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シナリオ詳細

家焼く季節。或いは、今年の屋敷は良く燃える…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●嵐の夜の来客
 吹き荒れる風。
 轟く雷鳴。
 大粒の水滴が窓ガラスを打ち付ける。
 嵐の夜だ。
 風に吹かれた庭の樹が、葉の落ちた枝を激しくざわつかせていた。
 昼過ぎころから降り始めた雨は、夜中になってますますその勢いを増している。
 季節外れの台風は往々にして強力なものになるとはいうが、それにしたって些かに強く降りすぎだ。
 冷たい雨に打たれることを嫌ってか、普段であれば仕事の帰りに酒場へ集う市民たちの姿もまばら。
 人気の失せた大通りは、まるでゴーストタウンのような有様であった。

 暗雲の中、走る紫電に空が一瞬真白に染まる。
 まるで、これから起きる大騒動の予兆のようだと、空を見上げて彼は呟く。
 ところはドゥネーヴ領、ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)の邸宅である。
 明かりの消えた一室で、向かい合うは2人の男女。
 屋敷の主たるベネディクトと、その友人たるアカツキ・アマギ (p3p008034)だ。
 雨に濡れた灰の髪を、自前の炎で乾かしながらアカツキはじぃとベネディクトへ視線を向けた。
 そのどこか胡乱な眼差しに、ベネディクトは思わず背筋をぞくりとさせた。
 嵐のせいか、はたまた部屋の暗さがそう見せているのか。日頃の快活さも、今日に限っては大幅な陰りを見せている。
 冷たい雨に打たれたせいか、その顔色からは血の気が失せているようだ。もとより肌の白いアカツキではあるが、今日この時に至ってはまるで幽鬼のごとくであった。
 ふぅ、と小さな吐息を零し、アカツキはその桜色の唇を開く。
「最近、ぱーっと盛大に何かを燃やしておらんと思わんか? べーくん」
「……そうか、もうそんな時期なんだな」
 
●家を焼くのに良い季節
「なるほど。そういうことでしたら、ちょうど良い依頼があるですよ」
 翌日。
 嵐の去った快晴のした、ベネディクトとアカツキはローレットへと足を運んだ。
 アカツキのストレスを発散させられる依頼はあるだろうか……そんなベネディクトの問いを受け『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は1枚の依頼書を取り出す。
「これは? なかなか立派な屋敷のようだが」
「築100年ってところかの? 良く燃えそうじゃが」
「ご察しの通り、これは貴族の別荘なのです。とはいえここ数年は放置されていたもので、ついには魔物が住み着いてしまったらしいのです」
 一見しただけでは分かりづらいが、屋敷の内部は魔物によって散々に荒らされているようだ。
 魔物を駆除し、内装を整備しなおすには些かコストがかかりすぎる。
 加えて、持ち主である貴族も高齢であり、今後屋敷を訪れることも無いらしい。
「かといって魔物を放置するわけにはいかず、また屋敷をそのままにしていてもいずれ同じことが起きるのは明白なのです」
 このまま屋敷を魔物の巣とし続けるぐらいならいっそ壊してしまおうと、そういうわけだ。
 魔物ごと屋敷を破壊してしまえば、処分にかかる手間も少ない。
 また、郊外にある丘の上に建っているということもあり少々派手にやったところで周辺被害が出ることも無い。
 まさに“燃やす”にうってつけの物件であった。

「ストレスを溜めている者が居るのなら、一緒に屋敷を破壊せんか?」
 アカツキの放ったその一言を受け、集まったのは6名のイレギュラーズたち。
 皆の前に立った彼女は、どこか浮かれているように見えた。
 よほどに家を焼くのが楽しみなのだろう。
 そんな彼女の興奮が伝播したのかアルペストゥス (p3p000029)は床を踏みならし「くぅるるる!」と吠えた。
 気分の昂ぶりによるものか。アカツキの炎とアルペストゥスの紫電が飛び散る。
「思う存分やれるってんなら是非もねぇが……巣食っている魔物ってのはどんな奴なんだ?」
「どんな相手だろうと、花丸ちゃんが殴り倒してやるけどね!」
 ひゅおんと空気を裂きながら、新道 風牙 (p3p005012)は愛槍を頭上で旋回させる。
 拳を握る花丸もまた、やる気十分といった様子だ。
 ストレスが溜まっていたのか、それとも暴れたい気分なだけなのか。
「依頼書によれば、どうやら植物……トレントやウーズのような魔物らしいな。多少頑丈ではあるが、破壊衝動をぶつけるにはうってつけとも言える」
 と、紅茶を口に運びつつグレイシア=オルトバーン (p3p000111)はそう告げた。
 落ち着きのある紳士然とした振る舞い。
 その眼差しにほんの一瞬、冷酷な光が宿って見えた。
 仲間たちは知らぬことだが、グレイシアは元・魔王だ。当然、トレントやウーズといった魔物たちのついての知識もあり、それらがいかに“的”として優れているかも熟知している。
 注意すべきは【乱れ】や【痺れ】【猛毒】【弱点】といった状態異常。
 今回の場合で言うのなら、屋敷と半ば同化していることによる耐久力の高さにも気を配るべきだろう。
 敵の数は不明だが、屋敷に近づく外敵に対し無警戒な魔物はいない。
 それどころか、意気揚々と獲物を排除するために襲いかかってくるはずだ。
「敵の種類や目的については理解したけど……ねぇ、ここに書いてる一文ってどういうこと?」
 とルアナ・テルフォード (p3p000291)が依頼書の下部を指さした。
「屋敷の材質は“エキサイティング・サンダルウッド”。注意されたし……ですって」
「あぁ、気がついたか。実は……」
 ルアナの指摘を受けたベネディクトの表情は、困っているような、愉悦を感じているような、なんとも奇妙なものだった。

「エキサイティング・サンダルウッド……通称“戦士の休息”とも呼ばれる樹木だ。リラックス効果および興奮作用のある良い香りで知られる樹でな。古い貴族の屋敷の建材として使われるほか、かつては戦場に赴く戦士たちが木片を懐に忍ばせていたという」
「リラックス効果と興奮作用?」
 ベネディクトの説明を聞き、ルアナははてと小首を傾げた。
 静と動、相反する作用に疑問を抱かずにはいられなかったのだ。
 そんな彼女の疑問に、解をもたらしたのはしにゃこ (p3p008456)であった。
「はいはい! しにゃ、知ってますよ! マタタビみたいなものですよね!」
「マタタビ?」
「しにゃこ。説明不足だ……まぁ、要するに効果が高すぎるのだな」
 エキサイティング・サンダルウッドを建材とすれば、屋敷はほのかな良い香りに包まれる。
 戦場で懐に忍ばせたそれを嗅ぐことで、心が安らぐことでも知られている。
 けれど、しかし一度それに火がつけば辺りには成分を多量に含んだ煙が立ちこめるだろう。
 薬も摂取し過ぎれば毒となる。
「……簡単に言うとな、多量に摂取してしまうと、気分が異常に高揚するんだ」
 つまりは、最高にハイってやつである。
 もしも貴方が冷静であることを望むのなら、煙を多量に吸い込まないよう注意してほしい。

GMコメント

●ミッション
貴族の屋敷および、そこに巣食う魔物の完全排除

●ターゲット
・トレント&ウーズ×?
樹木の姿をした魔物&それに不随する粘菌状の魔物。
屋敷内部にそれらの母胎が巣食っている。
屋敷に攻撃および接近することで、トレント&ウーズの子個体たちが迎撃に出てくるだろう。
トレント&ウーズたちは頑丈だが、限界を迎えると気味良く砕け散る。
また、火を付ければ当然のように燃える。
燃えるが、しかし、そのままだと炭になるまでは走り続ける。
とはいえ、街や近くの森に着く前に炭になるため被害が広がる心配はないだろう……。
炎上中は通常攻撃やスキルに【火炎】が付与される。

枝葉:物近単に中ダメージ、乱れ、弱点
 トレントの枝は岩を削るほどに硬く、そして良くしなる。

胞子:神遠範に中ダメージ、痺れ、猛毒
 ウーズの拡散する胞子は、視界を緑に煙らせるだろう。

・貴族の屋敷
丘の上にある貴族の屋敷。
築100年ほど。建材にはエキサイティング・サンダルウッドが使われている。
二階建ての洋館。
正面には広い庭があり、庭の中央には噴水が設置されている。
 

●フィールド
丘の貴族の屋敷。
周辺に森や街はないため、盛大に火を放つなりしても被害が広がることはない。
屋敷の正面には広い庭がある。
遮蔽物などは存在しない。
とはいえ、焼けば当然煙りが立ちこめることになるが……。

屋敷はエキサイティング・サンダルウッドで出来ている。
煙を多量に吸い込むと、気分が異様に高揚するため注意されたし。
冷静でいたい人は、何らかの対策を行うことをおすすめする。
家を焼くことに抵抗を感じる場合などは、敢えて煙を吸い込むのも良いだろう。
なお、人体に害はない。
現在、エキサイティング・サンダルウッドが普及していないのは「戦場で摂取し過ぎた兵士がちょっと盛大にやらかしちゃったから」である。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 家焼く季節。或いは、今年の屋敷は良く燃える…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年12月27日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ルアナ・テルフォード(p3p000291)
魔王と生きる勇者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華

リプレイ

●趣のある良い屋敷
 築100年ほど。
 木造3階建て。
 主な建材は“エキサイティング・サンダルウッド”。
 リラックス効果がある良い香りのする木材だ。
 元は貴族の屋敷ということもあり、外観、内観ともに一級品。
 丘の上に建っているため、周囲は静かで、そして景観も良い。
「はやく、早く行こうベーくん!! 楽しみで仕方がないのじゃ」
「あぁ、いい物件が見つかって良かったな。これも天運と言っても良いかも知れん」
と、『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)はそう告げた。彼の青い瞳に映るのは、わくわくした様子で笑顔を浮かべる『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)の横顔である。
「今年もやって来たのじゃ。空気が乾燥し、それにより木材も乾き、燃えやすくなる時期。
そう……ファイヤーボーナスタイムが……!!」
 突き上げた拳に炎が灯る。
 民家も屋敷も教会も、炎を付ければ燃えることには変わりない。
 さぁ、盛大に燃やそう。
「おい、アカツキ! くーれーぐーれーも! やり過ぎるなよ? ほどほどにな?!」
「うむ。分かっておるのじゃ」
「本当か? フリじゃないからな?」
 愛槍を肩に担いだ『天翔る彗星』新道 風牙(p3p005012)が、胡乱な眼差しをアカツキに送る。アカツキは今にも駆け出しそうな瞳で大きな屋敷を凝視していた。
 不安は募るばかりである。
「一緒に屋敷を破壊しないか? って改めて凄いパワーワードだよね」
 苦笑を零した『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は、マスクとゴーグルで顔を覆った。
 屋敷を燃やした際に出る煙を吸い込まないようにするためだ。
 何しろこの屋敷の建材である“エキサイティング・サンダルウッド”の香りは、気分をひどく高揚させる。多少であればリラックス効果も得られるだろうが、吸い込みすぎは危険なのだ。
「煙を吸い過ぎるとハイテンションになるんだよね……なるほど、ふむふむ」
そう呟いた『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)の視線は、傍らに立つ『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)に向いていた。
 眉間に皺を寄せた彼の表情も“エキサイティング・サンダルウッド”の香りを嗅げば、幾分マシになるかもしれない。
 そう考えると、ルアナの胸中で悪戯心が首をもたげた。
「ルアナよ。渡したマスクはどうした?」
「マスク? いらないよ?」
「……何故、マスク等を拒否する者が居るのだろうか。家屋の破壊、それも火災を伴うものならば、マスクをせぬ理由は無いと思うのだが」
 常識なんて人それぞれだ。
 自分にとって“当たり前”の事柄も、誰かにとっては“当たり前”では無いなんてこともあり得るのである。
 例えば、そう。
「最近寒いですからねー! 焼き芋が恋しい季節です! という訳で焼きます! 皆さんはじゃんじゃん燃やしてください!!」
 『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)にとっては、火なんてものは食物を美味しく調理するための道具でしかないのである。
 抱えた袋に詰まっているのは大量の芋。
 凝縮された甘みが特徴的な、豊穣の名産品である。
「スンスン」
芋を焼く準備を進めるしにゃこの傍に『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)が歩み寄る。
 しにゃこが手にした芋に鼻先を近づけて……。
「……ギャウッ!」
 ばくん、と。
 顎を開いて、しにゃこごと芋を咥えこむ。
「あ、ちょっとアル君! くわえないで!? 分かった! わかりましたから! ちゃんと働きますから!」
 じたばたと暴れるしにゃこの腕から肩にかけてを咥えたままで、アルペストゥスは翼を広げ地面を蹴った。
 青空へ向け舞い上がっていくアルペストゥスの背に向けて、アカツキはぴょんと飛び乗ると……。
「いざ行くぞ、アルよ!  既にしにゃこをくわえて準備万端ってところじゃが、甘噛みは良いがブレスの弾にしてはならぬぞ~!」
 開幕の狼煙とばかりに、屋敷へ向けて業火の弾を投げつけた。

●匠の御業
 屋敷の扉が開くと共に、ぞろぞろと庭に現れたのは木の魔物。
 黴か粘菌のような何かをびっしりと纏ったその名は“トレント”。粘菌の魔物“ウーズ”と共生状態にあるそれこそが、屋敷が廃棄されるに至った理由にほかならない。
「出て来たね! それじゃ、派手にやってやろう」
 おーっ! と気勢を発揮しながら花丸は屋敷へ向けて駆けていく。
 その後に続く風牙へ、グレイシアが待ったをかけた。
「マスクをしておくべきじゃないのか?」
「あ、マスク? 大丈夫だって。ちょっと気分が高揚するだけなんだろ? 戦いではそのくらいがちょうどいいって!」
 もたもたしていると、花丸に獲物をすべて奪われかねない。
 行ってくらぁ! と、槍を旋回。
 風牙は身を低くして駆けていく。

 花丸の拳がトレントの胴を陥没させた。飛び散る木っ端を浴びながら、彼女はさらに拳のラッシュをトレントの胴に叩き込む。
 猛威を振るう花丸へ向け、数体のトレントが近寄った。それを確認し、彼女は笑う。
「っし!」
 腰溜めに構えた両の拳に業火が灯り……。
「集まってくれてありがとう。お礼にカム着火ファイヤーさせてインフェルノさせるねっ!」
 姿勢を低くした花丸は、薙ぎ払うように体ごと拳を旋回させる。
 拳を浴びたトレントが激しく燃え上がり……そして……。
『ギィアァァ!!』
 けたたましい悲鳴をあげて駆けだした。
「これがファイヤーダンス……いのちの輝き!」
 業火に包まれ、駆けだしたトレントを眺め、花丸はそんなことを呟いた。

 燃える枝が風牙の肩を激しく打った。
 痛みと衝撃に、ほんの一瞬、風牙の脚は止まりかけるが……。
「ちびっとだけ厄介だけど、やることは単純明快! 深く考えずにいこう!」
 屋敷を壊しに来たのだから、トレントなんぞを相手にしている時間は無いのだ。
 鋭い刺突でトレントの胴を撃ち砕き、屋敷へ向かって駆けていく。
 すれ違うトレントを回避し、薙ぎ払い、そして屋敷に辿り着いた風牙の隣に、花丸が並んだ。
「暴れて! 壊す!」
「ぶん殴る!」
 ドカンと一発。
 槍と拳が、屋敷の壁を撃ち砕く。

 雷鳴。
 そして咆哮。
「クルルルルッ! ギャアアウッ!!」
迸る紫電によって、屋敷の屋根に穴が空く。
 豪快なその一撃を見てアカツキは機嫌良さげに呵々と笑った。
「ギャァウ!」
 楽しそうにしているアカツキを見て、アルペストゥスも嬉し気に吠えた。上機嫌で何よりである。
『ギィィアアァ!!』
 空いた天井の穴から這い出すトレントたちが、一斉に胞子を拡散させた。
 現在屋敷は、トレントたちの巣と化している。住処を襲撃されたことで、怒り心頭といった様子。迎撃のためにぞろぞろと出てくるそれらに向けて、しにゃこはバチコンとウィンクを飛ばした。
「猛毒の胞子は効きませんよ! 恍惚をつけておくんで、アカツキさん、どうぞ気持ちよく燃やしちゃってください!」
 しにゃこのスキル【しにゃこラブリーフェロモン】により撒き散らされる可愛いオーラが、トレントたちの心を侵す。
「ナイスなアシストだ!  では、ダメージを二倍で倍々ファイヤーじゃー!!」
 アルペストゥスの背に仁王立ち、アカツキは頭上に両の腕を突き上げた。
 舞い散る熱波に巻き上げられて、灰の髪が激しく靡く。
 彼女が腕を振り下ろせば、二条の火炎が空を走った。
 それはトレントの頭部を穿ち、たちまちのうちに燃え上がらせる。
 火だるまとなったトレントが、ゆっくりと屋敷の内部へ落下していき……。
 
 燃える屋敷。
 立ち込める白煙。
 炎に焼かれたトレントたちが、次々と屋敷を飛び出してくる。
 濛々たる煙の中を、ゆったりとした歩調で進むグレイシアは「ふむ」と、小さく呟いた。
 彼が腕をひと振りすれば、解き放たれた閃光が迫るトレントの身を引き裂く。
 そんなグレイシアの背後から、ルアナはそっと手を伸ばし……。
「マスクを取ろうとするんじゃない」
 ひょい、と首を傾げることでルアナの腕を回避してグレイシアはそう告げる。
 空ぶったルアナは不満気に頬を膨らませるが、その目はしっかりとグレイシアのマスクに向いていた。
 どうやらまだ、マスクの奪取を諦めてはいないようだ。
「むー」
「諦めよ。それより、火を放つのなら計画的にな。退路を断つ事の無いよう……」
「うん。壁どーん! ってぶち抜いて、でも柱は倒さないようにしないとだね」
「よろしい」
 では、実行だ。
 なんて、グレイシアが告げると同時にルアナは剣を高く掲げて駆けだした。
 ルアナの行く手を遮る無数のトレントは、グレイシアが閃光を放つことで退け道を開いた。
「思いっきりやっていいんだよね!  たのしそう!!!!」
 日頃であれば、家屋はなるべく壊さぬようにと依頼される身なればこそ。
 思いっきりに家を壊して良いという、今回の依頼は実に珍しく、そして開放的なものである。何かと忙しい日々だ。溜まりに溜まったストレスを発散するのに最高の依頼。そして、煙を吸ったせいか、絶妙にハイになったテンションがルアナの心から“自制”と“遠慮”、2つの単語を消し去った。
「あひゃひゃひゃひゃ!」
「……だからマスクをしろと言ったのだ」
 愚かしい、と額に手を当てグレイシアは低く唸った。
 直後、鳴り響く轟音。
 ルアナが屋敷に、全力全開の一撃を叩き込んだのである。

 一方そのころ、屋敷の内部。
 花丸と風牙が柱や壁を壊しながら駆けまわる姿を横目に、ベネディクトは階段を駆け上がっていく。
 燃え広がる火炎。
 炎に焼かれ悶えるトレント。
「さて、俺に炎は扱えんが……力任せに強引に壊す事ならば十二分に出来る。派手に暴れるとしよう」
 アカツキの炎がより効果を発揮する場を整える。
 そのためにこそ、彼は奔走しているのである。
 槍を一閃。
 柱が折れた。
 刺突によって、壁が砕ける。
 硬くしまった扉をけ破り、逃げ惑うトレントを【クラッシュホーン】で打ち砕く。
 けれど、しかし……。
「なんだ……これは?」
 2階へ上がったベネディクトの進路を、太い木の根が封鎖した。
 巨大なそれは、どうやらトレントたちの母体の一部のようで……。
「生樹は上手く燃えないからな」
 せめて細かく砕くとしよう。
 なんて、小さく呟いて2槍を構えてベネディクトは駆け出した。

●上手に焼けたね
 窓が割れ、壁は砕け、家具や食器は粉々になって燃えていく。
「ははは! めちゃくちゃ散らかってら!」
 散らかしたのは風牙であるが。
 煙を吸い込み過ぎたのか、ハイテンションで槍を振るう彼女の頭には“破壊”の二文字しか残っていない。
「燃えやすいようにもうちょい細かくぶっ壊していくか。この柱とかへし折っておくか?」
「炎に囲まれてグワーッってならない様に注意してねっ!」
 少し様子のおかしくなった風牙へ向け、花丸は軽く注意を促す。
 とはいえしかし、彼女もまた破壊の快感に心を奪われているのだろう。打ち砕いたトレントを、火炎の中へと蹴り込む時の表情は、実に楽し気なものだった。
「おっと、そうだった。煙も充満して来たしな。壁に穴開けて換気しよう! そーらどかーん!」
 恍惚とした表情で風牙は壁に向けて駆けだした。
 全力疾走の加速を乗せた鋭い突きが、燃える壁へと突き刺さる。
 砕けた木っ端と火炎を周囲に撒き散らしながら、風牙は庭へと転がり出て行った。
 一体何がそんなに面白いのだろうか。ゲハハハハ! と、哄笑を上げる風牙はまるで、性質の悪い酔っ払いのようでさえある。
「……ファイヤーしてハイになり過ぎてるね?」
 そんな風牙を一瞥し、花丸はそう呟いた。

 空を舞うアルペストゥスを下から見上げ、ルアナは「ほへー」と声を零した。
「アルさんに乗せて貰ったり咥えられたり楽しそうだなー。わたしも今度お願いしてみよ」
 なんて呟きながら、近くを走るトレントへ渾身の斬撃を叩き込む。
 そんなルアナの隣に並ぶグレイシアは、軽く彼女の肩を叩いて言葉を投げた。
「煙が充満してる空間にはなるべく立ち入らないように。一旦、屋敷から離れた方がいい」
「だいじょうぶだいじょうぶ」
 なんて、言いながらグレイシアのマスクへ向けて手を伸ばす。
 ルアナの手を払いのけ、グレイシアはため息を零した。
「どこが大丈夫なのだ」
「……あるぇ?」
 エキサイティング・サンダルウッドの良い香りに包まれて。
 おじさまと慕う紳士に心配されて。
 おまけに家を壊して暴れて……。
 ルアナは何だか幸せだった。

 迸る雷撃。
 砕けた壁が焼け焦げる。
 煙の最中を突っ切って、アルペストゥスが降下した。
「クルルルルッ! ギャアアウッ!!」
 目指す先に見えるは大樹。
 トレントたちの母体である。
 煙に交じって舞う毒胞子も何のその。加速したアルペストゥスの背中の上で、アカツキは特大の火球を形成していた。
 彼女がそれを、トレントへ向け放つ寸前……。
「ぬっ……⁉」
 白煙を払い、太い木の根が迫り来る。
「クゥ!!」
 アルペストゥスは咄嗟に翼で空を打ち、強引に軌道を修正した。
 咥えられたままのしにゃこが「あぁぁあぁ」と悲鳴を響かせるが、トレントの一撃を喰らうよりはマシだろう。
 けれど、しかし……。
「うぁっ⁉」
 アルペストゥスの背の上を木の根が通過し、アカツキの小さな体を空へと弾いた。
 燃え盛る屋敷へ向けてアカツキの身体が落ちていく。
 アルペストゥスは急ぎその後を追うが、間に合わない。
 そして、アカツキの身体が家屋にぶつかる……その刹那。
「注意力が散漫しているんじゃないか?  不用意に煙は吸い過ぎない様に注意する様にと言っただろうに」
 アカツキの身体を受け止めたのは、ベネディクトであった。
 強引にトレントの壁を突破して来たのだろう。金の髪は煤で汚れ、頬や首にはいくらかの傷を負っていた。
「お、おぉ? 助かったのじゃ」
「うん。さて、それではそろそろ屋敷を完全に壊してしまおう。トレントも減って来たからな」
「おぉ、そうか。ならば、じっくり丁寧に燃やすとしよう、半端に残すといかん依頼じゃからな!」
 と、そう言ってアカツキは懐から幾つかの小瓶を取り出した。
 小瓶の中身はどうやら油のようである。
 ベネディクトは小瓶を受け取り、巨大トレントへ向けそれを投擲。瓶が砕け、トレントの身に膨大な量の油が降りかかった。
「わはははは、よい匂いの煙に何だかテンション上がってきたのじゃ! アルよ! 派手に爆発をキメるぞ!」
 煙を吸い込み過ぎたのか、アカツキのテンションは最高にハイにキマっている。
 頭上を舞うアルペストゥスへ合図を送り、彼女は再度左右の腕に火炎を纏った。
「ギャァオウ!」
 アルペストゥスの咆哮と。
「ヒャッホーウ!」
 アカツキの大笑が響き渡った、その直後。
 巨大トレントに業火と轟雷が着弾。その全身を激しく燃え上がらせるのだった。

 煙をキメたアカツキとアルペストゥスの一撃により、トレントは業火に焼かれて炭と化す。
 焼け崩れる屋敷から脱出した一行を待ち受けていたのは、木材を積んで待機していたグレイシアとルアナであった。
 しにゃこが置いて行った芋を焼いているのだ。
「いぃ感じに焼けてますね! ほら、花丸ちゃん、1本どうです? ほら、ぐいっと行きましょぐいっと! 何? しにゃの焼き芋が食えねーってんですか⁉」
「食べるよー! 超食べるよー!  美味しくてついついテンションが上がっちゃうねっ!」
 アハハ、と盛大に笑いながらド突き合い、互いの口に焼けた芋を突っ込むしにゃこと花丸を見て、アルペストゥスは困惑顔だ。
「そうだぁ! 美味いだろぉ! 花丸ちゃんも喜んどる!」
 普段からハイテンションなしにゃこであるが、今日は一段とひどかった。
 焼け残っていた“エキサイティング・サンダルウッド”をひと口齧り「まずい!」と叫ぶ。そして、口直しとばかりに芋をひと口。
「サンダルウッドは少しは持ち帰っても良いが、悪用はせぬ様に頼むぞ」
 消火用の水を用意し、ベネディクトはそう告げた。
 誰も聞いてはいないようだが……。
 現状冷静でいる者は、グレイシアとベネディクト、そして“エキサイティング・サンダルウッド”が抜け始めたことで、晒した醜態に落ち込む風牙の3人だけのようである。
 花丸とルアナは場の雰囲気に飲まれているのか、妙にテンションが高かった。
「いやー、最高の依頼じゃったな」
 なんて、晴れ晴れとした笑顔で芋を齧るアカツキの横顔を見て、ふわりとベネディクトは微笑んだ。
「偶にはこういった依頼も良いかもしれないな」
「まったくだ……少々、気疲れしてしまったがね」
 ベネディクトの呟きに、グレイシアが言葉を返し火中の芋を拾い上げた。
 半分に割った片方をベネディクトへと手渡して、グレイシアはくっくと肩を揺らして笑う。
 そんな2人の眺める先で、貴族の屋敷は良く燃えていた。

成否

成功

MVP

アカツキ・アマギ(p3p008034)
焔雀護

状態異常

なし

あとがき

上手に焼けました。

この度はリクエストありがとうございました。
楽しく屋敷は焼けたでしょうか?
そろそろ年末ですね。
火の用心を心がけて、良い年越しを迎えましょう。

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