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シナリオ詳細

<Scheinen Nyacht2020>miau café

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●稼ぎ時と空っぽのシフト
「ええ……マジかあ……」
 Scheinen Nacht(シャイネンナハト)も近づこうというこの日、誰1人いなくなった店内の奥で唸る女性の姿があった。事務室なのだろう、書類などが乱雑に積まれた中で彼女は1枚の紙と睨めっこしている。穴が開くほどに見つめるが、残念ながらそこは何も書かれていない。
「まあ、年頃の女の子なんてそんなもんよねえ。さあどうすっか」
 頭を掻きながらひたすら睨む女性。魔法のように文字が浮かび上がるでもなく、そこには只々寂しい空欄があるのみなのだが、彼女もまた睨むことしかできないのである。
「店閉める? いやねーわ稼ぎ時だわ」
 見事なまでにまっさらなそれは、シフト表である。より正確に言うならばシフト『希望』表である。よりにもよってシャイネンナハト当日のシフト希望がゼロ。この状態で店を開けられるはずもないのだが、閉めるのもそれはそれで勿体ない日なのである。
 こうなっては仕方がない。バイトを出すより出費は重なるが、当日の売り上げを考えればそれでも黒字になるはずだ。
「イレギュラーズに体を張ってもらおう」
 善は急げ。女性は夜にもかかわらず、開いているであろうギルド《ローレット》へと向かったのだった。


●Scheinen N"y"acht
「シャイネンナハトなのです!」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が目をキラキラさせてそう告げる。今宵は世界に平穏が訪れる優しい夜。星降る夜に皆が願いを込めるのだ。
 ……が。『Blue Rose』シャルル(p3n000032)はユリーカの持つチラシを覗き込んで小さく首を傾げる。
「……ねえ、ユリーカ」
「はい!」
「今日は何の日なんだっけ」
「シャイネンナハトなのです!」
「……これは?」
「だからシャイネン……あーっ! こ、これは……シャイネン"ニャ"ハトになっちゃってるのです!」
 目をまん丸にさせたユリーカが手をプルプルさせる。チラシが破けてしまいそうで彼女の手からそっと外したシャルルは、改めてそのチラシを眺め見た。
「『期間限定、猫メイドカフェ人員募集』……? シャイネンナハトまで働かせる気なの」
 シャイネンナハトという記念日に働きたい者はなかなかいない。しかし店を持つ者にとっては稼ぎ時、ということでイレギュラーズから助っ人募集を出す依頼のようだった。
「シャイネンナハトも稼ぎたいイレギュラーズだっているはずなのです! シャルルさんもその1人にしてやるのです」
「横暴だな」
 誤字が恥ずかしかったらしい。参加者一覧へ書き込まれてしまった自身の名前にシャルルは小さくため息をついた。
「ちゃーんと働けば遊ぶ時間だってあるのです! だから依頼の時間はしっかり働いてきてくださいね」
「まあ、行く以上は働くけど……」
 けど、とシャルルは言葉を濁す。カフェというものもあまり行きはしないが。

「……『猫メイドカフェ』って……何……?」

 ――彼女は何も知らぬまま、スタッフとして働くこととなったのだった。

GMコメント

●オーダー
 猫メイドになってカフェのバイトをする

●募集人員
 イレギュラーズであること
 健康であること
 猫メイドとして接客できること(接客と思える程度に丁寧な仕事ができる事)

 性別は問いません

●業務内容
 猫耳カチューシャとメイド服で接客します。語尾は「にゃん」です。
 上記以外は普通のカフェです。皆さんはフロアという注文を取ったり、料理を運んだりする役目になります。ここまでが必要最低限の事項ですので、その他は自分たちで勝手にサービス付けて良いよって言われています。今年のシャイネンナハト限定サービスって事になります。
 そのためノリノリで出来る方はチェキサービスとかやっても良いです。普段からメイドが了承する時はお写真OKになっています。時間を長くとらない代わりに料金も取らず、結構人気です。

●NPC
『Blue Rose』シャルル(p3n000032)
 旅人の少女です。書類上は性別不明ですが少女です。なので(?)猫メイドになります。
 良く知らないまま来ているのでめちゃくちゃ渋々来ます。渋々やります。

●ご挨拶
 愁です。ほらスカート履くんだよ。
 男もヒラヒラフリフリの超かわいい制服で接客です!
 よろしくお願い致します!

  • <Scheinen Nyacht2020>miau café完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年01月11日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)
双世ヲ駆ケル紅蓮ノ戦乙女
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者
秋野 雪見(p3p008507)
エンターテイナー
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ

リプレイ


「主の降誕祭がかき入れ時とはね」
 『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)は何とも言えない表情で依頼先――今回の内容を思えばバイト先か――への道を歩く。今日は待ちに待たれたシャイネン・ナハト。朝ではあるが、既にどこか浮ついた雰囲気の人々が散見される。
 元の世界であればこの日(クリスマス)は教会でミサに参加したり、近しい人とささやかに祝ったりと慎ましやかなものだ。間違っても稼ぎ時、かき入れ時という表現はしない。ルチアがシャイネン・ナハトを過ごすのは初めてでもないのだが、毎年不思議に思うものだ。
(とはいえ、バイト代を稼ぎに来た私が言える立場じゃないわね)
 元世界でこうはいかなかっただろう。不思議な世界ではあれど、それを否定するようなことはしない、というかしようとしてもこの行動的にできない。
「かき入れ時っていっても年頃の女の子がクリスマス……じゃないや、シャイネン・ナハトにお休み貰いたいっていうのは普通だよねっ!」
 傍らを通り過ぎていった女の子を横目に『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)がくすりと笑う。カフェで働くような女子、女性たちだ。出会いだってあるだろうし恋愛だってするだろう。もしかしたらもう結婚している人もいるかもしれない。少なくともこの日を特別に過ごしたい人たちであるのは確かだ。
 では――ここにいる人は? と皆の意識が向くのは当然で。

 \それ以上は駄目にゃん!/

「この話は闇が深くなるから! は、花丸ちゃんだってこの後皆と遊ぶし??」
「「えっ」」
「私も予定、一応あるわよ」
「「えっ!?」」
 さらりと自分の予定を出した『紅蓮纏う黒薔薇』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)にも皆の視線が飛ぶ。まさか――他にも予定を伏せている人はいるかもしれないが――もっとおひとりシャイネン・ナハトの人がいると思っていたのに。
「でも放っては置けないでしょ? 人手が足りないなんて言われたら」
「勿論! 猫カフェのお手伝い、頑張るよ!」
 アリシアの言葉に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が力強く頷く。その言葉に『Blue Rose』シャルル(p3n000032)がそっと「猫メイドカフェだよ」と訂正を加えた。
「あっそうか! シャルルちゃんありがと! ところで猫メイドカフェってなんだろう?」
「……さあ……??」
 シャルルも薄ら困惑顔である。彼女の表情がわかるということは、おそらく見えている以上に困惑しているのだろう。
 猫カフェではなくメイドカフェでもなく猫メイドカフェ。猫とメイドの因果関係やいかに。
「ニルもよくわからないのですけど、お仕事一生懸命がんばります」
 『はらぺこフレンズ』ニル(p3p009185)にとっては頑張るべきお仕事。それがよくわからないものであったとしても、だ。

 そんなこんなで一同は店へ到着。入って来て良いと聞いているので躊躇いなく『Close』の札がかかった扉を開く。
 カラン、と心地よいベルの音が響いて。
「まだ閉店時間……あ、イレギュラーズか!」
 ぞろりとやって来た女性陣(性別不詳も含む)に店長らしき女性がぱっと表情を明るくする。イレギュラーズの手にした依頼書が自ら出したものだと気づいたようだ。
「それじゃあ早速着替えてもらおうか!」
「え、」
「うわちょっ、」
「あら、赤白なのね。いいじゃない」
 はいこれと9名は次々に制服を渡され、バックヤードの更衣室へ押し込められる。幸いであるのはそれぞれが個室になっており、着替えを仲間内で見られないことかもしれないが――。
「なにこれ」
「猫耳カチューシャ?」
「スカートしかないのですね」
「猫メイドってそういう……」
 口々に呟く声は聞こえるもので。一同は壁に隔たれた仲間の言葉を聞きつつ、サクサクと着替えていく。更衣室から出てくることに躊躇する者もいたが――そこは店長が(着替え済であることを確認した上で)容赦なく個室の扉を開けた。
「猫メイド……にゃりにゃり」
 アリシアは自らの姿を見下ろす。うん、久しぶりである。猫(耳カチューシャの)メイドといえば以前も経験がある。他にも様々な経験があるからきっと活かせるだろう。
「今日は頑張るよ! じゃなかった、頑張るにゃん!」
 こんな感じ? とノリノリなのは焔である。概ねカオスシードと変わらぬ外見の彼女だが、その頭部には自前の動物耳。自前オッケー出ました。
「うちも自前やね♪」
 『黒猫メイド』蜻蛉(p3p002599)もピコピコと自分の猫耳を動かす。その後ろでふっふっふと含み笑いをしたのは、
「―― 正真正銘ネコメイドの本領発揮にゃ!」
 猫だけでなくメイド属性も兼ね備えた『ニャー!』秋野 雪見(p3p008507)である。あとから「にゃん!」と言い直した彼女はノリノリだ。
「つけみみなんていらない、自前の猫耳にゃん!」
「うちも猫やし「にゃん」もにゃんのそのや」
「皆で頑張ろうにゃん! ほら、シャルルちゃんも一緒に!」
 ね、と焔が視線を向けた先は――店長に更衣室から出されたシャルルである。仏頂面にも見えるが耳は赤い。
「折角働くんだし、花丸ちゃん達自身も楽しもう? ねっ!」
「わ、わかってる! ……けど、皆すごいね」
 シャルルが視線をうろつかせれば、その視界に眩しい太ももが映る。いいふともも。
「これで猫メイド、ブレンダにゃんの完成だ……にゃん」
 準備は万端、伊達メガネをした『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)ことブレンダにゃんがきりりと立っている。可愛らしいメイドが多い中で際立つ存在感だ。
(猫メイドなんて別物かと思ったが……だが正確にはメイドの格好をしているだけだ)
 メイドはメイド、されどこの場にいるメイドは真のメイドにあらず――そうおもえばやれないことはないと自らを奮起させるブレンダ。そんな彼女にニルがそぅっと声をかけた。
「あの……変じゃないでしょうか?」
 ふわりと靡くスカートは心許なく。大丈夫だとブレンダが頷いたところで開店時間がやってくる。
「始めるとしましょうか。いえ。始めます、にゃん」
 ルチアは言い直してほんのり頬を赤らめ。けれどこれは仕事、全力で遂行するのみ。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様にゃん!」」」

 来店したお客様――否、ご主人様やお嬢様へ一礼し、席へ案内していく猫メイドたち。その最中、花丸は恥じらいながら接客するシャルルへ視線が向く。イレギュラーズの姿勢に感化されたか、シャルルも前向きな姿勢であるらしい。慣れない様子は愛らしく、客もそれを楽しんでいるようであったが、花丸はオーダーの隙にシャルルへ手招きした。
「ほらほら、ここまで来たなら笑顔だよ! その方がもっと魅力的になれるにゃん!」
「恥ずかしいとか困惑はあまりせずに。"なりきる"ではなく"堂々と立ちまわる"よ」
 アリシアもそっと寄ってきてアドバイスをするなりフロアへ颯爽と戻っていく。経験のあるアリシアは本職、いや天職といって差し支えない雪見にも負けないくらい堂に入っていた。彼女の背中と花丸を見てシャルルは頑張る、と頷く。
 ――この後のシャルルが見せた笑みに何人かの密やかなファンが出来たのはまた別の話。
「お帰りなさいませ、旦那さ……ご主人様にゃん」
 つい昔の癖で『旦那様』と言いかけた蜻蛉はさりげなく言い直す。本日の彼女は「三つ編みおさげに眼鏡、時々覗くクールな眼差し黒猫メイド蜻蛉にゃん」である。くい、と位置を直した眼鏡の奥から金色の視線が客を捉えるも束の間――。
「ちぃとばかしお姉さんやけど許して、にゃん?」
 右手を猫のように丸めてくいくいっとする仕草に客が早速悶絶する。くすりと笑みを浮かべた蜻蛉は席へ案内して注文を受けたのち、料理と共にカードを客へ差し出した。
「じゃんけんカード……うちに勝ったら美味しゅうなるおまじない、いかがにゃん?」
「します」
 即答だった。ちなみに負けて悔しそうにしていた。

「おいしくなぁれ、おいしくなぁれ……にゃん」
 チョコペンでパンケーキへ猫の絵を描いたニルは最後におまじないをかける。お嬢様方――女性客はほうと頬を赤らめてその様子を眺めていた。中性的なニルの一挙一動がクるらしい。
「どうぞですにゃん。お嬢様においしそうに食べてもらえたら嬉しいですにゃん」
「いっぱい食べるわ!!」
「おまじないのおかげでとっても美味しそう!!」
 きゃあ、とニルの言動に湧く女性陣。その隣の席では焔が早速チェキサービスを頼まれていた。
「もちろん大丈夫にゃん! それじゃあ並んで――はいチーズ! にゃん!」
 猫の手ポーズで客と一緒に映る焔。明るい笑顔を振りまき、次第にチェキのタイミングも増えていく。
「お待たせしましたにゃん、シャイネン・ナハト限定の『星降る夜』ですにゃん♪」
 雪見はそんな間をするりと猫のように――というか猫である――すり抜けて、客の元へ迅速かつ丁寧に注文の品を運んでいく。わぁ、と盛り上がる客に「ごゆっくりにゃん♪」と猫の手くいくい、可愛らしさ全開アピールも忘れない。そしてもちろん、
「私は別のお店でも働いているにゃん。メイドカフェ『スノードーム』をよろしくにゃん!」
 ちゃっかり自分の店を宣伝することも忘れない。店長に気付かれたなら大目玉かもしれないが、そこは上手くやるのだ。

 だがしかし、盛況ともなれば宜しくない客の1人や2人……いや3人も4人も出てしまうかもしれない。本日のバイトは普段と負けず劣らず目の保養ばかりである。そんな客を躱すのもイレギュラーズとなれば朝飯前か、ルチアは伸びてきた手をしなやかに躱して微笑みを浮かべる。
「猫は警戒心も強い生き物なのよ? というわけで、お触りは禁止とさせて頂きますにゃん」
 笑顔で、けれど強いそれに客は押し切ることもできずすごすごと下がる。蜻蛉もまた触れてこようとする客の腕をやんわりととった。
「今日は特別な日やの、ここのメイドは紳士に振る舞うご主人様が好きにゃん」
 ね? と首を傾げウィンクひとつ。そういうことなら、と客もデレて事なきを得る。そんな感じで美味いこと客の応対を続けていれば、どこからか「にゃりしあさんだ!」と言う声が聞こえてきた。振り返ればアリシアがそちらの方向へ小さく手を振っている。アリシア、ならぬにゃりしあか。
(接客なのだから丁寧なのはもちろんだけれど……尚更丁寧に対応したくなります、にゃん)
 そんな接客姿勢は誰にだって見られている。花丸もまた、笑顔におまじないにチェキサービスと全力接客だ。
「いってらっしゃいませお嬢様、お帰りをお待ちしておりますにゃん!」
「お帰りなさいませご主人様にゃん、お席へご案内しますにゃん!」
 人が出ていけばまた人が入ってくる。案内した焔はオムライスにケチャップで絵を描こうとして――よくわからないものができてしまった。
「ごめんにゃん……」
「大丈夫だよ、気にしないで」
「代わりに美味しくなる呪文を唱えるにゃん! もえもえきゅん♪ にゃん!」
 見た目はあれでも愛情を込めて、どうぞご主人様!
 ブレンダはミニスカをものともせず、抜群の記憶力と動きで注文をさばいていく。仲間たちへ向かう不埒な手も見逃さない。
「お客様、ちょっとよろしいですにゃん?」
 ――オハナシ(肉体言語)しましょうか。

「今宵はシャイネン・ナハト! スペシャルライブをおおくりするにゃん!」
 示し合わせていた時間になったなら、オーダーを仲間で負担しつつ何人かが簡易ステージに上がる。普段もここで小さなイベントをしているのだそうだ。
「ご主人様たちが少しでも楽しいひと時を過ごせるように、心を込めて踊り歌うにゃん! それじゃあ――」

 \輝かんばかりの、この夜に!/

 花丸の声を合図に曲が流れ始める。アリシアがマイクを持つと「にゃりしあー!」「かわいいー!」と声が上がった。
「最初は定番の曲からにゃん。ご主人様、お嬢様、聞いて行ってほしいにゃん」
 アリシアは定番から現代的な曲まで何でもござれ。その背後でニルが歌に合わせ飛んだり跳ねたりとパフォーマンスを付ける。しっとりとした曲調に代わったならマイクはルチアの手へ。世界は異なれども歌に込められた想いは変わらずと聖夜を言祝ぐ歌を紡ぐ。
「綺麗な歌……」
 誰かがうっとりと呟く。けれど焔の手にマイクが渡れば一転、ポップでキュートにはじけるような明るい曲が流れ始めた。
(パルスちゃんの真似とかしようと思って練習してたんだ!)
 ノリノリで元気に歌い始めた焔のバックで雪見がしなやかに、軽やかなバク宙やダンスを披露する。併せるようにブレンダもキレッキレに踊り、きわどいミニスカが揺れておおっと――主に男性陣から――上がった。
(おもてなしに世界は関係あらへんねぇ)
 蜻蛉もバックダンサーとして踊りながら、懐かしい感覚に身をひたす。踊りも装いも、音楽だって違うけれど躍る心は変わらないようだ。
 最後にびしっとポーズを決めたなら店は拍手喝采に包まれる。メイドたちは接客に戻るが、ライブ前より一段とお呼びが増えた。
「雪見ちゃーん! 最後にチェキとって!」
「もちろんにゃん! ぴーすぴーす!」
 出口の前で客と一緒に写真を撮り、握手をする雪見。勿論「また来てにゃん♪」とお誘いも忘れない。視線を巡らせれば――未だちょっと固めなルチアとシャルルの姿。けれど最初に比べたら断然慣れてきたようだ。
「おいしくなあれ、にゃにゃん」
「わぁ、ありがとう~!」
 嬉しそうな客にルチアも小さく微笑む。あとで思い返したら――なんて恥ずか死の予感を感じながら。
「あら、負けちゃったにゃん」
 じゃんけんカードで負けてしまった蜻蛉に期待の眼差しが向けられる。そんなにみられると恥ずかしいけれど、負けてしまったのだからやらねばならない。
「美味しゅうなりますように、にゃんにゃん」
 両手を添えての投げキッス。照れ混じりに少し伏せられた目元に色香が漂う。そんな彼女には勿論一定の人気がありながら、ニルのような中性的メイドもしっかりファンを確保しているようで。
「チェキにゃん? どうぞですにゃん」
 写真をと頼まれたニルは頷き、一緒に写真へ。満足そうなこの客がどうやら最後のようである。
 それでは最後は皆で――。

「「「いってらっしゃいませ、ご主人様にゃん!」」」



「お疲れ様! 閉店だよー!」
 生き生きとした店長が表の看板を『OPEN』から『COLSE』へひっくり返す。そうして振り返れば――。
「わぁ」
 半分くらいだろうか? 先ほどまでの接客姿はどこへやら、ぐったりと机に突っ伏すイレギュラーズの姿があった。
「こんなに過酷なものとは思わなかったわ……」
 ルチアは深いため息ひとつ。1日だけのバイトであったが、これを続ける正式なバイトの面々には頭が上がらない。楽しいという思いは確かにあったが思い出したら恥ずかしい。これが今日という日を思い出すたびにこうなると考えたら頭も痛くなってきそうだ。
「でも、大変だけど楽しかったにゃんっ!」
 花丸はくすりと笑ってから「あ」と口元に手を当てる。全ての客が引き払っているのだから「にゃん」を付ける必要はないのだが――短い時間のバイトでもすっかり癖になってしまっているらしい。
「皆、お知り合い来た?」
 バイト上がりに出されたお茶に口を付けた蜻蛉が視線を巡らせれば、誰もが首を振る。知っている人がいて尚このバイトをやり切れたと言うのならその人は素晴らしい役者になれそうだ。
(うちのところも来ていなさそうで、良かった)
 蜻蛉はそんな役者にはなれそうにない。だから『彼』が来なかったことにほっと息をついていた。性格を考えたらこういったカフェには来ないだろうが、それでも万が一ということはある。もしも会ってしまったなら――きっと、互いに固まってしまうだろうから。
「大変、でしたけれど……皆様で何かをするの、とっても楽しいです」
 ニルは小さく笑みを浮かべて呟く。客としてきた者をもてなし、その要望を叶えるように動く。人と同じような時間に憧れて、けれどまだ分からないことだらけなニルにとっては他の仲間より難しかったかもしれない。それでも――楽しかった、と。そう感じられたのだ。
 まあそれも大変なところ抜きにすれば、である。慣れない者からすればメイド、それもちょっと特殊なメイドともなれば荷が重い。
(本職の方……雪見殿もそうだが、尊敬するな)
 着替えて落ち着いたブレンダは彼女の方を見て小さく笑う。それに気付いた雪見はかくりと首を傾げるが、理由には思い至らなかったようだ。勿論彼女のような可愛らしいメイドもそうだが、幼少期の経験もありクールなメイドには頭が上がらない。ブレンダはメイドという存在に勝てないのかもしれない。
 だが自分がメイドになるのもこれでおしまい。次なんてないと思っておきたい。
「それじゃあ、今日はお疲れ様にゃん」
 にゃん。
「「「……」」」
 皆が黙り込む。うっかり口にしたブレンダ自身も。

 これは――店を出る前に、癖を抜かないといけないかもしれない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたにゃん♪

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