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シナリオ詳細

小さな不正義と断罪の子供達

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 馬がいななき、足元が揺れる。
 マルセラは内壁に背を当てて踏ん張った。
「おります! おりまーす!」
 おじさんの腕をくぐり抜けて、人の間をもみくちゃになりながらすり抜ける。
 乗合馬車から降りると、粉雪の混じる十二月の冷たい風がマルセラの髪をさらった。
(……ここまで来たら、きっと誰も私を探せない)
 そんな風に考えると、胸の奥が急に軽くなる。
 なけなしのお小遣いがいつまでもつかなんて、今は考えたくも無かった。
(こんなのあとできっと不正義だと叱られる、でも……)

 十歳の少女マルセラは昨夜、家出した。
 切っ掛けは些細な事である。
 夕方から家の商店を手伝うように言われていたのを忘れて、友人と遊んでしまったのだ。
 それ自体は謝罪したのだが、父は癇癪を起こして彼女を怒鳴りつけた。
 溜息を吐いた母は、何もしてくれなかった。
 だいたい、そんなところ。
 天義の小さな町の、なんでもない家族と、なんでもない少女と、なんでもない出来事だ。

(どうしよう、どこにいこう……)
 そんなことを考えていると、突然押さえつけられた。
 叫ぼうとしたが、手のひらが口を覆っている。
 身をよじったが、かかとが石畳をひきずって、身体が暗い路地に引きずり込まれる。
 誰が、なぜ、どうして。
 家出した罰なのだろうか。不正義だから、断罪されるのだろうか。
「騒がれると面倒だ。おとなしく眠らせろ」
「はやくメルセデス先生に引き渡すんだ」
 考える間もなく、意識は闇に沈んだ。


「……ん。ラヴィネイルです。女の子がさらわれました」
 天義の少女マルセラは、ごく普通の少女である。
 どこからどうみても普通であり、家は小さな商店を営む普通の家庭だ。
 けれど両親を旅人(ウォーカー)とする家に産まれた。

 天義東部では『アドラステイア』という街が独立を宣言し、不気味な動きを見せている。
 従来の天義の教えを拒絶し、ファルマコンという新たな神をあがめ、無法地帯と化している。
 彼等は天義に住まう旅人(ウォーカー)を拉致し、断罪の儀式に用いるらしい。
 見過ごすことも出来ないが、内容が知れぬまま騎士団を動かすのも難しい。
 そこでアドラステイアに関する案件は、ローレットに持ち込まれることになった。

 情報屋の調べによると、拉致されたマルセラはアドラステイア下層に捉えられていると思われる。
 さらったのは孤児達のグループで、アドラステイア内で評価を稼ごうという魂胆だ。
 孤児達には指導者がおり、先生(ティーチャー)と呼ばれている。

 イレギュラーズはアドラステイア下層に潜入し、マルセラを救出するのだ。
 急がなければ彼女は断罪の儀式と称して、殺されてしまう。
「気をつけて下さい。ティーチャーは聖獣を操ります」
 きっと戦闘になる。孤児達とティーチャー、扱う聖獣は情報屋が調べてくれている。
 構成は子供達が十名、ティーチャーが一人、聖獣が八体。
「それでは……よろしくお願いします。アドラステイアは危険な場所、どうかご無事で……」

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。
 浚われた女の子を救出しましょう。

■依頼達成条件
 マルセラを無事に救出して、敵を振り切る。
 倒してしまってもだいじょぶですが、時間がかかりすぎると脱出が大変かも。

■フィールド
 アドラステイア下層です。
 時間は夕方。だんだん暗くなっていきます。
 スラムのように煩雑で、ごみごみしています。
 救助と脱出のルートは、あらかじめ分かっているものとします。

・簡素な石造りの牢(鉄の格子に鍵がかかっている)に潜入する。
 場所は分かっています。
 マルセラを助け出しましょう。
 見張りの子供が二人居ます。武装しています。速やかに対処しましょう。

・気付いた他の敵と戦いながら逃げる。
 ここは敵地で、地の利は向こう側にあります。

■敵
・見張りの子供達 二人
 剣で武装しています。強くはないです。

・追っ手の子供達 八人
 剣や銃で武装しています。強くはないです。
 脱出ルートのあちこちに潜んで襲撃してきます。

・ティーチャー・メルセデス 一人
 黒衣の女性。神秘攻撃と回復が得意。指揮能力があります。
 連れ出すと追いかけてきます。

・聖獣 八体
 白くて細い二メートルぐらいの人間型です。
 顔に目はなく鼻と口はあり、身体中に紋様が刻まれています。
 無機質な羽が生えており、異様に長い手足をしています。
 爪や牙に毒があり、雷の魔術を使います。
 脱出ルートのあちこちに潜んで襲撃してきます。

■マルセラ
 天義の普通の十歳の少女。
 人間そのものですが種族的には旅人。
 牢の中で足を鎖に繋がれ、重い鉄球が移動を邪魔しています。
 泣き疲れてぐったりしています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

  • 小さな不正義と断罪の子供達完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月28日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ
アリシス・シーアルジア(p3p000397)
黒のミスティリオン
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
白夜 希(p3p009099)
死生の魔女
微睡 雷華(p3p009303)
雷刃白狐
リーラ ツヴァング(p3p009374)
蠱惑可憐な捕食者

リプレイ


 夕暮れ時の明かりが路地に差し込んでいる。
 イレギュラーズが進む通路は、時折鳥の鳴声が聞こえるぐらいでとても静かだった。

「アドラステイアの子供たちにはそれぞれの事情があるけど。
 今回は誘拐した子を連れ戻すのだから躊躇うような何かは無い」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は周囲を警戒しながらぽつりと呟いた。
「子供達を助けたい。できれば、アドラステイアの子供達も」
 ぎゅっと胸元で指を握りしめたココロは振り返り、『折れた忠剣』微睡 雷華(p3p009303)を見つめる。
「ん……小さな女の子が理不尽な目に遭っているのは、見逃しておけない。
 必ず助け出そう……」
 雷華はココロの呟きに応えた。雷華も同じ気持ちだと小さく頷く。
 それに同意するのは『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)だ。
「……こうして、攫うのがやり方ですか。個人の物語を踏みつけたやり方は、いつか崩壊するものですよ
 何はともあれ……今は彼女の物語を、救いに行きましょう」
 リンディスは路地の先を見据える。
 この先を行けば少女が捕まえられている場所に辿り着くはず。
『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はぐっと唇を噛みしめる。
「小さな子が浚われて囚われている……そんなの見過ごせる訳ないよね!」
 きっと今頃恐怖に怯えているに違いない。小さな子供にとって、知らない場所につれて来られ身動きが取れ無くされるというのはどれだけ絶望なのだろうか。
「絶対に助けて、家族と会わせてあげるんだ!」
 スティアは胸を掻きむしられる思いで路地を身長に進んで行く。

「何度かこの街にかかわったが、なんというか。
 さすがに本腰を入れて調査と化したほうが良いんじゃないか?」
 呆れたように『壁を超えよ』杠・修也(p3p000378)が溜息を吐いた。
「上からの目線になってしまうがあまりにも子供たちが哀れだ」
 このアドラステイアという街は、一部の大人に大勢の子供が洗脳とも言える状態で管理されている。
 孤児達をかき集め、独立国家としてファルマコンという新たな神を崇めているのだ。
 年端も行かない子供が、ぎらついた目で裏切り者が居ないか見張っている生活。
 修也にとってそれは酷く異質に思えた。
「聖獣も……少し前に聖獣と戦ったときに、そのなんだ、ちょっと思うところがな。
 まあ、でも今回の仕事は救出だその辺の疑問は置いておこう」
「クフフ……まだ幼子を攫うだなんて許せませんねぇ」
『蠱惑可憐な捕食者』リーラ ツヴァング(p3p009374)は少女のような見た目ではあるが、それに似つかわぬ様子でねっとりと笑う。彼女にとって少女とはまだ護られる存在であるべきなのだ。
「旅人……旅人。成程」
 思考の海の中。手がかりを探して考えを巡らせる『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)は少女の種族が旅人と言うことに気付きを得た。
「彼らの教義は未だよくわからない所ですが、態々狙って拉致したのはその辺りの関係でしょうか
 これが得点になるのなら、初めてでもないのでしょう」
 アドラステイアの子供達は、功績を挙げる度に先生(ティーチャー)からキシェフのコインを貰う事が出来る。このキシェフのコインはアドラステイアにおいて最も重要な価値を持つ。
 中層からもたらされる配給物資を得る為の対価。生活に直結したお金の代わりだ。
 配給品のグレードを上げたりよりよい家に住むことが出来る。
『衣食住』に直結するものに、人間は貪欲になる。
 キシェフを得る事が出来るなら迷わず妖しい者を魔女裁判にかけ疑雲の渓に突き落とすだろう。
 洗脳された子供なら、なおさらだ。
 アリシスは暗い表情で通路の奥を見つめる。

「……あまりの容易さに誘いなのか疑う所ですが」
 ここまでイレギュラーズが侵入しているというのに、見張りも無く進む事ができていた。
「ティーチャーは兎も角子供達だけではこんなものとも言える。まあどちらでも良いでしょう」
「助けやすいのはありがたいけどね」
 アリシスの考察にスティアが応える。二人が前を向く先にはリーラが先行していた。
 用心深く虫らしくかさこそと移動しながら子供や聖獣の気配を探る。
「うん。フヒ……大丈夫そう」
「ああ、この辺りには敵対心を持つ気配は無さそうだ」
 リーラの探索と修也の感知によって、イレギュラーズは順調に進んでいた。
「マルセラちゃんの居場所や脱出ルート……ある程度調べがついてるのは助かるね」
 雷華の声に『白い死神』白夜 希(p3p009099)が頷く。
「出来れば敵も味方も誰も傷つけないで救出できたらいいね」
 相手は子供だから手荒な真似はしたくないと希は祈るのだ。
「うん。その為に私達が来たんだもの。頑張ろうね」
 希の肩を優しく叩くスティアは微笑んだ。先行するリーラも親指をあげる。
「フヒヒ……索敵はお任せくださぁい」
「私も、脱出の方のルートを検証してますので」
 リンディスは注意深く通路を観察し、隠れられそうな場所を見つけていた。

「見張りは、二人か」
 修也は皆を待機させ、見張りの動向を探る。
「準備はいいか? いくぞ!」
 短く切られた合図。一斉にイレギュラーズが石造りの牢へと走り込んだ。

 ――――
 ――

 見張りの子供を制圧したイレギュラーズは牢の中に入り捕えられた少女マルセラの元へ駆け寄る。
「助けに来たよ。もう大丈夫だからね」
 ココロは怪我が無いか念入りに確認し、応急処置を施した。
「枷を外してしまおうか」
 希はマルセラの足に嵌められた鉄球付きの枷を手にする。持って歩くには邪魔であろう。
 だが、簡単に外れそうに無い鍵に眉を顰めた。
「ちょっと、ここじゃ外せなさそう。鎖だけ切ろう」
 リンディスが破片がマルセラに飛ばないよう腕の中に庇い、最小限の力で希は鎖の弱い部分をキンと切り裂いた。希はマルセラをリンディスに任せ目を閉じる。
 この場所でティーチャーに殺された子は居ないか。それを確かめるために霊魂を探す。
 もし居たのならば、指導者に対して復讐を頼みたいと思ったのだ。
 希の瞳に儚い灯火が見えた。何人もの焔に希は眉を顰める。
 生前の記憶を繰り返しているのだろうか。助けてと訴えかけてくる。
「ごめん。君達はもう助けられない。君達は死んだ。君達を殺したのはティーチャーだ。だから、そいつに復讐をしてほしい」
 しかし、この場所に残った魂魄はティーチャーに怯えている。それだけ、怖い思いをしたのだろう。
 復讐をするほどの怒りより、恐怖の方が大きかったのだと希は悟った。
「わかった。なら着いておいで。ここから一緒に出よう」
 希は残された霊を連れて牢を出る。

「よし、これなら歩けそうだね」
「ありがとう」
 雷華がマルセラの頭をなでて安心させる。
「敵がこっちに近づいてる。急ぐぞ!」
 修也の声にリンディスが慌てて少女を背負った。
「大丈夫? 疲れたら変わるから」
「はい。行きましょう!」
 雷華の気遣いにリンディスは大きく頷いて、牢から走り出した。


 迷路のような路地裏に閃光が迸る。
「マルセラちゃんも子供なら、彼らもまた子供。そのどこに違いがあるっていうの?
 子供達はできる限りなら殺したくない!」
 ココロは泣きそうになりながら目くらましの意味も籠もった神光を放った。
 襲いかかってくる子供達は、洗脳されている。
 深海しか知らない海種の子供に、陸地の楽しさを説いてもそれは遠い世界の話にしかならない。
 この場所に居る子供達は、ここが全てで。ここで生きて行くしかないと思っている。
「死なせないようにしなくちゃ」
 彼等を解放する時は今ではないから。
 けれど、マルセラだけは取り返す。彼女には両親と普通の生活があるのだから。
「こうやって襲ってくる子供たちの中にも同じ境遇が居たりしたのではないでしょうか……」
 背中のマルセラと同じように浚われてつれて来られた子供が居たのではないか。
 リンディスは背に重みを感じながら考える。
 こんな辺鄙な場所。しかも城壁に囲まれた街である。
 大人達が居ないということは、何処かからか『連れて来られた』可能性は大いにあるだろう。
 小柄なリンディスが背負って移動し続けられるだけの小さな子供を連れてきて洗脳し、敵を襲わせるように洗脳するなんて不愉快極まりない。
「敵とはいえ、洗脳まがいの教育で従って子達を殺すのは忍びないからね。
 いつか助けてあげられると良いのだけど」
 スティアはリンディスの前を走りながら子供達を止める。
 子供達がいくら武装しようともスティアの前にはどうしようもなく無力だ。
 ナイフや剣の刃を掴んで動けなくするのだ。敵意があるか限り、武器を離そうとしないと踏んで。

「――神の愛を此処に。眠りなさい、罪深き者よ」
 アリシスは子供達を傷つけないように即座に聖なる術式でなぎ払う。
 子供達は痛いと思う間もなく、気絶し通路に横たわった。
「流石に、地の理は向こうにあるということですかね」
 脱出ルートとして想定される道に、何処からともなく表れる子供に首を傾げるアリシス。
「小さい子供の身体で、通気口を渡って来て居るのかも知れないね」
 雷華がアリシスの頭上にあるダクトを指差す。
 確かにこの大きさのダクトなら、子供の身体であればそれなりの速度で移動してこれるだろう。
「相手の陣地に乗り込むって大変だね」
「ええ、けれど必ず成功させなくてはなりません」
 アリシスと雷華は子供達を邪魔にならないように通路の端に寄せる。

「この先に隠れられる場所があります。注意してください!」
「そうだな。リンディスの言う通りだ。敵が潜んでいるぞ。聖獣だ!」
 リンディスと修也の声に、狭い通路に二体の聖獣が現れる。
「迂回出来ればよかったけど。この道しか見つからなかったよ。ごめんねぇ」
 先行して他の通路を探していたリーラが申し訳なさそうに戻ってくる。
「大丈夫だよ。一気に倒してしまえば問題ないよ。私が抑えるから、安心して!」
 真っ先に走り出したスティアが敵を引きつけるように前に出た。
「こう見えても、耐えられるよ! だから早く!」
 細く儚い見た目とは裏腹に、スティアは聖獣二体を相手に怯む様子も無い。
「可能なら時間をかけて聖獣を調べたい所ですが……」
 アリシスはスティアが相手取る聖獣を見つめる。
「とはいえ、成程。確かにこれらの個体は人に近い……ティーチャーら指導層の補充元は何処か」
 普通に考えれば貢献著しい子供を引き上げる形。そして功績に与えられる『イコル』という存在。
「聖獣がそういうものであるのなら、つまり……変質した者と、しなかった者……?」
 その線を結びつけるにはまだ情報が足りないのかもしれない。
 この状況下では詳しく調べることは困難。推察の域を出ないだろう。
 アリシスは首を振って目の前の戦闘に意識を戻す。

「――おやおや、騒がしいと思ったら『悪魔』が迷い込んでいましたか」

 屋根の上から、黒衣を翻しながら舞い降りてきたティーチャー・メルセデスがイレギュラーズの後ろに表れる。聖獣とメルセデスに挟み撃ちされてしまったのだ。
 しかし、アリシスは冷静にメルセデスへと攻撃を仕掛ける。
「神の慈悲を此処に――天主よ、彼の者の罪を赦し給え」
 有無を言わさず放たれた光刃にメルセデスは怯んだ。
 その隙をついて修也はメルセデスの前に立ちはだかる。
 メルセデスと聖獣の挟み撃ちとなってしまえば、時間が掛かりすぎるだろう。
 その間に他の敵が現れる可能性が高い。
 修也とスティアは目配せをした。
「こいつは俺が抑える! リンディスと雷華は先に。リーラは先導してくれ!」
「任せたよ!」
「小癪な……!」
 マルセラを背負うリンディスへと攻撃を繰り出すメルセデス。
「させません!」
 リンディスはマルセラへの攻撃を自分の身で受ける。
「お姉ちゃん……っ!」
「心配いりませんよ。走れますか? さあ、行きましょう。生きて帰るんです」
 こんな所で潰えていいはずも無い命だ。リンディスは希の周りに集まっている魂魄を見つめる。
 あの牢屋で消えてしまった命たち。彼等のようにさせてはいけないとリンディスは傷を負った痛みに歯を食いしばって耐える。

「こんな小さな子をさらってきてどうしようっていうの?」
 ココロの声が薄暗くなってきた通路に響いた。
「外から来た者達に、教えても理解できないでしょう? その点、子供は素直です。
 疑う事もせず、従順に教えに従ってくれる」
「従わなかったら……どうなるの」
 ココロはメルセデスを睨み付ける。彼女は指を希の周りに漂っている魂魄へと向けた。
「教えを理解できない不道徳な者はいりません」
「そんな! ひどい!」
 ココロは激昂しメルセデスへ攻撃を放つ。
 彼女の攻撃に合わせるように希はその身に宿した闇を解放した。
 硬質化した闇が足元から突き出して、メルセデスにあたる。

 イレギュラーズの攻撃にメルセデスが怯み隙が出来た。
「今だよ!」
 リーラのかけ声に合わせて、リンディスと雷華がマルセラを抱え戦場を抜け出す。
 リンディス達を追いかけないように、スティアは聖獣を挑発した。
 ココロや希も雷華達を追うように戦場を抜けて行く。
「お二人とも、先に行ってますよ」
 アリシスは修也とスティアに声を掛けて走り去った。

「先に行け! 俺一人なら蹴散らして逃げられる!」
「随分な自信ですね。痛い目を見せてあげますよ!」
 スティアの背を押して、メルセデスの攻撃をはじき返す修也。
「分かったわ。ちゃんと戻ってきてね」
 スティアの姿が見えなくなったあと、修也はニヤリと笑う。
 そして、傷だらけになりながらも、無事に戻って来た修也に仲間は安堵の表情を浮かべた。


 リーラと雷華はマルセラを家に送り届ける。
 親身になって話すリーラにマルセラは心を開いたようだった。
 頭を下げる両親に雷華は少女が頑張ったのだと伝える。
「彼女は辛い目に遭ったのに、しっかり動いてわたしたちについて来てくれたから助けられた……
 だから、あんまり叱らないであげて。今は帰って来たことを喜んで」
「もう、無茶しちゃだめだよぉ」
「ありがとう! お姉ちゃんたち! 他のお兄ちゃんやお姉ちゃんにもありがとうって伝えてね!」
 元気に手を振るマルセラの笑顔を遠くから見守っていたイレギュラーズはほっと胸を撫で下ろした。

「今回はマルセラを助ける事ができたが。そうやって掴まってしまった子供達も居たのだろう」
 修也の呟きに希が周りに浮かんでいる魂魄を撫でる。
「あのメルセデスに洗脳されていた子供達も気がかりですね」
「助けてあげたいけど」
 リンディスとココロが悔しげに肩を落とす。
「でも、あの子だけでも助けられてよかった」
 マルセラの命だけは守ることができたのだから、今は良しとしようとスティアは声を掛けた。
「ええ。彼等の事はこれから、解き明かしていきましょう」
 聖獣の事も気になるとアリシスは頷く。

「さあ、そろそろ家にお帰り。もう怖くないから」
 希が魂魄にささやきかければ夜空にゆっくりと昇って行った。
 イレギュラーズはどうか帰れますようにと祈りを捧げる。

成否

成功

MVP

杠・修也(p3p000378)
壁を超えよ

状態異常

杠・修也(p3p000378)[重傷]
壁を超えよ

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 無事に少女を救うことができました。
 MVPは殿を務めた方にお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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