シナリオ詳細
アドラステイア、真なる正義
オープニング
事は数日前、天義の神学生トマス・フィデントゥスが事務官として赴任していた先に届いた一通の手紙から始まった。事務官といっても彼はしばらく前からその仕事を休職し、しばしの視察旅行に出ていた最中だった。手紙は、そんな彼自身から、彼の上司に宛てられていたものだ。
『拝啓、親愛なる司祭様
希求する“真なる正義基準”のために、私がこれまでの先入観を排して多くの正義と不正義をこの目で精査しようとしていたことは、司祭様もご存知のことと思います。また、この度の休暇が大悪とされるかの都市アドラステイアに向かい、彼らの行ないには真に正義のないものか確かめるためのものであることは、出発前にお伝えした通りです。
今、私はこの旅路に誘って下さった方とともにアドラステイアに滞在し、大いなる天啓を受けました。この街は、私の求めていた真なる正義、そのものであると!
無論、この街で起こる何もかもが完全な正義であったとは申しません。司祭様がお耳になさっているかもしれない幾つかの事件を、私は否定することはできません……しかし、不幸な誤解とはいつでも起こりうるものです。
司祭様のお立場を鑑みたならば、この事実は決して公表できるものではないやもしれません。しかし、もしかしたら私の親友であれば、不可能を可能にしてくれるでしょう……この手紙を彼に見せて下さったなら、必ずや本当の正義のため力を揮ってくれるに違いありません。
どうかこの手紙の内容を司祭様の目に焼きつけて、必要な時のために記憶して下さるよう願います。
敬虔なる神の僕、トマス・フィデントゥス』
トマスが厄介払い同然に自分の許に派遣されてきてこの方、司祭は幾度となく彼に神学上の返答に窮する疑問をぶつけられ、彼の人となりと飛ばされてきた理由を理解していた。それによればこの手紙には、幾つかの不審な点がある。
まず、どんな正義や不正義も別の視点から見てみようと考える彼が、“アドラステイアの正義”という抽象的な正義を完全に信じたと主張すること。
次に、重要であるべき『親友』の具体的な名が、手紙には記されていなかったこと。
トマスは持ち前の探究心に付け込まれてアドラステイアに囚われて、広報役として利用されている。彼は恐らく検閲を避けるためにアドラステイアへの礼賛を装って、ローレットの友人、リゲル=アークライト(p3p000442)へと助けを求めたのだろう。
そう理解した司祭はすぐさまローレットへと連絡を取り、トマスの救出を依頼する。特異運命座標らがアドラステイアに向かうまでの間、この良くも悪くも熱心な学生の身に、何も起こっていないよう案じつつ。
- アドラステイア、真なる正義完了
- GM名るう
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月11日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●欺瞞の国
「なるほど。ここは俺が見立てた通り、俺の求めていた国であるようだ」
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が口先だけの台詞を心にもない恍惚の表情で垂れ流したならば、彼を“入国審査”した聖銃士の少年は誇らしげに胸を張り、それから彼の件はさぞかし良い『キシェフ』稼ぎになるだろうと内心期待する。
齢16のアーマデルよりもさらに二回りは若い聖銃士によれば、この国には邪悪なる敵の尖兵も多く訪れはする。が、時には“アーマデルのように”アドラステイアの正義に目覚めた者もやって来るらしかった。
前者を暴けば当然ながら、後者の利用価値を証明できてもそれはファルマコンへの忠誠の証。訪れた目的をすっかり偽装して信奉者のフリをするアーマデルの感覚は……しかし監視する聖銃士の案内を受けながら、彼の信頼を覆す瞬間を推し量っている。
周囲には、他にもそれぞれの手段で街中に潜んでいる3つの気配。しばらく前に通った門のところでは、新たな一行が来賓として歓迎を受けている様子が見て取れる。
特異運命座標らはこの街を、いつしか背徳と搾取から救わねばならぬ。
(神は、宗教は、生きる道を示すもの。俺たちの洗脳と暗殺でさえ、その手段のひとつだったのだから――)
●訪問者たち
トマスからの手紙を検めた聖銃士たちは、幾度かの議論とティーチャーらへの連絡の後、4人の訪問者を丁重に案内することに決めた。
悪臭の漂う大通り。廃材を粗雑に組み合わせたような家。その中を向こうに見える中層と隔てる壁に向かって先導されながら、鏡(p3p008705)は顔を顰めるどころか愉しげに歪ませる。
「みんな幸せそうですねぇ……これからのお仕事さえなかったら、是非ともゆっくりと観光してゆきたいわぁ」
視線の先には下層住民らの姿があった。その表情を彩っている、不気味なまでの恍惚の正体を『煌希の拳』郷田 貴道(p3p000401)は知っている。敗北者――いや敗北しただけならまだ良い方なのだ。自らの敗北を受け容れることができなくて、薬物に頼るに至った惨めな敗残者らだ。
「やっぱ根っこを潰すしかねえな……」
あれこれと聖銃士たちに話しかけ、彼らの自尊心をくすぐりながらこれから得るだろう快楽への期待を高めてゆく鏡の声に隠れるように、貴道は小さく言葉を漏らす。
まったくだ。天義の坊主どもも大概だとは思っていたシラス(p3p004421)だけれど、それに疑念を抱いて離反した奴らはそれ以上だっただなんて思ったら、自分がそれを邪魔できる力に恵まれていたのは都合のいい幸運だったろう。
でもその力を揮うのは、もう少しばかり待つ必要がある。牢獄のように街の全体を囲む壁よりも、いつしか来るものを拒むような中層との間の壁のほうが大きく見えてくる。まずはあの壁の麓へと向かい……この度の真の依頼人である、トマス・フィデントゥスを救い出さねばならないのだから。
「この地区を管轄するティーチャーより、伝言を預かっている。『フィデントゥス氏とは積もる話もあるだろう。ささやかながら食事を用意したので、ゆっくりと語り合って欲しい』とのことだ」
幾人もの聖銃士たちに囲まれながらどこかぎこちない会合に向かったならば、質素な椅子に腰掛けた祭服姿の青年は、どこか儚げな微笑みを浮かべていた。
「よくぞお越しくださいました。皆様は“彼”の名代だとか」
右手を差し出したトマスの頬は、少しばかりやつれているようには見える。それがアドラステイアにおける軟禁生活に起因するものか、それとも単に元からそうであったのかは“彼”――友人であった『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)にしか判断はつくまい。ただ何にせよ、健康を保っているようには『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)には見えた。
……が。
(そう言っていられるうちに救出してやらねば、だ)
いかにこれが探究心が高じすぎてアドラステイアに乗り込むなどという無茶をした結果だとはいえ、マリアも五体満足なのだから自分で尻を拭えなどと突き放しはしない。それは、彼はそれが彼自身の信仰の在り方であるのだという信念を持っているからだ。その上で、もしも自分と訪問者たちのいずれかしか助からぬのならば、信念に殉じるのは自分だけでいいとさえ覚悟を決めている。であればこちらも、それに応えるのが筋というものだろう。
『声や表情に出さず、このテレパシーを聞いてほしい。リゲルなら脱出の準備をしている』
シラスが長々とした挨拶文やら世間話やらを繰り広げている間、マリアはそんなメッセージをトマスに送ってみることにした。すると、返ってくるのは安堵と不安。後者は特に、これから出される食事のことだ……それを食べてはいけないと警告したいとは思っているものの、それをすれば聖銃士たちの怒りを買うだろう。だが、しなければどうなることか――。
「――おっとソーリー聖銃士君。ミーたちの食事までは心配しなくていいとティーチャー氏に伝えておいてくれ。そうとは知らず、みんなでランチを食ってきたばかりでな」
今は腹が一杯なんだ、また後でいただけるかい――訪問者たちがイコルを口にして洗脳されてしまうのではないかというトマスの心配を、貴道は何でもないことであるかのように断ってみせることで振り払ってしまった。しかし、そういうわけには……と食い下がる聖銃士たちの言葉を遮るかのように、シラスまでトマスとの会話をこんな話題へと切り替える。
「こうまでもてなそうとしていただけるだなんて、貴方が仰るとおり、アドラステイアは本当に素晴らしい都市のようですね。でもだからこそ、あまり好意に甘えすぎてしまいたくはない」
奴らの魂胆なんて承知の上だと語る。そうでなければ鏡とて、「ねぇ、何人くらい悪い人をやっつけたんですかぁ?」なんて魔女裁判が日常茶飯事であることを前提とした質問を聖銃士に投げかけたりはすまい?
トマスの仮の住居であり、面会場である建物に幾人かの子供たちが向かってゆくさまを、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)は小さな雑音とともに見て取っていた。雑音の出元は子供たちであり――恐らくは彼らが大事そうに抱えている包み、訪問者たちへの“特別な食事”が原因だろう。
何かの危機がそこには宿されている。しかしその危機は、決して我らの障害になるほどのものじゃない。
だからルインはいつ来ても陰気なこの街を慎重に見渡して、いざ事が起こる瞬間への備えを確かなものにせんとした。
●不正義認定
ここまで辿り着くために、随分と時間をかけてしまった。リゲルは静かに目を閉じて、ひそかに手にしたロザリオを握る。
彼らしい信仰を貫いて危機へと陥った時、真っ先に自分を頼ってくれた友。その信頼が嬉しくて、必ずや助けてやらねばと心に誓う。
分厚い塀に囲まれてなお、冬の空気に冷え切った手。それを覆う暖かな感触に気が付いて、リゲルは本当の正義を願って瞑っていた瞼を上げた。
その時視界に映るのは、一瞬前までの自分と同じ表情を作る妻。『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)の指先はしっかりとリゲルの手へと重ねられており、自身も夫と変わらぬ想い――トマスを助けるためならば、この地獄のような街にて力を揮おうという決意が篭められている。
マリアの豊かな髪の間を隠れ家としていたリゲルの使い魔の嗅覚が、豪勢な食事――聖銃士たちの言い分によると、トマスだけは彼自身の希望によって質素なものにしているらしい――が訪問者たちに運ばれたことを告げた。あまり断り続けるのも不審に思われるだろうと、まずは鏡がワインを口にする。すると、まるで人を斬った時に感じるような快楽の味が、彼女の全身を駆け巡る……もっとも本質的には食事を受け付けぬ秘宝種の肉体のせいか、それとも単に摂取した量が多くない故か、それ以上の変化が起こった様子は今のところは見当たらないが。続いて、貴道も……一瞬だけ強敵と戦った時のような高揚感に囚われて、しかしそれが本物ではないことをすぐさま看破する。彼の鍛え上げられた肉体と精神を蝕もうとするのなら、一口二口では桁が不足する。
とはいえリゲルも、起つことを急がねばならないだろう。いかにポテトが精霊たちに人気のない道を教えて貰っているとはいっても、大人である以上は全く目立たぬというわけにもゆかぬ。ポテトが誰何する者たちを新しいマザーのフリをして優しく包み込み、リゲルのことをこの街を学ぶために天義政府から免罪符を買ってまでやって来た味方だと説明すれば、疑いをすっかり晴らすまでには至れずとしてもその場での断罪だけは免れた……代わりに、対処のために時間は随分と失った。
でも構わない。時間は面会組にとっても、これからの計画を丁寧にトマスに伝える役に立った。
ではゆこう。結果、その身を危険に晒すことになるのだとしても、友の直面する危機とは比べるべくもない。
何より、ここには仲間たちがいる。彼らは使い魔とマリアを通じた合図に従って、一斉に食卓から立ち上がる!
「何を……」
鏡が自分に好意を向けていると信じていたひとりの聖銃士の首が、疑問を呈し終えるより早く刎ね飛んだ。
ああ、確かに食事――イコルによる多幸感は心地よかった。でも実際に人を斬るのと比べたらやはり、その程度の快楽は霞んでしまう。
「こ、こいつら、やっぱり敵……」
別の聖銃士が小屋の外へと警告を発せんとした。ところが、ちょうどそれを妨げるかのように別の声!
「聞け! この街は子供を兵として利用している! 赤い食事はイコルという毒薬だ! いかなる理由があろうとも、子供を害する街を正義と言えようか!」
突然の惨事に顔を覆っていたトマスの表情が、一転、安堵した喜びと無茶をする友への心配へと変化した。高らかに響くリゲルの断罪宣告は、外で警戒に当たっていた聖銃士たちが看過できぬ内容を告げている。
「この街からの脱出を望む者がいたならば、ローレットが! 俺が! 援護する! これまでどのような罪を犯したかは問いはしない……幸福を掴もうと思う者は俺たちへと続け!」
正面からの不正義認定のみならず、この街の裏切り者らへの煽動まで加わって。忠実な聖銃士たちほど今すぐリゲルの下へと集い、彼と、彼の呼びかけに答える愚か者たちを排除しなければという義憤に駆り立てられたことだろう。そこにポテトの撃ち込んだ擲弾型クラッカーの閃光と破裂音が加わったのだから、誰もがファルマコンの敵による攻撃を受けているのではないかと恐怖して、それをイコルの力で塗り潰しながら盲信的な怒りへと変える。
必定、小屋をそれとなく取り囲んでいた監視の目は薄くなり、小屋内から上がった悲鳴を聞く者はない。こちらもまた別の聖銃士を斬り捨ててやるシラス……それは年の頃で言えば自身の半分あるかないかという少女ではあったが――敵は殺す、敵ではなくても金になるなら殺す。そんな世界に幼い頃から身を置いていたシラスは、殺さねばならない相手に年齢も性別も関係ないことをよく知っている。一撃で葬り去ってやったのがせめてもの情けであろう――それは使っている時間が少ないからという、実利の選択であったのも事実ではあるが。
「ああ、すっきりした。これで少しは余裕ができる」
「ガキを殺すのは趣味じゃあないんだがね」
そう表情を歪めてシラスに貴道でさえも、容赦なく漆黒のローブの聖銃士に拳を叩きつけていた。殺意を持って殴りはしない……が、ノックアウトから逃れることだけは許さない。
……すぐに小屋の中の騒ぎは静かになって、4人の訪問者とトマスの他は、誰も動く者はいなくなっていた。
「このローブなら……誤魔化せるかもな」
シラスが聖銃士のローブをトマスに被せたならば、彼は注意深く見なければ元の持ち主とさほど変わらぬ人物となった。その追い剥ぎじみた行為に彼は悲痛そうな顔を作るが、すぐに懺悔は全てが終わった後でと思考を切り替えたのがマリアには読み取れる。
「脱出の準備は、整った。もう少し、周囲の聖銃士を、遠ざけてほしい、な」
使い魔を通じてリゲルに呼びかけたなら、それに呼応して外の戦いの音が、激しさを増しはじめたようだ。
もう、この戦いを隠すことなんて不可能だ。改めて周囲に意識を向けたルインの感覚に、ぞっとする不協和音が飛び込んでくる。
「出たか聖獣、俺たちに破滅をもたらすために」
リゲルは聖騎士たちに囲まれて、四方からの猛攻を受けている。それを献身的に支えるポテト。彼女自身もともに傷つきながら、けれども奏で続けるのは愛の旋律。そして祈り。
「聖銃士になってイコルを取り続ければ、お前たちも聖獣となり、人でなくなる。己が、友が、家族が人でなくなっても良いのか!? 大切なものを守りたいなら目を覚ませ!」
すると聖銃士たちはそれを、邪悪な敵による妄言であると非難する。
「根も葉もないデマを! ティーチャーに確認を取るまでもない、あの大罪人を処刑せよ!」
だが……そう叫んだ聖銃士の兜が突如、真っ赤な飛沫を散らして爆ぜた。
(俺たちは、今、破滅に魅入られている)
包帯で雁字搦めにされた朽ちた銃身が、ルインの腕の中で煙を上げている。
(ああ、そうだとも……この街で天義の正義を宣うのであれば、そうなるのは解りきっているだろう)
だが――ルインはその覚悟に賭けよう。包帯まみれの鎮魂礼装が新たな葬送の魔弾を宿す。
(元よりここは気に食わない場所だった……あぁ、一撃食らわせてやろうじゃないか!)
唐突にリゲルらとは全く別の方向で、新たな戦いの火蓋が切って落とされた。
「おや。私たちの中にニセ聖銃士がいるとバレてしまいましたかねぇ……?」
先ほど鏡が殺した聖銃士を左右反転させた姿と声で、鏡の口調の言葉が洩れる。ようやく異常に気付いて面会組に集まってきた敵を――ソレは、鏡の抜刀術にて血の華へと変える。
もう、ヒトのフリなどする必要はなかった。マリアの髪がふわりと浮き上がる。人間種にはありえぬ髪の動きの後に、マリアの背に金色の翼が現れる!
まばゆさが辺りを覆い尽くした後に、追ってくる聖銃士たちはまるで金色の糸に操られるかのように、互いに互いを攻撃しはじめた。彼らとてそれで全滅するほど無力ではないが、それで追う勢いが落ちることまでは避け得まい。
だから、前方に立ちはだかった聖銃士たちは……その分を少しでも補うために密集体制を作らんとする。そのすぐ側を――何かが不意に通り過ぎようとする!
「今通ったのは何だ……!?」
――それは、死であった。
無念のままに斃れた英霊の、生命を奪う狂気の怨嗟。殺しはしない、しかし生かしもしない。自らも永劫に囚われたまま、他者を永遠に苛まんとする霊魂は、この街に無数に渦巻く断罪されし者ら――魔女裁判を受けた者、または大義のため命を散らした天義の調査員――の嘆きを受けて、ともに聖銃士らへの復讐を果たさんと欲す。
「もっとも――彼らも生命を搾取する側というよりは、される側ではあるんだろうが」
アーマデルはそんな言葉を呟きながら、次々に行く手を阻まんとする聖銃士らの群れの動きを止めてゆく。それでは止めきれなかった相手がいたならば――それは貴道が怒涛のラッシュで道を切り拓くだけだ!
「さあて。ミーたちの敵は……これで最後だ!!」
●破滅の足音
痛いほどの憎しみから自身を庇った夫が崩れ落ちる重さを、ポテトは自らの腕の中で感じていた。
トマスたちはどうやら無事に立ち去れたらしく、自分たちもこれ以上この場に留まる必要はない。
が……気を失った夫を抱えながらでは、廃墟に身を隠すのが精々だった。空を舞うのは聖獣ら。聖銃士たちは血眼で自分たちを探しているだろう。
そんな時、彼女は忍び寄る足音を耳にした。息を潜めてただ祈る。それが、敵が自分たちに気付いた証拠でないことを。
けれども足音は真っ直ぐに、夫妻のほうに近付いてきて――。
●独立都市からの脱出
――アドラステイアと外界を隔てる門を破壊して、怒涛のごとく飛び出していった訪問者たち、アーマデル、それからトマスは、かの街の高い城壁が見えなくなった辺りでようやく足を止めて振り返ることができた。トマスは聖銃士のローブを脱いで、鏡もとうの昔に彼女本来の姿と声を取り戻している。
脱出の際にはあれほど慌ただしかった街の騒動も、ここではさっぱり聞こえない。
「無事にトマスを取り戻せた、な」
そう口に出してみたマリアではあるが――これで本当に終わりにできるのだろうか? 誰一人として欠けずに戻るまでこの依頼を追われぬことを、ここにいる誰もが知っている。
不意に、アドラステイアのあるはずの方角から、誰かの気配が近付いてきた。追っ手か――誰もが身構え振り向けば、そこにはポテトとともに担いできたリゲルを足元に下ろし、どっかりと疲れ果てたように座り込むルインの姿。
次々に聖銃士たちが現れて、聖獣まで集まってきた時は、随分と破滅の哀歌が鳴り響いたものだ。だがルインはその音の方向を頼りにし、敵より先に夫妻に辿り着くことができた。
だから、きっと。
「俺たちは――賭けに勝ったんだ」
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
トマスは敵地で正々堂々と宣戦布告する友人に呆れはしていますが、それが自分のためであることと、それもまたリゲルらしい振る舞いだということに、表情は澄ました顔のままながら喜びを感じているようです。
彼がアドラステイアで得たことは断片的で、ローレットにとっては既知の情報も多いようですが、もしかしたら今後の皆様のご活躍次第では、彼の見聞きしたものと皆様が得たものがふとした拍子に繋がることもあるかもしれませんね。
GMコメント
結論から言えば、司祭の推理は当たりです。トマスの幅広い神学知識はアドラステイアが奉ずる架空の神『ファルマコン』への信仰を強化する要素として有用になりうるためか、アドラステイアのエージェントらしき人物に唆されました。恐らくトマスの信条的に、何も確かめずにアドラステイアを不正義と断定するわけにはゆかず、拒否できなかったのでしょう。
トマスは今、アドラステイア下層の小屋に軟禁されています。これを救出するのが本シナリオの目的です。
●すべきこと
・トマスの軟禁場所への侵入(潜入または正面からの面会)
・トマスの救出(脱出時の妨害排除を含む)
●軟禁場所について
高く分厚い塀に囲まれたアドラステイアの最外周部『下層』地区の中の、さらに内側の『中層』と隔てる壁の近く。つまり、同心円状の壁の外側から2番目の、すぐ外となります。
下層にはスラムじみたあばら家が立ち並び、そこで子供たちが暮らしていますが、トマスは質素ながらもしっかりとした小屋を与えられています。つまり、簡単に壁を壊して逃亡はできないようになっています。
●侵入
正面からトマスへの面会を申し込む場合、皆様はアドラステイアの客人として扱われます。監視役の聖銃士こそつきますが、ゆっくりとトマスと語らう時間があるでしょう。
潜入の場合、身を隠す、子供たちを言いくるめる等、密告を避ける工夫が必要になります。密告された場合は戦闘になる可能性が高いため、軟禁場所に辿り着く前に撤退せざるを得なくなるかもしれません。
面会は、人間種か、人間種を装うことのできるキャラクターに限ります(『異形朋友』等の認識阻害手段でも可)。そうでない場合は強く不審がられることでしょう。
ただし、全員でどちらか一方を選ばなければならないわけではありません。面会組と潜入組に分かれ、行きは面会組が潜入組の、帰りは潜入組が面会組の陽動役になる、といった方法も考えられます。
●想定される敵など
・聖銃士
幾度も密告と断罪を繰り返し、騎士の称号と特別製の鎧を授かった子供たちです。聖“銃”士と名はつきますが、実際には剣や教典など、武装の種類はそれぞれです。鎧も金ピカのカッコいいのだったりドレスのような可愛いのだったりします。
そこまで強くはありませんが、狂信的で、死をも恐れません。
・聖獣
聖銃士だけでは皆様を止められないと判ると出てくるモンスターです。強敵。
倒せないほどではないですが倒す必要もないので、別の聖獣が出てくる前にとっとと逃げるが吉です。
・門番
突破のための対策は必要ありません。聖銃士と聖獣への対策さえ十分なら脱出に成功できる、とします。
・トマス自身
トマスは浄化の奇跡等を使えるお蔭か、洗脳されている様子は見えません。が、アドラステイアにとっての不利益を働けば断罪される恐れがあるため、確実に脱出できそうだと感じるまでは敬虔なファルマコン信者を装い続けます。
・聖餐
面会者に提供される食事です。赤いドレッシングのかかったサラダ、赤いソースのかかった肉料理、赤ワイン(あるいは葡萄ジュース)、赤パンなどからなりますが、食べると天にも昇る心地になれるようです。
●情報精度
本シナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
本シナリオには、パンドラ残量に拠らない死亡判定がありえます。
あらかじめご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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