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シナリオ詳細

あくなき探求、人の道、はずせども

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ゼシュテル鉄帝国――弱肉強食、適者生存の理すら感じさせる、北方の超大国。
 そんな鉄帝国の、とある町――特にその町の陰に広がるスラムには、最近、ある噂があった。
「なぁ、アンタ、ほんとに使用人として雇ってくれんだろうな?」
 そう言ったのは一人の少年だった。
 まだ若い。
 スラムという環境下、まっとうな成長が出来ているとは必ずしも限らないこともあり、背格好から正確な年齢までは推察できないが、恐らくは15、6。
 どれだけいっていても二十歳前後であろう。
 過酷な環境を生き抜くすべか、そう言う少年の眼には警戒が見て取れた。
「何、そう警戒しないでくれ。
 この過酷な環境で育った力と知性のある君のような者こそ、使用人としてはふさわしい」
 線で作ったように笑う男の柔和な顔立ちに、少年も警戒を解く様子はない。
「でもよ、アンタ、ここ最近、使用人として雇ってやるって何人かに言って回ってんだろ?
 何人、雇う気なんだ?」
「ふふ、それは……来てからのお楽しみだ」
 男はシルクハットで顔を隠しながら笑い声を殺し――さて、と続ける。
「君は確か……弟くんがいるのだろう?
 君を雇えば、君の弟くんには多くのお金が入る。
 きっと、ここでの生活ともおさらばだろう」
「……それは」
 少年がぎりりと拳を握る。
 鈍く銀色に輝くその金属の腕を、男が舐めるように見つめているのを、少年は見抜くことができなかった――


「――ンっだよ、これ」
 漏れた声が震えていた。
 雇われ始めてから一月程経ったある日の事。
 その日、少年は男から『絶対に入らないこと』と言いくるめられていた部屋の扉が、僅かに開いているのを見た。
だから――そう、だから、閉じておこうと思って近づいた。
 そして、真っ暗な階段を見つけ――その先を見た。いや、見てしまった。
「――なぁんだ。探したんだぞ? 自分から来るなんて、都合がいい」
 声が、した。
 直後に聞こえたのは、ブゥゥゥンと音を立てるチェーンソーの回転音。
「お、おい、なんだよ、なにする気だ、アンタ!」
「――――お前には関係のないことだ」
 いつも通りの柔和な表情から、すぅ、と全ての表情が抜け落ちる。
「全く、貴様のような部品は珍しくもなんともないが、まぁ、いい。
 見られたならばどちらにせよ生かすわけにもいかん」
 カツン、カツン、と階段を下りる音が酷く長く感じて――少年は思わず走った。
「ふんっ!」
 腕が、削り落とされる。悲鳴――上げる暇さえない。
 そんなことをするよりも早く――早く逃げないと――――殺される!

何かが垂れていく。何かが抜けていく。
次第にかすみ始めた視線と、もうろうとする意識。
「あっ……った……」
 自分の声すらも、ほとんど聞こえない。
「たす…………け……」
 何かを伸ばそうとして、伸ばすモノが無いことに気付いた頃――誰かの悲鳴と、誰かの声が聞こえた気がした。


「皆さん、ある筋から情報が入りました。
 非道な野心に駆られたある人物の討伐をお願いします」
 珍しく顔色を悪くしたアナイス(p3n000154)に集められたのは8人のイレギュラーズだった。
「実は、一月ほど前、鉄帝のとある町にてさる篤志家が使用人として人を雇っていたのです。
 ですが……この篤志家には裏の顔がありました。
 何をしたかったのか、何をしているのかは分かりません」
 そこまで言って、アナイスは資料に目を落として、そっと視線を下げる。
「ただ、今回の依頼人――の一人ということにしましょう。
 とある少年が彼の下を脱走し、ローレットへ助けを求めました。
 『何か鋭利な刃物で片腕を消し飛ばされた状態で』現れた彼は、出血多量によりその場で死去。
 彼がローレットの支部に至るまでの道を逆走し、相手がだれか判明したわけです」
「その人を捕まえればいいんだよね?」
 フラン・ヴィラネル(p3p006816)は資料の詳細に向けていた視線をアナイスの方へ向ける。
「いや、違うな。これは……討伐依頼だな」
 サンディ・カルタ(p3p000438)は資料をめくりながら、ふるふると首を振る。
「依頼人は……話に出た少年の弟、でありますか」
「ええ、そのようですね」
 エッダ・フロールリジ(p3p006270)の言葉に小金井・正純(p3p008000)が同意して、報酬欄の方まで視線を下げた。
「報酬の方は……その他遺族、ですか?」
「はい、先程、篤志家が使用人として人を雇っていたと申しましたが、彼に雇われた『スラムの子ら』は10人程度になります。
 遺族には篤志家から多額な報酬を受け取ったそうです。
 それを考えれば、この報酬は所謂、口止め料……というやつなのでしょう」
 アナイスはそう言って悲痛な表情を浮かべた。
「相手は人の腕をバッサリと行くような男です。
 他に雇われた子供達も生きている可能性は限りなく低いでしょう。
 よろしくお願いします」
 そう言って、ぺこりと頭を下げた。


「……誰だ貴様ら?」
 篤志家の男――アンゲルス・シュテーグマンが振り返ってくる。
「なに、あれ……」
 フランの視線はまっすぐにそれに注がれていた。
 室内の照明はほんのりと薄暗い。
 その部屋の最奥では巨大な水槽が存在していた。
 こぽこぽと水泡を上へ零す水槽の中は、黄緑色の光に満ちていた。
「イレギュラーズです。貴方の討伐に来ました」
 正純の言葉にアンゲルスの表情がピクリと動き、サンディ、フランを見て――ぴたりと視線を固定する。
「……そっちのメイド、鉄騎種か!」
「……? もしかして、私の事でありますか?」
 視線の先にいたエッダが、ピクリと片眉を上げた。

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

リクエストありがとうございました。

シンプル屑でございます。さっくりやってしまいましょう。

それでは、さっそく詳細をば。

●オーダー

【1】アンゲルス・シュテーグマンの討伐。

【2】殺された被害者の遺骸の一部を持ち帰る。

【1】は絶対目標、【2】は努力目標とします。


●フィールド

アンゲルス邸地下に用意された研究室。
ほんのりと血と鉄と油の臭いに満ちています。
半径60mの円周状空間です。

空間最奥には巨大な水槽が存在しており、
黄緑色の光に照らされた内部には人型の何かが入っています。

右腕、胴部、右太もも、左足しか存在していません。


●エネミーデータ
・アンゲルス・シュテーグマン
『鉄騎種の金属部を収集し、至高の機械人形を作ること』を目的とする野心家であり、狂人です。
篤志家としての顔でスラムから鉄騎種の子供を集めては金属部分を収集していました。
ただの人間です。どうやら研究の一環で自らの片腕を他人の機械に組みなおしている模様です。
手にはチェーンソーを握っています。
なお、鉄騎種を優先的に狙ってきます。

物攻、命中、CT、HPが高め、それ以外のステータスは大したことがありません。

チェーンソーでの切り裂き攻撃、機械化された片腕による格闘などを繰り出す通常攻撃の他、下記のスキルを使用します。

<スキル>
チェーンスラッシュ:チェーンソーの回転を急速にあげ、強烈な斬り下ろしを放ちます。
物至単 威力中 【致命】【猛毒】【失血】

機人殴打:機械に組みなおした片腕を疑似的なバースト状態とし、思いっきり殴りつけます。
物至単 威力中 【崩れ】【恍惚】【追撃】【連】【ダメージ中】

・殺戮機人×5
アンゲルスが研究の過程で最初に制作した人型の機械兵士です。
両腕とかかとが刃物になっています。
CT、回避、反応が高めで【連】【追撃】で火力で押し切るタイプです。

<スキル>
回転刃:自らの身体を高速回転させて範囲を攻撃します。
物中範 威力中 【必殺】【致命】【移】

・シュテーグマンの怪物×5
 一種のサイボーグです。
 人の身体に戦闘用の義足、義手、義眼を取り付けています。
 人格らしい人格は見受けられません。
 両面型の万能型アタッカーです。
 格闘戦を仕掛けてきます。

<スキル>
バーストナックル:対象に義手を思いっきり叩きつけます。
物至単 威力中 【飛】【ブレイク】

エア・ブレイド:対象を蹴りつけると同時に斬撃を放ちます。
神中単 威力中 【追撃】【多重影低】


・使用人×5
本来のシュテーグマン家の使用人です。
パワードスーツに身を包んだ人間です。
神攻、命中が高めです。通常攻撃が中距離。

<スキル>
ハイパーハウンド弾:猟犬の如く対象を追いすがる魔力弾です。
神中扇 威力中 【氷結】【泥沼】

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • あくなき探求、人の道、はずせども完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
※参加確定済み※
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
※参加確定済み※
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
※参加確定済み※
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ハンス・キングスレー(p3p008418)
運命射手
アシェン・ディチェット(p3p008621)
玩具の輪舞
獅子神 伊織(p3p009393)
獅子心王女<ライオンハート>

リプレイ


「……そっちのメイド、鉄騎種か!」
「もしかして、自分のことでありますか?
 ははは、左様に御座いますよ」
「そうか――であれば!」
 敵の中央、アンゲルスがその手に握るチェーンソーの刃を掻き鳴らして走り出す。
 『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はそれに合わせるようにして前に出た。
「そしてそれはそうと訂正を一点。
 自分、メイドではなく、騎士(メイド)であります」
 振り下ろされる刃をなんなく受け流して、そのまま敵の動きを崩す。
 無様を晒して体勢を崩したアンゲルスを見ながら、『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)はモルダーを敵に向けて密かに紛れ込むよう仕向け。
(子どもなら自由に使っていいとか、集めやすいとか。
 その理屈、てめーが子どもの頃に味わったことねーのかな?
 この国だって別に食いモン豊かなわけじゃじゃねーんだしさ。そーゆ―経験をさ。してればさ)
 考える――けれど、その思考は意味のないことだとすぐにでもわかってしまう。
 この数の彼にとってみればの研究成果――この規模の設備。
 何より、邸宅の大きさも加味して考えるならば、少なくとも孤児やスラムの子供達などと同じような環境で育ったのではないことは容易に想像できる。
「ま、ねーもんはしょーがねーよな」
 静かに言葉に漏らして、サンディは暗器を握る。
(深緑で生まれ育って、外の世界はすんごくきらきらしたものだと思ってたんだよね、あたし。
 ……スラムとか、貴族とか、そういうのはあたしにはよくわからない)
「でも――」
 静かに杖を握り締めて『緑の治癒士』フラン・ヴィラネル(p3p006816)は前を向く。
「幻想種の耳が幸運のお守りって刈られるのも、鉄騎種の一部を集めるのもおかしいよ」
 声の震えと、杖を握る手に入る力は、微かな恐怖。
(魔物を倒すのとか、盗賊を止めるのは慣れたけど……人を倒すのは、こわいなぁ)
 そもそもそれさえも『慣れ』てしまえてよかったのか分からないけれど。
「――おかしい? はっ! はは! 所詮は分からないのでしょう!
 そもそも彼らは明日にでも無為にその命を散らすことがほとんど!
 何もなせず! 何にもなれず! ただそこで死んでいく!
 私は強く高き者の一部となって共に進むという道を彼らに示してあげているだけに過ぎません!」
「外道が。路頭に迷った子達を騙し、挙句には死後も辱めるなど、不快極まる。
 アドラステイアしかり、黒鴉盗賊団しかり、何故お前達はそうなのですか」
 不快感をあらわに『不義を射貫く者』小金井・正純(p3p008000)は弓を構える。
「辱めるなどそんな失礼な。これのどこが恥ずかしいというのでしょう?
 弱肉強食こそがこの国の根幹、弱き彼らが強き者のために尽くすもしかたないことでしょう」
 寸分の迷いもなく語る男の表情は笑みすら浮かんでいない。
 それこそが道理だと信じているのだから。
(……大人しく、人形遊びでもしておけば良かったのに。
 切って繋いで、フランケンシュタインの怪物すら出来やしない)
 歪な物を見上げて『虚刃流直弟』ハンス・キングスレー(p3p008418)は少しばかり目を閉じる。
「ローレット(僕ら)への道を掴み取った彼に、心からの敬意を」
 黙祷に近い物を、死の寸前に手を伸ばした少年に向けて。
 本で読んだことがある。
 それがこの世界の物だったのか、どこかの世界由来の物なのかまでは覚えてないけれど。
 とても怖くて救いのないお話を。
「当然なのだわ、だって誰かの一部になってしまえば、もうその人ではなくなってしまうし」
 その視線の先には水槽に入ったナニカを捉え『玩具の輪舞』アシェン・ディチェット(p3p008621)は小さく呟くのだ。
「それに、そんな悲しみの寄せ集めとして作られてしまう子も不幸なのだわ」
 真っすぐな視線をソレから動き出した人間サイズの機械人形に向ける。
「……何とも愚かな事ですわ。そのような事をしても意味があるとは思えませんわ……」
 呆れながらも、けれど。『獅子心王女<ライオンハート>』獅子神 伊織(p3p009393)の怒りは別のところにある。
「自身の欲望の為に弱き者を傷つけていいと思ってるその悪性が全く持って気に入りませんわね」
 肩に下げていた『小さな王』の意味を持つエレキギターを弾く準備をして、前を向いた。
「……だがこれは、予想以上に期待外れだな?」
 最奥にある物を見据えた『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が声にした瞬間、男の表情がぴくりと固まった。
「至高の人形を作る――それで、それを作ってどうする? なんてのはわざわざ聞かないが」
 同じ職人として目の前にある物を見ても、到底その『至高』に至るとは思えなかった。
「あんな生来の物を繋ぎ合わせた継ぎ接ぎの未完成品。
 たとえ完成したとして既存の物を歪に継ぎ接ぎしただけの何かができるだけだろう」
「貴様――貴様、私の成果を事もあろうに侮辱するか?
 私の成果を知らぬ貴様ら風情がッ!!」
「別に。特に聞く事は無いんです。……黙っていて?」
 苛立ちを錬に向けたアンゲルスへと介入したのはハンスだった。
 最速で動いたハンスは、青き翼をはためかせて疾走する。
 青き翼がアンゲルスの腕を捕捉――存在せぬ脚甲とその脚に帯びた封印術式がアンゲルスの身体を縛り付けた。
 そのままくるりと跳躍して遠距離へと帰っていく。
「よろしくね」と伝えたエッダはアンゲルスの猛攻を受けている。
 それから視線を外したフランが掲げた杖に一輪の花が開く。
 『一人でも多く、守れるように』――誓いの秘められた大輪の花弁が殺戮機人の数機と怪物の注意を引きつける。
 独特の色と特徴的な香りを受けたそれらは、花に誘われる虫のように、フランの方へとゆらゆらと近づいていく。
 その直後、到達した二機の殺戮機人がフランへとドリルのように腕を回転させて突っ込んでくる。
「ヒャッハー! 汚物は消毒ですわー!」
 アイドルらしからぬ言葉を吐いてレグルスをジャン、と掻き鳴らす。
 独特な旋律は術式を奏で、魔術へと昇華される。
 獅子心を胸に熱く掻き立てる音はまさに炎と化していく。
 扇状に放たれた魔術は複数の敵対個体を焼き尽くす。
 アシェンは静かにグリード・ラプターを構えた。
 極限の集中と共に引き金に指を添えた。
 自らの身体に別のあり得た状況を重ね合わせ、自らの最適解を演算していく。
 そのまま弾かれた引き金が、殺戮機人を撃ち抜いた。
 動きのほんのわずかな隙。重心移動の間に食い込んだ弾丸に個体の動きが停止する。
 式符を地面へと投擲した瞬間、式符より生じた魔力がやがて形を作り出していく。
 鍛造されるは炎の大砲。陽炎さえ生む赤き大砲へと装填された火弾が放物線を描いて敵陣めがけて放たれた。
 赤い尾を引いた弾丸は炎で整形された星のように。
 殺戮機人の一機に着弾した弾丸は爆発と共に周囲を巻き込んで爆炎が爆ぜた。
 更なるもう一撃が着弾し――二度に渡り鮮やかな色を成す。
 着弾直下にいた一機の動きが停まり、そのまま崩れ落ちていく。
 急速にフランへ接近した2体のシュテーグマンの怪物が義手の腕で殴りつける。
 使用人たちがイレギュラーズへと魔力の弾丸を撃ち込んでいく。
「まぁ、さっさと取り巻き威をぶっ飛ばす、しかねーよな」
 サンディは真っすぐに暗器を投擲する。
 放たれた暗器は幾つかの暗器が散らばり、シュテーグマンの怪物と殺戮機人へと突き刺さる。
 打ち出された暗器は風に煽られたように軌道を変え、思わぬ隙へ突き立った。
 瞬間、気力を殺されたように敵の動きが停止する。
 神気にも似た魔力を靡かせる弓を静かに構え、視線を乗せる。
 正純が構えるは天星弓・星火燎原――星々に鍛えられた神の弓。
「大義のためだと言うのなら、納得はできずとも目は瞑りましょう。
 ――だが、お前はダメだ」
 抑えきれぬ怒りを弓に乗せ、収束させた魔力が矢へと変質していく。
 大きく引き絞って放たれた矢は精密なコントロールを伴ってアンゲルスの周囲へと降り注ぐ。
 まるで流星群の如き鮮やかな放物線が室内を覆いつくした。


 戦いはやや不利な形勢から、徐々にイレギュラーズ優位に移行しつつあった。
 後衛に相当するメンバーが多かったものの、広範囲への攻撃を加えられるメンバーが多かったことが良かったといえる。
「鉄騎種だって硬いけど、幻想種にはファルカウの加護が付いてるんだもん!」
 振り下ろされたアンゲルスのチェーンソーを魔術で構築した障壁で防ぎ切り、けたたましき音を振り払う。
「ちっ――小娘が!」
 ぎりり、歯ぎしりさえ聞こえる敵を真っすぐに見据えて、フランは杖に魔力を籠める。
「 人をモノみたいに思う人には、絶対負けないんだから!」
 発破をかけて挑発する。
 そんなアンゲルスをアシェンのスコープが見据えていた。
 風を切り裂き、駆け抜けるは空色のオーバード。
 ロマンを歌い、恋慕を謳い、別れがたきを唄う夜明けの詩。
 その名を冠する弾丸が静かに真っすぐに走り抜ける。
 その腹部を貫き、関節を貫く弾丸に、アンゲルスが苦し気にうめき声をあげる。
 羽ばたきと共に、ハンスは爆ぜる様に飛んだ。
 まばらに減った敵を翻弄して跳躍。アンゲルスの顔が、こちらに向く。
 その視線がこちらへ向かってくるそれよりも前。
 ハンスは天井を蹴り飛ばして勢いを加え、真っすぐに槍になって奔る。
 光を超え、時を跳躍させて変質するは虚光の槍。
「それは、貴方が持っていて良いものじゃないっ!」
 業と誓いを引き連れた爪がアンゲルスの身体を大きく薙ぎ――その右腕を切り落とす。
 大きく煽られていたその身体へ、着地したハンスの脚が再び伸びて――その中心を捉えた。
 伊織はレグルスの弦を弾き始めた。
 そのまま奏でるは猛き旋律。
 戦場に響き渡る旋律はまるで複数の個体に鮮やかな閃光を伴って瞬いた。
「オーホッホッホ! どうですか! 私の後光(神気閃光)は! 眩しいでしょう!」
 激しき旋律に乗った複数の個体の動きが鈍る。
 錬は静かに敵陣を見据えた。集中したその双眸が暴き立たてるはシュテーグマンの怪物が最後の一体。
 敵の数がかなり減ってきたこともあって、味方を巻き込まない射線が無くなっている。
 錬はそのまま術符を空間に向けて投擲する。放たれた術符はやがて無数の樹木の槍へと姿を変質。
 真っすぐに走り抜けた槍が風を切って走り抜け、シュテーグマンの怪物の最後の一機へと突き立っていく。
 幾つも突き立った槍はなけなしの生命力を吸い取り、錬へと還元される。
 サンディも走り抜けた。
 範囲攻撃の射程に入りきらぬ2人の使用人の片方へ一気に走り抜ける。
 密かに抜いたナイフを使用人目掛けて投擲すると、そいつが魔力の弾丸をナイフ目掛けて撃ち込んだ。
 ほぼ同時、敵の懐へと入り込んで放つのは魔力を帯びたナイフ。
 それは使用人の懐を強かに打ち据えれば、芯を捉えて貫いた。
 正純は最後の一人となった使用人目掛け、矢を番えた。
 正純の狙撃で既にその片足が動きを停めている。
「――仕えた相手が悪かったと反省してくださいね」
 引き絞った弦を、静かに手放した。
「───────この祈り、明けの明星、まつろわぬ神に奉る」
 それは仄暗く美しき魔性の星。
 闇夜に輝く一等星のように、鮮やかに輝く明けの明星のように、尾を引いて使用人の心臓部を真っすぐに撃ち抜いた。
 矢は使用人の身体を暗く覆いつくし――その命を貪りつくす。


 戦いを終えたイレギュラーズはまだ屋敷の中にいた。
(結局、彼の至高というのは良く解らなかったけれど……
 鉄騎種から奪わないと作れないのより、歯車一つネジ一つから組み上げる技師さんの方が素敵なのだわ)
 倒れたアンゲルスを眺めながら、アシェンは想いに馳せる。
 無から有を生む職人達に比べれば、彼はあまりにも素敵とは言い難かった。
(こんな粗悪な人形送られても遺族は困るしな……)
 水槽から出されたナニカを横たえた錬は工兵らしく技術を駆使して解体作業に従事していた。
 右腕、胴部、右ふともも、左足。それぞれの部分を取り外していく。
「……ちゃんと修理もしないとな」
 部品を取り外し、無理矢理つけられていた場所を応急的に修理して。
 ――けれど、『コレ』に使われてしまっている人数は、10人には足らなかった。
 ちらりと視線を後ろに向ける。倒れているのはサイボーグのような形になってしまっている怪物のような何か達だ。
 サンディは一応は気絶状態にある彼らを見下ろしていた。
 もはや人らしき人格を持たない怪物達を掬う術は――。
 フランは修理が終わって取り除かれた腕を見ながら、目を伏せた。
「……ごめんね」
 思わず漏れた声に、彼らは反応しない。
 全ての作業が終わった後、黙祷していた正純はそっと目を開ける。
(さぁ、家族の下へ帰りましょうね)

 一部になってしまった被害者たちを回収したイレギュラーズはそのまま、ある場所に訪れていた。
 嗚咽が聞こえてくる。すすり泣く声も。
 怒りか悲しみか分からないけれど唸る者も、声にならぬ声を上げる者も――そもそも何かさえ分かってない者も。
 色々な人がいた。
 張り詰めた悲嘆の海の中、聞こえてくるのは伊織が歌う鎮魂の詩。
 聞く者達に安息を齎す静かな声が響いていく。
 穏やかな詞は死者さえも安寧へ連れていくかのように、ただ空に昇っていく。
(……深緑の外は、全然きらきらしてなかったなぁ)
 遺族の反応を真っ向から受けたフランは、埋められた彼らの方を見ながら、ただ思う。
 心が死んでいくような重ささえ感じながら吐いた吐息が白く靄となって溶けていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
フラン・ヴィラネル(p3p006816)[重傷]
ノームの愛娘

あとがき

お疲れさまでした、イレギュラーズ。

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