PandoraPartyProject

シナリオ詳細

あの子が欲しい

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 ルーミリアという大女優の名を聞いたことがあるだろうか。
 彼女は齢10にして演技の素質を見出され、鉄帝貴族の出自でありながら劇団へ所属し、混沌中を渡り歩いてその演技を披露し続けた。
 時には甘い恋に溺れる少女を。
 時には狂い咲く悪女を。
 時には主人公へ道を指し示す老婆を。
 彼女が成長し、齢20にもなる頃にはその美貌を湛える言葉が『愛らしい』から『美しい』へと変わる。それでもルーミリアという女優に夢を見せられた者は後を絶たなかった。

 ――それも、数日前までの話だ。

 新聞には大々的に『大女優ルーミリア死去』の文字が踊り、晩年は病気の体で活動を続けていたことを知らせる。ゴシップには彼女が名だたるスターになり、数々の有名な劇に出演したことを数ページかけて紹介していた。
 その一大生地に憂う者も、悲しむ者も――あるいは喜ぶ者も――誰もがルーミリアという女が『いた』と彼女の存在を過去のものとして扱おうとしていた。
 ただひとりを、除いては。
「信じられるかッ!!」
 新聞を床へ叩きつけた男は憤懣やるかたないと言った様子で椅子から立ち上がる。落ち着きなく部屋を歩き回った彼は壁一面に飾られたルーミリアの絵姿や写真、記事、出演した台本を眺めた。
 これは彼のコレクションだ。彼女が劇団に所属した初期からの追っかけであり、古参のファン。誰よりも最初に彼女へ目を留めた自負がある。彼女の享年は28だったから、約18年も彼女という存在を追いかけていたことになるのだ。
 そんな存在が、しかも男より年下の彼女が死んだなんて。このコレクションが今後増えることがないという事実を男は受け入れられなかった。
 頭では分かっていながら気持ちはどうしようもなく――男は秘密裏に、ローレットの情報屋を呼び寄せたのだった。



「ちょっと墓荒らししてほしいんだ」
 ちょっとお使いに行って欲しいんだ、みたいな軽さで『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズへ告げた。おかしいと思ったら安心していい、これは立派な悪事である。
「さるお方が大女優の死体を御所望でね。ああ、新聞は読んだかい? つい最近の一面を飾っていたね」
 つい最近死体になった――亡くなったと言えば、大女優と謳われていたルーミリアという女性だろう。ここ数年混沌で生活していた者ならば、たとえウォーカーであっても劇のポスターなどを目にしたことはあるかもしれない。綺麗な紅の髪をした女性だった。
「彼女は今、鉄帝の故郷で眠っているそうだ。土葬で棺桶ごと埋めたそうだから、もう骨になっているとかはないはずだよ。期間と時期を考えても、腐敗していない綺麗な姿だろうさ」
 まだね、とショウはイレギュラーズを見て小さく告げる。これから季節は少しずつ温かな時期へと移り行く。早めに動かなければ死体は腐り、土へ還ってしまうだろう。
「墓までの地図はこれを見て。ただ強力な墓守がいるらしいから、戦闘は免れないだろうね」
 地図を渡したショウはもう1枚、羊皮紙をイレギュラーズへと渡す。墓守に対する情報らしい。強力な者がいるのは鉄帝というお国柄か、それともそういった墓場を遺族が選んだのか。
「悪事だからね、君たちに悪名が囁かれることになるのは承知の上で受けてもらうよ。それと、ローレットとかイレギュラーズだってことは伏せておくように」
 関与しているとバレてしまったなら、助けてあげる事ができないからね。ショウはそう告げて目を細める。

 さあ、受けるべきか。受けざるべきか。

GMコメント

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『鉄帝』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●成功条件
 大女優ルーミリアの遺体を『綺麗な状態で』運び出す

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●エネミー
・墓守
 この墓地を任された者です。サモナーのブルーブラッドで、召喚獣を使役しながら自らも戦います。
 神秘適性が高く、命中精度からして当たれば非常に危険な攻撃を放ちます。機動力はそこまででもありませんが、どの距離の攻撃手段も持っています。

命令:召喚獣へ新たな命令を下します。【BS回復80】
連撃魔:魔法攻撃を広範囲に連発します。【体勢不利】
呪言:周囲へ呪いの言葉を撒きます。【猛毒】【苦鳴】【致命】

・召喚獣【大狼】
 墓守に使役された召喚獣です。ふわふわふさふさで人の背をも超えるような大きい狼です。基本的には墓守から新たな命令で上書きされない限り初めの命令を守ります。また、倒しても墓守により再召喚される可能性があります。
 非常に物理適性が高く、俊敏な動きをします。防御技術はそこまででもないようです。

噛み砕き:噛みちぎらんと襲い掛かります。【移】【出血】【追撃35】
打ち払い:尻尾で周囲にいる者を打ち払います。【飛】【変幻20】

●ロケーション
 墓場です。時間帯は相談の上決めてください。もし各プレイングで意見が割れた場合は望まない時間帯の展開になる可能性があります。
 墓石などは綺麗に掃除されています。一際綺麗で新しい墓石がルーミリアのものです。

 墓場からほど近い場所に、依頼者の用意した馬車があります。そこまで死体を運ぶ必要があります。運ぶ手段は一任されていますが、『綺麗な状態で』が条件です。

●ルーミリア
 鉄帝貴族の娘でしたが、才能を買われて劇団へ所属。恋愛ひとつすることなく生涯を演技へ捧げました。享年28、体の線は細い女性です。
 死体は棺桶に入れられており、綺麗な状態です。

●ご挨拶
 愁と申します。
 死体は確保された後、その道のスペシャリストによって防腐加工されるらしいです。危ない依頼なのでほんの少しばかり、特別手当が出るみたいです。
 それでは、ご縁がございましたらよろしくお願い致します。

  • あの子が欲しい完了
  • GM名
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ワルツ・アストリア(p3p000042)
†死を穿つ†
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
バルガル・ミフィスト(p3p007978)
シャドウウォーカー
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ


 月の差し込む、静かな夜に。それを破らんとする8つの影が蠢いていた。
「けっ、死体が欲しいとか悪趣味にもほどがあるぜ」
「まぁ、世の中には色んな変態がいるって……おっと、今のは内緒にしてくれよ」
 悪態をついた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)に『策士』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)が肩を竦め、それから失言だったと口元へ手を当てる。幸いにしてここには依頼主の手足たる従者たちは居ない。
(理解はしてるんだろ。ただ、全てを否定したいだけで)
 頭では分かっているのに心が受け入れられない――恐らくはそういった状態なのだろう。この依頼で彼女を手に入れ、落ち着くと言うのならばそれも良い。何よりも、依頼主が魔種へ転じないことを祈るのみである。
「美しい女性の死体ですかー。さぞかし美しい脚をしているんでしょうねー。最も、死んでから時間が経っているようですがー」
「でも、運ばれてから防腐処理をされてしまうのでしょう?」
 『不屈の恋』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)の言葉に『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)が首を傾げる。依頼書にはそう書かれており、酷く残念だと思ったものだ。折角奪ってきた骸が傷み、腐り――元の姿など見る影もなくなってしまったら。それを依頼主がどう扱うか見ものであったと言うのに。
 ……などと言葉にはしていないが、ライの口ぶりから伝わってしまったか。視線を向けるピリムに、しかしライはこの場にそぐわぬ穏やかな笑みを返した。
「シスターとして、死者の行方が気になるだけですよ」
「へえー。今回の参加もその理由で?」
「そのようなものです」
 さらりと嘘を混ぜ込んだライの言葉に『紅の弾丸』ワルツ・アストリア(p3p000042)はそっと目を伏せる。この場には色んな人間がいるのだと思いながら。
(結局、来てしまったわ)
 参加しようか、否か、随分迷った。気の乗る仕事では勿論なかったから。けれど、何だか見届けなければいけない気がして――だからワルツは今、ここにいる。
「あまり褒められた行為じゃないけれど、仕事は仕事だ」
「ええ。しっかりこなさないと、ですねぇ」
 『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は顔がバレぬよう口元に黒い布を巻き、『豪華客船の警備隊』バルガル・ミフィスト(p3p007978)も周囲を気にしながら進む。墓場へ向かう道に、しかもこんな夜更けに人の気配はない。木々に身を隠してはいるが、墓場までは何ら問題なく近づけそうだ。
「なあに、奪う事と逃げ足に関してならおれさまの右に出るやつはいねえよ」
「副葬品もあんのならいただいて有効活用してェなー」
 この手合いの依頼に慣れているグドルフと『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はニィと口端を吊り上げる。別に『死体を持ってこい』とは言われたが『その他を持ってくるな』とも言われていない。失敗してしまえば全てがパァだが、できるならば色々と頂いていきたいところだ。特にルーミリアの墓は新しく。自身らが墓荒らし第1号だろう。生前使用していた装飾品など、金目のものが残っていてもおかしくない。
「ぼちぼちか?」
「そうですね」
 各所で悪名広まることほぎはイグナートと同じように顔を隠す。ショウに言われたからではないが、今後の活動に差し障る事は控えたい。
 ほどなくして木々の向こうに墓場が見えてくる。入口に建っている小屋は墓守がいるのだろうか。これでは墓場内に潜んでの奇襲攻撃は難しいだろう。
 しかし、イレギュラーズとしてはそれでも構わない。あくまで奇襲攻撃というていを取るのが大切であり、はなから確実に奇襲できるとは思っていないのだから。
 イレギュラーズは各々木々の影などに身を潜ませ、墓守が出て来るのを待つ。ワルツは小屋の先にあるであろう亡きルーミリアの墓の方向へ視線を向けた。
 死した後に他人から体を弄られるなど、彼女はきっと思ってもいなかっただろう。それには嫌悪感を抱いてもおかしくないし、ワルツだったら絶対御免だ。けれど当事者ではないからこそワルツはこうも思う。

 ――依頼主はもう、後戻りもできないのだろう。

 長く想い続けてきた気持ちは生半可なものではなく、もしイレギュラーズたちがこの依頼に食いつかなくとも依頼主は彼女の体を手に入れるため奔走したはずだ。それこそ、どれだけ危ない組織と関わろうとも。
(それならば……)
 ワルツが視線を戻したところで、小屋の方から物音がした。どうやら墓守が出てきたらしい。一同はより気配を消して墓守の接近を待つ。
(……これが止め様の無い流れなら、私たちで)
 見回りにと出てきた墓守が墓場の入り口を、イレギュラーズたちの横を通ると同時――彼らは闇に乗じて躍りでた。

 ヒュン、と風を切る音がした。

「――っ!」
「おっと……ブルーブラッドの危機察知力は伊達じゃございませんねー」
 ピリムは素早い肉薄からの鋭い突きを躱されたことに、けれど動揺はない。この行動を『墓守が』曲解して受け止めれば良いのだ。
「墓参り……ではなさそうだな」
 剣呑に目を光らせた墓守が何かを握りしめると同時、傍らの空間が歪む。そこから這い出してきた大きな狼は、威嚇するように侵入者たちへ向かって唸り声を上げた。その直後に力強く跳躍してピリムへ牙を剥く。
「こっちが相手だぜ!」
 そこへ走り込んだグドルフは地を蹴り、自らの体重をかけて狼へ飛び蹴りをかました。その勢いに横転した狼は、しかしすぐさま立ち上がると低く唸る。そこへ墓石の影へ素早く移動したことほぎの放った意地悪な魔弾が飛来した。
「なあ墓守さんよ、知ってるぜ。有名人の墓があるんだろう? 金目のモンがたんまり棺の中に入れてあるに違いねえ! イイ服も着てるかもなあ」
 下卑た笑いを浮かべるグドルフに墓守も侵入者が賊であると勘付いたことだろう。その後押しをするようにグドルフは吠える。
「おい、てめえ、邪魔すんなら容赦しねえぞ!!」
「そちらこそお引き取り願おう。ここは死者が安らかに眠る場所だ!」
 墓守の持った魔導書が淡く光り、その頭上に無数の火球が発生する。それらを避け、或いは防具で受け止める仲間たちの間を縫ってイグナートは飛び込んだ。いつもならばここで敵を挑発するような言葉を発することも多いが、今日ばかりは自分と知られてはならない故に。
 無言で叩きつけられる掌打に墓守が息を詰める。その隙を見逃さぬイレギュラーズではない。バルガルは距離を詰め、槍へ纏わせた闇と呪いごと墓守へ向けて一閃する。手加減のない――言い換えれば余力を鑑みない戦い方は『彼女』あってこそ心置きなく使えるものだ。
「ほらがーんばれっ、がーんばれっ」
 クェーサーアナライズと天使の歌で仲間を鼓舞し、士気を上げるマニエラ。細かいことは弱いが戦闘ならば話は別だ。彼女の支援を受けながらワルツは悪意を刃として放つ。
「逃げないのなら……邪魔を続けるのなら。撃ち抜かせてもらうわ!」
 見えぬ刃が墓守を襲う――だが、傷の程度を目視で確認したイグナートは目を眇めた。
(それなりに防御もできるみたいだ)
 ならばその壁をものともせぬ戦法で打ち崩すのみ。構えるイグナートの耳に穏やかな声が忍び寄った。
「ええ、ええ、正しく勤めを果たしていらっしゃる……神も喜んでいるでしょう」
 ロザリオを手にしたライの平和に対しての祈りは大狼へ刺さる。しっかりと届くように、かの心(胸)を狙って。まるで、届くのならばこれこそが神の御心なのですと言わんばかりに。
 静かだった墓場は狼の怒号と、『賊』たちの剣戟の音と声と、墓守の詠唱で満たされる。途中までは大狼への命令が上書きされるたびに暴れまわり、周囲の古い墓石を破壊し、狼の注意を引いていたグドルフも暫くすると命令の上書きがされなくなったことに気付く。
(手間になったか? まあ、それならそれで構わねェさ)
 倒せるのならぶっ倒すのみ。コイツが仲間たちの元へ行きさえしなければ良いのだ。その巨躯に見合わぬほどの俊敏な動きで狼の牙を交わしたグドルフは不敵に笑った。それが癪に障ったか、狼は尻尾をしならせ打ち払わんとする。その余波に気付いたマニエラは素早く退くと、天使の歌で仲間たちを癒しにかかった。
 奇跡の残光を纏ったピリムはそれを置いていくほどに素早く地を蹴り、墓守の懐へ入る。
「どーせ死んでいるのだからここになくたって関係ねーじゃねーですかー。さあどいて下さいましー」
 痺れる程に素早く、音速を越える程の殺術が墓守を襲う。それに合わせてことほぎが監獄魔術を撃ち放ち、バルガルも暗殺闘技で畳みかける。
「ちっ……お前たちはロクな死に方をしなさそうだ」
「さて、それは神のお決めになることでしょう。勿論――あなたのことも」
 ライは標的を大狼から墓守へと変え、その魂を神の御許へ送らんとロザリオを掲げる。味方を癒したマニエラは冷めた視線で墓守を見た。
(邪魔しないでくれたら『私は』殺さなくても良かっただけど)
 まあ、それも無理な話かとマニエラは墓守を殺さんとする仲間を鼓舞する。他人に迷惑をかけないことは大事だが、それよりも依頼の成功は優先されるべきものであり、そして墓守の命は優先されるべきものではなかったというだけなのだ。
 大狼をも巻き込んで、ワルツの走らせた雷撃が墓守を捉える。そこへ肉薄したイグナートが開店を加えた掌打を食らわせるも――あと一息か。
 墓守が最期の最後、全てを一網打尽にせんと魔力を練り上げ広範囲に放つ。けれども小さな奇跡を起こす彼らを前にはあまりにも力不足で。
「私たちも、あなたと同じく、正しく勤めを果たしているだけですよ」

 だから――.44口径相当の魔力弾が当たってしまったのならば、それは神の御心なのです。



 墓は再び夜の静寂に包まれた。それは眠りを守る者ではなく、眠りを妨げる者たちの手によって。
「さ、掘り起こすとしようか」
 イグナートの言葉に一同は新しそうな墓石を手分けして調べ始める。明らかに古いと思われる墓石は容赦なく盾として使わせてもらったが、実際のところどれが目的の墓なのか。
「ああー……大狼はいなくなっちゃうんですねー……」
 そんな中、召喚者を殺害したことで狼が消えたことを残念がっているのはピリムである。願わくばあの足が欲しかったのだが、消えてしまっては仕方がない。仕方ないけどやっぱり足は欲しいので、せめて墓守の足だけでも後ほど頂いていこうか。
「あったぜ」
 グドルフが声を上げ、一同はわらわらと集まる。その墓石には『ルーミリア、此処に眠る』と刻まれている。
「よっしゃ、掘るか」
「広めに堀り始めましょう」
 ことぼぎが腕をまくるとバルガルがシャベルを持ってくる。どうやら墓守のいた小屋に用意されていたものらしい。
「普段は遺体を収めるための穴を掘るはずのものなんだけれどね……」
「今は遺体を取り出すための穴掘りだな」
「しんみりしてもシカタがないよ。サクサク回収しよう!」
 ワルツの言葉にグドルフは肩を竦め、イグナートが明るくも急かす。いつこの状態を人に見られるか分からない以上、遺体の回収は迅速な方が良い。
(依頼主は彼女の体をきちんと扱って……満足できるのかしら)
 ざくざくと土を掘り進めながらもワルツはそう思わざるを得ない。この依頼をした者は――ひどく、歪んでいる。故に一抹の不安がぬぐい切れなかった。
 暫く掘り進めていると、不意にガツンと硬いものに当たる感触が響く。顔を見合わせた一同が更に掘り進めると木製の棺桶が露出した。
「慎重にいきましょう」
 そこからは棺桶に沿って穴掘りを進め。何人かで力を合わせ、それを地上へ運び出す。女性とはいえ1人分の重さと、そこに棺桶自体の重量もあるのだからそこそこ重たい。棺桶のふたを止める釘を注意深く外し、中を検分すると――そこには、まるで眠るような女性がいた。
「これが死体を攫いたくなるほどのビジンかあ」
 なるほどね、とイグナートは遺体を見て目を細める。死体を攫うだなんて常軌を逸した依頼だ、その標的となってしまった彼女には興味があったがこれは確かに美人だろう。動いていた時なら尚更美しく見えたのだろうとも思わせる。
「このまま運べば問題ないでしょう」
「それじゃ、ここにはこいつに入ってもらうとするかね」
 バルガルが蓋を閉めると、グドルフは先ほど殺害した墓守の遺体を持ってくる。ピリムが慌ててその足を要求し、切り取られた遺体は土の中へ放り込まれた。
「おめえに怨みはねえが、土ン中で眠っていてくれや」
 ニィと悪い笑みを浮かべながらグドルフは土を戻し始める。その傍ら、ことほぎは別の墓を彫り始めた。ライが視線を巡らせるとことほぎはニッと笑みを浮かべる。
「まだ時間はあるんだろ? 見境ない墓荒らしの仕業ってことにしようぜ」
「ああ、そういうことでしたか」
 掘り返された跡が見つからない様、他にも荒らしてそちらへ注意を向けようということだ。辺りの警戒をしつつも一同は幾つか墓を掘り起こし、ついでに服飾品があれば頂いていく。マニエラはそんな仲間の手伝いをしていたが、掘り返しはしても服飾品へ手を伸ばしはしなかった。
(流石に、な。善人じゃないが、悪魔でもない)
 死者からこれ以上奪う必要も無かろうとマニエラは墓を掘り進めるのに注力した。暫ししてそれなりに墓場を荒らしまくった一同は、棺桶を馬車の元まで運び込んだ。
(……ごめんね、ルーミリアさん)
 ワルツは心の中で天へ召された彼女へ謝罪する。届くかどうかは――分からないけれど。
 これでオーダーはクリアされたわけだが、彼らはまだ気を抜くことができない。ここはまだ墓場の近くであり誰が見ているのかもわからないのだ。
「さっさとズラかるぜ」
 三十六計逃げるに如かず――逃げるときは素早いグドルフを先頭にイレギュラーズは夜闇に紛れる。一刻も早くここを逃れ、自らとあの墓場で起こった事件が結び付きづらくなるように。
「あーでも、懐があったかくていいぜ」
 ことほぎは先ほど墓からくすねた品々を思い返してにやりと笑みを浮かべる。この後依頼の報酬も待っていることを思えば、油断できない時ではあるが心は躍るのだ。
 そう、生きているからこそだ。死者に尊厳などなく、生者は偉く、金を持っている奴はより偉いのだ。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 遺体を手に入れた依頼人は、果たして幸せなのでしょうか。真実は――本人のみぞ知る。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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