シナリオ詳細
空なき世界のジュブナイル
完了
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オープニング
●空なき世界のジュブナイル
「ーーあら」
大袈裟なほど緻密な魔法陣の上で、『境界案内人』ロベリア・カーネイジは目を覚ました。新たな依頼の準備を終え、うつらうつらと船をこいでしまった記憶はあるのだが……目覚めたその場所は、どうやら境界図書館では無いらしい。
「あの……もしかして、悪魔さん?」
ふと、若い声につられて彼女が魔法陣の先へ視線を落としてみると、そこにはふんわか寝癖の少女が座り込んでいた。ロベリアが答える前に、少女はパチパチ二度ほど瞬きをした後、ぱぁっと赤い目を輝かせて、懐こい笑顔を向けてくる。
「やっぱり悪魔さんだぁ! 素敵なヒレに素敵な長耳。それと頭に付いてる小さなやつはーー」
「ちょっと待ちなさい。貴方、自分がどれだけ失礼か分かってる? どんな神秘術を使ったか知らないけれど、呼び出すなり悪魔呼ばわりなんて」
一応これでも、故郷の世界では聖女の務めをしていたのだ。悪行の被害を被ったならまだしも、初対面でその呼び名は看過できない!
「ロベリアよ」
「……?」
「私の名前。貴方は?」
「あー。確か……アルス、だったと思う」
何とも釈然としない返事である。露骨にロベリア が不機嫌そうな空気を滲ませると、アルスと名乗った少女はあわあわしながら付け加えた。
「だって、しばらく名乗ることが無かったから!」
「自分の名前くらい覚えなさい。忘れるくらいなら紙に書くなり工夫すればいいでしょう」
「かみにかく? よく分からないけど、それは教えてもらっていないから、きっと『罪』だよ」
紙に書く、メモを取る。そんなのは忘却を止めるための単純な『知識』だ。
「あのね、ロベリアさん。ここでは『知識』が『罪』なの。いろんな事を知ろうとすると、怖い魔物が来て殺されちゃう。
アルスもきっと、もうじき死ぬよ。失われたはずの『知識』で悪魔を呼んだから」
「……。ねぇアルス、どうして命懸けで私を呼んだの?」
ロベリアの問いに答える代わりに、アルスは空を見上げた。
澄み渡る青空も、星が嫌めく夜空も、ない。
雲ひとつ無く、ただただ白いーー無空の空。
朝日が登ったら、今日も一日頑張ろうって気持ちになれて。
空が夜色に染まったら、星を数えるだけでワクワクできた。
それが突然なくなったのに、まわりの大人は“分からないから仕方ない“って。”いつか元に戻るさ”なんて、根拠もないのに言い出して!
「知りたい。アルス達が空に見捨てられた理由。
叶うなら戻って来て欲しい。朝も夜も……たったひとつの、大切な空を」
- 空なき世界のジュブナイル完了
- NM名芳董
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年01月07日 21時50分
- 章数1章
- 総採用数16人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
遥か彼方、天貫く黒い塔。
聳え立つそれに向かう前に、狂歌とルネは前提を確認しようとアルスを伴い、森の中の開けた場所へ移動した。
勉強、学習。そういったものが狂歌は苦手としていたが、前提が数ある権利の中からそれを"選ばない"事と、"選んではいけない"事では話が別だ。
「不便そうな世界だな」
「そうなの?」
アルスは目をぱちくりするばかりで、何が不便かも分からないようだ。
この箱に魚を入れて、ボタンを押して。音が鳴ったら焼き魚の出来上がり。
どういう仕組みで魚が焼けているのか、箱の中で何が起こっているのか。
漠然と周囲にある物を、何となく取り入れるだけの生活に彼女はあまりに慣れすぎていて――ルネは眉をひそめる。
知識が罪である世界。つまりそれは知識を得る為の本も無ければそれを記す文字も亡くなった世界。
真理至る為の学問もなく、過去の失敗を学ぶ歴史書もなく、体験して知ったことを誰かに伝えることもいけない世界で生きている人は果たして人と呼べるのだろうか?
そしてアルス、彼女は一体どうやって召喚の知識を手に入れたのだろうか?
「……色々気になるけど、先ずは調査から始めようかな」
ルネが虚空に手をかざす。すると光の線が本棚を形作り、引き抜かれた一冊が手元で具現化した。彼女が授かった奇跡『移動図書館』である。
「すごい、綺麗!」
パチパチと拍手をするアルスの横で、狂歌は頭の後ろで腕を組んだ。
「なぁ、そんなんでホントに魔物が来るのか?」
「彼女の言う通りであるならば、或いは」
開かれた本の紙の匂いにスン、とアルスが鼻を鳴らす。
「ルネの持ってるそれは、何て言うの?」
やはり、とルネは目を細める。この世界には本の一冊すら――。
「おじいちゃんが持ってたものに、そっくり」
(……!)
「ルネ、パスだ!」
思考を纏める間もなく、狂歌に促されるままルネは手元の本を投げた。
「本はこっちだ、魔物ども。欲しけりゃ力づくで奪いに来い!」
ガション、ガションッ!
人語を理解してか知らずか、木々の間から飛び出したソレは独特な足音を立てて真っすぐ狂歌の方へ突撃して来る。名乗り口上と囮の本が上手く機能しているようだ。
「――ッこの!」
バシッ! と横合いから蹴りつけて、大きく敵の軌道を逸らし重い一撃を逸らしたものの――鉄板を蹴ったようなジンジンとした痛みが狂歌を襲う。
「大丈夫?」
「この程度、かすり傷みたいなもんだ。それよりちゃんと調べろよ?」
何度もぶつかり合い、拳を交える狂歌。時間稼ぎの間にルネは敵を観察し、やがて魔砲でとどめの合図を送る。
「狂歌君!」
「任せなっ!!」
伸ばした『傲慢な左』は鋼をも砕く。狂歌のアロガンスレフトで砕けた鉄の破片が、ころころとルネの足元に転がった。
「……そうだよね。知識がなければ、どんな物も『魔物』の一言で浸透してしまう」
犬型の魔物と呼ばれた物は、人工物――四足歩行の殺戮マシンだ!!
成否
成功
第1章 第2節
「おっきい……」
コフーッと鼻息を吐きながら尻尾を揺らす馬の前で、アルスは赤い瞳をキラキラと輝かせていた。
「馬を見るのは初めてか?」
「うん。村には確か、白と黒のでっかいのはいるんだけど」
「それは牛だな」
馬の瞳は多様な動物の中でも特に澄んでいるという。ビー玉のような黒い瞳に目を奪われ、アルスはそっと馬の頬を撫でてみる。頬を擦り寄せられて無邪気に笑う様は、何処にでもいる等身大の少女に他ならない。
(このような少女が、大罪で命を狙われるとは……なんともはや、悲しき世界なのだろう)
「アルスと言ったな。きみのその知識欲と勇気に、私は敬意を表そう」
「えっと……褒められてるのかな? ありがとう」
難しい言葉は分からない。けれどなんとなく擽ったい。クスクスと笑うアルスへ、エドガーは馬上から彼女へと手を差し伸べる。
「きみが良ければ、こいつに乗りながら話をしよう」
「いいの?!」
「私にこの世界のことを、きみが知っていることを色々と教えてほしい。
代わりに私の話もしよう、まぁ……つまらないかもしれないが」
「そんな事ない。エドガーはこんな素敵な動物を教えてくれたから……お話もきっと、素敵だよ」
「そうか。これでも国を統べる側の立場に居たのだ、知識には自身があるぞ」
振り落とされないように捕まって貰いながら、ゆっくりと森の中を行く。心地よい風を受けながらの散歩は、空を失い寂し気だった少女の心をじんわりと癒した。
成否
成功
第1章 第3節
「空を取り戻せ……と言われてもな」
幸いにして、手掛かりになりそうな建造物が見えるが……どうやらそう簡単な道のりではなさそうだ。すでに追っ手と思しき気配が森の中からちらほらと。
正確には草を踏み鳴らす音と僅かな駆動音。
(先行して調査していた者達が、魔物は機械だと言っていたが――成程。知識が無ければ敵を知る事もままならない、という事か)
「ユリウス、私……何か嫌な予感がする」
振り絞るように零したアルスへ、ユリウスは声音を落ち着かせる。
「弱きを助くのが騎士の誇りだ。アルスは私が守り抜く」
貴族の誇りがユリウスの情熱を掻き立てる。足元の草木が淡く光り、色とりどりの花が蕾を膨らませ――刹那、あちこちから激しい警報が鳴り響いた。
『熱源ノ足元二禁忌を感知。焼却、焼却、焼却セヨ!!』
(私の『華の王道』に魔物が反応している……?)
四つ足の生き物は大抵素早い。闇雲に武器を振り回しても成果は望めまい。
――故に取るは後の先だ。
「ユリウスっ!」
「案ずるな!!」
鎧で覆われた腕にわざと敵を噛みつかせ――体重を落とし、地面に捻じ伏せる!
ガチャ―ン! と黒鉄の魔物は地へと叩き伏せられた。カラカラ空回りの音を響かせながら抵抗を続けるそれに、雷撃一閃! ギガクラッシュで頭部を踏み砕く。
「魔物とはいえ苦しませるのは本意ではない」
故に一撃必殺。ショートして動きを止めた魔物を残し、更なる道を切り開こうと歩き出した。
成否
成功
第1章 第4節
「知識が罪とは、誠に理不尽ですねえ」
生きている限り人は知ることをやめられないというのに。
実際のところ、禁忌としても新たな知識を得ようとする者がアルス以前にもいたのだろう。でなければ、魔物という抑止力は必要がないのだから。
「澄恋は私に何を教えてくれるの?」
人懐っこい笑みで問うアルスに、澄恋はしばし悩んだ後、ふんわりと微笑んだ。
「アルス様は、恋をしたことがおありでしょうか?」
「恋?」
「恋とは……そうですね。素敵な相手と同じ空の下で巡りあい、同じ時を過ごすことで、それはそれは素晴らしいものなのですよ」
「おじいちゃんと過ごした事はあるよ?」
「それは恋とは別の物ですね」
アルスには両親がなく、代わりに祖父が居た様だ。もっとも、その祖父も数年前に亡くなってしまい、今は独りで過ごしている様だが。
「澄恋、私も恋をしてみたいよ」
「恋の相手は勉強や研究、知識そのものでも良いのです」
「本当?」
「はい。『不思議』にワクワクし、理由を追究できるアルス様ならきっと素敵な恋を体験されるでしょうね。……そのためにも、空を取り戻すことを諦めてはいけませんよ」
恋の相手と巡りあう場を取り戻し、沢山ワクワクドキドキしましょうね。
穏やかな澄恋の言葉に、アルスは深く頷いた。それからハッとした顔で澄恋の袖を引く。
「あ、でも私――気になる人が、いる」
「まぁ! それはどんな方?」
「男の子。……いつも、夢の中に出て来るの」
成否
成功
第1章 第5節
「こんにち……ロベリアさん、寒くないですか? 肩かけは、必要ですか?」
文が挨拶を中断するのも止む無しである。退紅館で会った時よりもロベリアの姿は明らかに露出度が増えていた。改めて指摘されると彼女は頬を桜色に染め、誤魔化すようにそっぽを向く。
「平気よ。夜も無いから寒さなんか……ぴくちっ!」
くちゅん、とくしゃみしたロベリアの肩にカーディガンを羽織らせ、文は空を見回す。
「本当に空が無いんだね。今の状態や理由について非常に興味深くはあるのだけれど……やっぱり空が見えないのは嫌だな」
「私と同じ」
どこか安堵したような少女の声に、文はゆっくりと振り向く。
「アルスちゃん、だっけ? 君はきっと、良い学者さんになれるね」
「がくしゃさん?」
「歩きながら話すよ。とりあえず、あの黒い塔に向かってみようか」
この世界に疑問は尽きないが、深く考える時間は無いようだ。草むらで異様な光を見つけ、文はすぐに鵲刻を構えた。寸分たがわぬ一撃が、暗がりの敵を貫く。
「知識を得たら子供だろうと手にかける。そういう考え方、ちょっと理解したくはないかな」
そもそも、この犬型の魔物は誰に従って、どんな指示で動いているんだろう。
「というか、犬って背中に何も生えてな――」
ウィイン、ガチャコン。
「……えぇー…」
魔物の背中が開き、ビーム砲が現れる。あれを喰らってはひとたまりもない!
文は追撃を喰らわせようと、再び銃口を敵に向けた。
成否
成功
第1章 第6節
馬上の談笑はアルスの心を解し、やがて話題は塔へ及んだ。
「あれが何か、アルスは知っているかい?」
「ううん。村から向かう手段が無いから、行く必要ない物だろうって皆諦めていて」
「私はこのまま『塔』へ向かって進むとしよう」
「エドガー」
きゅ、と腰に抱きついていたアルスの手に力がこもる。
「私も一緒に行きたい。だめ?」
「いや、構わない。やはりきみは勇気がある。
その勇気に、私は報いようと思う」
現れた魔物が、電子音を響かせ二人と一頭の進路を阻む。エドガーは臆する事なく武器を取り、果敢に敵の方へと突っ込んだ。
「この世界できみに危害は及ばせない……私がこの身、この技を持って助けよう!」
雷なる一撃は敵を貫き、たちまちショートさせた。
「凄い、魔物をたったひと突きで……!」
「だが、助力出来るのは私がここに居られる時だけだ。
アルス。きみを守れるのは……結局の所、きみだけだ。わかるね?」
何かを為すには力が必要だ、直接的な物だけでなく……人脈や経験と言ったものも含めて。
ロベリアを召喚した彼女には神秘の才がある。それをエドガーは見抜いていたのだ。
「……期待しているよ、アルス」
「うん。頑張ってみる!」
エドガーがソニックエッジを放ち、乱れた犬型の機械獣へアルスが呪文を唱える。緑の蔦が敵を絡め、あっという間に動きを封じる!
「これが、私の……」
引き出された力少女の運命を加速させ、新たな一歩へ導き行くーー。
成否
成功
第1章 第7節
はわはわ、とノリアが口に手を当てて動揺の色を見せている。
「ロベリアさんが……わたしと、同族に、なってしまいましたの!!」
同族。確かにとロベリアは己の半身を見た。空を自由に泳ぐ麗しの人魚。
「どこのお伽噺だったかしら。人魚は最期……悲恋の果てに、泡になって消えるとか」
「き、消えては駄目ですのっ!」
今のロベリアに、ノリアは親近感を覚えていた。初めて変化した時の不安で落ち着かない気持ちを、彼女も感じているに違いない。しかし彼女は媚びず「助けて」の一言も無いのだ。
特異運命座標が目の前の困難だけを見据えられるように。
「どうしてノリアが泣きそうなの。もしも私が滅ぶのであれば、この世界の黒幕も道連れよ。貴方達が心配する様な事はーー」
「行きましょう、ロベリアさん」
きっと、あの黒い塔に答えはある。そう信じてノリアは彼女の手を引き、空なき真白の空を泳いだ。ぎこちないヒレの動きのロベリアをサポートしながら向かう途中で、突如鳴り響く警報。
「あれは!」
ロベリアが息を呑む。あの魔物をアルスは語らなかった。知らなかったのだ。上空から攻めればーー奴らが来る。
羽音を立て、蜂型の機械虫が飛来し、尾の先から雨の様にレーザーを降り注ぐ。けれどもノリアは怯まない。
「わたしも、皆様に、守って戴きましたから……恩返しですの!」
大海の抱擁に身を委ね、追い返す蜂の群れ。諦めてなるものか!
乙女の瞳に力強い意思が灯った。
成否
成功
第1章 第8節
本はあらゆる世界へ読み手を導いてくれる物だ。
しかしこのライブノベルの世界は、息が詰まる程に窮屈で。
「知識を書き残すことすら許されないとは、また徹底しているね。学者の端くれとしては寂しい限りだ」
先に接敵した仲間からもたらされた情報によれば、魔物と呼ばれる者達は皆、機械なのだという。それらが何者かの意志によって動いているのだとしたら――この物悲しい真白の空にも秘密があるのではなかろうか。
エーオースの標は輝きをもってゼフィラとアルスを包み、空を飛ぶ自由を授ける。
「ふわ、っ……?」
暁に吹く風の導はゼフィラにとって勝手知ったる物だが、不慣れなアルスにはそうもいかないらしい。空の上でひっくり返り、両足をぱたぱたバタつかせる様子に、思わずゼフィラはクスクスと笑う。
「ふふっ、滅多に無い経験だと思って楽しんでくれると嬉しいね。空を飛ぶのに慣れないなら、手をつないでいこうか」
「そうしてもらえると、嬉しい」
不慣れなアルスの手を引いて、ゼフィラが空へ向かって真っすぐ進む事暫し。
「空にも魔物が!」
ビームと光撃が行き交い、空は瞬く間に戦場と化した。行く手を阻む蜂型の機械虫をバーストストリームで退け、ついにゼフィラは――空に触れた。
(いや、これは空じゃない。壁に白い布を張ったような……?)
空から塔を目指そうにも、敵の数が多い。追撃から逃れるように、ゼフィラとアルスは低空を飛んで塔へ向かい始めた。
成否
成功
第1章 第9節
「ふーむ、どういう仕組みでこの世界が成り立ってるのかはわかりマセンガ……何にせよ『知識は罪』って考えは気に入りマセンネ。勉強出来る環境じゃないと――」
「じゃないと?」
「わんこみたいにあほになりマスゼ?」
そうなの? とアルスは不思議そうな顔で小首を傾げる。白羽の矢が立ったロベリアは空を泳ぎ、わんこの頭をもふっと撫でた。
「わっふ!」
「いいのよ、わんこは。そのままでも十分可愛いんだから」
「キャヒヒ! なんか褒められたのデス!」
思考回路はとっくにショート済み。けれど人に尽くす喜びだけは忘れない。忘れられない!
危ない敵に取り囲まれてしまっても――わんこは恐れず、前線へと突っ込んだ!
「……さぁ、機械同士壊し合いといこうや!!」
わんこの口上に負けず、魔物と呼ばれた機械達は電子音で咆哮す。
相手が鋼の前足なら――こっちは練達仕込みの空間認識システム!
「わんーこブランディーーッシュ!!!」
ちゅどーん!! 激しい乱撃がロベリアとアルスを避け、敵を狙って放たれる!
「その命を懸けてでも、また空を見たいと願ったのなら。応えてやらにゃあわんこが廃るってもんデス!!」
「すごい……! 強いね、わんこ!」
アルスもロベリアを見様見真似でわんこをよしよしと撫でてみる。ご機嫌そうに尻尾を揺らしながら、わんこはそれを受け止めて――ふと、見上げた塔に首を傾げた。
「この塔もわんこと同じ、メカメカしてる気がしマス」
成否
成功
第1章 第10節
「久しいわね、紗夜」
ロベリアの妖々とした微笑に、紗夜は静かに頷く。
彼女はかつて、鳥籠のように閉ざされた部屋で、無垢なる少女へ希望を与えた。
時は過ぎ、あの場所と異なる世界に降り立ったーー筈なのに。
(この妙な既視感は、何なのでしょう)
「紗夜はこの世界をどう思ってる?」
アルスの素直な問いかけに、紗夜は今一度考える。
何を罪、何を穢れと云うかはその世界それぞれ。
けれど、異なるからと排斥していけば、最後に残るはただひとつ。
何もかも違うからこそ、世界はあるのです。
異なるものを求める心を、夢というのです。
「ならば、夢への憧憬が、空を照らす事になりますようにと」
祈り、願いて進みましょう。光に続く道はあると信じ――この刃にかけて。
頌義颰渦爪。武神の刃を翻し――魔物の毒牙が届く前に、瞬天三段。絶技をもって奇襲をかける。
「絡繰りの身なれば、星の煌めきの変わり、鋼の欠片を散らしなさい」
魔物の首が鋼でも、白虎の力に裂けぬ物なし。落首山茶花にすぐさま繋げ、首を落とす。
戦いを終えた後、ふと紗夜は気づいた。
先手を打つため、何気なく使っていた超聴力。
その耳で拾う全ての音が反響し、まるで室内で戦ったような耳触りであったという事を。
(この空虚な白い空も、広大な森も……全て、大きな部屋の中にあるというの?)
仮説が事実であるとしたら、アルスが取り戻したいと願った空は――偽りの空に、他ならない。
成否
成功
第1章 第11節
「すごい、あっという間に倒しちゃった!」
アルスの驚きの声を浴びながら、希は鎖で羽交い締めにされ動かなくなった機械獣の前へとしゃがみ込んだ。
彼女の目的は殺戮マシーンを倒すだけに留まらない。その証拠に――手へと集約される闇。握りしめた黒針をガツッ! と獣の関節部につき立てる。
オイルが血の様に噴き上がり希の身体を濡らしても、彼女は至って平静だ。
この機械が黒い塔を守護する存在ならば、中身を探ればこの世の真理を知る手がかりになるかもしれない。
(……アルスくんはどう思ってるのかな、解体ショー)
獣の部品を取り出しながら振り向くと、アルスは身を震わせながらも、逃げ出しはしていなかった。及び腰のまま希に縋りつこうと此方へ手を伸ばしている。
「怖い?」
「うん。だけど奇がそうするのは、何か考えがあるからだよね?」
奇と一緒なら、耐えられるよ。……なんて、いずれ忘れてしまうのに。
口には出さず、奇はそのまま部品を並べていく。
「この部品は知ってる?」
「ううん」
「それならコレは?」
「んー……」
「私達とは血も違うね。私達は胸に手を当てたら音がなってるけど、それもないね?」
その時、はっとアルスが目を見開いた。心臓部に埋め込まれた回路を指さす。
「これ、夢の中で見た事があるよ!」
「夢?」
詳しく話を聞こうと奇が身を乗り出したと同時――新たに迫る、魔物達。
「……どうやら、よっぽど中身を見られたくない様だね」
成否
成功
第1章 第12節
「『知識』が『罪』……そういったクソ神もいたなぁ。思い出すとムカつくから思い出したくないんだが」
境界案内人から追って知らされた事実だが、アルスのいう『魔物』とうものはどうやら自然的なものではなく、機械的な姿をしているそうである。
誰かの思惑なくば、そういった物が量産されるような事態にはなり得ない。
だとしたら――『魔物』とやらで圧力をかけるほど、この世界の人間に『知識』を蓄えさせたくない理由は何だ?
「ああ……まどろっこしい事を考えるのは無しだ。私の専門は"こっち"だからな」
群がりはじめた魔物へ希望の剣【束】を向け、ミーナ不敵に笑う。
先陣をきって飛び掛かってきた1機を落首山茶花で手早く沈め、削ぎ落した首を踏み越える。
後続の魔物が鋭い爪をアイアースで吹き飛ばし、ふっと一呼吸入れた瞬間。
「ミーナ、危ないっ!!」
心配そうに戦況を伺っていたアルスが悲鳴じみた声をあげた。
複数の魔物がミーナへ同時に襲いかかり、ハイエナのように群がりはじめ、アルスがぎゅっと強く目を瞑った――刹那。
「……はぁっ!!」
勇ましい声と共に暴風が巻き起こり、赤い羽根が舞う。
アルスが目を開けると、そこには敵を吹き飛ばし堂々と立つミーナの姿があった。
「なーに安心しろよ。私は可愛い女の子の味方なんだぜ?」
この後、アルスがわんわん泣きながらミーナに抱き着いたのは言うまでもない。
成否
成功
第1章 第13節
「アルスくんじゃなくて、ちゃん、だったね……ふふ。まあ私も奇じゃないけど」
「のぞ?」
勿忘草の影響か、己の名まで忘れるほ名前へ執着が無いからか……アルスは首を傾げたままだ。 仕方ないと希はその場でロベリアからメモ紙とペンを借り、名前を書いて渡してみせた。
「白夜 希」
「びゃくや、も名前?」
「白夜は苗字。アルスには無い?」
うーんと考え込むアルス。心当たりがあるけれど、思い出せないといった風だ。
「……ま、いっか」
文字を書いて渡す、という行為は新たな知識を与える行為に他ならない。追っ手に再び囲まれないようにと歩く道中、希はアルスに夢の中の男の子について聞いてみた。
「夢の中で、彼は私に何かを伝えようとしてくれてるの。けれど声が聴きとれなくて、そこでいつも目が覚める」
「いつも?」
「……ん。眠ると決まって同じ夢だよ。それより、魔物の『あれ』が何か知ってる?」
「心臓部にあったものは回路。あの魔物の中身は機械」
「きかい?」
「そう。からくりとかいう人もいるけど。……全て自然のものではない、人の手で生み出されたものなの。そしてあの、黒い塔もね」
アルスの夢に出てくる男の子と、心臓部にあった回路。そして眼前にそびえる黒い塔。
何か繋がりがあると疑わずにはいられない。
「行ってみればわかるね……さ、頑張って塔まで行ってみよう」
「うん。一緒に行こうね、希!」
ようやく名を呼び、アルスは嬉しそうにはにかんだ。
成否
成功
第1章 第14節
わんこの快進撃はなおも続く。魔物が出れば倒しにかかり、終われば休みなく時間を移動に費やして。塔の根元が見えてくるまで距離を稼げているものの、アルスは少し心配そうだ。
「大丈夫? わんこ。無理してない?」
撫でると喜んで貰える――これもまた知識だ。
知った事が罪だとしても労えるなら全然いいと、アルスはよしよしわんこを撫でた。
「一身に攻撃を集められる程わんこは硬くないデスガ、アルスサマに危険が及ぶよかマシデス」
「でも……ッ!?」
がぶり! 迫った魔物がわんこの腕に噛みついた。固まるアルスをよそに、わんこはニッと笑った後、豪快に頭突きを喰らわせる!!
「それでも一応【反】は持ってるんデスヨ……雑に殴ると殴り返すぜ?」
――かかってこいよ、機械共……この人に手は出させマセンゼ!!
互いに容赦なしのドッグファイト。名乗り口上で集めた敵をわんこブランディッシュで纏めてぶん殴り、ただひたすらに前へ、前へ!
「アルスサマは、この世界の事を知り過ぎマシタ。それでも貴女は、『罪』を重ねてでも進むことをやめないのデショウ。
……キャヒヒヒ、撫でて貰った分は働きマスヨ。最後までお付き合いしようじゃアリマセンカ……道はわんこが切り開くっ!!」
勇往邁進し続けるわんこの勇士を眩しそうに見つめ、ロベリアはぽつりと呟く。
「罪を重ねてでも進む……か」
それは聞き取れない程とても小さな声だったが、強い決意の色を帯びていた。
成否
成功
第1章 第15節
――その歩み、留まる事を知らず。
確かな事は判らずとも、ただ全力で進み、駆け抜けて進む先は黒き塔の麓。
「普段見てた時は細い線みたいだったのに……こんなに大きな塔だったんだ」
間近に気て初めて気づく壮大なスケールの建物に、アルスはぽかんと口を開けたまま塔を見上げた。無空の天を貫くそれは終わりが見えず、天辺がどこだか見当も付かない程にひたすら高く。
「紗夜。何か分かった事はある?」
ロベリアに意見を求められると、紗夜は頷き、塔の入口を見据えた。
「成る程、うっすらと見えて参りました。いえ、聞こえたというべきでしょうか。
――閉じられ、閉塞したこの空の有り様を」
覆われてしまったような、まるで大地の洞穴にいるかのような。
「もしや、此処は覆われた世界。或いは、大地の中。……それとも、まるで巨大な船か卵の中か」
卵というのならば、
何れはその殻を割り、空へと雛鳥が羽ばたくが必定なればこそ。
「その道筋を見届けましょう」
塔を守る最後の番人は絡繰りの狼でも蜂でもなく、堅牢なつくりの鋼鉄の扉だ。
侵入者を拒むように伸び出す幾つものレーザー砲。それを恐れず踏み出して、後の先から先を撃ち、縫い付ける刃は邪三光。
柱か、或いは、階段があるのか。それを知るが為に刃を奮い――ついに、至る。
「すごい、本当にここまで来たんだ……」
紗夜に促され、アルスはごくりと唾をのんで塔の敷居を一歩跨ぎ。
その瞬間――夢へ落ちた。
成否
成功
第1章 第16節
●アルスの空
もう何度目になるかな。眠ると決まって同じ夢。
男の子が私に、何かを伝えようとして口を開く。
けれどその声は、届く前にかき消えて――。
「これが黒い塔の内部……」
ロベリアの声で微睡みから現実に引き戻され、アルスは壇上に足をかけた。
天貫く黒き塔。その中は――気の遠くなるような螺旋階段。
そして、その根元には電子の光を放つ匣。
「私、これを知ってるよ」
匣の操作盤には『魔物』の部品と似た物が使われているようだ。
解体した時の記憶を頼りに回路を動かし、足りないパーツを蔓の魔法で繋ぎ合わせ。
これまで特異運命座標と共に歩んだ時を振り返り、積み上げた知識を組み込んでいく。
(恋なのかは分からない。けれど空が戻ったら……あの子も笑ってくれるかな)
カチリ、と最後の部品を組み込むと電子の匣が光り出す。
塔から幾つもの光が放たれ、追いかけるように外へ飛び出すアルス。
「……あ!」
見上げた先には無数の煌めき。星々の輝く夜空があった。
「ロベリア、見て! もどってきたよ、きれいな空!」
(ええ、そうね。きっとこの空は、いつだって美しい夜を描き、華やかな朝を迎えるのでしょう――明日も明後日も、その先も)
アルスはこの世界の事を知り、その身は罪に濡れすぎた。
けれど、その罪のひとつひとつは特異運命座標の信頼でもあった。
たとえ罪を重ねたとしても、アルスならば前へ踏み出し、未来へ歩んでいけるだろうと。
(いいでしょう。この子の可能性を特異運命座標が信じるというのなら悪魔(わたし)も『知識(つみ)』はも背負ってあげる)
「ずっと特異運命座標達の皆にも、ロベリアにも見て欲しかったんだ。これが私達の世界の空で――」
「いいえ、アルス」
研ぎ澄まされた真実の刃が星明かりに照らし出された。
少女の喉笛まで、あと少し。
「これは映写機から映し出された映像。貴方が取り戻した空は……偽物よ」
NMコメント
今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
今年最後のラリーLNという事で、ロベリアには水着になって貰いました(?)
◆目標
空を取り戻す
◆場所
ライブノベルの世界(仮)
表題の掠れた本の世界。名前はいつか知る機会があるかもしれませんが、大変難しいでしょう。
なにせこの異世界は『知識』が『罪』と定められた世界なのですから。
皆さんが召喚されるのは森の中。辺りは木々で覆われており、空は朝でも夜でもなく無空。空と言うにはあまりにも虚ろな空間が広がっています。
ただ、見回してみるとその無空の空を貫くように、点高く伸びる黒い塔が見える……そんな状態です。
◆出来る事
皆さんは以下の3つの中から好きな行動を選ぶ事が出来ます。
【1】黒い塔を目指す
戦闘です。塔を目指す者を拒むかのように、アルスの言っていた『魔物』が出現します。上手く倒して先に進んでください。
<敵情報>
犬型の魔物
四つ足で追いかけて来る⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。近接では噛みつき、引っ掻きなどの獣らしい攻撃を行い、遠距離に居ると背中の⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎を使った遠距離攻撃を仕掛けてくる。
※伏字はアルスが皆さんに知識不足で伝えられなかった部分です。
【2】アルスと交流する
アルスと遊んだり話したり、色んな事をしてみましょう。勿論、彼女が知らない知識を授けるのも問題ありません。
【3】その他
他に試してみたい事があれば、ご自由に。
可能な限り反映させていただきます。
◆登場人物
アルス
ふわふわの白い癖毛に赤い瞳。だぼついた白衣の女の子。華奢で肌は陶器のように色白です。神秘の力を持っていますが、知識が無いため持て余している様子。甘いものと不思議なものが好き。
好奇心が強く、異世界から来た皆さんに興味津々です。
『狂海のセイレーン』ロベリア・カーネイジ
境界図書館に所属する境界案内人。普段は足を束縛した姿でしたが、この異世界に呼ばれた拍子に人魚のような姿の悪魔へ姿が変えられてしまいました。
特異運命座標とアルスに同行しており、頼まれればサポートを行います。
◆その他
このラリーは一章完結、オープニング一覧から消えるまでプレイングを受け付ける予定です。何度ご参加戴いても問題ありません。状況によって続編が出るかもしれません。
他のPC様とご同行の際は、プレイングの一行目に【】でグループタグを記載して頂けるとスムーズに対応できます。
どうぞご活用いただければ幸いです。
説明は以上となります。それでは、よい旅を!
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