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シナリオ詳細

ホワイトイディと食われた村

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●故郷よどうか帰ってきて
 レコードプレイヤーにおりた針が、どこか陽気なカントリーポップを再生した。
 アコースティックギターによるイントロメロディの後に、男の歌が始まる。ウェストバージニアという土地への郷愁と思い出をうたうその歌は、蓄音機から独特の風味をもって部屋へと流される。
 古風なウッドデスクと二人がけのソファ。
 ひとつ隣の部屋にはダイニングテーブルがあり、二人分のミートスパゲッティが並んでいた。テーブル脇には大きな窓。
 ガラスの割れた、窓。
 窓の外から、巨大な白い顔が覗いている。

 部屋に人間は、ひとりもいない。テーブル脇にちぎれた下半身がのった椅子があるだけだ。

●滅びた村と聖獣
「あの村です」
 ラヴィネイル・アルビーアルビーは、高い塔の上から指をさした。
 赤い屋根の家屋がおよそ十数件ほど密集した地帯。その更に周囲は林や野原が広がり、他の地域とは大きく離れているのがわかった。
 わかるのはそれだけではない。塔に備え付けた双眼鏡をのぞき込めば、村の家々の間を全長3~5mほどの巨人がのそのそと歩いては家の中をのぞき込んでいるのが分かるだろう。
 もしもっと拡大して、近くから観察することができたなら、巨人の造形をより深く観察できたはずだ。
 人間によくにたシルエット。肌は和紙のように白く、表面はざらついたウレタン素材のようで、しかし中途半端にナイフを打ち当てたところで表面の堅さや弾力によって弾かれてしまうこと。
 さらには人型であるにも関わらず顔面のパーツが異常なアシンメトリーに歪んでいることや、口が通常の二倍以上に拡大されていること。そして口の端から人間の手がだらんと垂れ下がり、血がしたたり落ちていること。
 このことから、彼らが人間を捕食し、あらたな人間(エサ)を求めていつまでも家々を覗いて回っていることがわかるだろう。もう一人たりとも、残っていないというのに。
「偵察隊の調べによれば、あの村にはもう生存者はいません。なのに、今もああして……。
 巨人が発見されたのは三日前ですが、未だに巨人たちはあの場所を動こうとしません。
 外見的な特徴から、あれをアドラステイア産の聖獣と断定して、討伐依頼が発行されました」
 ここまで説明すれば充分だろう。
 ラヴィネイルはあなたへと振り返った。
「今はああして村の中を徘徊し続けていますが、いつ他の集落へ移動するともわかりません。そうなればあの村のような悲劇が拡大することになる……そうなるまえに」
 そうなる、まえに。
 あなたがあの巨人を殺さねばならない。

GMコメント

■オーダー
 ノースヤコブという村に発生した巨人の退治が依頼されました。
 巨人はどこからか移動してきたという報告はなく、発見時には既にあの村に出現していたとのことです。
 数は観測できている限りで5体。
 パワーが強くブロック性能も高いため、密集し集中攻撃を仕掛けられると非常に厄介です。
 村の各所へ分散しているうちにこちらもまた分散して各個で戦闘を行うのがベターだと言われています。

■エネミーデータ
・暫定名『ホワイトイディ』×5
 3~5mの全長をもつ巨人。
 高い膂力があり、人間を捕食する性質をもつと予測される。
 知能は高いようには見えないが、人間が捕食されている結果からして野生動物かそれ以上の知能は少なくとももっていると思われる。
 武器を持ちいる様子はないが、時折岩を持ち上げて放り投げたりつながれた馬を踏みつけて引きちぎってみたりという動きを見せる。

 村は全長で1キロ前後の広さがあり、巨人達はこの中をバラバラに移動している。
 が、偵察隊が接触を試みたところ各固体が全速力で走り、それなりに短い時間で集合してしまった。
 このことから、村の各所で同時多発的に接触、戦闘を行うことが望ましいとされる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

  • ホワイトイディと食われた村完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月07日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
ルリ・メイフィールド(p3p007928)
特異運命座標

リプレイ

●人間の証明
 未舗装の凸凹道を、馬車の車輪が踏んでゆく。土と背の低い草ばかりの、どこか曲がりくねった丘の先に、小さな集落がみえていた。
 馬車の中で、流れゆく車窓の風景よりも依頼書こそを強く見つめる『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)。
「突然村に現れたという事は、あの村の中、もしくはすぐ傍で聖獣になったという事か……?
 聖獣にのは可哀想だが、だからと言って何の関係もない村の人を食い殺したことは許せない。これ以上被害が出る前に止めよう」
「『されてしまった』って、いうのは?」
 隣の席に座っていた『不屈の恋』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)が、見慣れない聖書めいた本を閉じて振り返った。
「それは……」
 ポテトは『聖獣は人間だったんだよ』と言おうとして、つい言葉に詰まった。理性や感情が阻んだのではなく、根拠に矛盾を感じたからだ。
 急にあえて迂遠な例え方をするが。
 大豆から抽出したタンパク質でできたプロテインパウダーが市販されていたからといって、世界全土のプロテインパウダーが大豆製であるとは限らない。牛乳から抽出したものもあれば鶏卵から、牛肉から、玄米からとったものだってある。
 製法のひとつを知ったからといって、それが他すべてに適用されているとは限らないのだ。
 聖獣の話に戻るなら、過去数十体の聖獣がほぼ使い捨てのように一作戦に投入されたことがあった。仮に人間を聖獣に変換しているだけなのだとしたら、たったひとつの作戦に何十人と投入した計算になってしまう。それだけアドラステイアに人材が溢れているとも、その辺に転がっているとも考えづらい。
 『あくまで製法の一例である』と考えるべきだろう。
 だから、根拠のとれていないこととして、ポテトは『なんでもないんだ』と笑って返した。
 追求があるかと思いきや、ピリムは聖獣がいかなるものかはどうでもよくて、むしろ足のついている生き物だという部分にしか興味がないようだった。
「そのホワイトイディという聖獣の足は、『どんな風』なんでしょうねー。切り落としていっぱい持ち帰ってもよいでしょーかー」
 ほわんとした顔でいうピリムに、ポテトは。
「個性的な考え方だな?」
 と、笑顔で返してきた。
 ピリムも結構な変人ではあるが、それにしたって他人の顔色がみえないわけでもない。意外な反応についきょとんとした。
「ポテトたそは、嫌がらないんですねー」
「んー、好ましいとは思わないけど……この世にはいろんな人がいるからな。けど最後は一緒に世界の敵と戦ってくれるって信じてるんだ」
 純真無垢な笑顔。ぴりむは『まぶしー』と心の中で叫んだ。
 で、馬車の中は一旦聖獣の話に戻る。
「聖獣って聖銃士やオトナ達に使役されているのだと思ってたけどこんな風に徘徊して人を襲うものなの?
 これじゃあ、ただの怪物じゃない。どうしてこの村を離れないのか気になるけど」
 依頼書をとじた『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)がうええと顔をしかめていた。
 『確かにそうだな』と、馬車を操作していた『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が御者席から小窓越しに返してきた。
「アドラステイアの対応がローレットに任されてからすぐ、近辺で大規模な聖獣討伐依頼があったんだ。その中には、廃墟になった村に居着いている固体も多くあった。
 当時の見立てでは、アドラステイアが自分たちの邪魔になる近辺の住民達を自発的に退去させるために大量の聖獣を野に放ったんだと考えられていたね。
 今から向かう村は、その中でも退去しなかった村……なんだと思う」
 生まれた土地を離れるのは、身分が低ければ低いほど難しいものだ。
 領主に政治のすべてを任せて農作に集中する民などは、特に土地を移れないことがおおい。移ったところで、生活を畑に密着させた以上生きていけないからだ。
「けれど、だからって……『動かなければ死を』なんてやり方は、認められない」
 リゲルは小窓に背を向けていたけれど、彼の言葉に籠もった怒りのニュアンスに、タイムはそっと目を伏せた。
 世界は今日も簡単そうに回って、空はいつも通り青い。
 けど見えないどこかで、誰かがきっとひどいめにあっているんだ。
 そしてリゲルは、その『きっと』が人一倍許せないのだろう。
 もしかしたらそれを、正義と呼ぶのかも知れない。

 続く細い石畳の先に、ドア。かかった看板には『バー』とある。
 エールの瓶が並んだ棚には、ついこの前まで人が生きていた名残があった。
 バーカウンターに並んだコップ。ピーナッツの入った銀色の皿。手作りのシャンデリア風照明からはとっくに蝋燭の火が消えていたけれど、そこで誰かが過ごしていたのはきっと間違いがない。
 飲みかけのビールにうっすらとつもった誇りの層から、それがずっと前だと分かるだけで。
「おいおい、これが神の加護に一番近い国かよ」
 『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)は無神論者というわけではない。混沌肯定ルールがただの自然現象だと片付けるにはあまりに人間に寄り添いすぎているし、神に近い大精霊なんていう存在も見たことがある。
 けれど、神様を『信用』してはいなかった。
「幻想の田舎にだって、こんなひでー滅び方は聞いたことねーよ。国の立て直しだかが忙しいのは分かるけどよ、もっとやりようがあったんじゃねえのか……?」
 道ばたに転がったクマのぬいぐるみがみえる。
 ぬいぐるみに深い影がかかり、巨人が踏みつけていった。それが何だかも分からないといった様子で、興味すらもなさそうに。
「ま、ぼやいたところでしょうがねえか。まずはコイツらを倒さねーとな」

 人型の巨大な怪物が、広場をぐるぐる回っている。
 長年踏み固められたであろう硬い土がさらに強く踏み固められるさまを、『特異運命座標』ルリ・メイフィールド(p3p007928)は土色のローブを被ってのぞき見ていた。
 傍らにはメカロバ。駆動音すら鎮めて、ルリの命令を待っている。
「一体どこからきたかはわからねえですが、こういうのはさっさと駆逐するのが吉ですかね……」
 しばらく観察を続けていたが、広場中央にある巨人は井戸のまわりを周回し続ける以外の動作をまるでしなかった。
 両腕をだらんと下げて、上半身を左右にゆするようにダラダラとした歩き方を続けている。
 頭はやや上向き、目はどこを見ているのか分からない様子でぼんやりと空に向いていた。特徴的なのは、口。綺麗に並んだ白い歯をむき出しにして、大きくあんぐりと開いたままにしていた。唾液のようなものは垂れていないが、代わりに口の端から赤いものが流れ出ているのがわかる。おそらくは、誰かの血液だろう。
「これがどっかの村に移ったらやべえですね。撃ち漏らさないようにしないと」
 ルリは静かにメカロバにまたがり、そして思い切り指笛を吹き鳴らした。

 ぎろり、と巨人が横を向く。
 屋根の上に立ち、帽子を深く被り直した『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)へと向く。
「そうだよデカブツ。お前に言ってんだよ。名前なんつったっか……」
 こちらを見つめる巨人は、ゆっくりと、もしくはのろまに身体ごとこちらを向き、両手をわきわきとさせながら一歩ずつ近づいてくる。
 アランは剣に手をかけ、するりと抜く。彼を象徴する太陽の聖剣ではないが、今では彼自身が聖剣そのもだ。
「お前らが生きてるためにやってるのか、楽しんでやってるのか知らないけどよ。これ以上人を食うってんならそれ相応の代金を出してもらわねぇとな」
 巨人の足取りが速まり、手が伸びる。
 アランはあえて強く踏み込み、跳躍し、相手の腕を踏み台にして肩のさらに向こう側へと駆け抜けていった。
「ジャイアントキリングは勇者の専売特許よ。行くぜクソ野郎!!」
 『つかまえてみな』とでもいうように、道を挟んで反対側の屋根へと飛び移る。巨人は民家をよじ登ってまたぐようにして彼を追いかけ始めた。

 激しく踏みならす足音が、ついに燭台を倒した。
 『never miss you』ゼファー(p3p007625)は教会のベンチに座り、目を瞑る。
 倒れた燭台は一つだけだが、誰もそれを直そうとはしない。ゼファーもだ。
 なぜなら、この教会で立っている燭台などもう一つも残っていないからだ。厳密には、先ほどのものが最後の一本だと言うべきだろうか。
『高潔にして潔癖、神の加護に守られた国
 まるで天国、清廉な暮らしが其処にある』
 とても教会とは思えない、肉の腐ったようなにおいと無数のハエに満ちた教会の中で、ゼファーは目を開いた。
「――何処ぞの誰かが詠ってた詩だったかしら。いや、或る意味では天国にめちゃくちゃ近いわよねえ。此処」
 ずずん、と足音がすぐそばで止まる。
 扉がひしゃげて引っこ抜かれた、堂の入り口が酷く陰り、人間の頭ほどはあろうかという大きく太い指がかかった。
 そして、巨大な目が入り口からこちらをのぞき込む。
 ゼファーは槍を地について、小指から人差し指をウェーブさせるように小さく振った。
「ハァイ。死神からのデリバリーよ」


「大丈夫だ。リゲルとの特訓の成果、しっかり発揮して見せる。
 だから安心してくれ。リゲルこそ一番聖獣たちと戦うことになりそうだけど、私たちが合流するまで頑張ってくれ」
 ポテトは『鴉丘』と書かれた木製の看板の横を駆け抜けると、つけた助走のまま白銀のボードへと飛び乗った。
 まるでサーフィンでもするように風をとらえて空へ浮かび上がると、彼女を追いかける巨人の手を逃れた。
「あーあーあー、もったいないことをー。
 村1つ分ってなったら本来なら脚何本手に入るんでしょーねー。
 まー過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ねーです、それに今回は大きな脚が手に入りそうですからねー」
 ピリムはそんな事を言いながら木造の小屋から飛び出した。
 目の前を抜けていくポテト。そしてそれを追いかける巨人。
 ピリムの狙いはまっすぐに、巨人の足であった。
 交差した刀をまるで裁ち切りばさみのように器用に繰り動かし、自分の胴体ほどに太い足を切り裂きにかかる。
 ギリギリでかわそうとした巨人は派手に転倒し、ポテトはボードから飛び降りる形でピルムのそばへと着地。
「必ず私が守って見せる。その代わり攻撃は任せたぞ!!」
 読み通りと言うべきか、ポテトの身体を掴んだ巨人は強引に彼女を小屋めがけて投げつけるが、その隙を突く形でピリムは巨人の足を完全に切断してしまった。

 ズズン、という音を立てて切り落とされた巨人の腕。
 しかし巨人はぼうっとした顔をしたまま、リゲルのほうを見るばかり。
 切り離された腕には殺された馬が。そしてそのすぐそばには、また別の馬が転がっている。
「逃げろ、早く!」
 リゲルが馬をつないでいたロープを剣で切ると、馬はびっくりした様子でその場から逃げ出した。
 直後、リゲルの胴体をがしりと掴む巨人。
(ポテト……君と離れるのは忍びないが、こんな時の為にお互い鍛錬を積んできた!)
 握りつぶされまいと絶えるリゲル。
 そんな彼の目の前を、パールカラーの球体が八つまとめて飛んでいった。
 球体たちは間に白い魔法の糸をはり、巨人のうでにぐるぐるとまきついては糸を強く発光させる。
 ただ光っただけではない、電熱線のように高温で焼き切ったのだ。
 手首からさきを切り落とされた巨人が、荒れた様子で振り向き、タイムへと狙いを定める。
「タイム!」
「大丈夫、一撃だけなら!」
 かざした手の周りに八つの球体が集まり、高速で周回。丸い光の板を形成すると巨人によるスタンピングを受け止めた。
 途端、駆け上がっていくリゲル。
 彼の剣が巨人の首筋を派手に切り裂いていく。

「今からその足、蜂の巣にしてやるから覚悟しろよコラァ」
 民間の屋根の上。剣を突きつけるアラン。
 そんな彼へと巨人は猛烈な勢いで走ってくる。
 仲間との距離は充分に離した。混戦状態になることは避けられるはずだ。
 迎え撃つなら、今だろう。
「――っし」
 構えたアランに思い切りたたき込まれる拳。
 常人とは比べものにならないパンチに屋根が崩壊しアランはどこかの家のリビングへと転落した。
 蓄音機から流れるカントリーミュージック。テーブルの上は腐りはて、下半身だけで椅子にすわった男の残骸がある。向かいの椅子には、なにもない。
「チッ」
 舌打ちするアランにさらなる追撃――かと思いきや、アランの姿はもう屋内になかった。
 巨人の腕を伝い肩の上まで移動しきると、剣を首の後ろ側へと突き立てる。
「罪もない人達を食いやがって! 死んで詫びろ害虫がァ!」

「ゼファーちゃんも1人で耐える役だが、レディより俺が先にへばるなんてできねーよな!
 踊る相手がレディどころか一切可愛げのねー人食い巨人なのは残念だが」
 土で踏み固めたような道を走っていくサンディ。
 それを追いかけて左右にぐねんぐねんと揺れながら走る巨人へ振り返り、サンディは顔をしかめつつもトランプカードを取り出した。
「逃げ切れる速度じゃねーか。ま、分かってたけどな!」
 走りながら数枚のカードを投げつける。
 巨人のボディに刺さったが痛がるようなそぶりはない。
 サンディはそのまま道をぐるりとめぐってバーへと戻ると、その屋内へと駆け込んだ。
 彼を捕まえようとヘッドスライディングの勢いで手を伸ばす巨人。
 扉をその周辺の壁事突き破って手が突っ込み、サンディを勢いよく建物の反対側へと突き出した……が。
「サンキュー、手間が省けたぜ」
 マッチを一本するとサンディは酒場めがけて投げ込んだ。
 予め地面にまきちらかしておいた酒類がたちまち引火し、巨人を巻き込んでもえあがる。

 空中のゼファーをつかみ取ろうと繰り出された手を、ゼファーは槍をひっかけてはいあがるような動きで回避した。
 誰とて、掴もうとしたものが急速な反発と柔軟性でもって手から逃れたら反射的に手を更に突き出してしまうもの。
 ゼファーはその動きを察知していたかのごとく空中で身体をそらして胸の前で手を組むと、巨人の手が突き出される動きを動力にして自らの身体をスピンさせた。
 想像してみて欲しい。自分の手の甲をはね、手首へと転がり込み、身体をひねって槍を第三の足のごとく使って体勢を整えた小さなゼファーがそのまま肘部まで駆け抜け、棒高跳びの容量で顔面まで迫るさまを。
「生きたいとか、死にたいとか。
 貴方の望みなんて知ったことじゃない」
 巨人の喉を、槍が貫いていく。
「私はこんなの気に入らない。それだけだわ」

 メカロバにのって走るルリ。すぐ後ろの民家が崩壊し、平行した道一本むこうから巨人が姿を見せた。
「これはまずいですね。加速加速!」
 メカロバに加速の指示を入力する――が、巨人の瞬発力がその時は勝った。
 巨人の蹴りがメカロバごとルリを飛ばし、空中を舞ったルリはそのまま女神像に叩きつけられ――るかと思われた瞬間、翼を展開して空中制動。女神像を蹴ると、巨人へ跳ね返るかのように突撃した。
 狙いは攻撃――ではない。相手のリーチの内側に入り込むことで攻撃の精度を乱すためだ。
 狙い通り。咄嗟にコンパクトな動きではたき落とした巨人だが、ルリは直後自らに治癒術を発動させることでカウンターヒールを成立させ、足の一本でもへし折れていそうなダメージを帳消しにした。
 巨人は地面に落ちたルリめがけてパンチのラッシュ。
 対してヒールを展開し続けてギリギリもちこたえるルリ――に、仲間の声が響いた。
「待たせたな!」
 誰の声か。何用か。尋ねるまでもない。

●煙はどこへゆく
「悪ィな。俺たちにはこれぐらいしか出来ねぇんだわ。
 だけど安心しろ。お前らの仇は打ったし、元凶はぜってぇ潰す」
 伝染病を防ぐためにと、村で見つかった住民の死体は焼かれ、その後に墓地へと埋められた。
 アラン、サンディ、ルリ。そこそこ怪我はしたもの、大事にも至らずこうして立っている。生きている。
「アドラステイア。いやな場所」
 タイムは悲しい目をして、誰も居なくなった村へ振り返った。
 が、そんな村から足音。
 咄嗟に身構えるタイムと、それを守ろうとするように前へでるリゲル。
 だが。
「……お前は」
 やってきたのは一頭の馬だった。それも、リゲルが身を挺して助けた馬である。
 馬はリゲルのもとまで歩み寄ると、まるで親愛を示すように彼の頭をはむはむとやった。
「リゲル? その子、だいぶ懐いているみたいだ」
「置いていくわけには……いかないか……」
 一緒に行くかい? そうリゲルが問いかけると、馬は嬉しそうに鳴いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――助けた馬はどうやらリゲルくんについていくようです

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