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シナリオ詳細

<アアルの野>幸せな子供たち

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●家族のかたち
「……おとうさん」
 ある日の夜。Tricky・Stars(p3p004734)の自室に、小さく声が響いた。
 Tricky・Starsが自室のテーブルから顔をあげて、部屋の入り口を覗いてみれば、そこにはTricky・Starsの二人にとっては養子のような存在である、ヨエルと言う少年の姿があった。
「坊主。それはやめろと――」
 眉をまげて、稔が抗議の声をあげて――しかしやめた。ヨエルの瞳には、何か決意のようなものが満ちていて、真剣な話をこれからするという事を、稔に伝えさせたからだ。
「……なんだ、坊主。言ってみろ」
 稔は、ヨエルの目をまっすぐに見つめて、言う。ヨエルは、こくり、と頷いてから、言った。
「お願いがあるんだ」
 と。
「大鴉盗賊団に雇われている、残りの部隊を助けてあげて欲しい」
 と――。

●子供たちの傭兵
「『オンネリネン』、ですか」
「ああ。それが、俺達が『子供たちの傭兵部隊』と呼んでいた、奴らの正式名称だそうだ」
 ラサ、色宝事件対策チームの構える応接室の一室。稔は提供されたコーヒーには手をつけず、資料をあさっていた。
「国籍は不明の傭兵部隊――だが、坊主のいう事には、『オンネリネン』はアドラステイアに居を構えていることは事実だそうだ……と、バックボーンは今回関係ない。坊主の話によれば、もうひと部隊、大鴉盗賊団に雇われた『オンネリネン』の部隊がいるそうだが――」
「ええ。目撃されています」
 色宝事件対策チームの男が、資料を手にしながらそう言った。二人はテーブルに腰かけて、資料を覗き込む。
「先のネフェルスト襲撃事件に、『子供たちの傭兵部隊』……オンネリネンでしたか、とにかくその子供たちが発見されたのは、イレギュラーズさん達が遭遇した二部隊。そして、地元の自警チームが発見した一部隊。確かに報告が上がっています」
 オンネリネンは異質な部隊だ。その全てが、十歳前後の子供たちで構成されている。となれば、見つけ次第報告が上がるのも当然のことだろう。
「という事は……坊主の言ったことは本当か」
 ふむ……と唸って、稔は初めてコーヒーに口をつけた。さめているが、考えをまとめるために飲み干した。
 ヨエルが願う事には、「残りの一部隊を見つけ出し、保護してほしい」との事であった。彼らは自分たち『オンネリネン』所属の身内を疑似家族として認識していて、同じ家族を殺さずに保護してやって欲しい、と言うのがヨエルの想いだろう。
 短期間の付き合いだが、しかし変わったものだ、と稔は思った。保護してきてすぐの頃ならば、ヨエルは「自分たちが死んでも、残された家族のためになる」と考えていただろうか。彼らにとっては、死は身近だった……今は、そう言ったことから離れて生活している。死が当たり前でなくなったのならば、それを恐れるのも当然だろう。ましてや、家族に死んでほしくないという、当たり前のことを想うのも……良い傾向だ。
『なるほど、稔の『育児』も、上手く行ってるもんだ』
 茶化す虚に、「だまれ」と文句を言ってから、虚は続ける。
「その部隊の足取りはつかめているのか?」
「ええ。斥候に確認させたところ、先日ファルベライズ遺跡に再び侵入するところが発見されたました……ですが、今のファルベライズ遺跡は危険です」
「分かっている。『ホルスの子供たち』だったか……」
 『ホルスの子供たち』とは、ファルベライズ中枢より現れた、異質な怪物たちの呼称だ。恐らく錬金術によって作られたであろうその怪物たちは、『名を呼ばれた人物祖のように振る舞う』ように変身し、振る舞うようにプログラムされた怪物だ。心情的な面でも、戦闘能力的な面でも厄介な相手だ。
『となると、ぐずぐずしてたらヤバいんじゃないか? 助け出す前に全滅なんてことになったら』
「ああ、分かっている」
 虚の言葉に、稔は頷いた。
「情報感謝する……早速だが、ファルベライズへと向かうことにしよう」
「こちらとしても、大鴉盗賊団残党の憂いを立てるのは願ったりです。ローレットへと正式に依頼を出しますよ」
 色宝事件対策チームの男は、深く頷いた。

●子供たちの危機
 念のため、退路を確保しておくのが、わたし達の任務でした。
 再突入したファルベライズ遺跡には、見たこともない怪物が潜んでいました。
「ヘリ!」
 アウリスに打ち倒された、ヘリが血を流して倒れました。アウリスも、その前に、敵に殺された。そのはずなのに……彼は、暗闇の影から姿を現して、私達を襲ってきたのです。
「ヘリ! ヘリ!」
 ニコが、倒れたヘリに駆け寄ります。ダメです。もう死んでいます。ああ、でも。それでも。
「ああ、あ、ニコ。ニコ……」
 ずず、ずずと、うめくような声をあげて、暗闇から、ヘリがやってくる。
 もう何度見かけたかわからない、死者の蘇り。ありえない事態。でも、それが何度も起きては、わたしたちに牙をむくのです。
「ミーサ、どうしよう! 囲まれてる!」
 かつての私たちの家族達。足元に転がる死体。同じ顔をした敵。それが、それが、私達を囲んで、攻撃してくる。
「どうすれば――」
 わたしたちは、ここで……?
 最悪の事態が想像される中、遠くから、その足音は近づいてきたのでした。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 子供たちの傭兵部隊・オンネリネンの一部隊が発見されました。
 これを救出しましょう。

●成功条件
 最低でも一人、オンネリネン所属の子供たちを救出する。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 ヨエル少年の願い……それは、同じく大鴉盗賊団に派遣された、残る最後の部隊の家族を救出してほしいというモノでした。
 利害の一致から、ラサからの正式なモノとして発出された依頼を受諾した皆さんは、再びファルベライズ遺跡に侵入します。
 そこで見たものは、無数の『ホルスの子供達』に囲まれ全滅の危機に陥った『オンネリネン』の子供たちでした。
 皆さんはこの戦場に乱入し、オンネリネン所属の子供たちを守り、ホルスの子供達を全滅させてください。
 戦闘エリアは遺跡の内部。周囲にはクリスタルの明かりがともり、充分明るいものとします。
 皆さんが戦場に到着した段階で、戦場の中心にオンネリネンの子供たちが、それを囲むように東西南北にホルスの子供たちが配置されています。
 イレギュラーズの皆さんは、南から戦場に侵入する形になります。

●ホルスの子供達について
 ファルベライズ中枢より現れた、錬金術の生命体です。
 粘土で固めた人形を依り代に、色宝を埋め込まれて作られました。
 特徴として、『名を呼ばれると変身し、呼ばれたもののように振る舞う』こと。
 また、『名を呼ばれれば何度でも立ち上がり、蘇る』と言う厄介な特徴も持ちます。

●オンネリネンについて
 <Raven Battlecry>事件にて、『子供たちの傭兵部隊』と呼ばれ、イレギュラーズ達と戦った経緯のある、『十歳前後の少年少女で構成された傭兵部隊』です。この度正式名称が発覚しました。
 ヨエル少年は、その一人としてイレギュラーズ達と戦い、Tricky・Stars(p3p004734)さんに保護されています。
 所属はアドラステイアのようですが、詳しい事は不明のままです。

●エネミーデータ
 ホルスの子供達 ×15
  剣・魔術書で武装した、10歳前後の子供たちの姿をとった怪物です。
  現時点では、近接攻撃が10、遠距離攻撃が5のバランスで存在します。
  近接タイプが出血系統のBSを、遠距離タイプが乱れ系統のBSを、それぞれ付与してきます。
  オンネリネンの子供たちが1人死亡するたびに、ホルスの子供たちが一人補充されます。また、死者の名を呼ぶたびに、復活も行います。
  何らかの対策を獲れば、阻止することは可能です。例えば、オンネリネンの子供たちを説得して、死者の名を呼ばないようにさせるなどです。

 ミーサ ×1
 オンネリネンの子供たちのリーダーです。12歳の赤毛の女の子。
 魔術師としては優秀ですが、ホルスの子供たちに圧され気味です。
 救出対象ですが、戦闘開始時には敵対しているため、エネミーとして記述します。
 緊急事態であるため、上手く誘導すれば説得に応じてくれるかもしれません。

 ニコ ×1
 オンネリネンの子供たちのサブリーダーです。10歳の青毛の男の子。
 剣士として戦闘訓練を受けてきましたが、すこしメンタルが弱いです。
 救出対象ですが、戦闘開始時には敵対しているため、エネミーとして記述します。
 説得には応じませんが、ミーサの命令にはしっかりと従います。

 オンネリネンの子供たち ×4
 オンネリネン所属の傭兵の子供たちです。それぞれに特徴がありますが、重要ではないので割愛。
 生き残っているのは、剣士が3、ヒーラーが1です。肉体、精神ともに疲労が蓄積しているため、戦闘能力は普段より低下しています。
 救出対象ですが、戦闘開始時には敵対しているため、エネミーとして記述します。
 説得には応じませんが、ミーサの命令にはしっかりと従います。

●その他
 ヨエル
  Tricky・Starsさんの関係者。元オンネリネン所属で、救出対象とも親交がありました。
  デフォルトでは戦場にはついてきませんが、プレイングで指定していただければ、同行させることは可能です。
  剣士として、一般的な戦闘能力は有してします。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加、プレイングをお待ちしております。

  • <アアルの野>幸せな子供たち完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月31日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
騎兵の先立つ赤き備
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空指揮
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女

リプレイ

●消えゆく命
 先ほどまで生きていたはずの、仲間達。それと同じ顔をした怪物。
 地獄より、怨嗟の声をあげてよみがえったのか。
 それとも、歪な形による救済か。
 いずれにせよ、それらが此方に牙をむいてくることは、確実な事であった。
 『怪物』――それが『ホルスの子供達』と呼ばれていることを、『彼ら』――『オンネリネン』の子供達は知らなかった。
 ホルスの子供達、自分たちの姿を真似たそれらが、四方八方より一斉に風の術式を放つ。その後うふうに足を取られたエルヤと言う名の少女が体勢を崩し、その隙を逃さぬホルスの子供達の刃が、その命を奪い取る。
「エルヤ!」
 子供たちの一人が叫んだ。同時、それをトリガーにしたように、死んだはずのエルヤと同じ顔をした怪物が、暗がりから這い出てきたのである。
「……! まただ! どうして……!?」
 ニコが叫び声をあげた。子供たちの一団は、もはやその数を六名までに減らしていた。倒しても倒しても、そしてこちらに死人が出るたびに増援として現れるかつての仲間達。鍛えられ、常のそれよりも頑健であったはずの子供たちの精神と肉体は、いよいよ限界を迎えつつあった。
「ミーサ、どうしよう、これじゃあ……!」
 子供たちのリーダーであるミーサは、唇をかんだ。撤退は、出来ない。そう言う契約であるし、自分たちの命を込みでのお金が、既に支払われている……。
 命は金で買える。逆を言えば、命で金を買えるのだ。お金があれば、他の家族を救う事も、魔女狩りにいそしむ他の子供達を救うことができる……ミーサらを指導するマザーは、確かにそう言ったのだ。
「逃げることはできないの……みんな! かぞくのために! マザーのために!」
 そう言って奮い立とうとする物の、前述したとおりに全員が限界に近い。このままでは、全滅は免れまい……だが、それでもいい。自分たちの命は、確かにここで潰える。が、その命がもたらした報酬は、確かに家族たちの糧になるのだ……ならばここで死んだところで、命惜しくはない。子供達はそのように教育されていたから、覚悟を決めるのは速かった。
 ……そうだ。覚悟を決めるには、若(はや)すぎる。
 そう思う者たちの救いの手は、確かにこの時、届こうとしていた。
 南側から、剣戟が響いた。子供達を東西南北から包囲していたホルスの子供達。その南側に布陣した一団が、子供達とは別の勢力との戦闘を始めた音であった。
 何が起きたのか、と子供たちが思った瞬間、いくつもの人影が、クリスタルの残光を引いて、戦場をかけぬてくるのが見えた――。

●救いの手
「見つけた! まず治療にあたるよっ!」
 叫ぶ、『白い死神』白夜 希(p3p009099)。希たちイレギュラーズは、この時、戦線を突破し、まずオンネリネンの子供たちへの合流を優先とした。希は歌を口ずさむ。誰もがすぐ忘れてしまうだろう、癒しの旋律。それがオンネリネンの子供たちの傷を、僅かでも癒していくのを確認する。
「もう、こんなに被害が……!」
 『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は、斃れた子供たちを視界の端に映し、思わず歯を食いしばった。間に合わなかった……違う、まだ間に合う。今ここにいる子達だけでも、救わなければ。
 アルテミアの感情探知能力が、戦場の敵味方を洗い出す。発生したばかりのホルスの子供達には、まともな感情などは備わっては居まい。となれば、この感情探知に引っ掛かった者達こそが、救出対象だ。
「ここにいる六人! それで……全員!」
 六人しか助けられないのか、と刹那思う。同時に、いや、六人も助けることができるのだ、とわずかながらに自分を騙す。
「希さん、引き続き治療を! こっちは北方の敵の足止めにうつるわ!」
「了解! 気を付けて!」
 駆けだしていくアルテミアを見送り、希は再びの癒しの歌を口ずさむ。突然の状況に呆然とするオンネリネンの子供たちであったが、突然の救いの手に、しかし警戒を捨てきれないのは傭兵としての教育の結果か。
「あなた達は……」
 ミーサが仲間達に防御態勢を取らせつつ、声をあげた。その間にも、ホルスの子供達が、じりじりと間合いを詰めてくる。ひとり、飛び掛かってきたホルスの子供達。その刃を、受け止めたのは『至剣ならざる至槍天』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)だ。
「アタシらはお前らの敵じゃない。頼まれて助けに来た」
 黎明槍を振るい、ホルスの子供達の刃を、弾き飛ばす。間髪入れずに突き出されたエレンシアの槍の切っ先が、ホルスの子供達の身体を貫いた。
 その身体から鮮血はほとばしらない。泥のような濁った何かが、ぐずぐずとこぼれだすばかりである。
「はっ、来やがれバケモンども! 片っ端から叩き潰してやらぁ!」
 エレンシアは蹴りを入れてホルスの子供達を吹き飛ばす。どてっぱらに風穴をあけられて、なおもホルスの子供達は立ち上がる。異常な光景に、オンネリネンの子供たちも思わず息をのんだ。
「リックハルド……」
 思わず、死した仲間の名を呼ぶオンネリネンの少年。
「死者の名を呼ぶな!」
 同時に、一喝があたりに響いた。『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)、稔の叫びである。
「それがトリガーだ! 死者の名を呼ぶことにより、奴らは無限に立ち上げり、増えていくぞ!」
 う、とオンネリネンの子供たちが呻いた。なるほど、そう言うカラクリであったのか。勢いによる説得力が、子供たちの脳裏に浸透していく。
「今だけは。何があったとて……。
 斃れたおともだちの名前を呼んでは、なりませんよ。
 零した名が、刃となってあなたたちに振り下ろされてしまいます、から」
 稔の一喝とは対照的に、穏やかな言葉でそれを告げるのは、『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)だ。
「そんな……そんな事って……」
 呆然と呟く、ミーサ。
「気付いてはいるのだろう?
 呼んではいけない、死者の安息を妨げてはいけない。
 あれはお前たちの仲間…家族ではない、その名と姿を盗んだもの。
 呼べばその姿を盗んで立ち上がる、死者の意思には関わりなく、何度でも」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が続いた。ホルスの子供達の性質は、オンネリネンの子供たちへも充分に伝わったようだった。皆一様に口をつぐんでいる。
 辛いだろうな、とアーマデルは思った。死者の名を呼ぶことも許されない。まったく、ホルスの子供達とは外道の所業であると思う。
「もう、充分ご覧になったでしょう?
 此れより先は、死者を模した人形が息吹く地獄。
 進めば、屹度帰られはしませんよ」
 穏やかに告げられるアッシュの言葉に、オンネリネンの子供たちはうめいた。子供たちは覚悟を決めていたはずだったし、そのように教育されていたはずだった。だが、ここにきて現れた救いの手が、もっと本能的な所で、子供たちの生存欲求を掻き立てていた。
「あなた達を待つ子達が、いると云うのなら、その子達はあなた達が死で誉を飾ることを望むでしょうか?
 生きて帰ること、其れ以上の喜びは無い筈……だと、わたしは、そう思いますよ」
 その一言は、確かな後押しになった。それは、言い訳に過ぎなかったかもしれないけれど、子供たちにもう一度、生存の意思を持たせるには充分な言葉だった。
「あなた達は……盗賊団じゃないわよね? どうして、わたしたちを助けようなんて……」
「……ルメスの民にお前らと同じくらいの歳の妹分がいるんだよ」
 『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が言った。
「だからこんなところで死なないでくれ……俺たちが敵に見えるのも仕方ない話なのは理解している。だからぶつけたいものがあるならぶつけると良い」
 アルヴァは、子供たちの注意を自分にひきつけた。それは、ホルスの子供達へオンネリネンの子供たちが向かって行かないようにするには、充分な効果をもたらしていた。
 一方で、多少の敵意をぶつけられることにはなったが、しかし本格的な衝突に至る前に、オンネリネンの子供たちは対話の状態へとはいっていた。
「ミーサ、ミーサ、こっちを向いて? 誰がいる? ヨエルよ、お友達なのでしょう?」
 歌うように、そうミーサへと告げるのは、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)だ。その言葉に、ミーサは目を見開いて、驚いた表情をみせた。
「ヨエル……!? ヨエルが生きていたの!?」
 こくり、とフルールが頷く。そして視線を移せば、稔に連れられた、一人の少年の姿が、ミーサの瞳にうつった。それは、かつてオンネリネンに所属していた、家族のヨエルだったのだ。

●家族の声
「ヨエル、あなた、どうして……?」
 ミーサがヨエルへと語りかける。ミーサは、部隊はイレギュラーズ達と交戦し、全滅したと聞かされていたからだ。ヨエルはなるべく温和な笑みを浮かべて、答えた。
「今は、その。おとうさんの所でお世話になっていて」
「新しいファーザーって事?」
「ちがう! そうじゃなくて、ほんとうに、おとうさんっていうか」
 若干しどろもどろになるヨエルの背中を、稔が叩いた。
「恐るな、素直に言えば良い。お前はもう操り糸に繋がれた木偶ではないのだから」
 ぶっきらぼうに、しかし確かな温かさを以って告げられた、稔の言葉。それにヨエルは頷いて、
「とにかく……ぼくはいま、おとうさんの領地に住んでいて。とにかく、そこで少し暮らしていて、思ったんだ。家族には死んでほしくない」
 ミーサがうつむいた。
「だから、助けて欲しいってお願いしたんだ。此処に派遣されてきたのは、ぼくたちオイリの隊と、クスティの隊と、ミーサの隊……クスティたちは、その、残念だったけれど。でも、ミーサたちは助けたかったんだ」
 思っていたことだけを吐き出して、ヨエルは沈黙した。理路整然とはしていなかったけれど、ただ助けたいという気持だけは、ミーサにも伝わっていた。家族の一人の言葉なのだ、染み入らないはずがない。
「……もしも、俺達を……ラサとイレギュラーズを信用できないなら、それでもいい」
 稔が言った。
「ただ、この坊主の気持ちを汲んでやってくれ。いま、この場だけは。ホルスの子供達……連中を倒すまでは。どうか、信じて欲しい」
 ミーサは、少しだけ、考えるそぶりを見せた。今もなお、仲間達が戦う剣戟の音が、辺りに響いていた。ミーサは頷くと、
「わかりました。今は、あなた達のいう事を聞きます」
 その言葉に、稔は少しだけ、安堵の息を吐いた。
「よし……このまま俺達から離れないでくれ。南に俺達の馬車がある。南の敵を散らしつつ、そこへ向かう」
 ミーサが頷いて、仲間たちに指示を出す。その様子を見ながら、ヨエルは稔へ微笑みかけた。
「ありがとう、おとうさんたち」
「馬鹿者。ここからが本番だ。それと」
 稔はそう言って、顔をそむけた。
「おとうさんはやめろ、と言っているだろう、坊主」
 ヨエルはその言葉に、屈託のない笑顔を浮かべた。

●脱出とせん滅と
「よし……説得は成功したようだな」
 胸をなでおろすのはアーマデル。部隊の全員を助けることはできなかったが、それでも六名もの命を救う事は出来るのだ。アーマデルの視線に、
「えっと……なにか?」
 ニコが声をあげる。アーマデルは頷いた。
「いや……お前達オンネリネンとは……クスティの部隊と縁があってな」
 どこか、胸の痛みを感じる。それを隠すように、アーマデルは頷いた。
「お前達は生きろ。そしてどうか、お前達みたいな子供を助けるため、力を貸してくれると嬉しい」
 そう言って、アーマデルは、ふ、と苦笑をした。
「まぁ、それはここを脱出してからだ。行こう」
「は、はい!」
「さて、生きてここを出よう?」
 アルヴァが南方の敵を向きながら、告げた。
「このまま南に突破するよ……白夜さん、回復支援、引き続きよろしくお願いします!」
「了解だよ。みんな、ここを切り抜けて……一緒に、皆の家族たちも迎えにいこう」
 そう言って、少しだけ微笑んで見せる希。希は絶えることなく、癒しの歌を歌い続ける。その旋律が、やがて記憶から消えようとも、彼らの傷を癒し続けた。

 子供たちを伴うイレギュラーズ達が南進するのを見届けつつ、戦場に残ったアルテミアらは刃を振るい続ける。
「よし……今のところは予定通り。後は、私達の頑張りね」
 こちらを狙うホルスの子供達の刃を、アルテミアは青い短剣で受け流した。その隙をつき、振るわれた細剣が、ホルスの子供達の肉体を切り裂く。
「っ……」
 偽りとは言え子供の姿。良い気持ちはしない。アルテミアはそれを飲み込んで、再度細剣を突き出し、胸を貫く。活動限界を迎えたそれが、泥のような物体に溶けていく。
「ちっ、本当にバケモノだな!」
 エレンシアの槍が一閃する。くずおれた泥人形を刹那、見やりつつ、
「これで北側は全滅か?」
「ええ、このまま子供たちの後ろを狙う泥人形たちを討ちましょう?」
 応、とエレンシアが頷いた。東側、西側に布陣していた泥人形たちは、今や撤退を始めた子供たちを後背から狙う部隊へと変貌を遂げている。
「ハッ! 後ろががらあきだな! アンタとあたしで、後ろから殴りつけてやろうぜ!」
「ええ。でももう少し、瀟洒にね?」
 くすり、と笑うと、アルテミアはエレンシアと共に、敵の後背へと突撃した。

 一方、撤退する子供たちのしんがりを務めていたのは、フルールとアッシュの二人だ。
「あぁ、あぁ。死者の軍勢、呼び続ける限り滅びのない魂亡き傀儡の子供。かわいそうに、かわいそうに」
 歌うようにそう呟きながら、その紅蓮の爪を振るう。超長距離をかける爪が、後方に位置していた魔術師タイプの泥人形を土へと返した。
「あなた達が、生者を追ってはいけない……あなた達にはその権利も資格もないのです」
 放たれたアッシュの雷が、前衛剣士を激しく打ち据えた。ばぢん、と泥が焼けて土になる匂いをあげながら、しかし剣士は迫りくる。
「……あなた達が、真に子供達であったなら……その無念を晴らす手伝いはしましょう。でも、あなた達は、そうではないのです。あなた達は、ただ人の姿を真似た人形でしかないのですから――」
 振るわれる刃をアッシュは回避した。わずかに掠めた刃が、その腕を裂いて、少しの血を流す。
 再度振るわれる泥人形の刃――横合いから斬りつけ、その泥人形を斬り飛ばしたのは、フルールの紅蓮の爪。
「哀れな子供達。死者を辱める行いは、おしまいよ」
 フルールが歌う。ちょうどそのタイミングで、追いついた二人の仲間が敵の後背から攻撃を仕掛けるのが見えた。
「あぁ、舞台は終幕へと近づきつつあるのね。喜劇。あるいは悲劇。それを終わらせましょう」
「ええ。どんな舞台でも、最後は笑って閉幕としましょう」
 フルールとアッシュは奮起の言葉をあげると、その力を存分に発揮する。

 後方にて、敵が次々と倒れていくのを自覚している。仲間達の激しい戦いの音が、此方にまで聞こえてくる。
『俺達は傷ついてもいい……子供達だけは守るぞ、希君!』
 虚が声をあげ、号令を放つ。
「……わかった! 此処に在る命は、必ず……っ」
 希は合わせて、のどが張り裂けんばかりに癒しの歌を歌い続いける。
 一気に体勢を立て直した仲間達が、南方に残っていた敵と激突した。
「ここには未来があるんだ! 邪魔するなっ!」
 火炎の扇が、アルヴァの手の中に生まれる。それを一息に振り払った。轟、と焔が巻き起こり、前面に立つ泥人形をチリチリと焼く。
「足を止めて……ッ!」
 続くアーマデルの連続攻撃が、泥人形の足を止めた。間髪を入れず、トドメの銃撃をおみました。泥人形を貫く銃弾が呪殺の力を爆発させ、うちより侵蝕、その活動を停止させる。
「今だ! 突破するぞ!」
 アーマデルの号令に従って、一同は走った。やがて視界の先に、希の持ち込んでいた馬車が待機しているのが見える。
「ヨエル殿、ミーサ殿、皆を乗せてやってくれ……皆、早く! ここは危険だ。脱出を優先したい」
 アーマデルの言葉に、仲間達は頷く。
「さ、もう大丈夫だ……しんがりの四人は?」
 アルヴァの言葉に応じたみたいに、後方から四人が此方へかけてくるのが見えた。
「皆さん、急いでください! この子達を離脱させましょう!」
 アルヴァが叫ぶ。すぐに四人が合流し、一同は馬車に飛び込む。
「お願いね……いくよ!」
 希がロバに命じて、馬車が機敏に動きだした。泥人形たちの気配が遠くなっていく。一同は、安堵の息を漏らした。
「よし……何とか、安全地帯に抜けましたね……」
 アルヴァが声をあげるのへ、仲間達は頷いた。
「これで安心だ。この後は……君たちはどうする?」
 アーマデルが声をあげる。
「俺の領地でも……君たちをかくまう事は可能だ。だから、もし行き先が思いつかなくても、不安にならなくていい」
「あ、ありがとう……」
 憔悴しきった様子ながら、子供達は心からの謝意を告げていた。
 そんな子供たちの様子を見ながら、ヨエルは胸をなでおろしていた。
「坊主。今日はよくやった。褒めてやる」
 そういって、少しぶっきらぼうに、稔はヨエルの頭を撫でた。
 それが嬉しかったので、ヨエルは目を細めた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のご活躍により、子供達は皆救出された模様です。
 救出された子供たちは、ひとまずラサに保護されたり、或いは皆さんに保護されたり……と言ったことになるでしょう。

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