PandoraPartyProject

シナリオ詳細

狐の便り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●狐御前の便り
 カムイグラでの動乱がイレギュラーズ側の勝利で終結し、課題を残しつつも新年を乗り越えて少し。
 レイリ―=シュタイン(p3p007270)はとある便りがいつの間にかローレットの支部に預けられていたことを聞かされていた。
(誰が送ってきたのだろう……)
 そう思いながら、レイリーはそっと手紙の封を切った。

『これを読んでおるということは、届いたようじゃの。
 ヴァイスドラッヘの娘よ。
 少しばかり、其方に頼みたいことがあるのじゃ。

 人を……その墓を探してもらいたい。なに、そう苦労はかけぬじゃろう。
 妾の予想が正しければ、その墓は高天京の外、久留尾郷あるはずじゃ

 どうか、この老体の最後の願いを聞き届けてほしいのう。
 さすれば、この次には妾の住まう場所へ招待しよう』

 さらさらと達筆な文字で記されたのは依頼を願う文章だった。
(……この書き方、まるで鈴華御前みたいだけど……どうやって?)
 首を傾げたレイリーを見つめる受付嬢に、お礼を言って、その場を後にした。
 その時、ふと、手紙がもう一枚あることに気づき、そちらも広げてみる。

『そういえば、忘れておった。
 もう1人、水をつかさどる巫女の娘、あやつも呼ぶとよい。
 あれが未だに持っているであろうあの鈴のことで話もある故の』

 その手紙を見て、レイリーは立ち止まり、踵を返して受付に向かう。
「すいません、これを持ってきたのがだれか分かりますか?」
 問いかければ、受付嬢も疑問符を浮かべるばかり。
「……それじゃあ、あの、依頼を作ってください。
 これが依頼人の手紙です」
 先ほどの手紙を受付に突きつける。
 自分だけじゃない。特定個人をもう1人要求するその手紙の持ち主は1人しか思い当たらなかった。

●古の武人
 これは遥か遥か昔のこと。
 このカムイグラに、一人の武士がいた。
 姓を上坂、名は伝わらず、ただ官位名だけ残るある男の話。

 武芸に巧みで優れた統率力を有した男は、京の南西で有名だった妖狐の討伐に派遣された。
 多数の狐の妖怪を従えた妖狐との戦いは男や武士たちの勝利に終わり、妖狐は歴史の表から姿を消した。

 その勲功で名を上げた男は、その後、数十年にわたり武将として名を馳せ、惜しまれながら死亡した。
 その後、男は久留尾郷に葬られた――

「……それがこの久留尾郷にある伝承みたい」
「……なるほど。多数の狐を従えた妖狐が鈴華御前であると仮定すれば、
 その村に眠る人物は、彼女を討ち取った……いえ、反転しているということは『追い詰めた』人物でしょうね」
 頷くのは水瀬 冬佳(p3p006383)だ。
「なんで自分を追い詰めた相手の墓地を見たいのかは分からないけど、
 御前は私達をわざわざ指名してる。何かしたいんだと思う」
「どちらにせよ、魔種である以上は御前は討ち取らねばならない。
 罠かもしれませんが、行く価値はありますか」
「最後の願いっていうのと、彼女の棲み処っていうのも気になるけど……」
「ええ、ひと先ずは人を集めましょう。流石に、私達2人だけで行くわけにもいきません」
 冬佳の言葉にレイリーはこくりと頷いて、依頼状の制作を始めた。

GMコメント

さて、そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
それでは、お墓探しと行きましょうか。

●オーダー
【1】久留尾郷のどこかにあるらしい武人の墓を探し出す。
【2】依頼人にその場所を示す。

 どちらとも絶対目標とします。

●フィールド
 高天京から南へやや離れたところに存在する小さな村落。
 遥かな昔、ある高名な武人が病を得て死亡した後、葬られたという噂があります。

 緩やかな丘陵の上に築かれ、周囲を田畑と竹やぶに覆われた何の変哲もない村です。

 東洋文化圏で遥かな大昔にあった墓、それもある程度は高名を馳せたであろう人物となれば、
 思い浮かぶものといえば、何となくの触りぐらいは思い至るかもしれません。

●依頼人
・『狐御前』鈴華御前
 リプレイ中にはどこからか見ているとは思われます。
 強者を愛し、好む色欲の魔種です。
 交戦の意思はこのシナリオ中には皆無です。
 ただし、皆さんが交戦を願えば普通に戦闘を開始します。
 その場合は当然ながら通常の魔種戦相当のお覚悟をお願いします。

 また、先に討伐戦を狙えばオーダー無視となるため、失敗判定とせざるを得なくなります。
 くれぐれもそこだけはお気を付けください。



●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 狐の便り完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年02月09日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
彼岸会 空観(p3p007169)
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
観音打 至東(p3p008495)
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

リプレイ


 魔種からの手紙――正当な依頼として託されたその手紙の答えがあるであろう場所、久留尾郷にたどり着いた8人は手分けして探索を始めていた。
 8人の中で殆どのメンバーは村人から話を聞こうとしていた。
(鈴華御前殿が来るとしたら戦いのお誘いかと思ってたがこんな依頼とは……)
 手紙を受け取った『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は内心で驚きを隠せない。
(上坂なる男は彼女とは何ならかの関係や因縁があるのだろう。
 何があったのかはわからぬし、墓を見つけて何をするかもわからぬけど――)
 村人集めたのはレイリーは自分達は神使であること、妖狐、妖退治をした伝承を持つ男性の史跡があるという噂を聞いてやってきたと説明する。
(しかし、魔種からの依頼ですか……下手をすればそのまま討伐されてもおかしくない所を知己の者に手紙を寄越し理解を得る。
 狐らしく狡猾と見るべきか、それだけ形振り構って居られないのか)
 聞き込みを始めるべく歩き出した『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)はその内側で依頼人のことを考えていた。
(何れにせよ、それを知るのは後。依頼は依頼として全う致しましょう)
(魔種ってもっと…話が通じないのかと思っていたけどそうでもないのかしら?)
 『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)が見せてもらった手紙の内容は明確な知性と理性を感じさせた。
「……詳しく覚えている人がいるといいんだけど」
 正確な時期は分からないとはいえ、死後から結構な歳月が経っていることは確かだろうと思われる以上、当時を知る者はいない可能性もある。
 そう思うタイムは月日っていうのは思ってるより残酷なのかもと思いを馳せる。
「鈴華御前ね。異界の地では神格された人物の名前と似ているけど、どんな人物なのかしらね?」
 タイムの隣に偶然いた『狐です』長月・イナリ(p3p008096)はぽつりと呟いた。
 その手には稲荷酒造から持ってきた名酒・桃源郷がある。
 それを聴取のお礼と渡された人々の口は軽くなってくる。
「いやぁ、知りませんね……そんな高名な人がこの村に……?」
 若い男の村人は首をかしげるばかり。
「もしかすると、村の翁達ならば知ってるかもしれません。少しお待ちください」
 女性の村人がそう言って、どこかへと歩き去っていき、少しして数人の老人を連れて帰ってきた。
「おぉ、神使の皆様方ですかな? 何やら妖怪退治の英雄の話が聞きたいとか」
「ええ、ご存じですか?」
「えぇまぁ……少しばかりではありますが。
 私の家はその人物の墓守を申し渡されたという話がございます。
 随分と昔の話でございますが……彼はたしかに、この村を墓地として下賜されたと伝わっております」
「この村が墓地、ですか」
 レイリーに頷いて答えた老人の答えを聞いて、無量は少しばかり驚いた様子を見せる。
「ええ……武名と武功を挙げた彼が、死ぬ前にこの辺りに……と申されたとか。
 ちょうど、彼が討った妖狐が拠点とした場所から京へ上る道筋であるそうな」
(何故、数十年に渡り活躍した武人がこのような地に流れ果てたのか気になっていましたが。
 なるほど、死してなお国を護りたいと、そういうことですか)
(もしかすると上坂さんは鈴華御前を討ち漏らしたことに気づいてたのかしら?)
 タイムは話を聞きながらそう思う。

(しばらく姿を見なかったと思えば……
 やはり、彼女は巫女姫一派とは無関係の魔種でしたか。
 ……そうなると、この鈴の正体は気になりますね)
 懐にある鈴に触れながら、『転輪禊祓』水瀬 冬佳(p3p006383)は住民たちから聞いて付近にある古い寺社へと足を運んでいた。
「古い英雄の墓、この規模の村落であれば、或いはもう忘れ去られ、竹やぶの中やもしれませんが……」
 カムイグラの歴史や文化風土、人々の考え方は古代の日本――故郷に近しいものがある。
 ならば、そう言った古い記録が連綿と続き保管されているかもしれなかった。
 住職に知りたいことを知らせ、資料を貸してもらうと、破れないように注意しながら紐解いていく。
(まずは彼の事から知りたいところですが……)

(墓探しとあらば、ほぼほぼ観光のようなものにござるな。名所名蹟など巡りつ、名物などもようく楽しめよう♪)
 同じようにテンション高めなのは『破竜一番槍』観音打 至東(p3p008495)である。
 手紙の内容を見て、切った張ったをする気分にもなれない至東は、屈伸運動の後、一気に空へと駆けあがる。
(その名も高き武人の墓であれば、おそらく、見晴らしのよい場所にあろうもの……)
 遥かな高みへと舞い上がり、体勢を整える。
 その視界には、緩やかな丘陵を見渡して、幾つか点在する竹藪と田畑が映る。
 見晴らしで言えば、集落がある部分が一番だ。
(しかし、村のど真ん中には無さそうでござる……となると……)

(ふふ、今回の仕事は墓探しの手伝いね。ツいてるわ!)
 愛銃を使う機会が無さそうなことに若干の不満を持ちつつ、『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)のテンションは高い。
(前みたいに、亡骸を掘り起こして持ってこいって訳でもないし。
 ぱぱっとお墓を見つけて、半休で報酬ガッポガポよ!)
 目がお金マークになってそうな勢いだった。
(墓参りをした事はないし細かい建立ルールも知らないけれど……
 上坂って武将は、相当名を馳せた存在だった様ね……なら!)
 強い奴の墓――あるいは高名な人物の墓とくれば、平民の墓とは別の場所にあるのではないかと辺りを付けたワルツは崖の上とかにないかと考えていた。
 とはいえ、穏やかな丘陵の上に築かれ、田畑と竹やぶに周囲を囲われた村であることもあり、印象に残るほどの崖は無かった。
 だが、村人の墓については聞き知ることができた。
 その奥には、何やら竹やぶが生い茂っている。

「墓を探さねばならんわけじゃが手掛かりがてんでない……ふーむ、ちと占ってみるか」
 風水占いを始めたのは『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)である。
 墓となれば、縁起の良し悪しも関係してくる。
 風水術を以ってそれを調べようという考えだった。
 そうやって辺りを付けた付近には、村人の墓がぽつぽつと存在している。
「風水的にはあっちであろうし、露骨にあの竹やぶは怪しいか?」
 その視線が竹やぶを向いた。


 8人が竹やぶの中に入っていくと、人の手入れが加えられた道があった。
 その奥へと歩みを進めれば、風化しかけた石塔婆が一つ。
 書かれた名は殆どが削れて見えないが、辛うじて上坂の字だけは残っている。
「ここみたいね……一応人の手は入ってるみたいだけど、一通りは掃除をした方が良さそうね」
 お墓へと一礼をしたワルツは、石塔婆の周囲に存在する使役した式神と共に草を抜いていく。
 その一方でイナリは石塔婆を磨いて風化したソレに着いた汚れを取り除いていく。
「どんな人が眠っているのかは知らないけど、故人の大切なお墓なんだもの。
 最低限の礼儀を行なわないとね」
「この季節で良かったかもね。雑草も枯れて取り除きやすいし」
 イナリの横で草を引っこ抜きながら、タイムは呟いた。

 一通りの掃除を終えたあたりで、至東は墓前に村で買い求めた花と名物を供えていく。
 その隣でイナリがある程度遺して置いた桃源郷を供え。他の者達もそれぞれお供え物を置いて。
「ずっと見ていたのでしょう? 目的地ですよ」
 最後に、仏花の半分をそっと手向けた無量は静かに告げた。
 不意に、鈴の音が鳴り響く。
 それは冬佳の懐から鳴り響いて――イレギュラーズのやや後ろで不意に気配が現れた。
「……おぉ、ここであったかの」
 その声音には懐かしさと愛する人に再会した喜びに満ちていた。
「お久しぶりです、御前」
 冬佳は女――鈴華御前へと声をかける。
 視線を巡らせた御前が、喜色を帯びた顔でこくりと頷いた。
 目を閉じて黙祷していたレイリーも振り返って視界に鈴華御前を据える。
「ヴァイスドラッヘことレイリー=シュタインです。今日は本名の方でよろしくね」
「ほほ、なるほど……レイリー、ほほ。良い名じゃ。よろしく頼むのじゃ」
 愛し子を見守るように笑っている。
「初めまして、ですね。よろしくお願いします」
 タイムは緊張したように、おずおずと手を差し出す。
 それを少しだけ首を傾げた後、御前はハッとしたようにその手を握り返した。
 彼女にとっては握手という文化自体が珍しいのだろうか。
「うむ……短い付き合いになってしまうじゃろうが、よろしく頼む」
 どんな思いで今まで過ごして、今日こうして現れたのか。
 それを知りたいというタイムに御前は柔らかく笑ってかえす。
「こういう時はお酒でも飲んで、再会を祝えばいいのよ」
 その場に敷物を敷いてさっと準備を整えるレイリーに促されるように、イレギュラーズと御前は着座する。
「私は……敵同士でも、仲良しになれると思うの」
「ほほ、そうかの……そうかもしれんのう」
 レイリーの言葉に、また何かを懐かしむように笑って、御前が頷いた。
「それで、このお墓の人はどんな人だったのかしら?」
「そうじゃのう……良い男じゃったよ。顔立ちも腕も、性格もじゃな。
 斯様な場所に古墓を築かれるほどになっとるとは知らなんだが」
 男の事を思いだしているのだろう。イナリの問いかけに対して、御前は目を閉じてしみじみと答える。
「お主と墓の主の関係は知らぬが随分と古い知り合いの様じゃな。懐かしいかの?」
「ほほ、懐かしいぞえ。ただそこにあるだけじゃが……こうしているとあ奴の姿をみるようじゃ」
 瑞鬼の言葉に目を開けて答えた御前がそっとお酒を注いでそれを瑞鬼に手渡してくる。
「そうか……まぁ存分に懐かしむがよい」
 瑞鬼はトクトクと酒を注ぎながら笑うと、くいっと一杯飲みほした。
「しっかしなぜ人の子は死んだ後もこうして祀られるのじゃろうな」
 ふう、と一息を入れれば、ぽつりと呟いた。
「さぁのう……妾もさっぱり分からぬわ。
 じゃが、あ奴は確か『その人たちがいるから今の我らがいる』とか何とか言っとったのう。
 死んだらそこで終わりではないのじゃろうなぁ。人間にとっては」
「わしにとっては終わりだからこそ足掻くものだと思うがな……」
「それもそうじゃのう……」
 その横で至東がお供え物のあまりを口にして、眼を輝かせる。
(これは中々に美味でござるな……餡子のまろやかさが際立っていて)
 ふんわりとしたどら焼きらしきお菓子を咀嚼して、クイッと一杯。
「しかし、千年を生きる妖狐が、最後の願いとは弱気な事を仰る。
 それで……この英雄は、未だ忘れられない最高のお相手……という所でしょうか?」
 冬佳の言葉に、御前は微かに目を細めて、扇子を口元で開いて小さく首を振った。
「半分正で、半分否、かの」
「それじゃあ、彼とはどんな関係だったか、聞いても良いかな?」
 レイリーの言葉を受けた御前は、墓と推定できる場所へ懐かしそうに視線をやった。
「あれはの……妾を殺しかけた男じゃ。
 未だに忘れられぬ最高の相手……というよりも、妾がこの考え方になった理由(ゆえん)じゃの」
「理由(ゆえん)でござるか?」
「うむ。妾はアレに一度殺されかけた」
 至東の言葉に、頷いて答えた鈴華御前は、お猪口に注がれた酒に視線を落として。
「……初めてじゃったよ、『あぁ、死ぬ』と思ったのじゃ。
 そう思ったらのう、どうにもたまらなんだ。本当ならば、殺すのは妾の方じゃったろうに。
 死に物狂いに、何度も何度も妾の前に向かってきて、まるで『奇跡を手にしたように』妾に一太刀を入れおった。
 今にして思えば、あ奴はお主らの先達――神使だったのかもしれぬのう」
 そう言って、お猪口に注いだお酒をもう一杯飲んで一息入れた後、嫣然と笑った。
 『色欲』を宿す女であることを思い知らされる、蕩けるように色っぽい笑みだった。
「そうして死ぬ寸前にどうにものう、『このまま死にたくない、もう一度、いや何度でもあ奴と殺しあいたい。
 こんなにも愛おしいのに死んでなどいられるか』との。思ったのじゃよ」
(なるほど、順序が逆なのですか。彼と会ったが故に強者を好むようになった。
 彼が、彼女を反転させた相手……)
「とはいえ、傷は深くてのう。ようやっと復調した頃にはあ奴の居場所はとんと見当もつかなんだ」
「なぜ数十年にもわたり活躍した武人の居場所が分からなかったのです?」
 無量の問いに、御前は心地よく笑って見せる。
 そのまま視線を遥か遠く、高天京のある方角を見据えた。
「京じゃ。あそこには結界があろう? あ奴は拠点を京の中心に変えおった。
 流石にのう、四神に喧嘩を売ってまで京の内側に行ってあ奴の居場所を探る余裕はなかろうて」
(不思議な依頼だとは思っていたけど……そういうことなのね)
 タイムもハッとした様子を見せた。
 高天京の結界は強大な妖怪や魔種のような脅威を阻む。
 近年は巫女姫によって弱体化させられていたとはいえ、それ以前にはある程度以上の強度だったはず。
 その結界を破ってまで内側に入る余裕がないのは理解のできる理由ではある。
「そうして時を待っていたら、いつの間にやら、あ奴は死んどった。
 長生きしとるとそう言うこともあろうがの……この身(魔種)になってしもうた上に、執着する相手を失ってしもうた。
 じゃからのう、今までは諦めておったのじゃよ。あぁ、もうあ奴と戦った頃ほどの愛しさを感じられぬのかと」
 色欲の対象を失い、強大な魔種と化した故によほどの実力者でなくては相手にならず。
 その結果、身を隠して歴史の陰に溶け込んだ。そう言う女なのだ。
「御前、もう一つよろしいですか?」
「なんじゃ? いくらでも答えてやるぞえ」
「この鈴を持っていた妖狐は……自ら人の領域を侵し、夜な夜な人を襲い続け、そして人に討たれました。
 ……正気であったと思いますか?」
 それが冬佳が気になっていたことだ。
 取り出した鈴はカムイグラに訪れたばかりの頃にある妖狐と戦った後に拾い上げたもの。
 鈴華御前やその眷属には理性がある。
 少なくとも、遊びで無力な人を襲うことを好み、愉しむような性質には見えなかった。
 ならば、同じ眷属だったその妖狐が正気ではない可能性もある。
「――まぁ、正気じゃろうて。
 あの小娘は妾が教え、庇護してきた妖狐の中でもいっとう、悪戯がすぎる女じゃった。
 性格と性質が悪いと言い換えることもできるかの。
 腕のいい狩人に会えばいつかは死ぬじゃろうとは思っとった」
 性質の違い――そう言われてしまえば、納得はしたくなくとも理解はできる。
 同じ修業を積んでも別の道を選ぶ人間がいるのと同じだろう。
「……それでは、この鈴は何なのでしょう?」
「それは妾が作った道具じゃよ。
 妾が死ねばただの鈴じゃが、生きとる限りは人除けの作用があるものじゃ。
 まぁ――それを悪用する阿呆もおるじゃろうが」
 目を細めて、鈴華御前が鈴を注視する。
「それは今暫し、お主に渡しておくとするぞ。
 その時に棲み処へ入るにはそれが必要となるじゃろうて」
 扇子を開いて、零れるように御前が笑う。
 未だに分からぬ御前の拠点に入るのに必要になる。
 つまりは、この人除けの鈴の結界が常時発動している場所があるのだろう――恐らくは高天京の外に。
「さて、もうそろそろお暇するとしようかの」
 鈍く、御前が立ち上がる。
「あ奴の墓参りも出来たことじゃし、もう現世に未練はないしのう。
 次に会う時は――ちゃんと殺しあおうぞ」
 扇子の内側、今日一の楽し気な笑みを浮かべてることが扇子越しにも分かる。
「もちろん戦う時は全力よ! 容赦しないわ」
 レイリーの言葉に御前は嬉しそうに笑う。
「ええ、どうあれ魔種である以上、戦う以外ないのですから」
 無量も答えれば、眼を細めて愛しそうに笑う。
「そうじゃ、その意気じゃよ。せっかく、妾の渡し船をお願いするのじゃ」
「ああ、その時がくればわしがその引導を渡してやろう。
 その亡骸はあの墓に弔ってやろう。向こうでまた会えるように、の」
「それは――ふふ、楽しみじゃな」
 零すように笑って、御前は腕で口元を隠す。
「では、また会うまで、暫しの別れじゃ」
 くるりと踵を返した御前の姿が遠くへ消えていき――ふいにその気配を失った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。
ほんのり昔話はおしまい。
次会う時は魔種と神使らしく決めることになるでしょう。

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