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シナリオ詳細

白魔に呪う

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●死ねばいいのに
 深雪に一歩踏み出せば、たちまち雪崩込んで足を覆い隠した。
 真新しい生傷に障る、無慈悲な歓待。
 もう一歩踏み出せば、頭を掠めた枝葉の積雪が爆ぜた。
 目を、頬を、顔中を無数の冷気が刺す。
 けれど、優しい。あの人達よりも。
 いつだって雪は優しくて、誰にも平等だ。

 平和な村だと思っていた。
 次々と若者が村を出ていく中、久しぶりに生まれた子供だからと、皆愛してくれた。
 なのに、少し前に母が病気で亡くなった頃から、遺された自分と父は村ぐるみで無視されるようになった。
 世間話はおろか挨拶にさえ応じられず、無理に接しようとすれば石を投げられ、寒水で追い払われた。
 食べる物の交換など以ての外だ。
 然らば困窮は免れず、食い詰めた父はささやかな備蓄の全てを娘に与えた。
 そして冬が訪れる頃、ついに弱り果てて倒れ、今際の際にこう言った。
「母さんを助けたくて神様に頼みに行ったんだ」
 それがいけなかったのだと。
 すまない、すまない、と。
 彼はうわ言のように繰り返し、息を引き取った。

 きっと父が母の為に頼ったのは、村外れにある聖域の神様。
 守り神とされながら、その居所に立ち入る事は重大な禁忌だった。

 何が、いけないの。
 誰にも治せないから神様にお祈りしただけでしょ。
 どいつもこいつも、なんでも力になるなんていい人面しておいて。
 お母さんの病気が感染るのが怖くて家に近寄りもしなかったくせに。

 あんな村なくなればいい。

 口の奥で食い縛った歯が欠けた。
 握り締めた拳に、もう感覚はない。
 足には痺れるような激しい痛みが続いている。
 体が重くて。
「……?」
 急に、風が止んだ。
 気がつくと、目の前に沢山の柱が並んでいて。
 その向こう、一番奥にはとても腕の長い人のような姿をした、奇妙な像がそびえ立っていた。
「かみ……さ、ま?」
 もう口が上手く回らないけど、そんなことどうだっていい。
 すがるように駆け寄った。
「あっ」
 けれど、もう足があるのかどうかも分からなくて。
 もつれたらしくて。
 よろめいて、神様にしこたま頭をぶつけた。
 赤くなった視界で大人よりも背の高いそれを見上げると、お腹にさっきまでなかった不思議な模様が浮かんでいた。
 ひとつしかない目が光って、石だと思っていた長い両腕が鞭みたいにしなって。
 周りにある柱を、一気に薙ぎ倒した。
 雪や石がほこりみたいにふわっと舞い上がって。
 なんだかとても眠くなった。
 だって、安心したから。

 これで、もう。


●白魔に呪われた村
「オイスターホワイトはお好きかしら」
 プルー・ビビットカラーはイレギュラーズにそう言ってから、物憂げな視線をそちらに送った。
 曰く、この近隣の森に囲まれた雪深い山村にて、化け物が暴れ回っているとの事。
「土地の人の話では、それは守り神で、誰かが“聖域”を荒らしてその逆鱗に触れた――なんてフクシア・フューシャな報告も届いているわ。いずれにせよ、やるべき事は変わらないのだけれど」
 現地へ向かい、その守護神とやらを討って村を守らなくてはならない。
 つまりはそういう事だ。
「……念の為、もうひとつ」
 次いでプルーが紡ぐ言葉もまた――彼女式に言えばスモーキィ・アクアな空の如く――憂鬱なものだった。
 なんでも、この村では父一人娘一人の家が村ぐるみで無視され、困窮に喘いでいたという。
 いわゆる村八分である。
「つい先日、父親の方が他界した。そして遺された娘はその後……姿を消したそうよ」
「しかし、それが件の化け物と何か関係あるのか?」
 訝しむ者の疑問符に、プルーは分からないとばかり首を振り、なお胡乱にいらえた。
「ただ、このエクル・ベージュな“事実”だけがある。どう見るかはお任せするわ。“真実”はいつだってイリデセントなものだから」
 そうして彼女は自ら招いた物憂い空気を振り払うように笑みを湛え、話を結ぶ。

「以上よ、イレギュラーズ。今すぐ村を救って来て頂戴。シャルトリューズな報告、期待しているわ」

GMコメント

 藤たくみです。
 本件がPPPにて手掛ける初シナリオとなります。
 何卒よろしくお願いいたします。


●目的
・化け物の討伐を通じて山村の被害を食い止める事

●主な戦場
 森の木々と共にある三十戸ほどの山村。
 立地条件の都合上村としては手狭。
 小さな広場を囲んでひしめき合っている。
 時間帯は日中。
 季節柄雪が深く、現在も降雪中。風は弱め。
 到着時の被害状況は三分の一の半壊〜全損。
 負傷者若干名、死者はなし。
 村人の様子は逃げ惑う者、家に閉じこもる者など様々。

●討伐対象
 村で暴れている化け物(ちなみに色はオイスターホワイト)
 守護神ともされるが詳細不明。
 少なくとも動作に知性は感じられない。
 全長3mの二足歩行型。
 頭部が楕円形で縦に大きく肩の高さは2mほど。
 末広がりな形状の脚部は短く移動速度はやや遅い。
 硬そうな質感に反し、動作は柔軟。
 特に太く長い両腕は触手じみた動きを可能とし、更にある程度伸縮する。
 この腕を鞭のようにしならせたり、真っ直ぐ突き出して攻撃する。
 これらは家屋や木々を纏めて薙ぎ倒す威力を持つ。
(前者は【R1・範】、後者は【R3・貫】、共に特殊効果【体勢不利】)

●娘
 年の頃は十二〜十三歳。
 公的には現在行方不明。
 下記、及びOP内『●死ねばいいのに』の項はPL情報。
 村外れの聖域に赴けば遺体を確認できる。

●その他
・リプレイは戦闘開始からスタート
・緊急性の高い依頼につき事前行動不可
・『●目的』に準ずる項目以外の要素に一切触れなくても失敗とはならない
・PL情報や背景事情を知るには相応のアクションが必要
・村や村人への危害はNG

  • 白魔に呪う完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年03月12日 21時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

空摘・骸(p3p000065)
ガラクタあつめ
サヤ・ハスミ(p3p000124)
夜の迷い子
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
リリィ=B=ストライプ(p3p002591)
リトルナイト
霧小町 まろう(p3p002709)
その声のままに
エスラ・イリエ(p3p002722)
牙付きの魔女
フランチェスカ(p3p004432)
天翼

リプレイ


 痛みは、衝撃の後に遅れてやって来る。
 無軌道な攻撃に翻弄され続ければ、平衡感覚は常に乏しい。それでも、彼らは自らに倒れることを良しとせず。
 地に伏した仲間がいる。膝を屈した仲間がいる。
 だが、未だと。頭を上げ、敵を見遣る仲間もいる。
 相対した末広がりの巨躯は、その殆どが朱に染まりながらも──その殺意の矛先が揺らぐこともなく。
 ─―来なさい、化け物。
 誰かがそう言って、巨躯の獣は咆哮を上げた。
 交差した両者の間に、夥しい血が撒き散らされる。
 戦いが、終わる。


 雪中の山村に、狂乱じみた悲鳴が響く。
 渦中には魔物が居た。村人達曰く、『守り神』と呼ばれたそれは、今では自らの暴力を振るって家屋を怖し、或いは村人を撃ち倒す災害その者と成り果てている。
 魔物は悲鳴に敏感だった。気配にも。叫ぶ村人を伸縮する腕で無造作に叩き、未だ無事な家屋を破壊すれば、其処に隠れ潜む人々を追い立てる。
 死者は居らず、けれども最早それも近い状況。それを、
「……あァ、中々良さソウな部品、持ってんじゃン?」
『!?』
 ひたりと背後から触れる影が、一つ。
 魔物が振り向けば、その顔に向けて呪符が飛ぶ。
 貼り付いたそれが記された文字を輝かせ──爆散。挙動を歪めた魔物の隙を突いて、『ガラクタあつめ』空摘・骸(p3p000065) は笑顔のままに距離を取り、それを確認した『その声のままに』霧小町 まろう(p3p002709)が村人達に向け声を上げる。
「ここは私たちにお任せください。荒ぶる神の怒りは私たちで受けとめます!」
「あ、貴方達は……」
 壊れた建物の影から顔を出し、希望を顔に浮かべる村人達。
「ここは危険よ! 私達が抑えてる間に拓けた方から逃げて!」
「構ってる暇はないよ、さっさと動いて。 アレに殺されたいの?」
『ディンテ・ドーブルの魔女』エスラ・イリエ(p3p002722)と『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)。両者が口々に避難を呼びかける傍らで、残る面々は囮役として魔物の注意を自らに寄せるよう、苛烈な攻撃を仕掛ける。
「聖域に住まう守り神……ですか」
『天翼』フランチェスカ(p3p004432)。華奢な外見に似合わぬ大鎌を携えた彼女が身を低くして疾れば、体長の割にひどく細い魔物の足を鋭利に切り裂いた。
「……私には、アレが神だとは思えません」
 忌々しげに苦悶を漏らすそれが、返す刀とばかりに両腕を振るう。
 軌道の読めない攻撃が二つ。目が慣れるまでもない初見では回避しようもない。
 強かに身を打ち、その威力に口の端から血を零す彼女を、中空に投げ出された回復薬が瞬く間に癒していく。
 特異運命座標達の攻撃を凌ぎ、或いは反撃する魔物は視界の端にそれを映し──其れを発した元へと視線を投げかける。
「こんにちは、守り神さん。
 できれば帰ってくれないかなぁって思うけど……きっと無理なんだろうね」
『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034) が、寂しげな表情でそう呟く。
「特に恨みはないけど、ごめんね」
 同情を込めた声色に反し、その所作に淀みはない。
 既に次の仲間を癒すための回復薬の精製は始まっていた。知性はなくとも、本能は何かを嗅ぎ取ったのか。
 視線が、得物が銀髪の少女に向く。その腕がずるりと動けば、少女の身を貫かんと鞭打つ──よりも、早く。
「余所見は……させないの!」
『リリィの正義の名の下に!』リリィ=B=ストライプ(p3p002591)が、己の大剣を叩きつけ。
「悪いが、しばらくはボク達に付き合って貰うよ」
『夜の迷い子』サヤ・ハスミ(p3p000124)が、その胸元にナイフの切っ先を突きつけた。
 交錯する視線。ダメージの度合いを判断したサヤが小さく舌を打てば、咄嗟に構えた防御の上から魔物の腕が一撃を見舞った。
 衝撃は当然、軽くない。軋んだ身体はその耐性もあって『崩される』事はないものの、命中精度、威力共に申し分ないそれらをどこまで対処できるかはひどく怪しかった。
 ──これまでは。
「……みんな!」
 響いた声に視線を向ければ、其処にはエスラが自身の背後を指差す姿。
 彼女なりに避難誘導が完了した事を示す合図だった。気付けば周囲には村人達の姿はなく、状況を確認した仲間達が頷きを返し、魔物の側へと視線を向ける。
 咆哮は止まない。当然だろう。知性の低い相手からすれば襲う対象が変わっただけで、行動には何の変更もないのだ。
 しかし、特異運命座標の側は違う。
「……さてと」
 僅かに切った口の端を拭いつつ、キサが言う。
「任務遂行、開始だ」
 守るための戦いから、倒すための戦いへと。
 避難誘導を終えた仲間達も含め、遂に八名が魔物へ──『守り神』を襲い遣った。


 戦闘は、或る程度特異運命座標達の優位から開始している。
 敵の攻撃手段は近距離への範囲攻撃と遠距離まで含んだ貫通攻撃。その前者に後衛陣は巻き込まれないよう一定の距離を保ちつつ、後者に対しては攻撃の軌道が他者と重ならないよう、こちらも間隔を保つことを怠らない。
 加え、その気になれば後衛陣四名のうち三名までもが回復を担当できる態勢だ。
 少なくとも村人の撤退が完了するまでの間ならば、魔物が如何に攻撃をしようが、そのダメージは特異運命座標を倒すまでに至らない。
 前衛陣の殆どが防御を捨てて攻勢に集中したのも、こうした厚い回復のサポートがあってのことだろう。自己回復や防御手段を持たない魔物の身は瞬く間に傷を増やしていった──が。
「く、そ……!」
 状況が優位から始まっても、それが続くとは限らない。
 吼えるエスラ。その苦々しい表情を悟ってか、魔物は声を上げてその攻撃を更に苛烈なものへ変えていく。
 マークを続ける骸の脇腹を魔物が貫いた。低空飛行するフランチェスカを、伸縮した腕が地面へとたたき落とした。
 パンドラが燃える。一手遅れたルーキスがそれを回復しようと移動して……否、移動しようとして、止まる。
 理由は単純だ。魔物の視点から見て、移動した先の彼女の背後には『無事な建物しか存在しない』。
 形勢が傾きつつあるのはそれが理由だった。彼らは陣形を保つこと、或いは移動を行う際の立ち位置を非常に厳しく定めすぎている。
 成功条件に通じる「崩壊した建物を背にする」、また貫通攻撃対策となる「前、後衛陣の位置を攻撃の軌道上に重ねない」。
 戦闘開始時点では村の建物の三分の一は半壊、倒壊していた。繋げればこの時点で彼らの行動範囲は村内に於ける三分の一に狭められ、この上で前、後衛が直線上に重ならない立ち位置を構築するのは非常に厳しい。
 また、この魔物は村内に存在しているという事前情報こそあれど、村の中心部にある広場に居るという情報は何処にもない。
 これが何を意味するかと言えば──
「──────!!」
 声なき声。しなる腕が鞭の如く振るわれれば、魔物の近接範囲にいた木造の家屋は次々と破壊されていく。
 前衛陣は貫通攻撃を懸念して背後にこそ配慮したものの、当然魔物の周囲総てをカバーする事などできはしない。
 これにうまく対応できているとすれば、自身の立ち位置に優先順位を設けたスティアくらいだろうか。
 村の被害を第一に考えた彼女の行動は、そう高くはない体力もあって敵の行動次第では容易に撃ち倒されていただろうが、何度も言うように知性の低い敵は其れに目を付けるようなことなどできはしない。
 それでも、他に比べれば自由に動ける回復役が一人居たところで、形勢が逆転するようなことはそうそうない。
「あう……っ!」
 甲高い悲鳴。叩きつけられた双腕に肺から呼気が漏れ、身体が警告を痛みに変えて全身に飛ばしてくる。
 それを──けれど、リリィは無視して。
「大丈夫、なの……」
 笑顔は絶えない。自分にはこれしかできないからと、傷ついた身体で、携えた大剣を再び構えながら。
 背水の構え。防御を捨てた彼女に魔物が再び其の腕を飛ばすよりも早く、大剣は確かに魔物を両断した。
「荒ぶる理由は知りませんが、これ以上の蛮行は私が許しません」
「キミもボクたちも限界が近い。そろそろ終わりにしてくれないか?」
 胴から血が零れる。追うようにフランチェスカが。そしてサヤがその傷口を広げるように刃を閃かせ、まろうが手を組んで神への祈りを捧げる。
「神様、どうかよき行いをする者をお助けください……!」
 声は届いた、確かに傷は癒され、リリィの血色は少しだけ戻り。
「……あ、」
 ……その癒された身体を、魔物は一撃の下に叩き潰した。
 呼吸が止まる。死んではいなくとも、最早この戦いで動くことは叶わない。
 更に、二次行動。リリィを撃ち倒した範囲攻撃に続き、貫通攻撃を浴びせられたサヤが瞠目の後に地に伏した。
 二人が倒れた。それでも、戦況は魔物の側にあると言えない。
 幸か不幸か、長期化した戦闘は村の建物を更に破壊していた。『移動範囲』が増えたことで特異運命座標達の行動は精彩を伴い、また前衛陣の容赦ない攻勢は魔物を満身創痍にまで持ち込んでいる。
「あぁ、忙しい忙しい! よりによって私が回復役になるとはね」
 叫ぶルーキスがSPDを精製し、フランチェスカに振りかける。
 気息を整えたフランチェスカを追い越し、骸が其の腕を切り裂いた。皮一枚となったそれをエスラの魔弾が爆ざせば、終ぞ千切れた片腕の魔物は醜悪な表情で彼女をにらみつける。
「何を信じるか……何を崇めるかは自由だけれど……私には到底理解できないわ」
 ──こんなものは神様ではないと。言外にそう語って。
 骸の方はそのような『些末事』も考えない。低く笑い声を上げた視線の先には、魔物に残る片腕、その先端に生えた爪の部分。
 幾度も特異運命座標達を、或いは建物を貫きながらも、その鋭利さは一向に損なわれていない。自身のギフトを以て目を付けていた其れを手に入れる喜びを前にして、彼は笑い、短剣を翳す。
 魔物が吼える。痛みを忘れるように。
 一度、放たれた腕はその盾で弾いた。だが伸びた腕が全く同じ速度で縮むと同時、U字型に反った爪先に警戒を怠り、骸の肩口は弾け飛ぶ。
 消費されるパンドラに、それでも、彼は笑顔のまま。
「使えねェなら捨テるダケさ。丁度良イ『部品』も其処に居るシなァ?」
 自らに対してそうドライに捉える彼へも、しかし祝福は降り注ぐ。
「それでも、あとちょっとだもん。
 こんなことで傷つくの、勿体ないよ!」
 スティアの笑顔もまた、絶えない。骸のそれとは全く違う方向で。
 スペルブックの燐光は、そのまま彼に移された。癒された傷痕を見て頬を掻く彼の意識を、魔物の咆哮が取り戻す。
「……来なさい、化け物」
 フランチェスカがそう言った。叫ぶ魔物はそのままに、自らの腕を満身の力を込めて解き放つ。
 ──胴に、風穴が空く。
 フランチェスカは笑い、地に落ちた。最後に移した視界には、その大鎌が断った肩口。
 両腕がだらりと垂れ下がった魔物を最後に襲ったのは、ルーキスの魔弾だった。
「……無抵抗で打たれる趣味はないの」
 戦闘は終了している。魔物は既に戦えない。しかし、その呼吸だけは続いていた。
 魔物を──。それを『守り神』と崇める村人の姿が一瞬脳裏に浮かび、けれど彼女は。
「やられた以上、やり返すのは当然よね?」
 気怠げに、最期の一撃を放った。


 共生関係――とでも言うのだろうか。
 件の『守り神』は、特異運命座標達が調査を行った結果、確かに村を守っていたことが判明した。
 骸が自身の気に入った『部品』を次々に集める過程。それを解体していく中で見つかった、胃の腑に残る獣の死骸。それらが村人達の言う、嘗て村を襲撃していた獣の特徴と一致したのだ。
『守り神』は村を襲う獣を喰らい、それ故に村人は『守り神』を崇めることでその神域の周囲を開拓することはなく、小さな食物連鎖の図式は崩されることが無かったのだろう。
 それが、どうして今回村を襲ったのかと言えば……推測するに、やはり彼の少女が関わっているのだろうと、精霊達と対話を終えたフランチェスカが言う。
「要は、野生の熊などと同じです。人を食べ、その味を知ることで他の食べ物を食べなくなる。
 これは推測ですが、聖域に向かった例の少女を守り神が食べてしまったのだとすれば、それに味を占めた守り神が人里を探し、襲いに来たことは十分に考えられます」
「……余計な事情を知るだけだったわね」
 ルーキスの声に、エスラは表情を歪めて……しかし、反対の声は上げない。
 上げることなど、出来ようはずもない。総ては村人が、最初から件の少女を、またその家族を許す事さえ出来れば、何も起こらないはずの災害だったのだ。
 避難した先から戻ってきた村人は、しかし近くにいない。
 魔物の傍に立つ特異運命座標達から遠巻きに離れた地点で、最早『守り神』ではなく、『村を襲った化け物』となったそれを忌むような視線で見つめていた。
 元々『守り神』であったこの魔物をどうするかという意見を上げたまろうは、その返答を聞いて暗い表情を浮かべている。
 信仰は、こうも容易く捨てられてしまうものなのかと、そう想いながら。
「……コレがカミサマだって言うなら、此処を滅ぼそうとしたのは自明の理ね」
 聞こえない位置だからか、否か。シニカルに笑うルーキスは視線を僅かに村人達の側に移し、誰ともなく呟いた。
「最初は良いように他人を持ち上げて、挙げ句苦しくなればすんなり切り捨てる。
 そんな村なら、地図から消えても大差ないでしょう?」
 ……答える者は、誰も居なかった。


 獣の食い残し。
 そう形容するに相応しい『それ』が、特異運命座標達の前に横たわっていた。
 村に於ける聖域と呼ばれたその場所で。スティアが、サヤが自分達なりに少女の冥福を祈った。
 ついてきた骸も流石にこの状況下で遺体から部位を貰うようなことは出来ないと判断し、彼女らから一歩下がって状況を見守っている。
「……最期は、幸せだったのかな、この子」
 呟くサヤの視線の先。死んだ少女の口の端は、ほんの少しだけ歪んでいた。
 見方によっては、それは笑っているようにも見えただろう。スティアはそれに「わからない」と答えて、けれど、とも。
「私は……身勝手な考えだけれど、そうであってほしいと思うかな。
 村人達への仕返しなんて暗い喜びでも、この子は漸く、恨み以外の感情を抱けたんだと思うから」
 そして、同時に。
 其れが自分達に阻止されるという未来を、知ることなく逝けたのだから、と。
「……できることなら、ボクは娘さんをご両親と同じ場所で眠らせたい。この子にとって良い家族ならなおのことね」
「フランチェスカさんも、他のみんなももうすぐこっちに来ると思う。
 この聖域に何がないか調べて、その後……この子を連れて行ってあげよう?」
 聖域に、僅か、日が差し込んだ。
 風もない其処に陽光が当てられれば、氷った物も、凍った者も、貼り付いた雪を少しだけ温めていく。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

リリィ=B=ストライプ(p3p002591)[重傷]
リトルナイト

あとがき

藤たくみGMに代わり、リプレイ執筆を代筆させていただきました、田辺です。
ご参加、ありがとううございました。

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