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シナリオ詳細

PPPダービー 第一回皐月杯(馬)

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 新緑の風吹き渡るさわやかなある日、1人の貴族が国王フォルデルマン三世に対して反乱を起こしたが捕らえられ、領地と爵位を没収されて死んだ。これはのちに、『幻想蜂起』と呼ばれる幻想国全土で起こった暴動のうちの一話だ。
 この事件には後日談がある。
 国王フォルデルマン三世はこの貴族が所有していた各レース場を、『幻想蜂起』鎮圧の細やかな礼として、ローレット――イレギュラーズたちに奇妙な体型の管理人とともに賜下されたのである。
 無事、幻想楽団『シルク・ド・マントゥール』の一派を殲滅した祝いに、ここでイレギュラーズたちと幻想国国民の友好を深めるイベントを開催してはどうだろうか。
 若き国王のお言葉に対してレオンは、「それでは一度やってみましょう」と頭を垂れ、その場を辞した。
 かくして――。

「パンパカ、パ~ン♪」
 突如、ローレットに鳴り響くファイファーレ。
 イレギュラーズたちが何事かと振り返ると、ギルドの片隅で卵のような奇妙な体型をした男が声をあげていた。
「――というわけで、第一回ローレット皐月杯を行うことになりました! 馬、犬、猫、その他もろもろ、飼い主さんのエントリーをお待ちしております!」
 詳細は張り紙を見てください、と男は勝手に壁にポスターを張り、その前に机を立てた。卓上に羽ペンと、『受付』と書かれた紙製の三角錐を置いて机を離れ、満足げにうんうんと頷いている。
 そして、突然、くるりと後ろをふりかえり――。
「そこの貴方。そう、そこの貴方です。もし馬を飼っているならどうです、レースに出てみませんか?」
 卵男は近くにいたイレギュラーズにかたっぱしから声をかけ始めた。
「ささやかではありますが、参加者全員に賞金が出ますよ! もちろん、優勝と準優勝には別途、入賞賞金が用意されています」
 賞金は、当日に購入された『賭け券』の儲けから運営費を差し引いて、分配するのだという。
 そういうことならやってみるか、とエントリー用紙に記入するイレギュラーズが現れた。
「そうそう、ご挨拶がまだでしたね。わたくし、ローレット競技場の管理運営責任者のダンプPと申します。お気軽にPちゃんとお呼びください」
 この催しが好評であれば、他の種目での開催も検討することになっている。海や空のレースや、バイクなどの乗り物を使ってのレースなどなど。あくまで計画でしかないのだが……。
「そーなんですよ。評判が悪ければ残念無念、今回限り……なので、みなさんこぞってご参加くださいませませ!」

GMコメント

【!依頼内容】
 ・レースに出場し、楽しむ。
 ※『馬』『軍馬』専用レースです。
 ※優勝馬(と騎手)、準優勝馬(と騎手)にはそれぞれ入賞の記念品が送られます。

【!エントリー条件 必読、要注意!】
 ・アイテム『馬』、『軍馬』を所有していること
 ・きちんとアイテム装備していること
 
 ※馬をアイテム装備していない人は、出走前に失格となりレースに出られません。
  失格理由はMSが勝手にでっち上げます。
 ※本人が走る場合は、必ず動物形態で!(NPC騎手が騎乗します)。
  なお、『馬』『軍馬』を装備する必要はありません。

【!書式 必読、要注意!】
 ※書式が守られていない場合、レース中に落馬を起こして失格になります!!

・1行目:ひらがなまたはカタカナで、五文字以上、七文字以内のおやつ1つ
 ※とくに指定がない限り、リプレイでおやつを食べるシーンは描写されません。
 ※今回、ドリンク類は除外します。
  例1)ホットケーキ
  例2)いしやきいも
・2行目:奇数が好き/偶数が好き ……どちらかを選んでご記入ください。
・3行目:鞭入れポイント選択。1~10の数の中から1つだけ選んでください。
 ※騎手に『騎乗』スキルがあれば+2、なければ+1されます。
・4行目:どのシーンを描写して欲しいか。下記から選んでください。

  1>ゲートオープンから第1ストレート前半 ……ゆるい上り坂
  2>第1ストレート後半 ……前1/3が急な下り坂
  3>第1コーナー ……フラット
  4>第2コーナー ……少し登り気味
  5>第2ストレート前半 ……フラット
  6>第2ストレート後半 ……後1/3が急な登り坂
  7>第4コーナー ……少し登り気味
  8>第5コーナー ……フラット
  9>最終ストレート前半 ……ゆるい上り坂

 ※10最終ストレート後半からゴールまでは描写指定できません。
 ※コースは『砂』です。

・5行目:以下、自由記入。
 愛馬にかける声とか、愛馬の容姿やチャームポイント、自分の乗馬服についてだとか、なんでも自由にご記入ください。

 ※同位・同着の場合、プレイングの文字数で判定します。
 ※他の騎手や馬にギフトや攻撃スキルを仕掛けてレースを妨害することはできません。
  てか、やめましょう。やっちゃダメ。
  やればもちろん失格です。

【プレイング記入例】
・チョコミント
・偶数が好き
・5
・第2ストレート前半
ゆるい登り坂のコーナーを抜けきったらすぐにビクトリー・ビーナス号に鞭を入れますわ、オホホホ!
「さあ、あなたの美脚をギャラリーに見せつけるのよ!!」
鞭うちダッシュ時にはギフトで薔薇の花びらの演出を(※他の出走馬や騎手の邪魔をしない、自己完結ものならOK)。
これで決まりですわね。勝利は美しすぎるわらわのもの……。
勝利インタビューは、この美しすぎる乗馬服を庶民に存分に見せつけた上で、薔薇の花びらのシャワーを浴びながらお答えいたしますわ。オーホホホ!

※くどいですが、妨害系はすべて却下いたします。

【!その他】
 『馬』『軍馬』のままだった場合はリプレイ中、番号で呼ばれます(悲)。

 以上、よろしければ愛馬と一緒にご参加くださいませ。

  • PPPダービー 第一回皐月杯(馬)完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2018年07月21日 22時00分
  • 参加人数10/10人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

スウェン・アルバート(p3p000005)
最速願望
奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
星玲奈(p3p000706)
幻想の歌姫
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
ライトブリンガー(p3p001586)
馬車馬
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
トルハ(p3p005489)
極限インブリード

リプレイ


<「第一回PPPレース皐月杯。実況担当は私、ダンプP。探求都市国家アデプト放送局の方々の技術協力を得て放送いたします」>
 皐月杯と銘打っているがすでに季節は夏真っ盛り、朝から灼熱の太陽が容赦なくコースを照らしていた。企画したのが五月だったんだからこれでいいんだよ、というのはダンプPの弁。なぜ、タイトルを変えなかったのか……。
<「えー、なにやら外野が喧しいようですが、無視して本日の疾走馬と騎手を枠順にご紹介してまいりましょう。
 1枠、ジャイアントステップと『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)。係員付き添いの元、スウェンが砂の状態を念入りに確認する姿が印象的でした。鉄輪を四本足に変えて本日のレースに挑みます。
 2枠、ストロベリー・フィールズと『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)。一悟は正統派ブリティシュスタイルの乗馬服に身を包んでの出場です。ストロベリー・フィールズという甘い名前とは裏腹になかなか勝気な性格の馬だとか。本日はどんな走りを見せてくれるのでしょうか。
 3枠、名前なし軍馬と黒のウェスタンルックか決まっている『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)。このレースが終わったら軍馬に名前をつける、と騎手のアランは言っております。本レースでは仮に「三番」と呼ばれます。いい成績を残して、是非、名前をつけてあげて欲しですね。
 なにやら煌びやかな雰囲気を醸し出している4枠は、ニグラスⅧ世と『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)。ここ実況席にもデイジーのオホホ笑いが届いております。とにかくゴージャス。ニグラスⅧ世は祖先にケルピー(水馬)の血が混じっているとも噂されておりますが、砂との相性はいかに?
 5枠、オカリナ号と『幻想の歌姫』星玲奈(p3p000706)。騎手、オカリナ号は星玲奈の歌声を聞きながら山道を散歩するのが日課とのこと。坂でつよそうですね~。歌姫のパフォーマンスにも注目です。レース中、どんな歌を聞かせてくれるのでしょうか。
 6枠は、漆黒の牝馬ラムレイと『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。ラムレイは血のように紅い瞳と、白雪のようなたてがみが印象的。並以上のガッツと、強烈な末脚が持ち味です。果たして『天才になれなかった女』は『天才ジョッキー』になれるのか……祈りの効果に期待しましょう。
 7枠、牝馬が続きます。カヤと『小さな思い』リトル・リリー(p3p000955)。尾花栗毛の大きな体に小さなリトルを乗せての出走です。……というか、ここからでは双眼鏡の倍率をぐんと上げないとリトルの姿が確認できません。握る手綱も細い! 一体、どんな手綱さばきを見せてくれるのでしょうか。
 8枠、運ぶ荷を人に変えての出走、『馬車馬』ライトブリンガー(p3p001586)とC.メルーメ。余談ですが、「ライトブリンガー」の名付け親がこのあとのレースに出場していますね。いい成績を出してバトンタッチしたいところ。しかし、初対面のC.メルーメとの相性が心配されます。
 9枠、これまた名無しの軍馬と、真っ赤な乗馬服に身を包んだ天之空・ミーナ(p3p005003)。ミーナはパカラクダでの出走を希望していましが、不可とのことで急遽、連れてきていた軍馬に乗り換えております。ちなみに馬は「九番」と呼称されます。
 10枠、『咆哮する遺伝子』トルハ(p3p005489)と竹遊 鷹。トルハ、すでに鼻の穴をおっぴろげてやる気満々です。もともと小柄な騎手の鷹が雄々しい背の上でさらに小さく……あ、牝馬……お嬢さんでしたか、失礼いたしました。
 ゴホン……順調に各馬ゲートに収まっていきます。さあ、間もなくスタートです」>


 共闘を約束しているイーリンへちらりと視線を投げてから、トルハは大股でゲートに入った。ふと、研究施設の房を思い出す。
(「そういえばあちらでは、能力試験が最後のゴールだった。レースでのゴール板通過か。夢のようだ!」)
 体に喜びの震えが走った。唇を捲りあげて、白い歯をむき出しにする。抑えきれない興奮で胸が膨れ、前足が浮いたその時、背に乗せた騎手に優しく首筋を叩かれた。というよりも、撫でられた、といったほうがいいだろうか。とにかく優しいその手の動きに癒され、トルハは気を落ち着けた。
 突如、取り乱してしまったことへの照れ隠しに、前足で砂をかく。
「私は気性が激しい。あどれなりん? ……が悪さをするのだろうか。わからない、すまない」
「大丈夫、キミの邪魔はしないから思いっきり走るといい」
 オレは乗せてもらっているだけだからと明るく笑う鷹に、トルハは出ムチを頼んだ。とにかく前へ出る。自分が前を走って後ろのイーリン、ラムレイとともにレースを作ろう。
 競技場に詰めかけた幻想市民の大歓声が、ウオーッという地鳴りとなってわき上がった。最後の一頭、観客席に向けて王侯貴族のパフォーマンスを見せていたニグラスⅧ世がゲートインすると同時に旗が上った。
 バン、と音をたてて発馬機の扉が開く。
<「各馬一斉にスタート! 鼻先一つ飛び抜けて先頭は三番! ほぼトップと体を並べて、いきなりムチが入ったトルハとラムレイ、ジャイアントステップが走る。そのあと先頭集団から半馬身遅れてライトブリンガーだ。ニグラスⅧ世、ストロベリー・フィールズ、オカリナ号、九番の順で続いてカヤが少し出遅れたか?」>
 10頭の馬は第1ストレート前半のゆるい上り坂をあっという間に登った。
<「おおっと、第一コーナー手前の下り坂でトルハとジャイアントステップが前に出てきた。三番とラムレイ後退。後ろに下がる。どうした、太陽の勇者!? どうした、イーリン。隠された才能は隠されたままになってしまうのか!?」>
 ニグラスⅧ世、ライトブリンガー、ストロベリー・フィールズが第二集団を作り、オカリナ号と9番、カヤ。少しずつ、馬体がばらけて縦に伸びだした。


 各馬、平坦な第1コーナーを無難に通過。第2コーナーに入ってコースが少し登り気味になったところでC.メルーメがライトブリンガーに鞭を入れた。
「ぶひひひぃいいいいいんっ!!!」
 ずるずると集団から落ちはじめていた。体力温存している場合じゃない。脚に活を入れないと。
(「ぼくとしたことが……自分でも気づいていないうちに緊張していたのかなぁ」)
 本格的な競馬は初めてだった。「馬車馬」として荷を運ぶのが本業だ。普段、依頼でもない限り全力で駆けたりしない。
(「お腹が重いや。やめられない、とまらない、でレース前に猫ちゃんたちと一緒に『おいしい草』をいっぱい食べちゃったからなぁ。でも、本当においしいんだから仕方ないよね」)
 体格の良さと力強さを発揮して、他の馬に積極的に当りに行こうにも、集団から落ちてしまえば意味がない。ともかく頑張って、みんなに食らいついていかなくては!
「こんかいは、ぼく、がんばるんだよぉ!!」
 ライトブリンガーは力強く砂を蹴った。
 実況席ではハンプPが丸い体を揺すり奇声を上げていた。
<「順位が少しずつ入れ替わって一番ジャイアントステップ、つづいてトルハ。三番、順位をさらに落として現在4位。ライトブリンガーと並びます。かわりにラムレイが3位にあがりました。カヤも最後から上がって、ニグラスⅧ世と九番とともに追走する。あ~、ストロベリー・フィールズが大きく後退、順位を下げた。オカリナ号が横を外から追い抜いていくー!」>
 坂を上り切ったところで、星玲奈は愛馬に声をかけた。
「オカちゃん、がんばって♪ わたしも頑張って歌うよ!」
 鞭を入る代わりに自慢のノドを馬上で震わせた。歌のサビが、ここだと決めたポイントと重なるよう、念入りに計算しての歌いだしだ。舞い上がる砂ぼこりをものともせず、風に歌声を乗せる。
「ラー♪ ララララー♪ ランランランランラン♪ ランランランッ♪」
 砂接を立てて走る馬の蹄の音が重低音の地響きとなって、軍歌調の歌を盛り上げた。星玲奈の足首でアンクレットがシャンシャンと鳴り、リズムに花を添える。
「でも、むちゃはしないでね。怪我をしないように、最後まで走りきろうね♪」 
 細かく順位を入れ替えながらのデットヒート。レースは中盤に入ろうとしていた。


<「第2ストレート後半、坂に差し掛かる手前でトルハが二位にあがってジャイアントステップと並んだ! 両者譲らず。さあ、この最後までこの二頭が先頭を争いあうことになるのか、それとも遅れを取り戻した三番が前に出るか!?」>
 先頭の3頭からやや遅れ出しているものの、依然としてラムレイが後続集団を押さえる形で直線を終え、コーナーに突入した。先頭集団からこぼれたニグラスⅧ世が、ムチ入れでスピードのあがったライトブリンガーと九番を引っ張っていく。一馬身離れて、オカリナ号とカヤ、そしてストロベリー・フィールズ――。
「オラァ! 行けやァァ!」
<「おっと、ここでアランが雄叫びとともに腰に下げたホルダー、否、鞘から剣を抜き放った! 燦然と光り輝く玉を放ち、三番が進む道を切り開く。このまま先頭へ――ああ! 読まれていた、読まれていた! この行動は読まれていたーッ。インコーナーからジャイアントステップが来る、スウェンが鞭を振るう! つられてトルハも前へ、前へー! 順位、依然として変わらずー!」>
 大きく外に膨らみながら、先頭集団が第5コーナーを回る。
 ちらり、スウェンは首を回して後ろを確認した。曲線ゆえに最後尾の馬まで確認でき、後続の馬たちの間に少しずつ距離が出て長く伸びているのがわかった。
(「まるでチュルチヘラみたいなレース展開っスね」)
 チュルチヘラとは、某世界はグルジアという国発祥の伝統的な棒状の飴だ。糸で一列につないだナッツ類を、小麦粉を入れて煮た果汁に浸し、天日で乾燥させて作る。いかにも甘そうな色と原材料からは考えられないほど、あっさりした味で……なんてことを考えていると、眼を剥いてたてがみを振り乱すトルハにあっさり前を獲られてしまった。
「しまったっス!! ムチで慢心の芽を摘まなきゃいけなかったのは自分の方だったッス!」
 ジャイアントステップの4つの蹄はしっかり乾いた砂を掴んで蹴り、最高の走りを見せてくれている。ライダーとして応えなくてどうする!
 スウェンは愛馬の呼吸を読んで、力いっぱい手綱を引いた。
 一方、3番手三番の3馬身後方では――。
「オホホホホ~」
 デイジーの笑い声がすぐ後ろから聞こえてくる。ぐんぐんと近づいてくる笑い声に、このままでは抜かれてしまうと、イーリンはラムレイにムチを入れた。
 しかし、無情にもそこにニグラスⅧ世の美馬尻を叩くデイジー渾身のムチ音が重なる。
「いよいよ、ラストじゃ。いくぞ、ニグラスⅧ世。駆け抜けるのじゃ!」
 主と自身が砂を被らぬように外を走っていたニグラスⅧ世だったが、ムチに応えて初めて中に入った。ラムレイの体を外へ弾くようにガードと馬体の間に割り込んでいく。
(「華麗なる勝利のためじゃ、砂かぶりも致し方なし。これは妨害ではない、駆け引きの一種なのじゃ。……にしても、三番め。いっぱい砂を蹴り飛ばしよって」)
 抜く! 抜き去ってくれるわ! ついでにトルハもスウェンも抜いて妾たちがトップに――。
 意気込むと同時にデイジーはくわっ、と大きく目を見開いた。そこへ当然のように、先頭3馬が蹴り上げてモウモウと夏空に舞う砂粒が飛び込んだ。
「あー、れー! 目が、妾の美しい目がぁぁぁー」
 背の上で主人が上げる悲鳴に怯え、ニグラスⅧ世はさらに脚を速めた。
<「あー、どうやらデイジーの目に砂が入ってしまったようですね。手綱から手を離し、疾走する馬の上でタコのように体をくねらせております。痛そうだ。後ろはラムレイ。一つ順位を落としました。並んでオカリナ号。いや、少しラムレイの前に出ている……歌姫の歌はまだ続いております。一体何番まであるのでしょうか。ライトブリンガーはなんだか体が重そうだ。そのあとカヤ、九番ときてストロベリー・フィールズが最後尾。トップを走るトルハとは実に十二馬差です」>
 レースは最後の直線を残すのみとなった。


「……『軍馬』じゃあ、示しが付かねぇよな。これが終わったらしっかりとした名前付けてやるからな」
 アランは右手で綱を握りつつ、左手が三番のたてがみを撫でてやった。ここからゴールまでは一直線。あとはぶっ飛ばすだけ。
「ゴールは目前だ。いいか、コイツは始まりだ! 俺とお前の物語の始まりに過ぎねぇ! ここで優勝して初めて俺達は新しい物語の一歩踏み出せるんだ! ぜってぇに勝つぞ!」
 激を受けて三番がスピードを上げる。が、前を走る二頭との距離は詰まらない。
 事前に図ったタイムは決して悪くなかったのに――。
 たてがみから手を離し、黒いカウボーイハットを押さえる。庇の下で唇をかんだ。
 ブルルッ。馬銜(はみ)の震えが手綱を通じてアランの拳に伝わった。最後まであきらめるな、と叱咤されたような気がして顔をあげる。
「そうだ、最後まであきらめずに走り抜こう! すまなかった――」
 アラン号と呼びかけて口を噤む。さすがに、それはダサいよな……。
「まぁ、後で考えるぜ! おっしゃあ!」
 ゆらゆらと馬上で体を揺らすデイジーを眺めながら、イーリンは代理お菓子戦争に負けつつあることを感じていた。このレース、軍配はキノコ側にあがったようだ。
 ラムレイの走りに関して言えば、出は決して悪くなかった。だが、脚をためる癖が出てしまった。強烈な末脚が封じられたまま最後の直線が終わろうとしていることが、悔しい。
 こみあげてきた悔し涙に視界が霞かけたそのとき、イーリンのギフト「インスピレーション」が発動した。
「大丈夫よ。ラムレイ、このまま行くわ」
 ラムレイが最速で走られる位置を瞬時に見極め、手綱を繰る。
「さあ! 勝負はここからよ!」
 並んでフィニッシュは飾れそうにないけど、せめて一つでもトルハに近づきたい。
  スタンドで大歓声が沸き起こる。
 ラムレイはオカリナ号を抜いて五位にあがった。
 ドラマはその後ろでも起こっていた。
 ライトブリンガーの後、5馬身開いて3頭が熾烈な順位争いを繰り広げる。
「いくよ、カヤ! リリーたちがいちばんってところ、みせよっ!」
 リトルは小さなムチでカヤの背をペチリと打った。
 ここまでは作戦通りだ。いまから本領発揮――のはずなのだが、なぜかカヤのペースが上がらない。どうやらカヤはムチを入れられたことに気づいていないようだった。
(「ん、んんん……リリーがうぉーかーのひとにきいたはなしとようすがちがう」)
 リトルがとあるウォーカーから聞いた話というのはこうだ。
 終盤、大外から一気に追い抜いて魅せる。それこそが強い馬の証――たぶん、そのウォーカーは大穴狙い、1点買いのギャンブラーに違いない。
 仕方なく、リトルは直接カヤに話しかけた。
「カヤ! このちょくせんで、だれもいないところを、リリーたちのういにんぐろーどをはしるだけだよっ!」
 大外へ出たカヤとリトルの前には、たしかに誰も走っていなかった。まっすぐ前だけを見ていれば、だが。
「いよーっし! 前が空いたぞ。ここからが私達の本領発揮だ! 一気に行くぜ!」
 ミーナもリトルと同じく最後の直線で一気に追い上げる作戦を立てていた。直線は得意、のはずだったが……。
 つかず離れずで終盤まで体力を温存。最後の最後でスピードを上げて抜き去るというのは意外と難しい。大概の場合、レースはスタートで7割方その後の順位が決まってしまうのだ。大逆転劇はそうそう起こせるものではない。
 上空を並走するように飛んでいた鷹の【飛炎】が、泣いた。いや、鳴いた。熱風は吹いているが、背を押す紅の風は吹きそうにない。
(「く……」)
 こうなったら軍馬を抱えて飛んでやろうか。ミーナは半ばやけになって赤い翼を広げた。
 作戦が狂ったペアがもう一組。
 早いうちに先頭集団から抜けるつもりが、逆にずるずると順位を下げてしまった一悟とストロベリー・フィールズだ。最後尾で最後の直線に入った。
「最後まで諦めねぇぜ。走れ、ストロベリー・フィールズ!」
 大歓声に沸くスタンドにまで届くほど気合いの入ったムチ音と痛みが、ストロベリー・フィールズの勝負心に火をつけた。
 カヤが大外に抜けて空いたコースにぐっと体を突っ込んでいく。赤い翼の下を一悟の赤い頭がかいくぐる。
 ストロベリー・フィールズは最後の最後に意地を見せ、順位を二つあげた。


<「先にゴールするのは鷹騎乗のトルハかスウェン騎乗のジャイアントステップかァ?! 粘る、粘る、トルハが粘る。あ、抜けた! 頭一つトルハが前に出た! トルハだ、トルハがジャイアントステップをデビルパワーで一気に引き離しにかかる! 悪魔の遺伝子を大爆発させていま、ゴォォォォォール・イン! 第一回PPPレース、馬部門を制したのは『咆哮する遺伝子』トルハーーッ!!>
 舞い散る紙吹雪の下、トルハはゆっくりとペースを落としてコーナーを回りながら笑った。
 ありがとう、みんな。素晴らしいレースに感謝。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

レース結果は以下の通り。

優勝 『咆哮する遺伝子』トルハ(p3p005489)
 騎手:NPC 竹遊 鷹
【順位経過】2→1→1→2→2→1→1→1→2→1
準優勝 ジャイアントステップ
 騎手:『最速願望』スウェン・アルバート(p3p000005)
【順位経過】2→1→1→1→1→1→1→2→1→2
3位 三番
 騎手:『太陽の勇者様』アラン・アークライト(p3p000365)
【順位経過】1→2→2→4→4→2→2→3→3→3
4位 ニグラスⅧ世
 騎手:『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
【順位経過】4→5→5→5→5→4→4→4→4→4
5位 ラムレイ
 騎手:『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
【順位経過】2→3→3→3→3→3→3→5→6→5
6位 オカリナ号
 騎手:『幻想の歌姫』星玲奈(p3p000706)
【順位経過】5→6→8→7→8→7→5→6→5→6
7位 『馬車馬』ライトブリンガー(p3p001586)
騎手:NPC C.メルーメ
【順位経過】3→4→4→4→6→5→5→7→7→7
8位 ストロベリー・フィールズ
騎手:『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)
【順位経過】5→6→6→8→9→8→8→10→8→8
9位 九番
騎手:天之空・ミーナ(p3p005003)
【順位経過】5→6→7→6→7→6→7→9→9→9
10位 カヤ
騎手:『小さな思い』リトル・リリー(p3p000955)
【順位経過】6→7→5→5→7→7→6→8→8→10

とても素晴らしいレースでした。
参加してくださった方々に感謝を!

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