたリノは彼女のつぶやきを聞いた。

 ――あなたに、何がわかるというの。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした。
 アンジェル様の暴走はまだまだ続きそうです。

 また、ご縁がありましたら。

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