シナリオ詳細
黄昏に燃ゆる砦に勇姿を刻め
オープニング
⚫︎囚人は語る
───その監獄が何処にあるのか、誰も知らない。
昼夜の判別すら薄れて来た書記官。毎夜囚人の事ばかり夢に見る看守。男達の食事を作る侍女。そして牢に入れられた者達。
誰も、薄暗い監獄の中で無機質な石造りの天井を日々見上げ、此処がどんな土地の何処に位置する如何なる形状の建物なのか。
何も、何も知らない。
「おい……なぁ、おいって」
鉄格子に寄りかかる一人の囚人は誰かに呼び掛けていた。髭に覆われた顔には生気すら感じられず、衣服から垣間見る痩せ細った体からは相応の年月が牢に入れられてから経っている事がわかる。
熟年の囚人が声を掛けていたのは、数日前に麻袋を被せられて向かい側の牢屋へと連れて来られた若い男だ。
名はドライファッハというらしく、罪状は他の囚人達と変わらない。恐らくは監獄を作った何処かの貴族の怒りを買ったのだろう。
ドライファッハは腫れた頰を水の入った皮袋で冷やしながら、起き上がるのも億劫そうに薄汚れたベッドから身を起こして熟年の囚人に視線を向けた。
「なんだよ」
「看守の連中に聞いたぞ。お前『奴等』とやり合ってここに落ちて来たらしいな? ヒヒッ、そんな怖い顔をするな若僧。俺は聞きたいだけよ、『奴等』とどんな一戦を交えたのかを……さ」
忌々しそうに熟年の囚人を睨み付けていたドライファッハだったが。食べずに置いておいた、乾いたパンをネズミに食べられているのを目撃して怒りすら溜め息と共に吐き出してしまった。
腫れた頰を指差しながら、ドライファッハは熟年の囚人に顔を向けた。
「暇なわけだ」
「ああ! 暇だとも」
「ジジィに聞かせるような面白い話じゃねーぞ。いいんだな?」
再び熟年の囚人は嬉しそうに首を縦に振る。
諦めたのかドライファッハも同じく頷いた。そして鉄格子に近付いて熟年の囚人と同じ様に背中を預け、ポツリポツリと語り始める。
「ローレットの特異運命座標。奴等は……敵対しちゃいけなかった、ありゃ化け物とかじゃなくてもっと別の……違う次元で、奴等は戦いを楽しんでいた」
⚫︎イッツ、ショウタイム!
おい、目を逸らすんじゃない。
何人かのイレギュラーズがそうツッコミを入れる中、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がテイク2とばかりに同じ台詞を告げた。
「アーベントロート領に住む匿名希望の貴族さんから依頼なのです。実は今回、ローレットの宣伝の為にド派手な短編映画を撮影したいと言う事なのです!」
なので! とユリーカは手に持っていた図面や資料らしき物をテーブルに広げた。
「こちらが撮影場所の詳細です! アーベントロート領西北に位置する山間に大規模な拠点、のセットが隠されているっぽいのです!」
その場に居たイレギュラーズが一斉にツッコミを入れようとするが。ユリーカが微笑み落ち着いた声音で、尚且つ早口で捲し立ててくる。
「こちらが敵、役の皆さんの詳細! こちらが現地の詳細な地図なのです! 後は現場の状況や指示を把握しつつ皆さんで上手くやって欲しいのです!」
「ちなみに依頼者からの最重要指示は『全力で派手に戦って欲しい』との事なのです! イレギュラーズの皆さん宜しくお願いします!」
- 黄昏に燃ゆる砦に勇姿を刻め完了
- GM名ちくわブレード(休止中)
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年05月28日 20時42分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●男は語る
何者が管理する土地なのか誰も知らない、何処に位置するのかも誰も分からない監獄の中。どこからか雫の音が響いて来そうな程に冷気漂う牢の奥。
長く静寂に閉ざされていた監獄内に満ちるのは好奇心。様々な罪歴ある犯罪者、或いは仕える貴族から出されたオーダーを達成できずに幽閉された哀れな猟犬達はそれぞれ耳を傾けていた。
「……あの日。俺達は来るべき日の為に訓練に励んでいた」
厳しくもやりがいある日々。そんな時だったと、ドライファッハは続けた……
●撮影だからオールオッケー!!
「異端審問の時間だコラァ!!」
中央砦の正面に位置する鉄扉を豪快なヤクザ時報と共に蹴り破ったのは『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)である。即座に品行方正清廉潔白愛され系ジャスティスである事を思い出しつつもやはり派手に行くべきだと考え直したことを考え直したジョセフである。
蹴り破られた扉は高速回転してビュオンと風を切る音を立てて転がり飛び、退屈そうにしていた番兵を三人薙ぎ払って中央砦に突き刺さった。
「とにかく派手に戦って欲しいとは、これはまた変わった依頼だな。まぁ、誰か傷つくわけでもないから気楽に依頼に臨めるのは有難い」
ここはローレットの宣伝の為にもビシッと決めたいところだと頷きながら、マントを翻して入場する。その姿は騎士を思わせる服装、『特異運命座標』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)が聖騎士ならぬ星騎士の如き装いをしていた。
「安全が確保されているというのなら。……焼き尽くしてしまっても、構わないのです……?」
「中央砦を落としますよ! もしも砦が硬かったら言ってくださいね! 私も焔式で燃やすのを手伝うです」
更に乗り込んでくるのはどこか目が据わっている『魔道火車の瞳』クーア・ミューゼル(p3p003529)と、「私の研究の邪魔はさせません」と意気込む『探求者』トゥエル=ナレッジ(p3p001324)の二人。
彼等、彼女達は少し距離を開けて後方から追走する筋骨隆々な黒子。信じ難いことに今回のイレギュラーズ達に依頼した貴族の使用人の一人だと言う者によってロケーションごとに突入する場所は分けた方がやり易いと案内されていた。
ちなみに彼等、正面門扉を攻める者達に追走する黒子は四人。
それぞれが練達製の記録カメラを肩に担いでおり、滑るような歩法で撮影しているようだった。
イレギュラーズが依頼されたのは珍しい内容ではあるものの、難しくはない。『ただ派手に暴れて大規模拠点を攻め落としてほしい』だけなのだから。
「何事だ!!」
「おい、貴様らそこで何をしている!」
中央砦に鉄扉がぶちこまれた騒ぎを聞きつけ、数名の男達が抜刀した状態で駆け付けて来たのをジョセフは仮面の下で見据え、静かに笑った。
そう……イレギュラーズには今回の依頼作戦中(映画の撮影)、特別な術式を施されている。
ムキムキ黒子さん達に常にバフを受けているイレギュラーズはまさに恐れる物など無いだろう。突撃前にどの程度能力が上がるかは見ているのだ。
ジョセフは一度手首をゴキリ、と鳴らして踏み出す。だがその前に横合いから煌めいた閃光が戦闘員を次々に滅多打ちにし、鉄扉と同様に吹き飛んで中央砦の壁に刺さってしまう。
「では、私たちは予定通り食糧庫へと行こうかい?」
初撃から全力で魔弾を射ち込んだトゥエルを見て大丈夫そうだと頷いた星騎士ゲオルグの声に、ジョセフも同意して彼等は中央砦の傍にある食糧庫へと向かう。
残されたクーアとトゥエルは互いに辺りを一度見回して、新手はまだ来ないことを確認する。
「ただ突っ込んで火を撒くのも良いと思うのです、が! やっぱりここは撮影ですし──────」
クーアの提案を聞いて、トゥエルも面白そうだと頷いた。
●凸せよ乙女、花より男子
「さて、あれが敵の武器火薬庫ってところか。いっちょやってやるぜ!!」
『鉄壁防御騎士』有馬 次郎(p3p005171)が言いながらギフトで体を正しくアルマジロの如く丸めると、意識的に身を更に固めることで防御性を高め、ギシリとすら音を立てる。
彼の横ではムキムキな黒子がカメラを背中に背負ってクラウチングスタートの構えを取っている。一見すると何事かと二度見することは間違いないのだが、その理由はとてもシンプルである。
これから彼等の眼下に広がる拠点へ文字通り転がり込むと言うのだ。
「行くぞ!!」
かくして、盛大に雄叫びを挙げながら次郎が砲弾の様に山の斜面を勢いよく転がり落ちて行く。
途中、行く手を阻む木々に衝突するが彼は難なくそれを粉砕。壮絶な破砕音を轟かせながら突き進み隕石を連想させる勢いのまま壁を破壊して火薬庫のど真ん中へと屋根を突き破って行った。
「『暗澹を貫く無尽の愛の光!魔法少女インフィニティハート、ここに見参!』」
数秒の後。次郎に続いて彼の開けた道を走り抜ける『魔法少女インフィニティハート』無限乃 愛(p3p004443)が飛び上がり、決め台詞と共に光に包まれる。
柔らかな羽根が舞い降りたかのように火薬庫へと落ちて行くその姿は魔法少女そのもの。降って来た次郎を取り囲む戦闘員達から一部を除いて(数秒後に愛の一撃に吹き飛ぶ事が確定)、感嘆の声が漏れる事となる。
「……す、すごいことになってきたけど大丈夫なのかな。え? 大丈夫? そうなんだ……」
ダイナミックときゅあきゅあな勢いで突入していった次郎と愛を見送りながら、慎重に行軍する 『夜鷹』エーリカ・マルトリッツ(p3p000117)が背後から撮影をしている黒子にそれとなく尋ねると「きにしなくていいよ」のカンペを見せられた。
本当に大丈夫かどうか色々思ったが、彼等の念入りな説明からして大丈夫な気がしたのだった。
既に中央砦、食糧庫、火薬庫からは騒ぎが聞こえてくる。エーリカは黄昏を迎えて赤々と染まる施設を静かに観察すると、相棒の『砂狼の傭兵』ラノール・メルカノワ(p3p000045)にアイコンタクトを取った。
「背中は任せるよ。君を信じているとも」
普段のラノールはエーリカ同様、前へ前へと出る戦闘職ではない。しかし今日この時、彼は依頼に合わせようと曰く付きの大剣を背負っていた。
とにかく派手さを求めるなら、という考えから選んだ武器だったが何故かちょっと瘴気みたいなものが漂い始めているのでラノールもエーリカも良しとしていた。
今回はラノールが前に出て暴れ、そしてエーリカが彼の背中を守るのだ。これから向かう先は推定で中央砦の次に戦闘員の人数が多い施設だからである。
推定で敵戦闘員の数は一番を争う『兵舎』へ向かっている最中、エーリカは何やら『だいほん』と書かれた資料らしき物に目を通しながら踵を返す。
「ラノール、背中はまかせて。私があなたの目になってみせるから」
入れ替わり、交差する様に。互いの視線を交わして信頼を寄せて行く。
兵舎の扉を開ける瞬間、いよいよイレギュラーズの戦いの幕が上がる。
●戦闘クッキング
『食糧庫』がまさか各施設内で最も早く落とされるとは、誰が予想できただろうか?
中央砦での騒ぎを運悪く知らなかった者達、食糧庫での搬送搬出作業に入っていた戦闘員達は、突如突撃をして来たジョセフとゲオルグに為す術もなく蹴散らされていた。
「撲滅! 殲滅! 全滅だ!!」
ジョセフの声が響き渡る。
倉庫内を駆け回りながら次々と出合い頭に異端審撃と呼ばれる格闘術で声も出させず、手刀で喉元を一撃してから鳩尾と肺を打撃によって瞬間的に窒息させ。倒れ伏せる刹那、通り過ぎ様に大量の洗濯バサミで顔を覆われたサボテン芸術を量産していく。
そして彼より少し距離を空けて。煌めく星の一撃で遠距離から戦闘員を撃ち貫き、戦闘員が吹っ飛んだ先の革袋から飛び出してしまった食材を華麗に回収している騎士の姿。
ゲオルグ……彼は今、敵戦闘員だけでなく食材達とも踊っていた。
何故か持参していたボールの中で高速で混ぜられるのは卵黄、投げ込まれ下味を付けられるのは鶏のモモ肉か。
「隙あり……っ!」
そこで物陰から襲う戦闘員。振り被るロングソードの閃きをゲオルグはボールを宙へ放り投げて腰から抜いた鉄筒で迎え撃った。
かくも哀れな戦闘員は碧き一閃の下、致命的一撃を受けて錐揉みしながら他の戦闘員を巻き込んで飛んで行った。
ボールをキャッチした星騎士は食糧庫の奥へと駆け抜ける。
「なるほど! 丁度夕暮、夕餉時。突撃! 隣の晩御飯! なんてな!
私もスタッフが、いや、スタッフを美味しく頂くとしよう……異端審問の時間だコラァ!!」
有刺鉄線の鞭で若い戦闘員を滅多打ちにしながら、ジョセフも負けていられないとばかりに奥を目指そうとする。
「その先へは行かせんぞぉぉォ!!」
「何ッ!?」
ゲオルグの頭上から天井を突き破って現れた巨漢の騎士。否、全身重鎧に戦槌を装備した大仰な姿は依頼人に聞かされていた僅か五人しかいないという上位戦闘員だろう。
突如現れたその姿にジョセフがすかさず閃光を放つ。
曲線を描きながら上位戦闘員の胸部に炸裂し、同時に眩い電光が弾けた事で上位戦闘員は声も出せずに大きく態勢を崩してしまう。
当然。その隙を逃す筈も無く、ゲオルグのスターライトが背中を打ち、距離を詰めたジョセフが異端審撃を鎧の上から寸勁の如き掌底を叩き込む。
堪らず仰け反りながら戦槌を振り回すが……ジョセフの仮面を軽く引っ掻いただけに留まり、直後に問答無用で二連スターライトを射ち込まれて上位戦闘員はその場に沈む事となる。
「そんな…………まさか、薔薇十字機関を討つ為だけに鍛え上げられた幹部が……やられたのか!?」
「ば、ばけものだ! あの令嬢を敵に回したのがいけなかったんだァ!!」
「にげろーー!!」
残っていた戦闘員や負傷者たちは上位戦闘員が敗れたのを見て一目散に逃げ出していく。
ジョセフ達は食糧庫の制圧に成功したのだった。
●神速の鬼火
「火事だー!!」
黄昏に燃ゆる砦。もう比喩でも何でもなくて超燃えてる中央砦。それも一切の隙間無く砦全体が燃えていた。
駆け付けた戦闘員達は誰がやったかというのすら頭を働かせず、ただひたすらに猛火の鎮火を図っていた。
だがそこへ鬼の様なタイミングと勢いで更なる放火が成されてしまう。
「ひゃっはーなのです!!! 死に至らずとも、まさかこの紅蓮を!!
ここまで早く再び味わう好機を、悦楽を得られるとは!! 正に混沌は地獄で天国なのですッッ!!!」
両手からシュゴォォォというバーナー並みの炎を噴き出させて現れるクーアとトゥエルの二人。
どう見ても確信犯のクーアを見て周りにいた戦闘員達が殺気と共に剣を抜いた。
「あの野郎……って、ん? ぶるじょああああ!??」
無様な悲鳴が響き渡った直後、更にトゥエルから魔弾が放たれていく。砦の鎮火に当たっていたからか、訓練後の少ない体力は既に限界に達していた戦闘員達はいずれも近づく事も出来ずに塵芥の如く吹き飛ばされていた。
「さぁ。倒されたい敵さんはどこですか?」
クーアの隣で魔弾を展開しているトゥエル。
「あっちなのです!!」
……そんなトゥエルの横では突入時よりも完全に謎のスイッチが入ったクーアが戦闘員に向けて放火を行っている(しかもいずれも致命的一撃である)。
もうこうなってしまうと戦闘員の誰もが逃げ出してしまう。上位戦闘員が来れば話は別だったのかもしれないが……残念ながら上位戦闘員は既に猛火に包まれた砦の中で力尽きていたのだから仕方ない。
まさか襲撃者がよりにもよって先ず砦のあちこちの壁や通風孔、煙突、城壁、あらゆる隙間に可燃性の薬液とアルコールを染み込ませた布を敷き詰めてから火を放つなど。一体誰が想像できようか?
そもそも秘匿されていた筈の拠点に襲撃者が来ること自体想定されてはいなかったのだが、炎に巻かれてはさしもの上位戦闘員でも熱と煙に命を落としたのである。
クーアの様子を撮影しているマッチョな黒子さんは『ぜんぜんだいじょうぶ、あとでいきかえらせるし、やっちゃってふぁいやー』などと適当なことを言いながら誤魔化していた。
「見て下さいトゥエルさん、連中が逃げていくのです。周りのテントも焼き払うのですッッ!!」
サーチアンドファイヤー。火炎瓶に持ち替えたクーアはポイポイとテントや辺りに投げまくりながら駆け回って行った。
●突き崩す人の要塞
『兵舎』に入るや否や、次から次へと襲って来る戦闘員をエーリカとラノールは手際良く撃破していた。
四階まである構造の広い建物ではあるが、立地からの事情によって人数を詰め込む思想から造られた兵舎は内部の各所が狭い。
そのおかげで二人は冷静に単騎撃破することが出来ていた。
しかし、時間の経過と共に何故か兵舎の戦闘員達との戦闘が苛烈さを増してきていたのだ。装備は武器庫を次郎と愛の二人が攻めているからか変わっていないが、明らかに数が増してきていた。
その多くは逃げて来た戦闘員である。彼等が最後の砦とばかりに侵入者であるエーリカ達を排除しようと籠城戦と連携戦で挑んできていたのだ。
「挟み撃ちにしろ! イレギュラーズめ、生かしては帰さないぞッ!」
遂に合流した上位戦闘員が他の戦闘員へ指示を飛ばし、狭い通路を階下から回り込ませて挟撃しようと企む。
じりじりと詰め寄る戦闘員達の刃を一瞥したラノールが、ふうと一息吐いた。
「くっ……! 闇の力が……! 溢れて……! うぉぉぉおおおおおお!!!」
「!!?」
突然の咆哮に、戦闘員達がびくっと止まる。彼等の後方に立つ上位戦闘員も同じく警戒を強めたのか「まて!」と止める。
ラノールは手に構える漆黒の大剣を持ったままぶるぶると震えている。
「――はっ、たいへん。のろわれたつるぎが彼をときはなってしまう」
更に続くエーリカのセリフに戦闘員の何人かが「呪われた剣だって……!?」という顔で見ている。
「どうしたらいいの、ラノール、えと、(台本捲り)わあー あれこそがいにしえに封じられし邪竜のちからだー」
色々と棒読みな所に戦闘員達が首を傾げた。が、そこで数瞬の間にラノールが再び咆哮を上げて飛び出した。
天井を引き裂きながら見事大成功(クリティカル)の類である奇跡の一撃が、戦闘員達を切り捨て。床すら粉砕すると階下へと男達を落として行ったのだ。
「これが……力か……!」
「ムウ、あれがイレギュラーズの力か……!」
上位戦闘員は凄まじいラノールの一撃に冷や汗を浮かべながらたじろいだ。エーリカがそれに気付く。
直後、その場に淡い輝きを放つ精霊たちが複数姿を見せた。
「こ、こんどはなんだ……!?」
いよいよその場が混沌としてきた所で、エーリカはラノールの肩を一度叩いて合図を出した。
彼女達の視線が向かうは上位戦闘員。凍てつく鎖がその場を駆け抜け、複数の戦闘員に絡むのではなく『逸らす』事に成功すると、ラノールが一気に踏み締めて飛び出す。
刹那。漆黒の軌跡は見事上位戦闘員を両断……周囲の戦闘員諸共兵舎の外へ壁を破って薙ぎ払われ飛ばされたのだった。
●黄昏に燃ゆる砦に勇姿を刻め
遂にほら貝が業火に包まれた拠点中に響き渡る。
二度、三度と繰り返される音色の意味は敵残存勢力が最終ポイントに集結したという報せである。
魔法少女もとい、愛と次郎の二人は武器・火薬庫にて戦闘していた。しかし予想外にも上位戦闘員が二人現れ、他の地点から逃げ延びて来た戦闘員が殺到した事で長期戦となり半数を取り逃がしていた。
それでも上位戦闘員だけは愛の放った強烈な魔砲によって二人仕留められているのだから流石と言えるだろう。次郎の防御力がなければジリ貧になる事もあり得た。
ちなみに愛を笑った最初の戦闘員がドライファッハである。手加減されて幸運だったと言えよう。
それはそうと、イレギュラーズ達は今戦闘員達が集まっている『第二火薬庫』の前で外から降伏を促していた。
「愛の洗礼を受けるためにも外に出て来てください。今なら痛くしませんから」
「さて、残り連中も、あとは、ここを残すのみってところか」
「追い詰めたならあと一息! 同じように切り込み……ん? 炎?」
「おいつめたぞ悪者たち、かんねんして投降して……し、したほうが、いいよ」
後から集まって来た者達も中へ突入せず、外から投降を促す。何故なら──────
「だってほら、そこ、火が……」
「遠慮など、慈悲など、全て前世に置いてきたのですぅぅぅ!!!」
火薬庫は既に燃えていた。それはもう手遅れなくらいに。
いつ爆発してもおかしくないのだが、そこはやはり良心が咎めたのか結局イレギュラーズ達はその場に何故か残ってしまった。
彼等の背後ではムキムキの黒子さん達が全力で逃走を始めている。
「えっ。それでは私達諸共爆発……いや待ってえぇ!?」
「なんで君たち逃げないんだい……?」
「そういえばこれって私たちは大丈夫なのかな」
「そんなわけないだろ!?」
「まず……! エ、エーリカ!」
後で誰かが言っていた。パチパチって音が聞こえたと。
────────── チュドオォォォォォン!!!!
後で彼等は爆発に吹き飛ばされてから口々に語った。「割と痛かった」と。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
●依頼のその後~
なんやかんやで満足したらしい依頼人の使用人である黒子さん達はイレギュラーズ達に感謝していた。
後から依頼人も相当楽し……ではなく、機関の者達に教材として見せているとか。
まさかの爆発にそのまま飲まれたものの、幸いにも大きな怪我が無かったことが一番である。
尤も、今回の依頼はあくまで映画の撮影だから当然なのだが……
イレギュラーズの皆様お疲れ様でした。
実はドライファッハはただの戦闘員Gくらいの雑魚でした。
皆様のいつもよりぶっちゃけた姿を出せたなら幸いでございます。
GMコメント
皆様こんばんは、ちくブレです。
今回の依頼では表向きド派手な戦闘をしてる所を、謎の依頼者から派遣された屈強な黒子さん達に撮影して頂きます。つまり無双依頼です。
オープニングの前半で登場したドライファッハの回想からリプレイは開始されます。
以下情報、情報確度A……想定外の事は絶対に起きません
⚫︎依頼成功条件
敵勢力を全滅させる
⚫︎依頼成功前提条件
がんばって派手に戦って下さい
⚫︎失敗条件、要素
下記情報におけるエネミーとの戦闘で敗北する
⚫︎舞台
時間帯は日没直後、黄昏時です。
アーベントロート領西北の山間に、そこそこの集落程度の規模で砦らしき拠点が隠されています。イレギュラーズはそこに向かい到着して、突入する所から撮影スタート(リプレイ開始)という流れとなります。
拠点内には罠や待ち伏せといったトラップはありませんが、戦闘開始から暫くするとエネミーが一部に立て籠もるなど発生します。
主に『中央砦』『食糧庫』『兵舎』『武器・火薬庫』の四ヶ所がありますので襲撃先の目安にどうぞ。
⚫︎敵勢力エネミー
戦闘員(多数)。拠点内のあちこちに軽装の戦闘員が多数居ます、彼等は戦闘開始から暫くすると集まって来ますが後述のバックアップがある為心配せず派手なプレイングで蹴散らして下さい。
上位戦闘員(五体)。戦闘員を倒し続けると現れる、何故か暗殺対策を超施した戦士達。全身重鎧に戦槌を装備しており、いずれも強力な打撃を繰り返して来ます。【崩し耐性】【麻痺耐性】に近い状態を獲得しているので注意して下さい。
⚫︎特殊情報
撮影中の戦闘において開始直前に屈強な黒子さん達に何らかの付与魔術を重ね掛けされている為、普段よりも派手なアクションや行動が可能となっています。
ただし防御力に変化は無いので攻撃こそが最大の防御とばかりに戦闘に不慣れな方も勇気を出して突撃してみましょう。吹っ飛びます、敵が。
そして戦闘開始から時間経過により、残存勢力が全て逃走のために拠点奥の『第二火薬庫』に集まる手筈になっているという情報があります。近くの『火薬庫』で戦っていた場合すぐに敵の動きを察知出来るでしょう。
以上になります。依頼者が後で見る映g……ローレットの宣伝映像の為にも、ド派手にやってしまいましょう!
アドリブに関してOK・希望がある場合、プレイングまたはステータスシートにて記述して下されば確認致します。
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