シナリオ詳細
オフトゥンに包まれて
オープニング
●Emergency?
「緊急事態だ」
依頼の書類を片手に、『黒猫の』ショウ(p3n000005)がイレギュラーズ達の元へやってくる。
「町1つがダメになった」
ショウの言葉にざわり、とイレギュラーズ達がざわめく。
幻想国内で起きた蜂起も落ち着いてきたこの頃合いを狙ってきたのか? それとも未だ不満の燻る民が再び蜂起を起こしたか?
あるいは……猟奇的殺人事件の再来?
「一先ず、依頼の内容を聞いてくれ。受けるかどうかはそれからだろう」
イレギュラーズがごくりと唾をのみ込む。彼らの視線を浴びるショウは依頼内容を伝えるべく口を開いて──。
「町民がオフトゥンに取り込まれたのさ」
なんとも気の抜ける発言をかました。
その日の町は「ここ数日の悪天候は何だったのか」と思わせるほど良い天気であった。
つまり、同時に良い洗濯日和であった。
町の至る所で洗濯物が干され、折角だからと布団も干された。
溜まっていた洗濯物がなくなると喜んでいた人々が聞いたのは、小さな声だった。
キィキィ、と甲高い声。妖精だ。
聞こえてくる場所はといえば、つい今しがた干した布団から。どうやら飛び回っている間にぶつかってしまったらしい。
大量の洗濯物と布団が干されているこの町は、妖精からしたら迷路のようになってしまっているのかもしれなかった。
でもまあ、どうしようもないよね。そんなことを人々が思っていた矢先である。
甲高い声が途絶え、代わりに何かの弾ける様な音。
それに視線を巡らせると、干されている布団が目に入った。
不思議なことに、その布団を見た人々は抗いがたい誘惑に襲われたのだ。
オフトゥンに包まれてぬくぬくしたい、と。
その誘惑に抗う事もできず、1人、また1人とオフトゥンに包まり始めた。
こうして町1つがダメになったのである。
「偶々立ち寄った商人さんが異変を感じて、誘惑される前にローレットへ逃げてきたから発覚したのさ。話を聞いた限りの推測だが、あながち間違ってないだろうね」
見てくれ、とショウが鳥籠をイレギュラーズの前に置く。その中に入っているのは──。
「妖精さ」
キィキィという甲高い声を上げ、妖精が威嚇する。けれど特に暴れるわけでもなく、声を上げるのみだ。
魔法封じの鳥籠だよ、とショウが告げる。
「あの一帯を治める貴族に話をしたら、正式に依頼となってね。情報収集している時に捕まえたのさ」
町の近くを呑気に飛行していたのだという。手の届かない高さであれば捕まえられなかっただろうが、届く高さであったのは幸いであった。
「交渉を試みたんだけどね。どうやら機嫌を直せば悪戯魔法を解いてくれるらしい。問題はちょっと遠出することでね」
魔法を解くまであのままオフトゥンと人々を放置すれば、遅かれ早かれ衰弱してしまうだろう。老人や子供はそのまま安らかに眠ってしまいかねない。
「俺は妖精の機嫌を直すという別件がある。その間にオフトゥンに取り込まれた町民を助けに行ってほしいのさ」
●Futon
かくして。
依頼を受けたイレギュラーズ──あなた達は早速町へ向かっていた。
『夜はまだまだ気温が下がるし、長い時間をかけて救出していたら人命に関わる。日中の内に済ませた方がいいだろう』
周辺の草原は広く、町民を避難させるのにうってつけだろうというのがショウの意見であった。救出された町民はオフトゥンが布団に戻るまで貴族邸で預かってくれるとのことだが、避難場所を決めておけば町民が散り散りになることもないだろう。
時刻は昼を過ぎたばかり。日中に済ませるなら早く動くべきである。
歩くこと暫し。目的の町に辿り着いたイレギュラーズ達は足を踏み入れる。
異様に静かな町を進んでいくと、徐に白い何かが道に現れた!
「なにあれ……」
誰かがぽつりと呟く。
そう。
現れたのは、簀巻きの布団であった。
- オフトゥンに包まれて完了
- GM名愁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年06月03日 21時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●始めましょう
「なんとも妙な呪いもあったものですわねー」
『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は町の中を歩きながらきょろきょろと周りと見回した。
簀巻きになった布団がそこらへんに転がっている、何とも気の抜ける光景だ。
「この光景だけ見ると、のどかで幸せな光景なのだけれど」
「そうですか? シュールに感じますが……」
ヴァレーリヤの言葉に首を傾げ、同じように辺りを見回すティファニー・ティトルーズ(p3p005298)。
人を眠りの檻へ閉じ込めるオフトゥン。それが町の中に転がっているのである。のどかで幸せな光景であることも、シュールな光景であることも間違ってはいない。
「シュールな上に面倒だけど、依頼はきっちりこなさないとね」
『自称・埋め立てゴミ』城之崎・遼人(p3p004667)はそう告げて手元の地図を見た。
数人が要望したことから用意されたものだ。外から町の様子を観察している『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)が1枚、そして『探求者』冬葵 D 悠凪(p3p000885)を始めとした今町に入っている収集斑で数枚所持している。
ふと遼人が顔を上げると1羽の鳥が頭上を抜けていった。レストの使役する鳥だ。恐らくこちらの位置も特定しているのだろう。
「もう少し進むとベースキャンプに良さそうな場所があるよ!」
「わかりました。それではそこへ馬車を停めましょう」
ありがとうございます、と声の主へ礼を述べる『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)。声の主である『多重次元渡航忍者』獅子吼 かるら(p3p001918)はふんふんと上機嫌に屋根の上を伝って移動していく。
「この仕事が終わったらお腹一杯カレーを食べるんだ……」
幻とティファニーの引く馬車に続きながら、『カレーメイド』春津見・小梢(p3p000084)はぶつぶつと唱えていた。
暖かくなったり寒くなったりと春は気温が安定しないもの。そんな中で暖かいオフトゥンに包まれたりしたら寝てしまうに決まっている。
そんな睡眠欲に対抗すべく、考えたのは『睡眠欲より食欲を上回らせる』ということで。
「この仕事が終わったら、美味しいカレーをお腹一杯食べるんだ……」
長い間煮込んでいるカレーは今、外の草原にいるレストの傍にある。あれをお腹一杯になるまで食べて食べて食べつくすのだ。
路地を抜け、広い場所へとたどり着く。ここもやはりオフトゥンがあちこちに転がっていた。
「ここですね」
ティファニーが持っていた町の地図に、今いる場所を書きこむ。
「僕はこの広場にあるオフトゥンの回収と参りましょう。早々にオフトゥンから皆様を解放致しませんと」
幻がぐるりと辺りを見回した。
もちろんオフトゥンが転がっているのはここだけではないだろう。ならば見えない部分を集めてきてもらい、馬車を持つ自分が見える場所のオフトゥンを回収した方が効率は良いはずだ。
「誘惑に負けないように救出しなくてはなりませんね。……あら、同じような広場がいくつかあるようです」
ティファニーが指で地図をなぞる。
今いる広場より少し離れた場所に1つ、2つと同じような広場が点在しているようだった。
「幻様、そちらの広場もお願いできますか?」
「勿論でございますよ、ティトルーズ様」
にこり、と綺麗な笑みを浮かべる幻。
「それじゃ、僕らも回収を始めようか。幸せな夢を見てる人達は沢山いるみたいだけど」
遼人がそう告げ、地図をもう1度見る。
何の夢を見ているのかは定かでないが、あちこちから幸せの感情が溢れている。これが人命に関わることでなければこのままでもいいのではないかと思わせるほどだ。
(……正直、ふかふかの布団なんて呪縛じゃなくたって寝たいけど)
ここで寝るわけにはいかないのである。
「では、私はここで待機していますわね。誰かが見えなくなってしまったり、布団に囚われてしまったら助けに参りますわ!」
呪縛を解く術を持つのはレストとヴァレーリヤのみ。レストが外にいる今、ヴァレーリヤの立ち位置は非常に重要だ。
こうしてそれぞれが分担を決め、オフトゥン回収に乗り出したのだった。
●集めましょう
「やるぜ~あたしはやるぜ~」
軽業師の如く町の屋根を伝って移動するかるら。その両手には3mの棒が握られ、時に高跳びの用具のように地面を突いてかるらの移動を助けている。
「おふとんふとんふんふーん何するものぞ我はさいきょーかるらちゃーん! あ、みっけ!」
上空から見つけにくい屋根下に隠れたオフトゥンを2つ発見する。
このオフトゥンが溢れる町で『眠気』という単語はかるらに当てはまらない。
なぜなら。
(ふっふっふ、昨日うっかり12時間も寝てしまったのはこの為だったのかもしれない!)
それは普通の布団だったかもしれないし、ボロい布団だったかもしれない。いや、極上の布団だったかもしれない。
しかし質はともかく、量はとったのだ。あとは触りさえしなければ問題ない。そのための道具はかるらの両手に握られている。
「棒が2本あれば転がせる布団も2倍! 天才!!」
それぞれの手に握られた3mの棒で発見したオフトゥンを馬車まで連行──の、その前に。
「……何をしてるんですの?」
建物の影に隠れたかるらを追ってきたヴァレーリヤが、奇怪なものを見る目でオフトゥンに近づいていたかるらを見る。
「匂いで中に人がいるか確認して、もしいないなら燃やしちゃおうと思って! フフフ、こんな世界で匂いフェチが役に立つ日が来るとはね!」
自信満々に言い放って順にオフトゥンの匂いを嗅ぐかるら。ややあって離れたかるらにヴァレーリヤが問いかけた。
「どうでしたの? 何かわかりまして?」
「……どっちもお日様の匂いだった! なのでどっちも馬車まで持っていこう!」
どちらも入っていないのか、或いはオフトゥンが人の匂いまでシャットアウトしているのか。
原因はわからないが、中身がいるかどうかわからない以上作戦通りに馬車まで持っていくべきであると判断したのだった。
「誤って人ごと燃やしてしまうより良いですわね。あ、転がしていく途中で取り込まれないようお気をつけて」
「もっちろーん! 今ならお布団の呪縛ごとき敵ではないしね! 何なら試しに触れてみたって──」
ぽふ。
呵々と笑ったかるらが軽くオフトゥンへ触れる。その柔らかな感触と同時に、ふわりと暖かな空気に包まれた気がしてかるらは目を瞬かせた。
あれ、ちょっと眠くなってきたかも、おかしいな。12時間も寝たのに。でもここに丁度良く気持ちよさそうな布団もあるし──。
「ぐう」
「ちょっ、言ったそばから!」
ヴァレーリヤの放った聖なる光がかるらを取り込もうとしていたオフトゥンを止め、かるらを解放させる。
解放されてからも暫く眠たげに目を瞬かせていたかるらは、はっと息を呑むとオフトゥンから跳び退いて距離を取った。
「ダメだ、めっちゃ寝れる!! これ危ない!!」
「そうですわね」
ヴァレーリヤはオフトゥンに近づいて様子を伺う。
特に変哲もないオフトゥンだ。襲い掛かってくることもなく、直接触らなければ眠気もない、ように思う。
「私達は触れなければ寝ずに済むようですし、気を付けて運べば大丈夫のはずですわよ」
「だね。あたしが触った方のお布団は誰もいないみたいだったし、燃やしちゃおう!」
人のいないオフトゥンを、敢えて草原まで運ぶ必要はない。
それらを開いて人がいないことを確認する間にも、刻々とタイムリミットは迫るのだ。
広場のオフトゥンを1つ1つ巡り、自らの馬車に詰め込んだ幻。
これ以上入る隙間が無いことを確認した幻は、その詰められたオフトゥンに思わず溜息を零した。
「オフトゥン……なんて甘美な響き」
人々はこのオフトゥンに包まれ、オフトゥンな夢を見てオフトゥンとルンタッタしているに違いない。
オフトゥンまみれ。ああ、羨ましい!
「幻様、幻様」
「……はっ!」
ティファニーに肩を叩かれ、幻は我に返った。
気づけば先ほどより馬車に──オフトゥンに随分と近く、あと1歩踏み出せばオフトゥンに触れてしまっていただろう。
気を確かに持つようにふるふると首を振る幻を見て、ティファニーは小さく笑みを漏らした。
オフトゥンの魔法的な力はイレギュラーズに効かないが、どうやら元来持つ誘惑にはイレギュラーズも誘われてしまうらしい。
けれどきっと仕方ないことだ。馬車に積まれたオフトゥンはとても寝心地がよさそうで、幻の背に生える繊細な蝶の羽でさえも優しく包み込んでくれるに違いないのだから。
しっかりと目の覚めた幻が息をつく。
「永遠に続く夢を見るのも一興で御座いますが、死んでは夢を追いかける楽しみが減ってしまうというもので御座いますね」
幻にとってはこの世界もまた夢の半ば。ここで立ち止まる選択肢はない。
「僕は1度、外へオフトゥンを運んでまいりましょう。ティトルーズ様は……」
「そうですね……皆様が次に運んでくる布団を積んだら参ります」
馬車の空き具合を確認し、そう告げるティファニー。その言葉に幻は頷くと自らの馬車の御者台に乗り込んだ。
「それでは僕は先に。その後は別の広場へ向かいます」
「ええ、わかりました」
時間の制限を気にするからか、移動し始める馬車の速度は少し早く感じる。
幻と馬車を見送ったティファニーは、路地から転がってきたオフトゥンに気づいて視線を向けた。
「お布団点在じょーきょーほーこくです! こっちは大体終わったけど、少し先の通りにはあるみたいだよ」
オフトゥンを転がしてきたかるらの報告にティファニーは頷き、皆が集まったら一旦外へ向かうことを告げた。
「あらぁ~、待ってたのよぉ」
ふわふわのんびりとした口調で一同を迎えたレストは、新たにやってきたオフトゥンの山に顔を綻ばせた。
「んふふ、お日様の匂いがするお布団ねぇ。包まりたくなる気持ちもわかっちゃうわ~」
「そうですね……思わず私も眠ってしまいそうです」
レストの横に立ったのは、幻によって先に運ばれてきたオフトゥンから、人を引きはがすべく奮闘していた悠凪。何故か顔が濡れている。
怪訝そうな視線を向けられたことに気づき、悠凪は「お恥ずかしながら」と軽く顔を俯かせた。
しゃらりと桃の髪飾りが悠凪の動きに合わせて揺れる。
「触れるとどうしても眠くなってしまうのです。起こしてもらうのですが、大量の布団を見ていると何だか眠気を誘われてしまって……」
それで、と悠凪が視線を向けたのは少し離れた場所に置いてあるバケツだ。その周囲には既に助け出された数人が欠伸をしたり、座り込んでいる様子も見える。
そのうちの1人がバケツの中へ手を伸ばし、顔を洗い始めた。
「あのように、私も顔を洗って眠気を払っているのです」
持っていたタオルで顔の水滴を拭い、さっぱりとした表情の悠凪。
本来は被害に遭った町民の眠気を覚ます為に用意したものだが、思いがけず自分も使っているようだ。
「地図、完成したわよぉ。皆が回収した場所はバツ印をつけたわ~」
レストの差し出した地図を皆が覗きこむ。
その地図にはファミリアーの偵察により、事細かくオフトゥンの位置がマークされていた。マークの上からバツ印がついているものが回収済みらしい。
「幻ちゃんが持っていくのかと思ったのだけれど、皆が見るだろうからって覚えて行っちゃったのよ~」
次はここへ向かうんですって、とレストがマークの多い広場を指差す。
「それなら、次に向かうとすればこの辺りか」
遼人がそれを見て指差したのは幻が向かうと告げた広場から少し離れた場所だ。
「んふふ、そうね~。今度はおばさんも一緒にいくわ~」
「それでは、代わりに私がここに残りますわね」
レストとヴァレーリヤが互いに顔を見合わせ、頷いた。
再び町へ向かう馬車を見送り、悠凪はオフトゥンへ向き直る。
オフトゥンを集め終えれば他の仲間も引きはがしを手伝ってくれる手筈になっているが、それまでに少しでも減らしておかねば。
「お仕事終わりのカレーを楽しみに……お布団の誘惑になんか負けないぞ」
本当だぞ! と自ら気合を入れる小梢。彼女も布団の引きはがし作業をするのだ。
その後ろでは「頑張ってくださいませー」と2人を応援するヴァレーリヤ。
手伝えたならよかったのだが、ここにお布団の呪縛を解くことのできる人材はヴァレーリヤ1人のみ。彼女自身が布団に囚われてしまっては元も子もないのである。
眠らないぞ、と気合を入れた悠凪と小梢はそれぞれ人を引きはがしにかかった。
「えいっ」
狙いに狙って3mの棒を布団の隙間に差し込み、てこの原理で布団をめくり上げる。中には1人の微睡む女性。
悠凪はオフトゥンに触れないよう気をつけつつ、女性を起こしにかかった。
「起きてください。もう目を覚ます時間ですよ」
「ん~~もうちょっとぉ」
眠たげな声と共に手が振り払われる。諦めずに手を取ろうとすれば、思ったよりも力強く引っ張られてしまった。
慌ててオフトゥンへ手をつく悠凪。彼女を睡魔が襲う。
(ダメです……ここで眠るわけにはいきません!)
気合で眠気を振り払った悠凪は再び女性の手を取り、上半身を起こすことに成功した。
一方、小梢は素手でオフトゥンと対峙していた。
(布団にも大事な思い入れがあるだろうし、蹴り飛ばすとか無碍に扱うのにはちょっと抵抗があるな)
元は町民達の布団だそうで、出来る事なら綺麗なまま返してあげたいものである。
そんなわけで、小梢は万全の守備体勢で布団を剥がしにかかっていた。
(触るのはほら、仕方ないよね。私には煮込んだカレーが待っているんだから大丈夫、大丈夫……)
「ふわあ、回復役の出番が無いと暇ですわねー。日差しが暖かくて風が気持ちよくて、何だか眠く……っと!いけませんわっ、危うく夢の世界に!」
2人の様子を見ていたはずのヴァレーリヤは午後の日差しに思わずうとうと。はっと目を覚まして頭を振ると、オフトゥンに取り込まれかけた小梢に目を丸くする。
「寝るなー、寝たら死にますわよっ!このまま『なんか布団の中で死んでた人』として皆の記憶に残っても良いんですの!?」
「はっ……そ、それは嫌だ!」
ヴァレーリヤによって助け出された小梢は全力で頭を左右に振り、否定の意を前面に押し出した。
さて、再び町へ戻った一同はと言えば。
「……布団がふっとんだ、とか駄洒落の代名詞だけど、吹き飛ばされたり転がされたり布団も中の人も大変だな」
遼人は棒によって転がされたり、術によって馬車へ吹き飛ばされるオフトゥンを見ながらぽつりとそう零した。
まあ、触ったらこちらも眠ってしまうのだから仕方ないといえば仕方ない。触らなければ眠らないだけマシというものだろうか。
「よい、しょ」
両腕でオフトゥンを抱え上げ、ゆっくりと馬車の方へ。この眠りへの耐性はそこそこあると自負するものの、やはり眠くなってしまうタイミングはあるようで──。
「あらあら~、いくら良い子ちゃんでも、まだ寝るのは早すぎよ~」
優しい声に目を開くと、レストのにこにことした微笑みが視界に入った。
「僕は……眠ってしまってたのか」
「仕方ないわよぉ。ただのお布団だって、とっても眠くなってしまうもの~」
もう少しだから頑張ってねぇ、と声をかけられ、遼人は再び馬車へ向かってオフトゥンを運び始める。
馬車に載せる前に丸まった布団を開いてみると──残念、誰も囚われていないようだった。
これはこれで、とわかりやすいよう広げたまま馬車へ積む。
地図は定期的にレストが更新し、幻や遼人がその記憶力で持って頭の中に地図を叩きこむ。
バツ印が増え、町と草原を何往復もし。
空にオレンジの光が見え隠れし始める頃、ようやく全てのマークがバツで埋められた。
●剥がして剥がして!
「急いだ方がよさそうだな」
草原に辿り着き、空を見て遼人が呟く。
もう少ししたら夜が来てしまう。そうなったらオフトゥンから人々を剥がすのはさらに困難だ。
「よーし、沢山剥がした数で勝負しよう! 負けないぞ!」
頑張ろうね! と予め決めておいた相方であるティファニーの手を取り、オフトゥンへ向かうかるら。
「私も救出に参加しますわ!」
ぴょこん、と手を挙げて名乗り出るヴァレーリヤ。殺傷性の低い術でもって人とオフトゥンを引きはがしにかかる。
「うぅん、くまさんのぬいぐるみー……」
オフトゥンから引きはがされ、目を擦る少年は寝ぼけたままオフトゥンを見て手を伸ばす──が、その前に幻が立ちはだかる。
「夢から覚める時間でございます。あちらでお待ちいただけますか?」
ギフト《胡蝶の夢》。
視線誘導された少年の先に現れたのは、茶色いキュートなくまのぬいぐるみだ。
「わぁっ、くまさんだ!」
その方向へ走っていく少年を見届け、幻は遼人がオフトゥンから引きはがした人の元へと向かっていく。
段々と日が暮れ、空は藍色へ。
そうして夜の帳が下りた頃、辺りには奇術に湧く人々の声とカレーの匂いが響き、充満していたという。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
( ˘ω˘)<お疲れさまでしtスヤァ……
3mの棒が当シナリオで使われるとは夢にも思っていませんでした。
それではまたご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
GMコメント
●成功条件
オフトゥンに包まれた(取り込まれた?)人々の救出
●オフトゥン
白くて大きいふかふか。元は町民達のお布団。妖精の魔法で大の男1人が楽々簀巻きになれるくらいの大きさ。自立行動はしない。
日干しされていたのでぬくぬくぽかぽか、見た者を心地よい眠気へ誘う。
イレギュラーズであっても触れれば誘惑に襲われる。(システム的に言えばBS【呪縛】)
丸まった布団は開いてみないと人が包まれていたかわからない。
オフトゥンから人を引きはがす場合、誘惑に逆らうことになるので抵抗される。オフトゥンから20m程離れれば誘惑はなくなる。
妖精の魔法が解ければ誘惑もなくなり、ただの布団になる。損壊があった場合は直らない。
夜になると気温が下がる為、オフトゥンの誘惑が異常に強くなる。
●町とその周辺
治安はそう悪くない小さな町。人口は40~50人程度。治めている貴族は町民からまあまあ慕われており、先日の蜂起もここでは起こらなかった。
現在は太巻きのように丸まったオフトゥンがあちこちに転がっている。
町の外は草原が広がっており、危険なモンスターも確認されていない。オフトゥンも転がっていない。
●ご挨拶
愁と申します。
町民救出依頼ですが、1人の人間としてはオフトゥンに包まれる町民さんが大変羨ましい。いえ、ちゃんと救出お願いします。
オフトゥン自体は妖精じゃないので斬ったりしても問題はありません。ただ、中が見えないので人ごとすっぱり斬ってしまう可能性はあります。
それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。
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