PandoraPartyProject

シナリオ詳細

『謝肉祭』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 人は神に感謝する。彼の名で救いを与えたもうたことを。己が生を賜ったことを。そして自分達に愛をあたえてくれたことを。
 偽神(かみ)は人へ感謝する。無条件に救いに縋ることを。己が生を擲(なげう)つ覚悟を。無垢な命を捧げることを。
 然るに、多くの者が魔と断じる「それ」は、血で曇った目には聖なる遣いにしか見えず。
 多くの者が魔と断じる「彼等」は、己を経験な神の子と信じて疑わない。

 断崖絶壁――疑雲の渓を端的に表すならそう言う他はない。多くの『魔女』を呑み込んできた呪いと断罪の地の縁に、鉤爪状の腕、否、突起物か。それが引っかかったのはつい数日前だ。
 奈落に落ちた者も、聖獣もその数は知れぬ。だが、縁から生還しようとしたモノなどあり得ない。
「――ギ――」
 軋みを揚げて上体を投げ出したそれは、四角錐の頭部と鎌か鉤爪かといった、鋭い腕を兼ね備えていた。下半身にあたる杭の足4本はすでに消滅している。ここで万が一落ちても、終ぞ支えるものは現れぬだろう。いかにも奇怪。いかにも、醜悪。だがそれは、アドラステイアではごくごくありふれた姿でもある。
 懐胎解体者。かつてアドラステイア領外にて、『世に求められざる子ら』を母体を裂いて引きずり出し、魔女裁判にかけようとしたその地の狂気と傲慢を体現した存在だ。
「あなたはあの子の魂を救ってあげられなかった」
「ギ、っ?!」
 だが、しかし。今この瞬間、懐胎解体者は導かれるように現れた1人の女に怯えている。ごく平凡な外見、印象すらも思考に残らぬようなその姿見の娘はしかし、それが嘗て見た少女と同一人物とはおもえぬほどに成熟していた。――そしてその背には、黒い翼が覗く。ひたりと触れられた女の手はぞっとするほど冷たく、左掌が音を立て、中指と薬指の間から裂けていくのが見えている。そこには、ずらりと並んだ異形の牙が。
「お母さんの罪も、ドミールの罪も、あの子達にまで罪を着せてしまって。そんな体をしていても無能なのね。わたし、気づいちゃったの」
 微振動を続け――怯えているように見える――懐胎解体者は、鋭く振るわれた左手、その牙に右腕を食いちぎられた。
「あなたの罪を赦しましょう。あなたの業を評しましょう」
 次は左腕を。そして、その女が謳うように開いた口から、『もうひとつの口』が飛び出し、懐胎解体者の喉を貫いた。喉の中ほどで留まった『それ』は、聖獣の口から声を響かせる。
『そしてあなたの罪は私が頂きましょう。私のために、あなたのために』
 ■■■音。■■。
 何もなくなった場所に立つ女――魔種『ブラン』は、口元にゆるく孤を描き去っていく。
 恐らく、そろそろ現れるであろう自分にとっての仇敵を誅す為に。マザー・エクィルに対し、より己の忠信を見せんが為に。
 そして彼女は、より深く深く狂っていく。


 アドラステイア近辺で、黒い翼を持った女を見た――ローレットに情報が寄せられたのは、それに伴って複数の被害が……こと、天義で比較的『恵まれない』者達の相次ぐ失踪が取り沙汰されたことに端を発する。
 天義は正義を体現する国家ではあれど、一枚岩ではない。そして、どう足掻いても不幸な女、不幸な子らは生まれる。そんな者達が被害に遭ったケースの再来、と聞いて、タイム(p3p007854)とエッダ・フロールリジ(p3p006270)は一つの事例を思い出す。黒い天使の事案を聞いて、別件でこの噂に行き当たったアカツキ・アマギ(p3p008034)、ほか戦力面で実力に足る面々を伴い、一同はアドラステイア外縁部の調査に乗り出した。それが、『現状』から1時間ほど前の話だ。
「ここは私が居ていい場所なの。私を私のまま受け入れてくれた場所なの。だから、居場所を奪いに来るならあなた達は敵。……この世界は汚れているけど、ここから先は美しく、満たされているから」
「それが貴女の回答ですか、ミサ・ブラン」
 イレギュラーズを――旅人であるタイムを排斥するために現れたソレを見て、エッダは心底退屈そうに、そして忌々しげに舌打ちした。薄々理解していたタイムもまた、不愉快な表情を隠せない。
「お父さんもお母さんも売って、あなたを迎え入れてくれた子供達まで自分のために売って、なんでそんなに笑っていられるの? おかしいよ、そんなの」
「『満たされているから』ですよ。あのときは分からなかったけど、ハーモニアじゃないのですね貴女は。この世界を歪める害悪。マザーのおっしゃるとおりだわ」
「盲目的にそちらを信じるのは信仰とは言わん。妄執じゃろうが。それに貴様、魔種じゃろう。貴様こそ世界にとって害悪であろうに」
 タイムの言葉に眉1つ動かさず、しかし恍惚とした口調でその信仰を垂れ流すミサに、アカツキはうんざりしたような表情で相手を見た。己の信仰に拘泥し、無差別に世界を乱す。そのテの相手は、冗談めかした相手とはいえ、深緑でうんざりするほど見たというのだ。
「あの子達は救われなかった。一生罪を背負って行きていくことになってしまった。誤った神の洗礼を受けたあの子達にも、もう救いの道はない。道を奪ったのはあなた達なの。だから――」
 ミサの口が何事か告げると同時に、巨大な刃物にも似たものを持ち上げる。あたかも何者かの腕を引きちぎったかのような。
「私と、この子達が罰を与えます」
 現れたのは、聖獣たち。人の形を残しているようで、致命的に何かが違うそれらは、イレギュラーズを見るなり襲いかかってきた……表情の確認できる個体は、全て嬉しそうに笑っていた。

GMコメント

 天義関係のアフターアクションを纏めたりしつつ気づけばこういうことになっていました。
 よかったね! あの子は皆のおかげで立派な魔種になったよ!

●独立都市アドラステイアとは 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●勝利条件
 全敵性存在の殲滅

●敗北条件
 条件未達のまま30ターンの経過or4名戦闘不能+2名以上のパンドラ使用済状態に陥ること

●魔種『ブラン』
 拙作『収穫祭』にて両親(母と義父)と嬰児の妹をアドラステイアに売り、かの地の者となった少女。だったもの。
 同胞である子供達を魔女裁判にかけ生き残った折に『神の血』をマザー・エクィルに譲渡され、摂取の末反転した。属性は暴食。
 物攻・抵抗・命中が非常に高い。他も魔種相応の実力を有する。
 常時低空飛行。
(PL情報となるが)辛くも生存していた懐胎解体者を捕食、その腕を武器として奪っている。
 一部、聖獣の特性を引き継いでいる。
・『神域侵食』(パッシブ。付与ブレイク回数、被ダメージ量に比例しステータス強化)
・捕食衝動(自付・防技上昇(微)、攻撃に『HP吸収(中)』『攻勢BS回復(中)』付与)
・暴食切断(物至単・ダメージ大。出血・失血・恍惚・必殺)
・副顎捕食(物近単・反動中・連。防無・Mアタック(大))
・喰魂結界(自分を中心に2レンジランダム、スプラッシュ(多)、呪殺)

●聖獣『デミ・ピープル』×20
 人体由来の器官と複数の動物をモチーフにした部位を持つ。
 ステータス減少系BS複数、虚無1の中距離攻撃をメインに有機的な連携をとって攻めてくる。
 また、場合により『ブラン』に対するブレイク攻撃を行う場合がある。

●戦場
 アドラステイア外縁部・北。
 戦場で特に不確定要素はないものの、背後には『貧民街』と呼べる領域が広がっている。
 敗北時どうなるかは、言わずもがな。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 『謝肉祭』Lv:25以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年01月14日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ

●撤退不能点
 ――彼女の血を分けた兄弟は救えた。間に合った。彼女もあの街の子供達だって救われるべき子達。今だってそう思ってる……けれど。
「沈黙は金です。それをあなた達は知っておくべきです」
 『優光紡ぐ』タイム(p3p007854)は己の両手を見た。腕を見た。その腕は年齢相応ではあれど、誰かを救おうとすれば届かない歯痒さを覚えるそれだ。だから、目の前の女の雄弁さに歯噛みこそすれ、意地を張って反論する気力はなかった。
「言ってることがおかしいよ。わけがわかんないよ……」
「魔種と聖獣。どちらも、元は人だ……だけど……!」
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)の困惑と、マルク・シリング(p3p001309)の唇から血が溢れんばかりの絶望的な義憤は同列のものだ。同じ場所に居たはずの存在が、ふとしたきっかけで何もかも狂ってしまうことへの理解の至らなさ。それこそが今、ここにいる彼らの精神をかき乱している。
「…………」
「私を私のまま受け入れてくれた場所だから、奪うものは許さない、ね。この国から逃げた私は、貴女の気持ちは解っちゃう」
 相手を凝視したまま、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は憤激に身を震わせた。マルクが感じる義憤のような綺麗なものではない。ただただ、目の前の相手に敵意しかない者の反応である。
 だからこそ、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の「理解」に彼女は、相手を射殺しかねない目で振り返った。アーリアがそんな女ではないと知りながら、知っていても耐えられぬ感情を乗せて。
「でも、一生罪を背負って生きていくことも捨てたものじゃないの。イイ女にもお酒にも、罪はスパイスよ……まだまだ子供ねぇ、貴女」
「私もお前もまるで同じだ。お綺麗な皮で包まれているだけの糞袋だ。断罪だと? 先達からの有難いご助言だ、小娘。……法ではなく義により人の罪を裁こうなんていうのは、莫迦のやることなんだよ」
 たっぷり時間をかけて咀嚼したすぺしゃるさんどのジャムを指で拭いながら、アーリアはブランに対し挑発的に言葉を投げかけた。視線を受け流されたエッダがようようブランを睨みつけ、同様に罵倒を舌に載せられたのはその十数秒後。即座に戦闘が始まる気配はないが、さりとて敵はすべて臨戦態勢にある。
「……私達は神(ファルマコン)を信じる。神は神として義を齎すのです。それを、莫迦と。相容れませんね」
「やれやれ。洗脳を受けちまったからって、同情出来る奴じゃあねえなあ。おい、覚悟は出来てんだろうな? ──地獄の底に叩き落とされる覚悟はよ」
「妾が探していた『黒い天使』とは異なるようじゃが、しかしロクでもないことには変わりないようじゃの。こういう類に『覚悟』なんてありはせんよ。自分が正しいのだから負けるはずがないと、そればっかりじゃ」
 淡々と語るブランに、『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)は獰猛に歯を見せつけつつ告げる。続く『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)の補足を聞きつつ、興味なさげに味玉を呑み込んだ。
「アドラステイアって迷惑なんですよね……視野が狭いって思うのです」
「ギッ……」
「やめなさい。言わせておけばいいのです」
 『ネクロフィリア』物部・ねねこ(p3p007217)の心からの敵愾心に、聖獣の一体が反応する。だがブランは動じない。彼女の目には光と呼べるたぐいのものは無く、慈悲深く聖獣達をなだめる声も、虚無の底にあるかのようだ。
「ねねこさん、リュコスさん。真っ先に狙われるのは私達だから……頑張ろうね」
 タイムは気の利いた言葉が言えればと思った。けれど、「護る」とか「倒させない」とか、そんな強い決意を露わにすることはできないと知っている。自分にできることを、すべて目の前の敵に叩きつける。被害が及ぶよりも早くアレを倒す。それしかない。
「私のことは、エッダさんが守ってくれますから。私だって簡単に倒れる気はありません」
「ぼくも……自分のことはなんとかするよ」
 一番危険な役割を担うのはエッダ、彼女を支えるのはねねこ。リュコスの精神は未だ乱れているが、少なくとも目の前の少女と聖獣達は既に戻れぬところにいるのだと理解した。
「征きなさい。その娘達も、不義に満ちた区画も、すべて押し流すように潰してしまいなさい」
「俺達無視して勝手に行けるなんて思ってねえよなぁ? 化け物共、おれさまが相手だぜ!」
「――上も下も碌でもない強さのようじゃのう。まあよい、汝らがどうあれ妾達がすべて倒すまでよ!」
 グドルフは豪快に笑いながら待ち構え、アカツキの朱の刻印から生み出された赤光は天から地へと降り注ぎ、聖獣の何体かを捉えた。
「小娘の相手は自分であります。精々遊んであげますよ」
 侵攻で前進した聖獣の間を縫って、エッダは堂々たる足取りでブランへと踏み込んでいく。対してブランの目には初めて感情が灯る。指先から、それが掴む大ぶりの刃へと脈動が走り、どくんどくんと跳ね回る。
 奇妙な欠陥が浮き上がった刃物を振り下ろしたブランはしかし、徹甲拳がその一撃を弾く瞬間を見逃した。
「エッダさん、治療は任せて」
「助かるでありますよ。どうした小娘。空腹過ぎてその程度でありますか?」
 治癒の爆弾の閃光を背に、エッダは挑発的に笑う。威力と速度に長けた一撃にどう対処したのかはわからない。だが、旅人よりも何よりもこの女は危険だと魔種の直感が告げている。
「一体ずつでも、絶対に倒すから」
「そうだね、絶対にここで倒すよ……だから、ごめんね」
 タイムが栄光の指揮杖を振るって生み出した魔力が、聖獣の一体に着弾する。顔を上げたそれに間髪入れずリュコスの生んだ影が突き刺さる。……が、浅い。受けながらも相手に照準を合わせた人ならざる獣は、リュコスにかかった付与魔術ごと噛み砕いた。

●最終防衛線
「逃げんなよクズ共、おれさまが相手してやるんだ。楽しみな!」
「本当に頼もしいわぁ……惹きつけてくれたなら、お姉さんも頑張らなきゃ」
「今、僕に守れるのは無事な人達だけなんだ」
 自らの周囲に踏み込んだ聖獣達目掛け、グドルフは斧と山刀を振るって当たるを幸いにふっとばす。適当なようでいて緻密な一撃は、それらの視線を釘付けにした。
 それを待っていたというように降り注ぐのは、アーリアとマルク、そしてアカツキの遠距離魔術。三者三様の魔術は釘付けにされた聖獣達に突き刺さり、その何体かに深刻な傷を与えた。グドルフへと攻撃を集中させた聖獣達にも、彼の身を護る術式で身を削られる痛みが待っている。
 本来なら早々に駆逐できよう陣容そして火力だが、それでも軽々に誘き出されぬ者、僅かな時間でも耐えきれる者が現れる程度には練度が高い。
「フン、小賢しい連中集めてきやがって」
「此奴等、数打ちの半端者のくせにそこそこ体力があるようじゃからな。人でなしの部分で防ぐのも半端に上手い」
「……皆が取りこぼした分は、ぼくが拾うよ」
 リュコスの傷は浅くはない。だが、生半可な傷で倒れるほどヤワではない。そうなるくらいなら、敵を幾らでも倒してみせよう。喉から吐き出された豪鬼喝は、今にも喰い付かんとした聖獣達を吹き飛ばし、一瞬の隙を生み出した。
「状態異常は僕が!」
「わたしも手伝います!」
「治療はできるだけこちらでも。ですが……これは中々……!」
 状態異常をバラ撒く聖獣に、近付けば呪いを傷に変える技術で追い込んでくる魔種。冗談めかしている敵意の塊を覆すには、マルク1人では手が回らない。治療に専念しているねねこの手を煩わせぬよう、タイムと連携しての治癒がどうしても必要だった。
 幸いにして、状態異常でどうにもならぬほど劣勢に立たされる者は『殆ど』いない。
「数で押し込んで前も後ろもない状況を作り出して、自分は真っ直ぐ旅人殺しに向かうわけでありますか。……反吐が出るほど正直でありますな。猪武者か、小娘」
「挑発に精が出ますね。それで? 私は止められましたか?」
 エッダの『先が読みづらい』構えは、確かにブランの視線を留め置くには十分だった。されど、衝動のまま突き進む彼女はその構えの本質を攻防の中で『見抜き続け』、一瞬の隙を衝いてエッダの視界から消失する。狙いは、一番距離が遠く、しかし狙いやすい相手――タイム。
 開いた口から覗く内顎は、タイムの喉元に2度3度と喰らいつき、呪文のリソースたる声ごと魔力を食いつぶした。潤沢な魔力を有する彼女がそれだけでどうこうなるものでもないが、傷は決して浅くはない。
「っ、タイムちゃん!」
「大丈夫です! 2人は――リュコスさんを!」
 最悪の場合、自らが盾になってでも旅人を護ると決意していたアーリア。が、彼女とマルクが手を貸すべき相手は他にいる。タイムは4度目の内顎をその手で掴み、絶対に逃さない決意を籠めて魔力を叩きつけた。
「……なんと度し難い事を……のうグドルフ、汝のお株が奪われそうじゃぞ!」
「おめえも言うじゃねえかアカツキ! そこの連中、得意の火で炙っておけよ……!」
 アカツキとグドルフが、この状況に何を思ったかなど考える必要があろうか? 魔力の流れは活性化し、方や敵を纏めるかのようにふっとばし押し込み、方や焔光を全力で叩き込んで次々と動きを乱し、続くリュコスやマルクへ確実に繋ぐ。治療だけでは救えない。攻めるだけでは届かない。マルクの魔力はそれを両立せしめる為に見る間に減り行くが、それに値する働きを見せた。
「ミサ・ブラン……貴様――ッ!」
 喉から血を吐くような声と共にエッダは叫び、そしてタイムが作り出した一瞬の隙を失わぬよう、駆ける。ブランは先の数合で、エッダの脅威はその構え、そしてそこから放たれる榴弾が如き拳だと理解していた。そこまでは、まあ間違いではない。
 ……だが、だからこそ反応が遅れた。
 徹甲拳が限界を超える稼働を予期して火花を散らす。
 目減りした魔力と奪われた魔力、それらを補う為の原初の連撃。きっと一番近くて遠い位置にいる、触れたくないが追いつきたい誰かのための唯一の拳。
「――雷神拳ッ!」
 一撃の重さではなく、回転数で。
 二撃目に籠められたのは自らの体力をも差し出す覚悟の試み。
 三撃目が振るわれる前に腕が止まった瞬間、振り上げられたブランの刃をアカツキの破光が思い切り叩いた。

●損益分岐点
「ほらエッダちゃん、貴女が傅くのはこんな小娘相手じゃないでしょ!」
「分かっていますよアーリア! ジョーク飛ばす暇があったらタイムに魔力を回すであります!」
「ねねこ人形がついてます、相手だって無傷とはいきませんよ!」
 エッダの肩越しに、アーリアはブランへと魔眼を叩きつける。間髪入れずに踏み込んだエッダやタイムの身を呪いが叩き、その体力を削り取っていった。だが、まだ――まだだ。身代わりとなったねねこ人形が小爆発を起こすことで着実にブランの体力を殺ぎ、アーリアの魔眼は一瞬なれども治癒能力を奪い去った。
「これで最後……だッ! マルク! おめえの全力をあいつに叩き込んでやれ!」
「そうさせてもらうよ……でも、その前に!」
 聖獣を殺し尽くしたグドルフの声を背に、マルクは両手の杖を掲げた。
 自らを起点とする回復魔術の波濤。その極致は、ブランの呪いに触れる己すらも由とする自己犠牲が伴う。それでもいい。この状況でそうせねば、彼のアイデンティティはどこにもありはしないのだから。
「違う――」
「逃げるのか?そうだろうな。いつだって貴様はそうだったろう。どうせ通り一遍の不幸は体験して来てるのだろう」
「違うっ!!」
「だから己は赦されべきだと思っているのだろう。そうなって、成った果てがそれだ。どこまでも哀れな餓鬼め」
 エッダは血まみれになりながら、ブランを睨みつけた。決死の覚悟、確殺の気概を伴って立ち続けた肉体は限界が近い。仲間だってそうだ。それでも殺す。必ず殺す。
「私はマザーから神の血を頂いた!救済(すく)われた! だからだから私は絶対、あなた達も不浄な世界も人々も、赦されないし赦さない! その子(まじょ)達を殺したあなた達も、そう――!」
「ハッ……メチャクチャな屁理屈だぜ。てめえのした事をおれらに責任転嫁してんじゃねえ。例え俺らを殺した所で──生きてる限り、てめえの責任(つみ)は残り続ける。だから終わらせてやるよ。死ねばチャラだ。だから、死ねよ」
「お主のような輩を見て、逆にアドラステイアという土地に興味が沸いてきたぞ。燃やしがいがとってもありそうじゃ!! だから手始めにお主を倒しておかねばのう!」
「本当に――面倒くさいですね。赦されないのも何処にもいけないのも、アドラステイアという場所に囚われたあなた達の運命でしょうに」
 グドルフは責任転嫁(つみからにげる)を見逃さない。アカツキは倒すべき敵、燃やすべき場所の端緒として彼女を選んだ。ねねこは、ただただ彼女が面倒で厄介だと、アドラステイアの縮図であると理解した。
 ゆえにイレギュラーズは、彼女を生かそうという選択肢を持ち合わせない。
「――シニタクナイ」
 機械的ですらある声だった。ブランの精神性なら、多分死ぬまで敗北を認めず戦っただろう。だが、その瞬間だけは違った。地を蹴り、血を撒き散らし、翼を震わせ彼女は飛んだ。
「――汚れた世界も、美しいものよ? それでも貴女は、それが嫌い?」
「ダイキライッ!」
 アーリアの問いに叩きつけるように返しながら、ブランは逃走に転じた……アカツキは気づいていよう。その体力が、総攻撃に転じればギリギリ潰しきれるものであることに。
 だが同時に、撤退基準(ボーダーライン)を割り込みかけていることも、彼女と治癒術が使える者達は気づいている。
「クソが……大人しく、死に曝せ、よ……」
「……ころ、す……」
 グドルフとエッダは、糸が切れたように膝をついた。気力が体力を凌駕した状態であった2人は、暫く立ち上がることはできまい。治癒術があったとて、だ。
「大切なものは手放して、罪ばかりはよく見えて。決めてしまうのは早かったね……大人たちの都合でどれだけの命が、ここで散ったの?」
「……タイムちゃん?」
 タイムは呆然とアドラステイアに向けて歩を進めながら、訥々と語る。
 救われるべき道を奪って、命すら奪って、その生き方を固定した。あの笑みで、あの姿で、あの立場で。
「ねえ、マザー・エクィル」
 あなたは何時まで奪い続けるの?

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)[重傷]
神殺し

あとがき

 お疲れ様でした。
 戦力的にはかなり充実していたと思います。
 ですが、だからこそといいますか、届かない部分が積み重なった結果です。
 聖獣全滅、ブラン体力極小にて撤退――成功に近かったと思います。
 今はまず、体を休めてください。

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