シナリオ詳細
悠久なる音色
オープニング
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「撃て撃て――!! 逃すな――!!」
海洋王国が一角、パンガラス島付近にて海洋の軍艦が砲撃の音を轟かせていた。
対象は海賊船だ。この国では女王の私掠船許可書を持った所謂『公認』たる海賊もいたりするが……彼らはそれらとは異なる存在。海洋王国に頭を垂れぬ、純粋な意味での海賊たちだ。
彼らは国内の商船を襲っていた者達で、今まで巧みに王国軍艦からは逃れていた。
しかしついにその姿を捉えられ――今まさに追撃を受けている真っ最中。
「チィ、奴らめ! 島の影に逃げ込むつもりか……!?」
「ですが速力ではこちらが上です――やがて追いつけます!」
同時。海賊船の姿が島の影に見えなくなった。
島自体を利用して射線を区切るつもりか。だが、そんなものは時間稼ぎにしかならない。
王国軍艦は次弾の装填を急がせながら海賊船を追いかけるのだ。兵力では此方が上。船の火力もこちらが上――ならば距離を詰めてさえしまえばどうとでも――
「んっ……なんだ!?」
しかしその時。
軍艦の進みが急速に落ちつつあった。風の流れは変わらず、海の流れが変わった訳でもない……それなのに船は緩やかな速度に移行しつつ――どころか止まる様子を見せていて。
馬鹿なこんな事が在り得る筈がない。座礁した訳でも無ければ、これは……
「せ、船長! 下です! 下に魔物がッ――!!」
その原因に気付いたのは船員が一人。指差す先にあったのは、まるで蛸の様な触手。
それが船の進みを塞き止めているのだ。更には船を軋ませ、船底に穴を開けんとしていて……
「くっ。総員迎撃せよ!! ええい、あと一歩と言う所でこのような……!」
やむを得ず海賊船の追跡を止め、魔物に対処する海軍の者達。
どうしてこんなタイミングで魔物の襲来などあるというのか。
少しばかり疑問を抱きながらも――大蛸を追い払う為、奮戦するのであった。
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「どうやら魔物を操る海賊たちがいる様なのです」
後日。イレギュラーズ達への依頼が舞い込んだ。
その内容は一言で言うと『海賊たちの討伐』なのだが……
事はどうやらそう単純ではなさそうだ。魔物を操る――海賊――?
「厳密には操るというか……一から説明しましょう。パンガラス島には一匹の大蛸がいます。周囲の地域に伝わる所によると、この大蛸は以前から出現していた個体らしいのですが……とある『笛』の音を聞くと、落ち着く習性があるらしいのです」
それはかつて存在した船乗りが所有していたモノらしく、大蛸の好みであったのか不明だが……その音色は大蛸の攻撃性を落ち着かせ、船を素通りさせるものだったらしい。笛はやがて子孫に受け継がれたそうだが、ある日海賊に奪われて。
「そして――その件の海賊が持っている、と?」
「ええ間違いないでしょう。自分達が通る時は落ち着かせておきつつ、通り過ぎた後は笛を解除し……追って来る軍艦を襲わせる。そういう絡繰りなのだと我々は判断しています」
そして蛸が襲ってくる度に海賊達には逃げられている。直接戦えば勝てる筈なのだが、口惜しい。大蛸を倒せばいいのではあるが――しかしこれが厄介であり蛸は中々強かった。船を軋ませる膂力は脅威であり、いざ追い詰めても奴は深海へと逃げ込み……
「そしてその頃にはもう海賊はいない、か」
「はい。もっと多くの艦隊を動員できればいいのですが……中々そういう訳にもいかず。ここはイレギュラーズの皆様のご助力を、と思いまして。先日、蛸の襲撃で船員の多くに負傷者が出てしまった事もあります……」
戦える力を持っている者が少なくなってしまった、と言う訳か。
王国海軍は補給の船の修理の為に近くの大港へ往くらしい――が、その間に海賊達がまた襲ってこないとは限らない。故にローレットのイレギュラーズへとお鉢が回ってきた訳だ。
「ご所望でしたら小型船をお渡しする事は出来ます。或いは、皆様の方で相応するモノをお持ちでしたら不要かもしれませんが」
「成程――ところで、オーダーは海賊と蛸の撃破、でいいのか?」
「はい。主目的は海賊の撃破ですが、蛸も魔物でありこの辺りを悩ませている対象に違いありません。まぁ最悪の場合は蛸は逃げられても構いませんが……どうか海賊だけは打ち倒して頂ければと」
――さてどうしたものだろうか。
海賊が出没する地域へと往けばほどなく海賊には出会うだろう。
問題はその後だ。蛸をまずは相手取るか、海賊へと急速に接近するか、或いは蛸を落ち着かせる『笛』とやらを奪うか破壊するか……
作戦を練る必要がありそうだと、貴方達は思考していた。
- 悠久なる音色完了
- GM名茶零四
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月29日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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海賊と大蛸の組み合わせ――そういう物語もあるのかと『新たな可能性』イズマ・トーティス(p3p009471)は水平線の彼方を眺めていた。
船で戦域に近付いている。もう間もなく件の島だろう。
高鳴る鼓動は近付く戦の気配を感じてか――?
「依頼での戦闘は初めてだ……ましてや海戦とはね。けれど、やれるだけやるさ」
「蛸……賊……ふふっ、まずは海賊から美味しくいただきましょうかぁ」
イズマの武者震い。しかし、船の上での戦いが初めてというのは『蔵人』玄緯・玄丁(p3p008717)もまた同様なのだが――彼の方はむしろ来たる戦いに向けて高揚感が増していた。
蛸も賊も全て敵。それらを相手に揺れる船の上での死闘とは……
ああ――腕の振るい甲斐があるものだ。
「さぁ、てぇ? 見えたぞ……アイツが話に聞いた海賊船だな?」
同時。船を操舵する『波濤の盾』エイヴァン=フルブス=グラキオール(p3p000072)の目に映ったのは目標の海賊船だ。海洋王国代理でやってきたイレギュラーズも海洋王国の軍人でした……てな、と。獲物を狙い定めるかのように視線を尖らせ。
「むっ。やはり前情報通り島の影に逃げ込むつもりの様ですね。またも蛸頼りの小賢しい手を使うつもりでしょうか……なんと姑息な。斬り捨てて差し上げましょう」
「ああ――悪知恵が働く海賊共はとっちめてやらないとねぇ。これ以上海で好き勝手させやしないよ!」
エイヴァンの操舵が船を前進させるのに伴って、戦闘の準備を整えるのは『放浪の剣士?』蓮杖 綾姫(p3p008658)と『大海に浮かぶ月』アウレリア=ネモピレマ(p3p009214)だ。此処から先は速度が大事となる。
蛸の『備え』はあるのだが――それはそれとして海賊たちに悠長に時間を使っていい訳でもない。接近次第、皆撫で切りにしてやるとしよう。
悪の報いを受ける時だ。
進み続ける船は順調に海の上を謳歌し――そして――
「来ましたね、たこですか」
その存在に素早く気付いたのは『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)であった。己らが船の下に、巨大な影と気配がある。
たこ、たこですか。
「たこと言えば……まぁ……いや、別に海洋生物に思う所はないのですが。本当にないのですが――いやしかし本当に大きいようですね……!」
想起する顔があったが、それも一瞬。
近付いてくる蛸に対処しなければ海洋王国の二の舞だ。ここで足を止められる訳にはいかない。
だから。
「では、皆様、手筈通りに……海賊船の方は、おまかせしましたの。
私は、大蛸をなんとか、してみますの……!」
故に『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)が動くのだ。
分かっていた大蛸の襲来……それに備えてイレギュラーズが準備したのは二隻の船。一隻は海洋王国から借り受け、一隻はエイヴァンが用意した小型船。片方……エイヴァンが操りし方はとにかく海賊を滅する為の船であり。
そしてノリアが搭乗している船の方が――蛸を抑える囮の船だ。
歩みを遅くさせる、意図的に。
蛸が食いつく様に……壊しやすいと錯覚させるように。
「やれやれ。海賊と巨大蛸が今回の相手ですか……どちらかと言えば海賊よりも巨大蛸を相手にした方が楽しそうですけど――まぁこれも依頼なら仕方ありません。あの蛸と遊ぶのはまた今度ですね」
ノリアの船と距離が離れるのを『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は見据えれば、同時にその視界に『現れ』た。
蛸が。この海域で幾度と暴れた――大いなる蛸が。
戯れれば楽しそうだが、今は逸る気持ちを抑えよう。
「行くぜ……突っ込んで接近する! 逃がすかよ……!」
エイヴァンの声が響いた先。海賊船はそう遠くない位置に存在しているのだから。
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「おっと! 連中二隻に別れやがったぞ!」
イレギュラーズ達の行動に海賊たちは若干焦る――いや、複数の船が来る事を想定していなかった訳ではない。が、ただ単純に囮の船を用意しただけではその船はすぐに潰され、二隻目に襲い掛かる筈であった――
「さあ、あなたが食べるのは、あの船ではなくて、わたしですの……!」
が、ノリアが海へと至れば蛸は彼女へ。
大海の抱擁に身を委ねる彼女にはそう簡単には崩れる事は無き力が宿っていた。魅惑たるゼラチン質のしっぽが海中にて煌めき、一見すれば隙だらけに見える姿勢――それらは全て彼女が『餌』として蛸の目に映る。
往く。蛸の興味は既に船よりもノリアという存在へ。海賊たちは蛸を制御できている訳ではなく、自分達が通る際に一時的に闘争本能を失わせているだけであればその歩みを止める事など出来ようもなかった。
「それにしても、このような蛸を、おとなしくできる笛が、あっただなんて……
是非とも、召喚前に、手に入れておきたかった、笛ですの!」
触手の攻勢に耐えるノリアの脳裏に浮かぶはかつての世界――弱肉強食の世界における敵性存在達だ。その中には蛸もいた……自らを食さんとする悪魔が一角。そんな存在を大人しくさせる笛など喉から手が出る程欲しい一品だった。くぅ、思い返しても、仕方のない事ですが、本当に、欲しかったですの……!
「さぁノリアさんが抑えている間に……参りましょう」
「相手の足さえ潰してしまえばこちらのものですしね。
ともかく……海の治安を乱す海賊には早晩にご退場願うのです。彼は不要であれば」
ともあれノリアの奮戦の間に距離を詰め続けた船はもはや目前に。海賊船が大砲による砲撃を掛けてくるも――旧式で激しくもない火砲などに臆すものか。
射程に捉えれば、綾姫の斬撃が空を穿つ。
それは海賊船の横っ腹に。激しい衝撃を与え、更にはクーアの炎も続いた。
全てを燃やすこげねこメイドの火事一犯。撒き散らす炎の渦は海賊船に取りついて――その動きに鈍りを齎すのだ。そして、その一瞬にて。
「こんな事もあるかと思い、鈎付きロープを持っておりまして」
綾姫が素早く取り出したソレを投じて――取り付く。
逃がさない。一気に白兵戦に持ち込み、殲滅してくれよう。
海賊たちも白兵戦を覚悟しサーベルを構えている、が。
「散々調子に乗っていたようですが、それも今日までと自覚して頂きましょうかね」
機先を制する形でイナリが往く。
それは八坂刀売神の力。距離という概念を超越し、彼女を果てへと至らせる神技。
――氷が割れる様な音が鳴り響いた時にはもう遅かった。
海賊船へと跳躍転移した彼女は全てを薙ぐ。神の道に人は立てぬのだとばかりに。
「海の藻屑になる前に降参しな! 今だったらまーだお説教ぐらいで許してやるさね!! どうしても嫌だってんなら……体で覚えてもらうけどね!!」
「いつまでも同じ手が通じるとでも思ったか? 笛を寄こして大人しくするこったな」
更にアウレリアが続き、エイヴァンもまた完全に船を横に付ければ戦線に参加する。
万が一海に落ちても動きやすい術を持つアウレリアは行動を大胆に。戦場を謳歌する様に魔力を放出するのだ。魔の砲弾を、術式を。破壊の力によって海賊達へと叩き込んでやる。さすれば当然海賊達も応戦してくるものだが、その攻撃は万全の加護によって前線に立つエイヴァンの身を崩す程のものではなかった。
「その程度か? 姑息な事ばっかりしてる連中は――貧弱なもんだな!」
同時、薙ぐ。放つ斧砲の砲弾は、さながら砲火の吹雪の如し。
名乗る様に敵の注意を引きながら――探すのは船長だ。
より正確には船長が持っているだろう笛、か。
「どこだ――? 俺達だけじゃなくて海賊も吹いてなければ襲われる筈だ。
確実に手元に持っている筈……!」
眼前に立ちはだかる海賊の一人へ、イズマは拳を一閃。
それは捨て身とも言うべき一撃。攻撃に全てを注ぐ彼の拳はまるで鉄が如き堅牢と勢いを持ちて。
穿つ。その顔面を、撃ち抜く様に。
「くそ、お前ら何やってやがる! 海賊が海の戦いで押されてんじゃねぇ!」
「おお、貴方が船長ですね……? さぁさぁ、それでは死合いましょうか」
イレギュラーズ達の攻勢に押される海賊達。故にか、船長らしき人物が声を張り上げる。
――それを聞き逃さなかったのが玄丁だ。
享楽の悪夢。降り注がせしそれを、見据えた長へ。
「ああ船長と言うからには……一番強いですよねぇ? よもや下っ端よりも弱いなどと言う事は」
少なくとも無いでしょう――? と。
まぁいずれにせよ全員『食べる』つもりではあるのだが。船長の突き出すサーベルを掻い潜り、その懐へ。納めた刀を深呼吸と共に――刹那の抜刀。
切り裂き、啄み、貫く三閃。三羽の烏が船の上で飛翔した。
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船上での戦いは明らかにイレギュラーズが優勢であった。
蛸頼りの戦術に頼り過ぎていたのだろうか、元々船員たちの練度は高くない。それでも数の差があれば事前の大砲による砲撃も合わさってある程度は海賊達に優位があったかもしれないが――それはノリアによって瓦解した。
「さぁ、こっちですの! 蛸さん、こちらへ、おいでませ……手の鳴る方へ、さぁ」
こちらへ、と。
彼女が一人で蛸の引き付けを行い――そして行えているというのがイレギュラーズ優勢の大きい要素だ。圧倒的な耐久力で只管に耐え続ける彼女を崩すのは容易ではない……
尤も、倒れない事はともかく攻撃を受け止める防御に関しては些か不得手であり、余裕をもって大蛸を止める事が出来ている訳ではない。その身には痛みが走っており、さしものノリアも限界が近かった。
故に戦場を移す。最後まで戦場から離して耐えるのではなく。
――海賊船の方へと誘導するのだ。
「実に、実に不本意ながら、大蛸に、食べられそうになることでしたら、一日の長が、ありますの……そして、大蛸から逃れる事にも、同様ですの!」
ノリアを捕まえようとする蛸。辛うじて躱しながら船へと向かう。
海賊船への下へと向かえばノリアの負担は減る。狙いは海賊船にも移るだろうし……それにそもそもそうなれば。
「な、なんだとぉ……蛸がこっちの方へ来るだと!?」
海賊の船長は笛を吹かざるを得ないのだから。
それは船長の手を止める事にも繋がる。先述した様に、蛸は海賊たちを狙わない訳ではないのだ。このままイレギュラーズ達の相手をし続けていれば海賊達も蛸にとっては狙う対象。
故に慌てて船長は笛を懐から取り出す。
――流れる旋律。
それは穏やかな印象だった。荒れぬ海の上であればこそ透き通る様に彼方まで。
大蛸の動きが――鈍る――
「成程。それが件の笛なのね――海賊には過ぎたる物だわ」
同時。イナリが動いた。
八艘飛びの如く各所へ移動。邪魔な海賊を吹き飛ばすかのように連打しつつ笛を奪わんとするのだ。笛の使い方の知識を少しでも取得するために船長の笛の吹き方に特殊な動きがないか観察していたが……どうやら吹き方自体は普通の様だ。
ならば今すぐ奪っても問題なし。笛を狙い、鍬の柄の部分で――弾き飛ばす様に。
「ぬぉ! く、くそ! 渡さねぇぞこれは!
というか蛸がこんな近くにいるんじゃ吹くのを止めるとすぐにでも……うぉ!」
イナリの一閃を辛うじての所で躱す船長――と同時に船体が大きく揺れた。
蛸か。すぐさま吹くのを再開すればまた大人しくなる様である。
「しかし本当に蛸が大人しくなるのですね。それを奪う事が出来れば、アレを相手にする必要はなくなりそうです」
「ただ投降も笛の引き渡しも行うつもりがなさそうですね――止むを得ませんか、斬ります」
上手く行けば穏便にお帰り願おうとクーアは海賊達のみを焼き尽くす聖なる放火……もとい聖なる光を放ち、綾姫は斬撃と共に敵の抵抗を奪う術式を展開。海賊たちを大人しくさせるべく立ち回る。
しかし最近賊退治を繰り返してきたので、少しは賊狩りも板についてきたのでは――いや賊狩りが上手くなるというのははたして良い事なのか悪い事なのか――
「やれやれ、因果な商売です……!」
自問しながらも綾姫に迷いはない。賊は倒す。己は道を突き進む。
海賊たちの数も減りつつあった。残っているのは船長を含めても半数に満たず。
「あんまり無茶はいけないよ! ここまで来たんだ、後は順当にやっていこうか!」
一方でイレギュラーズの中で傷ついた者がいればアウレリアの治癒が飛ぶものだ。
さすれば容易には倒れぬ。ましてや海賊の数が減っていれば尚更で。
「さて――ああ、全く……これ以上、やります?
死にたくないなら……ええと、まぁ笛を寄こせって言っておきましょうか?」
故に追い詰める玄丁が再度の降伏勧告を。
自分でも『らしくない』事をしている自覚はある。敵――ましてや悪人などにこのような言葉など。しかし万一手が滑って笛が壊れたりなどしてもまた面倒だ。
だから脅そう。ほら、あのタコを殺すために笛を吹かせるのもいいね?
「だってほら……自分の命を笛にかけて、えっと……芸は身を助ける、でしたっけ? それですよ、ほら――どうします?」
蛸は趣味でもなく主戦場でもないし気は乗らないけれど、仕事ですから。
劣勢なる状況下と『さもなくば死ね』と言わんばかりの殺意に船長の気が淀む――も。
「う、うぉぉぉ! 煩い! どうせ捕まったら縛り首なんだッ、それならいっそ……!」
全員諸共、と。
紡ごうとしたので、玄丁の黒色刀身が船長の身に瞬いた。
――笛が止む。音が止めば、蛸が再び動き出す。
奴は全てを敵視する。止める手段は唯一笛のみ――
だから。
「――♪」
イズマが奏でる。それは、彼の口から。
笛が手を離れた僅かな隙間すら埋める様に。それは彼の優れし耳が笛の旋律を捉え、そして――彼のギフトによる再現が成し得たもの。
(……落ち着け。落ち着け……大丈夫だ。あれは特殊な神秘などが籠ってるものじゃない……!)
もしもあれが機械であったり、或いは何か神秘の塊によるものであったりすれば再現は叶わなかったが……彼はそうでなくば多くの音を自らの喉から発することが出来る。
蛸が鎮まる。一度は再び暴れようとした蛸が、確かに。
「ぷ、は。大人しく、なりましたの……? ある程度、弱らせていた甲斐も、あったでしょうか?」
であればノリアも水面に顔を出す。只管引き付ける事を優先していた彼女だが、彼女を狙った際に『そう、簡単に、食べられませんの!』という意思の抵抗がまるで棘の様に蛸にダメージを与えていたのだ。
そうでなくても時折熱水を噴出する杖で――なんだこの危ない武器は――! ともかく耐えるだけでなく足止めで動きを鈍らせ弱らせ縦横無尽に、正しく奮戦していた結果も結びついたのかもしれない。
海賊たちは捕縛する。船長も失われ、残った船員たちも意気消沈した様で。
「まぁ蛸の野郎は――放っておいてもいいんじゃねぇか? そもそも今まで存在自体はあったのに、討伐してこなかったんだろ? まぁ僻地に大勢投入するのが面倒だったのかもしれねぇが……本気で討伐したいんならイレギュラーズにでももっと早くに頼めば良かった訳だしな」
同時。大盾でぶん殴って海賊を押さえつけたエイヴァンは蛸を見据える。
わざわざ笛をこさえて大人しくさせるだけ――
「だったら、俺達が下手に手を出すなんざ野暮ってもんだろ。
ああそれはそうとテメェらは大人しくしとけよ? 別に頭下げろなんて言うつもりはねぇ、が。負けたもんは勝ったもんに従う……海賊ならそれぐらいはわかってんだろう?」
それともテメェらには物理的な笛が必要か? と抵抗するなら殴る姿勢を。
そうして船を誘導する。この海域を離れれば笛の効力が切れても蛸は追ってこまい。
「うーむ。ありゃあ動物って言うか魔物に近いからか意思の疎通が出来そうにないねぇ……ただなんとなーくアレに悪意はなさそうみたいだ。昔っからの本能みたいなもんなんだろうねぇ」
アウレリアが見据える後方。蛸が襲ってくるのに理由はないのだろうと推察する。
きっとそれは人間が呼吸をするのと同じように。
あるいは縄張りに入れば、主が警戒するようのと同じような感覚なのだろう、蛸にとっては。
「もしも狙って来たなら足をブツ斬りにして差し上げるつもりだったのですが……無用になりましたか」
「……そういえば蛸と言えば、練達に『たこ焼き』という食べ物があると聞きます……
…………今からでも引き返して狩ったら作れるのでしょうか」
綾姫は刀を仕舞い、玄丁は本気の様な冗談の様な口調を紡ぎながら――もう見えなくなりかけている蛸の方を見ていた。ここまで来れば大丈夫だろうとイズマは船の音色を止めて。
「――ま、これで海洋の海の一角に平和が取り戻されたのだと思うべきなのでしょうね」
そしてクーアは海の潮風を感じながら平穏に染まる海を眺めていた。
海洋に領地を持つ者として喜ばしい事だと。
ああ――やはり海は穏やかに限る。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
海賊は討伐、もしくは捕縛され蛸は再び深海へ。
笛も無事に確保できたので――今後、あの蛸を抑える事は容易でしょう。
皆さんのおかげで平和が訪れたのです。
それでは、ありがとうございました!
GMコメント
●依頼達成条件
1:海賊たちの討伐。
2:大蛸の撃破。
2は努力目標です。1は必ず達成してください。
●戦場
海洋王国パンガラス島付近。
パンガラス島は海洋王国に存在する小さな無人島の一つであり、首都からは離れた――所謂僻地の場所と言えます。だからこそ警備が手薄な海賊はこの周辺に根城を持っていたようです。
時刻は昼。少しばかり風が強く感じますが、嵐の気配はなく穏やかな様子です。
フィールド中央にパンガラス島があります。
中央は木々に溢れ、少し小高い丘の様な地形と成っています。
海賊たちは自分達が追われていると感じればこの周辺をぐるぐると回り、やがて蛸に襲わせる心算の様です。
●海賊×8名(+海賊船)
船長を含め戦える者は8名の海賊船です。
幾つか大砲を備えている様ですが、古い型の様で連射は出来ないのだとか。
船員の実力はあまり高くありません。基本的にはサーベルなどで応戦してきます。
また、船長が後述する大蛸を落ち着かせる『笛』を持っています。
●大蛸
この周辺に住まう大蛸です。昔から漁船などを襲っていた存在なのだとか。
基本的にパンガラス島の近くを通った船を無差別に襲います。
凄まじい膂力は船の足を止める程です。その力と真正面から相対するのは中々難儀かもしれません。蛸の触手が多い事もあり、素早く動き続けて絡め取られないようにしなければ危険でしょう。
海賊船の船長が持っている『笛』の音色を聞くと鎮静化するようです。
笛の音色が好みなのか分かりませんが、だから海賊船は襲われないのだとか。
●『笛』
大蛸を抑える『笛』です。かつて付近で漁をしていた漁師が持っていた代物なのだとか。
特別な神秘などは一切感じられません、が。確かに大蛸の攻撃性を和らげるようです。(重要な事としては意のままに操る様なモノではない、と言う事です)
これは海賊船の船長が持っています。
奪うか、破壊する事が出来れば色々と状況に変化がある事でしょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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