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シナリオ詳細

<アアルの野>死者の名

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 人は生涯に渡って二度死ぬのだという。
 一つは肉体的な死。
 何らかの出来事により肉体は動かなくなり、死する。
 病、物理的損傷、寿命……いずれでもいいがそう言った物理的な話である。
 そしてもう一つ。
 人は、誰しもから忘却された時に――完全なる死を迎えるのであるという説だ。
 肉体が死しても誰かが覚えているのならばそれは『生きている』と言えるのではないか?
 彼らの遺したモノが、誰かの心に在り続ける限り……
 ……それは一種の思想とも言える――が。
 では。

 それ、なら、ば。と誰かが考えた。

 例えば忘れられなければ、まだ完全には死んでいないと言えるなら。
 平凡ならざる者達。多くの者達に記憶されている者達ならば――
 より強くまだこの世に『生きている』と言えるのではないか?
 ……依り代を用意しよう。
 彼らはまだ肉体が死んだ『だけ』なのだから。
 ならば『肉体』を用意してやればいいのだ。そうすれば彼らは帰って来れる。
 人々の記憶よ――大地に根付く――地脈の記憶にすら残る者達よ――
 再びその偉業を、この現世に……
 完璧なる世の実現の為に。


「そーいうクソみてーな事を考えたのが『ウチ』の組織って訳だ。
 だがよぉ、ハッ! 『博士』とやらのクソヤローもあんま変わらねーな、大概よぉ!」
 ファルベライズ遺跡の奥で発見された中枢部『アアルの野』
 クリスタルが敷き詰められし古代の空間は神秘に満ちていた。
 これは一体なんだろうか。大精霊ファルベリヒトの遺した産物だろうか?
 見るだけならば美しい光景である、が。この地はとても悠長に眺めていられるような安全地ではない。『ホルスの子供達』なる古代ゴーレムが出現し、奴らは侵入者を排除せんと襲い掛かって来るのだから。
 ――そんな洞窟の一角で飴玉を口に挟むのは一人の『女性』だ。
 棒付きの飴玉を、盛大な音を鳴らして噛み砕いている。舐めるのは性に合わないと言わんばかりに。
「で? んで? どーなんだよ『博士』とらやに汚染されてねー目的のゴーレムはねーのかよ、ぁああん?」
「相変わらず柄の悪い奴だな、子供か」
 そんな女性の目の前にいるのは一人の男。
 彼の名はカーバック。ファルベライズにある色宝を巡ってラサと争っている大鴉盗賊団の幹部の一人――で、あったのだが。
 それは真実ではない。彼にとっての真実は、目の前の女性と『同じ立場』と言う事。

 ――彼らは『レアンカルナシオン』なる組織に属している者達。

 旅人を襲い、旅人を排除せんとしている一団だ。
 カーバックはそこから大鴉盗賊団の中に紛れていたにすぎない。
 彼らの『目的』を――果たす為に。
「残念ながら一体も見つからん。この調子ではこの空間は全て『博士』の作品になっていると考えるべきだろう。ホルスの子供達はおろか……所謂錬金モンスターなる魔物どもが跋扈している。とても手の付いていない場所が残っているとは思えんな」
「はー!? つっかえッねーなオイ!
 オイ、聞いてんのかカーバックよぉ!! もしもしぃ? も゛し゛も゛し゛ぃ゛?!
 元々はテメェの立案だっただろうがよぉ、カーバック・ファルベ・ルメスさんよぉ!!」
「飴が飛ぶ。やめろ」
 喰いかかって来るかのような女性の額を雑にカーバックは片手で抑えながら周囲を眺めていた。

 ――ああ『記憶』の通りだと。
 ここはかつての『己』が知る場所だ。
 空気の澱みはあるものの、この地を離れる『前』の――

「テメーが精巧なゴーレムがあるってんから大鴉盗賊団の中に紛れてゴーレムを奪う計画をだなぁああああ!!」
「元々保証はせんと言っておいた筈だがな。止むを得まい? ここまで『博士』の影響があるなどと誰が予測できるものか。やめろ唾が飛ぶ。離れろ」
 ……そう、彼らの目的は『ゴーレム』そのものだったのだ。
 土塊達。ホルスの子供達と呼ばれてこそいるが『博士』の手が入る前には、そうではない只のゴーレムもいた。防衛、儀式の観点によって作られた人の形を司る人形が……故人に非常によく似る性質は色宝による弄りが大きい面もある、が。『博士』による是非はともかくとして。
 そう言ったゴーレムを彼らは――レアンカルナシオンは欲していた。
 なぜならばそれは彼らの、組織の悲願に繋がる為。
 レアンカルナシオンとは……
「新たな『器』は諦めろ。博士の産物は色宝による干渉もあり、空の器ではない……我々のやり方とは決して相容れないのだ。ホルスの子供達を強引に持って帰った所でなんにもならんよ。」
「いやそういうのいいから。一体ぐらい持って帰ってみないと分からねーだろ? いいから実験してみようぜ。やったらできるかもしれねぇしさ」
「お前話聞いてたか?」
 『転生』を意味する名。或いはリインカーネーションとも呼ばれる言葉。
 彼らの組織は求めていた――かつて偉業を成した者達が再び戻って来る。
 入れ物を。
 新たな『器』として使う為。
 『忘れられていない者達』を、再び現世へと呼び戻す為に。

 彼らは博士とは異なる、独自の死者蘇生の『様な』方法を――持っているのだから。

「つー訳でちょっと付き合え。なぁーに一体かっぱらって行くだけだからよ」
「だから持って帰っても無駄だと何度言えば分かるんだ馬鹿が」
「うっせー!! いいから案内しろやオラァ、どっかにはいるだろ探せばよぉ!」
 吐息一つ。カーバックは零し、先往く女性の後に続く。
 彼女の……いや。

 『彼』の名はエドガーバッハ。

 レアンカルナシオンに属する一人にして、かつて海洋王国にいた――ある魔術師の名と一致していた。


「ホルスの子供達……ファルベライズ遺跡の奥にあった『博士』の産物らしいね。
 今回のオーダーは中枢部の一角に存在する彼らを排除してもらう事なんだ」
 ラサの首都ネフェルストの一角でギルオス・ホリス(p3n000016)は語る。
 ファルベライズ遺跡中枢部。大鴉盗賊団との抗争の際に見つかった――最深部だ。
 色宝が多く存在していると目されるこの地をやはり放ってはおけない。ラサ商会は引き続きローレットへ色宝の確保や、未だ残存戦力で色宝の神秘を狙う大鴉盗賊団の排除を依頼として出していた。
 そして同時に、遺跡のあちこちで発見されている『ホルスの子供達』の対処も。
「彼らは死者の形を司りながら侵入者を排除しようとしてくる。そしてこの前発生したホルスの子供達の一人……キール・クロイツァーの姿が発見された地があってね。君達にはそこへと行ってもらいたい」
「……旦那様、ですか」
 ギルオスの声に反応したのはリュティス・ベイルシュタイン(p3p007926)だ。
 キール・クロイツァーとは彼女の以前の主人たる存在。
 ホルスの子供達を見た、ふとした際に零した言葉から顕現した――かつての姿。
「ああ……だが、念の為言っておくけれど、ホルスの子供達は本人ではないよ。以前、天義の事件の際に発生した月光人形は思い出も持った個体だったけれど――ホルスの子供達は違う。ただ名に反応して形作り、君達が望む言葉を返してくる……正真正銘の『人形』だ」
 その声色は本人に似ている。雰囲気ももしかしたら似ているかもしれない。
 だが違う。
 彼らは思い出を持っていない。記憶を持っていない。
 ただ言葉に応じて振舞うだけの――木偶の坊だ。そして彼らは遺跡の奥へと進もうとすれば妨害する動きを見せてくる……敵に過ぎない。
「だからこそ大鴉盗賊団もそうそう簡単に奥には進めないだろうけどね……彼らは博士が作り出したと思わしき錬金モンスターなど以外の全てを敵として見てくるようだし……ああ、そういえばその大鴉盗賊団なんどけど――カーバックって言う奴と戦ったことがあるかな?」
 カーバック。その名はリュティスも知っているし――ルカ・ガンビーノ(p3p007268)もまた何度か出会った事がある大鴉盗賊団の者だ。
「そいつが、どうかしたか?」
「ああ実はね……カーバック。その名前を調べた所――パサジール・ルメスの一族の中に、その名前が確認できた」
「――何?」
「ただし、古代の人物だ。パサジール・ルメスが放浪の旅を始めた後なんだけど……一度、各地を巡る性質からテロリストかどこかの国のスパイなんじゃないかって疑われた事件があったらしい。その時の解決の為に色々と走り回った人物と同一の名だ」
 カーバック・ファルベ・ルメス。
 かつてパサジール・ルメスを襲った危機を解決した者であり、世界的に有名という訳ではないが、一部の歴史書において名前が残っている様な人物だ。しかし……
「年月的に生きている筈がない。カーバック・ファルベ・ルメスが長命な幻想種であったという事実もない。もしかしたら同じ名前を持つだけの別人かもしれない……だけどパサジール・ルメスも関わっているファルベライズ遺跡に現れたというのは気になるね……」
 今もなお大鴉盗賊団に属しているなら、その内にまた会う事があるかもしれない。
 ファルベライズ遺跡を巡る、戦いにおいて。
「一応情報としてだけは伝えておくよ。ただ――どうであれ僕達の依頼目標は変わらない。ホルスの子供達の脅威を排除してくれ。遺跡の奥にまで調査を進める為には、彼らは邪魔だからね」
 ひとまず目下の重大事はホルスの子供達の方だ。
 向かおうか――遺跡の奥へ。
 空気淀む程の古代の空間へ。クリスタルで輝く――神秘の渦の中へ。

GMコメント

●依頼達成条件
 ホルスの子供達の全ての排除。

●フィールド
 ファルベライズ遺跡中枢部『アアルの野』
 クリスタルが多く存在する古代の地下遺跡です。クリスタルが不思議と光り輝いており、地下ながら光源の類は特に必要ありません。主戦場となるのはその一角、なんらか、家らしき建造物が立ち並ぶ街の様な空間の場所です。
 建造物群の中に存在するホルスの子供達を探し出し、撃退してください。

●敵戦力
●キール・クロイツァー(ホルスの子供達)
 リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)――のかつての主人です。
 『<Raven Battlecry>ティタノマキア』で出現したホルスの子供達の一人で、彼女が名を詠んだ事を契機として姿を顕現させました。誕生したばかりの頃は意味も分からぬ言葉だけを発していましたが、今は普通に喋れるようです。
 キール本人、の様な行動をしますがそれは全て偽物としての行動です。
 奥に進もうとする、自分達を打倒しようとする様な行動をイレギュラーズの皆さんが取れば戦闘の態勢に移行するでしょう。その膂力はとても人間のモノとは思えません。

●ホルスの子供達×3
 キール・クロイツァーの近くにいるホルスの子供達です。
 彼と異なりぼんやりとした人型の姿でしかありませんが、まるでメイド服の様な衣装を着ているように見えます……キールの想像から連座して創り出された個体達なのかもしれません。
 治癒魔法を行う者が一名。速度に優れた近接アタッカータイプが二名の様です。

●錬金モンスター×20
 恐らくですが『博士』によって作り出された魔物達です。
 小型の蠍の様な者達で、毒を持っています。数が多いながらも一体一体の戦闘能力は大した事が在りません。最初は建造物の影に潜んでいたりするようですので、奇襲されたり囲まれたりしないようにだけは注意した方がいいかもしれません。

●???
●カーバック・ファルベ・ルメス
 大鴉盗賊団の幹部の一人、の筈ですが……?
 ギルオスが調べた所、かつてパサジール・ルメスに属していた一族の一人の名として確認できました。しかし年月的に、その人物は既に故人の筈です――なので本人かは不明ですが、少なくとも彼は『ホルスの子供達』ではありません。
 柔軟な思考や、周囲を知っているような記憶を持つ発言からそう目されています。
 ホルスの子供達はそのようなモノは持ってないからです。

 刀の様なモノを所持しており、特に刺突の技に優れている様です。
 シナリオ開始以降、暫くすると後述のエドガーバッハと共に戦場付近のどこかに出現します。
 前回の戦い(<Raven Battlecry>ティタノマキア)で生かされた経緯からか、イレギュラーズ達を「面白い」として興味を持っている様です。

●エドガーバッハ・イクスィス
 レアンカルナシオンという組織に属する一人です。その名は海洋王国に居た『とある人物』の名と一致していますが、性別が違っています。はたして……?
 ホルスの子供達をなんらかのサンプルとして奪取を目論んでいる様です。
 なお、仮に奪取されても依頼の成否には特に関係在りません。

 戦闘能力の類は不明ですが『とある人物』と一致しているなら優秀な魔術師の類です。

●レアンカルナシオン
 『旅人』を不浄な存在であるとして付け狙っている組織です。
 彼らは以前にも(シナリオ『<マナガルム戦記>Benedictio dies』『信仰者達の山狩り』)などで登場しています、が。特に読んでおく必要はありません。『旅人を執拗に狙う組織』という認識でOKです。
 彼らの組織にはなぜか『既に故人』である名前の者達がいます……

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アアルの野>死者の名完了
  • GM名茶零四
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月31日 23時55分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)
微笑みに悪を忍ばせ

リプレイ


「……人を司るのか。やはり月光人形の再来の様だ」
 ファルベライズ遺跡。その中を往く『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は言葉を思わず漏らさずにはいられなかった。
 月光人形。天義における強欲冠位事件における――蘇りの一種。
 忘れられようものか。
 ……月光人形と比べれば、ホルスの子供達には魂が宿っていないという。月光人形も――強欲冠位により創り出されて『あるべきではなかった命』だが、模倣しているだけのホルスの子供達に関してはより強くそうであると思う節もある。
「神の御許へと返そう。彼らは大地に留まるべきではない」
「ああ。誰かの思い出と戦うのはこれで何度目だろうか……せめて善き決着となる様に尽力しよう」
 そして『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)もまたリゲルの意志に同調する。今までも何度か似たような事例と向き合った事はあるが――いずれの場合でも同じ事だ。
 ただ只管に善き決着を。
 今回は彼女――『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)のご縁だとウィリアムは視線を向ければ。
「リュティス。大丈夫か?」
「――はい。申し訳ありません、私は大丈夫です」
 彼女は現在の主たる『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)と言葉を交わしていた。傍から見るとリュティスはいつも通り冷静なる顔色に見えるが……普段より接するベネディクトにとっては何か感じるものがあったのかもしれない。
「……俺達にしか出来ぬことを果たしに行こう」
「勿論です。旦那様を……いえ、とにかく旦那様の下へ参ります」
 これより先にいるはリュティスの元々の主。キール・クロイツァー。
 ホルスの子供達として顕現した――してしまった者だ。
 ファルベライズ遺跡中枢部へと更に近付くべく、邪魔なる者は排除しなければならない。錬金術によるモンスターや、如何なる姿をしたホルスの子供達であろうとも……
「だけど――まずは敵の位置を改めて確認しておこう。
 幸いにして急いで撃退する必要はない筈だからね」
 と、その時。述べたのはマルク・シリング(p3p001309)である。
 彼が召喚せしは鳥。ファミリアーの力によって召喚させたそれを先行の偵察として飛ばす――ホルスの子供達は人型であり、遠目からでも見つけやすいだろう。だが近くには錬金モンスターが潜伏しているという情報もある……
 その位置を把握し、囲まれぬ様とマルクは鳥を放ったのだ。
 見える限りだけでも良い。そこで姿が見えなければ特に『潜んでいると疑わしい』場所として警戒できるのだから。
「いやはや、ここだけでなくファルベライズ遺跡にはあちこち『博士』とやらの作品……錬金モンスターがいると伺っています。実に興味深いですね……ええホルスの子供達も当然ですが、これだけの数を作り出せる技術……可能なら私も研究した言所です」
 同時。優れし嗅覚を用いて近くに潜伏するモンスターがいないかと調査するのは『新たな可能性』ウィルド=アルス=アーヴィン(p3p009380)である。今の所は臭いで判別できる様な地点には居ないように感じられるが……それにしても魅力的な事だと思考している。
 『博士』。アカデミアなる場所に関連している謎の人物。
 しかし出自などどうでもよい。異世界や、その他さまざまな技術や文化に傾倒しているウィルドにとっては、独自の技術によって稼働している錬金モンスターに興味が尽きなかったのだ。
 おっと、無論依頼を忘れている訳ではないのでご安心を……あくまで個人の興味の範囲であれば。
「ま、見つけ次第ぶっ叩いておきたい所だけどな。ホルスの子供達と戦ってる最中に横やり入れられるよりは先に潰しておいた方がやりやすいだろ。戦況がどう転ぶにしたってな」
「そうね。後は霊魂でもいれば助かるのだけど……長く人の手が入らなかった地だからかしらね。随分と霊魂の存在が希薄だわ」
 武器たる黒き大剣を構え『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はいつどこかに敵がいようと戦に入れる様に準備を。同時に『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)はマルクとは異なり、神秘的な方面からの調査――すなわち霊魂との疎通によっての情報取得を行おうと専念する。
 されど近くには死者の魂の類が無いように感じられた……いや気配を全く感じないわけではないのだが、なんとも希薄と言うか……意志の疎通を行うに難しい様な気がする。
「ま、期待は半々って所だからいいけれど……
 本物の死者がいない。偽物ばかりが彷徨う遺跡、とでも?」
 いずれにせよホルスの子供達を撃破するオーダーを果たせばいいのだ。霊魂がおらずとも左程支障はない。
「でも、やり辛いわよね。顔だけって言っても……その……」
 気持ち的に、と紡ぐのは『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)だ。
 自らは召喚時に記憶を消失している為『何がしかの縁者』がホルスの子供達によって発生する可能性は低い――名前を発さなければ、彼らは姿を模さないだろうから。が、精神的な意味では『見知った顔』が敵である事の感情理解が――出来ない訳ではない。
 リュティス。彼女は大丈夫だろうか。
「……なんであれ、リュティスさんの後悔が残る結果になってほしくないわ」
「お気遣い頂きありがとうございます、タイム様」
 視線を向ければリュティスが言を。わわわ、聞かれていたかと。
「――よし。見える範囲での調査はこれぐらいかな。そろそろ接近しようか」
「ええ。私は皆さまの支援に回ります。
 『子供たち』を再び眠らせるために、頑張りましょう」
 マルクが鳥を呼び寄せ結果を皆に共有し。
 さすれば『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)も位置に着くものだ。
 ホルスの子供達……どんなに姿かたちを似せようとも、一度天に還った魂が戻る事はありはしないというのに……『博士』はそれすら分かっていないのか、それとも……
「それとも……全て分かった上で意図的に……」
 呟く言葉。真実は分からねど、前に進むしかないと意を決する。
 あれは只の人形だと示す為に。あれは生き返り等ではないと――示す為に。


 クリスタルの輝きがあちらこちらに。
 眩いばかりの景色には目が眩むかのようだ。

「――旦那様」

 それでも惑わされない。眩いばかりの景色にも、かつて見たよく知る顔にも。
 キール・クロイツァーは街らしき建造物の一角にいた。
 ぼんやりと、椅子の様な物に座っているその後ろ姿――正しくリュティスの知る生前。
「……リュティスか。随分と久しぶりだね」
「――――」
「どうしたんだい? 死に別れた頃よりも一段と更に――立派になったね」
 耳を揺さぶる。脳髄を揺らす。
 それでも、惑わされない。
 これは全て虚偽だ。『それらしき』言葉を述べているだけの音声の羅列。
 惑わされない。惑わされないのだと、瞼を、閉じて。
「あなたがキール・クロイツァーか――
 俺はベネディクト=レベンディス=マナガルム。リュティスの今の主だ」
 直後。被せる様に聞こえてきた声は、ベネディクトの。
「リュティス、もしもやはり迷うなら俺の背だけを見ていろ。
 であれば、向かう道を君の為に拓こう」
 主の背。
 彼は銀の槍を向けている。かつての旦那様の――虚像に。
 名乗り上げるは彼の意志。道を指し示す主の在り様。
 その姿に迷いなく、数多の光よりも輝かしい――道しるべ。
「おっと。やっぱりきやがるぞ――全部潰していくとするかねぇ……!」
「ふふっ。後ろの方はお任せを……傷一つ付けさせませんよ」
 直後。建物の影からキールとは異なるホルスの子供達が現れる。
 いやそれだけではない。やはり警戒通り錬金モンスター達……蠍の様な連中も湧いて出てきた。が、事前に警戒もしていたのだ――驚きはなく、むしろ待っていたとばかりにルカが叩き潰す。
 万一漏れてきても後衛の者達の守護にはウィルドが付いていた。
 敵の攻勢能力次第では前の方に出ようと常に意識を敵に向けながら。
「ふ、む――それにしても人形、か。後から現れたあのぼんやりとした個体達はともかく……キール・クロイツァー……彼は確かに傍目には完全に人間の様に見えるね」
 更にウィリアムも動く。敵意を探知する術で、やはり彼も錬金モンスター達がこちらに気付いて攻撃準備に入った事には勘付いていた――故に即座に雷撃を。蛇の様に這う一閃が湧き出る蠍共を纏めて呑み込んでいく。
 同時に思考するはホルスの子供達についてだ。
 そこまで疑問視した事はなかったのだが、まじまじと見てみれば人と区別がつかない程だ。人形と言えば末の妹であるライラの得意分野だが……
「今度帰ったら話を聞いてみようかな。興味を示すか、邪道ですって言うのか……」
 どちらだろうかと思考し、動き続ける。
 純粋な数ではイレギュラーズ側の方が不利だ。幾らか此処に来るまでに潰した個体もあるが、ホルスの子供達も目の前にした今は些か状況が異なる。油断は出来ない。
「だけどやりようは幾らでもあるものさ……皆、頼りになるメンバーな事でもあるしね。
 さぁ行くぉ! その命――天へと返すがいいッ!」
 そして蠍よりも個体としての能力は高いであろうホルスの子供達へとリゲルが往く。
 キースをベネディクトが抑えるのならば己は別の個体だ――露払いは任された。
 剣に纏わすは光り輝く勝利の象徴。無数の星の力を宿した天なる意志、煌星。
「邪魔はさせない。彼らが為すべき道は、彼らが歩むべき道は……!」
 自らもまたその一助になればと。
 斬撃一閃。眼前に跳び出してきたホルスの子供達が一人を――穿つ。
「そうしてこういう時は治癒役を潰すのが先決……ってね。勢いがある内に決めさせてもらうわ」
「援護します――ご武運を」
 更にレジーナが狙うのはホルスの子供達の中でも治癒を行う事が出来る者、だ。見れば確かにかの人物は魔法陣を紡いでおり、何やら神秘を行使しようとしている様子が見て取れる。だからこそクラリーチェの援護――四方より迫る土壁で敵の動きを止めて。
「人形でも、悪夢は見るかしら?」
 そこへ叩き込むは享楽の悪夢。蝕み滅ぼすひそやかなる毒手が敵を抉るのだ。
 躱せぬ一撃。長期戦などさせる気はない故に、手加減なしで潰していこう。
「蠍たちの出現ポイントも大体は分かっている……抜かりはないよ」
 次いでマルクの邪気を払う光も満ちれば、それは敵のみを焼く聖なる神秘だ。
 戦いが始まったばかりであればいま必要なのは攻撃の意志。無論、周囲の様子に注意しているマルクは、いざとなればいつでも治癒の力を行使するつもりだ。周囲に祝福を与え、その身を癒そう。
「……何が起こるか分からないからね」
 マルクは感じていた。この戦いのどこかに不穏な影があると。
 それはほとんど勘の様なものだが、そもそもこのファルベライズ遺跡には大鴉盗賊団の影もあるのだ……彼が介入してこない保証などどこにもなく。
「一応常に警戒はしておくわ……! 彼らが現れると、厄介だものね……!」
 だからこそタイムは前線にて注意を引きつけているベネディクトやリゲルに対し守護の加護を齎しながら、同時に不穏な感情が無いか探知の網を巡らせていた。何が引っかかるのか今一つ自信はないが『嫌悪』であろうかと。
 彼らとは――少なくとも仲が良くはない。
 であればイレギュラーズがいると分かればそういった感情を抱くはずだ。
 範囲内に至れば方角はともかく――察知する事が出来て。
「……あら?」
 瞬間。何かにタイムは勘付いた。
 見られている様な、見られていないような。妙な感覚がどこかにあると――

「あーん? なんだぁありゃあ……?」

 それはイレギュラーズ達を見る影が一つ、いや二つあったが故。
 少し離れた地点。そこに居る者がのぞき込むように――目を凝らして眺めていた。


 ホルスの子供達の応戦は始まっていた。
 彼らを、イレギュラーズ達をこの先に進ませぬ為に。
「『博士』の意志なのかなこれも。ゴーレムに役目を与えているかのような……」
 ウィリアムは見る。ホルスの子供達の動きを。
 彼らは実直だ。キールに関しては言葉を投げかけながらもしかし――やはりどこか進ませぬような立ち回りをしている。『そこ』が物言わぬ人形という事だろう。
 本当に意思を持っているのならば、動きよりも会話を優先するだろうから。
 ――雷で構成された投槍を放つ。それは、レジーナが相手取っている治癒役のホルスを狙いて。
「享楽の毒は汝(あなた)には過ぎたものかしら?
 甘みも過ぎれば毒へと至る――甘美と苦悶の狭間に誘いましょう」
 次いでレジーナが首を落とさんと一気に踏み込んだ。
 治癒役を生かしておいてよい事などない。これを落とし、趨勢を傾けようと。
 ホルスの子供達はキールを含めても四体だ――蠍さえ考慮しなければ、優位は動かず。
「でも蠍がこんなに沢山……! ちょーとぐらい減らしておかないと危なさそうね……!」
 とはいえ優先順をホルスの子供達を上位にしていれば、漏れ出てくる蠍もいるものだ。
 タイムの足元に寄らんとする一匹。その尾には毒があり、刺されば痛みが走ろう――
 だから薙ぎ払う。
「一匹一匹ずつ相手になんてしないわよ! えーいッ!」
 それは雷撃。地上に見える蠍らを呑み込むように、蛇が如き雷撃が焼き尽くすのだ。
 それでも超えようとしてくる蠍達。いざやタイムの死角を取らんとすれば。
「おっと、そうはいきません。邪魔をさせて頂きますよ」
 そこは警戒していたウィルドが割り込んだ。
 只管に耐える事だけを考えるならば蠍の一匹程度ならばなんとかなる。いや、これが二匹三匹、五に十と来れば話は別だが……事前に潰した分や、今こうして纏めて薙いでいるのであれば接近にまで至っている個体は多くない。
 それに。
「皆こっちへ。蠍達を引きよせるんだ……一気に潰していく」
 毒を投じられてもマルクの治癒が包み込むのだ。
 しかもそれは攻防一体の術。光の翼で皆を癒し、敵は舞い踊る光刃で撃つ秘儀。
 蠍達を穿っていく。また、それは前衛を担っていたホルスの子供達にも及んで。

「リュティス。まさか、殺すのか? 看取った君が――」

 瞬間。キールはその口からまたも述べた。
 都合のいい言葉を。リュティスの手を惑わす様に。
「……旦那様」
 リュティスは思い起こす。かつての日々を、かつての光景を。
 大恩ある御方だ――それは間違いない。旦那様を傷つける度に手を止めてしまいそうになる。例え偽物だと分かっていても、心のどこかが……
 しかし。
 もう、止まらない。そう『決めた』のだから。
「勇気を、頂いたのです」
「――勇気?」
「この手で旦那様を討つための」
 それはベネディクトの背中。傅かれる者にはその責任があるとした――彼の信念。
 全うする意思に光を見た。眩しく暖かな一筋を。
「あなたが過去だから……いや、過去だからこそ。
 今を生きる者として、情けない姿は見せられんのでな」
 ベネディクトは自らに宿る力を銀槍に込め、一閃。
 それは雷撃へと転ずる一撃。膂力を持って制しようとするキールへ放てば。
 隙が出来る。
「それでは安らかにお眠り下さい」
 だから――もう一度と、リュティスは紡ぐのだ。
 旦那様。貴方様の事を永遠に忘れる事など無いでしょう。

 『――君は自由に生きなさい』

 今際の際に申し上げられた言葉は、今もこの胸の中に抱いています。
 ……旦那様の望んだ形になっているか分かりませんが、しかし。
「そうか――いや、君の事だ。充実しているのなら……それでいい」
 そのまま自由に生きなさい。
「はい――人形であれど、もう一度お顔を拝見できて嬉しく思います」
 軽き、会釈と共にリュティスは決別の一撃を繰り出す。
 それは死へと誘う不吉な蝶。敬愛せし者すらあの世へ誘る――黒き死蝶。
 微笑むキール。
 その胸元へ……神秘なる蝶を送り込めた。
 心の臓を止める為に。リュティス自らの意志で――全てを断ち切る為に。
「……現世での役割を終えた身体は土に、魂は天に。その法則を乱す存在……」
 キールが倒れる。さすればその身は元の土塊に戻るかのように崩れ落ち。
 最早人としての形は留めていない。これが彼らなりの――死だろうか。
 ……やはり許しがたいとクラリーチェは感じていた。役割の旅路を見守る彼女としては現状は許しがたい。本人ではないといえ姿を模して記憶を汚し。尊き魂を冒涜している事……
「たとえ中身が伴わなくとも、亡くした者が動いている。
 当事者にとっては嬉しくて……けれど同時に、とても悲しい事ですね……」
「ああ……全く同感だ。だからこそ残りのホルスの子供達も――だな」
 されどまだ戦いは終わっていないとリゲルは言う。
 蠍はまだ少数だが残っており、キール以外のホルスの子供達も残っている。治癒役であった者は倒れているが、戦いは続いている。全てはこれらも滅してからだと……
 思考した、正にその時。

「よぉ、カーバック。女連れたぁ余裕だな」

 ルカが蠍の一体を屠ると同時――気付いた。
 こちらを見ている存在に。先程タイムがなんとなく勘付いた存在がいる事に。
「また貴様か。何かと縁があるとは、奇妙な事もあるものだ」
「おや、貴方達は――何者でしょうか?」
「名乗るほどのもんじゃあねぇよ。あぁそうだな、冒険者とでも……いやテメェの顔が割れてんだから無駄じゃねーかカース!! なんでついてきたんだよテメェはよぉ!!」
 それはカーバック。大鴉盗賊団の一員でもあった――人物だ。
 ウィルドが警戒しながらも言葉を紡げば、隣にいる女性……が、やけに口汚い言葉でカーバックを罵っている。『お前が付いてこさせたんだろうが』と額を抑えながら呟いて。
「なんだ貴方達は。大烏盗賊団だというなら相手になるが」
「待て。そいつはこのバカだけ……いやこいつも違う……
 ああめんどくせぇ。俺らは別口だよ。大鴉盗賊団なんざ関係ねぇ」
 ホルスの子供達の一人を相手取りながら、リゲルは同時に彼らにも闘志を。
 もしも大鴉盗賊団であるというのなら敵だ。連戦な形にはなるが――戦うも止む無し。
 そう思考はするが、なんとも向こうからは敵意を感じられず……発言は一々妙で……

「貴方達は……ああ、もしかすれば噂の『レアンカルナシオン』とやらですか?」

 代わりに口を開いたのがクラリーチェだ。
 それは推察――何の目的でこんな戦場に現れたのか。
 こちらの事をどの程度知っているのか。
 そして何より――あの顔は以前どこかで見たような覚えが――
「あん? なんだテメェらウチの事を知ってんのかよ……んっ。そういや何人かは見た事があるような……まぁいい。俺は小難しい話は苦手なんでな。単刀直入に言うと――俺らはそのホルスの人形が欲しい。寄こせとは言わねぇ、邪魔をするな」
「断る、と申し上げたら?」
「構わねぇよ。全部潰す」
 女性が紡ぐは一々乱暴な声。応対したはウィリアムだが――しかし彼女の声は本気だ。
 こちらを相手取ると言っている。その身には巨大な魔力を纏わせていて。
 ただのブラフか? いやしかし――
「なら、好きにすればいい。君達まで敵に回れば、いよいよ僕らも手加減の余裕なんて無くなる――けど、キール・クロイツァーは渡せないよ。もう土塊とはいえ……色々心情的にね」
「その通りね。キール型以外であればいいわ、それで良ければ……」
「おっ? なんだ、頼んでみるもんだな! YESの言葉は好きだぜ俺はよ! ああ別に俺の方に拘りはねぇ。綺麗な奴を持っていければそれでいいからよ」
 マルクの言に続く形でレジーナも提案するが――向こう側はあっさりとOKと。
 ……交渉がすぐに纏まったのは良い事だが、同時にレジーナは思考を巡らせていた。
 なぜ? キールでも良かったが、別のでも良かったのか?
 いやむしろ……『キールでない方が良かった』可能性もある。
 キールは形が定まっていた。しかし、他は定まっていない不定形……もしかしたら、そういう者の方が『都合』が良いのではなくて……?
「……」
「だけど――代わりと言ってはなんだけど、聞きたい事があるね」
 沈黙し、観察する様に眺めるレジーナ――に次いで、再び紡ぐはマルク。
 快諾の意志を示す女性……に対して。
「まずは……呼びにくいな。ええと、貴方の名前は?」
「――――チッ」
「……? どうしたのかな、名前がない訳では……」
「エドガーバッハ。エドガーバッハ・イクスィスだよ」
 それは海洋王国におけるとある魔術師の名前と酷似している――やはり――
「なぜレアンカルナシオンが旅人排斥を掲げるのか、その理由を聞いても? 旅人がこの世界にとって不自然な存在だというなら……貴方達がこの時代にいる事だって、不自然極まりない」
 世界が旅人のものではないというなら、世界はまた死者のものでも無い筈だ。
 どうして死者が在籍している? そしてその目的は――
「あ、それ只の方便だから。旅人は少なくとも俺達は別にどうでも……」
「……何?」
「あっ、やべ今の無し! 聞かなかった事にしろオラァ!!」
 雑に誤魔化そうとするエドガーバッハ――しかし彼女――いや彼――の台詞からも別に旅人に対する特別な敵意と言うのは感じられない……まさか本当に……?
「待て――やはり貴方達も、ホルスのように人工的に命を生み出そうと目論んでいるのだろうが……一体何を蘇らせようというんだ? 蘇らせたところで、紛い物にしかならないぞ!」
「それはどうかな」
 瞬間。レアンカルナシオンへ言葉を繋ぐのはリゲルだ。
 やはり彼にとっては許しがたい。ホルスも、それに類する様な存在も。
 リゲルの喝を込めたかのような言に対して――カーバックが紡ぐのは。
「ホルスの子供達が紛い物なのは『記憶』がないからだ。奴らの口から湧いて出てくるのは全て虚像。全てその場凌ぎのもの。しかし我らは違う。『記憶』が正確であるのならば、それは本人とどう違う?」
「――まさか」
「我々は本人ではない。だが本人に限りなく近い思考を持つ、その『延長線上の存在』だ」
 月光人形が『過去』の本人であるとするなら。
 ホルスの子供達が本人の姿を『模した』だけの人形。
 レアンカルナシオンは本人の思考を持つ『生きていたら』の存在。
「そんな存在をどうやって……いやいずれにせよ神への冒涜だ。一度死した者が再び蘇るなど……ましてや利用するために弄ぶならば……!」
「ふむ――やはり天義の騎士との問答は色々と弾むが……我々も時間がないのでな」
 カーバックが話を打ち切る。それは、ここが彼らにとって不利だからだろう。
 見た所いるのは二人だけの様だ――もしもイレギュラーズやラサ商会の者が偶々にでも周囲に訪れればまた形勢が変わる可能性がある。取引などせず捕える事も……だから彼らは行動を開始する。
 ホルスの子供達の一体を確保し――どこかへと引き上げるのだ。
「あ、わ、わたし旅人じゃないです……幻想種です。ほ、ほら、お耳……」
「んぁ?」
 瞬間。顔を逸らして耳だけ晒すタイム。よーく顔を見据えるエドガーバッハ。
 や、やめて見ないで。覚えないで。ワタシ、ハーモニア、デス。
「まぁいいや。んじゃ俺らはこれでな!! またどっかで会おうや現代の英雄諸君!」
「ええ――機会がまたあればいずれどこかで。
 ああ私……ウィルド=アルス=アーヴィンと申します。以後お見知りおきを」
 親指立てて撤退するエドガーバッハ。返答とばかりに言うはウィルドだ。
 今回売ったのは所詮敵の人形。味方を売る事がないなら――こちらを売り込みたい所だった。
 世の中何が起こるか分からないのだからと。
「待てよカーバック。お前も『そう』なのか?」
 と、最後にルカが言を。
「お前には別の目的もあるんじゃねぇか――? そうだな、お前自身の目的はファルベリヒトの復活って所か?」
「……ほう」
「カーバック・『ファルベ』・ルメス。ファルベリヒトの眷属か、極めて近しい間柄なのは明白だ」
 名前からだけでも推察できることはあるのだと彼は言う。
 伝承によればファルベリヒトはその昔、強大なる魔物と戦っている。
 その結果で砕け……色宝が各地に分散したのだと。
 ファルベリヒトを助けたいのがお前の目的なのではないか? その為に大鴉盗賊団に――
「面白い推論だな。だが……ファルベリヒトは朽ちた。色宝がその象徴よ。
 ――救うなど出来ない。大精霊は永遠の眠りについたのだ。」
「そう簡単に諦めず頼れよカーバック――俺はラサの傭兵で、天下無敵のイレギュラーズだぜ」
「自分で自分の事を天下無敵などと言う輩は信用できんな」
 ふっ、とどこか……笑う様にカーバックは口端を緩ませれば。
「だが面白い奴だとは覚えておこう。ルカ・ガンビーノ。その名を忘れる事はあるまい」
「ああ――その頭の中にしっかり刻んでおきな」
 行くぞオラァバーカ! という声が後方から聞こえてきて、カーバックは跳躍する。
 後に残されるは戦闘の跡のみ。錬金モンスターの蠍も……恐らく殲滅しきったか。
「……レアンカルナシオンか。いずれは――戦う事になるのかもしれんな」
 槍を握りしめベネディクトは呟く。
 奴らは以前、彼のあるパーティに乱入した事もある連中だ。
 今日というこの日には騒乱はなかったものの、また『いずれ』の機会があるのかと――思考を巡らせていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 彼らの事はまたいずれ。
 ――ありがとうございました。

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