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シナリオ詳細

悪を喰らい、天を喰らい

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●放浪の天使
 主機――『大神』との接続が途切れて、幾星霜が流れたか。
 突如として常ならざる地へと召喚されし我が身。主機(たいしん)との接続(リンク)は途絶し、新たなる主命(プログラム)も更新できず、今はこの身にわずかに残る本能(プログラム)に従いて、悪を斬滅するばかり。
 悪を喰らい。罪を喰らい。罰を与え。懲を与えた。
 幾日。幾時間。この世界の空を飛び――やがては見知らぬ地へと飛び。それでも、嗚呼。
 この身が主機(たいしん)の元に戻る日はいつぞ。新たなる主命(プログラム)を与えられしはいつぞ。
 ……放浪の果てに、我がたどり着きしは異邦の地。
 そこで我は、ああ、我はついに。
 我に主命(プログラム)を与えし存在と邂逅した!
 嗚呼、嗚呼。わが身に満ちていく、新たなる主命(プログラム)――。
 それが、世に聞く『原罪の呼び声』だったとしても――。
 わが身に満ちたる喜びに、不安の声は無し。

●あの天使を墜とせ
「我が主、今日はとっておきの話をお持ちしましたよ」
 うららかなある日の午後。ギルド・ローレットの片隅で、優雅なティータイムを楽しんでいたマルベート・トゥールーズ (p3p000736)の下に現れたのは、マルベートの眷属であり、家族、同胞が一人。クリスティナ・トゥールーズであった。
「クリスティナ。何かな? 私の穏やかな午後を中断するに値する話かい?」
 そう言って、紅茶で唇を湿らせるマルベート。
「ええ、ええ、もちろん!」
 恭しく一礼をしながら、クリスティナは懐から何かを取り出した。それを主に献上するように、マルベートへと差し出す。
 それは、純白の羽根であった。鳥のようにも見える。いや、それにしては大きい。かなり大型の鳥類の羽根であるだろう……そう、人間サイズの大型の鳥が付けるような、そんな大きさの翼から抜け落ちた羽。
 す、とマルベートの紅眼が細められた。差し出されたそれを、鼻先へと近づける。
 静謐なる香りがした。聖なる、聖別されたものの香り。とんでもないすがすがしいほどの『悪臭』。マルベートの口の端が、にい、とゆがんだ。そのまま、羽を口の中へと放り込む。
 豊潤なチョコレートのような甘みが、口いっぱいに広がった。相反する属性のモノを口に放り込んだ快感。そのままで極上の食材。これをしっかりと調理できれば、如何ほどの味がするものか。
「間違いない。天使の味だ」
「ご明察に御座います」
 クリスティナもまた、にぃ、と笑った。天使。神の使い――マルベート達にとっては、極上の食材。
「混沌世界に天使が居たのかい?」
「といっても、旅人(ウォーカー)の類でありますが。今回は、その件についての報告です」
 クリスティナが言うには、はるか豊穣、カムイグラの地にて、現地民が「でうすのししゃ」と呼ぶ存在を発見したのだという。
 クリスティナは、その存在について調査を行った。その結果発覚したのが、『原罪の呼び声に汚染され、狂気に陥った旅人(ウォーカー)の天使』が、暴れているのだという事実だ。
「調査の結果、同世界よりやってきた旅人(ウォーカー)にも接触ができました。件の天使……ホムンクルスのように、神に量産された人造生命体だそうです。個と言うモノはなく、ただ大神の命令に従うだけの、哀れな子羊――」
「いいね、私達好みの話だ。養殖物と言うのが気に入らないけれど、しかし、身体に悪いものは美味しいからねぇ」
 となると……クリスティナが持ってきた話と言うのは、この天使の討伐の依頼であろう。
「相手は狂気に侵され、もう治る事の無いバグに侵された天使(ロボット)……イレギュラーズでも、心おきなく破壊できるお仕事でしょう?」
「なるほどね。一石二鳥だ」
 仕事として世界も守れ、ついでに美味しい食材も手に入る。
 実に――実に良い話だ。
「感謝するよ、クリスティナ――土産は期待しておいてほしい。それから、天使の肉によく合うワインも用意しておいてくれるとありがたいね」
「ええ、もちろん。我が主」
 クリスティナが、その目を細め、にこりと微笑する。
 その思惑は何処に在れど。
 いずれにせよ、天使討伐の依頼が、この日ローレットへと貼りだされた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 此方のシナリオは、クリスティナの調査報告(リクエスト)により発生した依頼になります。

●成功条件
 『でうすのししゃ』の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 カムイグラにて、「でうすのししゃ」なる存在が発見されました。
 それは異世界からやってきた天使の旅人(ウォーカー)。異世界の神により作られた、生体ロボットのような存在でしたが、元々修復不能なバグを抱えていた上に、魔種による原罪の呼び声の影響で狂気に陥り、もはや世界に敵対する存在へと落ち果てました。
 皆さんは現場に急行し、この『でうすのししゃ』を撃破してください。
 作戦決行時刻は昼。周辺は深い森になっています。明るいですが、少し動きづらいかもしれません。

●『でうすのししゃ』のバックボーン(プレイヤー情報)
 異世界にて、大神ヒャバルグに創造された、無数の子機たちの内一体です。それぞれに自我は無く、生体で作られたロボットのような存在です。中性的な外見をしていますが、当然無性です。
 元世界ではその力で多くの罪人――神に逆らうモノを誅殺し続けていました。
 戦闘の果てに故障とバグを重ね、廃棄寸前でしたが混沌世界に召喚。
 本能のまま混沌世界でも悪を殺し、鍛えに鍛えてレベルアップは続けていました。
 バグ召喚によりカムイグラの地に流され、その地に潜んでいた魔種の原罪の呼び声を受け発狂。すでに戻る事もできぬほど壊れ切ってしまっています。
 PCの皆さんは、この事情を知っていても知らなくても構いません。
 知っているならば、調査したか、クリスティナに教えてもらったのでしょう。

●エネミーデータ
 でうすのししゃ ×1
  カムイグラの地に現れた、発狂した旅人(ウォーカー)の天使です。
  名前は現地民によりつけられた仮称。本名は不明。おそらく存在しません。
  基本的にはスピードファイターで、回避力とEXA、機動力が高めになります。
  攻撃は物理、神秘属性ともにバランスよく装備しており、必殺・追撃等のスキルも持ちます。

 天使のマナ ×7
  でうすのししゃが発狂したことに呼応し、周囲から自然発生した精霊の類です。子供のような外見をしています。
  おもに神秘属性の攻撃を使用してきます。でうすのししゃの行動に応じた援護攻撃や、HP回復などを行ってきます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。

  • 悪を喰らい、天を喰らい完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月01日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
※参加確定済み※
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
彼岸会 空観(p3p007169)
チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)
トリックコントローラー
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い
希紗良(p3p008628)
鬼菱ノ姫
レべリオ(p3p009385)
特異運命座標

リプレイ

●堕ちた天使
 鬱蒼と生い茂る森の中、イレギュラーズ達はそれぞれの想いを抱きながら、歩みを進める。
 敵は旅人(ウォーカー)、それも『原罪の呼び声』の影響により、狂気に堕ちた存在である。
 旅人(ウォーカー)故、魔種に転じたわけではないものの、それでもやはり、原罪の呼び声とは恐ろしいものであるのだ。
 浅い狂気であれば、或いは戻せたかもしれない。
 しかし、ここまで深い狂気であれば――そして元より、壊れていれば――もはや戻すことは出来まい。
「原罪の呼び声。『受け入れたら戻れなくなる不可逆的なもの』と聴いたことがありますな」
 『鬼菱ノ姫』希紗良(p3p008628)が声をあげる。
「応。俺達旅人(ウォーカー)にも影響があるし、特にオメェさん方、混沌世界の純種は反転……魔種になっちまったら、戻ったって前例はないらしいからなぁ」
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が言う。ローレットに属するイレギュラーズ達の中にも、原罪の呼び声を受け、反転……魔種へと変貌を遂げたものは確かにいる。そして現状、彼らが元の姿に戻ったという前例はないという。
「怪物と戦う者は、己が怪物にならないように心せよ、って奴だ。どの世界の誰の言葉だったかねぇ。ま、今回は魔種が相手じゃねぇ。そう気負わなくても大丈夫だぜ?」
「あはは、そうでありますね」
 希紗良は少しだけ微笑むと、
「それも心配でありましたが……相手の『天使』と言う者も気になるのでありましてな。元より、呼び声を受け入れられるほどの知性を持ち合わせていたのか、と考えますると」
「異世界の天使、でしたね。狂気に陥る前でしたら、もしかしたら対話に応じてくれたかもしれませんが……」
 『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)が言う。情報によれば、故障(バグ)を抱えたまま一人彷徨い続けたという件の天使。自我はほぼないとは言う事ではあったが、しかしきっと、心細かったことであろう。自我がない故の、不安定さが、きっとその天使を苛んだことであろう。……その隙間に、呼び声が染み入ってしまったのだとしたら、悲しい事である。
「然しこうなっては、もはや世界に敵対する存在……斬るしか、無いでしょうね」
「別世界とは言え、同族……天使としては」
 『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)が、頬に人差し指を当てつつ、言った。
「これはもう、せめてもの慈悲かなぁ。守るべきものを傷つける、そうなってしまう前に……たとえ命を奪ってでも、止めてあげないとね」
『この世界にとって害悪となっているのであればな。遠慮はいらないだろう』
 ティアたちが言うのへ、イレギュラーズ達は頷く。元より、加減をして逃してやることはできないのだ。もはや相手は世界の敵。となれば、確実に討伐するのが、イレギュラーズ達の仕事だ。
「介錯くらいは手伝ってやろかなぁ」
 『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)が言った。吸血鬼と天使のハーフであると言う、旅人(ウォーカー)の紫月である。なにがしか、思う所はあるのかもしれない。
「まぁ、私はその天使みたいに神さんから命令されたみたいなことは無いけどぉ。私も半分は天使やからねぇ」
 期せずして、天使であると言うイレギュラーズが、今回の依頼には参加していた。それもまた、運命のいたずらか。
「ふふっ、そうそう、世界のため世界のため。心苦しいかもしれないけれど、お仕事はしっかりしないとね」
 と、蠱惑的に微笑むのは『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)だ。天使たちの中に、一人、紛れ込んだ悪魔。いや、この依頼を持ち込んできたのは、悪魔であるマルベートの眷属、マルティナだ。となれば、悪魔の依頼に、天使たちが紛れ込んだのが正しいというべきか。
 マルベートには、もちろん件の天使……『でうすのししゃ』と名付けられた天使に対して、同情心などは一切持ち合わせていない。むしろ、よくぞ心おきなく倒せる存在にまで堕ちてくれた、と感謝の念すら抱いているかもしれない。
 マルベートにとって、天使とはすなわち食材に過ぎなかった。天使を討伐した暁には、その死体を持ち帰り、文字通りに美味しく頂く手はずになっている。それも、仲間達には了承済みだ。
「ああ、楽しみだ。未来への希望と生命への愛が我が身を満たす。私は今とても、幸せだよ」
 その尻尾を、楽し気に揺らすマルベート。
「そこまで喜ばれたら、手伝ってあげようって気にもなるわよねぇ」
 『トリックコントローラー』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)も、どちらかと言えばマルベートと思いを同じくする身だ。天使を食べようとするほどではないが、しかしこうもマルベートが幸せそうな表情を見せているとなると、天使の味とやらには少し興味も湧く。食べないけれど。
「そろそろ目撃地点かしら。皆、一応気を付けてね。見通しも悪いし、話が通じない相手ならいきなり攻撃を仕掛けてくるかもよ?」
 チェルシーの発言に、仲間達は身構えた。周囲を警戒する。背の高い木々が空をふさぐ森の中、ふと、イレギュラーズ達の鼻孔を、何か聖性を感じさせる、澄んだ空気がくすぐった。
「ああ……この『臭い』! なんて厭味ったらしいほどの聖性! 待ち焦がれたよ!」
 マルベートが声上げる。同時に、天使の血をその身に宿すと言うティア、そして紫月は、何か本能的な部分で、それを察した。
「いますね。同族の気配です」
「うん。すぐ近くやなぁ」
 その言葉を合図にしたように、木々の間から、一人の天使が、7名の小さな子供たちを伴って現れた。
 子供達、と言ったが、間違いなく人間のそれではない。その肌は全て純白の色に染められており、うっすらと透けているのが分かる。生命であるかどうかも怪しい。恐らくは、天使の聖性に充てられ、活性化した精霊のようなものなのだろう。
 そして、天使。中性的な外見のそれは、なるほど、確かに聖なるかな、を感じさせる。しかし、その眼は光を失い、どこかここではない遠くを見ていた。ああ、狂っているのだ、とイレギュラーズ達は直感した。傍にいるだけでも分かるような、堕ちた狂気が、その眼から発せられていた。
「なんとも哀れな姿だね……」
 『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)が呟いた。狂気にあてられ、正義を執行することもできぬその姿は、レベリオには、確かに、哀れなものに見えていた。
「その手を血に染める前に、仕留めよう」
 レベリオの言葉を受け、仲間達が一斉に武器を構える。その様子をぼんやりと見つめていた天使は、
「主の敵を発見」
 ぼそり、と呟き、その手に光の槍を顕現させた。ばさり、と背中の翼をはばたかせる。それを合図にしたように、精霊たちが光を放ち、宙に浮かんだ。
「まずは下ごしらえだ。なるべく苦痛を与えると良い肉になる」
 マルベートはにぃ、と笑った。確かにそれは悪魔の笑みであり、主(かみ)たるものの敵のように思えた。

●天使と悪魔
 天使がばさり、と翼を広げた。その光の槍を構え、突撃を敢行する――。
「おそいっ!」
 だが、それよりも素早く動いたのはチェルシーだ。片翼の魔剣を次々と射出し、精霊……『天使のマナ』達を地へと縫い留める。
 出鼻をくじかれた形の天使だったが、しかしその顔に焦りの色は見受けられない。感情と言うモノが実装されていないのかもしれない。いずれにせよ、天使は木々の合間を縫って、イレギュラーズ達へと迫る。
「へぇ、私の方に来てくれたね。好都合だ」
 偶然か、或いは残る主命(ほんのう)のなせる業か。天使が狙ったのは悪魔(マルベート)だった。マルベートは手にした巨大なディナーナイフを槍のように構えると、天使の一撃に合わせて突き出した。
 ジッ! 光とナイフが交差し、金属音ともつかぬ鋭い音をあげる。天使がそのまま、光の槍を横なぎに振るうのへ、マルベートが構えたのは巨大なディナーフォークだ。フォークの先端で、光の槍をからめとる様に突き刺す。ギリ、と両者がつばぜり合いの形で硬直する。
「おっと、ディナーの前にダンスのお誘いかな。天使(しょくざい)にしては気が利いている」
 悪魔のように美しい笑みを浮かべるマルベート。が、その瞬間、チェルシーの攻撃から逃れていた数体の精霊から放たれた、光線のような光の銃弾が、マルベートを射抜くべく殺到する。マルベートがフォークを払って距離をとると、一瞬前の地面に、いくつもの光が突き刺さった。
「君のお供は無粋だね?」
 挑発するように、マルベートは天使へと微笑みかける。天使は濁った眼を、マルベートへと向けるのみだ。
「流石に一気に7体! 一人じゃ抑えきれない……けど! 予測の範囲!」
 チェルシーはにぃ、と笑い、
「残り! お願い!」
 叫んだ。チェルシーとて、元より一人で全部を押さえるつもりはない。予定通り、仲間と連携とをって行動するのみだ。
「了解です! さぁ、あなた達の相手は私ですよ!」
 凛、と声をあげ、精霊たちの注意を引く無量。精霊たちは無量の誘導に引き寄せられるまま、宙を飛び、突撃。勢いを乗せたまま、光の銃弾をうち放つ。
「シイッ!」
 鋭く呼気を吐き、無量は手にした刃で光の銃弾を撃ち落とした。無量の手元の刃が、光を乱反射するように、次々と斬り飛ばしていく。そして、精霊たちは、その攻撃により大きく隙を晒すこととなる!
「希紗良さん、お願いします!」
「お任せであります!」
 希紗良は太刀を抜き放つと、精霊に向けて突貫した。眼前に立ってみれば、あどけなさの残る子供のような表情をしている。
「外見が如何様にあどけなくとも、斬らねばならぬ。御免、でありますよ」
 希紗良はふっ、と息を吐くと、その太刀を一閃させた。斬! 音を立てて精霊が切り裂かれる。精霊は悲鳴をあげるでもなく、真っ二つに切り裂かれたまま空へと消えていく。
 残る精霊たちから、反撃の光線が、希紗良へと降り注ぐ。希紗良は慌てて飛びずさり、それらを回避。追いすがる様に光線を発射する精霊たち。しかしそれらに降り注いだのは、祝福ではなく呪歌であった。
「ーー崩折れよ、頭を垂れよ、眼を鎖せ。 我は、汝が帰り着く家成れば」
 詠うティアの呪歌が、精霊二体を巻き込み、その内部から汚染していく。半透明の純白の身体が、ぐずぐずと黒に染まり、腐らせていく。おお、おお、と精霊たちは嘆いた。放たれた光が、自身を傷つけ、壊していく。
「残念。この世界で生まれたものでしょう。でも、世界に災禍をもたらすならば。此処で散って頂戴」
 ティアが歌い終えた後には、もはや何も残らない。呪歌は精霊たちを澱ませ、そのままこの世より消え去っていく。
 戦況の変化に、戦術システム(せんとうほんのう)は壊れてはいなかったであろう天使が動いた。マルベートを振り払い、飛翔しようとする――。
「おおっと! そいつはさせねぇ!」
 吠えたのはゴリョウだ! その身体からは想像できぬような俊敏さ/あるいはその体躯だからこそ発揮できるパワーで、ゴリョウは跳躍。動く天使の足を止めるべく飛び掛かる! 鈍い衝突音を立てて、黒金の鎧が天使を掴んだ。
「ぶはははッ! さぁかかってきな御同輩! テメェの狂気、受け切って成仏させてやらぁ!」
 ギッ! その鎧の隙間から投げかけられる、あまりにも鋭い眼光! 天使の注意を引き付け、釘付けにする!
「ほな、私らと遊びましょぉ?」
 動きを止めた天使へ、紫月の斬撃が飛んだ。切り裂く衝撃波が天使の肉を斬り、その肉体から赤い血をほとばしらせる。
「お前の武器は速度、機動力。ならばそれを殺させてもらう」
 レべリオが手甲で殴りかかる。衝撃が天使の肉体を駆け巡り、その身体を痺れさせる。
 四人のイレギュラーズ達によるブロックが、天使の武器の一つである機動力を殺していた。もはやそれはとぶことすら能わず、かごの中に捉われた鳥も同然。さりとて、牙持たぬ小鳥ではないのが、天使の厄介な所か。封殺されてなお、主の敵を誅殺せんとする本能(プログラム)は、未だ走り続けている。
 素早く振るわれる、光の槍。紫月はそれを、妖刀で切り払った――が、間髪入れず、追撃の槍が紫月を襲う!
「あら、まぁ」
 寸での所で、追撃に身を躱す。頬に走る一筋の赤い線。
「お返しって所やねぇ? でも、それで私を殺(と)れる思うたらあかんよぉ?」
 にぃ、と半天半鬼は笑う。続く天使の一撃。紫月はそれを後方へと跳躍して回避。そのまま狙撃銃を取り出し、
「ばぁん、あはははぁ♪」
 発射――銃弾が天使の腕を貫く。天使は痛みを感じないのか、濁った眼で紫月を見返す。
「おっとぉ、オメェさんの相手はこっちだ!」
 ゴリョウが再び、天使をにらみつける。その魔眼にも似た、自身へと注意を引き付ける視線。天使はその時、
「おお、おお。主よ、我に力を!」
 初めて吠えた。
「オメェさんのあるじはこの世界には居ねぇよ。オメェさんがそう思ってるのは……もっと邪悪な奴さ」
 説得の言葉を届けるでもなく、しかしそう言わずにはいられぬように、ゴリョウは呟いた。

●墜ちた天使
「さぁ、まとめて撃ち落としてあげるッ!」
 チェルシーが自ら回転する。片翼の魔剣が刃となり、刃のテンペストと化したそれが精霊たちに突撃。次々と切り裂いていく。刃の暴風に、さしもの精霊たちも悲鳴を上げた。その隙を逃がすはずもなく、
「右を斬ります!」
「では、左であります!」
 同時に飛び込んだ二人のサムライ、無量と希紗良が、同時に左右に並び立つ精霊へと、刃を滑らせた。まさに目にも止まらぬ、と言った速度の斬撃が、精霊の身体を一刀両断に切り裂く。
「残りは任せてください」
 そう言って放たれたティアの魔力砲撃が、残っていた精霊たちを飲み込んだ。白い魔力の奔流が、飲み込んだ精霊たちを打ち据え、
「私達の魔弾から逃しはしない」
 その言葉通りに、決して逃さず、この世から消滅させていった。
『残りは、天使だけか』
「一気に仕留めるであります!」
 飛び掛かった希紗良が、刃を振り下ろし、天使へと斬りかかる。動きを固められていた天使に、その斬撃が直撃した。斬、と、天使の着ていた白い聖衣ごと、その肉体を切り裂く。
「ああ! ああ!」
 天使は吠え、でたらめに槍を振るった。希紗良は刃を構えてそれを受け止める。勢いのまま、後方へと離脱。ざ、と地を踏みしめて着地。
「片羽にしてやりなさい、無量!」
「承知ですッ!」
 チェルシーの叫びに、次いで飛び込んだのは無量だ。背後から迫る斬撃。背中、羽の付け根を狙ったそれが、見事に片方の翼を斬り捨てた。
「残念やわぁ。そろそろお終いみたいやねぇ」
 間髪入れず、紫月の銃弾が、天使の脚を狙い撃つ。だらり、と両足から力が抜ける。だが、天使は翼とは違う、何か反発するような力で、どうにか宙に浮いていた。
「いいダンスと悲鳴だったよ。下ごしらえは充分。それじゃあ、狩らせてもらおうか」
 悪魔が笑う。駆ける! 手にしたのはディナーフォークとナイフ。悪魔の食事の皿に、天使は今載せられていた。駆けるは捕食者。それは天使を喰らう、悪魔。天使喰らいの、悪魔。
 悪魔の姿が掻き消える。刹那、現れたのは天使の後背。振るわれたナイフが、残された羽を斬りおとした。天使が吠える。背後を振り向く。笑う悪魔が、そこにいた。
「翼は貴重だからね。まずは丁寧に取り除いて……君は、つるし切りなんてどうだい?」
 間髪入れず突き出されたディナーフォークが、天使の右肩を突き刺した。そのままの勢いで、木へと縫い付ける。そのまま、悪魔は愛おしいものを抱くように、天使の身体にその手を這わせた。
「私はワルイコだからね。少し、つまみ食いをさせてもらおう」
 そのまま、天使の喉笛へと齧りつく。ぶち、と音を立てて、肉が引き裂かれる音が聞こえた。ごくり、と生肉を飲み込む悪魔。口元を赤に濡らし、しかし天使の肉の味に恍惚と微笑む悪魔は、しかし確かに、この世のものとは思えぬほどに美しく見えたのだ。

 天使の死体を、丁寧に布へと包み込む。その布の横に立ち、少しだけ、無量は瞳を閉じた。
「主の命に従い続けて来た貴方が行って来た行為、貴方が納得出来る行為それこそが主命であったと気付いていれば、こうはならなかったでしょうに」
「お祈りかい? まぁ、『食材に感謝する(イタダキマス)』はマナーだからね」
 マルベートが笑うのへ、無量は肩をすくめた。
 天使は墜ちた。イレギュラーズ達は、依頼を完遂したのだ。悪魔の料理の『食材』は、悪魔に持っていかれるのが世の常だ。
「マルベート、解体とか手伝うわよ? 味とか気になるから、教えてよね」
 食べないけれど、と念を押して、チェルシーが笑う。マルベートは微笑んだ。
「ああ、気になるならば是非。ゴリョウ、君は手伝ってはくれないのかな?」
「ぶはははっ! 流石の俺も、天使の調理はしたことなくてな! それに関しては、本職(あくま)に任せた方がよさそうだ!」
 ゴリョウは豪快に笑いつつ、肩をすくめた。マルベートは「仕方ない」と、艶やかに笑う。
「では、この後は悪魔(わたしたち)のお楽しみとさせてもらおう。お疲れ様」
 マルベートは、これから訪れる饗宴を思い浮かべ、静かに唇を舐めるのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 この日のディナーは、とても満足のいくものであったようで――。
 クリスティナも、喜んでいることでしょう。

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