PandoraPartyProject

シナリオ詳細

唾吐く代償

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「な、こ、これは一体……!」
 深緑の大自然、迷宮森林。
 その一角で深緑に住まう幻想種は――唖然としていた。
 燃えている。迷宮森林の、木々が。
 いや別に大火災が発生している訳ではない。あくまでもほんの小さな部分であり、今は消火活動も行われているが故に大した影響など残らないだろう。しかし――自然と共に生きる深緑の者にとって『火』は禁忌とされるものだった。
 どうしてこんな場所で火が? 近くには火災を発生させるような物も見受けられないが……

「――魔物の仕業だ。それ以上でも、以下でもない」

 瞬間。背後より声が掛かり振り向けば、そこに居たのは迷宮森林の警備隊が一人。
 バスカル・オームという人物だった。
 彼はこの周辺の警備を統括する幻想種であり、部隊を統括する技術においては中々に優れた能力を持つ人物でもある、が。
「まさか……魔物が火を放ったと!?」
「魔物の生態系は多種多様。そのような魔物が現れても不思議はあるまい……
 我々も尽力したのだが、完全に被害を防ぐことは出来なかった――やむを得ぬ」
「――貴方がやったのではありますまいな!」
 同時に『黒い噂』がある者でもあった。
 バスカルは魔物の撃退する際に過激な行動をとる事もあると。木々の被害を考慮せず、撃破を優先……そして何より、そういった事を咎めた幻想種が――後に行方不明になっているという噂も……
「なにか証拠でもあるのかな? 推測による物言いは止めて頂こうか!」
「ぬぅぅ……!」
「ふん。ファルカウで書物と戯れるお歴々はこれだから困る。上が上なら下も下という事かな?」
「貴様ッ!」
 バスカルが蔑むように言った『上』――
 明示こそしていないがそれはつまり深緑の長たるリュミエの事を言っているのだろう。言動や行動が苛烈であるバスカルにとってみれば、基本的には穏健たるリュミエの姿勢とは反りが合わぬ訳だ。
 しかしそのような言動は彼女を慕う者にとってみれば憤怒の感情を呼び起こして当然。
 食ってかからんとする幻想種――されど同時に、周囲では弓を構える音がして。
「おっと。こちらも見ての通り消火活動で忙しいのでな……これ以上こちらの妨害をするというのなら強制的な『排除』も辞さぬが?」
 それはバスカル派の幻想種達の戦闘態勢の音だ。
 過激な言動は人を遠ざけるが、同時に惹かれる者もまたいるのである。バスカルの行動を支持し、彼に付き従う幻想種と言うのも全くいない訳ではない。
 この場は敵だらけだ。また、火を使ったという証拠もないのは確かである……
「くっバスカル……貴様のその在り方が、いつまでも放置されると思うなよ……!」
「口ばかりの小役人に何が出来るというのか。軟弱物めが!」
 はっはっはと嘲笑する声が、ファルカウへと戻る幻想種の背に浴びせられる。
 バスカル・オーム――彼の増長は、日々激しくなっていた。


「バスカル・オーム。奴は危険な男です……
 これ以上、深緑や森そのものに害を成す前に――彼を排除して頂きたい」
 後日。深緑へと集められたイレギュラーズの前に、幻想種はそう語りだした。
 バスカルを暗殺してほしいと。
「奴は深緑の体制を批判する声すら挙げているのです。リュミエ様の姿勢が、ファルカウを衰えさせていると……無論公的な場で斯様な事を言っている訳ではありませんが、奴の慇懃無礼な態度は日々増長しています」
 奴に反感を持つ者も同時に増えている。が、バスカルは一応地域を守護する仕事は確かにこなしているし、先述した様に『公的な場』ではあくまでも口が悪い程度であるが故に、立場から排斥というのもどうかとされている。
 問題なのは遂に奴が『火』を使う疑いが持ち上がった事だ。
 深緑で火はご法度である。バスカルが火を使ったという証拠はないが……
 奴ならばやり得るとされる疑いがある。
「かといって放置も出来ません。証拠集めの為にもう一度使わせる訳にもいかない」
「――だから暗殺、と?」
 ……成程。あまり外聞の良い話ではなさそうだ。
 バスカルは善人ではない。他者を蔑ろにし、木々を軽んじ、リュミエすら貶める彼はいつか裁かれるかもしれない。その行為の因果応報によって、彼は破滅するだろう。
 だが。だからといって私的に今裁いていいかは話が別だ。
 破滅の針を意図的に進める行為は、決して褒められる行為ではないだろう。
「お受け頂けるかはお任せします。バスカルは普段は警備隊の施設に籠っており、そこだと警戒が厳しいので……魔物が現れた際がチャンスでしょう。奴は毎回配下を伴って出撃しますので……」
 そこを横から殴りつける形なら――まだ容易いと。
 バスカルの配下まで壊滅させる必要はない。奴らは所詮バスカルの腰巾着にしか過ぎないそうで、奴を討ってしまいさえすれば容易く瓦解してしまうそうだ。
 後はどうすべきか――イレギュラーズ達は思案を巡らせていた。

GMコメント

●依頼達成条件
 バスカル・オームの暗殺

●戦場
 深緑、迷宮森林の一角です。時刻は昼。
 木々に囲まれた場所であり、バスカル率いる警備隊はこの周辺に現れた魔物の討伐の為に出撃しています。皆さんは戦場から少し離れた地点からスタートする事になります。
 スタート時点でバスカル隊と魔物の交戦は始まっていますので、どこからどう攻撃を仕掛けるかが重要でしょう。

●バスカル・オーム
 深緑の幻想種にして、迷宮森林の一角を守護する警備隊の長です。
 ……が、非常に傲慢かつ過激な言動が目立つ人物であり、深緑の長であるリュミエ・フル・フォーレを軽視しているともされています。最近では魔物の撃退に『火』を使ったともされていますが、あくまで噂の範囲であり真偽は不明です。

 しかしながらその部隊指揮能力は確かなものがあり、あながち過激な言動だけの人物と言う訳ではありません。魔物を何度も撃退した手腕は確かに存在し、その所為かバスカルに付き従う幻想種も少ないながらいるのだとか。

 色々な言動、そして火を使った疑いは『黒』に近いのですが、今はまだ『黒』ではありません。
 その為にこの依頼は悪依頼になっております。

 彼を始末する事が今回の依頼です。
 彼個人の能力としては以下の特徴があります。
・R3内の味方勢力に対する指揮能力(反応・命中・回避・抵抗を上昇)を有します。
・本人は魔術を使う後衛タイプです。全体的な戦闘能力は後述の幻想種達よりも上で、単体としてもそれなりに優れている様です。
・シナリオ開始時は最前線から一歩離れた所で指揮に専念しています。

●バスカル派の幻想種×15
 バスカルの在り方を支持する幻想種達です。
 5名が前衛。10名が弓を持つ後衛タイプです。内、後衛タイプ2名がバスカルの周囲で警護しています。戦闘能力はそこそこ程度ですが、バスカルの指揮範囲内だと明らかに動きが良くなっています。後述の魔物達と戦闘を行っています。

●魔物『アルラウネ』×8
 迷宮森林に現れた魔物達です。
 人型の姿をした植物の魔物で、幾つかのBSを花粉が如く撒き散らします。戦闘能力はバスカル派の幻想種達と同等かちょっと上ぐらいですが、数の差やバスカルの指揮能力もあり押されている様です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『深緑』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 唾吐く代償完了
  • GM名茶零四
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
庚(p3p007370)
宙狐
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人
鏡(p3p008705)
袋小路・窮鼠(p3p009397)
座右の銘は下克上

リプレイ


 ――『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は思考を重ねていた。
 信念は理解出来る。強くなくては出来ない事もある……しかし
「……己が国を守る為に己が国を壊す。それは愚かでしかありません」
 国そのものを蔑ろにする者に――何を護れようか。
 バスカルは始末する。深緑を壊す人間など……絶対に許せないから。
「んーでも対面が悪いんだよなぁ、この依頼。
 あからさまに内部粛清すると恐怖政治みたいだからねえ」
 とはいえ、と言葉を紡ぐのは『観光客』アト・サイン(p3p001394)である。
 この一件にリュミエは関わっていないだろう。しかしリュミエに良からぬイメージが付くのは宜しくないのではと――可能であれば黒く塗りつぶした方があちこちに良いかもしれぬ。
「ちょっと変装ぐらいしてみようか。ま、やれるだけやってみようよ。んーと、そうだね……バスカルはあんまり木々を信仰してないみたいだから……木の枝とかを組み合わせてさ、どうだろう。怒れる精霊?」
「うーん、そうだネ。精霊っぽくするならギリースーツみたいなのを作ればいい風味がでるんじゃないかナ? 戦闘の動作の邪魔にもならなそうだしネ」
 次いでそんなアトの工作を手伝うのは『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)である。幻想種の、身内の不祥事としては身が狭くなりそうだが……これも仕事であるのならば止む無し。実際バスカルは炎も使う危険な奴であるなら――キッチリやるだけだと。
「出る杭は打たれるとは言うが、その杭がひん曲がってりゃあ折られるのも道理……ま、調子に乗った末がこういう有り様って所かね。他人を馬鹿にするような奴なら、同情も出来やしねぇ」
「ああ、依頼を受けた以上は、十全に務めよう。確証なしの、私刑代行であっても、な」
 更に『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)も何かしらの手伝いになればとアトらの工作を支援し『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はバスカル達がいるであろう方角を観察する。
 後は介入のタイミングも大事だと。バスカルを暗殺なりすれば、後は自ら達は退く……その時にアルラウネが残っていればそのまま進撃してくるかもしれない。
「まぁ、そこまでは、マリア達の考えるべき点でも、無い気はするが……しかし、念の為、忠告ぐらいは、しておくか」
 依頼主に。他地点の警備隊に連絡してもらうだけでもいいと。
 バスカルを失った隊がどれほど使い物になるかも分からないのだ――無駄な犠牲が出るかもしれないのを放置するのもどうかと、エクスマリアは思考して。
「さて、参りましょうか。戦闘が始まっているのであれば猶予も無し……
 後は現地にてバスカル様のご手腕を是非ともこの目に拝見しましょう」
 ええ、ええ――最後の勇姿をと言うは『宙狐』庚(p3p007370)である。
 己が手腕に酔うバスカル様……いえいえ可愛らしい事では御座いませんか。いつの世も生存競争とはそのようなもの。古き悪習を断ち切らんとする突然変異が現れては、より適した方が他方を淘汰してしまう――バスカルが真に優秀ならそれでも良し。
「どちらが正しいのかを判断するのは後の世、生き残ったものの子孫であるでしょう」
 己らは。ただ今に生きる己らは――依頼を果たすだけですと。美しい生存競争、いのちの営みにくちばしを突っ込むのは無粋であるという意味で残念な気持ちにはなりますけれど……
「まあ、こういうこともありますよね」
 偶にはと、庚らは往く。バスカル達の背後を突くかのようなルートを。そして道中で工作班が作ったギリースーツを着込めば。
「まぁ真か偽か善か悪か……んなことは私にはど――っだっていいですー。脚を頂ける相手がいるのなら始m……イーゼラー、様に捧げるのがこの私にごぜーますー」
 『不屈の恋』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)は吐息一つ。ああ、なんでしたっけ、バスカル? 口が悪い? 過激? あぁそうでございますか、でも『足』はあるんでごぜーますよね? それなら十分。
「消してもいい命なら……ああ、ええ。腕を振るっても問題は無し、と」
 腰に携えし無銘刀――鏡(p3p008705)はその感触を五指で確認しつつ。
 皆と歩調を合わせる。
 奪うべき命がこの先にあるのだと――確信しながら。


「よいか、一斉には撃つな! 弓矢を絶やさず波状攻撃を仕掛けるのだ!」
 アルラウネと警備隊の攻防は既に始まっていた。
 その中で目立つ声を出しているのは――バスカルか。
「あれ、か。ふむ、指揮を執る為に、一歩、退いてるようだが……好都合、だな」
 気取られぬ様に位置に付いたエクスマリアは独り言ちる。
 狙いはバスカル。配下の連中は究極的にはどうでもよいのだから――
「ぬっ! な、なんだ!?」
 往く。バスカルと前線を担う者達の間に割り込むように。
 同時に放つのは攻撃だ。エクスマリアの顕現させるソレは――球体へと変化した黄金の髪。
 内部では轟いている、電流が突き走る様な音が。
 ある一定の速度を超えた時には――それはついに一つの一つの雷弾となりて。

「仕事中に悪いが、死んでもらう。理由は言わずとも、察せるだろう?」

 敵を穿つ炸裂弾となるのだ。
 バスカルの足元に直撃する。身体を痺れさせるかのような一撃を皮切りとして。
「恨みはねぇが、これもお仕事ってやつなんでな。覚悟しな」
「可愛いカノエの坊やたち。遊んであげてくださいましね」
 窮鼠と庚もまた同じ場所へと乱入する。このまま数をなだれ込ませ、完全に分断するつもりだ。窮鼠が放つのは邪気を払う聖なる光――それは味方を巻き込まず敵と認識した者だけを焼く神秘だ。更に庚も第三勢力としての立場から、同じように敵のみを呪う結界を。
「おのれ……貴様らどこの刺客だ! 私を邪魔に思う反対派の民か、小役人か!」
「アー、アー、バスカル、ツレテイク、オトナシクシロ。テイコウスレバ、ノロイ、アルー」
「ふざけおって、斯様な変装で私の目を誤魔化せるとでも思うか!」
 直後。声色も変えてアトは精霊の擬態を行うが――腐っても幻想種である故か、バスカルは即座に看破したようであった。流石に存在レベルの変装は如何に器用であるアトでも困難であったか……しかし顔が見られていないのは確かである。
 イレギュラーズであると思われなければリュミエに迷惑などは掛かるまいと、彼は速度を利用して敵へと一撃。強き蹴りがバスカルの護衛の一人に当たって。
「くっ――バスカル様!」
「狼狽えるな! 数では此方が有利なのだ、逆に挟み込めェ!」
 さすれば次第に前線を担う者達も動き始める。
 アルラウネよりも数で優勢である故か――ある程度は戦力を別ける事もバスカル達は出来るのだ。とはいえ今しがた言った『逆に挟み込む』程の形に出来る余力があるかは甚だ疑問だ……士気を下げぬ為の苦し紛れだろうか。
「ンッー。まぁここで追い込んでおくべきだよネ。
 悪いネ、同族ではあるけれど容赦は出来ないんダ」
 そして陣形を変更しようとする前線に対してジュルナットの弓が振舞われた。
 それは天より降り注ぐ、鋼の驟雨とも言うべき一撃。木の上に登りて射線を確保している上に、敵のみを撃つ秘儀だ。奇襲の効果は高く、アルラウネも幻想種も巻き込んでジュルナットは牽制して。
「チィ、思ったよりも戦力が……うむ!?」
 瞬間。バスカルを襲う影は――鏡だ。
 殺意の塊。そう言って差し支え無いほどの『圧』を身に溜め込んでいる鏡の一撃は本気だ。
 殺す。
「誰にも邪魔なんてさせませんよぉ。こんな首を見逃すだなんて」
 あり得ないから。
「ぬぅぅぅ、舐めるな! このバスカル、刺客如きにこの首をくれてやれんわ!」
 されどバスカルも甘くない――彼の振るう矢は神速が如き勢いで、己が前に陣取っているイレギュラーズ達に紡いでいく。成程、警備隊を束ねる立場として実力を持っているのはやはり確かなようだ。
「それだけの力量を持ちながら、凝り固まった思考を持つとは……恥を知らぬ輩は全てを無為にしますか!」
 それでも、弓を使うのであれば近接は得意ではあるまいと。
 跳躍したのはシフォリィだ。
 木々を飛び跳ね強襲する様に刃を振るう彼女の脳裏には、感情が渦巻いていた。ああ、自らでも自覚している――自分には正義感など無いと。バスカルを殺す事に『正しいから』とか『彼が間違っているから』などという理由を抱いてはいない。
 ただ、許せないからだ。
「深緑を護る者ならば、火など扱うべきでないと一番分かっているでしょうに!」
 自らの中に流れる半分の血。
 幻想種の血が――彼を許さない。深緑を壊す人間など■■■しまえ、と。
 ……自らのエゴが顔を出しているのだ。
「さぁさ急ぎましょうかねー魔物達がこっちに来ても厄介ですし、その前にどーにかー」
 同時。ピリムも戦場の最中を動いていた。
 心頭滅却が心構え……急所や関節を狙う脚での突きにて皆のサポートを。
 敵対者の動きを鈍らせ、その心に隙を作るのだ。
 ああどうなるのだろうか。ここは楽しみだ――とっても一杯供物がいる。
「んーふふふ、一、二の三、四の……より取り見取りでごぜーます」
 品定めをしながら彼女は舞う。
 ああ――どれだけの『足』を頂く事が出来るだろうかと。


 バスカル派は多少の混乱に陥っていた。
 それ自体はバスカルの一喝もあり急速に落ち着いた訳だが……しかしアルラウネを前に戦力を減らせば戦いは安定しない。むしろ様々な負の要素を振り撒くアルラウネ達と戦っていれば、時間が掛かればやがて不利になっていくことだろう。
「くっ、いったん後退しろ! バスカル様と合流だ!」
「しかし奴らが邪魔だ……!」
 彼らの心理としてはバスカルに合流したかった。
 が、それを割り込んだイレギュラーズ達が邪魔する。合流されぬ様に立ち回り。
「神輿に担ぐだけ担いで忠義も持たない腰巾着達……こんな程度ですか」
 バスカルに近寄ろうとする者を斬り捨てるのはシフォリィだ。前衛が少ないのが幸いと言うべきか、距離的に彼女は有利な位置で戦えている。しかしバスカルらの間に滑り込んでから剣を幾度も振るうが――大したことはないものだ。
 やはりこんなものか、森を焼くのに加担する者の志と力など。
 掛ける言葉もない。ただ白銀の刃を携えて――振り抜く。
「ただ彼らが押されるとアルラウネ達の花粉もこっちに届く様になっちゃうからネ。急いでバスカルをなんとかしておきたい所だネ」
 言いながら弓を引くのはジュルナットだ。
 シフォリィと同様にバスカルに近寄ろうとする者へ嫌がらせの様に迎撃の一閃を。さすれば反撃の一撃も撃ち込まれるものだが――まぁまだ問題はない。それよりもアルラウネ達だ。
 忘れてはならない。バスカルとの間が開いている間に割り込んだが故に、脅威はそこにあるのだ。アルラウネ達にとってはイレギュラーズも警備隊も関係なく攻撃対象。かといって――アルラウネ達との戦闘が終わった後ではバスカルと警備隊が合流し、間に割り込むというのも難しかったろう。アルラウネという脅威が戦場にあるのは仕方のない事でもあった。
「猪口才な……たかがこの程度で、もう私に勝ったつもりか!」
 同時。バスカルの振るう矢にも力が籠る。近くにいた護衛達はもう倒れる寸前であるが、彼自体はまだ体力が残っている様だった。振るうソレは雨の如く。イレギュラーズに降り注ぎ、自らの敵対者を打ち倒さんとする――
「ああ……覚え説いた方がいいぜ? 幾ら優れてようが、規則を破りゃあ淘汰されるのさ。
 つまりアンタは敵を作り過ぎたって所だな」
 ま、その証拠もねぇわけだけど。と窮鼠は呟き、同時に治癒の力を。
 少しでも皆の力を維持させるべく立ち回る。しっかし、比較的穏やかな国だと勝手に思ってたが後ろ暗いとこもあるものである……まぁ全ての民が善良である国などなし。こういう面もあるという事だろうかと。
「いやぁこわやこわや」
 含み笑いするかのように――彼は言葉を零して。
「ぐぅ……馬鹿な、この私が、こんな所で……!?」
 そうしていればバスカルの奮闘にもやがて限界が訪れ始めた。
 一人ではやはりどうしようもない。合流してこようとする戦力はあるが、しかしそれでもアルラウネの存在もあれば全てとはいかず――
「モリ、オコッテイル、オマエ、ツレテイク……ああもういいよね? どうせ最後は一緒だし」
 同時。アトがバスカルの弓の一撃を受けながらも――構わず確保のために往く。
 それはナイフ。薬の知識を応用して作成した、自らの血液に反応して効果が発揮される――一種の麻酔薬だ。これをもって彼を確保し、色々と自殺に見せかけよう。そうすれば誰にも迷惑は掛からない筈だ。尤もそれを行う為には目撃者も全て消えてもらう必要があるだろうが……
「ぐッぉぉぉ……!」
「バ、バスカル様!!」
 バスカルの抵抗が奪われる――と同時。彼を取り戻そうとする一派が一気にイレギュラーズの下へと。最早こうなればアルラウネ所ではない、自ら達のリーダーが連れ去られるのを放って置けるものか――
 伴ってアルラウネ達との距離も縮まって来る。
 バスカル派との交戦によりある程度数は減らしているが……しかしゼロではなくて。
「おやおやおやおや……なるほどーそうなりますかーあはははは。
 恨むのなら己の運命を恨みましょーねー。私は脚があったら頂くだけですのでー」
 しかし向かってくる輩がいる事に歓喜するのはピリムであった。
 弓矢を振るわれながらもそんなものは眼中にない。致命傷を受けない様に立ち回りつつ――狙うは足。特にバスカル派の中の女性を狙おう。幻想種は見た目麗しい者が多く……あぁ、思わず舌なめずりしてしまいそうで。
 加速。からの音速殺術。
 足以外を切り刻むかのように舞う。視線を下に、美しき芸術<足>を――見据えながら。
「さて、さて。如何したものでしょうかね。可能な限り生け捕りにしてみたいものですが」
 と、幻想種らに相対しながら庚が紡ぐのはこの後だ。
 蝕む一撃で敵の体力を削るも――しかしアルラウネ達も来ていると成れば更なる混戦と激戦が生じる可能性もあった。バスカルを殺すだけであればすぐにでも出来るのだろうが……
「やはり、この場で殺すべき、かも、しれんな。奴らも、追い縋って、くるぞ」
 同時。エクスマリアの視線が敵を穿つ。合わせ鏡の呪法が全てを蝕み――連鎖破壊を。
 殺すか確保するか、エクスマリアにとってはどちらでも良かった。自らとしてはその場で仕留める様に動いてはいたが……仕事が過不足なく遂行されればそれでよい。しかし確保に至っての問題は離脱であった。
 バスカル派が追わぬ理由はなく、伴ってアルラウネ達も付いてくる可能性がある。人一人背負いながら距離を離すには十全たる機動力も必要だった。或いは敵を全滅させれば話は別だが……さてこれよりの道筋をどうしたものか、と。
「――いやぁ無理でしょう。という訳でやっちゃいましょう、それがオーダーですし」
 となれば元々のオーダー通り果たすべきだと、機を窺っていた鏡が抜刀一閃。
 バスカルの首を――斬り裂いた。
 一瞬なれど指先に伝わる柔肌の感触。血飛沫舞う感覚は鏡にとっての至高であり。
「皮肉ですね、己が守ってきた深緑の民に死を選ばれ、望まれるとは」
 その様子を見ながらシフォリィはただ淡々と呟いていた。
 バスカルは望まれたのだ。深緑の一部の民に。彼を邪魔だと思う者に。
 その命が奪われる事を。
「――何でもしてきたのならば、何をされようと覚悟はできているはずです。撤退しましょう」
「ああ。これで、終わり、だ。後の問題は、あちらが、なんとかするだろう」
 続いてエクスマリアが後方へと視線を一つ。
 バスカルの死亡により完全に統制が乱れているようだ――追いつくアルラウネと交戦する者。逃げる者、それぞれ散り散りと成っているが……まぁこれ以上は知った事ではない。
 仕事は果たしたのだから。
「やれやれ……先程まではまがりなりにも纏まりがあったというのに」
 庚も言う。警備隊は今やまるで子供の様に。それぞれを持って行動している――
 ああ。最後の一撃はなんともせつない。
 なんとなし、名残惜しい様な気分を味わいながら――森の中へと身を隠す様にイレギュラーズ達は撤退の帰路を辿っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 バスカルを確保するか殺すか色々考えがあったようですが『出来るか、出来ないか』で最終的にこのような描写になっております。傲慢な人物の最期たるや……

 それでは、ありがとうございました!

PAGETOPPAGEBOTTOM