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シナリオ詳細

墓掘りフェリス。或いは、死体漁りの災難…。

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●墓堀り人の災難
 鉄帝国のとある渓谷。
 雪に埋もれたその墓地は、遙かな昔に忘れ去られて幾久しく。
 墓荒らしさえも訪れぬほどに過酷な土地で、ひっそりと朽ちていくのを待っていた。
 けれど、その日……。
 たった1人の少女がそこに迷い込んだその結果、静寂はまるで氷のように砕けて散った。

 小さな身体に纏う衣服はつぎはぎだらけ。
 適当に切りそろえられた砂色の髪は瞳を覆い隠すほどに長い。
 頭頂部には大きく幅広い三角形の獣の耳。
 それは猫に似ているだろうか。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
 壊れたレコードか何かのように、少女は「なんで」と繰り返す。
 雪に埋もれた墓地の中央。
 納骨堂と併設された管理人小屋の真ん中で、頭を抱えて少女はうずくまっていた。
 足下に置かれているのは、少女が持つには不似合いなほどに大きなスコップ。
 そして、大きな棺桶だ。
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。なんでなんでなんでなんで、こんなことに、なるのよぅ……? ばらばらにしなきゃ止まらないなんて聞いてないよぅ」
 大きな耳を忙しなく左右へ動かしながら、少女は嘆く。
 彼女の名はフェリス・マルガリータ。
 またの名を“墓堀りフェリス”という。
 つまるところ、彼女の職業とは墓泥棒だ。
 誰かの墓を掘り起こし、金目の物を回収し、それを売って生きてきた。
 時には誰かの身体の部品を、切って持ち帰ることもある。
 墓泥棒は生きるため。
 死体盗掘は彼女の趣味だ。
 集めた死体の部品を繋ぎ、好みの“誰か”を完成させる。
 それがフェリスの夢なのだった。

 けれど、しかし……。
「死体の仲間入りはいやぁ……」
 震える声で、フェリスは告げる。
 それっきり、頭を抱えてうずくまる。
 朽ちかけた壁の向こうから聞こえてくる足音と、そして苦悶の声を聞きたくないからだ。
 そんなことをしたところで、事態が好転するはずもなく。
 いずれは壁を突破して、小屋に集う死体の群れが彼女に襲いかかるだろう。
 つまるところ、これはまさしく絶体絶命。
「どうしてぇ。どうして、ここのゾンビたちってば、こんなに活きがいいのよぉう」
 ドカドカと、壁を殴る音が響いた。
 猛る死人の唸り声が木霊する。
「もぅ、いや……しばらく、おやすみ」
 なんて、最後にそれだけ呟いて。
 命の危機に直面し、フェリスは身体と思考を硬直させる。
 それは、少しでも体力を温存するため。
 小屋の壁が壊れたその時、最後の抵抗に全力を尽くすための選択だった。

●それは不滅の死人軍団
「ミイラ取りがミイラ……というか、死体掘りが死体の仲間入りをする前に彼女を救出してやってくれ」
 そう呟いた『黒猫の』ショウ(p3n000005)は、どこか呆れた顔をしていた。
 重たいため息をひとつ零して、彼はさらに言葉を続ける。
「ただでさえ寒い時期に、雪の積もった渓谷になぞ誰も行きたくないだろう? そう思っていたのだが、世の中には物好きがいるようだ」
 そういえばユリーカも寒中水泳などしていたのだったか……なんてことを呟いて、彼はため息をもう一つ。
「彼女……フェリス・マルガリータが忘れ去られた墓地に足を踏み入れたことが、このトラブルの原因だ。眠っていた死者を起こしてしまったというわけだな」
 墓を掘る手間が省けたではないか、なんて。
 皮肉気に口角を吊り上げショウは言う。
 それから小さな咳払い。
「さて、話を戻そう。今回の任務の内容はフェリスの救助となる。ゾンビたちの蠢く墓場を突破し、中央の管理小屋へ向かってくれ」
 墓の広さは半径200メートルほど。
 雪が積もっているせいで、足場は非常に不安定だ。
 何しろ雪の下には大小様々な墓石が埋もれているのだから。
 ところによっては、ゾンビが埋まっていた穴も空いているだろう。
「風も強く、吹雪いている。飛行での移動も可能だろうが、思うようには飛び回れないかも知れないな」
 総じて、問題の多い戦場である。
 加えて、小屋に群がる20体のゾンビのほか、今だ地中に埋もれたままのゾンビも存在するだろう。
 雪が積もりやすく、そして溶けづらいという環境のせいか、ゾンビたちの保存状態は良好だ。
 生きた人間ほどではないが、それなりの速度で駆けたり跳ねたりすることが出来る。
「まぁ、さほどに力は無いようだが。数が多いというのは、それだけで十分脅威たり得る。加えて【氷漬】や【懊悩】【不吉】といった状態異常の付与もあるからな」
 塵も積もればなんとやら。
 1体1体は弱いゾンビも、集まれば一端の脅威となる。
 今回、出現したゾンビたちが何かの拍子に町にでも彷徨い出てしまえば、それなりの数の死傷者が出ることになるだろう。
「それと、1点気を付けてほしいのだが……ここのゾンビは、なかなかにしぶといようだ。具体的に言うのなら、死体を焼き尽くすか、微塵に砕くなどしなければ動き続ける」
 ヴィーザルの過酷な土地で発生したゾンビだ。
 過酷な環境でも生き延びる術を自然と身に付けたのだろう。
 死体だが……。
「だが、何も手が無いわけじゃない。ダメージにはめっぽう強い反面、癒やしの力に弱いことが判明している」
 本来であれば体力を回復させ、傷を癒やすといったスキルが、ここのゾンビたちにとっては大きなダメージソースとして機能するということだ。
 ともすると、中途半端に破損させて敵の数を増やすより、癒やしてしまう方が殲滅もたやすいかもしれない。
「まぁ、その辺りは向かうメンバー次第だろうな。お前さんらなら、上手くやってくれると信じているよ」
 それじゃあ、よろしく。
 なんて言って、ショウは素早く踵を返した。
 寒い季節だ。
 冷気を嫌って、暖炉の前にでも移動するつもりなのかもしれない。

GMコメント

●ミッション
フェリス・マルガリータの救出と、ゾンビたちの殲滅


●ターゲット
・フェリス・マルガリータ×1
スナネコの特徴を備えた獣種の少女。
ボロ布を繋ぎ合わせたような服。
砂色の髪。
痩せた体躯。
スコップと棺桶を携えた少女。
墓泥棒を生業としている。また、趣味として気に入った死体の部品を収集することも。

現在、雪に埋もれた墓場の真ん中、管理人小屋の中で休眠中。
半狂乱状態にある。

墓掘りフェリス:物至ラに小~大ダメージ
 がむしゃらにスコップを振り回す。攻撃がヒットする度にテンションが上がり与ダメージも上昇する。


・ゾンビ(魔物)×20~
保存状態の良い動く死体。生前の容貌が見て取れる。
雪が溶ける事の無い渓谷という過酷な土地に埋葬されていたからだろう。ダメージにはめっぽう強く、バラバラにしない限りは動き続ける。
反面、回復スキルにより大ダメージを受ける。具体的に言うと、浄化されて天に召される。
また、走るし跳ねる。活き活きとした死体。
フェリスの侵入によって目を覚ました。
近づかなければ起きてこないため、フェリスが通っていない区画のゾンビは今だ土の中。

冷たい手:物至単に中ダメージ、氷漬
冷たい手。雪の下に埋葬されていたので、当然と言えば当然。

凍えた吐息:神近範に小ダメージ、懊悩、不吉
氷のように冷たい吐息。ヴィーザルは寒く、過酷な土地です。


●フィールド
渓谷の墓場。
雪に埋もれていて、一見すると雪原のようにも見える。
範囲としては半径200メートルほど。
中心部には納骨堂と管理人小屋がある。
吹雪いているため風が強く、見通しも悪い。
雪の下には墓石や、死体の埋まっていた穴が空いているため歩きづらい。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 墓掘りフェリス。或いは、死体漁りの災難…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月21日 22時01分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ジェイク・夜乃(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
水瀬 冬佳(p3p006383)
水天の巫女
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
バーデス・L・ロンディ(p3p008981)
忘却の神獣
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
レべリオ(p3p009385)
特異運命座標

リプレイ

●雪に埋もれたその墓地に
 鉄帝国のとある渓谷。
 吹雪の中に都合20の蠢く人影。
 血の気が失せ、ドス黒く変色した身体。虚ろな眼窩に、半ばほど開いたままの口腔。
 漏れる声は、怨嗟の呻きか、亡者の嘆きか。
 死人の行軍。向かう先には粗末な小屋。
 冷たい風に煽られて、傷んだ家屋がギぃと軋んだ音を鳴らした。

 亡者の群がる小屋の中には、粗末な衣服を纏った1人の少女が転がっていた。
 猫に似た耳に砂色の髪。
 傍らに置かれた棺桶に背を預け、スコップを抱きしめ目を閉じている。
 彼女の名はフェリス。
 墓泥棒を生業とする少女であった。

「こんな寒いところにわざわざ来るはめになるとはね。フェリスだったかな、彼女も凍傷になっていなければいいが……」
 ずれた仮面を押し上げながら『特異運命座標』レべリオ(p3p009385)はそう呟いた。
 仮面の奥の金の瞳を僅かに細め、レベリオは墓地全体を睥睨する。
 彼の瞳は厚さ1メートルまでの物質を【透視】することが出来るのだ。
「待った。少し進路を右へ。迂回した方がいい……数歩先に、中身の抜けた墓穴がある」
 そうしてレベリオは、先行して進む『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)に以上のような指示を出す。
「了解。それにしても視界が悪いな。ここは天候に恵まれない地とはいえ、よくもこんな日に遭難してくれたね……」
 どこか陰鬱とした表情で、セレマはそう呟いた。
 幽かな足取りで、セレマは雪を踏み分け進む。その足跡を追うように『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)が進行。
 雪を蹴散らし、後続のための道を作る。
「まだ地面の下にゾンビが埋まっているかもしれないんだから……ヴァリューシャ、気を付けるんだよ!」
「ありがとう、マリィ。貴女も気をつけてね?」
 ヴァレーリヤに追いついた『白虎護』マリア・レイシス(p3p006685)が注意を促す。元軍人の性だろうか。まっすぐに前だけ見据えて進むヴァレーリヤとは対照的に、マリアは左右への警戒を怠ってはいないようだった。
「大丈夫デス。ワタシが警戒、してマスから。そうカンタンに不意打ちはされマセン」
 不安げなマリアに笑いかけるは、赤子を抱えた獣頭人体。
 名を『忘却の神獣』バーデス・L・ロンディ(p3p008981)という年齢、性別ともに不明な獣種の戦士だ。
 事実、現在一行が進んでいるルートは、フェリスが辿ったそれと同じだ。つまり、進行方向に眠っていたはずのゾンビたちは、フェリスのおかげでそのほとんどが活性化しているということである。
 小屋に群がる20体ほどの死体が、まさにそれだ。
「墓場がまるまる不死者の巣窟になっているとは……そこに踏み込んでしまったというのは、不運というべきかなんというか」
 吹雪に踊る黒い髪を押さえつけ『転輪禊祓』水瀬 冬佳(p3p006383)はそう呟いた。
 視線の先には無数のゾンビ。
 風の音に紛れ、その呻き声が冬佳の耳朶を震わせた。
 接敵まで、あと数十メートル。
 戦闘開始に備え、冬佳はそっと腕を掲げた。
 瞬間……とろり、と彼女の手から水が零れた。透明に透き通った水だ。それは、まるで意思を持っているかの如くうねり、曲がり、1本の刀を形成した。
「参りましょう」
 と、告げる冬佳に頷きを返し、オウェード=ランドマスター(p3p009184)は仲間たちの盾となるべく、前線へと足を踏み出した。

 白い革靴が雪を踏む。
 サクリ、と鳴ったその音に、数体のゾンビが振り向いた。
 咥えた煙草が赤熱し、ゆらりと燻る紫煙を払い、頭の横に揃えた二丁の拳銃の撃鉄が引き上げられた。
「死者の怒りを買ったってやつかい? フェリスの自業自得ってやつだぜ」
 呆れたようにそう告げて『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)が銃口をゆっくりゾンビの額へと向ける。
 引き金にかかる無骨な指に力がこもった。
 鋼の鎚が振り下ろされて、薬莢の底を強く打つ。
 火薬の爆ぜる音が響いた。
 その銃声は、すべてのゾンビを引き寄せる。
 けれど、しかし……。
「ガハハ!! 守りはワシに任せ、お前さんらは己の成すべきことを成せ!!」
 全身鎧に身を包んだ大柄な戦士がその身を盾とし、ゾンビの進行を食い止めた。
 オウェード=ランドマスター(p3p009184)。両手の戦斧を武器とする、豪放磊落なる大男は、雪に脚を埋めながら呵々大笑を上げたのだった。

●生者の狂騒、亡者の行軍
 鋼の驟雨が降り注ぎ、ゾンビの身体に無数の風穴を開けていく。
 斜め上空へ向けたジェイクの発砲。ばら撒かれた弾丸は、空中で弾け、強く速く破片を地上へとばら撒いた。
「寝た子を起こすような真似をしやがって。怖くて震えているなら、墓荒らしなんぜやめちまえばいいんだよ」
 降り注ぐ弾雨の中を、1羽の小鳥が飛んでいく。
 ジェイクのスキルによって生み出されたものだ。偵察のためか、仲間たちに先行し小鳥は小屋の中へと侵入。
 その目で見た光景をジェイクへと伝えた。
「小屋の真ん中で寝てやがる。おい、誰か急いで助けてやんな!」
 ジェイクの伝言を受け、仲間たちが動き出す。
 それぞれが、己の成すべきことを成すため、ゾンビの群れのただ中へ。

 向かって来るゾンビの爪が、セレマの首を深く抉った。
 飛び散った鮮血が、白い頬を朱に濡らす。
 微笑みを浮かべたまま、セレマはゆっくりとその場に膝を突き……。
「っと……この程度では倒れられないな。彼女を助けるまでは、王子様を頑張らないとね」
 噴き出す血を手で押さえ、そう呟いた。
 その手の下では肉が蠢き、負った傷が塞がっていく。
 魔性との契約により肉体を常に再定義し、最良の状態を維持し続ける。セレマが魔性との契約により得たその力は、倒れることを、傷つくことを許しはしない。
 引き裂かれた腕の肉が、じくじくと塞がっていく。
 食いちぎられた肩の傷はもう塞がった。
 血に濡れてなお、セレマの身体は“最も美しい状態”へと復元する。
 貧弱な身体だ。
 吹けば飛ぶ程度の体力しかない。
 だが、しかし……それでもセレマは倒れない。
「肖像の悪魔・オフラハティ……悲哀の子・スウィンバーン……彼らに安寧を与えてやろう」
 宣誓と共に吹き荒れるは、淡い燐光を孕んだ癒しの美風。
 降り注ぐ光がゾンビに触れれば、端からその身を焼き、崩す。
 この地に住まう亡者たちにとって、それは何より“毒”なのだ。
 腐った脳では思考することもままならない。
 けれど、本能がセレマの光を嫌悪したのか、ゾンビたちはじわりじわりと後退を始めた。
 その隙を突き、駆けだしたのは冬佳であった。
「不浄なる者よ、我が神水を以て洗い浄め祓い鎮めましょう」
 氷の剣を一閃させれば、振りまかれるのは水の雫だ。
 白き光を纏った水滴は、さながら舞い散る雪の花。
 至近のゾンビの喉元を、刀の切っ先で貫き倒して冬佳は走る。
 ゾンビの群れは、小屋の前に集まっていた。フェリスの元へ彼女が辿り着くまでに、いましばらくの時間がかかることは明確。
「フェリスさんですね。助けに参りました――どうかそのまま小屋の中でお待ちください」
 眠っているというフェリスの耳にその声は果たして届いただろうか。
 否、届いていなくとも構わない。
 彼女の言葉は、単なる決意の表明だ。
 恐怖に震える1人の少女を救うべく、眼前に迫るゾンビを斬り捨てる。
 その繰り返し。
 淡々と。
 流れるように、動きを止めず。
 踊る刃が、腐った肉を断ち切った。

「ここは俺たちで引き受けよう。さっさとフェリスを連れ帰って、暖かいミルクでも飲もうじゃないか」
 ゾンビの一部を引きつけながら、レベリオは小屋から距離を取る。
 ナイフを一閃。
 迫るゾンビの腕を切り裂き、蹴り飛ばす。
 切断されたゾンビの腕は、地面を這って身体の元へと帰っていこうと藻掻いていた。その様を見て、レベリオは仮面の奥の瞳を細める。
「まずいな……少しずつだが、墓穴からゾンビが起きてきている」
 【透視】した雪の下では、たった今、1体のゾンビが墓石を押しのけ立ったところだ。
 そう長い時間を必要とせず、それは雪上へ現れるだろう。
 一瞬、地中のゾンビにレベリオの意識が向いたその瞬間……。
 背後に迫る1体が、地面を蹴って跳躍した。
 この地のゾンビは、死体の割にアクティブなのだ。大上段より振り下ろされる腐った腕が、レベリオの背を強打する。
 衝撃は肉を貫き内臓へ届いた。
 息の詰まったレベリオは、勢いに押され地面に倒れる。見ればその背を中心に、レベリオの身体を白い氷が覆い隠していくではないか。
 動きの鈍ったレベリオの元へ、さらに数体のゾンビが群がり、その腕や脚に黄ばんだ歯列を突き立てた。
 呻くリベリオを援護するべく、ジェイクはそちらへ銃口を向ける。 
 だが、彼が銃の引き金を引くより速く、前に進んだ者がいた。
「ガハハ! 活きがいい死体どもではないか!!」
 重量と巨体にものを言わせた突進により、オウェードは数体のゾンビを弾き飛ばす。
 振るわれる腕が鎧を打った。
 よろけながらも、オウェードは斧を振るってその腕を落とす。
 鎧に覆われていない彼の顔面を、ゾンビの手が覆った。
 蓄えた豊かな髭が凍り付く。
 霜に覆われた顔面を、オウェードは無理矢理に笑みの形へ動かした。
 皮膚が割れ、血が滴る。
 流れる血は、即座に凍ってパラパラと散った。
 ゾンビの群れのただ中で、殴打を浴びつつ斧を振るうその姿たるや威風堂々。 
 血に濡れ、傷つき、けれど負けを良しとはしない戦士の姿がそこにある。
「ここまで行動できるのにその程度の攻撃で音を上げたかッ! 笑ってやれッ!」
 オウェードの斧で解体されたゾンビが1体、力を失い動きを止めた。
 呵々と笑うその口からは血の雫が伝っている。
「その通りだぜ、オウェード。まったく、難しいことなんざ、何一つありゃしねえのさ。死なねえなら、死ぬまで弾丸をブチ込むまでだ」
 己の放つ銃声に、掻き消されぬよう声を張り上げジェイクが応えた。
 白いスーツを血に濡らし、灰の髪を振り乱し、獣のごとく咆哮するのだ。

 なぜ?
 どうして?
 こんなはずじゃなかったのに。
 死体を掘って、それで終わりのはずだったのに。
 夢と現の境界で、フェリスは自身の不幸を嘆いた。
 嘆いて、嘆いて、けれどそれでは何も解決しないのだ。
 生まれた時からそうだった。
 きっと死ぬまでそうなのだ。
 誰もワタシを助けてくれない。
 ワタシの声は誰の耳にも届かない。
 手を差し伸べてくれる者など、きっとこの世の何処にもいない。
 あぁ、だからワタシは理想の友達が欲しい。
 物を言わぬ美しい彼女。
 頭と身体、右腕は得た。
「待っててね。待っていてね。すぐだから。すぐに、すぐに、すぐにすぐにすぐにすぐに」
 囁くような声音で彼女は繰り返す。
「すぐにここから、出ていこう」
 結局のところ、最後に頼れるのは自分だけ。
 起き上がり、棺桶に括った紐を体に結び、スコップをしかと握りしめ。
 小屋の扉が、ギィと開いたその瞬間……。
「退いて! 退いて退いて退いて退いて……ワタシの邪魔をしないでよぅ!!」
 扉を潜った人影へ向け、フェリスはスコップを振り下ろす。

 フェリスの振るうスコップを、ヴァレーリヤのメイスが止めた。
 金属のぶつかる音が響いて、火花が飛び散る。
 不意の一撃は受け止めた。
 けれど、フェリスは止まらない。
 がむしゃらに、けれど明確な殺意を籠めて彼女はスコップを振り回した。
「お、落ち着くんだフェリス君!!」
「逃がして逃がして逃がして逃がして、逃がしてよぅ!!」
 マリアの声も、フェリスの耳には届かない。
 戦闘音に引き寄せられてか、数体のゾンビがフェリスの元へと跳躍した。迫るゾンビの虚ろな瞳が、フェリスをますます恐慌させる。
「駄目デスネ。こちらの声が聞こえてイマセン」
 鋭い爪の生えた腕を一閃させて、バーデスはゾンビを受け止めた。
 ゾンビの手から伝う冷気が、バーデスの手を白く凍らす。痛みに顔を顰めつつ、バーデスはゾンビの胴に【衝術】を撃ち込み、その身を遠くへ弾き飛ばした。
 その間にも、押し寄せるゾンビの拳がバーデスの頬や腹部を殴打する。
 フェリスとヴァレーリヤを庇いながらの戦闘。加えて足場の悪さがバーデスの調子を狂わせた。
「きゃっ!!」
 フェリスの猛攻を受け止め損ねたヴァレーリヤが悲鳴を上げて転倒。倒れた彼女の頭上を越えて、フェリスは跳んだ。
「う……グッ!?」
 跳躍の勢いを乗せた一撃が、バーデスの頭部を殴打する。
 一瞬、意識が飛んだその隙を突き、無数のゾンビがバーデスに群がり、喰らい付く。

 ゾンビの群れを蹴散らしながら、フェリスはどこかへ逃げていく。
「マリィ、ここは私達が食い止めますわ! だから先にフェリスのところへ!」
 ヴァレーリヤの言葉を受けて、マリアは地面を蹴飛ばした。
 ゾンビの群れを突き抜けていく赤雷を見送り、ヴァレーリヤはメイスを高く振りかぶる。
「焼き尽くしてさしあげますわ!」
 ヴァレーリヤの唱える聖句を背に聞きながら、マリアはまっすぐ前へと進む。
 進路を阻むゾンビの群れへ、頭から突っ込んでいく。
 ゾンビたちが腕を伸ばした。
 その手が、マリアの頬に触れる。
 問題ない。
「どっせぇぇぇぇえい!!」
 怒号と共に、マリアの背後で熱波が渦巻く。それまるで、地上に落ちた太陽のごとく。
 雪を溶かし、ゾンビを焼いて、マリアの進路を火炎の柱が飲み込んだ。
 そうして出来た火炎の道のその先に、小さなフェリスの背中が見える。
 助けを求め、逃げる彼女の背を追って、マリアはさらに速度をあげた。

 火炎の壁を突き破り、マリアに向けてゾンビが跳んだ。
 けれどそれは、冬佳の刀により切り伏せられる。
「どうぞお先に」
「うん。ありがとう」
 礼を告げ、駆けた。
 剥き出しになった地面を蹴って、前へ。
 そうしてマリアは、ついにフェリスの元へ追いつく。
「あぁぁ、また来た。また来た、来た……来ないでよぅ!」
 振り向きざまにスイングされたスコップを、身を低くして回避する。
 はらり、と切られた赤い髪が宙に舞う。
「落ち着くんだ、フェリス君!」
 地面に着いた手を軸に、マリアは身体を旋回させる。
 湿った土砂を散らしながら、マリアの蹴りは下から上へ。
 フェリスの手にしたスコップを、紫電を纏った蹴りが撃ち抜き、へし折った。
 くるくると宙に舞うスコップ。
 マリアは立ち上がり、フェリスへ向けて手を伸ばす。
 そして、その頭部をしっかりと両手で掴み、彼女の瞳を覗き込んだ。
「しっかりしたまえ!!」
「え……あ、ぅ?」
「私たちは味方だよ。君はもう、大丈夫なんだ」
「だ……大丈夫? 大丈夫、なのぅ?」
「あぁ、大丈夫」
 よく頑張ったね。
 そう言って、マリアはフェリスを抱きしめた。
 
●君よ、安らかに眠れ
「人の趣味にとやかく言う資格はねえが、震えて小便ちびるぐらいなら、死体漁りなんてやめろ! お前のやっていることは死者への冒涜であり、ただの犯罪だ」
 マリアに背負われたフェリスへ向けて、ジェイクは怒鳴った。
 ジェイクの背には意識を失ったバーデスの姿。バーデスの連れた赤子は、ジェイクが代わりに抱いていた。
 びくり、と肩を震わせてフェリスは顔をうつ向かせる。
「だって、友達、欲しいし。死者に財産なんて、いらないよぅ」
 ジェイクの視線から隠れながらも、そう言い返してしまえる辺り、なかなかに強情な性格をしている。
「ワシも泥棒はあまり好まぬな」
 と、そう言ってオウェードはフェリスの枕サイズのクッションを押し付けた。白い体毛に黒いライン。虎……だろうか? 否、とらぁ君である。
 盾役を務めあげた結果か、オウェードは深い傷を負っていた。そんな彼に肩を貸しているレベリオもまた重症だ。全身に残った裂傷や打撲痕が痛々しい。
 けれど、激しい戦いもそろそろ終わりに近づいている。
 先行するセレマと冬佳が、残ったゾンビを次々と浄化しているのだ。
 そうして、遂に墓場は静寂を取り戻す。
「眠りを妨げてしまってごめんなさいね。どうか今度こそ、お休みなさい……」
 吹雪の中に浮かぶ墓石のシルエット。
 それはきっと、すぐにまた雪の下に埋もれるだろう。
 この墓地には、果たしてどれだけの死者が眠っているのか。
 せめて、今度は安らかに、永久に眠っていられるように。
 そんな想いをこめた祈りを、ヴァレーリヤは静かに捧げた。

成否

成功

MVP

セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年

状態異常

オウェード=ランドマスター(p3p009184)[重傷]
黒鉄守護
レべリオ(p3p009385)[重傷]
特異運命座標

あとがき

お疲れさまでした。
フェリスは無事に救出されました。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
お楽しみいただけましたでしょうか。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

今回の一件で、フェリスが死体漁りに懲りたかどうかはまた別のお話。

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