PandoraPartyProject

シナリオ詳細

針水晶の心臓

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●父の愛
 おとうさまとお呼びなさい。
 そして、静かに傅いて頭と垂れて紡ぎなさい。

 ――おとうさま。我らのいとしいお父様。
 今日も罪を滅ぼしましょう。ひとの命を愚弄する者達に同じ罰を与えましょう。
 それが我らに与えられた唯一無二の力なのですから。

 そうして告げられた宣誓にファーザーは微笑んだ。
 教えを乞うて頭を垂れる幼い少年少女。子供だらけの楽園は大人という特権階級が導かねばならぬものである。垂れ下がったハニーブラウンが赤らんだ頬に被さっている。
「リューイ、いけないよ。祈りを捧げるときは顔をよぉく見えるようにしなくては」
「ごめんなさい。ファーザー、髪留めが壊れてしまいました。
 髪留めの命が終わってしまったのだと思い、今日は黒い服に身を包んでその献身に祈りを捧げていたの」
「ああ、そうだったのか。それなら仕方が無いね。リューイ。
 けれど、今日君は『断罪』に向かわねばならないだろう? 教えは覚えているかい?」
「はい。ファーザー」
 リューイと呼ばれた娘は裾を引き摺るような真白のローブに身を包んでいた。そばかすの散った頬は赤らんだまま、深海ようにとっぷりと沈んだ蒼の瞳を瞬かせて彼女は言う。

 ――嘗て、わるい神様のために、断罪の刃を振りかざした蛮族がいました。
 彼等は偽りの神様と、偽りの正義の元、人の命を奪い続けたのです。
 魔女ではない者達を魔女と罵り、断罪を行った者達。
 偽物の星(アストリア)を信じ、彼女に全ての罪をなすりつけた卑怯なものたち。
 果たして、『不運なる枢機卿』アストリアは全ての罪を背負う大罪人だったのでしょうか。
 彼女を狂わせた世界や、周囲の蛮族が罪だったのではないでしょうか。
 我らは聖銃士として、『不運なる枢機卿』を二度と作り出さぬ為に断罪を行います――

●アドラステイア
 それは天義に存在する塀に囲まれた『独立』都市――架空の神ファルマコンを崇拝し、子供たちが毎日のように魔女裁判を続ける閉じられた世界。
 嘗て、天義を襲った災厄は人の心に惧れを芽生えさせた。尊ぶ神を信じる白き心に陰りを見せたのは神の膝元に存在した人々が『悪』であったからである。
 浅ましい程の神への冒涜。それをグレートして黙認していた神への忌避は新たな神を作り出した。天義から見れば、それは反乱分子でしかなかった。
 故に、その在り方に強い忌避を示した『聖女の殻』エルピス (p3n000080)は「おそろしいことですね」と呟いた。
「かみを尊び、かみを信じたはずの国のなか、こうして不安と怨嗟が新しい場所をつくるだなんて。
 ……アドラステイアの程近い場所に、聖獣さまと、呼ばれる獅子を連れたこどもたちがあらわれたそうです」
 それらは『偽物の星を黙認する人々』と天義の人々を呼び、その罪を雪ぐために命をもらい受けると行って憚らない。
 偽物の星――つまり、それは、枢機卿アストリアを差すのだという。
「枢機卿アストリアは、天義(このくに)において『最もタブー視』された存在です。
 魔である、その性質を隠し、悪逆なるこころを憚らぬ彼女をアドラステイアのその一行は『偽物の星が途を違えた原因はそれを黙認した蛮族にある』としています。
 ……それは、天義の国の人々が、彼女が魔であることに気付かず、その勢力を根強くさせたことを指している、のでしょう」
 気付かなかったことが罪ならば、人はどれほどの大きな罪を犯しただろうか。
 気付けなかったことが罪ならば、人は無自覚の十字架を背負い続けただろうか。
「……わたしは、それは罪ではないと、思います。
 そして、その為に命をもらい受ける、というのも理解が出来ません」
 アドラステイアの一行、『針水晶』と名乗った彼等の教義によるものだとしても。
 それがどれ程までに恐ろしい行為かを、『断罪者』と自身らを別個の存在として定義して責任から逃れようとも――自覚していないならば。
「……ひとをころすのは、恐ろしい事です。
 そして、それを止めるときに発する、殺人も、とても恐ろしいものです」
 引き金を引くように。
 人を害する者を止めるときに出る被害は又、大きいのかも知れない。

GMコメント

日下部あやめと申します。

●達成条件
・『針水晶』の一行を撃退する
・聖獣さまを撃破する。

●現場情報
 アドラステイアの程近い小さな村。敬虔なる神の徒たちが過ごしている場所です。
 時刻はお昼過ぎ。家屋などはある程度障害物となります。
 住民達は20人程度。とても、のどかな場所です。皆、戦闘が始まれば家屋に隠れるでしょうが、逃げ遅れる者が出る可能性もあります。
 其れ等を皆殺しにし、『断罪を行う』が為に、『針水晶』は現われたようです。

●『針水晶』の騎士たち 5名
 針水晶(ルチル・クォーツ)と名乗る騎士達です。彼等は『断罪の聖銃士』として自身らを定義しています。
 全員が幼い子供ですが、全員が金紅石を思わせる美しい石をはめ込んだ白い鎧を着用しています。聖銃士として認められた存在だそうです。
 彼等は皆、断罪を正義であると信じています。彼等は皆、それが自身らのいのちの在り方だと教えられました。
 そうしなければ、彼等には生きている意味が、ありません。

●聖獣さま(ルチル)
 白い毛並みの獅子です。金の眸に、水晶がはめ込まれたようにきらり、きらりと輝くからだをもっています。
 針水晶の聖銃士たちが連れる聖獣に個別の名前は存在しておらず『ルチルの聖獣さま』と呼ばれています。
 大きな身体で、とても強力な攻撃を行います。村人なんて、すぐに断罪してしまうほどの……。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

それでは、宜しくお願い致します。

  • 針水晶の心臓完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月09日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)
悦楽種
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
アイラ・ディアグレイス(p3p006523)
生命の蝶
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
紅楼夢・紫月(p3p007611)
呪刀持ちの唄歌い
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
策士
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
慈悪の天秤

リプレイ


 水晶の中、長く、長く伸びたその針は誰かを貫くために存在して居た。

 信仰とは恐ろしい。端から見やれば異常であれども、当人達はそれには気付かない。まるで、正しき行いをし、他者こそ認識を違えた異常者で有るかのように振る舞うのだ。『自堕落適当シスター』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)は「何が正しいかなんざ天の上で胡座かいてる奴が決めるこっちゃねぇ」と信仰者の装束に身を包みながらそう言った。神様なんて、都合の良い存在ではないのだから。
「ええ、ええ、つくづく信仰とは厄介なものですねー。私もイーゼラー教団などという組織に身を置いては居ますが、イーゼラー……様がいよーがいまいが別にどーだっていいですよー、
 最も大切なのは自分の意思、思考、欲望にごぜーますー。欲望に素直になれない程悲しいことはありませんからねー」
 信仰の在り方は人それぞれで。白髪を揺らがせた『恋感じる大百足』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)にとっては自己のこころこそが最優先されて然るべきだと識っている。
「けれど、正しさで人を殴る快感は……ええ、とっても気持ちの良いことですものね?
 お相手がそうだとうならば、私達だってそうさせて頂くと致しましょう♪」
 うっとりと、目を細めて。『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)の色付く春色の瞳に恍惚が耀けば、『呪刀持ちの唄歌い』紅楼夢・紫月(p3p007611)はん、と唇を尖らせる。
「そうやねぇ……戦うんは好きやし、理由なんてどうでもええんやけどタダの殺戮に興味は無いんよねぇ。
 殺す覚悟があるんなら、殺される覚悟もちゃんと持っとるんやよねぇ? まどろっこしいのは嫌いやわぁ」
 紫月がこてり、と首を傾げれば『白き牙』アイラ・ディアグレイス(p3p006523)は静かに首を振った。屹度、彼等は。そう続ける言葉には確証めいた響きが宿される。
 屹度、彼等は殺される『覚悟』なんて高尚なものを持ち合わせていやしないのだ。彼等は断罪を刷り込まれ、それを正義だと認識し、自己の信ずる正義に反する間違いを許しやしないのだ。
「……ボクはこういうの、好きじゃない」
 それも、彼等にとっては押し付けだと言われるだろうか。其れも致し方ないかと思うほどに身勝手な振る舞いをアドラステイアの聖銃士(こども)は行い続ける。教えられたちぐはぐなダンスを丁寧に踊る子供達。その作法が間違っていようとも、父が、母が告げたというならば。其れは致し方がない事であるかのように。
「許してはなるものか。アドラステイアの聖銃士による断罪は僕個人としても、シュヴァリエ家の一人としても到底許せるものではない」
 強き語気に孕んだ怒りは脈々と受け継がれる血が、確かに告げていた。民草は宝である。それを愚弄する行いは『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)はその名を以て『阻止』するべきだと堂々と告げた。
「まあね、許せやしないよ」
 何度か出入りをし、コンタクトをとってきた。一向に改善されない此の国は一枚岩では無いらしい。やれやれと肩を竦めた『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)は唇から漏れ出でた嘆息に僅かな諦観を混ぜ込んだ。
「まあ内部に干渉してないというか、出来ない以上はしょうがないというか。
 延々被害出まくってるのに。手が出せないもどかしさ。早く解決したいトコ……」
 出来ることから、と自身を納得させる事は容易だった。被害を減らせるのは幸いであるはずだ、と。
「――言えるかなぁ……焦るね」
 それでも、被害に遭う数を減らせれど犠牲は孕んでいる。故に。夏子は唇を噛みしめた。アイラが嫌ったそれは、シューヴェルトが否定するそれは、コルネリアの言う『歪な信仰』がなせる業。
「人間を殺した人は殺す前とは明確に何かが変わるらしい。
 何かの意味は解らないけど。良くない方向に変ってしまうことはわかる。
 だから、やらせたくないの。ゆずれないわたしのわがまま。だから――」
 行きましょう、と。淡い金の髪を揺らして、『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はそう唇で音奏でた。鮮やかな空色が細められて決意に溢れる。
 ゆずれないから、すすむだけなのだと。
 人は、そう信念を胸にしなくては何もなせないままだから。


 声を探すように。怖れる人々を救うが為に。メルトアイとアイラは進む。周辺地形の資料を読み解けば、アドラステイアと程近く、聳え立った塀が迫り来るかのような圧迫感を感じていた。
 複数の村人達を救うが為に。周囲の音を逃すまいと耳を欹てたコルネリアは装着兵装で知られる苛烈な乙女心を抱え息を潜めていた。
「逃げ遅れた村人の皆様を出来る限り保護しておきたいですものね」
「まあ、そうだよね。さて……大凡の位置は分かったみたいだよ」
 敵の位置の確認に、救いを求める声を無碍にすることなく夏子はそう呟いた。周囲に踊った蝶々は静かに声を届かせるように淡い光を踊らせる。アイラの索敵結果を受けて、布陣は構築されていく。
 空を歩む足下広がった魔法陣。燐葉と氷蒼で織りなされた氷妖精の祝福が焔神の血族の娘の足下で詰めたい加護を広げて踊る。ゆっくりと立ち上がった夏子の唇が奏でる音は明るく、村を包んだ鬱蒼とした空気を払拭するかの如く。
「ファルマコンとマブダチの僕の話聞く~?」
「何者ですか、ルチルの聖獣さまの御前ですよ!」
 金紅石を埋め込んだ白き鎧。清廉の象徴。少年少女の非難の声は夏子に向けての攻撃へと変化する。
 ココロは夏子をどれだけ支えてられるかが戦闘の要となる事を理解していた。魔法式医術の祝福が団結促すカンパニュラの如く音立てる。ブルーゾイサイトが散りばめられた魔導が海色の光を揺らがせる。
 聖銃士の背後で翼を揺らがせたのが『ルチルの聖獣さま』――白い毛並みに金の眸、水晶の如く、その体はきらりきらりと光を帯びて。
 上空より村人達の一把握に努めるアイラと、その指示を聞きながら避難を手伝うメルトアイは村人達を全て救うが為に尽力していた。

 ――『隠れるか、一番近くの家にのばらと言って入って。宝石を纏う子供を見たら逃げて』
 ――『鍵を閉めて身を護って。のばら、という合言葉があった場合だけ扉を開けて』

 のばら、の言葉が命を守るが為に。子供達を見詰めたピリムはその眸に嬉嬉たる色を乗せてわざとらしく首を傾いだ。
「脚を頂けるんでごぜーますか?」
 血肉を求めた妖刀は飢えたように眼前の聖獣と聖銃士を見据えている。斬脚緋刀を握るピリムは子らを殺さずと言う戦術に従うように騎士達を見据えていた。
「ルチルの聖獣さまって云うのは余り知らんのやけれど……在り方は気にいらんのよ。『うっかり』したら堪忍なぁ?」
 にんまりと微笑んだ紫月は黄昏を模した銃と紅に染まった妖刀を握りしめ地を蹴った。跳躍するが如く、その切っ先が孕んだ斬撃は穿つ殺人剣。白き騎士達は呻き受け止め「何てこと!」と叫んだ。
「聖獣さまに対してその様な! 私達の『断罪』を邪魔する気ですか!」
 叫ぶ少女に「リューイ、深追いするな」と一等重苦しい空気を纏う青年が注意した。リューイと呼ばれた娘はハニーブラウンの髪を揺らして苛立ったように唇を噛んだ。
「ッ――」
 盾をぎゅうと握りしめた娘へとシューヴェルトの放つ鋼の驟雨が降り注いだ。狂風の如き弾丸の雨の中、隙を突くようにコルネリアの精密なる一撃がリューイの頬を掠める。
「聖獣さまだかなんだかしらねぇけどさ、アタシたちは『それを信仰してない』んでね」
「異教徒!」
 歯を剥き出して苛立った少女にコルネリアは肩を竦めた。戦線より離れながらも巻き込まれぬようにとメルトアイは村人達を批難地点へと護衛する。
「よろしいですね? 『のばら』と告げてくださいませ。それならば、皆さんを救うことができますから」
 微笑んだメルトアイに幾重も頷く怯えた村人達。ココロは夏子を支えるべく邪悪を裁く神の憤り(ネメシス)を以て聖獣へと対抗し続けていた。
「聖獣さまか、断罪か。耳障りが良くて、使命感に満ちて、従えば楽に酔えるもんな」
 夏子のその言葉へと、騎士は「どういう意味だ」と唇を噛みしめた。陰雲の如き重苦しさをその表情に乗せた騎士へと白の魔法陣より蝶々が舞踊った。それは光あれと願う一人の娘の気持ち。煌めく愛しい色彩の宝石剣が燐葉色の蝶々がそれらを包み込む。
「キミたちの正義よりボクの正義の方が正しいんだ……!」
 正義に正しいかどうかが存在するのかは分からない。けれど――その正義を認めたくないからこそ。
 騎士を包んだ光と共に、『殺さず』の為に剣を振り上げたピリムは恍惚の笑みに唇を震わせた。
「フ……フフフ……おっと失礼、別に皆さんの信じるものを嘲笑した訳じゃねーんですよー。大人の言いなりになって動いてる皆さんが心底可哀想で、つい」


 その断罪は、身勝手で、覚悟なんて存在して居なかった。綺麗事で全てが罷り通るわけがないのだ。結わえた髪を揺らがせて、「堪忍なぁ」と幾度も言葉を重ねる紫月は聖獣さまに向かって剣を振り下ろした。
「恨みはあれへんのよ。気に食わんだけで」
 その言葉は低く囁く如く。夏子が引き付ける全ての中で流れ弾のようにイレギュラーズへと飛ぶ聖獣さまの凶爪がシューベルトの肌を切り裂いた。それでも貴族たる青年は怯むことは無い。
「君たちが今行っていることは意味のない虐殺だ。騎士を名乗るというのなら、民を罰するのではなく、導くことこそが騎士としてあるべき姿ではないか?」
「可笑しな事を」
 聖銃士――『針水晶』の騎士たちは鼻で笑った。シューベルトは「何が可笑しい」と低く問い掛ける。
「そもそも、此の村の人間は『我らが神』を信仰せず、外の神を信ずる悪しき存在ではありませんか! 彼等を断罪し、我らは神に認められなくては為らないのです。……導かれざる民の存在を認める事もできませんか?」
 饒舌な騎士の言葉を聞きながらコルネリアは虫唾が走ると小さく呟いた。
「……神の教えってのはテメェらの都合良いルールじゃねぇんだ」
 神様がそう言ったから。ファーザーがそう言ったから。都合が良い言葉ばかりを並べ立てた騎士達を穿つ弾丸は鋭く。
「今、何をしようとしたかわかってる? 人の命を奪えば、それは人の命を愚弄しているのと同じこと!」
「『我らが神』を信じないのに?」
 その言葉にココロはぐ、と息を飲んだ。彼等が為そうとする断罪(しょばつ)こそ『罪』であることを理解して欲しい。命を救うためにその力を振るう少女は願うようにそう言った――それでも、伝わることは無いのだろうか。
「人の罪を裁くのは人には、できないよ」
「いいえ、私達は認められたのです。この鎧こそが証左!」
 胸を張る騎士達は最早膝を突いていた。聖獣さま、お守り下さいと瞳を輝かせ、信ずる心を疑うとは無い。

 ――嘗て、わるい神様のために、断罪の刃を振りかざした蛮族がいました。
 彼等は偽りの神様と、偽りの正義の元、人の命を奪い続けたのです。

 蛮族と呼ばれた民達はシューベルトにとっては護るべき存在で。メルトアイは生きながらにして無力化出来るように試しみて困ったような表情を浮かべていた。
「ええ、ええ、分かりますわ。そうして自身が上位に立ち断罪することはどれ程に『気持ちよい』事でしょう?」
 悦楽の笑みの如く、背より生えた触手がぞろりと魔力を放つ。全ての魔力が破壊的な力を帯びて叩き付けられる。
「君たちの行為はなんて事ぁない、ただの暴力だよ。従えば楽に酔える使命感」
 夏子は謳う様にそう言った。自身から視線を逸らすなんて『ツレない』事は許さない。
 彼等は自信らの行いこそが正しいと、そう認識しているのだ。アイラが云ったとおり『正義の根比べ』のように感じていた。自身を支えるココロにもう少し頑張ってくれと強請るように一瞥し、溜息一つ。
(自分で考え、進んでやってるなら納得もする――が!
 子供を好き勝手するってのは、納得出来んよなぁ!)
 吹き飛ばすように。聖獣さまを退けんとする夏子に合わせて、ピリムは前線へと飛び出した。寒空の下でも露出したその肌は生き生きとした人間の気配を纏う。
「いや本当、ついつい以前の私と重ねてしまいましたよー。
 でもね皆さんのその思考、感情、本物ですかー? 物心付く前に植え付けられたものなんじゃねーですかー? もっと自分の欲望に正直になった方が幸せでしょーにー。私はそう思いますがねー」
 幸福が何であるか、彼等の欲望が何であるか、其れを知らぬ子らは果たして幸せであっただろうか。
 少なくとも、其れを理解はできやしないのだと――コルネリアは溜息を漏らす。神の御意志に従えば、万人の祈りが叶うかと。そんな紛い物が如き奇跡が起きる筈ない事を知っていた。
「私達は――!  偽物の星(アストリア)を作り出す蛮族を断罪しなくてはならないのです!」
 叫ぶ。其れこそが彼等の信ずるものであるかのように。シューベルトは否であると首を振った。
「その手の銃は民を罰し、殺すためのものでは無い! 民を守り、魔なるものを撃ちぬくためのものだ!」
 信ずるその方向が違う故。シューヴェルトの言葉は騎士達には響かない。騎士であろうとも、その方向性を違えていたならば。
 唇を噛んだアイラは蝶々を踊らせながら子供達を拘束するために手を伸ばした。リューイと呼ばれた少女を捉えようとしたその掌を弾いたのは背の高い青年であった。
「リューイに触るな、蛮族!」
 蛮族、と。そう呼んだのは自身らの『神』を信じぬ者を差しているのだろう。アイラが息を飲んで手を引けばココロは「蛮族なんかじゃない!」と叫んだ。
「人を殺す事がどれだけ恐ろしいか、其れを分かって欲しいのに!」
「そうすることで『お父様』に罪であると断罪されたら!? 居場所がなくなるだけだ!」
 そう叫んだその声にメルトアイは『恋』に似ているのだと見詰めていた。聖獣さまの体が崩れていく。壊れていく、それを眺めながらメルトアイはただ、逃げ果せようとする聖銃士を眺めた。
 彼等は恋するように溺れていたかった。信仰という甘い毒に。それから逃れるようにして走る背中をピリムと紫月は追うことは無い。
 ただ、『聖獣さま』が崩れ去ることが彼等にとっては耐えがたい苦痛であるかのようにコルネリアの双眸には映り込んだ。
 夏子は「キミ」と小さく騎士を呼ぶ。逃げようとする背中は大仰な鎧に包まれていたとしても、やけにちっぽけなものが存在して居るかのようだった。
「あのさ、ファルマコンが唐突に消えたとしよう。どうなるか分かる?
 何も起こらない、何も変わらない……今も存在してないし」
 囁く、その言葉に傷つく体を引き摺り、倒れた仲間を連れ帰ろうとした青年が夏子を睨め付けた。
 美しい白き鎧は嫋やかな花を思わせる。耀く宝玉に刺した針の如き鋭き気配を纏わせて彼は云った。
「私は針水晶(ルチル・クォーツ)の騎士、リナルド。
 何時か、『我らが神』がお前達に断罪の刃を振り下ろす日を――楽しみにしている」
 その眸を受け止めて夏子はどうだかね、と小さく呟いた。

 ――おとうさま。我らのいとしいお父様。
 今日も罪を滅ぼしましょう。ひとの命を愚弄する者達に同じ罰を与えましょう。
 それが我らに与えられた唯一無二の力なのですから。

 その言葉を口遊む。リューイと呼ばれた少女の背に、ココロは「待って」と声を掛けた。
 振り払うように逃げる少女に紫月は「覚悟があれへんかったらねぇ、何時か殺されてしまんよ」と静かに、静かに、謳う様に告げるだけだった。
 ルチルの聖獣さまが纏う光の気配が失せたとき、鎮魂を歌った彼女は「遣る瀬ない子らやなぁ」と囁いて空を仰いだ。降る、白き気配は儚くも消えゆ気配の如く。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)[重傷]
策士

あとがき

 この度はご参加有難う御座いました。
 針水晶のこども達は、屹度未だ、アドラステイアで活動をするのでしょう……。

 またご縁が御座いましたら、どうぞ、宜しくお願い致します。

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