シナリオ詳細
血の盃を掲げよ
オープニング
●
『罪の御宿り』なる新興宗教団体がある。
彼らは『人は誰しも罪を負って生まれてくる――故に罪の浄化が必要である』という教義を抱え、定期的に儀式と言う名の虐殺を行っている集団だ。
一言で言えば狂った人間達によって運営されている危険集団であり、幻想の中で活動を続けている彼らは憲兵によって調査が続けられていた……彼らの拠点を割り出し、場合によっては討伐も辞さないと……
そして。
「教主様。幻想の騎士共に動きがあるようです」
「――なに?」
「街の方で集う様子が。恐らくは我らへの迫害の準備かと……」
教団本拠地バルガス山にて、教団の長へと報告が挙がっていた――
ここは元鉱山として開拓が広げられていた地下空間であり、資源が取れなくなった頃に放棄……されたのを教団が私有地として買い上げた場所だ。外からは一見すると宗教団体の施設には見えないが、内部へ入ってみると一変する。
整理された通路。そこかしこにある、まるで天使を模したかのような象。
その通路の最奥に長はいた。
部下である司教からの報告を受け取り、些か顔を歪めて。
「国家の犬如きが我々を敵とみなしたという事か」
「恐らくは……如何なさいましょうか。この分では恐らく此処へとやってくるのも……」
そう遠くはないと部下が零せば。
教主は笑みを見せる。
不敵に、口端を吊り上げるのだ。
「――ああ。ついに聖戦の時来たれり、か」
教主は思考する。なぜ騎士共は我らを邪見にする?
我らは一人でも多くの者達を救済しているだけであるというのに。
なんの罪があるというのだ?
むしろ罪があるのは奴らの方だ。自らの罪を直視する事もなく、浄化に賛同する事もなく、ただ現世に虚ろに生きているだけの愚か者共……
ああ。ここに来るのか――我らを下劣とし、討ちに。
認めぬか我らを。
今だ浄化を受けていない罪深き者達は、清浄なる我らを直視できぬか。
ああ――我らの姿はそんなに気高いか。
眩しい程に。掻き消したくなるほどに。
「教徒に戦の用意を」
「はっ」
「我々は暴に訴える事を好まぬ。しかし理不尽に対し非暴力を貫く事はせぬ」
抗おう、教徒たちよ。
罪在りし者達がやって来る。天へと運ばれる事が決まっている我らを疎んで。
健やかなる平穏を乱そうとしている。
「戦おう」
来るがいい悪魔どもめ。
一人でも救う事を許さぬというのなら、明日のパンを食べる事すら許さぬというのなら。
――我らも貴様らを決して許しはしないのだから。
●
「ようこそおいでくださいましたイレギュラーズ殿」
バルガス山付近には一つの街があった。
そう大きくはない街だが、ここには今騎士が集っている。
教団『罪の御宿り』討伐の為に……その中でも作戦会議室ともされる場所にローレットのイレギュラーズ達は呼ばれていた。勿論依頼で、だ。
「先日はローレットの方々の活躍により『罪の御宿り』の拠点を割り出す事に成功しました。ご協力感謝申し上げます――そして、引き続き協力して頂きたいのです。奴らの討伐作戦に」
「――というと、この先に奴らの拠点が?」
ええ。とヴィクトール=エルステッド=アラステア (p3p007791)へ騎士は言葉を紡ぐ。
バルガス山の一角に洞窟があるのが既に割り出されている。その先に、教団の本拠地がある事も。そして……騎士達は近々ここへの攻撃を考えている。
「しかし問題があります。教団も相応に警戒している様で、我々が動けばすぐ察知されてしまうのです。防衛体制が完全に整っている所に突っ込めば被害は避けられません……」
「それで、わたし達が」
呼ばれたのですねと散々・未散 (p3p008200)の一声が。
騎士達が大々的に動けば教団に気取られる。それでも勝てるかもしれないが、わざわざ被害が増えそうな手段を採用するより――まずは少数精鋭での攪乱が有効だ。
その白羽の矢が立ったのがイレギュラーズ達であった。
彼らに頼みたい事はいくつかある。教団の戦闘部隊の力を削って欲しいのだ。
「可能であれば教主の殺害までいければ指揮系統が乱れますのでお願いしたい所ですが、内部は不明な点も多い為、そこはご判断にお任せします。最低でも戦闘部隊を統括する幹部たちの排除はお願いしたく……あぁそれと……」
口淀む騎士。
何事かとヴィクトールが思えば――やがて。
「内部には……どうやら教団とは無関係というか……いや関係する直前の者達もいるようなのです」
「……それは?」
「教団が行っている『浄化』の儀式――結局のところ只の『殺し合い』ですが――その儀式の為の、贄達です」
贄。その言葉は、少なくとも未散とヴィクトールの記憶に新しい。
調査の為に潜り込んだ『浄化』という名の場の……殺し合い。
その贄達がまた集められていたのか。なんでも、薬物か魔術かで精神を惑わされ尖兵の様に配備されているらしいが……こんな事までしておいて何が『浄化』の為だというのか。
「彼らは正常な判断能力を失っている様です。が、内部に侵入すれば必ず邪魔となるでしょう」
「成程、それで?」
「それで――ええ、それで。『お任せ』します」
未散が尋ねた先、騎士が言ったのはなんとも濁す言葉。
彼らは教団と直接関係がある訳ではない。むしろ被害者の立場だ。
しかし狂わされているのであればもはや助ける事が出来るのかは怪しい。
だから『任せる』
生かすも、殺すも。
「成程、成程――承知しました。それでは、そのように」
だからヴィクトールは深く頷く。
後は全てこちらの裁量に任された。『どこまで』やるかはこちらの考え次第。
さぁ、さぁ、さぁ、それではそういう事ならば。
参りましょう。
死の舞台へと。撒き散らされる饗宴の場へと。
- 血の盃を掲げよ完了
- GM名茶零四
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
バスガル山の入り口。見張りに立っていた尖兵二名がほぼ同時に倒れた。
――生きてはいる。意識を刈り取られただけか……それは、外からの奇襲によるもの。
「やれやれ、何の罪もない奴を尖兵に……か。こういうイカれ共が湧くから国が荒れるのか、それとも政が悪いからおかしくなる人間が出てくるのか……」
どちらにせよ始末をつけなくてはね、と紡ぐのはシラス(p3p004421)だ。
倒したその内の一撃は彼によるもの。連鎖的に行動した『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)と共に尖兵を黙らせたのだ――
「これよりは見敵必殺。出逢った者を片っ端から倒します」
「相変わらず胸糞悪い教団だ……奴らにはかなり嫌な目に合わされたからな。落とし前は付けさせてもらおうか」
次いで『銀河の旅人』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)も姿を現せば、これより自ら達が往く先を見据えていた。
ヤツェクは……いや未散もだが、一部のイレギュラーズはこの教団を調べる依頼にて関わりがあった。そして今宵、遂にその教団の懐へと入り込む機会が訪れたのだ――歪なる殺し合いなどをさせる狂った者達の懐へと。
――往く。イレギュラーズ達は一丸となって内部へ。
狙うは幹部。そして余力があれば教主をも。
「少年兵……と言っていいのでしょうか。彼らは……」
「……助けられても、治せるかどうかは……それでも、うん。私は出来る事はする」
先程の様な尖兵……無垢なる犠牲者たちはどうしたものかと『シュピーゲル』DexM001型 7810番機 SpiegelⅡ(p3p001649)は思考するが『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)と同様に――積極的な殺しなどしないのが一番かと結論する。
雷華にとっては……自らが無為に手を汚したくないという想いが強い故でもあるが。
「――待て。この先に気配がある……巡回しているな。恐らく幹部の一人だろう」
その時、何者かの気配を感じ取ったのは『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)だ。エコロケーションによる反響音を感じ取れる故に、地形と同時に人影の存在も場合によっては感じる事が出来る。
潰す。今この場で、狂った教えと共に死ね。
「人は誰しも罪を背負って生まれてくる……か。罪は生きてく上で確かに大なり小なり背負うだろうな。確かに、その言葉自体は間違いではない……だが同時に」
それをどうこうするのは――していいのは――貴様達では無い。
『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)は教団に対する確かな意志を抱きながら、己がライフルの引き金を絞り上げた。
狙うは幹部、或いは守護に務めている信者達だ。
特に逃げだす様子や助けを呼びに行こうとする者を優先的に狙い撃とう――
「ぬぅ!? き、貴様ら国家の犬どもか……!?」
「……さて。成程、どうやら顔などには一切の興味が無いようですね」
一斉に強襲するイレギュラーズ達。幹部一名に対し、信者の護衛は二名であり……数の上からでもイレギュラーズ達が圧倒的に優勢だ。そして、幹部の一人が零した言葉に反応したのは『黒鉄の愛』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)である。
彼は武器を持っていない。代わりに守護の力が彼に纏いて、彼を鉄壁としている。
そうして敵の前に足り塞がりながらも――気付かないのか。
以前の儀式に参加した、己に。
「血を捧げる事など出来ませんが、人を縊り殺す事は出来ます。
刃を持たぬ身ですが――人を救おうと足掻くことは出来ます」
故に往こう。こんな者らが幹部をしているこの教団を潰す為に。
まだ見ぬ人を救うために。まだ見ぬ未来へ――繋げる為に。
●
幹部や信者は抵抗してくるものの、数で押せばそう大したことはない。
――が。何度と上手く行くとも限らないものだ。戦闘の音を嗅ぎ付けられれば侵入もバレるだろうし、時間を掛けて巡回をしている者が減っていると悟られれば――また同様。
「だが、バレた場合でもやる事は変わらねぇ。こいつらを叩き潰すまで止まらねぇからな」
ヤツェクの一撃。味方を巻き込まぬ様に距離がある内から放たれる光線は雨の如く降り注ぎ、信者らの足を阻害する。流星群が如き煌めきを持ちながらも容赦はない。
「折角なんだ。綺麗に収めて、解決するのが一番だろうしな」
次ぐ形でシラスの遠術も。視線を向けるだけで発動するソレは深紅の光芒となりて。
焼き尽くす。
全てを。何者も逃さぬ一瞥であるかのように。
幹部と信者だけを狙い打てるのであれば特に不殺の意志を考慮する気もない。時折虚ろながら気付いた尖兵が加勢しに来る事はあるが――
「……ごめんね。ちょっと痛いかもしれないけれど……これぐらいは許してほしい」
その折は雷華の制圧が如き構えが彼らの意志を奪うのだ。
殺さずの意志。大胆な跳躍で注意を引きつつ、その腹へと蹴撃一つ。
上手く鳩尾にでも当たれば比較的早期に打ち倒す事も不可能ではない……尖兵達は犠牲者なのだ。可能な限り――助けてやりたい。
「……ま、どうしても無理な時は俺がなんとかするさ」
それでも状況を見定めて動こうとするのは才蔵だ。
いざとなれば全てを撃ち抜く。それこそ――抵抗激しい尖兵などいれば、その時は、己が。
「どうせ元々汚れた手だ」
今更罪を背負う事は厭わない。重みが増した所で、どうという事も……
……尖兵には子供も多い。こんな子達を奪うのは――奪う事があるとすれば――やはり、己だ。
「念の為後ろ手だけ縛っておきましょう。もう一度起き上がって、こちらに向かわれる様な事があっても……困りますしね」
そして倒した尖兵らをSpiegelⅡは隅に運び出して、結束バンドで親指同士を拘束する。
簡易だが、元々子供が多い尖兵ならばこれでも十分の筈だ。小部屋を見つければ己が電子妖精に鍵を開けさせその部屋へ。こうしておけば万が一にも再び戦場に現れる事はないだろう。
同時に紡ぐ黙示録の一端が皆に活力を与える。
時を経るごとに力を取り戻す加護を――そして。
「だが気を付けよ。尖兵達以前に……そろそろ『奥』へと辿り着くぞ」
言うはクレマァダ。武闘の一撃にて敵を打ち倒し、見るのは奥へと続く通路の方。
彼らは只管進んでいる。であれば、そろそろ辿り着く筈なのだ。
奥へ。最深部へ。教主のいる――裁きの場所へ。
「――来るか。不心得共よ」
さすれば――同時に響いたは一つの声。
重厚な声色を伺わせるそちらの方へ慎重に歩みを進めれば……広い空間に出た。
そこは聖堂中心部。教主の座す、祈りの間。
「貴様ら……幻想の騎士共ではないな。何奴か?」
「――貴方が、教主ですか?」
ヴィクトールの紡いだ言葉。それに『如何にも』と答える一人の男がいた。
成程、中々堂に入った立ち振る舞いをしている。
だが貴方が教主だというのならば……
「お尋ねしたい事があったのですよ――きっと私たちのことをあなた方は“悪魔”とでも呼んで罵るかもしれませんが」
一息。
「あなたにとって救いとは何だったのですか」
「――ふむ?」
「あの儀式の果にあったのですか?」
「成程、貴様は儀式の参加者か……ならば答えよう、無論だ」
あの儀式は古き血を捨て去る神聖な儀式。
目には見えないかもしれないが確かに分かるのだ、血が浄化されたと。
「儀式が終わった時の達成感――世界が変わったように見える様子――あれこそが浄化の達成点だ。貴様は感じなかったのか? 脳髄がまっさらになる様な感覚が――なかったのか?」
「……ああ、そうなのですね。きっと、ボクには一生理解できないのです。きっと」
そんな様になる様には狂えないのでしょうと。
減の終わりを皮切りに皆が構える。やはり教主よ、お前は死ぬべきだと。
「狼には、立派な牙と、鋭い爪が有ります。
羊には、血の通う角と、硬い蹄が有ります」
紡ぐは未散。
狩る者とされた狼も、狩られる者とされた羊も。
それぞれの特徴があり、それぞれの生を謳歌している者なのだ――そして、だからこそ。
「ひとは、平たく同じ形をしている」
只の、よわむしです。
「――其れが今からあなたさま方を殺す、ものの名だ」
覚えよ。
ものの名を。
我らの名を。
――『ひと』の生を。
●
「日々をただ緩慢に、漠然と生きる『ひと』如きに――私が倒せるものか」
展開される攻防。教主のいる間には、幹部が三人。信者が六名。
それから尖兵が約十名程集っていた。
多い。この場においてはイレギュラーズ側が数の上では劣勢に立たされていると言えるだろう……しかし。
「ただ漫然と生きているじゃと?
分からぬか。それこそが命じゃ」
クレマァダに一切の恐怖はない。むしろ教主に対する弁は――益々強まる程で。
「傲慢よな。我に教えを説くのか。
……よかろう、問答してやる。
そも、生きることの罪を誰が問える? 人のみに非ず、万物は何かを費やすことで存在する」
神を言祝ぐ歌。その祝詞をクレマァダの喉を振るわせつつ、纏まる信者らへと一撃。
同時に言うは『罪』の所在。そして『罰』を与える事の是非。
「全ては大いな流れの中にあるのじゃ。それを我らは海に喩える。
大海の中では王たる鯨とて死ねば小さな命の苗床となる」
「それがどうした。命あらば朽ちるのは定めであろう」
「その通りよ。故に……罪や罰など人の思い描いた都合の良い理想に過ぎぬのじゃ。
罪や罰の有無で命の終焉や有り様が変わる事はない――全てはただ『在る』」
救われていようといまいと。罪があろうとなかろうと。
大いなる流れに人が抗うことは出来ぬ。
ただ両のまなこをしっかと見開くしか、心が救われることはない。
……人に所詮誰かを裁く権利などないのだ。ましてや試練、浄罪と称して……
「お主も教えを持つ者ならば……もうやめよ。我はお主を赦そう。哀れなる者よ」
粛々と、国の定める罰を受けよ。
「お主の教えを責めることは、せんから」
「――笑止。私が行うは慈悲であり大義である。止まればこそ罪を背負いし者が増え続けるのだ……私は止めぬ。止まらぬ。国の定めた罰如きに屈するは、救える者を救わぬ愚か者の所業よ」
「で? 愚か者の所業だからこそやる事が『浄化』だってかァ? めでてえ野郎だぜ」
直後。跳び出したのは――シラスだ。
これは折角の幻想の事件。上手く収めればまた名前を挙げられると思って此処へ来た。
しかし。
「罪だのなんだの俺は知らねぇよ。生まれた時から罪があるってんなら――ああ、俺の始まりももしかしたらその『罪』って奴が原因だったのかもな」
かつてスラムで過ごしたあの日々は、お前の言の通りであればそうなのかと。
――ふざけるな。
お前程度に俺の全てを『こう』だと判断されてたまるものか。
死ね。
殺意と共に振るう一閃。尖兵らよりも幹部や教主そのものを狙い――一瞥。
再び紡がれる深紅の一撃。光芒が光り輝けば果てを燃やし尽くして。
「小うるさい蠅だ……撃ち落としてくれようぞッ!」
瞬間。教主が紡ぐのは雷撃が如く一撃だ。
背後に生じた魔法陣が凄まじい電流を蓄え――地を這う様に放出。
イレギュラーズ達を薙がんとする。そして、それに呼応するように尖兵や信者が特攻。
「戦場において優しさこそが最大の悪徳ですが……皮肉ですね」
であればと、往くはSpiegelⅡだ。
神秘を遮断する加護で身を固めている彼女には、魔術の類はそうそう通じない。加護を引きはがす力でもあるなら話は別だが……支援を長く続ける為、彼女は防御を主として教団に相対する。
近付いてくる者には速度を活かした一撃を。尖兵ではなく信者の方を狙って。
「罪とは『意識』があってこそ成り立ちます」
語るはそのまま教主へと。視線を向けて、心のままに。
「罰を欲する心が罪を浮き彫らせるからです。貴方は罰を欲しますか?
穢れを厭う心は誰しもあります。皆、誰しも己が穢れているなどとは思いたくないものです」
ですが。
罰を欲する心はいかがでしょう。
貴方は罰を与える事。浄罪と称して物事を行う事そのものに――悦を見出していませんか?
「貴方は自身の『原罪』と向き合っていますか?」
きっとそうではないだろうと半ばSpiegelⅡは確信しながら……
「何が罪の浄化だ笑わせる……貴様の罪は浄化などされない、させもしない。
理解も納得も不要だ。お前は――ただ死ね」
更に才蔵も教主の罪を口にしながら、その銃口を奴の額へと向ける。
極限の集中から繰り出される致命の一撃。ああ、奴は生かしておけないのだと、引き金に掛ける指先に一切の躊躇はない。
――己らに向かってくる信者や尖兵の顔には狂気が張り付いている。
それを見てなにも感じないほど人を止めてはいないのだ。厄介じみた洗脳能力で人を従わせ、自分の狂った思想に追従させる……こんな事は一刻も早く片付けなければならない。
「哀れな。私の崇高なる理念を理解出来ぬか。貴様、永遠に救われぬぞ」
「ハッ――生憎俺は掃除人だったのでな、今更自分の罪を赦してもらおうなどと思わん……地獄でしっかり罰を受けるまで存分に罪を重ねるさ」
貴様らの様な存在がいる限り。
教主、多くの命を弄んだ貴様は此処で必ず殺す。
――先に地獄に行っていろ、後から地獄に落ちた時もう一度殺してやる。
激しき戦闘音。銃弾に魔術、その交差は幾度と戦場に瞬き、そして互いの身を削っていた。
信者達は教主の一声で奮い立つ。まるで命すら惜しまぬかのように。
「……これが救いを齎す、ていう事なの? こんな事をする為に、させる為に……儀式の生贄たちをどんどん集めてるの……?」
尖兵は制圧し、信者や幹部は蹴り砕く雷華の一撃は強烈だった。
仲間を巻き込まないように立ち位置を変えつつ尖兵以外には容赦しない。
「ぬ、ぬぅ……この不心得者が――!」
司教と呼ばれる幹部が何か叫んでいたが――どうでもよかったので殺した。
生き残っているなら、殺す。
残党など残すものか。ああ、信者程度であればまだ生かして情報を抜き取ってもいいが。
「さあ、さあ、さあ」
其の掲げる経典は振り上げた拳を防いではくれますか――?
次いで、言葉を響かせたのは未散だった。
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
「血の汚れは血で雪ぐ事でしか落とせない事をご存知ですか?」
「女。なんのつもりか」
「花を、供えに来ました 愚かしい萎れた柘榴の外殻を」
花を、死者に手向けて悼むのなんて、よわむしくらい。
分不相応な二足歩行だから手を合わせる事が赦される。
私達はそういうものなのです。
そして本来は貴方もそういうものなのです。
繋げる魔術。邪気を払う光が――教団の者だけを包んで。
「……穢れた血よ、失せよ。貴様らに生きる価値はない」
それに対抗するような形で、教主の術も紡がれた。
煩わしいぞと言わんばかりに。未散らを全て――燃やし尽くさんが如く。
「ヴィクトール様」
「ええ。それでは、参りましょうか」
それでも倒れない。意志を持つイレギュラーズ達は教主如きには。
未散の前に立ちその術の壁となるヴィクトール――強大なる力は感じるも、しかし。
「救われたいですか。救われないと願いますか。あなたはどう有りたいんですか。
それさえわからないのであれば私たちが楽にしてあげましょう」
終わらせようと、と彼は願った。
もし何かを願うならばその願いを聞きましょう。
もし何かを希うならその声は聞きましょう。
貴方が拒絶するというのなら……それでも手は差し伸べましょう。貴方の命がある間は。
「ぬ――いかん」
その時、教祖は気付いた。
自らの周りに立つ護衛が粉砕されている事に。これでは――接近を阻めぬ。
「よぉ、教祖さんよ。今からぶち込むのは、カリバーの――いや、大勢の死の重みだ。おれもアンタも血まみれの黒い道を歩んだ同じ穴のナントヤラ。どう御高説たれようが、最後にゃ仲良く地獄行きだ。幾ら足掻いてもな」
それはヤツェクの一撃だった。
彼は教祖になど屈さない。辛辣ながら、頼りになるアドバイスをしてくるE-Aが『忘れるな』とばかりに脳髄を叩きにも来てくれるのだ――お前の『声』など知った事か。
戦いを最適化する支援。味方を守護する加護を齎しながら彼は機会をうかがっていた。
――奴をぶち殺す一撃を。
それに繋がる一撃を。
「ここに神はいない。少なくともあんたの便利な神様は」
逃さじの流星群が再び降り注ぐ。狙いは教祖を命を掛けてでも庇うであろう者達。
鎮魂歌込みで、あの日のように――
「畜生。何が戻ってくる訳でも……ねぇんだよ」
「――くっ! 私はまだ――全てを救うまでは――!」
「いいえ。此処が終着なのです」
同時。未散が跳躍した。ヴィクトールの『通せんぼ』もあらば真に彼は孤立しており。
その首を――落とす。
時間さえ置き去りにする光撃が全てを終わらせるのだ。ああ――
「――怒りの日は来たれり」
Dies irae。
求めしは静寂、沈黙、無音の晩鐘。
全てが厳しく裁かれる時が来たのだ。生憎と、裁くのは神ではなく。
「……よわむし ではありますが」
人と言う名の――小さくも生きる、確かな命なのだと。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
罪を背負って生まれるのだとしても、裁く権利は決して狂人には与えられないでしょう。
――ありがとうございました。
GMコメント
リクエストありがとうございます!
このシナリオは設定上シナリオ『Keys of the kingdom』の続きになりますが、読んでおく必要はありません。
●依頼達成条件
下記のいずれかを達成してください。
A:幹部3名以上の殺害
B:幹部2名以上+尖兵全員の殺害
C:信者全員+尖兵全員の殺害
D:教主の殺害
E:拠点にいるイレギュラーズ以外の全人物の殺害
どれがやりやすいか、はともかくDやEの達成は難度が高くなります。ご注意ください。
●戦場
『罪の御宿り』本拠地バルガス山の一角。
バルガス山とは幻想南部に存在する場所で、元々は鉱山があった場所でした。資源が取れなくなった頃に放棄され、教主が私有地として買い上げた様で――それ以来教団の本拠地となっています。
内部は洞窟の中とは思えない程整った通路と成っています。
まるでそれは聖堂の様です。枝分かれする様に複数の通路があり、施設の各部屋に繋がっている様です。その最奥には教主が座しています。
時刻は夜ですが、内部は通路一定毎に蝋燭の灯りが灯っているようなので問題はないでしょう。
●敵戦力
・教主
教団『罪の御宿り』を率いている人物です。
その思想は完全に狂っていますが、本人としては真心のままに他人を救っている認識です。この世は誰しもが罪深い。だからこそ穢れた血を流さねばならぬと――
強力な攻撃魔術を行使する人物でもあります。治癒系は使えません。
騎士団の調査により以下の特徴を持っている事が判明しています。
・信者に対する強力なカリスマ性を持っている模様(周囲の味方勢力に対する戦闘指揮的な能力を所持)
・非信者に対する洗脳の様な魔術(?)を持っている模様。これ自体に攻撃力はないが、油断するとBS【狂気】が付与される可能性がある為、注意。プレイングや精神的抵抗のスキルなどで防げる可能性あり。
・穢れた血よ、失せよ(A):神自域【識別】【麻痺】【呪縛】【致命】
*ただし識別は、尖兵には通じない模様。
*傾向:高ダメージ、教主のAP消費莫大
・幹部×5名
『司教』とも呼ばれる者達です。いずれもが魔術を操ってきます。
攻撃も出来ますが、どちらかというと治癒の方が得意な様です。
五名の内『三名』は施設内を巡回する様に動いています。残りの『二名』は教主と共に常にあるようです。
・信者×10名
教団の正式な信者です。
下記『尖兵』とは異なり柔軟な判断能力を持っていますが、一人一人の戦闘能力自体は大した事はありません。『幹部』一人に付き、二名ずつ警護として付いているようです。
・尖兵×20名
元々は攫われてきた者達でした。『浄化』という儀式の為に――ですが騎士達の攻勢が近いとみるや否や、全て薬物か魔術によって精神を狂わされ教団の尖兵と化しています。
いずれもがなんらかの刃物を持っていますが元々只の一般人ばかりですので戦闘能力は低く、精密な判断も出来ません。例えばイレギュラーズを発見すれば排除しようと攻撃してくるでしょうが、仲間を呼ぼうだとか劣勢だから一度退こうだとか……そういう柔軟な判断が出来ない状態です。
ほとんどがまだ幼い、少年少女の構成です。
基本的に施設内を虚ろな表情で雑に巡回しています。
また、このうち2名が洞窟入り口で見張りをしている様です。やはり虚ろな顔で。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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