シナリオ詳細
キュートでプリティ海獣タマゴン
オープニング
●海洋の依頼
「来たかい。……へぇ、アンタ達がこの荒れた海に挑むっていう愚か者――『なんでも屋』かい。いいねぇ、なかなか良い体つきをしている」
港へと足を運んだイレギュラーズを見つけるなり、上から下までじっくりと値踏みをしたその船長(女)は舌舐めずりしながら握手を求めてきた。
ネオ・フロンティア海洋王国(通称:海洋)。
その貴族派筆頭であるソルベ・ジェラート・コンテュールよりローレットに依頼が舞い込んだ。
春から夏へと季節が移り変わるに向け、観光客が多くなるという首都リッツパーク付近の近海警備が主な依頼内容だ。
海洋の海上警備隊でも『ある程度』は対応可能であるが、大規模召喚の影響か、はたまた何かの影響か。海域も大荒れのようで是非、力を貸して欲しいのだそうだ。
――曰く、混沌世界に存在する夏の怪物どもは姿形も様々で危険性も個体によって大きく異なるらしい。
「海の魔物どもを舐めたら死ぬよ。その覚悟は出来ているんだろうね?」
口の端を釣り上げながら物怖じない態度で話す船長(女)にイレギュラーズは「まあ、依頼だしな」と肩を竦める。
ローレットとしては、有力者であるソルベ卿との繋がりを作れる今回の依頼は大きなチャンスになるかもしれないということだった。
何はともあれ行ってこい、と着の身着のまま放り出されたというわけである。
「命知らずのその度胸、気に入ったよ。さぁ、船に乗りな。すぐ出港だよ!」
そんなことは知ったことかと、威勢の良い船長(女)が船へと先導する。
鼻腔を突く磯の香り。
少しばかりの熱さを感じる陽光に、潮風が心地よい。
波に揺れる船が、新たな冒険のステージへと運んでくれる。
訪れるであろう、海の魔物との戦いに備え、慣れない船の上でイレギュラーズは準備を始めた。
――ふいに、ローレットでのやりとりが脳裏をよぎった。
●海の悪魔
「海洋に行くんですってね」
ローレットで依頼書を手に思案していたイレギュラーズに、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が声を駆けた。
「耳が早いな」
「情報屋ですもの、それくらいはね。それにしても羨ましいわ、青く煌めく波間に揺れながら夏を先取りだなんて」
「遊びじゃないんだぞ」というイレギュラーズにリリィは「わかっているわ」とジェスチャーする。
「混沌世界の海と言えば、船を丸呑みにする巨大蛸『デビルズクライ』に、見つけたら全速力で逃げる以外に生き残る道はない、全長百メートルの巨大海獣『ディープフォール』よね。あはは、ホントに出会えたらラッキーよ。死ぬ気で逃げなさいね」
いや、笑い事ではないとは思うのだが、なんだその物騒な方々は。
「まあ冗談は置いといて、貴方達向けの情報があるのよ。リリィ謹製のとっておき情報よ」
それはキュートでプリティな海獣の話。
きゅーきゅーと鳴く愛らしいアザラシ風なそいつらは、見る者すべてを魅了する。
誰が見ても百点満点の愛玩動物。それが海獣タマゴンだ。
「きっと貴方達が出会うわ。だからもし出会ったら――抹殺なさい」
すぅっとローレット内の室温が下がる。
「いやいや、可愛くてぷりちぃな愛玩動物なんだろタマゴンは」
「見た目はね。でもその手にはトライデントを持ち、見かけた船舶の船底に穴を開けて沈める上に、場合によっては甲板に乗り込んで略奪行為まで行う、海の悪魔よ」
どんだけ怖いんだ、タマゴン。
話を聞いてちょっと引いてるイレギュラーズを余所に、リリィは話を続ける。
「群れて襲いかかってくる上に、連携もできる。繁殖力も高くてね、適度に間引きしないと港や海水浴場にまで現れる、困ったちゃんみたいよ」
肩を竦めながらリリィは、突然イレギュラーズの手から依頼書を奪うと、つらつらと何かを書き足していった。
「これくらい書いておかないと、きっと貴方達は――」
ぶつぶつと、呟くように言うリリィがペンを置くと、依頼書を返してくる。
「というわけで、タマゴンの情報を加えておいたから、がんばって退治してきてね」
リリィのギフトで何が夢として見えたのかはわからないが、前情報なしではとんでもないことになっていたに違いない。
リリィの情報に感謝しつつ、イレギュラーズは海洋に向け出立するのだった。
- キュートでプリティ海獣タマゴン完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年06月02日 20時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●荒れる波間の船上にて
海洋の首都リッツパークより出港した船が、波を切って進む。
伝え聞いた通り、海は荒れている。大きく揺れる船の上は、三半規管を拷問に掛けているようなものか。慣れない船路にイレギュラーズは踏鞴踏む。
「はっ、こんだけ揺らされても吐かないなんて上等上等! その調子で、警備の方も頼むよ!」
女船長が口の端を釣り上げながら不躾に言葉を投げかける。そう、女船長の言葉通り、ただ船の上に居れば良いというわけではない。この先、待って居るであろう戦いに備えなくてはならない。
「ところで、アンタ、そうそこの熊のアンタだ。どっかでみた顔な気がしないでもないが……いやそれよりさっきからクンクンと何してんだい?」
『海抜ゼロメートル地帯』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)を指さして、女船長が問う。エイヴァンはなにやら毛皮のようなものの臭いを確かめるように鼻を鳴らしていた。
「なに、こいつの臭いを覚えていたのさ。何時現れても対処できるようにな」
「それってタマゴンの毛皮だろう? タマゴンが出るって言うのかい?」
女船長は初耳だ、と言うように大げさに驚いて見せる。イレギュラーズ達はローレット(うち)の情報屋からの情報だが、と断りを入れながらも、タマゴンが現れるであろうことを女船長に伝えた。
「なんてことだい。それが本当ならアンタ達には気合い入れて貰わないと困るねぇ! タマゴンに不意打ちでもされてご覧、この船なんてあっという間に海の藻屑、タマゴンのエサになっちまうよ!」
「……そんなに危険な魔物なのですか? 撫でたり抱いたり……一緒に寝たりとか出来ないものですか?」
「冗談じゃないよ。そんなことしてご覧、手にしたトライデントであっという間に串刺しの眠り姫の出来上がりさ! 可愛いなりしてやることがえげつないんだあいつらは」
『白き渡鳥』Lumilia=Sherwood(p3p000381)の願望は即座に否定される。過去に遭遇したことがあるのだろうか女船長のタマゴンに対する態度は頑なだ。
「見た目は可愛い癖に人に対して被害しか出さない動物か」
『船を沈めたり略奪するみたいだな』
「そうさ、あいつらは魔物の中でもとびきりゲスな悪魔なんだよ。どうして神様はあいつらにあんな可愛い見た目を与えちまったかねぇ」
『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)の言葉に女船長は同意して、その性格ににつかない容姿を思い出し身震いする。
「まぁ、いくら可愛いといっても獣だし。大丈夫でしょう。そもそもトライデント持ちで可愛いってどういうことよ」
「アンタわかってないねぇ。あいつらに対する可愛いは理屈じゃないんだよ。その姿を目ん玉に収めちまえば、それだけで虜になっちまうんだ。魔性だよ、あれは」
「魔性ねぇ……銛やら持ってるって言うなら恐ろしさの方が先立つけどな」
『特異運命座標』久遠・U・レイ(p3p001071)と女船長のやりとりを耳にいれつつ、『星を追う者』ウィリアム・M・アステリズム(p3p001243)が考えを零す。
可愛い獣を退治する。そこに罪悪感などは感じないと思うウィリアムだ。可愛い動物に興味などないし、害を為すならそれは害獣だ。駆除してしかるべき対象だろう。
だが、その言葉にも女船長は首を振るう。やはり理屈ではないのだと。動物嫌いの船員が瞬く間に魅了され仲間に刃を振るったことがあるのだと、遠い日の記憶を呼び起こしながら語って聞かせた。
聞けば聞くほど、恐るべき生物というのがよくわかる。
「なるほどなぁ。せやかて魅了は厄介やけど、カワイサやったら俺も結構魅力的やと思うんよ。……ね?」
「ふふ、それなら魅了勝負でもしてみたらどう? ブーケとタマゴン。どちらがより相手を魅了できるか。見物だわ」
『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)の冗談に、『一刀繚乱』九重 竜胆(p3p002735)が乗っかって茶化す。
「いやいや九重はん、勘弁しといてな」
魅了勝負に負けたら目も当てられないと、ブーケは竜胆に泣きつく。「もう冗談よ」と竜胆は肩を竦めて苦笑した。
イレギュラーズと女船長とのやりとりの輪からはずれて、『宿主』サングィス・スペルヴィア(p3p001291)は水を満たしたバケツに囲まれながら、手にした依頼書に目を這わせる。情報屋からの追加情報をもう一度読み込みながら、これを書いた人物に思いを馳せた。あの娘も大概な夢ばかり見るようだ、と。
『あの様子だと随分と血生臭い夢を見たのかもしれないな』
血液を模した儀式呪具サングィスがスペルヴィアにだけ聞こえるように呟く。どんな夢を見たのかは知れないが、おかげで此方も対策が出来るというものだ。今は遠い地(ローレット)で帰りを待っている情報屋に感謝しておこうと、スペルヴィアは瞳を伏せた。
「頭ァ! そろそろ目的の海域に到着でさァ!」
「あいよ! アンタ達、しっかり操舵しなァ!」
船員からの声に、大声で返事する女船長。イレギュラーズ達に振り返ると、
「さぁ、アンタ達の出番だ。タマゴンがでるっていうなら、しっかりと海を見張りな!」
と声を掛けた。
その言葉にイレギュラーズは頷いて散会すると、船の上から周囲を観察するように覗き込んだ。
波は高く視線は安定しない。大きく揺れる世界に目を回しながらも、陽の光を反射する青い海に視線を這わせる。
暫しの間波間に揺られながら警戒に当たっていると、右側面で警戒していたLumiliaから声があがる。
「波……いえ、波しぶきが上がって……魚……違う、なにか近づいてきます……!」
Lumiliaの声に寄せられて集まったイレギュラーズが目にしたのは、波しぶきを上げながら近づく『何か』。
「なんだ、なにか聞こえるぞ」
ウィリアムの声に耳を澄ませば、脳と心を溶かすように甘くせつない鳴き声が。
「きゅーきゅーきゅー!」
「きゅっきゅっきゅぅー!」
楽しげに、リズミカルに鳴り響く鳴き声。その声が鼓膜を揺らすたびに心臓が高鳴った。
「うぅー、なに、どうしてか心臓が高鳴ってしまいます」
「なんや、心臓がドキドキして、こらあきまへん」
イラギュラーズを襲う胸の高鳴り。それは恋や愛情とは似て非なるもの。保護欲を掻き立てる魔性の響き。
「アンタ達、ぼやっとしてるんじゃないよ! アンタ達の言うとおりタマゴンがでたんだ! これはタマゴンの鳴き声で、あぁもうお持ち帰りしたくてたまんないねぇ!」
女船長が身体をくねらせながら訴えかける。
「と、とにかく、このままじゃ船がやられちまう! なんとか船から注意を逸らしてくんな!」
女船長の言葉を背に受けながら、蕩けそうになる心に火を入れる。首を振るい頬を叩くと気合いを入れ直す。
「来るぞ――!」
武器を構えたイレギュラーズが、襲い来る海獣タマゴンに挑む――!
●キュートでプリティ海獣タマゴン
「船に近づけさせるな! 遠距離攻撃で注意を引くんだ!」
魔力を高め、無数の石礫を生み出し射出するウィリアム。いくつもの岩塊が波を切る魔物タマゴンに向け放たれる。
敵意と共に攻撃を受けたと悟ったタマゴンの群れが揃って石礫を回避するように旋回する。
『二手に分かれない所を見るに、知能はそれほど高くないな』
「そのようね。うまく引きつけて此方にくれば良いのだけれど」
スペルヴィアが遠距離術式を放ち、先頭を泳ぐタマゴンを狙う。大きな水飛沫を上げながら術式がタマゴンへと吸い込まれていく。その一撃を飛び跳ねるように躱しながら、さらに旋回を加え、様子を伺うタマゴン達。
「うぅ……いま一瞬見えました。すごいモフモフしてそうで、抱き心地よさそうです……。……いけない、今はとにかく注意を引かないと……」
荒い息を零しながら、Lumiliaが翼を広げ飛行状態に入ると、亡き師の形見である白銀のフルートを奏で、その道を切り開く剣の英雄を称える歌曲が周囲の仲間達を勇気づけ、戦闘意欲を高める。
そのまま海上にでると、船に寄ろうとするタマゴン達の頭を押さえるように、氷の鎖を放ち、牽制する。
そのLumiliaの攻撃に、ティアも合わせる。
「見た目が可愛くても遠慮無く潰さないとね」
ギフト【空想創造】によって戦う覚悟を決めたティアが、迸る一条の雷光を放つ。放たれた光は雷鳴を伴いながら群れて泳ぐタマゴンを貫いていく。
「近づけなくてもやれることはあるわね」
竜胆も飛ぶ斬撃を放ちタマゴンの注意を引く。
それらの攻撃が決め手になったのかどうかはわからないが、タマゴン達は船に近づくことが容易ではないと悟ったようだった。一度ぐるりと旋回すると、今まで以上の速度を持って横並びに広がると、大きく波しぶきを上げてジャンプした。
高い。大きく弧を描く水上ジャンプが、見る者の心を奪う。
逆光によるシルエット。その影が、次々と甲板に降り立つ。
「きゅきゅっきゅー!」
その指のない手でどうやって持っているのか。小さなトライデントを掲げるアザラシのような見た目の彼等は、器用に尾ヒレで立ち、ぴょんぴょん跳ねる。
大きさにして八十センチ。空色の肌に、大きくつぶらな黒瞳。小首を傾げる仕草に長く伸びたヒゲが揺れる。
「た、確かに可愛いわね……。可愛すぎるってわけではないけれど、なぜだか無性に可愛く見える……。遠目に見てるから? 近づいたらもっと可愛く見えるの?」
竜胆が武器を構えながら、近づいて確認したくなる欲求に心を支配されそうになる。それを行う時は命のやりとりを行う時だとわかっているのに、第一に可愛さの確認を行いたくて仕方がないのだ。
甲板には十匹(全て)のタマゴンが上がっていた。皆一様に小さな三つ叉の槍、トライデントを持ち愛らしく身体を揺らしている。
「とにかく数を減らさなあきまへんね。行きましょか」
甲板を蹴り、ブーケがタマゴンの群れへと飛びかかる。
「うっ……!」
今回の依頼、イレギュラーズの中に精神耐性を持つ者が幾人か居る。ブーケもその一人だが、その精神耐性を持ってしても、可愛いと感じてしまい、思わず呻いた。
飛びかかるブーケにキラキラ光る黒瞳を向け、小首を傾げる様は「なになに? なにするの?」と何も知らない従順な子供のようだ。
「きゅー!」
だが、同時に(そのような仕草を見せていながら)、タマゴンは容赦なくトライデントを振るう。首元を抉る様に突き出されたその槍を寸前で躱しながらブーケは反射的に反撃のコンビネーション打撃を振るった。可愛らしく鳴き声を上げながらのたうち回ったタマゴンはやがて起き上がる。
「ゆ、油断したらあきまへんで。聞いてた通り可愛い顔してえげつない攻撃してくるわ」
ブーケの言葉に蕩けていたイレギュラーズに緊張が戻ってくる。
「かわいいけど、倒さないと。なんか可哀想になってきた。でも、あれは敵。敵なんだから」
自己暗示を掛けるレイが駆け寄りながら、後衛から出される指示に従い、多段で放たれる牽制を行う。器用にジャンプしながら避けるタマゴン達の愛らしい動きに、耐性もつレイも一瞬心を奪われかける。
「姿を見たら魅了されるなら姿を見えなくして、上から叩き切れば良いんでしょ!」
持ってきたマントを投げつけて、その姿を隠した上で、上から刃を叩きつけるように振るう竜胆。この戦法は実に効果的で、知能の低いタマゴンはマントから這い出るのも一苦労の有様だ。その間一方的に攻撃することができた。
当然、マントに隠せるタマゴンの数は一、二体が良いところだ。囲まれてしまえば、魅了されるのも時間の問題だ。また攻撃を当てるたびにマントもボロボロになってくるので、回数に限りがある。
「これならどう!」
物は試しと、用意した墨汁をタマゴンに浴びせる竜胆。真っ黒に染まるタマゴンが墨汁の臭いに首を振るう。これは、残念ながら効果がない。墨汁を嫌って動く姿すら愛らしく見えるものだ。
仲間のフォローを期待して、思い切って目を瞑る竜胆に、後ろから声が掛かる。エイヴァンだ。
「九重! 右へ飛べ!」
エイヴァンの声に即座に竜胆が動く、同時に竜胆を囲んでいたタマゴン達へエイヴァンが投げた帆布が覆い被さる。
「もういいぞ! 布を掛けた!」
声を上げると同時に、エイヴァンが深く踏み込んで一刀の元にタマゴンを斬り伏せる。白い帆布が紅く染まった。
帆布から逃れるようにタマゴン達がもぞもぞと動きながら移動する。抜け出たタマゴン達が、続々とイレギュラーズ達に迫る。
Lumiliaが死角から放つ氷の鎖が、タマゴンを縛り付け凍結へと導く。
「狙い目だね」『良い連携だな』
そこを狙ってティアが全身の全ての力を魔力変換した破滅的威力の魔弾を放ち息の根を止めていく。
ウィリアムとサングィスは近づくタマゴンから距離を取りながら、攻撃と治癒を重ねていく。
「害獣は害獣らしく駆除されるんだな――!」
「私は見た目の愛らしさより骨肉を潰す感覚が好きなのよ」
近づくタマゴンの愛らしさを削ぐように攻撃を加える。幾許か心が痛んだ気もするが、二人は気にしない。
「くぅ……!?」
マントの隙間から見えてしまったタマゴンの姿に、思わず魅入られてしまった竜胆。くるりと反転する竜胆の様子がおかしいと感じたスペルヴィアが、用意したバケツの水を、バケツごと竜胆へと投げつける。
「まぁ、効果があれば御の字ね」
『隔意はなくとも謝罪が必要ではないか?』
バケツを頭にぶつけ、水を上から被った竜胆が首を振る。魅了解除とは行かないが、動きを止めた隙に、ウィリアムが聖なる光による治癒を試みる。
「うっ、私なにを……ってなんでずぶ濡れなわけ?」
気を取り戻した竜胆が、濡れた服の不快感に顔を歪ませた。
「くっ、あぁ――ッ!」
そのキュートさに、精神耐性を持ってしても心奪われそうになったレイが目を瞑り、エネミーサーチを併用して戦おうとした矢先、タマゴンの連携が火を噴いた。トライデントによる串刺しを回避しきれずに受け倒れると、そこに全員で群がってレイの命を奪おうと三つ叉を突き刺した。恐るべき狩猟本能とも言うべき野生が垣間見られた瞬間だ。というか容赦なさすぎて怖い。
直ぐさまスペルヴィアが治癒を施すも、レイの容態は芳しくない。意識を失った彼女をLumiliaとティアが飛行で後方へと運ぶ。
「布! まだあるでしょう!? 今すぐ持ってきて!」
目を閉じていては効果的な攻撃ができないと、竜胆が船員に余ってる帆布を持ってくるように声を上げる。
「そこか――!」
目を瞑り超嗅覚でタマゴンの位置を感じ取りながら、攻撃と回避を行うエイヴァンも、実に傷だらけの様相だ。前衛でまともに動けているのは今となってはエイヴァンだけとなる。
後衛の攻撃により、タマゴンの数は大きく減って、残りも少ない。これ以上の被害を出す前に、一気に止めを刺したいところだ。
そこに、女船長は帆布を持ってやってくる。
「残りはそんだけだ! 使いな!」
「助かるわ!」
タマゴンも布を被せられると一方的にやられるのが分かっているのか、帆布をみた途端に距離を置いて逃げようとする。
「逃がすか!」
イレギュラーズ達は連携し、タマゴンを追い詰め、ついに布を被せると、ありったけの力を籠めてその愛らしい魔物に止めを刺した。
「きゅ、きゅ~」
可愛らしい断末魔を上げ最後のタマゴンが動かなくなった。甲板を赤く染め上げるタマゴンの死体が並ぶ。
しっかりと動かなくなったのを確認したイレギュラーズ達は大きく息を吐いた。
重傷とも言える負傷者を一人出すなかなかに厳しい戦いだったが、首都リッツパークを脅かす害獣の一団はこうして討伐されたのだった。
●甲板で乾杯
「乾杯!」
女船長が祝杯を勢いよく掲げれば、グラスに注がれた酒が空に舞う。
近海警備は順調に終わり、戦利品のタマゴンも手に入った。全てが上々だと女船長は上機嫌だ。
振る舞われる新鮮な魚の刺身に舌鼓を打ちながら、甲板上では祝宴が繰り広げられていた。
「ま、命に別状がなくてよかったな」
「侮っていたわ海獣タマゴン……なんてかわいさなの。ぬいぐるみとかあったら欲しい。すごく欲しい」
殺されかけたというのに、いまだその魅力に虜になっているレイ。同意するようにブーケが女船長にぬいぐるみとか売ってないのか聞いていた。害獣だから在るわけないが……女船長はなにやら商機を見出していそうな顔をしていた。
タマゴンの死体を処理している船員のそばで、手伝いを申し出ているのは竜胆だ。命の循環とはそう言うモノだと、ドライに言う。
その様子を見て、ティアが、
「悪く思わないでね。
普通に迷惑かけない存在だったら良かったのに」
と、少し悲しげに呟いた。
「本当に……残念。残念です……」
心底残念そうにLumiliaも言葉を零す。
まだ少し肌寒い潮風が肌にしみる。もう暫くすれば強い陽射しに肌を焼かれる日々がくることだろう。
今回の依頼は、その時に海洋での新たな冒険を行う為の足掛かりとなるはずだ。
成功することができたことにイレギュラーズは安堵しながら、並々と特製ジュースの注がれたグラスに口をつけ、一気に呷るのだった。
夏の入口は、もうそこまで来ている――。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
澤見夜行です。
依頼成功となります。詳細はリプレイをご確認ください。
プレイングは良かったですが全体で共通のタマゴン対策があればなお良かったかもしれませんね。
重傷者が出てしまいましたがダイス運に恵まれなかったのです。
何はともあれ海洋での冒険お疲れ様でした。
次の依頼に向け英気を養って下さい!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
海洋からの依頼が舞い込みました。
新たな冒険への足掛かりとなることでしょう。がんばってください。
●依頼達成条件
キュートでプリティな海獣タマゴン十体の撃退
●情報確度
情報確度はAです。
想定外の事態は起きません。
●キュートでプリティな海獣タマゴンについて
とっても可愛いです。見てるだけで魅了されます。
しかし性格は獰猛で、近づく者を手にしたトライデントで串刺しにしてきます。
命を奪われたタマゴンは、コートの材料になったり、その牙が素材として重宝されてるようです。
とても可愛いく罪悪感が残りますが、がんばって倒しましょう。
噛み付き(物至単・乱れ)
串刺し(物近単・出血)
魅了(タマゴン攻撃時に至近距離で『タマゴンを見ている者』を魅了状態にする)
耐久力は高くなく、イレギュラーズであれば討伐は容易いでしょう。
注意すべくは魅了効果で、この魅了にどう対応するかが勝負となるでしょう。
目を閉じる場合、命中回避に補正が入る他、当然ながらマーク・ブロックの効果は無くなります。
但し、プレイングやギフト次第では、目を閉じていても戦える『かも』しれません。
●想定戦闘地域
海上を往く船の上での戦闘になります。
ある程度の広さがあり戦闘は問題なく行えます。その他目に付く障害物はなく戦闘に支障はでないでしょう。
また、水中行動系のスキルがあれば、海中戦闘も可能です。
そのほか、有用そうなスキルには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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