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シナリオ詳細

<アアルの野>迷い子二人

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●while(1)
 ホルスの子供たち。
――それは意思なき土塊人形。
 名前を呼ばれれば何度でも蘇る、とっても忠実で便利なお人形。
『博士』は、戯れにこう考えた。
「もし片方が倒れて、片方が名前を呼び続ける人形がいれば、彼らは永久に動くんじゃないだろうか?」
 宝物と、ひとさじの悪意を混ぜ込んだ思考実験。

『オニイチャン……ヘンデルオニイチャン!』
『グレーテル、グレーテル!』
 思い付きは……なるほど、それなりに上手くいった。
 人形の身長よりもはるかに巨大で、はるかに強大なガーゴイルが吠える。
 なすすべもなく、片割れの土人形の上半身が崩れ落ちる。
『グレーテル、グレーテル!』
 片方が魔物に食われると、片方が必死に名前を叫ぶ。
 悲劇だって?
 いや、彼らは人形に過ぎない。
 そういう風に動くというだけだ。

 崩れ落ちた妹は再び姿を取り戻す。――粉々になった兄と引き換えに。
『イヤ、イヤ、オニイチャン! ヘンデルオニ』
 片割れのその喉はかぎ爪に引き裂かれる。
 そしてまた兄が――。

 なるほど、これなら戦闘を教えていない人形だって、「いつかは」ガーゴイルに勝てるだろう。
 それがいつかは知らないけれど。

 結末を見届ける前に飽きてしまった博士は、彼らを迷宮に放り出した。
『この遺跡で、彼らは、永遠に会うことはない』ように呪いをかけて。
 だから、彼らは永遠だ。
 欠けているからこそ呼び合って、互いを求めて――何度でも蘇るのだから。

●終わりのない物語に結末を
「どうする? アンナ。って、きっと聞くまでもないのかな」
「はい。――大鴉盗賊団の、あとを追います」
 問いかけるソフィアに、『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は強く頷いた。
(びっくりするほど、姿は昔から変わっていなくって。どこまでもまっすぐな瞳も、あのままみたい)
 このまま、何も知らないままに。目を瞑ればきっとこれ以上に傷つかないことは互いに知っている。
 けれど、それができたならここにはいない。
「そうよね! あたしも、じっとしてはいられないもの。みんなは中枢に向かうんだよね」
 ソフィアは頷き、遺跡の地図を広げてみせた。
 外形は、無限の形を縦にしたかのような奇妙な遺跡。
 ところどころはソフィアが書き込んだのだろうか。手書きの注釈が見える。
「この遺跡は、ちょっとした迷路みたいになってるみたい。
 といっても、壁が崩れかけてたり、強引に突破できそうな箇所がいくつかあったし、馬鹿正直に進まなくても何とかなりそうなんだけどね。
 北は広くて正面入り口。
 開けて、モンスターが多いから、戦闘に自信があるならこっちかな。
 それと、もうひとつ。
 最近、南側が崩れて新たな通路が見つかったみたいなんだけれど、裏道だね。……」
 ソフィアは息を吸って、それから険しい顔になった。
「姉様……何か、心配事がありますか?」
 アンナはぎゅっと目の前で手を組んだ。けれどもその意思の光は欠片も衰えていない。
(みんななら、大丈夫、だね)
 ソフィアは意を決して、本題を告げる。
「うん。この遺跡には……『何度倒しても亡霊のように蘇る』敵がいるの。たぶん、”ホルスの子供たち”だね」
 ホルスの子供たち――。『イヴ』と名乗った少女が告げた、仮初めの命を宿らせたかの如き存在のことだ。
「色宝を利用した、死者蘇生の研究……」
「そう。兄と妹で、遺跡の中で、どんなに離れていてもお互いの名前を呼びあって、何度でも蘇ってしまうんだって。うーん、……ちょっと気の毒ね。どうやって倒せばいいのかは分からないけれど……うん、きっと大丈夫!」

GMコメント

無限ループ駄目、ぜったい!
布川です。できれば、眠らせてあげてください。

●目標
 ホルスの子供たち、「ヘンデル」と「グレーテル」の討伐。

●ファルベライズ遺跡中枢の迷宮
 人工的な迷路のような空間が広がっています。

<北入口>
 広い入口。モンスターが多め。堂々と侵入したい人向けに。
<南入口>
 入り組んだ道。トラップや罠、パズルが多め。こっそりと侵入したい人向けに。
 パズルは道が3つに分かれていてヒントが書いてあって……といったような雰囲気パズルです。

 手分けしても構いませんし、どっちかに人が固まっていても構いません。
 イレギュラーズであれば薄いところを選べば壁を破壊するなども可能でしょう。
 また、すべてとはいきませんが、一部は飛行で飛び越えることも可能です。
 ほか、物質透過なども問題なく使えます。

●登場
ホルスの子供たち「ヘンデル」
 グレーテルを探して、迷宮の北をさまよい続けています。
 しかし他者の介入なくしては、永久にグレーテルに会うことはないでしょう。
 剣を持ち、勇敢に戦います。
 素人同然ですが、色宝のせいかそれなりに強いようです。

ホルスの子供たち「グレーテル」
 ヘンデルを探して、迷宮の南をさまよい続けています。
 しかし他者の介入なくしては、永久にヘンデルに会うことはないでしょう。
 すすり泣きをしているようにも見えます。
 神秘属性攻撃、臆病で逃げ出しがちです。
 素人同然ですが、色宝のせいかそれなりに強いようです。

<共鳴>
 片方の気配が消える(戦闘不能になる)と、もう片方が錯乱して名前を叫びだします。
 叫び声を聞くと、片割れは再び復活します。
「同時に倒す」か、「再会させて倒す」ことで眠りにつきます。
 どちらでも構いません。

ガーゴイル×2程度
 迷宮北口の正面を守っているガーゴイルです。侵入者を攻撃します。
 物理タイプです。

サンドエレメンタル×10程度
 迷宮内に存在するエレメンタルです。
 見かけ次第、侵入者を排除します。
 ヘンデルとグレーテルも対象のようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <アアルの野>迷い子二人完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
主人=公(p3p000578)
ハム子
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
岩倉・鈴音(p3p006119)
バアルぺオルの魔人
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手

リプレイ

●別れ道
「ターゲットは迷宮の中か、七面倒くさい話だな」
「南側は……道はあるにはあるけど。がれきに埋もれているわね。大丈夫かしら」
『煌希の拳』郷田 貴道(p3p000401)はソフィアに身ぶりで「どきな」と合図する。パンチの一撃で、入り口はがらがらと崩れて露わになった。
「!」
「まあ大人しくコソコソ入らなきゃならねえルールなんざねえよな、HAHAHA。さあ、踏破してやろうじゃねえか、ミーなりにな!」

 北と南。
 イレギュラーズたちは二手に分かれることを選んだ。
「気をつけて。……無事の再会を願うよ」
『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)の小鳥は、シキのもとへと羽ばたいていく。
「そうだねぇ。また会おう」
『萌芽の心』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)は口笛を吹いてネズミを呼び出し、アンナに託す。
「おや、ハンスと一緒じゃないか」
「お久しぶりの同席だね」
『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)はふわりと舞い降りる。
「ちょっと今回は思う所があって。
何にせよ、よろしくお願いしますっ!」
「ふふ、君はとても頼りになるからね。入口は分かれるけれど、あとでまたねぇ」
 互いの名を呼ぶ声が響き渡る。
 ああ、なんという悲劇だろう。
 だからハンスはすうと水色の目を細める。
「……今日という日の花を摘め」
「地獄の運命が土塊二人を死なせないならば逢わせて倒すことで消滅! これだネ!」
 懐かしい危険の気配。『劫掠のバアル・ペオル』岩倉・鈴音(p3p006119)もまた、誰かと”再会”する予感がした。
「最近妙に目が疼くんだよネ……。素で敵な出会いの予感!」

「本当に趣味の悪い実験だ」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)は悔しそうに掌を握りしめる。
「そこに意志がないとはいえ、あまりにも非人道的すぎる」
「仮初めの命とは言え、やりきれないね……せめて安らかに眠らせてあげたいよ」
『ハム男』主人=公(p3p000578)はそっと目を伏せた。見返りのない人助けだとしても、公はそうしてあげたいと思うのだった。
 悲痛な声。
 それが、ただのプログラムに過ぎないとしても……。
「何故かしら……何故、こんなに悲しい兄妹を生み出してしまえるのだわ……。
せめて、ずっと一緒に居られたらいいのに」
『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)は、声に心を痛めていた。
「永遠よりも、大切な事の筈なのに」
 せめて、ヘンデルとグレーテルの二人を会わせてあげたい。
(最後は戦わなくてはならないのかもしれないけど……きっと、その為にここに来たのだわ)
 彼らの悲劇に終わりを告げるために。

●北側より至る
「さて、ヘンデルを探さないとね? と、目の前に一体、近くにももう一体さ」
 シキが警告を発する。
 遅れて、ガーゴイルが吠えた。
 だが、ガーゴイルの反応は遅かった。
 アルヴァの魔導狙撃銃BH壱式が、空間を切り裂いた。素早く距離を詰めて立ちふさがる。 
「っと? 何かナ? ンフフ」
 スタンバイモード。ガーゴイルの大振りの一撃を、鈴音は何ともなしに受け止めていた。待ち構えて肩をすくめてみせる。”なんともない”、と。
 公はアルヴァに背中を任せ、位置をとる。踏み込み、宙を舞い、遠心力を利用して一突き。グリップブローが敵を貫いた。
 誘うような槍の舞い。大きなスキができた。
「よし、こんなところか」
 アルヴァは振り返り、地形を確認する。シキのネズミが地図を指し示した。
「あちらも順調みたいね」
「……壁の向こうに、敵がいるみたい」
 サンドエレメンタルの気配だ。
「どうする? いっちゃう?」
「ああ。そうしよう」
「様子見してきますッ」
 鈴音がジャンプしていった。
「いた!」
 公が空を飛ぶ。奇襲。SAGは反動が大きく、体制が不安定なはずの攻撃の反動を殺した。
「制圧できたな」
 アルヴァは武器をしまった。
「今開けるネ~」
 壊れそうな壁に、ひらめきを得る。ここなら壊しやすそうだ、と。
 どんと吹き飛ばせば道がつながる。
 鈴音のクェーサーアナライズが、今の戦闘での消耗をなかったことにする。
「まだまだ行けるネ! 元気出して行こう」

●『ヘンデル』
 二体目のガーゴイルと戦う一つの気配。
「この地獄の番人がぁ。死んでgoto極楽!」
 鈴音のファントムチェイサーがブッ放たれ、崩れかけのガーゴイルを焼き尽くす。
「キミ」
『グレーテル!』
 兄はまず妹の名を呼んだ。迷宮の奥で小さな子供の泣き声がする。
「……グレーテルを探しているの?」
 公が、そっと呼びかける。
 うつろな様子で名を繰り返す。
「ねえボクちゃん、はぐれたの?
オネエチャンたちが妹と逢わせてアゲルヨ?」
 ヘンデルは武器を持ち、斬りかかってくる。助けられたこともわからずに。それはきっと防衛本能に近いもの。
 アルヴァは怒りを感じた。
 彼に対して、ではない。彼を作った者に対してだ。
――土くれのそこに意志はないと言っているかのようだ。
「人形だから、なんだって?
ああとても、とっても、気に入らないねぇ?」
 シキが言う。そうだ、気にいらない。
(博士の実験を俺は絶対に許さない。
結局、意思なき土塊人形だからそういう実験をするの?
土塊に宿る魂のことも、もっと考えてよ。
自分の都合だけで、可哀想な子供達で実験しないでよ……!)
『グレーテル』
「ヘンデル、キミは会話することができるのかい……?」
『どこ……』
 泣いているように聞こえるのはそういう錯覚だ。だとわかっていても。
「やぁヘンデル、言葉はわかるかい? グレーテルと会いたいようだが、早くしないと死んでしまうよ?」
『!』
 アンガーコール。
 グレーテルは本能のまま、剣を振り上げる。
 それでい、それでしかできないのなら。
「素直じゃないネ~、追いたててやる~ンッフッフ」
「行こうか」

 グレーテルを目指して一行は進む。

「きっと君が勇敢に戦うのは、大切な妹の為なのだろうね」
 崩れかける足取りも、決して上手ではない剣の振り方。それでも人形には意志が宿ったように思われる。瓦礫をよじ登り、まっすぐ、ついてくる。
 自分一人では到達しえない、南の方へと。
 サンドエレメンタルが立ちふさがった。
 先へは行かせられない。アルヴァはだまって盾を握りしめる。反撃はしなかった。それでも攻撃の反動で、ヘンデルは自壊していく。
『オニイチャン!』
 遠くからの声。その一声で人形は立ち上がる。やはり意志があるのではないかと感じてしまう。まっすぐに声に向かおうとする。
「今は駄目だ!」
「こっちだよ」
 シキの処刑剣「ユ・ヴェーレン」は少年を傷つけることはなかった。蹴戦で地面に倒して時間を稼ぐ。
 そうしている間に、アルヴァの斬神空波がエレメンタルを倒した。
(キミが土塊であることには変わりないけれど、それでもやっぱり意思疎通ができるかもしれない。本当はこんなこと……ごめんね、ごめんね……)
 公の剣魔双撃が、エレメンタル一体を。シキがもう一体をリッターブリッツで地面に叩き落した。
「感動の再開がもうすぐなんだ。邪魔建てしないでくれないか」
「大丈夫だ、きっと君らの物語を悲劇でなんて終わらせやしないから、だから。
私達に、君と妹が会うための手助けをさせておくれ」
 先へ行こう。
 黒顎魔王の大顎は、エレメンタルごと障害物を薙ぎ払った。

●南より至る
 アンナが壁に耳を当て、頷いた。
「罠はないみたい。こっちへ行けばショートカットできそうね。でも……」
 どうやら、この辺りにはパズルのヒントが散らばっているようなのだ。
「まどろっこしいな……壁ならミーが壊す、なんとかできないか? ユー」
「うん、大丈夫だよ。なんとなくわかったからね」
 ハンスは微笑み、正確な順番でレンガを押した。
 欠けた碑文。あふれ出す情報の洪水から正解を拾い上げる。
 ハンスの頭には正確な地図が描かれていた。
 敵が少ないということもあったが、こちらの進度はかなり早い。
「帰りは北側からでよさそうだね。きちんと道を作ってくれてるみたいだからね」
 シキのネズミが地図をなぞる。
「このあたりだとこうか」とハンスは納得したようにうなずいた。
(帰り……)
 華蓮は思う、彼らは一緒に帰れない。ここが彼らの終着点。……この先はない。
「このパズルを解くにはヒントが足りないみたいだけど、うん」
 ハンスはコツコツと壁を叩いて、反響に耳を澄ませる。「この碑文だけ奥に仕掛けがあるみたいだ。仲間外れだから、きっと、これが正解なんだね」
 物質を透過し、結果を掌につかみ取る。2つ先の鍵。正攻法もできただろうが、それではもう少し時間がかかっただろう。
「聞こえるのだわ……」
 会いたい、と。彼らきょうだいの感情は造られたものかもしれないが、それでもこれは、一つの色だ。鮮やかで悲しくって胸を刺すような色。
「こっちなのだわ」
 刺の道。いばらの道。解除するためのスイッチがおそらくはその先に見える。なら。華蓮は突き進む。
(だって、足止めされている時間なんて無いんだもの)
 彼らはずっと待っていたのだから。
 痛みを堪えるよりも、できないことを思う方がもどかしかった。
 ミリアドハーモニクスが傷を癒していく。
(急がないと……サンドエレメンタルに、今も二人は狙われているのだから。
復活できるなんて関係ないのだわ、一刻も早く見つけましょう)
「HAHAHA、奇襲なんてミーに通じるわけないだろ?」
 音の反響。それはなによりも雄弁に位置を語る。
「OK、罠はない。さて、道を作っておくぜ?」
 貴道ががらがらと壁を崩していく。
「すごい……これが、実戦ボクシングの威力なの?」
 ソフィアは感嘆する。
「見て、姉様」
 アンナと身を寄せあって地図を見ると、この複雑な迷宮は様変わりしていた。
「っと、余計なエネミーも片付けておくか」
 破壊に文句を言うように駆けつけてきたエレメンタルの動きが、ぐにゃりと遅くなって見える。
 瞬・極み……極度の 集中がもたらす超感覚。エレメンタルは粉々に砕け散った。
「さて、他に文句のあるやつは? いいんだぜ、物足りないくらいさ、HAHAHA」
 銃声が響き渡った。
「っと、交戦か?」
「……! ううん、これは」
 何者かが、どうやら……グレーテルをこちらに追い立てているようなのだ。

●『グレーテル』
 鈴音のブラッククロニクルが”うずいた”。
 鈴音は目を覆う。
「おわっと」
 銃声が再び響き渡った。
 そこにいたのは、宿敵。ベアトリス・ドラクール。
「ヒキガエルの一匹」
「ああ! 暴れてたのはベアトリスだったんだネー!」
 心配いらない、と仲間を振り返る。
 今の一撃も牽制射撃。致命傷を避けるような一撃だ。
「……アタイはマザーゴッデス。紳士淑女の支配層さ。他人に迷惑はかけないよ。さて、アンタがお探しの相手は向こうにいる。ちょいと手伝っておいたよ。分かってるね?」
「うんうん、元の世界に帰ったら、ってことダネ?」
 決着を誓った。

 一行の足は速まる。
 アンナの三日月を描くような剣閃が、エレメンタルを砂に帰した。夢煌の水晶剣はきらきらと光り輝く。
 おびえる少女の悲鳴。
 エレメンタルの攻撃は、すでに少女に向かって放たれていた、はずだった。
 しかし、ハンスの虚刃流皆伝【空踏】がそれをねじ曲げる。時間を跳ぶように、驚異そをっと取り除く。
『イヤ……イヤ!』
 アンナは武器を盾で隠す。
 ……迷宮で1人、啜り泣く姿。
(誰も助けてくれず、ただ孤独で。これはまるで昔の……)
「見つかって良かった……大丈夫、大丈夫……さあ、まずはお兄ちゃんに会いに行きましょう」
『イヤ!』
 成される魔術の攻撃も、華蓮は微笑んで受けられる。自分に対しての痛みは。とても。わかりやすいし、耐えられる。
「ほら、傷ついているのだわ」
 天使の歌声が仲間とともに傷を癒やした。グレーテルはおびえて、逃げだそうとして大きくこける。
「待って。話を聞いて。この場で戦う意思はないわ」
 アンナは両手を挙げて敵意が無いことを示す。
「私達の仲間が、お兄さんの場所を知っている。まずはそこへ行ってからでも遅くはないでしょう?」
 逃げ出そうとする。後ろを振り向く。その場合でも……その場合は追い立てる形になる。一度理を確認し合って、頷く。
 ハンスがそっと前へ進み出た。
「もしも君が望むなら」
 美しい声。人を惑わす小鳥の声。
 幸せの青い鳥の言葉に、グレーテルは首を傾げた。
「双子。グレーテル
その名前は、昔片割れと共に捲った物語に記されていたものと同じで
その名前は、僕の中の██と一緒で」
 塗りつぶされた名前。からっぽの人形は写しだす。
(わかってるんだ。相手はホルスの子供達
意思を持たぬ、物真似上手な、ただのつちくれ
生前のソレに沿うだけの偽物だって)
 仲間たちはただじっと待つ。攻撃されてもいいように、次の手段を考えながら。
(……でも、でもさ
こんな怖い目に遭って、その最期に互いの名を呼ぶんだよ
例えこれが呪いで、人形の模倣に過ぎなかったとしても……君たちは『本気で再び出会いたい』って刻まれているんじゃないのかなって)
「君をヘンデルと、会わせてあげたいんだ。……離れ離れは、寂しいもんね」
『……』
 グレーテルは黙った。返事はなかった。
 しかし、……ゆっくりと。距離をとりながらゆっくりとついてくる。
 意味など理解していないのかもしれない、それでも。

 彼らの歩みはここにきて遅くなった。
 足手まといの人形を連れている。
 それでも、先ほどよりも攻撃は力強いものだ。
「HAHAHA、よし、キッズが通れるサイズにしてやるぜ……このエレメンタルごとな!」
 貴道は景気よく壁を破壊する。
「聞こえるか? ユーを呼んでる声だ」
『! オニイチャン』
「……任せて」
 アンナは名乗り口上をあげ、サンドエレメンタルを引きつけた。今はただ彼女を守るように、でいい。獄炎連華が放たれた。燃え上がる炎は茨を焼いて道を開く。
(もうすぐ、なのだわ)
 それなのにどうしてこの心は揺れるのだろう。
 華蓮はぎゅっと手のひらを握りしめる。
 嫉妬の茨。溢れ出したそれはこの身まで包んで、ううん。それが盾になるのなら……。
 少女を庇う。
 せめてもの祈りと、天使の歌を寄せる。

●再会
「うん、もうすぐだ……近いね」
 公の「人助けセンサー」が反応していた。

 二つの人形は出会った。
 ヘンデルの攻撃の手が止んだ。武器を引きずるようにして一目散に駆けていく。
『オニイチャン』
『グレー……テル!』
「やぁ、無事に会えたね。彼女がグレーテル? そっくりだ」
「うん、紹介するよ。シキ。この子がグレーテル」
「ハンス、対話は上手くいったかい?」
「見ての通りに」
「ふふ、ならいいのだけれど」
 アンナは武器を握りしめる。
(……私と姉様が再会した事を思い出して心が揺れそうになる。
でも、ここで終わらせないと彼らが苦しむだけとわかっている)
「倒すよ。二人一緒に、倒すしかない」
 凜とした声。
 アンナは水晶剣の切っ先を向ける。
「私達はこれからあなた達を倒すわ。抵抗するも逃げようとするも、好きにしたら良い」
 二人は手を取り合って、ぎゅっと寄り添ったままだ。
「どうしても逢いたいヤツがいるのはわかる。アタシにも出逢いたい敵がいたことを思い出したからネ」
 鈴音は少しの間だけ、攻撃の手を止めていた。
「この兄妹土塊もまさか出会ったときはこんな日が来るとは思わずにいたことだろうネ。この地獄から抜け出すために介錯してやろう。キミタチの死の見届け人さ」
 微笑んで、二人は立ち上がる。手をつないだまま武器をとって、やはり、兵士の行動は身体に刻まれているらしい。それでもどこか生き生きとして見えるのは、ほんとうに錯覚だろうか。
(彼らはきっと『一緒に居る』という目的意識しかない土塊だから、だから手加減はしない)
「感動の再開のところに申し訳ない。安らかに眠ってくれ……さようなら」
 ハイロングピアサー。庇う兄もおびえる妹も、まとめて、いっぺんに。
 土塊だったとしても、そこに目的はあったから。
 もう一人にはしないと決めた。
 いっせいに片腕が欠ける。けれども幸せそうだ。泣き叫んだりはしない。余った手を不器用につなぐ。
「そんなに一緒にいたいんだね。永遠に終わらない物語なら、ここで終わらせてあげる。君らが隣で眠れるように」
 リッターブリッツの一突き。やはり均等に壊していく。庇う者も庇われる者もなくて。
(ディスペアー・ブルーが鎮魂歌になってくれるかはわからないけれど)
 ハンスは歌う。ゆっくりと絶望を――停止を願う。
 けれども、それは彼らにとっては救いだろう。
 貴道が、まっすぐ前に進み出た。
「もうユー達を活かす道は残ってねえが……まあ、せめてもの情けだ。
片割れを失うことを悲しむ間もなく逝かせてやるよ」
 拳を振りかぶる。
 異相【雷帝】。稲光の如き超速は、人類の限界を超えていた。
 超人。鍛え上げられた肉体。最高率で、おそらくは苦しむ間はないほどだった。
 流れから繰り出される、八岐蛇槍。
『『またね』』
 二人はゆっくりと崩れ落ちた。最後まで寄り添うようにして。その表情は穏やかに見えた。
「悪いがこのぐらいしか能がねえんでな、これぐらいはしとかないと寝覚めが悪い」
 貴道はふうと息を吐いた。
「「めでたしめでたし」ではないかもだけれど…少しでも幸福なエンディングだって、信じてもいいかい?」
 シキの言葉に頷いた、ように思われた。

●エピローグ
 シキは静かにふたりの”亡骸”に黙祷する。たとえそれが土くれだとしても、それは亡骸だ。
(彼らは人形だ。わかってる。でも、それでも…安らかな眠りを願ってしまうよ)
「おやすみなさい」
 ハンスがそっと祈りを唱える。もしも次があるなら、ほんとうのきょうだいになれると、いいね。
「これが色宝か」
 あとでラサに引き渡すものだ。
 アルヴァは拾い上げて、大切にしまった。彼らの亡骸も、せめて迷宮の外に埋めてやるべきか。シキと同じように黙祷する。
 公は目を閉じる。
 助けを求める声はもうしない。倒したからではなくて、出会ったときからもうしなかった。
「役に立てた、かな?」
「……命を冒涜した者達には、必ず報いを」
 アンナは、彼ら二人にそう誓う。博士の野望。命の冒涜を許さない。
(こんなにも、こんなにも二人は可哀想な境遇だったのに。
ずっとずっと恵まれた環境で生きて来た筈なのに)
 どうして。
(それでも、再開した二人の姿を見た時には。少しだけ嫉妬の感情が芽生えてしまった……)
 寄り添って二人だけ、選ばれた二人で眠れるなんて。うらやましいと一瞬思ってしまった。
 誰彼構わず嫉妬するのは、醜いって知ってる筈なのに。
(少しずつ少しずつ制御できるようになってきたこの嫉妬も、生まれる事自体を防ぐ事は今もできないのだわ……)
 華蓮は静かに涙を流す。それが哀悼の意ばかりではないトゲが含まれているようで、胸が痛かった。
「誰かに会いたいってキモチ。やらなきゃならないことがあるキモチ。わかるネ!」
 鈴音は、明日元の世界に帰っても後悔はない。迷宮内で出会った因縁にも、いつか決着をつけるときが来るだろう。
 それは、元の世界に戻ったときだろうか。それとも……。
(アタシの戦いはこれからだ!)

成否

成功

MVP

シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)
優しき咆哮

状態異常

なし

あとがき

人形は再会し、そして、同時に崩れ落ちました。
二人一緒に、眠ることになります。
お疲れ様でした!

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